LAN配線技術の動向

LAN配線技術の動向
住友電気工業株式会社 システムエンジニアリング事業部 前河秀治
はじめに
ピュータが増え、社内業務がコンピ
えています。いずれもスター型の配線
ュータで行われるようになると、LAN
形態が一般的です(図1)。これらの配
1990 年代になって大学や企業内
接続端末数も増え、ネットワークに
線形態はJIS X5150、ISO/IEC 11801、
に、急速にLAN が普及し始めました。
流れ込むデータ量も増えてきました。
ANSI EIA/TIA568-A (* 2) 等の規格で規
現在フロントエンドLAN として主流
この増えたデータ量を扱うために、
定されています。コンピュータとLAN
のイーサネットは当初、同軸ケーブ
LAN 機器は、機能面ではブリッジか
機器の間には、情報通信ケーブル
ル( 写真 1) を使用したバス型配線
らルータ、スイッチ等とだんだん高機
(UTPケーブル等)が配線されますが、
(10Base-5)で、この当時はまだパー
能 な 機 器 が 登 場 し 、速 度 面 で は 、
机のレイアウト変更時に柔軟に対応
ソナルコンピュータが充分には普及
10Mbps、100Mbps、1Gbpsと高速
できるように、通常、途中にパッチ
しておらず、LAN接続も珍しい時代で
化していきました(表1)。
パネル(配線盤)(写真3) や情報コンセ
した。やがて企業内のパーソナルコン
ント(写真4) を設けます。パッチパネ
ル にはモジュラ型 (写真5) とブロッ
LAN 配線の現状
ク型 (写真6) の2種類があります。
最近では、事務所内の配線は、UTP
ケーブル(* 1) (写真2)が一般的になっ
UTPケーブルの配線形態
ています。またバックボーンや離れ
写真1 イーサネット同軸ケーブル
たセグメントとの接続には、以前は
カテゴリ5(* 3) では1端末当たり4対
主に同軸ケーブルを使用していまし
のUTPケーブルを配線するようになり
たが、今では光ケーブルの使用が増
ますが、配線室間 (MDF/IDF∼IDF) 等
表1 LANの高速化
L A N 種 類
伝送速度
媒
形 態
規格化時期
フロントエンド、バックボーン
バ ス型
84年
UTP/STP
フロントエンド
リング型
86年
光(マルチ、シングルモード)
主にバックボーン
リング型
89年
[ ※]
イーサネット(10BASE-5/2) 10Mbps
同
トークンリング
FDDI
4Mbps
100Mbps
体
軸
用
途
イーサネット(10BASE-T/F)
10Mbps
UTP/光(マルチモード)
フロントエンド、セグメント延長
スター型
91年
トークンリング
16Mbps
UTP/STP
フロントエンド
リング型
92年
フロントエンド、バックボーン、
WAN 接続、マルチメディア
スター型
94年
UTP/光(マルチモード)
フロントエンド、バックボーン、
サーバ接続
スター型
95年
ATM
ファーストイーサネット
25Mbps,
UTP/光(マルチ、シングルモード)等
155Mbps、
622Mbps等
100Mbps
ギガビット・イーサネット(光)
1Gbps
光(マルチ、シングルモード)
バックボーン、サーバ接続
スター型
98年
ギガビット・イーサネット(UTP)
1Gbps
UTP
バックボーン、サーバ接続
スター型
99年以降
[※] Mbps(Mega Bit PerSecond)は百万ビット/秒。 Gbps(Giga Bit PerSecond)は十億ビット/秒。1秒当たりに伝送できるデータ量を表す単位。
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写真2 UTPケーブル
写真3 パッチパネルを使用した配線例
写真4 情報コンセント
の多条の UTPケーブルを必要とする
場所には、24対ケーブル等の多対ケ
写真5 モジュラ型パッチパネル
ーブルを用いることが多いようです。
同一フロア内の配線方法には、集中
型配線と、各机の島に分岐ボックス
を持ってくる分岐型配線があります
(図2)。 一方、UTPケーブルをデー
タ通信だけでなく、電話系の通信に
も利用しようという配線システムも
カテゴリ7 (600∼750MHz) の配線
あり「統合情報配線システム」と呼
仕様も検討中です。これらについて
ばれています。統合配線は配線管理
は規格化がまだ完了しておりません
が容易になる一方で、電話用にデー
が、すでに市場にはカテゴリ6相当を
た、将来導入するLAN 技術が布設済
タ用の高品質なケーブルを利用するた
唱えるケーブルや配線部材が製品と
みのケーブルで使えない場合にも、
め、比較的高価になる傾向があります。
して出始めています。
配線変更が必要となり余分なコスト
写真6 ブロック型パッチパネル
以上のように一口に配線といって
が発生してしまいます。将来、配線
100MHzまでの伝送特性について規
も様々な配線形態や配線部材があり
をできるだけ変更しないで済むよう
定していますが、さらに品質を高めた
ます。どのような配線システムにす
に、LAN の高速化も考慮に入れて配
エンハンスド・カテゴリ5、最近では
るのかは、オフィスのレイアウト変
線設計した方が良いでしょう。
もっと高帯域の伝送特性まで規定し
更の頻度や配線管理方法等を考慮し
たカテゴリ 6 (200 ∼ 250MHz) や、
ながら、充分に検討して下さい。ま
伝送帯域では、カテゴリ 5 では、
図1 情報配線の例
図2 集中型配線と分岐型配線
LANスイッチ
IDF
パッチパネル
情報コンセント
IDF
LANスイッチ
LAN
機器
MDF
PBX
IDF
パッチパネル
コンピュータ
情報コンセント
電話
分岐ボックス
MDF:Main Distribution Frame / IDF:Intermediate Distribution Frame
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UTPケーブルの配線工事
さて,LAN 配線工事の実体ですが、
脱した施工をしても、フィールド測定
器で「合格」になるケースもあるよう
です。このことから、ルーズな施工を
同軸ケーブルの時代には、特殊な工
するケースも増えてきており、このあ
事のように扱われていましたが、取
たりを見直した方が良いと思います。
り扱いの簡単な UTPケーブルの登場
LAN のトラブルの場合、原因は
や、配線の規格化、フィールドテス
LAN 機器の故障や設定ミスの場合が
タ (写真7) の普及で、最近では、比
多いのですが、配線が原因になって
較的簡単に施工、評価できるように
いる場合もあります。情報配線は貴
なりました。
重なデータが流れるネットワークの
ところが、実際には表2のように意
まさに土台です。足下がおぼつかな
外と細かい規定があり、施工には注
ければ、どんなに高性能のネットワ
意が必要です。
ーク機器を導入しても、ネットワー
特に、成端部分はこれらの知識と技
クはいつも不安定なままです。通信
品質はその業者の過去の施工実績や
術を持ったエンジニアに施工させた
速度の低下など何となく調子が悪い
工事写真を見れば、ある程度は読み
上で、成端後、カテゴリ5用のフィー
と感じたり、最悪の場合、ネットワ
とることができます。ケーブルの処
ルドテスタで測定することをお奨め
ークが突然停止するという事態も起
理や配線管理をきちんとしているか
致します。
こりえます。
どうかを確認して、信頼のできる業
写真7 フィールドテスタ
カテゴリ5のレベルでは、ケーブル
いずれにしても、カテゴリ5以上の
の性能が規格に比べ、一般的にかなり
配線工事では信頼できる工事業者を
工事業者を選定する際の注意点につ
余裕があることもあり、施工基準を逸
選定することをお奨めします。施工
いて表3に一例を記します。
者に依頼すれば良いかと思います。
表2 カテゴリ5配線時の注意点 (概要)
注
意
点
ケーブル並びに配線部材はカテゴリ5規格品を使用する。
設計時
配線盤∼情報コンセント間は90m以下とする。
ワークエリアケーブル、パッチケーブル並びに機器ケーブルの配線長の合計は10m以下とする。
成端部分での撚り戻し長は13mm以下とする。
布設時
タイラップ等で形が変わるほどきつく締め付けすぎない。
施工後、カテゴリ5用のテスターで測定する。
ケーブルを強く曲げすぎない。
表3 工事業者選定の際の注意点の例
注
意
点
UTPケーブルの外被を必要以上に取り除いていないか
布設時
外被を取り除いた部分は、保護のために適切に処理しているか
UTPケーブルの終端部分でケーブル芯線のよりを戻していないか
布設後
パッチコードが乱雑でなく、きちんと整理して接続しているか
情報コンセントの番号表示を明確にする等、ケーブル管理をきちんとしているか
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布設する環境に応じて、使用するケ
ーブルを選定するのは重要なことで
す。布設した STPケーブルのシール
ド部分については確実に接地するよ
うに注意が必要です。
光ファイバケーブルの配線
光ファイバケーブル(写真8)は、広
写真8 光ファイバケーブル
帯域且つ低損失な伝送特性を持ち、高
速大容量のデータをより長距離まで伝
最近では様々なカテゴリ5仕様のケ
ーブルや部材が各社からでており、
達することができ、企業やキャンパス
STPケーブルの配線
一部の海外製品では非常に安価なも
内のバックボーンとして利用されてい
のも出回っています。一口にカテゴ
工場内で電動機の近く等、電磁ノ
ます。光ファイバには、表4のような
リ5仕様と言っても充分に規格に対し
イズがたくさん発生するような所で
種類があり、それぞれ用途に応じて使
て余裕を持った製品から、余裕のな
は、ノイズの影響を受けにくい STP
い分けています。LANでは一般に、マ
いものまで様々です。信頼できるメ
ケーブル
ルチモードファイバ (* 5) (グレーテッ
ーカのケーブルや配線部材を使用し
ることをお奨めします。病院等では、
ド・インデックス型)やシングルモー
た方が、より良い伝送特性が得られ、
医療用の機器があり、逆に配線の方
ドファイバ (* 6) を使用することが多い
結局、より長期に渡り配線を使用で
からこれらの医療機器へ悪影響を与
ようです(表5) 。光ファイバケーブル
きるのではないかと思います。
える可能性もあります。ケーブルを
布設時の注意点は表6の通りです。
や、光ケーブルを使用す
(* 4)
表4 光ファイバ基本構造の種類
シングルモードファイバ
(SM型)
マルチモードファイバ(MM型)
ステップ型
(SI型)
グレーデッド型
(GI型)
数μm
50 ∼数100 μm
50 ∼ 100 μ m
10GHz・ km以上
10 ∼ 50MHz・ km
100m∼数 GHz・ km
ア
石英ガラス
石英ガラス
多成分ガラス
プラスチック
石英ガラス
多成分ガラス
クラッド
石英ガラス
石英ガラス
多成分ガラス
プラスチック
石英ガラス
多成分ガラス
プラスチック
途
長距離・大容量伝送
短距離・小容量伝送
中距離・中・大容量伝送
屈折率分布
屈折率分布と光の
伝ぱんのようす
クラッド
コア
コ
ア
径
伝 送 帯 域
コ
材質
用
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最近のデータ通信量の急増に伴い、
うなことはなく信頼性が高く、且つ増
光ファイバをバックボーンだけでな
設時に容易に配線変更を行うことが
く、ユーザ端末でも使用するケース
できるという特長を持っています。
もでてきています。(写真9)
さらに最近では、ポリエチレン管
今後の動向
最近では、LAN 上をデータだけで
(* 7)
なく、音声、画像等の情報も流すよ
また、配線技術では、空気圧送方式
の中に、空気を送り込んで、光ケー
うになりました。またインターネッ
という、あらかじめ布設しておいた
ブル自身を圧送するという技術(ケー
トも普及し、電子商取引等もできる
パイプケーブル (写真10) 中に、空気
ブル空気圧送工法) (写真11) も開発
ようになり、ネットワークは、ます
の力で光ファイバユニット(光ファイ
され、すでに導入事例も出始めてお
ます我々の身近に感じられるように
バ芯線の束)を圧送する、ABF (Air
ります。
なりました。LAN は企業内だけでな
Blown Fiber) 工法 (図3) という方法
く、SOHO (* 8) のような小規模の事務所
があります。この工法では、布設時
や家庭内にも普及し始めました。携帯
に光ファイバに余分な力がかかるよ
電話や PHS等での移動体通信も本格
化してきた感があります。現在、一般
家庭ではインターネットへの接続方
法としてモデム(∼ 56kbps)や ISDN
(64kbps)の利用が一般的ですが、将来
はxDSL(* 9)、FTTH (* 10) や、CATV(* 11) の
利用等、様々なメニューが登場してく
るでしょう。その際、一般家庭内の配
線として、情報分電盤 (* 12) やオーデ
写真9 光アウトレットの例
ィオ、TV、データ等が同一の配線内
写真10 パイプケーブルと光ファイバユニット
表5 光ファイバを使用するLANの規格
規格名
10BASE-FL
100BASE-FX
伝送速度
10Mbps
100Mbps
1000BASE-LX
1Gbps
1000BASE-SX
1Gbps
FDDI
100Mbps
ATM
155M,622Mbps等
光ファイバの種類
マルチモード・ファイバ
マルチモード・ファイバ
シングルモード・ファイバ
マルチモード・ファイバ
マルチモード・ファイバ
シングルモード・ファイバ
マルチモード・ファイバ
シングルモード・ファイバ
マルチモード・ファイバ
最大ケーブル長
2km
2km
5km
∼ 550m [※]
∼ 550m [※]
40km
2km
I/F毎に異なる
[※] 光ファイバの仕様によって異なる。
表6 光ファイバケーブル布設時の注意点(概要)
注
意
点
ケーブルを強く曲げすぎない。曲げ半径はケーブル外径の20倍。
布設時
光ケーブルに加わる張力は許容張力以下とする。
屋外でケーブルを使用する際、ケーブルのメタル部を屋内で接地する。
ケーブルを踏んだり、重量を加えたりしない。
固定時の曲げ半径はケーブル外径の10倍。
布設後
コネクタ接続の際に、ファイバ端面にゴミが付着しないようにする。
融着点の接続ロスの平均値は平均0.15dB以下。ただし1箇所当たりの最大値は0.6dB以下。
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図3 ABF圧送工法(光ファイバユニットを空気圧送する)
成端接続箱
コンプレッサー
光ファイバユニット
パイプケーブル
パイプ
写真11 ケーブル空気圧送工法
一体型圧送装置
(* 8 ) SmallOffice Home Office。小規模オ
フィスや自宅兼用オフィスを指す。
(*9 ) 銅線による一般的な加入者回線を
用いて高速通信を実現する技術の
に統合された新しい配線概念のよう
Cabling Standard
総称。代表的なのは非対称で下り
なものも登場してくると思われます。
ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電
を高速化したADSL (Asymmetric
今後、ますます新しいアプリケーシ
気標準会議)、ANSI(米国規格協
DigitalSubscriberLine)。他にIDSL、
ョンが登場し、配線形態も様々に変
会)、TIA(米国電気通信工業会)、
HDSL、SDSL、VDSLの各種技術
化していくことでしょう。
(*1) Unshielded Twisted Pairケーブル。
非シールド対より線ケーブル。シ
ールドされていない一対以上の対
からなるケーブル。
(*2) JIS X5150:構内情報配線システム
ISO/IEC 11801 : Information
technology -Generic cabling
for customer premises
ANSIEIA/TIA568-A:Commercial
Building Telecommunications
EIA(米国電子工業会)
も開発されている。
(*3) UTPケーブルの品質を示す。数字
(*10) Fiber To The Home。各家庭まで
が大きくなるほど伝送ロスや漏
光ファイバケーブルを布設して
話減衰量等の伝送特性が良くな
電話やISDN、さらにはCATVま
り、カテゴリ5では 100MHzの
で含めた各種の通信サービスを
帯域まで規定している。
提供する加入者網光化の総称。
(*4 ) Shielded Twisted Pairケーブル。
NTTが2010年までに全家庭まで
シールド付きの対より線ケーブル。
光ファイバを張り巡らせる構想
(*5) シングルモードファイバは、光が
伝搬する光路が1つの光ファイ
バ。
高速長距離伝送に適している。
(*6) マルチモードファイバは、光が伝
搬する光路が複数存在する光フ
ァイバ。
(* 7 ) 高密度ポリエチレン管。水道管
等に使用されている。
を打ち出している。
(*11) Cable TV。ケーブルを使った地
域中心のテレビ放送。ケーブル
には同軸ケーブル、光ファイバ
ケーブルが使用される。
(*12) 各家庭内の情報配線を1つの盤
内にまとめたもので、DSU、Hub
等の情報通信機器が設置される。
資料請求番号30A-041
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