「環境エネルギー材料合成特論(3)」 - 名古屋工業大学

「環境エネルギー材料合成特論(3)」
~ 触媒調製:概要とケーススタディ ~
名古屋工業大学 大学院工学研究科 未来材料創成工学専攻
先進セラミックス研究センター
羽田政明
1
触媒の研究開発スキーム
Nagoya Institute of Technology
触媒基礎研究(触媒の性能改良)
触媒解析
実用化研究
触媒調製
ハニカム化
実ガス評価
触媒活性測定
2
固体触媒の機能を如何に制御するか
Nagoya Institute of Technology
表面は酸化物や水酸化物、炭酸塩の薄
い表面層を形成しているため、活性化処
理により表面を露出させてやる。
★ 炭化水素のC-C結合の切断はキンク
やステップなど配位不飽和度の高い
表面ほど活性。
★ H-HやC-H系都合の切断は表面構
造にはあまり依存しない。
触媒活性が金属表面の構造に依存し、
その依存性が反応によって異なる。
触媒表面には配位数の異なるサイトが存在する。ステップやコーナー、キンク、エッジなどに位置してい
る表面原子の配位数は少ないので、不飽和結合性が高く(表面エネルギーが高い)、反応性に富んでいる。
配位不飽和なサイトを表面に多く有する触媒の作製が必要
3
固体触媒の機能を如何に制御するか
Nagoya Institute of Technology
ナノ粒子化
稜(エッジ)
頂点(コーナー)
4
Nagoya Institute of Technology
固体触媒の機能を如何に制御するか
固体酸塩基特性
ブレンステッド(Brφnsted)酸・塩基
特定サイトにおいてプロトン(H+)の移動がともなっている
場合に定義される。
SH + A
S- + AH+
⇒ 表面の特定サイトSHは反応物質Aに対しH+を
供与: SHは酸点
SH + BH
SH2+ + B-
⇒ 反応物質BHからH+を受容: SHは塩基点
ルイス(Lewis)酸・塩基
特定サイトにおいて電子対の受容あるいは供与がある場
合に定義される。
⇒ 電子対を受け取るサイトはルイス酸点。供与す
るサイトがルイス塩基点。
触媒反応は吸着を経由して進行するため、触媒表面の状態
に強く依存する。したがって、酸塩基の種類、量、強度によっ
て触媒活性は大きく異なる。酸塩基特性を制御することで触
媒機能の制御が可能であると期待される。
酸塩基の種類、量、強度の評価が重要
5
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固体触媒の機能を如何に制御するか
酸化・還元性(Redox)
酸化反応において重要なファクターとなる。
酸化反応: (1) 酸素分子の解離吸着(触媒の酸化)
(2) 還元性物質(例えばプロピレン)の酸化(触媒の還元)
CO + xMO
r1
CO2 + xMO1-1/x ½ O2 + xMO1-1/x
r2
xMO
酸素分子は酸化物表面にすばやく
解離吸着するが、結合が強いため、
プロピレンの酸化反応が律速。
Redox機構と火山型活性序列
酸素の表面への吸着は弱いが、
プロピレンの酸化活性は高い。
酸素の解離吸着が律速。
プロピレン酸化活性とΔHfの関係
6
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固体触媒の機能を如何に制御するか
耐久性・長寿命
反応
触媒
寿命
触媒性能の劣化要因
アンモニア合成
Fe-Al2O3-K2O
5~10年
エチレンの酸化
Ag/Al2O3
1~4年
水蒸気改質
Ni/CaAlO3
2~4年
重油脱硫
Co-Mo-Al2O3
1年
自動車触媒
Pt, Rh, Pd/Al2O3
5~10年
①
②
③
④
⑤
毒物質による触媒活性点の被毒
炭素質の析出
活性成分の変質(化学変化、相変化)と散逸(揮散、溶出)
活性成分、担体のシンタリング
機械的・熱的破壊
触媒のシンタリング
粒子の焼結プロセス
担持された金属微粒子のシンタリング機構
・ 還元雰囲気下でのシンタリングの起こりやすさ(金属の融点が高いほど起こりにくい)
Ag < Cu < Au < Pd < Fe < Ni < Co < Pt < Rh < Ru < Ir < Os < Re
・ 酸化雰囲気下では酸化物の蒸気圧と関係があり、シンタリングのしにくさは
Os < Ru < Ir < Pt < Pd < Rh
対策:劣化の要因を明らかにし、それを取り除くことを考える。
固体触媒の調製法の分類とその特徴
7
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Ⅰ 金属塩、金属イオンの担持
含浸法(強制含浸法、ポアフィリング)、イオン交換法(担体のゼータ電位要考慮)、
沈殿法
Ⅱ 複合酸化物(前駆体)の合成
共ゲル混練法、共沈法(塩の加水分解、尿素沈殿法、逆ミセル法)、ゾルゲル法
(アルコキシドの加水分解)、錯体重合法(ヒドロキシカルボン酸などによるキレート
錯体形成)
Ⅲ 液相での結晶形成
水熱合成法(ゼオライト、メソ多孔体)、ゾルボサーマル法(有機溶媒中の塩分解、
結晶化)
Ⅳ 熱処理、活性化
酸化処理・焼成(前駆対の熱分解、結晶相の形成)、還元処理(気相還元、還元剤
を用いる液相還元)、窒化、炭化、硫化(酸化物、金属を原料として)
Ⅴ 触媒成型
押し出し成型、錠剤成型、流動床用微粉(spray-dry)、スラリー用微粉、ハニカム
(“触媒便覧”(触媒学会編)より引用) 8
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活性向上、選択率向上の基本概念と対応する触媒調製法
Ⅰ 活性向上
① 活性点の増加:微粒子化(構造鈍感反応)、表面積の大きな担体への担持
② 活性点電子状態の制御:ドーピング(助触媒効果)、SMSI、活性相の合成(合
金、所望の結晶相の形成)、バンドギャップの調整
(光触媒の窒化、炭化、硫化など)、粒子径制御(構
造敏感反応)、配位子設計(供与・逆供与調整)
③ 活性劣化の抑制:活性点減少の抑制(シングルサイト化、シンタリング防止)、
コーキング抑制(酸・塩基制御、拡散制御)
④ 反応条件の最適化:温度、圧力、基質組成、接触時間
Ⅱ 選択性向上
① 活性点電子構造の制御:活性向上の手法に準ずる
② 形状選択性の導入:ミクロ・メソ多孔体への活性点導入(基質・生成物サイズ、
遷移状態かさ高さ制御)、配位子設計(不斉配位子、円錐
角調整)
③ 副反応の抑制:副反応サイトのドーピング、疎水性制御による相分離(有機触
媒、相関移動触媒)、平衡制約の回避(反応蒸留、膜分離)
④ 反応条件の最適化:活性向上の手法に準ずる
(“触媒便覧”(触媒学会編)より引用) 9
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金属(酸化物)触媒の設計の体系
平衡転化率
反応熱
反応速度
反応機構
反応設計
触媒設計
活性・選択性・寿命
調製方法
○金属の選択
○担体の選択(配位子効果、二元機能)
○分散度(粒子径分布)の制御
○助触媒の添加
○合金化(二元系、多元系)
○手段、条件
構造因子
微視的
(表面)
巨視的
(バルク)
○電子論的
○幾何学的(原子配置)
○組成
○形状、寸法
○物性(熱伝導率、強度)
○細孔分布
(化学総説No.34“触媒設計”(日本化学会編)より引用) 10
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固体触媒の調製法
(1) 沈殿法: 金属塩の溶液(通常は水溶液)をアルカリで中和して沈殿(通常は水酸化物)やコロイドを生成さ
せる。沈殿を洗浄、乾燥後、適当な活性化処理をする。複合酸化物触媒は、複数の金属の沈殿を同時に沈殿さ
せるか(共沈法)、ゾルを同時にゲル化させると(ゾルゲル法)、均質な触媒が得やすい。沈殿生成時の濃度、中
和速度、pH、熟成時間、撹拌法などが生成する触媒の物性に影響する。
(2) 含浸法: 担体(適当な表面積、酸塩基性をもつ酸化物など)を金属塩溶液に浸した後乾燥し、触媒有効
成分を担体表面に分散固定する方法。吸着法、ポアフィリング法、最小湿潤法、蒸発乾固法などがある。溶液の
濃度、液量、乾燥速度、塩の種類、共存成分が分散担持状態に著しい影響を与える。
(3) イオン交換法: 担体表面のイオン交換能を利用して、活性成分イオンを含む溶液に担体を浸し、イオン交
換により活性成分を担体表面に固定化する方法。分散状態が均質になりやすいが、担持量はイオン交換容量
の制約を受ける。担持後、適当な洗浄を施してから乾燥する。
(4) 混練法: 担体と活性成分ゲルの混合スラリー、あるいは複数の活性成分ゲルのスラリーを練り合わせた後
、乾燥させる方法。
(5) 気相合成法: 気体分子どうしの気相反応により触媒を調製する方法。超微粒子のSiO2、TiO2などが
MClx+H2O→MOyの反応で合成される。
(6) 溶融法: アンモニア合成用鉄触媒やラネー金属が溶融法でつくられる。ラネーニッケルはNiとAlの比がほ
ぼ1:1の合金からAlをNaOH水溶液で溶出し、残ったNi骨格を触媒として用いる。
(7) その他: 水熱合成法、気相析出(CVD)法、噴霧乾燥法、均一沈殿法、逆ミセル法、金属コロイド法などが
ある。
(1) 比表面積の拡大、(2) 熱的安定性、(3) 機械的安定性、(4) 希釈効果(反応熱の除去・低減)、(5) 担体効果(担
体との強い相互作用により活性、選択性が変化する)、(6) 形状選択性(細孔の制御)、(7) 二元触媒作用(担体自
身の触媒作用が主触媒に協力的に働く)を狙って触媒調製方法を選択する。
11
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金属酸化物の調製:沈殿法
【溶液中での核生成と沈殿の生成】
Ì水溶液反応によって生成する反応生成物にとって過飽和状態にあると沈殿が起こる。
Ì一般に、水溶液中の金属イオン(Mn+)はpHを上げるとM(OH)nの形で沈殿する。
Ì沈殿の生成速度は相対過飽和度比 (C-Ce)/Ce (C:沈殿が起こる前の沈殿成分イオンの濃度、
Ce:溶解度)。この比が大きいほど多数の核が発生して、沈殿粒子のサイズが小さくなる傾向がある。
“溶液濃度を高くする”、“溶液温度を低くする”、“核の成長を遅くするため撹拌を速くし、熟成時間を短
くする”ことにより微粒子が得られる。
過溶解度曲線を越える濃度になると沈殿が開始する見
掛けの溶解度曲線で熱力学的な意味はない。
溶解平衡温度
溶解度曲線上にある状態Aを平衡温度Teから温度Tに冷
却した溶解状態Bでは、過冷却度ΔT(Te-T)および過飽
和量ΔC(C-Ce)の状態となる。
平衡状態と過飽和状態の自由エネルギーの差
ΔG = -RT ln(σ) = -RT ln(1+σ’) < 0
(σ = C/Ce:過飽和比、σ’ = ΔC/Ce:過飽和度)
(σ’ = ΔC/Ce = (C-Ce)/Ce = σ - 1)
12
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金属酸化物の調製:沈殿法
M(OH)nの水中での平衡関係:
M(OH)n = Mn+ + nOH-
H2O = H+ + OH-
KSP = [Mn+] [OH-]n
KW = [H+] [OH-] = 10-14
pX = -log[X]の関係を用いると、
pMn+ = (pKSP - n·pKW) + n·pH
KSP:溶解度積(過飽和溶液中における陽イオン濃度と
陰イオン濃度の積)
KW:水の溶解度積
(1) Ca2+=0.01mol/dm3の水溶液において、Ca(OH)2の沈殿が生成し始めるpHは?Ca(OH)2のKSPは5.5×10-6。
pMn+ = (pKSP - n·pKW) + n·pH
-log 0.01 = (-log (5.5×10-6) + 2 × (-log (1×10-14))) + 2 × pH
2 = (5.26 - 2×14) + 2×pH → pH = 12.4
(2) pH13およびpH14では何%のCa2+が沈殿するか?
pH13でのCa2+の平衡濃度: pMn+ = (5.26 - 2×14) + 2×13 = 3.26 --- Ca2+ = 5.5×10-4mol/dm3
(0.01-5.5×10-4)/0.01×100 = 94.5%
pH14でのCa2+の平衡濃度: pMn+ = (5.26 - 2×14) + 2×14 = 5.26 --- Ca2+ = 5.5×10-6mol/dm3
(0.01-5.5×10-6)/0.01×100 = 99.9%
複合酸化物の調製:共沈法
13
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共沈法の場合、金属イオンの種類により溶解度が異なる
ため、不均一な沈殿が生成する。ただし、多くの場合、最
初に沈殿する水酸化物の粒子を核として、もう一方の沈
殿生成濃度に達していない水酸化物も不均一核生成に
より沈殿する。沈殿が生成するpHの差が2以内であれば
起こる。
均一沈殿法
・ 通常の沈殿法の沈殿剤
アルカリ、炭酸塩、アンモニア等
・ 均一沈殿法:徐々にpHが上昇する物質を使う
例えば、尿素やエステル類
(NH2)2CO + H2O → 2NH4OH + CO2
⇒ 70℃以上、特に90℃以上で進行
⇒ 水酸化物、塩基性塩、リン酸塩、硫酸塩、
炭酸塩などの塩基性で溶解度の低くなる
物質の均一沈殿が可能
RCOOR’ + H2O → RCOOH + R’OH
⇒ シュウ酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、コハク酸塩
などの各種金属塩の均一沈殿が可能
14
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金属酸化物の調製:ゾルゲル法
機能性ガラスや低温セラミックスの合成に古くから適用されている方法。
しかし、触媒調製としては歴史は浅く、1980年代以降、研究されてきた。
金属の有機および無機化合物の溶液から出発し、溶液中での化合物の加水分解・重合によって
溶液を金属酸化物または水酸化物の微粒子が溶解したゾルとし、さらに反応を進ませてゲル化
し、できた多孔質のゲルを加熱して非晶質、ガラス、多結晶体をつくる。
(“ゾルゲル法の科学”(作花済夫著)より引用) 15
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金属酸化物の調製:ゾルゲル法
nSi(C2H5O)4 + 4nH2O
nSi(OH)4 + 4C2H5OH
nSi(OH)4
n(-O-Si-O-) + 2nH2O
粘度の増加は加水分解温度により異な
り、温度が高いほど早くゲル化する。
温度やpH、水の添加量などを制御するこ
とで性質の異なるゲル生成が期待
(“ゾルゲル法の科学”(作花済夫著)より引用) 16
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金属の担持:含浸法
金属化合物
水
水溶液
(含浸液)
担体
撹拌
平衡吸着法
アニオンを吸着
(pH5)
H2PtCl6
2H+ + [PtCl6]22Al-O-H + H2PtCl6
(Al-OH2)2[PtCl6]
蒸発乾固法
ろ過
蒸留
洗浄
乾燥
乾燥
焼成
焼成
カチオンの交換
[Pt(NH3)4]2+ + 2Cl[Pt(NH3)4]Cl2
2Si-O-H + [Pt(NH3)4]Cl2
(Si-O)2[Pt(NH3)4] + 2HCl
17
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金属の担持:含浸法
「ぬれ」現象を利用した触媒調製法
金属含有溶液
ぬれ ・・・・・ 固体面への液体の吸着現象
ぬれやすさ ・・・・・ 液体分子と固体表面の相互作用の程度
ぬれの評価 ・・・・・ 固体表面におかれた液滴との角度(接触角)を測る
(a) θ = 0 (接触角)
(拡張ぬれ:spreading wetting)
液体は固体表面全体に広がり、
表面をぬらす。
(b) 0 < θ < 90°
(浸漬ぬれ:immersional wetting)
液体は限られた領域の中で広が
り、ある程度表面をぬらす。
(c) 90° < θ < 180°
(付着ぬれ:adhesional wetting)
液体は固体表面に広がらず、で
きるだけ接触面積を減らすように
小さな球になる傾向
(d) θ = 180°
ぬれは全くなし
18
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金属の担持:含浸法
「初期過程」
半径rの円筒形キャピラリーにおけるキャピラリー圧ΔPはThomas-Youngの式
ΔP = 2 γ cos θ / r (γ:表面張力、θ:接触角)
時間tにおけるキャピラリー長lの関係から、
l2/t = γ/η・(r cos θ)/2 ・・・・・ ぬれ性評価
t = 2 l2 η / (γ r cos θ)
(純水の表面張力:0.07275 N/m、純水の粘性係数:0.0010 Pa sec、θ = 0とする)
直径10nmの細孔に0.5cmまで浸透するときの圧力(ΔP)と時間(t)は、ΔP = 2.91 × 107 Pa (287 atm)、t = 137sec
直径20nmの細孔に0.5cmまで浸透するときの圧力(ΔP)と時間(t)は、ΔP = 1.46 × 107 Pa (144 atm)、t = 68sec
「拡散含浸過程」
初期過程では溶媒の侵入する圧力は高く、また侵入していく速度は
比較的速いことがわかる。しかし、溶液中成分の担体壁への吸着が
速いと成分は担体の細孔入口付近に吸着し、内部への成分の拡散
が極めて重要になる。
(これを回避するための方法として、競争吸着剤を共存させ、見かけ上の吸着を
弱くする方法などが用いられる。 )
例えば、Al2O3にH2PtCl6を担持する場合、[PtCl6]2-の吸着が強い
ため、目的成分の半分が吸着する時間(half sorption time)は20~
30時間になる。
「乾燥過程」
(1) 液体の蒸発、(2) 液体および蒸気の移動、(3) 熱の移動から成り立つ。蒸発にともない成分の再分配
が起こるが、担体粒子外部か内部に濃縮されるかは細孔構造に依存する。基本的には乾燥時の制御は困
難であるが、このような現象をできるだけ回避する方法として凍結乾燥法や超臨界乾燥法などがある。
19
ミクロ多孔体(ゼオライト)の合成
Nagoya Institute of Technology
((社)日本セラミックス協会(編) 触媒材料より作成)20
メソポーラス材料の合成
Nagoya Institute of Technology
(岩波講座 現代化学への入門14 「表面科学・触媒科学への展開」より)
21
Nagoya Institute of Technology
~ 触媒調製と触媒活性について ~
22
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NO直接分解
2NO → N2 + O2
• 最も理想的なNOx除去触媒技術
– 還元剤不要(省エネ) →すべての排出源に適用可能
• これまでに報告されている触媒
– 担持貴金属(Pt、Pd等)
– 金属酸化物(Co3O4等)、ペロブスカイト
– ゼオライト(Cu-ZSM-5等)
• 実用的な活性を示す触媒はない
– 共存酸素による反応阻害が顕著
– 実用触媒開発のブレークスルーが必要
23
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各種触媒のNO直接分解活性
Co3O4
20世紀初頭:PtやIrなどの貴金属触媒が発見
Cu-ZSM-5
Pt/Al2O3
Ag-Co3O4
LaCoO3
~1989年:貴金属・金属酸化物・ペロブスカイト
1989年:Cu-ZSM-5が発見
→ 今なお最も高活性な触媒である
~現在:Cu-ZSM-5の改良研究
問題点
① 低温活性を示す触媒がない。
② 酸素による活性阻害効果。
これまでに報告された各種触媒のNO直接分解活性
条件:NO=2%, W/F=2 gscm-3 (SV ~1000h-1)
浜田、物質研報告書、vol.5 (2), 39 (1997)
24
Nagoya Institute of Technology
酸化物触媒のNO直接分解活性の比較
遷移金属酸化物上での種々の触媒反応の活性比較
18O
2
exchange
log W
H2 oxidation
遷移金属酸化物のNO分解活性
Co3O4 > Fe3O4 = CuO = NiO
CH4 oxidation
NO decomposition
本当にCo3O4はNO分解反応に活性なのか?
TiO2
V2O5 MnO2 Cr2O3 Fe3O4 Co3O4 NiO
CuO
Co3O4の活性をさらに向上できないか
ZnO
(J.W. Hightower, D.A. Van Leirsburg,
“The Catalytic Chemistry of Nitrogen Oxides”, 1975, p.63)
25
Nagoya Institute of Technology
酸化コバルト触媒の調製条件の影響
NO分解活性に対する沈殿剤の効果
60
(NO=1000ppm, W/F=0.2gscm-3)
600℃
( ):BET表面積(m2/g)
NO conversion to N2 / %
NO分解活性に対する洗浄回数の影響
(NO=1000ppm, W/F=1.0gscm-3)
50
40
Na2CO3
(26)
30
20
10
0
425450
(COOH)2 urea
(14)
(10)
500
550
(NH4)2CO3 NH3
(9.0)
(6.2)
600
using Na2CO3
650
700
Temperature / °C
触媒中に残存するNaイオンがNO分解反応に何らかの作用を及ぼしている
26
酸化コバルト触媒の調製条件の影響
Nagoya Institute of Technology
沈殿剤に関係なく結晶構造は同じ(Co3O4)
触媒活性は結晶構造には依存しない!
Intensity / a.u.
Urea
NH3
Na2CO3
10
20
30
40
50
2θ / °
27
酸化コバルトへのアルカリ添加効果
80
(NO=1000ppm, W/F=0.5gscm-3)
M/Co=0.035
70
NO conversion to N2 / %
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K/Co3O4
Rb/Co3O4
全てのアルカリについて添加効果あり
60
50
Na/Co3O4
しかし、“Li”については効果が小さい
40
30
Cs/Co3O4
20
Co3O4
10
0
425450
500
550
添加効果
K > Rb > Na > Cs >> Li
Li/Co3O4
600
650
700
Temperature / °C
28
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M/Co3O4(M/Co=0.035)のXRDパターン
z: Co3O4 U: β-Na0.6CoO2
z
z
z
Intensity / a.u.
z
z
U
z
z
Cs/Co3O4
z
Rb/Co3O4
z
z
z
z
z
K/Co3O4
z
z
z
Na/Co3O4
z
Li/Co3O4
z
Co3O4
10
20
30
40
50
2θ / degree
29
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酸化コバルトへのアルカリ土類添加効果
アルカリ土類添加酸化コバルト触媒のNO分解活性
アルカリ添加量に対する活性と塩基点の関係
(NO=1000ppm, W/F=1.0gscm-3)
M/Co=1/60
(NO=1000ppm, W/F=1.0gscm-3)
600℃
( ):BET比表面積
Ba/Co3O4
(30)
Sr/Co3O4
(30)
Co3O4
(9.3)
Mg/Co3O4
(12)
Ca/Co3O4
(21)
Co3O4へのアルカリ土類添加(Mg以外)により活性は向上
“NO分解活性”と“塩基点の数”の間にはよい相関性が見られた
Sr/Co3O4
アルカリ土類酸化物がNO分解反応の
活性点として関与(?)
30
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担持ストロンチウム触媒の担体効果
担持ストロンチウム触媒の担体の効果
(NO=1000ppm, W/F=1.0gscm-3)
Sr=10.9%
Co3O4以外に、CeO2、MgO、Sm2O3に担持した場合に
NO分解反応が進行
( ):BET比表面積
Sr/Co3O4
(30)
Sr/MgO
(10)
Sr/CeO2
(32)
Sr/Fe2O3
(30)
不定比構造をとらない酸化物
従来から報告されている“Redox機構”でNO分解反
応機構を説明できない
Sr/Sm2O3
(13)
Sr/Al2O3 (190)
31
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アルカリ(K)添加量の影響
NO conversion to N2 / %
70
NO conversion at 600°C
60
50
60
7
・ 最適添加量の存在
50
6
・ アルカリ添加により
表面積が増大
40
surface area
40
30
30
rate constant at 600°C
20
20
1次反応を仮定して算出
k = -ln(1-X) × (W/F)
10
10
0
0
0
0.02
0.04
0.06
0.08
5
4
3
2
1
0
rate constant / cm3m-2min-1
K/Co3O4
BET surface area / m2g-1
(NO=1000ppm, W/F=0.5gscm-3)
80
・ 表面積あたりの活性
も増大
アルカリは活性点の増大
だけでなく、Co3O4の触媒
特性にも影響を及ぼす
触媒活性点の変化?
0.1
K/Co atomic ratio
32
炭化水素類によるNO選択還元
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NO + CxHy(Oz) + O2 → N2 + H2O + CO2
• 1985以前
– 「酸素雰囲気下でNOを選択還元できるのはNH3のみ」
• 1980年代後半
– 特許出願(Volkswagen、トヨタ)
• 1990(本反応を学術的に確認)
– 金属イオン交換ゼオライト触媒(岩本ら、Heldら)
– プロトン型ゼオライト触媒(浜田ら、物質研)
– アルミナ等酸化物系触媒(浜田ら、物質研)
• 1993
– 担持貴金属触媒
33
触媒研究の方向性について
Nagoya Institute of Technology
物質研入所後に所属した研究グループでは、アルミナ等の金属酸化物やプロ
トン型ゼオライト等、酸塩基特性を有する触媒が炭化水素によるNO選択還元
に活性を示すことを既に発見
金属複合酸化物に着目
・ 単独酸化物と比較して高比表面積化が可能
⇒ 活性金属の担体として利用
・ 均一な複合酸化物とすることで、複数の活性点の相乗効果により
新規な触媒機能の発現が期待
ゾルゲル法による触媒調製の検討
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ゾルゲル法によるGa2O3-Al2O3の調製
H2O (90°C)
Al(OC3H7)3
Stirring at 90°C for 2 h
HNO3
Formation of clear sol (pH 2-3)
Ga(NO3)3 in ethylene glycol
Aluminium boehmite sol (AlOOH)
Length: 80 - 100nm
Thickness: 10nm
Stirring at 90°C for 2h
Stirring at room temperature overnight
Drying under reduced pressure
Drying at 110°C for 3 days
100nm
TEM photograph of clear sol
Calcination at 600°C for 5h in flowing air
Ga2O3-Al2O3
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本研究で検討したゾルゲル法の特徴
通常のゾルゲル法
アルコキシドの加水分解による
3次元ネットワークの形成
本研究で検討したゾルゲル法
小繊維状のアルミナ表面に
活性金属種を高分散する
拡大
100nm
アルミナ
• 活性金属種が原子状で高分散
• 粉末の内部に存在し、反応に
関与しない金属が多い
• 全ての触媒種が反応に関与
できる
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ゾルゲル法調製Ga2O3-Al2O3のNO還元活性(1)
水蒸気非共存下
80
ゾルゲル法調製
30% Ga2O3-Al2O3
Al2O3
60
含浸法調製
30% Ga2O3/Al2O3
40
20
Ga2O3
0
200
300
400
500
10%水蒸気共存下
100
NO conversion to N2+N2O / %
NO conversion to N2+N2O / %
100
600
ゾルゲル法調製
30% Ga2O3-Al2O3
80
60
Al2O3
含浸法調製
30% Ga2O3/Al2O3
40
20
Ga2O3
0
200
300
400
500
600
Temperature / °C
Temperature / °C
水蒸気の共存・非共存に関係なく、ゾルゲル法で調製したGa2O3-Al2O3が高いNO還元活性を示した
NO=1000ppm, C3H6=1000ppm, O2=10%, H2O=0 or 10%, W/F=0.2gscm-3
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ゾルゲル法調製Ga2O3-Al2O3のNO還元活性(2)
(NO-O2-C3H6-SO2-H2O/He)
100
add 90ppm SO2
NO conversion to N2 / %
Nagoya Institute of Technology
remove SO2
NO to N2
80
60
C3H6 to COx
40
SO2により活性向上
⇒ SO2による反応促進効果
20
0
0
10
20
30
Time on stream / h
40
50
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Ga2O3-Al2O3のTEM観察
10nm
20nm
ゾルゲル法調製Ga2O3-Al2O3
含浸法調製Ga2O3/Al2O3
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ゾルゲル法調製Ga2O3-Al2O3の構造同定
XRD
EXAFS
Ga-Ga or
Ga-Al
ゾルゲル法調製触媒では
ピークが低角度側にシフト
18
20
30
40
50
2θ / °
60
70
Ga2O3
| FT |
Intensity
ゾルゲル法
70%GaAl
ゾルゲル法
50%GaAl
ゾルゲル法
30%GaAl
含浸法GaAl
Al2O3
Ga-O
Ga2O3とは異なるスペクトル
(第1近接ピークと第2近接
ピークの強度比が異なる)
ゾルゲル法
30%GaAl
ゾルゲル法
50%GaAl
ゾルゲル法
70%GaAl
0
1
2
3 4 5 6
Distance / Å
7
8
9
Ga-Al固溶体の形成を推察
[GaxAl(1-x)]2O3 (x < 1)
40