因果関係とは何か? 明治大学法学部 阪井和男 2006年10月2日 因果関係の4条件 因果関係とは何か? 1. 先後関係(時間的順序関係) – 「原因」が「結果」よりも時間的に先行している 2. 相関関係(共変関係) – 「原因」と「結果」に相関関係があり一緒に変化する 3. 非擬似相関(外部変数の制御) – 第3の要因からの影響がなく擬似相関でない または、「結果」に影響する他の要因が固定されている 4. メカニズム解明 – 原因と結果を結びつけるダイナミカルなメカニズムが存在 Hyman (1955)(沼上幹,2000年,p.81を参照のこと) 1~3は、ラザースフェルド(Lazarsfeld, 1955)による 2 因果関係とは何か? 図.因果関係の4条件 原因 時 刻 因果関係 結果 • 因果関係がある = 先後関係がある かつ 相関関係がある かつ 擬似相関でない かつ 媒介メカニズムが解明される あっても変動しない 時 刻 原因 先後相関 結果 原因 相関関係 要因 原因 原因 メカニズム ×擬似相関 結果 結果 結果 1. 先後関係あり 2. 相関関係あり 3. 擬似相関なし 4. メカニズム解明 3 先後関係と因果関係 因果関係とは何か? •先後関係 – ある事象Aが起きた後に,事象Bが見出される関係 •おみくじで凶を引いた後に、悪いことが起きた •雷が光ると、雷が鳴る •因果関係 – ある事象Aが起きることが,事象Bの発生に影響する関係 •太陽が昇った後に,気温が上昇した •雷が落ちるから、雷が鳴る。雷が落ちるから、雷が光る。 • 先後関係と因果関係 – Wikipedia,http://ja.wikipedia.org/wiki/先後関係と 因果関係 (2006年3月5日アクセス) 4 因果関係とは何か? 図.雷光と雷鳴 時 刻 雷が光る 先後相関 雷が鳴る 1. 先後関係がある 雷が光る 相関関係 雷が鳴る 2. 相関関係がある 雷光の頻度と雷鳴の頻度など 5 因果関係とは何か? 図.雷光と雷鳴 雷が落ちる 時 刻 因果関係 雷が光る 先後関係 雷が鳴る 1. 先後関係がある 雷が光る 相関関係 雷が鳴る 2. 相関関係がある 雷が光る 因果関係 擬似相関 雷が鳴る 3. 擬似相関でない • 第4条件の「メカニズム解明」以前に、因果関係が否定された 6 因果関係とは何か? 図.雷光と雷鳴 雷が落ちる 時 刻 因果関係 雷が光る 先後関係 雷が鳴る 1. 先後関係がある 雷が光る 時 刻 因果相関 雷が鳴る 雷が光る 相関関係 雷が鳴る 2. 相関関係がある 雷が光る 因果関係 擬似相関 雷が鳴る 3. 擬似相関でない 先後関係がある かつ 相関関係がある かつ 擬似相関でない かつ メカニズムが解明 ≠ 因果関係がある 7 メカニズム解明は必要か? 因果関係とは何か? •「雷光と雷鳴」の例で見たように・・・ – 第4条件までいかなくても、因果関係が否定されることが多い •ところが、さらに・・・ – 第4条件がなくても、因果関係が主張されることがある •「見かけの相関が無いことという規準がしっかり確立されれば、たとえ 媒介メカニズムが分らなくても、因果関係は一般に推測される。」 – Singleton, et al. (pp.86-87, 1993) •第4条件は「因果関係を立証する最低必要要件の一部ではない。」 – Hirschi and Selvin (1967) 上記の二つはいずれも沼上(2000年,pp.81-82)から引用 8 4条件にひそむ二つのモデル 因果関係とは何か? 第1~3条件と第4条件は、質的に異なる! •カヴァー法則モデル* – 第1~3条件からなり、ダイナミクスは問わない •前提として、時間的な先後関係を求めているだけ •「同じ論理平面上の集合の包含関係のチェックを行う作業に集中」 (沼上,2000年,p.245) •メカニズム解明モデル* – 第4条件のみからなり、ダイナミクスを問う •時間の概念が重要 •「時間発展を伴う、プロセスに注目」(沼上,2000年,p.246) *沼上(2000年,pp.78-83)による命名 9 因果関係とは何か? 重層的差別化の説明スタンス •カヴァー法則モデル 製品特性による差別化 市場地位の保持 チャネルによる差別化 ブランド・イメージ •メカニズム解明モデル 技術開発の成功 独自技術を武器とした 営業活動による独占的地位の確立 製品特性による差別化 顧客による評価 市場地位の保持 チャネルによる差別化 ブランド・イメージ 沼上(2000年,p.247,図8-4) 他社による模倣 10 変革シナリオの相違 因果関係とは何か? 社会システム変革のシナリオが異なる! •カヴァー法則モデル* – 原因側を全面的に同時に操作すべし •「一気に多重的差別化できるようにすべき」 (沼上,2000年,p.248) •メカニズム解明モデル* – 時間をかけて一歩ずつ、辛抱強く変革すべし •「時間発展に伴って集中するべきポイントを移動させる提案」 – 「まず技術開発に資源を投入し、その成果をもって顧客と流通チャ ネルを押さえ、他社の同質化を回避する」(沼上,2000年, p.248) *沼上(2000年,pp.78-83)による命名 11 メカニズム解明は必要か? 因果関係とは何か? •そもそも因果関係とは・・・ – 「因果関係を表す『・・・ならば・・・である(ない)』 には時間が含まれているが、 論理の『・・・ならば・・・である(ない)』 は無時間的なものである。」 •Bateson (1979, 邦訳,p.78) (沼上,2000年,p.245より引用) ∴ 因果関係の立証に、メカニズムの解明は必須! •第4条件のメカニズム解明まで満足すべし •ダイナミクスを明らかにせよ! 12 因果関係とは何か? 因果関係と集合論 現実の因果関係の時間発展 カヴァー法則モデル 集合X 時間を無視 集合X 集合Y 集合Y 沼上(2000年,p.246,図8-3)を一部修正して引用 13 因果関係とは何か? 論理関係=集合の包含関係 • 論理関係の「XならばYである」が成立する二つのケース Y X X≡Y X がY の必要十分条件 X⊂Y X ならば少なくともY である Y だからといって、X だとは必ずしもいえない 沼上(2000年,p.242,図8-2)を一部修正して引用 14 因果関係の考え方の相違 原因 X 因果関係とは何か? 結果 Y • 因果関係 • 経験主義的 カヴァー法則モデル – 統計的な一般化を重視 X Y メカニズム解明モデル •原因と結果の関係が、何度 くり返しても安定的に観測 できるなら、ブラックボックス の中身を開く必要はない • 合理主義的 X Y – 必然的な因果経路の連鎖 の解明を重視 沼上(2000年,p.79,図3-1)を一部修正して引用 15 因果関係とは何か? 社会科学的方法論 •経営学における変遷 – 解釈学的研究(解釈社会学的研究) •1950~1970年代初頭 メカニズム解明モデル – 実証主義的研究(法則定立的研究、構造機能主義的研究) •1970年代~現在 カヴァー法則モデル – 両者の対話を目指して・・・ •「行為の経営学」の提案(沼上,2000年) – 変数システム観から行為システム観へ – 「意図せざる結果」の復権へ 16 因果関係とは何か? 図.因果関係の4条件 原因 時 刻 因果関係 結果 • 因果関係がある = 先後関係がある かつ 相関関係がある かつ 擬似相関でない かつ 媒介メカニズムが解明される あっても変動しない 時 刻 原因 先後関係 結果 原因 相関関係 要因 原因 原因 メカニズム ×擬似相関 結果 結果 結果 1. 先後関係あり 2. 相関関係あり 3. 擬似相関なし 4. メカニズム解明 17 討議テーマ 因果関係とは何か? • 次の問題をよく読んで次の各点についてBBS上で議 論せよ。 1. 因果関係が正しく示されているかどうか 2. さらに、ここで提議されている因果関係を示すには どのような研究結果が必要か • 次に示す新聞記事(読売新聞,1999年6月18日)に よると、子どもたちが「キレる」行動を取る原因は、バラ ンスの悪い食事が引き起こす脳の栄養失調であると 主張されている。このことが正しければ、食生活指導 を充実させれば子どもたちの「キレる」行動が減ること になる。 18 討議テーマ 因果関係とは何か? ◆食事乱れて「キレる」?脳の栄養失調が深刻 子供たちの乱れた食事が「キレる」行動と関係するのではないか――と文部省 は先週、食生活指導を充実させるよう都道府県教育委員会に対し通知した。 広島県・福山市立女子短大の鈴木雅子教授も「欠食や、栄養バランスの悪い 貧しい食生活が、子どもたちをいらつかせ、生きる基盤を揺るがしている」と警 告する。その根拠となる研究報告はこうだ。 福山、尾道両市内の中学生の男女計1169人に対しアンケート調査を行った。 「毎朝、朝食を食べますか」「1週間に3日以上、大根、ごぼうなどの根菜類を 食べていますか」「ラーメン・カップめんはよく食べますか」など食生活について 13問を質問。一方、健康状態も「いらいらすることが多いですか」「腹が立つ ことが多いですか」などと10問に答えてもらい、両者の相関関係を比較した。 19 討議テーマ 因果関係とは何か? 食生活を良い方からA―Eの5グループに分けた結果、食生活が最も悪いEグ ループの女子全員が「腹が立つ」と答えた。「すぐカッとなる」のは、食事のバラ ンスが良いAグループの女子は1割に過ぎないが、Eグループでは3人に2人 の割合でいた。友達らを「いじめている」人は、Eグループの男子で4割もいる のに対し、Aグループでは1人もいなかった。 「脳の重さは全体重の2%程度だが、全エネルギーの20%も消費する大食漢。 脳活動に必要不可欠なミネラル、ビタミン、たんぱく質が不足した食事をとっ ているD、Eグループは、脳における栄養失調を起こしている」と鈴木教授。 食事改善のポイントとして、〈1〉旬の野菜や海藻を多く使い、食材の種類を増 やす〈2〉インスタント食品はできるだけ使わず、使う時は材料、添加物のチェッ クする〈3〉でんぷん、たんぱく質、脂質の摂取を6・3・2の割合にする――を挙 げる。 • 【脳の栄養失調でキレる!?】FINE-club~健康で元気な暮らし情報,FINE-club, http://www.fine-club.com/child/kids/kireru.html(2006年3月6日アクセス) 20 参考文献 因果関係とは何か? [1] Lazarsfeld, Paul F. 1955. "Foreword." In Survey Design and Analysis: Principles, Cases, and Procedures, by Herbert Hyman. New York: Free Press. [2] Wikipedia, 「先後関係と因果関係」,http://ja.wikipedia.org/wiki/先後 関係と因果関係 (2006年3月5日アクセス) [3] 沼上幹,『行為の経営学(経営学における意図せざる結果の探究)』,白桃 書房,2000年3月6日. [4] 小笠原喜康,『議論のウソ』,講談社現代新書 1806,講談社,2005年9 月20日.少年非行の増加、ゲーム脳の恐怖、携帯電話の悪影響、ゆとり教育 批判の4つにおけるウソを検証。 [5] Singleton, Royce A., Jr., Bruce C. Straits, and Margaret M. Straits, Approaches to Social Research, (2nd Edition), New York, Oxford University Press, 1993. [6] Hyman, H. H., Survey Design and Analysis, Glencoe, IL, Free Press, 1955. [7] Hirschi, T., and H. C. Selvin, Delinquency Research: An Appraisal of Analytic Models, New York, Free Press, 1967. 21 参考文献 因果関係とは何か? [8] Bateson, Gregory, Mind and Nature: A Necessary Unity, New York, Bantam Books, 1979. (佐藤良明訳,『精神と自然:生きた世界の認識論』, 思索社,1982年) [9] 読売新聞,「食事乱れて『キレる』?脳の栄養失調が深刻」,1999年6月18 日. [10] FINE-club, 「 【脳の栄養失調でキレる!?】FINE-club~健康で元気な 暮らし情報」,http://www.fine-club.com/child/kids/kireru.html(2006年 3月6日アクセス) 22
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