書き手を意識して読んだり、自分の考えの根拠を明らか にしながら表現し

書き手を意識して読んだり、自分の考えの根拠を明らか
にしながら表現したりすることができる子の育成
~ Viewing(観ること)の要素を取り入れた国語科教材における言語活動への試み~
大垣市立墨俣小学校 教諭
石井菜穂子
概要
国語科で一般的に扱われてきた「読解力」と、PISA における reading literacy との違いが問題視され
る中、自分がそれまで行ってきた国語の指導をどのように変えることが、今求められている「読解力」
につながるのかが疑問であった。そんな折、研修で訪れたオーストラリアでは、6領域による総合的な
リテラシー教育が行われていた。そこで学んだ「観ること(Viewing)」という観点を普段の学習に取り
入たいと考え研究主題を設定した。まず、写真・絵などもテキストの一部であると捉え、非言語情報を
読むことを大切にした。そのために単元構成や学習活動を工夫して「観ること(Viewing)」に必然性を
もたせたり視点をつかませたりした。さらに、自分の考えの根拠を明らかにするための「観ること
(Viewing)」も行い、無意識的に受け取っていた情報の意識化も行った。これらのことから、非言語情
報がもたらす効果を実感しながら言語情報とつなげて深く理解することができ、児童は書き手を意識し
ながら読んだり、自分の考えの根拠を明らかにしながら表現したりすることができるようになった。
Ⅰ
研究主題の設定
reading literacy との違いが問題視された。その後
現代の子供たちにとって、画像・映像等のメデ
2007年から開始された全国学力・学習状況調
ィアは、ごく自然な、あたりまえの存在である。
査の国語の問題では、従来の国語のテストの設問
コンピューターゲームは、リアルな音響や映像で
とは違った読解力を必要とする傾向もみられるよ
仮想の世界を描き出し、子供たちを魅了する。携
うになった。私自身それまで、「読解力」を身に
帯電話も必要感が高く、依存すら心配されるほど
付ける方法として、教科書教材を対象に、段落の
生活の中に浸透している。このように、学校の外
構成を指導したり、書かれている内容や要旨、登
では、言語が映像や音響等と組み合わされて、マ
場人物の心情を正しく捉えさせたりすることを行
ルチメディアによるコミュニケーションがあたり
ってきた。それらを、どうすることが・どのよう
まえとなっている。学校の内側では、教科書や副
に変えることが、今求められている「読解力」に
読本、プリント、原稿用紙、黒板、ホワイトボー
つながるのかが疑問であった。
ドといった、素朴な教材・教具を活用した伝統的
そんな折、平成22年(2010年)に「国語
な授業が継承されている。社会の側が著しく変化
力・読解力」というテーマのもと、オーストラリ
していくなかで、どうすれば、学校の外側と内側
アへ研修に行くという、またとない機会を得た。
との隙間を埋めることができるのだろうか。
日本では、「話すこと・聞くこと」「書くこと」
21世紀になり突如として日本の教育界をおそ
「読むこと」「伝統的な言語文化と国語の特質に
ってきた PISA 調査の「読解力」結果。それは、
関する事項」という3領域1事項で構成されてい
2000年が国際比較で8位であったのに対し、
る。それに対してオーストラリアでは、「話すこ
2003年は14位、2006年は15位という
と」「聞くこと」「書くこと」「読むこと」の4領
結果であった。この頃から、「読解力とは何か」
域に「Viewing(観ること)」「Representing(観せる
ということが話題になり、それまで国語科で一般
こと・表象すること)」を加えた6領域による総
的に扱われてきた「読解力」と、PISA における
合的なリテラシー教育が系統的に行われている。
例えば、他者と意思疎通を図るための言語として
「話すこと」「聞くこと」の Oral Language、「書
くこと」「読むこと」の Written
Language に加え
て、「観ること」「観せること・表象すること」
Ⅳ 実践の内容
〈研究内容1〉
観ること(Viewing)を行いながら、教材を読
み深めるための学習活動の工夫
の Visual Language が設定され、音声言語や書字
(ア)書き手と読み手を意識させるための
単元構成の工夫
言語だけでなく、日常生活の中で触れるポスター
やウェブサイト、映像など非言語情報もテキスト
の1つと捉えられている。そして、学習者自らの
意図に基づいて映像作品を制作する活動も含め、
実践1「新聞の編集の仕方や記事の書き方に目を
向けよう『新聞を読もう』」(5年)
それがもたらす意味や効果についてクリティカル
に分析して理解する学習が、リテラシー教育のカ
リキュラムの中に位置づけられていた。
日本の子供たちを取り囲む社会の現況からして
も、画像・映像を含む非言語情報を「観る力」も
この単元は、学習指導要領の次の指導事項に位
置付いている。
「C 読むこと」
(3)目的に応じ、内容や要旨をとらえながら
重要な要素であることは言うまでもない。実際に、
読む能力を身に付けさせるとともに、読書
学習指導要領にも変化が現れ、平成23年度版小
を通して考えを広げたり深めたりしようと
学校教科書教材には、写真・絵・図表等を活用し
する態度を育てる。
た言語活動が、多く掲載された。その教材を活用
イ
効果的な読み方を工夫すること。
して日頃の国語科学習の中に、研修先で学んだ「観
ること(Viewing)」という観点を取り入れること
目的に応じて、本や文章を比べて読むなど
ウ
目的に応じて、文章の内容を的確に押さえ
はできないだろうかと考え、上記の研究主題を設
て要旨をとらえたり、事実と感想、意見な
定した。
どとの関係を押さえ、自分の考えを明確に
しながら読んだりすること。
Ⅱ
研究仮説
観ること(Viewing)を行いながら、示されている非言
語情報(写真や絵、表やグラフなど)に着目して教材
を読む活動を行えば、それらの効果を実感しながら文
章とつなげて深く理解することができ、書き手を意識し
ながら読んだり、自分の考えの根拠を明らかにしなが
ら表現したりすることができる。
Ⅲ
研究内容
〈研究内容1〉
観ること(Viewing)を行いながら、教材を読み深め
るための学習活動の工夫
(ア)書き手と読み手を意識させるための
単元構成の工夫
この単元は、新聞記事を扱う。見出しやリード
文などの報道記事の特徴を捉えた後、2つの新聞
記事を読み比べることを行う。題材は北京オリン
ピックの競泳。男子100m平泳ぎの準決勝で、
北島康介選手が全体の2位のタイムを出したとき
の読売新聞と産経新聞の記事を比較している。各
新聞が載せている写真についてより「観ること
(Viewing)」を行うことをねらい、次のような単
元指導計画を作成した。(次に示す1・2は工夫の
内容である)
【単元指導計画は資料編参照】
1 単元の導入(1時)では新聞記事の、写真・
見出し・本文をバラバラにし、それを何組か用
(イ)観ること(Viewing)と読むことをつなげた学
習活動と、つまずきのある児童への支援の工夫
意して黒板に示し、それらを組み合わせる活動
を仕組んだ。そして、組み合わせたものを発表
する際には、なぜその写真・見出し・本文を組
〈研究内容2〉
観ること(Viewing)を行いながら、自分の考えの根
拠を明らかにして表現するための学習活動の工夫
み合わせたのかという理由を説明させる。
【使用した「写真・見出し・本文」は資料編参照】
〔問題1〕は、3つの異なる話題の記事を取り
き出した。この問題から児童は、写真が何を伝
上げた。写真①②③を見るだけで伝えようとす
えようとしているのかを捉え、本文の中から手
る内容が容易に分かり、見出しから記事の結論
が か りと な る言葉 をさ がすと いう 「 観るこ と
をつかみ、最後に3つの記事の中から「選挙・
(Viewing)」の視点を知ることができた。
当選」「園児・緑のカーテン」「残雪・野鳥」
【児童の学習プリントは資料編参照】
などの必要な言葉を見つけることで、写真・見
出 し ・本 文の 3つ を組 み合わ せる こと がで き
た。児童の正答率は100%であった。
〔問題2〕では、サッカー日本代表が2014
年ワールドカップを決めた記事を3組用いた。
写真④は本田選手を大きくとらえている。写真
⑤は本田選手と蹴ったボール、ゴールキーパー
の背中を映し出している。写真⑥は観客席をと
〈写真3〉組み合わせ手がかりを見つけようとする児童
〔問題3〕は、写真と見出しを組み合わせる。
写真⑦⑧はどちらも野球の写真である。見出し
は「奪首」「転落」という逆の意味を示す。こ
の問題では、本文がないため手がかりが少なく
内容がつかみにくい。その分児童は、文字だけ
ではなく、写真から一つでも多く情報を得よう
〈写真1〉児童が見つけた組み合わせ
とした。これが「観ること(Viewing)」である。
すると、児童の学習プリントにもあるように「打
らえている。問題1とは違って同じ内容の記事
って走る瞬間」「落ちこんでいそうな姿」「う
であるため、本文の内容をとらえないと組み合
れしくなさそうな顔」と、写真の中に表れてい
わせられない。児童の正答率は76%にまで下
る事柄や人物により目を向けるようになった。
がった。正解した児童は、写真④「本田 PK・
児童の正答率は88%であった。この問題から
本田は迷わずボールを抱え」写真⑥「歓喜の青
児童は、どのような瞬間を切り取った写真であ
・サポーターの願いは届いた」のように、見出
るか。体はどのようになっているか。顔はどん
しと本文から選んだ言葉とをつないで正解を導
な表情か。それらを捉えることで、写真が伝え
ようとすることをさぐるという「観ること
(Viewing)」の視点をつかむことができた。
2 第2時は、新聞記事の構成を学び、その利便
性を捉えさせた。3時では、2つの新聞を比較
しながら読んだ。その際に、2社が用いている
写 真 から 伝 わって くる ものを まず 話 し合っ た
(「観ること《Viewing》 を行った)。その後、
書き手の目線に立ち、書き手が何を伝えるため
にこの写真を用いたのかというを探った。そし
て、2つの新聞の本文を読み比べる。今度は読
〈写真2〉問題2の正答
み手として、本文から何が伝わってくるかを捉
いないが現在は100%なのではないかと予想
えた。第1時に写真から情報を読むことに取り
したりする児童も多く見られた。
組んだ児童は、第3時ではスムーズに写真に目
を向けることができた。
②の写真からは、初めて知る驚きを示す児童
が多かった。「気象レーダー」「アメダス」と
いう言葉をテレビで聞いたことはあったが、何
実践2「せつめいのしかたについて考えよう
『天気を予想する』」(5年)
この単元は、学習指導要領の次の指導事項に位
置付いている。
であるかを見たこともなければ想像したことも
なかったということを多くの子が口にした。
③の2つの予想図からは、それが天気と気温
の 予 想を 示 すもの であ ること を全 員 が理解 し
「C 読むこと」
た。さらに多くの児童が、この2つのほかに「花
ウ
目的に応じて、文章の内容を的確に押さえ
粉の予想図も見たことがある」「降水確率のも
て要旨をとらえたり、事実と感想、意見な
ある」
「熱中症の注意予想図も見たことがある」
どとの関係を押さえ、自分の考えを明確に
と、自分の生活とつなげて話すことができた。
しながら読んだりすること。
オ
④の写真からは、知っていた物と知らなかっ
文章の文章を読んで考えたことを話し合
た物をつなげて捉えた児童が多かった。雲の様
い、自分の考えを広げたり深めたりするこ
子を示した写真は何度も目にしてきたが、それ
と。
が気象衛星からの写真であったことを知り、驚
この教材には、表・写真・図・グラフが用いら
いていた。
れている。ここでは、各資料が何を表しているか
⑤のグラフからは、棒グラフが示す推移の様
を読むこと、それらを文章と対応させること、資
子と数値とをつなげて捉えることができた。グ
料について文章ではどのように解説しているかを
ラフ中の239回も起こった大雨の中には「ゲ
読むこと、資料があることで説得力が増している
リラ豪雨」もあったのではないかと予想する児
かを確かめることなどを学習する。しかしながら、
童も少なくなかった。
教材文の中に表・写真・図・グラフなどが存在し
ていることを、児童はあまり気にとめないことが
このように「観ること(Viewing)」をして見
つけたことまとめ、掲示した。
予想された。それは、児童が普段からさまざまな
【「表・写真・図・グラフから受けた印象」をまと
メディアのなかに身を置き、写真や絵があること
めた掲示物は資料編参照】
を「あたりまえ」と捉えて、とくに疑問を感じな
2 第2時では、表・写真・図・グラフが全く使
いからである。そんな実態の児童に、表・写真・
われていない本教材(私が作成した本文)を使
図・グラフに注目させ、それらの効果を実感させ
って、音読活動や説明文の問題提示の段落から
たいと願い、次のような単元指導計画とした。
3つの問いを見つける活動を行った。
1 単元の導入(1時)では、教科書の本教材を
【作成した本文は資料編参照】
開くことなく、5つの段落に出てくる表・写真
3 第3時で、初めて教科書を開き、図や写真入
・図・グラフについて「観ること(Viewing)」
りの本教材と出会わせた。児童は文中の言葉と
を行った。気づいたことや思ったことを話し合
表・写真・図・グラフとをつなげながら読み進
う活動を通して「表・写真・図・グラフから受
めることを、とてもスムーズに行うことができ
けた印象」を明らかにした。
た。
【表・写真・図・グラフは資料編参照】
このように、単元構成を工夫することで、それ
①の表からは、天気予報の的中率が年々上が
まで文章だけであった教材に、表・写真・図・グ
ってきたことを全員の児童が気付くことができ
ラフが加わることを体感させ、それらを使うこと
た。さらに、的中率が上がったのは機械が進歩
がわかりやすさや信憑性を増すことに効果的であ
したからではないかと考えたり、表に示されて
ると気付かせることができた。
(イ) 観ること(Viewing)と読むことをつな
げた学習活動と、つまずきのある児童への
支援の工夫
実践1「新聞の編集の仕方や記事の書き方に目を
向けよう『新聞を読もう』」(5年)
第3時では、2つの新聞を比較しながら読ん
だ。その際に、2社が用いている写真から伝わっ
てくるものをたっぷり話し合った(「観ること」
か見下ろしてる感じがする。
E児:だから顔の表情がよくわかるよ。
T:顔の表情からどんなことが伝わってくる?
F児:目が大きくて、「どうしよう。」っておどろいた
顔。不安の感じもする。
C児:②の顔ってため息をついている感じがする。
「ふぅ~」って。心配な感じ。
D児:①は息を吐いているんじゃなくて、吸っている
みたいだよ。
Viewing)。写真から適切な情報を読めない児童に
A児:「決勝では負けられない。」って気合いかな。
対しては、記事の見出しの言葉をヒントとして与
D児:②は手まで写しているから、その手がコース
えた。「強敵」「やるしかない」「闘志」」「不安」
ロープをつかんでいて疲れた感じが伝わる。
などのキーワードを与えることで、「観ること」
(Viewing)の視点を与えることとなり、その出口
へ向かうための証拠を写真の中に求める姿につな
がると考えたからである。次に示すのは第3時で
の児童の様子である。
【児童の学習プリントは資料編参照】
T:①と②の2枚の写真を見てどんなことに気
付きましたか。
A児:①はライバル選手と北島選手2枚使ってある
けれど②は北島選手だけの1枚。
B児:2枚を使っているから二人の関係を読者に伝
えたい。②は1人だけだから、北島選手だけ
のことが伝えたいんだ。
C児:①は外国の人が手を広げているから強い感
じがする。
D児:でも、北島選手の写真の方が大きいから、も
っと強いと言いたいんじゃないか。
B児:2枚の写真を並べていると言うことは、二人
のことを強く関係づけて伝えたい。
話し合う中で、写真はどの位置から撮られてい
るか、それによってどの部分に読者の目がいくか、
それはどのような効果があるかということに意識
が向かうよう方向付けていった。
T:体はどんな風に写っている?
C児:①の写真は、すごく胸が厚く写っているから
力強さを伝えてくる。
〈 写真4〉板書
「観ること(Viewing)」をして分かったことと
して、①はライバルとの関係を示し、北島選手の
勝負するぞと言う気持ちを伝えたい。②は不安で
落ち着かない気持ちを伝えたい。と、まとめた。
その後、本文ア、イを読み、心に残る言葉を書き
出させた。そして、次のようにまとめ、比較した。
ア
イ
・連覇
・大きく目を見開き
・思わぬ強敵
・しばらく動かなかった
・意欲的に
・タイムを落とす
・前半から加速
・一抹の不安
・出場選手でただ1人27秒台
・失速
でターン
・決勝進出とはいえ
・ちょっと後半失速
・予選より0秒03遅い
・ダーレオーエンは後半加速
・構想が崩れた
・挑戦状をたたきつける
・差をつけられた
・ダーレオーエンがターゲット
・気がかり
・金メダルライン
・ライバル交代
・厳しい表情
E児:胸の筋肉や腕がパンパンなのがよくわかる。
T:この写真はどの位置から撮られていると思う?
D児:真横からとってるのかな。筋肉を目立たせて
いるよね。
C児:②は、ちょっと上からとってるんじゃない?何
まとめた言葉に対し気付くことを話し合う中
で、「読み手は心に残る言葉を組み合わせること
で全体の内容をつかみ、書き手が伝えようとする
内容を捉えていることを実感させた。
筆者が表・写真・図・グラフを挿入した意図を
D児:書き出してみると、使われている言葉の印象
がずいぶん違うことがわかるね。
G児:アの本文は、マイナスの言葉が多いよ。それ
にくらべるとイの文はプラスの感じがする。
H児:イは「前半速かった分、ちょっと後半失速→
予選より0秒03タイムを落とす59秒59」と
いう流れになっているけど、アは「失速→決
勝進出とはいえ→予選より0秒03遅い59
秒59だった」となっていて、記事を書いてい
る人の気持ちがすごく入っている。思ってい
ることが全然違う。
C児:そこの部分って、書いてあることは一緒だけ
ど、使っている言葉がアの方がきついから、
すごくダメだった感じがする。
I児:それって、書いている人がそう(すごくダメだっ
考えやすくするため、第1時で使った「表・写真
・図・グラフから読み取ったことを書いたプリン
ト」を第3時にも活用した。次に示すのは、第3
時での児童の様子である。(児童のアルファベッ
トは、実践 1 と共通である)
T:表・写真・図・グラフがあると、どんな良いことが
あるのかな。
B児:①の表があると、文章の中の数字がどこを示
しているかよく分かる。
H児:③では、天気の予想図と気温の予想図を2
つ載せてあるから、「何種類もの」という言葉
とつながる。
D児:②の写真があるから、気象レーダーとかアメ
ダスがよくわかって文章が読みやすくなる。
B児:「七台の静止気象衛星が地球をおおっている
たと)思っているんだよね。イの文からは高
雲を広いはんいでうつし出してます。」という
いレベルでの戦いだから楽しみな感じが伝
言葉を読んでから④の写真を見ると、日本が
わってくるけど、アの文からは不安とか焦り
中心からずれていて他の国も大きく写ってい
が伝わってくる。
るからるから、すごく納得できる。
A児:同じ結果について書いているのに、書く人が
使う言葉でずいぶん違うし、それを読んだ人
の気持ちも変わってくるよね。
このように児童は、「観ること(Viewing)」を
行って「写真が読み手に与える印象」を読み取る
T:筆者はどんなことをねらって、これらの表・写真・
図・グラフを使ったのかな?
D児:天気予報の的中率が高くなってきていること
を読者に納得してもらうために、作者は過去
35年分の表を載せている。
ことで、その写真を用いた書き手のねらいや伝え
A児:③の二つの予想図と「何種類もの」という言
たいことが何であるかということを意識し、全体
葉から、これ以外の予想図も読者に想像させ
を読もうとすることができた。その後、本文から
たかったんじゃないかな。
印象的な言葉を抜き出しその関係を明らかにする
G児:私、花粉の予想図を思い出したよ
活動を行うことで、さらに的確に資料を読むこと
H児:僕は、降水確率の予想図を思い出した。
ができたと考えられる。
E児:筆者のねらい通りだね。
新聞記事の本文は5年生の児童にとって難しい
C児:①の表を見て僕は、2013年は的中率が100
言葉や表現を用いてあることが多い。しかし、写
%になっていると予想してプリントに書いた。
真に対し「観ること(Viewing)」を十分に行えば、
文章の中に「では、さらに科学技術が進歩し、
本文の中から手がかりとなる必要な言葉のみを選
国際的な協力が進めば、天気予報は百パー
んで読むことができ、記事にかかれている大まか
セント的中するようになるのでしょうか。」と書
な内容を理解することができた。そして、新聞記
いてあって、僕は「なるんじゃない?」と思っ
事 は 、 写 真 ( Visual Language) と 見 出 し や 本 文
た。でも、そのあとに「それは、かなりむずか
Language)が構成されて一つの記事にな
しいというのが、現在のわたしの考えです」と
(Written
っているということを体感することもできた。
書いてあってびっくりした。「なんで?」って不
思議やった。
実践2「せつめいのしかたについて考えよう
『天気を予想する』」(5年)
I児:それって、前の時間にやった「2つめの問い」
そのものや。
E児:また、筆者のねらい通り。
D児:そうやって考えると、ここでまとめた(教室掲
置付いている。
「B 書くこと」
示を指しながら)「表・写真・図・グラフを見て
(2)目的や意図に応じ、考えたことなどを文
受けた印象」って、筆者が表・写真を使ったね
章全体の構成の効果を考えて文章に書く能
らいだと思う。
力を身に付けさせるとともに、適切に書こ
うとする態度を育てる。
ア
考えたことなどから書くことを決め、目的
や意図に応じて、書く事柄を収集し、全体
を見通して事柄を整理すること。
イ
自分の考えを明確に表現するため、文章全
体の構成の効果を考えること。
本単元は、絵という非言語情報から読み取った
内容を文章(言語情報)で表現する、まさに「観
ること(Viewing)」と「書くこと(Writing)」と
をつなげる単元である。
【本教材の絵は資料編参照】
〈写真5〉第1時をまとめた掲示物
E児:私たちは、筆者のねらい通りのことを感じたっ
てことなんだね。
【児童の学習プリントは資料編参照】
本単元を学習する直前の単元は「ものの見方を
広げよう『鳥獣戯画を読む』」であった。この教
材は「絵巻物をどう読むか」について映画監督の
高畑勲氏が書いた文章である。児童は教材文から、
児童は第1時で、表・写真・図・グラフに対し
絵の何に気付き、そこから何を考え、それをどの
を「観ること(Viewing)」行ったので、それらが
ように文章表現するかを学んだ。本単元ではその
示すことをよく捉えることができており、本時で
学びを生かして、「観ること(Viewing)」と「書
も、表・写真・図・グラフが読者にどのような印
くこと(Writing)」をつなげる学習としたいと願
象を与えるかを考えながら学習を進めることがで
い、次のように学習活動を工夫した。
きた。さらに、第1時で表・写真・図・グラフか
ら自分たちが感じた「印象」こそが、筆者が表・
1
絵に対して「観ること(Viewing)」を行う。
写真・図・グラフを用いたことの効果であったこ
教科書には「何・身につけている物・どこ(場
とに気付き、筆者の表現方法の巧みさを実感する
所)・形・色・線・位置・ポーズ・音・におい
こともできた。
・不思議だ、分からないと感じるところ、絵を
このことから、無意識のうちに受けている非言
描いた人の思い」という視点が載っている。絵
語情報からの印象を、「観ること(Viewing)」を
を見る視点である。
行うことで、読み手の意識・書き手の意図を鮮明
そこにさらに「描いた人の性別・描いた人の
に意識化することができるといえる。
年齢(年代)・絵の中で何が起こっているか・
描いた人の心の状態。描いた人は何が言いたい
か」という質問を増やし、作者を想像すること
〈研究内容2〉
観ること(Viewing)を行いながら、自分の考えの根
拠を明らかにして表現するための学習活動の工夫
へ児童の思考をいざなう。児童は絵から感じ取
ったことを、質問に答える形式で、ノートに書
いていった。
実践3「読み取ったことを表現しよう
『この絵、わたしはこう見る』」(6年)
2
自分の考えの根拠となっているものを考える
絵に対して「観ること(Viewing)」した児童
達は「作者は男性。心は怒っている」「作者は
この単元は、学習指導要領の次の指導事項に位
女性。明るくわくわくしている」などど、絵の
印象から想像したことをノートに書いた。それ
る。さらに、描いた人や絵の中で起きていること
は、ぼんやりとした印象であり「何となくそん
について問うと「かいた人は男性」「けんかをし
な気がする」というものであった。
ている」「かみなりの神は『かかってこいと』待
そこで、2時では「自分がどうしてそのよう
って準備している」と書いた。その根拠を書いた
な 印 象を 抱い たの か、 証拠を 絵か ら見 つけ よ
第2時のプリントには男性だと思った理由として
う。」と働きかけた。 絵から 受けた印象を基
「いかつい顔」「筋肉がたくさんついている」「書
に自分が想像し、その想像が浮かんだ根拠を再
いた人の心情が怒っていたから絵も、ふたりの神
び絵に問い直すことで、自分の考えの根拠を逆
がけんかをしていて怒ったようになっている」と
説的に考えさせたのである。そして、プリント
表現し、考えの根拠を絵の中から見つけ出してい
に示した絵の横に書き出させた。児童は「自分
る。そして作文では、「二人の神様の色のイメー
は ど うし てこ の絵 を男 性が描 いた と思 った の
ジを変えるのも実に見事だ」という表現をしてい
か。」「怒っているという印象を受けたのは、
る。色の違いは作者の意図であると理解し、それ
この絵のどこがどのようになっているからなの
は対立を表していると考えたのである。さらに、
か」と自問しながら活動した。自分の考えの基
作者が男性であると想像したわけを、「私が知っ
となる証拠を絵の中から見つけるためにさらに
ている歴史上の絵の作者は、雪舟など男の人ばか
絵に対し「観ること(Viewing)」を深く行った
りだからだ。」と表現した。社会科の学習で身に
のである。
付けた歴史認識とつないで考えを述べたのであ
る。
これらの学習活動の後、自分の考えを文章で表
現する活動を行った。そこには、児童一人一人の
【B 児の様子】
自由な、ものの見方が表れていた。
【児童の「第 1 時のノート」「第2時のプリント」
「作文」は資料編参照】
段階
絵を観た ・金色の輪 ・雨雲の色 ・明るい色
第 段階
1
①の絵を選んだ児童の様子から
【A 児の様子】
段階
児童の表現
絵を観た ・雷の神の色は白が多く使われている。
・風の神の色は緑が多く使われている。
第 段階
・描いた人は男性
1
作者を
・けんかをしている。
時 想像さ
・かみなりの神は「かかってこい」と待って
せる
準備をしている。
第 自分の考 《描いた人が男性である根拠》
2 えの根拠 ・いかつい顔
を絵の中
時 に見つけ ・筋肉がたくさんついている
・かいた人の心情が怒っていたから絵も、
る段階
ふたりの神がけんかしていて怒ったように
なっている。
第
作文の
3 中の表
時 現
・ふたりの神様の、色のイメージを変える
のも実に、見事だ。
・私が知っている歴史上の絵の作者は、
雪舟など男の人ばかりだからだ。
児童の表現
作者を
時 想像さ
せる
・描いた人は男性 ・30代
・少し怒っている。
・力を合わせてほしいと思っている。
第 自分の考 《描いた人が男性である根拠》
2 えの根拠 ・足やうでをまげたときのふくらみ方
を絵の中 ・迫力
時 に見つけ 《心情の根拠》
・笑っている。 ・わくわくしている。
る段階
B 児は、第1時で絵を見て、「金色の輪」「雨雲
の色」「明るい色」と表現し、色に着目している
ことが分かる。描いた人物像や心情を問うと「男
性」
「30 代」と表現した一方で「少し怒っている」
「力を合わせてほしいと思っている」と、少し矛
盾している内容もあり、絵から感じた内容に迷い
があるようであった。第2時でさらに「観ること
(Viewing)」を行い自分の考えの根拠を絵の中に
見つける活動を行うと、作者が男性であることの
根拠を「足やうでをまげたときのふくらみ方」か
ら受けた「迫力」であると表現している。また、
第1時で着目した明るい色と描かれている口の様
A 児は第1時で、絵を見て色について書いてい
子とをつなげて「笑っている」「わくわくしてい
る」と連想し、絵から読んだ内容を整理し直して
なずける。そして、「悲しい」「悲しんでいるか
いることがわかる。「怒っている」という反対の
んじ」という表現は、C 児の心そのものが表れて
表現は消えている。「観ること(Viewing)」を行
いるのだと分かった。
うことで、考えを再構築したのである。
【C 児の様子】
段階
第 絵を観た
1 段階
時 作者を想
像させる
第
自分の考
2 えの根拠
時 を絵の中
に見つけ
る段階
第
作文の
3 中の表
時 現
児童の表現
・たいこをもっている。 ・布を持っている。
・わっかのようなものがある。
・描いた人は男性。 ・60代
・落ち着いた状態
《描いた人が男性である根拠》
・うえがごつごつ
・足のつめが長くてこわそう
・あごやまゆ毛がぐちゅぐちゅとしている。
・悲しい ・・いかめしい顔
・顔が笑っている。 ・じいちゃん
・作者は、病気で、もうすぐ死ぬかもしれ
ないと思いながら書いたんだと、ぼくは
思う。
〈写真6〉考えの根拠を明らかにしようと、絵をViewingする児童
②の絵を選んだ児童の様子から
②の絵は抽象的でなものが表現されているた
C 児は、第1時で絵から受けた印象として「た
め、児童の多くは、描かれている物は何なのか、
いこをもっている」
「わっかのようなものがある」
どのような関係があるのかなどをつかもうと、絵
など、絵の中の見えた物だけを書き出している。
の詳細を見ていた。
数もあまり多くない。それが、第2時になると変
化を見せる。「観ること(Viewing)」を行い、作
【D 児の様子】
者が男性だと思った理由を探していくうちに「足
のつめが長くてこわそう」「あごやまゆ毛がぐち
ゅぐちゅとしている」と表現し、絵の詳細な部分
に目が向くようになっていることがわかる。そし
て、第1時のノートにはなかった「悲しい」とい
う言葉を3回も使っている。さらに「いかめしい
顔」「顔が笑っている」という相反する表現や、
「じいちゃん」というも言葉もあり唐突な感じを
受けた。その後書いた作文は「作者は、びょうき
段階
絵を観た ・楽譜が3段なので、地球ではない。
第 段階
1 作者を想 ・作者は女性。女っぽい。
時 像させる ・20代~30代
第 自分の考
2 えの根拠
を絵の中
時 に見つけ
る段階
《描いた人が女性である根拠》
・色づかいが明るい。 ・目がかわいい。
・仕事場の机だから。
《心情の根拠》
・少し端の方から光が入っていて、誰かが
のぞいているように見える。
第
・この絵から、人の心が明るくわくわくす
るような力がある気がする。
で、もうすぐ死ぬかもしれないと思いながら書い
たんだとぼくは思う。」という言葉で締めくくっ
ている。その心の内が気になり C 児に詳しく話
を聞くと、「この絵の顔がじいちゃんに似ている
児童の表現
作文の
3 中の表
時 現
気がする。」と話した。昨年亡くなった曾祖父の、
D 児は、第1時で「楽譜が3段」と表現してい
亡くなる間際の病院での様子を思い出しながら絵
る。ピアノ演奏が得意で、五線譜を見慣れている D
の中の非言語情報を読み、作文にまとめたのであ
児ならではの着眼である。②の絵の青や黒の色遣
る。「いかめしい顔」「顔が笑っている」は厳し
いから作者は男性であると多くの児童が想像した
くも優しくもあった曾祖父の姿である。だから「じ
中で、D 児は「作者は女性」と書いた。第1児の D
いちゃん」とプリントに示した唐突な言葉味もう
児のノートには「青」「黒」「暗い」という表現
は一つもない。第2時で、作者が女性だと考えた
Ⅴ 成果と課題
根拠を絵の中に探していくと、プリントには「明
【成果】
るい」という言葉が増えていった。作文では「人
○授業の中に「観ること(Viewing)」の要素を加
の心が明るくわくわくするような力がある」とい
えていくことで、書き手の「意図」を感じたり、
う表現で絵を評価している。音楽は人の心を明る
読み手として受け取った情報の「根拠」を意識
くし、わくわくするという D 児のものの見方が
したりすることができた。
表れている。
○写真・表・図・グラフなどに着目することでそ
れらの効果を実感し、言葉とつなぐことで文章
E 児は、第1時で「作者は男性」「作者は音楽
を読むことが深まった。
家になりたかった」「なれなかった悲しみ」と、
○絵をより詳しく観ることでそれが伝える内容を
見えない物を表現している。描かれている物の詳
実感し、体験や想像と結びつけることで書くこ
しい表記はなく、印象重視で絵を細かく見ていな
との内容が深まった。
いことがうかがえた。その後の第2時で「観るこ
○「観ること(Viewing)」は、非言語情報と言語
と(Viewing)」を行うことで「ひげ」「クラリネ
情報とをつなぐことに有効な手だてであること
ット」と、見える物を手がかりとすることができ
が分かった。
た。そして作文は「クラリネットとギターの音が
聞こえる。聞いている人も心を動かされるような
【課題】
ゆったりとした音楽が町へ流れる。」と、お話仕
●写真・表・図・グラフ・絵も「読む対象」であ
立てで始まる。1枚の絵から、E 児は、そこにス
ると児童に意識させ、「観ること(Viewing)」
トーリーを感じながら読み深めたのである。しか
を効果的に行うためには、「観る視点」を明確
も、ただ空想を書き並べているだけではない。抽
にして「読み方」を教えることがさらに必要で
象的な絵の中にも自分の考えの基となり得る物を
ある。
見つけて、つなげて表現することができた。
●写真・表・図・グラフ・絵からの情報の取り出
しだけで終わることなく、文章表現とのつなが
これらの児童の作品からも分かるように、同じ
りを児童が自分で意識できるようにしていくた
絵を見ても、感じ方はさまざまである。作者を「男
めの、学習方法や発問、指導援助の工夫も必要
性」と感じる児童もいれば「女性」と考える児童
である。
もいる。「楽しい」と感じる児童もいれば「悲し
い」と感じる児童もいる。事実はどうであるか何
が正解であるかは、重要ではない。何を根拠にど
《参考文献》
う考えたのか、無意識的に感じたことを、どのよ
・「読解力向上プログラム」文部科学省
う に 意 識 化 し 表 現 す る か 。 そ こ に 、「 観 る こ と
(Viewing)」は、とても有効であると感じた。文
平成17年12月
・「小学校学習指導要領解説
字がないからこそ、それまでの体験や想像力が生
き生きと動き出す。絵に対して「観ること
(Viewing)」を行って見つけた1つ1つのピース
を、筋道を立ててつなげていくことで、児童は、
国語編」文部科学省
平成20年8月
・「PISA 調査(読解力)の結果を踏まえた指導の
改善」
文部科学省
・「『生きる力』につながる PISA 型の読解力
自分の考えの根拠を明らかにして整理したり、再
~根拠を基に自分の意見を表現する授業への
構築したりする。そうすることで、それぞれが自
転換~」
分の考えを自信をもって表現することができる。
有本秀文
国立教育政策研究所総括研究官
ベネッセ教育総合研究所