こちら - 日本左官業組合連合会

11_壁土の材料試験 10.9.8 5:50 PM ページ 11
日左連と横浜国大大学院工学研究院・中尾方人特別研究教員と
共同研究発表
各地の日左連会員の協力により中塗り土29種類の土を使用
壁土の材料試験に基づく土塗り壁の最大せん断応力度の変動幅の推定
ESTIMATION OF RANGE OF MAXIMUM SHEAR STRESS ON MUD-PLASTERED WALL
BASED ON MATERIAL TESTING OF MUD
中尾 方人*,山崎 裕** Masato NAKAO and Yutaka YAMAZAKI
In this study, estimation of maximum shear stress of mud-plastered wall based on material testing of
Nakanuri mud was conducted. Firstly, the range of material strength of Nakanuri mud was investigated
from the material testing of 29 kinds of Nakanuri mud all over Japan. Secondly, mud-plastered wall
specimens using three Nakanuri muds chosen among the 29 kinds of Nakanuri mud were constructed.
From the test results of the shear loading tests of the wall specimens, the relationship between the
compressive strength of Nakanuri mud and the maximum shear stress of Nakanuri-layer of the wall
specimen was evaluated. Finally, comparison between maximum shear stresses calculated from other
test results of various mud-plastered walls and the shear stresses from this test results was conducted.
Keywords : Mud-plastered wall, Maximum shear stress, Mud, Material testing, Compressive strength
土塗り壁,最大せん断応力度,壁土,材料試験,圧縮強度
1.はじめに
土塗り壁は、基本的にその地域の自然
の材料を用いて、その地域に伝わる工法
でつくられる。伝統的構法の建築物など
では、土塗り壁が主なせん断抵抗要素で
あることが少なくないため、確率論的に
安全性を担保するには、土塗り壁に使用
される材料の強度や土塗り壁自体の構造
性能について、平均値や変動係数といっ
た値を把握しておくことは重要である
が、非常に困難であると考えられる。
本研究では、
壁土の材料試験に基づき、
各地の土塗り壁の最大せん断応力度の変
動幅の推定を行った。まず、各地で実際
に使用されている壁土を収集して材料試
験を行い、各種強度の分布や互いの相関
を評価した。次に、強度特性が異なる
3種類の壁土で土塗り壁試験体を製作し、
せん断加力実験を行った。最後に、これ
らの結果から、各地の壁土の圧縮強度と
土塗り壁の最大せん断応力度との関係の
評価および既往の実験結果との比較を行
った。土塗り壁のせん断抵抗性能を表す
指標として最大せん断応力度に着目した
のは、壁土の強度との関係が直接現れる
と考えられるためである。
(本論文は文献8)
,17)をとりまとめ,加筆したものである。)
* 横浜国立大学大学院工学研究院 特別研究教員・博士(工学)
Research Assoc., Faculty of Engineering, Yokohama National University, Dr. Eng.
**
建築研究振興協会 会長・工博(元横浜国立大学大学院工学研究院 教授)
President, Japan Association for Building Research Promotion, Dr. Eng.
(Former Prof., Faculty of Engineering, Yokohama National University)
11
11_壁土の材料試験 10.9.8 5:50 PM ページ 12
■壁土の材料試験■
2.各地の壁土の材料試験
(材料試験①)
100mmの円柱供試体で割裂引張試験を
行った。各材料強度試験の方法を図1に
示す。加力速度は、概ね、1分間で最大
耐力に達するよう、曲げ試験では
0.3mm/分、圧縮およびせん断試験では
1.0mm/分、割裂引張試験では0.5mm/分
とした。供試体数は各5体を標準とし、
壁土が足りなかったり、乾燥中にひび割
れが生じて試験が不可能になったものな
どを除く540体について材料強度試験を
行った。
2.1 材料試験①の概要
筆者らが検討の対象にした工法の土塗
り壁では、中塗り仕上げの土塗り壁に作
用するせん断力の大部分は、中付けおよ
び中塗り層で負担されることが分かって
いる4)。これは、本工法の土塗り壁では、
荒壁層の厚さが30mm程度以下と比較的
小さく、また、荒壁土の圧縮強度や剛性
が中付けおよび中塗り土よりも低いため
である。
そこで、土塗り壁の最大せん断応力度
2.2 乾燥前の壁土の材料試験結果
に大きな影響を及ぼすのは中塗り土の強
29種類の壁土の密度(乾燥前、
乾燥後)、
度であると考え、(社)
日本左官業組合連
含水比(水分量(g)/絶乾の壁土(g))、
合会を通じて、土塗り壁の施工を行って
フロー値(JIS R 5201)および粘土率
いる左官職の方々に中塗り土の提供をお
願いし、各地から29種類の中塗り土を収 (本論においては粒径0.075mm以下の土
集した。地域の内訳は、東北8、関東4、 粒子(g)/全土粒子(g)と定義した)を、
甲信越3、東海1、近畿2、中国・四国5、 表1に示す。フロー値の平均値は139mm
で変動係数(標準偏差/平均値)は0.036
九州6である。中塗り土をご提供いただ
と小さく、浦らの報告(135mm±10mm、
く際には、採取した土に砂やスサなどを
スサ混入時)9)ともほぼ同じ範囲である。
混ぜ合わせ、水分量も調整し、“すぐ塗
また、これらの値について互いの関係性
れる状態の中塗り土”を作成してお送り
をみるため、相関係数を表2のとおり計
いただくようお願いした。実験室に到着
算した。フロー値と粘土率は、いずれの
した中塗り土にはほとんど水漏れはな
特性値とも相関係数は小さく、それぞれ
く、到着後1∼2日のうちにフロー値や密
は独立した値であると考えられる。
度、粒度分布を測定した後、型枠に詰め
て、自然に乾燥させた。この材料試験を
表1 中塗り土の特性値
後述の第3章での材料試験と区別して、
密度
「材料試験①」と称する。
含水比 フロー 値 粘土率
3
9)
)
(g/cm
材料強度試験の方法は、浦らの研究
乾燥前 乾燥後 (%) (mm) (%)
を参考に、JIS R 5201「セメントの物理
平均値
1.83
1.59
32.1
139
29.3
変動係数 0.045
0.074
0.172
0.036
0.172
試験方法」に準じて、まず、40mm×
40mm×160mmの角柱供試体で3点曲げ
表2 中塗り土の特性値間の相関係数
試験を行い、その切片の片方について圧
密度
含水比 フロー 値 粘土率
(乾燥後)
縮試験を行った。さらに、別の角柱供試
密度(乾燥前) 0.945
-0.922
-0.201
0.012
体にて2面せん断試験を、そして、紙管
密度(乾燥後)
-0.922
-0.201
0.012
含水比
0.210
0.189
を型枠として製作した直径50mm、高さ
フロー値
-
12
-
-
-0.164
11_壁土の材料試験 10.9.8 5:50 PM ページ 13
■壁土の材料試験■
強度
(N/mm 2)
1.5
圧縮
1.0
曲げ
0.5
引張 せん断
0.0
A
図3
B
産地
C
3種類の中塗り土の強度
桁
中付け+中塗り
680
荒壁
柱
685
小舞竹
2730
間渡竹
縦貫
685
3.1 土塗り壁試験体のせん断加力実験
の概要
前章の「材料試験①」での29種類の中
塗り土のうち、強度特性が異なる3種類
(産地A, B, Cと称する)を選定し、同じ
材料(土、砂、スサ)および調合で壁長
が2P(1820mm)と1P(910mm)の土
塗り試験体を製作し、静的せん断加力実
験を行った。3種類の中塗り土の「材料
強度試験①」
(第2章)における結果を図
3に示す。各強度の大小関係は、いずれ
も産地A<産地B<産地Cである。なお、
産地Aは関東地方、産地Bは東海地方、
産地Cは中国地方であり、産地の偏りは
ないよう配慮した。
図4は土塗り壁試験体図、表5は一覧で
ある。3種類の壁土に対して壁長が2Pと
1Pの試験体が1体ずつの計6体である。
荒壁土には全試験体で荒木田土を用い、
厚さは30mm程度である。荒壁の乾燥後、
中付けに次いで中塗りを行った。中付け
土と中塗り土では、土や砂等の配合比は
若干異なるが、材料強度試験の結果はほ
ぼ同じであったので、中付け土は中塗り
土と同じとみなすことができる。各層の乾
燥後に行った実測によると、中付け層と
中塗り層の厚さの合計は、表側と裏側と
1820
単位:mm
横貫
土台
680
3.3種類の中塗り土を用いた土塗り
壁試験体のせん断加力実験
軸組および小舞下地
桁 : ベイマツ(180mm × 105mm)
柱 : スギ(105mm ×105mm)
貫 : スギ(105mm×15mm)
土台 :(135mm×105mm)
図4
拡大断面図
間渡 し: 丸竹(φ12mm 程度 )
小舞 : 割竹(幅20mm程度)
柱 − 桁( 土台 )接合部 : 短 ほぞ 差 し
壁長が2P(1820mm)の土塗り壁試験体
表5
試験
体名
I-1
I-2
I-3
I-4
I-5
I-6
土塗り壁試験体の一覧
壁長
荒壁土
2P
荒木田土
1P
中塗り土
の産地
A
B
C
A
B
C
で計25mm程度であった。水平力の載荷
の際、柱と横架材との接合部は金物で補
強せず、桁の鉛直上向きの変位を拘束す
るタイロッド式と同等の加力方法とした。
3.2 土塗り壁試験体に施工した中塗り
土の材料試験(材料試験②)
土塗り壁試験体に施工した中付けおよ
び中塗り土の材料強度試験結果を図5に
示す。各値とも5体の供試体の平均値で
ある。この材料試験を「材料試験②」と
称する。前章で示した「材料試験①」の
結果も同図内に示した。土塗り壁試験体
に施工した産地B、産地Cの中塗り土に
ついては、「材料試験①」の結果と概ね
同じである。しかし、産地Aの壁土の各
13
11_壁土の材料試験 10.9.8 5:50 PM ページ 14
■壁土の材料試験■
強度は「材料試験①」での結果の2倍以
上であり、産地Cの強度に近くなった。
これは、図6に示すように、フロー値や
粘土率に大きな差はなかったにも関わら
ず、乾燥前の含水比が30%程度低く、密
度が2割程度高かったことに関係してい
ると思われるが、それ以上の原因は明ら
かになっていない。
験体の荷重−変形曲線を示す。壁長が
2Pの試験体では、壁土のロッキングに
よる隅角部の圧壊の後、せん断ひび割れ
が生じ、1/100rad.で最大せん断耐力と
なった。その後、荒壁より上の中付けお
よび中塗り層が全体的に面外に浮上り、
耐力が低下した。1/50rad.付近に達する
と、中付けおよび中塗り層が荒壁層と接
着しているのは、中央部のみであり、実
際の地震における振動状態においては、
すぐに落下してしまうような状態であっ
た。壁長が1Pの試験体では、壁土のロッ
0.0
第2章
第3章
材料試験①
材料試験②
-20
-15
-10
50
40
40
産地A
産地B
産地C
0.05
0.00
10
8
I-2(産地B,2P)
6
4
2
0
-2
-5
0
5
10
15
20 -20 -15 -10
-4
変形角(×1/1000rad.)
-6
-8
-10
10
2
0
10 15 20 25 30 35 -35 -30 -25 -20 -15 -10 -5
-1
-2
産地 A
産地 B
産地 C
10
0
第2章
材料試験①
第3章
材料試験②
10
8
6
4
2
0
-5 -2 0
-4
-6
-8
-10
5
10
15
20
変形角(×1/1000rad.)
4
I-6(産地C,1P)
3
0
変形角(×1/1000rad.)
20
中塗り土の特性値の比較
10
8
I-3(産地C,2P)
6
4
2
0
-5 -2 0
5
10
15
20 -20 -15 -10
-4
変形角(×1/1000rad.)
-6
-8
-10
1
5
30
第2章
第3章
材料試験①
材料試験②
1
3
2
1
0
0
5
10 15 20 25 30 35 -35 -30 -25 -20 -15 -10 -5
変形角(×1/1000rad.)
-1
-2
-3
-3
-3
-4
-4
-4
図7
14
産地A
産地B
産地C
図6
荷重(kN)
荷重(kN)
2
-2
20
4
I-5(産地B,1P)
3
-1
30
0
材料試験①
材料試験②
第2章
第3章
中塗り土の材料強度の比較
-35 -30 -25 -20 -15 -10 -5 0
フロー (mm)
50
4
I-4(産地A,1P)
第2章
第3章
材料試験①
材料試験②
0.15
荷重(kN)
I-1(産地A,2P)
0
0.20
0.10
産地 A
産地 B
産地 C
50
第2章
第3章
材料試験①
材料試験②
荷重(kN)
図5
100
粘土率 (%)
0.5
引張強度(N/mm2 )
圧縮強度(N/mm2 )
産地A
産地B
産地C
産地A
産地B
産地C
0.5
材料試験①
材料試験②
第2章
第3章
2.0
1.0
1.0
0.0
0.0
材料試験①
材料試験②
第2章
第3章
1.5
産地A
産地B
産地C
0.2
0.1
150
荷重(kN)
0.1
0.0
0.3
200
1.5
荷重(kN)
産地A
産地B
産地C
2.0
0.5
0.4
乾燥後の密度
0.4
0.3
0.2
0.6
含水比 (%)
0.6
0.5
せん 断強度(N/mm 2 )
曲げ強度(N/mm 2 )
3.3 土塗り壁試験体のせん断加力実験
の結果
図7に3種類の壁土の2P試験体と1P試
土塗り壁試験体の荷重−変形関係
0
5
10 15 20 25 30 35
変形角(×1/1000rad.)
11_壁土の材料試験 10.9.8 5:50 PM ページ 15
■壁土の材料試験■
キングにより隅角部での圧壊が生じた後、
せん断ひび割れはみられず、1/75rad∼
1/50rad.で最大せん断耐力に達し、2P試
験体と同様に、中付けおよび中塗り層が
全体的に荒壁層から浮上った。
図8に正側加力の各ピーク時における、
中付けおよび中塗り層のせん断応力度の
推移を示す。本実験の試験体では、荒壁
層での負担せん断力は小さいので、土塗
り壁に作用するせん断力は主に中付けお
よび中塗り層で負担されている。中付け
および中塗り層のせん断応力度は、各試
験体の耐力から、軸組および荒壁層の負
担せん断力を差し引いて求めた。軸組の
みの試験体によるせん断加力実験は別途
行っており、また、荒壁層の負担せん断
力は、筆者らの行った荒壁仕上げの試験
体5)の耐力から、その仕様と同じ軸組の
みの試験体の耐力を差し引いて求めた。
特定変形時の軸組と荒壁層の負担せん断
力を図9に示す。
2P試験体の中付けおよび中塗り層にお
ける最大せん断応力度の比は、産地A:
B:C=1.19:1.00:1.10であり、1P試験
体においても、1.19:1.00:1.12とほぼ
同じで、
大きくとも20%程度の差である。
中付けおよび中塗り土の圧縮強度の比は
1.53:1.00:1.40であり、最大せん断応
力度の比よりかなり大きいことから、中
付けおよび中塗り土の圧縮強度のみが、
0.15
0.10
I-1( 産地A,2P)
I-2( 産地B,2P)
I-3( 産地C,2P)
0.05
0.00
0
図8
4.土塗り壁の最大せん断応力度の変
動幅の評価
第2章および第3章の結果から、各地の
土塗り壁の最大せん断応力度の変動幅を
推定する。図10は、縦軸に第3章におけ
る土塗り壁試験体の中付けおよび中塗り
層の最大せん断応力度、横軸に中付けお
よび中塗り土の圧縮強度の平均値をとっ
たものである。また、産地Aと産地Cの中
塗り土の強度特性は近いものになり、あ
まり差が生じなかったため、荒木田土と
京都府・深草土を用いて、同様の土塗り
壁によるせん断加力実験および壁土の材
料強度試験を行った筆者ら実験結果5)、7)
も同図に追加した。
なお、荒木田土の中付けおよび中塗り
土の圧縮強度は0.71N/mm2であり、京都
府・深草土の圧縮強度は0.81N/mm2であ
る。深草土の試験体については、荒壁土
も深草産である。ここで、荒木田土と深
草土の圧縮強度は、直径50mm、高さ
100mmの円柱供試体による値であった。
本実験で行っている断面が40mm×
40mmの角柱供試体の圧縮強度とは異な
0.14
2P
0.20
5
10
15
20
変形角(×1/1000rad.)
せん断応力度 (N/mm 2 )
せん断応力度 (N/mm 2 )
0.25
直接土塗り壁試験体のせん断応力度へ影
響を及ぼすのではないことが分かる。
0.12
1P
0.10
0.08
0.06
0.04
I-4( 産地A,1P)
I-5( 産地B,1P)
I-6( 産地C,1P)
0.02
0.00
0
5 10 15 20 25 30 35
変形角(×1/1000rad.)
壁土の産地が異なる試験体のせん断応力度
図9 軸組と荒壁層の負
担せん断力
図10 壁土の圧縮強度と
土塗り壁の最大せ
ん断応力度の関係
15
11_壁土の材料試験 10.9.8 5:50 PM ページ 16
■壁土の材料試験■
るため、付録に示す係数を用いて補正し
た圧縮強度を用いている。
ここで示した圧縮強度の範囲は
0.71N/mm2∼1.45N/mm2であり、第2章
における29種類の壁土の圧縮強度が正規
分布に従うとすれば、下側13%、上側
16%を除いた71%の範囲に相当する。壁
長が2Pの場合には、圧縮強度が
0.71N/mm 2 ∼1.45N/mm 2 の範囲におい
て、せん断応力度は0.14N/mm2∼
0.20N/mm2であり、両者の関係は一次関
数で近似できる。圧縮強度がおよそ2倍
になっても、せん断応力度は1.4倍程度
である。壁長が1Pの場合は、同じ圧縮
強度の範囲において、せん断応力度は
0.08N/mm 2 ∼0.12N/mm 2 であり、1.5倍
程度である。従って、少なくとも、中付
けおよび中塗り層の最大せん断応力度
は、中付けおよび中塗り土の圧縮強度に
正比例するような数式では表すことがで
きないと考えられる。
(2)産地A、B、Cの中付けおよび中塗り
土の圧縮強度の比はおよそ1.5:1.0
:1.4であったが、これらの壁土を施
工した土塗り壁のせん断加力実験の結
果、中付けおよび中塗り層の最大せん
断応力度の比は、壁長が2P、1Pとも
に、産地A:B:C=1.2:1.0:1.1程度
で、大きくとも20%程度の差しか認め
られなかった。
(3)主として本研究における土塗り壁の
せん断加力実験の結果から計算した、
中付けおよび中塗り層の最大せん断応
力度は、中付けおよび中塗り土の圧縮
強度が0.71N/mm2∼1.45N/mm2の範囲
で、壁長が2Pの場合は0.14N/mm 2 ∼
0.20N/mm2、壁長が1Pの場合は
0.08N/mm2∼0.12N/mm2であった(図
10)なお、この結果は、本研究での試
験体の仕様に近い場合 注1) に適用でき
るものと考える。
なお、異なる地域の土塗り壁の最大せ
ん断応力度を詳細に比較するためには、
土
塗り壁の荒壁層と中塗り層のそれぞれの
5.まとめ
負担せん断力や厚さ、荒壁土と中塗り土
本研究では、各地の中塗り土の材料強
のそれぞれの圧縮強度といった情報も必
度試験の結果をもとに、土塗り壁の最大
さらに、材料強度試験において、
せん断応力度の変動幅の推定を行った。 要であり、
これにより、得られた知見を以下に示す。 異なる形状の供試体であっても材料強度
を換算する方法の提案も必要である。
(1)各地の中塗り土29種類の材料強度試
験を行った結果、曲げ、圧縮、せん断
および割裂引張の4種類の強度間の相
謝辞
本研究は、科学研究費補助金(基盤研
関係数はいずれの組み合わせでも0.8
程度以上の高い値であった。従って、 究(C))「壁土の地域性を考慮した土塗
り壁のせん断耐力の評価」(代表者:山
試験結果のばらつきが少なく、最も簡
便な圧縮試験を行えば、他の3種類の
崎裕、課題番号18560544)、科学研究費
強度も推定可能であるといえる。なお、 補助金(基盤研究(S))「伝統木造建築
各地の中塗り土29種類の圧縮強度の最
物の構造ディテールに基づく設計法の構
2
小値は0.45N/ mm 、最大値は1.79
築に関する研究」(代表者:鈴木祥之、
2
課題番号19106010)および(財)
トステム
N/mm であった。
16
11_壁土の材料試験 10.9.8 5:50 PM ページ 17
■壁土の材料試験■
建材産業振興財団の平成19年度の研究助
成金により行われました。また、
(社)日
本左官業組合連合会の岡野専務理事、鈴
木理事をはじめ、壁土をご提供いただき
ました左官職の方々の多大なご協力を賜
りました。ここに記して、関係各位に感
謝の意を表します。
参考文献
4)中尾方人、山崎裕、田中純:土塗り
壁のせん断耐力の評価に関する実験
的研究、構造工学論文集 Vol.49B、
pp.573-578、2003.3
5)中尾方人、一文字里紗、山崎裕、石
橋庸子:土塗り壁のせん断抵抗機構
およびせん断耐力の評価法に関する
実験的研究、日本建築学会構造系論
文集 第598号、pp.109-116、2005.12.
7)河合俊信、中尾方人、山崎裕:塗り壁
の耐力および変形性能の推定に関す
る実験的研究(その7 深草土の場合)
、
日本建築学会大会学術講演梗概集
C-1、構 造 」、pp.361-362、2005.9
9)浦憲親、蒲田幸江、鈴木祥之:壁土
の供試体作製及び強度試験法に関す
る基礎実験、日本建築学会構造系論
文集 第559号、pp.23-30、2002.9
追記 日左連広報委員 記
この論文は日左連と共同研究している
横浜国立大学大学院工学研究院 中尾方
人特別研究教員・博士(工学)より黄表
紙と呼ばれている建築学会構造系論文集
に発表したものです。今回は論文内容を
抜粋して紹介します。
この論文に記述されている実験で用い
られた壁土は、全国各地にいる日左連会
員の皆様より送られてきたものです。本
会員の協力なくしてできない実験と評価
を受けております。論文内容の概略を以
下に記述します。
①全国22県から29種の実際に使用されて
いる土壁を入手して実験している。
②実験はセメントモルタル実験の「セメン
トの物理試験方法」に準じており、他
左官材料と比較・検討が可能である。
③土壁の強度は圧縮試験を行えば、曲げ、
せん断、割裂引張の強度が推定できる。
④土壁の強度は、地域・地方性による違
いが見られないことが今回の実験で分
かった。
⑤実験結果は今後の設計・施工規準に運
用できる。
今回の論文は、今後の土壁の推進にデ
ータとして大いに活用できるものと評価
されます。
附録として主な左官材料の圧縮強度を
示します。
主な左官材料 の 圧縮強度比較表
左官材料
圧縮(N/mm2)
砂モルタル(1:3)
16.25
ラス下地用既調合セメン
2.96
トモルタル
壁土
1.11
土壁提供者一覧です。ありがとうござ
いました。
土壁の提供者
青森県
岩手県
秋田県
秋田県
山形県
福島県
福島県
埼玉県
千葉県
千葉県
新潟県
山梨県
長野県
静岡県
(有)三浦工業
橋長栄
遠藤章
桜庭喜幸
赤間義弘
佐藤言司
五十嵐和好
米沢昭男
小倉利夫
長崎幸三郎
大熊芳彦
山川泰三
東福寺新一郎
瀬崎安男
三重県
和歌山県
島根県
岡山県
広島県
広島県
愛媛県
福岡県
佐賀県
長崎県
大分県
鹿児島県
鹿児島県
(敬称略)
河合英喜
原健一
(株)藤原技研工業
堀川春男
坂根伸司
林原恵
伊勢本忠雄
北九州市左官業協同組合
松尾英昭
横内弘
梅野徹
日笠誠
飯田正信
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