ci clinical impressions N O.22 歴史から学んだこと インスパイア! サファイア・ブラケット Dr. Swartz R 歴史から学んだこと インスパイア!サファイア・ブラケット Michael L. Swartz, DDS この論文は米国Ormco社Clinical Impressions 2001 No.3に掲載されたものです。 Encino, California オームコのインスパイア!審 美ブラケットは1980年代中頃 の技術からはるかに進化してい る。セラミックと矯正用ブラケ ットの技術における15年以上の 失敗と進歩から学びつつ完成し たものである。 図1. インスパイア!ブラケッ トは審美的な治療を求め る患者に水のように透明 な装置を提供する。 1984年以降、多結晶や単結 晶の酸化アルミナ製のブラケッ トが様々なデザインで発表され てきた。専門家はセラミック・ ブラケットによるエナメル質の磨耗から完全な破損 まで、エナメル質に対するダメージを経験してきた。 これらの不幸な経験がこの硬い素材の接着強度をコ ントロールし、術者にセラミック・ブラケットはメ タル・ブラケットのように扱うことはできないこと を認識させる貴重な教訓をもたらした。 “A”カンパニー社がスターファイア・サファイ ア・ブラケット(単結晶酸化アルミナ)を発表した 時、術者は単結晶素材の透明度を評価したが、その デザインと製造法を原因とする高い破折率を経験し た。オームコ社もジェムという単結晶ブラケットを 短期間販売した。ユニテック社はオリジナルの多結 Dr. Michael Swartzは現在オームコ社の歯科矯正トレー ニングとセミナーのクリニカル・ディレクターであ り、継続的な教育プログラムを運営・管理している。 Dr. Swartzは技工士として歯科業界に入り、その後歯 科材料の研究開発に関わるようになった。南カリフォ ルニア大学で歯科の学位を取得し、一般歯科診療室を 開業しながらも1975年にオームコ社の研究開発にディ レクターとして加わった。Dr. Swartzはサンフランシ スコのカリフォルニア大学で矯正歯科の卒後教育を受 けた後、1985年から1998年の間カリフォルニア州エ ンシノで矯正専門診療室を開業した。Dr. Swartzは現 在カリフォルニア州オレンジのサイブロン本社内で患 者を治療しながら、広く世界中で講演している。 1 晶ブラケット、トランセンドをメカニカル・リテン ション・ベース・デザインのトランセンド2000に進 化させ、さらにメタル・スロットを付けたクリアテ ィを作り出した。 “A”カンパニー社との合併の後、オームコ社の セラミック技術者は過去の経験に基づいてスターフ ァイア・ブラケットを完全に設計し直し、インスパ イア!ブラケットを作り出した(図1)。インスパイ ア!は単結晶サファイアの水のように透明な特性を 維持しつつ、以前の製品にあった高い破折率を無く した。ボンディングとディボンディングに信頼性を もたらすために、メカニカル・リテンション・ボー ル・ベースが追加された。ブラケット部位の識別と 正確なブラケットの位置決めをもたらすフェイス・ ペイントも加えられた。 人工サファイアは高純度の溶解した酸化アルミナ から単結晶の塊を引き抜く方法で製造される。この サファイアの結晶は直径4∼6インチ、高さ24インチ 程度である。この結晶には強い結晶軸と弱い結晶軸 がある。結晶は強い方の軸に沿って棒状に切断され (図2)、この棒からブラケットが削り出される(図3)。 非常に硬い単結晶から棒そしてブラケットを削り出 す過程で、応力や歪みが発生する。これらの応力や 歪みを開放するために、加工されたブラケットを熱 処理しなければならない。過去の経験と広範囲にわ たる試験によると、スターファイア・ブラケットに 施されていた熱処理はすべての応力や歪みを開放す るには不充分であった。スターファイア・ブラケッ トは急激に加熱・冷却されていた。インスパイア! ブラケットには電気炉の中で3段階に分かれたサイ クルで(図4)非常に高温度、合計72時間(図5,6) という長い熱処理工程が行われている。破折を無く すためにタイウィングの厚みも増している。以前の ブラケットにあった破折の問題は解決された。私が 使い始めてみた経験では、適切に使用すればブラケ ットの破折はまず無いと言える。 図2. 結晶サファイアの棒からブラ ケットを削り出す準備を行う。 図3. 棒にブラケットのスロットと タイウィングを形成する(写真は フック付きの犬歯用ブラケット)。 ボンディングの成功をもたらす数多くの要因 偏菱形デザイン、メカニカル・リテンション・ボール・ベース、フェ イス・ペイントというインスパイア!の特徴はボンディングに信頼性を もたらしている。メカニカル・ボール・ベースなのであらゆるボンディ ング材が使用できるが、化学重合よりも光重合材料のほうが変色が少な い傾向があるので、私は光重合レジン・システムを用いている。私はイ ンスパイア!のボンディングにエンライトを用い、オプチラックス501 光重合器で5秒間照射することをお薦めする。 インスパイア!ブラケットの表面にはフェイス・ペイントという歯牙 の部位によって色の異なる水溶性染料が塗られている。フェイス・ペイ ントはボンディング時のブラケットの位置決めに非常に役立つ。ボンデ ィング直後に、フェイス・ペイントは容易に水で洗い流せる。ブラケッ トの大きさと偏菱形の形態はポピュラーなミニダイヤモンド・ブラケッ トと同じなので、ブラケットの位置決め方法を変更する必要はないし、 慣れるための時間も必要ない。 図4. 熱処理工程は非常に高温の電気炉の中で3段階 のサイクルを合計72時間行う。サファイア・ブラケ ットが入ったトレーが電気炉に積み重ねられる。 インスパイア!のブラケット・ベースにはガラスの結合材がコーティ ングされ、その上に小さな中空のジルコニア球(直径約40ミクロン)が 均一に融合されている(図7)。このガラスの結合材はジルコニア球より も低い温度で溶けるので、ジルコニア球は酸化アルミナのブラケットに 融合される。この融合過程でできるジルコニア球とブラケット・ベース の接合部はボンディング・レジンとの嵌合をもたらすアンダーカットを 作り出す(図8)。 温度 熱処理 1サイクルの期間 スターファイア インスパイア! 図6. 熱処理前後のブラケット・スロットを示す走 査電子顕微鏡写真。焼鈍し処理後は表面の傷が除 かれるのに加えて、平坦ではなかった角がスムー スになる。 図5. インスパイア!ブラケットの熱処理は以前のスターファイア・ブラケットよりも非 常に長く、かつ緩やかな加熱・冷却サイクルが施される。 2 ディボンディングを容易にしたボンディン グ・ベースの改良 過去、矯正医が犯していたと思われる間違いは、 ブラケットによって異なる特徴 図7. メカニカル・ボール・ベ ースを示す走査電子顕微鏡写 真。小さなジルコニア球が均 一に並び、ブラケット・ベー スに融合されている。 セラミック・ブラケットをメタル・ブラケットと同 じに扱ってしまったことであった。セラミックは硬 く、壊れやすい素材である。乱暴に扱うとブラケッ トの破折率を増してしまう。幸いなことに、今はス テンレス・スティールよりも弱い力をもたらすチタ ン合金ワイヤーがあり、セラミック・ブラケットに 優しく治療中を通じて使用することができる。あら ゆるセラミック・ブラケットにはナイタイ、カッパ ーナイタイ、TMAを使用することを私はお薦めする。 不透明な多結晶セラミックと異なり、インスパイ ア!ブラケットは水のように透明である。審美的に は喜ばしいが、ブラケット・スロットは見にくい。 硬く太いレクタンギュラー・ワイヤーを見えにくい スロットに入れようとすると、強すぎる力を加えて しまい、ブラケットにストレスを与えてしまう。チ タン合金ワイヤーを使用することで、このリスクを 避けることができる。 すべてのセラミック・ブラケットは酸化アルミナ でできており、ダイヤモンドに次ぐ硬度を持ち、エ ナメル質よりも遥かに硬い。セラミック・ブラケッ トを下顎歯列に装着すると対合歯のエナメル質を削 ってしまうことがある。このリスクを説明し、特に 通常の会話では下顎のブラケットはほとんど見えな いと言うと、ほとんどの患者は下顎にメタル・ブラ ケットを装着することを受け入れる。 図8. ボンディング・レジンが嵌 合するように、ジルコニア球と ブラケット・ベースが融合する 部分に形成されたアンダーカッ トを示す走査電子顕微鏡写真。 3 インスパイア!・ブラケットのタイウィング・エ リアはメタル・ブラケット(ミニダイヤモンド)と 同等に作られているので結紮は容易である。テフロ ン・コーテッド・ステンレス・リガチャーはステン レス・リガチャーよりも審美的であり、透明なエラ スティック・リガチャーで変色を経験した患者にと って受け入れやすいであろう。エラスティック・リ ガチャー(ポリウレタン製)はセラミック・ブラケ ットの結紮に最適だが、誰もが経験しているように、 食物によっては(特にマスタードやカレー)変色し てしまい、口腔衛生にも劣る。通常、患者に避ける べき食物を教え、口腔衛生を保たせることができれ ば、エラスティック・リガチャーの見栄えを次回の 来院まで維持することはできる。 硬いセラミック・ブラケットのディボンディング はメタル・ブラケットと異なる。プライヤーで掴み やすいメタル・ブラケットは容易に歪み、安全に外 傷なく撤去できる。化学的に結合するベースを持っ た初期のセラミック・ブラケットは、エナメル質を 破砕してしまい、ディボンディング中にブラケット が割れた。歴史が教えてくれたことはレジンとエナ メル質の境界面に過大なストレスを与えずに、ブラ ケット・ベースとボンディング材の間で剥がれるボ ンディング・ベースを作ることであった。その解決 策はメカニカル・ボール・ベース・デザインと特別 なディボンディング・プライヤーの開発であった。 メタル・ブラケットを掴むようにセラミック・ブ ラケットに近遠心から力を加えてしまうと砕けてし まい、しばしばセラミックのブラケット・ベースが 歯面に残ってしまう。この方法では面倒で時間のか かるディボンディング作業になってしまう。 インスパイア!のディボンディング方法として は、プラスティック製のディボンディング・プライ ヤーに着目した。これはブラケットが砕けること無 くブラケットとレジンの境目に加わるように力を緩 衝・分散させる。ディボンディングするには、切 端・咬合側と歯頸側のタイウィングの下にインスパ イア!プラスティック・ディボンディング・プライ ヤーの先端を差込み(図9)、プライヤーのハンドル をしっかり握る。ディボンディングするための力を 加える前にプライヤー・ハンドルの後端が互いに接 するようにしっかり力を加えることが重要である (図10)。プライヤーでブラケットをしっかり掴んだ まま、歯頸側もしくは咬合側へ一定した動きでブラ ケットがレジンから離れるまで軸回転させる。この プライヤーは1症例用として設計されているので、 使用後は廃棄する。 適切な手順で行えば、エナメル質上にレジン(お よびジルコニア球の一部)を残したまま、インスパ イア!ブラケットは一塊となって外れる。レジンと ジルコニア球はカーバイト・バーで除去することが でき、サンディング・ディスクとラバー・カップで ケース・スタディー 研磨する。この方法で私の患者が不快感を経験した ことはない。私のワイヤー・シークエンスでは通常 ブレーデッド・ステンレス・スティールのDレク ト・アーチワイヤーで仕上げている。このアーチワ イヤーだとディボンディング時に歯牙が動揺するこ とはほとんど無い。もしもディボンディング時に歯 が動いて痛がる場合は、患者にワックス・ウエハー もしくはコットン・ロールを噛ませると良い。 私達は皆、セラミック・ブラケットで試練と苦難 を経験してきた。そして過去から学んだ。インスパ イア!ブラケットはこれらの試練を乗り越え、非常 に機能的かつ審美的なブラケットとなったものであ る。 初診時 成人女性の上顎歯列にイン スパイア!ブラケット と.017x.025の35℃カッパー ナイタイ・アーチワイヤー を装着。 治療中 治療開始7ヶ月後 上顎歯列に.019x.025のTMA アーチワイヤーを装着した。 3ヶ月目には下顎にミニダイ ヤモンド・ブラケット と.018のナイタイ・アーチ ワイヤーを装着した。 治療開始14ヶ月後 最後の数ヶ月間、上下顎 に.021x.025ブレイデッド・ ステンレス・スティールのD レクト・アーチワイヤーを 使用した。総治療期間は15 ヶ月。 図9. ディボンディング・プライヤーの先端を切端・咬合側と歯 頸側のブラケット・タイウィング下に差し込む。 治療後 保定18ヶ月後。 図10. プライヤーのハンドルを後端が接触するまでしっかり握 る。 4 インスパイア! ご注文商品番号 部 位 トルク アンギュレーション ローテーション ブラケット・タイプ 上 顎 中切歯 側切歯 犬歯 犬歯−フック付 小臼歯 小臼歯−フック付 +12° +8° -2° -2° -7° -7° +5° +9° +13° +13° 0° 0° 0° 0° 4° 4° 2° 2° ツイン ツイン ツイン ツイン ツイン ツイン 下 顎 前歯 犬歯 犬歯−フック付 1症例キット 1症例キット 1症例キット 1症例キット 1症例キット 1症例キット -1° -11° -11° 0° +7° +7° 0° 2° 2° ツイン ツイン ツイン 上顎3-3、犬歯フック付 上顎5-5、犬歯フック付 上下顎3-3、犬歯フック付 上顎5-5/下顎3-3、犬歯フック付 上下顎3-3、犬歯フック無し 上顎5-5/下顎3-3、犬歯フック無し 商品番号 .018左 .018右 .022左 .022右 443-0111 443-0211 443-0311 443-1311 443-0511 443-1511 443-0110 443-0210 443-0310 443-1310 443-0510 443-1510 444-0111 444-0211 444-0311 444-1311 444-0511 444-1511 444-0110 444-0210 444-0310 444-1310 444-0510 444-1510 .018左 .018右 .022左 .022右 443-0011 443-0411 443-1411 左右共通 443-0410 443-1410 444-0011 444-0411 444-1411 左右共通 444-0410 444-1410 746-4300 746-4301 746-4302 746-4303 746-4304 746-4305 746-4400 746-4401 746-4402 746-4403 746-4404 746-4405 ※すべてのフックは遠心歯頸側に付いています。 スーパー・トルク&オプション 部 位 トルク アンギュレーション ローテーション ブラケット・タイプ 上 顎 中切歯 側切歯 犬歯−フック付 犬歯−フック付 +17° +10° -2° +3° +5° +9° +9° +9° 0° 0° 4° 4° ツイン ツイン ツイン ツイン 商品番号 .018左 .018右 .022左 .022右 443-0141 443-0241 443-1351 443-1341 443-0140 443-0240 443-1350 443-1340 444-0141 444-0241 444-1351 444-1341 444-0140 444-0240 444-1350 444-1340 各5個入(キット以外) ※すべてのフックは遠心歯頸側に付いています。 インスパイア ディボンディング インスツルメント インスパイア タイポドント 803-0205 717-1026 医療用具承認番号21200BZY00022000 インスパイアTMBブラケット オームコ ジャパン サイブロン・デンタル株式会社 〒113-0021 東京都文京区本駒込2-29-24 TEL 03-3945-0065 FAX 03-3947-0065
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