橡 Taro10-ヒノキ種子の発芽率向上試

ヒノキ種子の発芽率向上試験
田戸裕之(平成4∼6年度担当、取りまとめ)
藤原
均(平成4年度)
福原伸好(平成5・6年度)
目
1
はじめに
2
調査地の概要
3
調査方法
(1)
越冬密度調査
(2)
指標植物による調査
(3)
活動期調査
(4)
予察灯調査
(5)
薬剤防除試験
(6)
誘引剤による誘引効果調査
(7)
防虫網試験
(8)
交配適期調査
4
結果
(1)
越冬密度調査
(2)
指標植物による調査
(3)
活動期調査
(4)
予察灯調査
(5)
薬剤防除試験
(6)
誘引剤による誘引効果調査
(7)
防虫網試験
(8)
交配適期調査
5
考察
(1)
採種園におけるカメムシの生態
(2)
ヒノキ球果被害防除
(3)
その他
6
おわりに
(1)
今回行った調査研究の成果
(2)
今後調査すべき問題点
(3)
謝辞
参考文献
次
1
はじめに
山口県むつみ林木育種園内ヒノキ採種園は、県内産精英樹を構成クローンとして、優
良な育種種子を安定的に生産することを目的に造成されている。しかし、近年採種産種
子の発芽率は低調に推移しており、苗木生産上大きな問題となっている。
この原因の大きな要因の一つとして、カメムシ等種子害虫による球果吸汁被害がある。
このため、これら種子害虫の生態調査及び防除技術を開発し、育種事業の円滑な推進に
資することを目的に、平成4∼6年度の間国庫補助事業「採種園カメムシ等防除対策事
業」により調査研究を行ったので報告する。
2
調査地の概要
山口県
阿武郡
むつみ村
山口県林業指導センター
総面積
大字吉部上
山口県むつみ林木育種園
30.75ha
詳細は、図−1による。
図−1
むつみ育種園試験地概況図
- 1 -
3
調査方法
(1)
越冬密度調査
1m×1mの面積1㎡深さ20cmの木製の枠に落葉を入れ、平成4年度は11月
25日に、平成5年度は10月13日に各2個を試験地内に設置した。
そして、翌年4月までにそれぞれ落葉を回収し、落葉からの脱出を確認した。
(2)
指標植物による調査
採種園におけるヒノキの種子を加害するカメムシは、今までの調査によれば、チャ
バネアオカメムシ、ヒメツノカメムシ、ツヤアオカメムシ及びクサギカメムシが主な
ものと報告されている。
これらは、ヒノキの種子同様に果樹にも大きな被害をもたらす難防除害虫とされて
おり、農家の果樹に害を与えるカメムシの発生量は、ヒノキの種子の豊凶に左右され
るという報告もある。
このため、果樹に被害を与えるカメムシの寄生を予知する目的で、ヒノキを指標植
物として、ヒノキの種子におけるカメムシの量が調査されている。
このことから今回は、カメムシの年間行動の中で、ヒノキ種子の吸汁期前に吸汁す
る植物を探し出し、これを定量することによりヒノキの種子を初期に加害するカメム
シの発生量を予測する。
(3)
活動期調査
試験地内に、調査木を定めこれを定期的に調査し、それぞれのカメムシの活動を調
査する。調査方法は、目視による枝の観察を行った。
(4)
予察灯調査
農作物有害動植物発生予察事業において使用されている予察灯を、採種園内に1基
設置した。
この予察灯により、平成5年度から採種園におけるカメムシの発生の予測、発生し
たカメムシの個体の状況調査、誘引範囲及び誘引効率の試験を行った。
(5)
ア
薬剤防除試験
予備調査
むつみ林木育種園内の昭和40年度造成ヒノキ採種園において、19区画(65
本)を設定し、薬剤散布によるカメムシ被害防除試験を行った。
使用した薬剤は、農業関係でよく使われているMPP剤、DEP剤及びNAC剤
の3種である(表−1)。
表−1
散 布 薬 剤 及 び 濃 度
製 剤 名
商
品
名
成分濃度
A
区
MPP剤
バ イ ジ ッ ト 乳 剤
0.1%
B
区
DEP剤
ディプテレックス乳剤
0.1%
C
区
NAC剤
デナポン水和剤50
0.1%
- 2 -
薬剤散布量は、1本当たり400mlを手動肩掛け式噴霧器によって散布した。
散布は1薬剤6区画を時期を変えて行った(表−2)。
表−2
各区における薬剤散布時期
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
Ⅵ
6月29日
○
×
×
○
○
×
7月25日
×
○
×
○
×
○
9月
×
×
○
×
○
○
3日
発芽試験用の球果は、1区画3本から3方向の球果を3個づつ採取し、発芽率試
験(表−3)を行った。
表−3
種
種
子
子
風
取
乾
日
日
10月16日
数
21日間
発 芽 率 試 験 開 始 日
11月28日
発芽温度条件
20℃16時間、30℃8時間
※)
温 度 条 件 下 日 数
21日間
発芽率試験最終調査日
12月19日
※)
イ
採
発芽率試験方法
9時から17時まで30℃、17時から9時までを20℃とした。
事業的散布試験
平成5・6年度に事業的散布を行い、被害防除について発芽率試験を実施した。
(平成5年度)
使用した薬剤は、農業関係でよく使われているMPP剤である(表−4)。
散布は平成5年8月4日に行った。
なお、発芽試験用の球果は、ヒノキ採種園内25クローンすべて3個の球果を採
取し発芽率試験を表−5のとおり行った。
表−4
薬
剤
散
布
方
散布薬剤(製剤名)
M
散布薬剤(商品名)
バ イ ジ ッ ト 乳 剤
散布薬剤(成分濃度)
0
.
1
%
薬
平成5年
8月
4日
剤
散
布
日
P
P
法
- 3 -
剤
表−5
種
子
採
発芽率試験方法
取
日
10月
5日
発 芽 率 試 験 開 始 日
12月
1日
発芽温度条件
25℃
温 度 条 件 下 日 数
21日間
発芽率試験最終調査日
12月22日
(平成6年度)
使用した薬剤は、農業関係でよく使われているDEP剤、シペルメトリン剤であ
る ( 表 − 6 ) 。 散 布 は 2 回 実 施 し 、 薬 剤 量 は 1000 l /ha散 布 し た ( 表 − 6 ) 。
また、発芽試験用の球果は、ヒノキ採取園内25クローンすべて3個の球果を採
取し発芽率試験表−7のとおり行った。
表−6
剤
散
布
方
法
散布薬剤(製剤名)
DEP剤
シペルメトリン剤
散布薬剤(商品名)
デ ィップテレックス乳 剤
アグロスリン乳 剤
散布薬剤(成分濃度)
0.1%
0.006%
第 1 回 薬 剤 散 布 日
平 成 6年6月17日
平 成 6年6月17日
第 2 回 薬 剤 散 布 日
平 成 6年7月15日
平 成 6年7月15日
表−7
種
(6)
薬
子
採
発芽率試験方法
取
日
9月30日
発 芽 率 試 験 開 始 日
12月
5日
発芽温度条件
25℃
温 度 条 件 下 日 数
22日間
発芽率試験最終調査日
12月27日
誘引剤による誘引効果調査
これは、当センターで実施中の試験に利用している誘引剤のうち、スギノアカネト
ラカミキリを誘引するアカネコール及び、キバチ類及びキイロホソナガクチキムシを
誘引するホドロンが考えられたが、調査中にカメムシの誘引を確認したアカネコール
を利用し、誘引器を2基設置した。
(7)
防虫網試験
(平成4年度)
採種園内のヒノキ25クローンが自然交配を完了し(5月以降)、そこへカメムシ
が寄生する前に、防虫網を表−8のとおり掛け、10月13日に処理していない対照
区と同時に球果を採取して、風乾後3個の球果について種子を取り出し、発芽試験を
- 4 -
行った。
表−8
袋掛け処理日
処理日
処理区名
5月29日
5月区
6月29日
6月区
7月30日
7月区
発芽試験は、11月30日に開始し、12月21日に終了した。
なお、発芽試験の温度管理は、恒温機を使用し昼間の9時から17時まで30℃、
夜間の17時から翌日の9時までを20℃で設定した。
(平成5年度)
ア
人工交配防虫網試験
平成5年4月1日、4月6日及び4月19日に、ヒノキ採種園内の25クローン
において、他家受粉を4カ所及び自家受粉を1カ所行い、他家受粉の中の3カ所に
ついて防虫網を表−9のとおり袋かけした。
球果は10月12日採種して、風乾後3個の球果について種子を取り出し表−5
のとおりに発芽試験を行った。
表−9
処理日
5月25日
6月25日
7月27日
イ
袋掛け処理日
処理区名
5月区
6月区
7月区
自然交配防虫網試験
ヒノキ採種園内の25クローンにおいて、交配袋をかけず自然交配を行った箇所
の中から3カ所について防虫網を表−10のとおりに袋かけした。
また、球果は10月12日に防虫網のない箇所をいれて4カ所の球果を採取し、
風乾後3個の球果について種子を取り出し表−5のとおりに発芽試験を行った。
(平成6年度)
ヒノキ採種園内の25クローンにおいて、交配袋をかけず自然交配を行った箇所
の中から3カ所について防虫網を表−10のとおりに袋かけした。
また、球果は9月30日に防虫網のない箇所をいれて4カ所の球果を採種し、風
乾後3個の球果について種子を取り出し表−7のとおりに発芽試験を行った。
(8)
表−10
袋掛け処理日
処理日
6月 6日
7月 4日
8月 5日
処理区名
6月区
7月区
8月区
交配適期調査
- 5 -
試験地内ヒノキ精英樹25クローンについて、開花時期を調査することにより、ク
ローン毎の自家受粉の可能性について検討を行う。
4
結果
(1)
越冬密度調査
(平成4年度)
平成4年11月25日に越冬トラップを設置し、3月中に落葉をふるいにかけ、カ
メムシを採取しようとしたが、設置日が遅くなったためカメムシは確認できなかった。
この結果、越冬トラップの設置時期は、10月末日までに行うことが望ましいとい
うことがわかった。
(平成5年度)
チャバネアオカメムシの脱出を調査したが、観察されなかった。
網袋の中で越冬したチャバネアオカメムシが茶褐色であったため、昨年のようにふ
るいで探す方法は、落葉中のチャバネアオカメムシを見逃してしまう可能性が高いと
思い、脱出後のカメムシを観察しようと考えたが、観察できなかった。
この原因として、落葉の状態が悪いこと、落葉回収の時期が遅いこと又は越冬場所
としてヒノキ採種園を利用していないことが考えられる。
しかし、今後初期のカメムシ被害を考える上で、越冬虫の防除は必要なことと考え
られる。
(2)
指標植物による調査
(平成4年度)
当センター採種園において、ヒノキの球果を吸汁する前に、寄生する樹種としては、
サンゴジュのつぼみ、ウメの球果及びサクラの球果が考えられた。
このため、4月中旬から調査を重ねたが、サクラの球果以外には、カメムシは確認
できなかった。カメムシを確認したサクラは、サクラの中でも球果の結実の多い、サ
トザクラのみであった。
カメムシをはじめて確認したのは、5月29日の調査で、クサギカメムシ及びチャ
バネアオカメムシを数頭確認したが、定量はしていない。
そこで、6月8日の調査で、サトザクラの葉上に卵塊を発見し、これを飼育した。
幼虫期までしか飼育に成功しなかったが、チャバネアオカメムシと考えられる。この
ことより、チャバネアオカメムシは、少なくとも1世代をサトザクラでおこなうもの
がいることが確認された。
また、6月22日の調査ではカメムシは発見できなかった。同時期にヒノキにおけ
る調査を行ったが、ヒノキにもカメムシは発見できなかったので、この時期は、当セ
ンター採種園周辺の寄生植物に寄生していることが考えられる。
(平成5年度)
- 6 -
前年度同様ヒノキ採種園内にあるサトザクラにおいてカメムシの寄生状況を調査し
たが、平成5年4月から6月末までの調査においてカメムシを確認したのは、6月1
0日のチャバネアオカメムシの1頭だけであった。
このことは、昨年がヒノキの凶作年であったため、カメムシの越冬密度が低く昨年
のような寄生状況でなかったと考えられる。これは、ヒノキ採種園内でのカメムシの
発生が例年より遅れたことにも示されている。
(平成6年度)
4・5年度同様ヒノキ採種園内にあるサトザクラにおいてカメムシの寄生状況を調
査した。平成6年4月から6月末までの調査においてカメムシは、確認できなかった。
(3)
活動期調査
(平成4年度)
6月22日、6月29日、7月10日、7月30日、8月13日、8月25日及び
9月10日に6本の調査木を中心に、目視による調査を行った。その結果は、表−1
1のとおりである。
表−11
日付
種名
カメムシ類観察結果
6
/
22
/
29
7
/
10
/
30
8
/
13
/
25
9
/
10
ヒメツノカメムシ
(成虫)
0
5
4
0
0
0
0
ヒメツノカメムシ
(幼生)
0
0
0
0
0
0
0
ヒメツノカメムシ
(卵塊)
0
2
4
0
0
0
0
チャバネアオカメムシ(成虫)
0
2
8
2
2
0
0
チャバネアオカメムシ(幼生)
0
0
0
2
11
2
0
チャバネアオカメムシ(卵塊)
0
0
0
0
0
0
0
クサギカメムシ
(成虫)
0
0
0
0
0
0
0
クサギカメムシ
(幼生)
0
0
0
0
0
0
0
クサギカメムシ
(卵塊)
0
0
0
0
0
0
0
備考
ヒメツノカメムシについては、成虫が卵塊を守る習性があり、卵塊を確認すれば、
その卵塊の上に成虫が確認できた。
本年は、ヒノキ球果の凶作年に当たったためカメムシの発生が非常に悪かった。
(平成5年度)
昨年同様調査木を設定してカメムシの寄生状況を調査したが、8月25日まで調査
木以外でも全くカメムシを確認することができなかった。
そして最も多くカメムシを発見したのは、9月7日の調査であった。
このことは、ヒノキの球果の結実状態からいえば、本年のカメムシの発生が遅くヒ
ノキ種子に対して影響があまりないのではないかということが推測される。
(平成6年度)
- 7 -
本年度の調査では、4月25日の調査ですでにチャバネアオカメムシを1頭確認す
ることができ、昨年の豊作により越冬成虫の密度が高いことが示唆された。
(4)
予察灯調査
(平成5年度)
予察灯は、電気的な設備の遅れから点灯が8月11日になり、回収は8月25日か
ら開始した。
回収状況は、図−2に示すとおりである。
このことから、本年の誘引のピークは、8月中旬までの誘引状況がわからないため
はっきりしたことは言えないが、チャバネアオカメムシは8月下旬、クサギカメムシ
は8月下旬から9月初旬にかけて、ツヤアオカメムシは8月下旬から9月初旬まで、
ヒメツノカメムシも8月下旬から9月初旬までと考えられる。
しかし、このことは前項の活動期調査において8月下旬までは、ほとんどカメムシ
類が確認されなかったことを考慮すれば、1週間以上のずれが生じている。
これは、8月下旬の誘引灯でのカメムシの捕獲個体が、他の寄生植物から移動して
きたと考えることができるが、その他にカメムシの種類により、誘引のピークに差が
あることも考えられる。
(頭数)
10
8
チャバネアオカメムシ
クサギカメムシ
ツヤアオカメムシ
ヒメツノカメムシ
6
4
2
0
8月25日
9月 7日
図−2
9月14日
調査日
9月22日
10月 5日
誘引灯によるカメムシの捕獲頭数
(平成6年度)
- 8 -
予察灯は、4月18日に点灯を開始し、回収は4月25日から実施し、2週間連続
してカメムシ類が誘引されなかった10月19日に終了した。
回収状況は、図−3に示すとおりである。
これをみると、本年の誘引のピークは、チャバネアオカメムシは8月下旬、クサギ
カメムシは8月下旬から9月初旬にかけて、ツヤアオカメムシは8月下旬から9月初
旬、ヒメツノカメムシも8月下旬から9月初旬までと考えられる。
(頭数/日)
18
16
14
チャバネアオカメムシ
ツヤアオカメムシ
クサギカメムシ
ヒメツノカメムシ
12
10
8
6
4
2
0
4月25日
5月23日
6月17日
図−3
(5)
ア
7月15日
8月5日
8月29日
9月13日
10月5日
誘引灯によるカメムシ捕獲頭数
薬剤防除試験
予備調査
薬剤別、散布時期別発芽率は、図−4に示すとおり、各区とも20%以下で満足
できるものはなかったが、詳細に比較検討してみると、B区のDEP剤のⅢ、Ⅴ、
Ⅵは他の薬剤に比べて幾分効力が高いといえる。また、9月3日に処理したⅢ、Ⅴ、
Ⅵが他の時期に散布したものより被害を幾分抑えている傾向がうかがえる。
- 9 -
(%)
100.0
90.0
MPP剤
DEP剤
NAC剤
80.0
70.0
60.0
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
図−4
イ
Ⅳ
Ⅴ
Ⅵ
対照区
散布時期別発芽率
事業的散布試験
(平成5年度)
調査結果は図−5のとおりである。
これをみると、最高値と最低値の差がわずかに対照区の方が大きいぐらいの違い
で平均値は同程度と見てよいと考えられる。
このことは、本年度の薬剤処理が、発芽率を向上させることができなかったとい
えるが、この原因として、ヒノキ球果に対するカメムシの密度が発芽率に影響のあ
る5月、6月及び7月に例年に比べ低かったことが考えられる。
- 10 -
(%)
100.00
90.00
80.00
70.00
60.00
50.00
40.00
30.00
20.00
10.00
0.00
処理区
図−5
対照区
処理別発芽率(平均値)
(平成6年度)
調査結果は図−6のとおりである。
DEP剤散布区において対照区より2倍を越える発芽率の向上が見られるが、し
かし、シペルメトリン剤では、僅かに散布区が対照区より発芽率を向上させている
程度で、効果があったとはいえないと考えられる。
このことから、DEP剤薬剤処理は、発芽率を向上させることができたが、シペ
ルメトリン剤薬剤処理区では、発芽率を向上させることができなかったといえる。
- 11 -
(%)
100.00
80.00
60.00
40.00
20.00
0.00
DEP剤
シペルメトリン剤
図−6
(6)
対照区
薬剤処理別発芽率
誘引剤による誘引効果調査
他の試験において捕食性のカメムシが確認されたために、今回誘引試験を行ったが、
2基の誘引器の中には、カメムシは発見されなかった。
(7)
防虫網試験
(平成4年度)
袋掛け時期による発芽率を、図−7に示す。
袋掛けの時期別の平均発芽率は5月が21.2%、6月が23.0%、7月が9.
3%に対し、対照区の平均発芽率は5.0%であった。
また、時期別の標準偏差についてみると、5月,7月処理が12.6,11.6で
ばらつきが大きく、対照区,6月処理は5.9,8.8と比較的小さいばらつきであ
った。
このように平均発芽率は、5月、6月が同レベルであるが、最高値及び最低値は、
5月が6月を上回っている。ところが、5月の標準偏差は6月より大きくなっている。
これは、カメムシ被害以外の袋掛けによる葉焼けの弊害にあい、発芽率が低下したた
めと考えられる。
以上のことから、袋掛けは十分に有効的な手法であるが、袋掛けを長期間すること
による弊害を少なくするため、カメムシのヒノキ採種園における寄生時期を、指標植
物及び予察灯等により的確に把握し、袋掛け期間をできるだけ短期間にする必要があ
る。
- 12 -
(%)
100.00
80.00
60.00
40.00
20.00
0.00
対照区
図−7
5月
6月
袋掛け時期
7月
袋かけ時期別発芽率
(平成5年度)
ア
人工交配防虫網試験
調査結果は、図−8のとおりである。
今までの研究結果同様自家受粉は、他家受粉に比べ明らかに発芽率が劣っている。
また、他家受粉については微妙であるが早い袋かけの方が発芽率が高い傾向にあ
る。
しかし、対照区と人工交配処理の発芽率を比較すると、平均値で自家受粉が14.
43%、他家受粉が35.96%であるのに比べ対照区は、76.56%と他家受
粉の倍の発芽率であった。このことは、人工交配を行う受粉袋を平成5年3月8日
から5月21日までかけていたことが、球果採集枝に対して悪影響を及ぼした可能
性があると考えられる。
- 13 -
(%)
100.00
80.00
60.00
40.00
20.00
0.00
図−8
イ
袋かけ時期別発芽率
自然交配防虫網試験
調査結果は、図−9のとおりである。
発芽率の差は、平均値で上が5月処理区の81.04%下が対照区の76.56
%と、5ポイントしかなく、明らかな差とはいえないが、早く袋かけを行った方が
発芽率が高いという結果であった。
(%)
100.00
80.00
60.00
40.00
20.00
0.00
図−9
袋かけ時期別発芽率
- 14 -
(平成6年度)
調査結果は、図−10のとおりである。
発芽率の差は、平均値で上が6月処理区の21.50%下が対照区の4.92%
と早く袋かけを行った方が発芽率が高いという結果がであった。
100.00
80.00
60.00
40.00
20.00
0.00
6月
7月
8月
対照区
袋かけ時期
図−10
(8)
袋かけ時期別発芽率
交配適期調査
(平成4年度)
花粉袋を3月8日にかけ、第1回目の花粉枝採集を3月11日に行ったが、花粉は
思ったほど採集できず、3月22日に第2回目の花粉枝採集を行った。
また、その
後3月30日に花粉の発生状況を調査したところ、花粉が既に発生しているものは、
美祢2号及び萩1号であった。雄花がまだ硬いものは、玖珂3号、玖珂8号、岩国1
号、柳井2号、都濃5号、徳山1号、阿武2号及び阿武4号であった。その中でも岩
国1号は、非常に雄花が硬く、数も少なかった。
(平成5年度)
本年度は、雄花雌花ともに着花量が多く、雌花に比べ雄花の着花時期が遅れ自家受
粉の可能性が高いクローンは、見られなかった。
しかし、岩国1号は昨年度の球果がまだついており雌花雄花ともに着花量が少なか
った。このことから、着花量の差は前年度の着花量または球果の量に起因していると
考えられる。
- 15 -
5
考察
(1)
ア
採種園におけるカメムシの生態
ヒノキ球果加害カメムシ
平成5・6年度の誘引灯の結果から、ヒノキ採種園におけるヒノキ球果加害カメ
ムシは、チャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシ、クサギカメムシ及びヒメツノ
カメムシである。
イ
採種園カメムシの発生消長
平成5年度から開始した誘引灯調査では、図−11のように5月下旬から9月ま
での発生となり、年間2回のピークを持ち、年2化していると考えられる。
平成4年の指標植物による調査では、5月末にチャバネアオカメムシの成虫を確
認しており、また、6月初旬の調査で指標植物であるサトザクラの葉上に卵塊を確
認したことから、例年越冬場所から5月下旬から6月上旬に離脱し産卵したと考え
られる。離脱産卵の1カ月後である6月下旬から7月上旬に1回目の誘引のピーク
を迎え、さらに、1カ月後の7月下旬から8月上旬に2回目のピークを迎えたと推
察される。このことは、例年発育零点である14℃が4月下旬から5月上旬に越え
ること及び1世代有効積算日度400日℃が7月上旬にあることからも裏付けられ
る。
2回目のピークを迎えた後の生態については明らかになっていないが、越冬場所
が日の良く当たる枯れ葉の下等の条件から、採種園内の下刈り後の枯れ葉の下が越
冬場所となっている可能性は高い。
そして特に注意すべきは、平成6年度の昨年球果による第1世代の繁殖である。
昨年球果を残すことにより、繁殖が可能だということは、球果が少ない年に第1世
代が昨年球果で繁殖し、採種園内における個体数密度を維持し、第2世代が球果に
被害をもたらし、球果凶作年における著しい発芽率低下をもたらすと考えられる。
図−11
採種園におけるチャバネアオカメムシ誘殺消長(平成6年)
- 16 -
ウ
採種園カメムシの量の決定
カメムシの発生と球果の豊凶の関係は、図−12の示すとおりに球果が豊作であ
る年にカメムシが多数発生するわけではなく、球果豊作年の翌年にカメムシの発生
が多い傾向となっている。そして、図−13に示す凶作年翌年の豊作年におけるカ
メムシの発生と図ー14に示す豊作年翌年の凶作年におけるカメムシの年間誘殺消
長には、明らかに傾向に違いがあり、図−13ではカメムシの誘殺が増えるのは、
8月上旬であり例年のカメムシ発生では2世代目に当たり、図−14のカメムシの
誘殺は、5月下旬や6月から誘殺が増加し、1世代目から多数誘殺されているとい
える。このことは、球果の豊作により豊作年ではカメムシの越冬個体数が多く、凶
作年には越冬個体数が少ないことが推測される。このことは、採種園内におけるカ
メムシの越冬場所に越冬トラップを設置し、越冬虫の個体数変動の調査及び誘殺個
体の体サイズの調査を行う必要があると考えられる。
図−12
ヒノキ球果豊凶と萩市の予察灯によるチャバネアオカメムシ誘殺数の関係
- 17 -
図−13
凶作年翌年の豊作年におけるチャバネアオカメムシの誘殺消長(萩市)
図−14
豊作年翌年の凶作年におけるチャバネアオカメムシの誘殺消長(萩市)
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(2)
ア
ヒノキ球果被害防除
袋かけ防除
平成4年度(1992)の結果から5月、6月は同程度の発芽率を示すがそれに
比べ7月になると発芽率が低下する傾向を示している。これは、図−15に示すよ
うに平成4年度(1992)のカメムシの発生は、7月に1回目のピークがあるこ
と、すなわち6月袋かけの時期6月29日より先で、7月袋かけの時期7月30日
までの間に、採種園内のカメムシの密度が高くなり被害をもたらしたといえる。
平成5年度(1993)は、豊作年であり球果に対するカメムシの密度が低く発
芽率に与える影響はあまりないことがわかる。
平成6年度(1994)は、6月処理に比べ7月・8月処理の発芽率が低い傾向
を示している。これは、図−15に示すように平成6年度(1994)のカメムシ
の発生は6月処理の6月6日から7月処理の7月4日までに第1回目のピークがあ
り、6月処理と7月処理の間で採種園内のカメムシの密度が高くなり被害をもたら
したといえる。
これらより、採種園内のカメムシ防除は、第1回目のピークを予測しそれまでに、
有効な処置をすることが必要と考えられる。
また、平成4年度(1992)のような凶作年翌年の豊作年では、越冬虫の密度
が低いことを確認できれば、被害防除策は必要ないといえる。
図−15
田万川町におけるチャバネアオカメムシの誘殺消長
- 19 -
イ
交配による発芽率の差
平成5年度調査により、自家受粉と他家受粉では、発芽率に明らかに自家受粉の
発芽率が低いことがわかるが、開花の時期が他のクローンと比べて著しく違い、自
家受粉と他家受粉で発芽率が同程度であったものはなく、どのクローンも自然状態
では自然交配を行っているといえる。
ウ
薬剤防除
平成4年度の薬剤処理試験では、クローン間の差を考えずに試験したため、一様
な試験結果を得られなかった。平成5年度の薬剤処理試験では、袋かけ試験でも述
べたように球果に対するカメムシの密度が低く発芽率に与える影響はなかったと考
えられる。平成6年度の薬剤処理試験では、DEP剤がシペルメトリン剤より高い
発芽率を示している。このことは薬剤による被害防除を考える上で参考になると考
えられる。
(3)
ア
その他
設定年度と発芽率
表ー12に示すとおり各年度採種している設置年度区が歯抜けになっていて比較
できない状態にあるが、平成4年度(1992)の40年設置区のように格段にい
い結果を示している区もあるが、すべての採種年度に当てはまるものではなく、そ
れぞれの設置区に発芽率に差があるとは言い難い。今後継続的に設置年度別に発芽
率鑑定を行う必要があると考えられる。
- 20 -
イ
種子重量の変化
100粒重と純量率、調査年度と純量率、発芽率と純量率の関係は傾向はなかっ
たが、種子重量と発芽率の関係は、図−16のように一様な傾向はあった。しかし、
この傾向をもとに採種園管理に導かれるものは薄いと考えられる。
図−16
6
種子重量と発芽率の関係
おわりに
(1)今回行った調査研究の成果
平成元年度から4年度までのチャバネアオカメムシ誘引消長(山口県農作物有害動
植物有害動植物発生予察事業防疫年報より)から、被害防除を行ううえで防除適期時
期を示すと図−17のとおりであり、凶作年においては6∼7月において第1回目の
ピークをむかえる前に行い、豊作年においては2回目のピークも考えられることから
7∼8月にかけて行い、それに加えて豊作年の冬季にカメムシの越冬場所を確定し越
冬成虫を駆除することも効果的だと考えられる。
また、豊作年翌年の凶作年では豊作年の取り残し球果が繁殖源となり被害をもたら
すことも確認した。このことより豊作年の採種園の管理として球果を取り残さないこ
とが重要だといえる。
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図−17
(2)
薬剤防除適期図
今後調査すべき問題点
今回の誘引灯によるカメムシの誘引頭数の資料は、平成5年8月から6年10月まで
の林木育種園資料以外すべて農産物有害動植物発生予察事業の中で行われたものであり、
今後林木育種園のカメムシ被害を予察するうえで現在設置してある予察灯を利用して誘
殺消長及びカメムシの体サイズを調査する必要がある。
今回確認できなかったチャバネアオカメムシの越冬場所を確認して来期の発生頭数を
減少させる方法を採ることが有効と考えられる。
(3)
謝辞
今回の研究で資料を提供してくださった当時の病害虫防除所長、農林業情報ネットワ
ーク室長及び栗林技師、林政課造林係黒井技師及び当所業務課職員の方々に厚くお礼を
申し上げる。
また、本報告をまとめることができたことはひとえに当所故末成
宏氏に、叱咤激励
をいただいたおかげと考えております。特に誘引灯設置についてはひとかたならぬご尽
力をいただき、ここに生前成果をまとめられなかった反省とご冥福をお祈りいたします。
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参考文献
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