金属ガラス総合研究センター - Act IMR 金属材料研究所のアクティビティー

30. 金属ガラス総合研究センター
センター長・教授
牧野 彰宏
【構成員】
センター長・教授:牧野 彰宏/准教授:木村 久道、横山 嘉彦、湯葢 邦夫、ベロスルドフ ロディオン
助教:シャルマ パ-マナント、吉年 規治
技術職員:村上 義弘、野手 竜之介(2012.10~)、戸澤 慎一郎、菅原 孝昌、野村 明子、大村 和世、成田 一生、
原田 晃一/再雇用技術職員:大久保 昭
客員教授[8 名]/教育研究支援者[1 名]/技術補佐員[3 名]/事務補佐員[5 名]/大学院生[4 名]/研究生[1 名]
※延べ人数
-------------------------------------------------------------------------------------教授(兼): 後藤 孝、我妻 和明、高梨 弘毅、宇田 聡、今野 豊彦、米永 一郎、千葉 晶彦、杉山 和正、
折茂 慎一、吉川 彰/准教授(兼):宇佐美 徳隆、山浦 真一、加藤 秀実/技術職員(兼)齊藤 今朝美
【研究成果】
1.ミクロ組織制御材料合成研究部
新しい機能特性を持つナノ結晶軟磁性材料などの研究・開発、およびこれらの実用化研究を行い、
下記のような研究成果を得た。
(1) 約 85at%の高い Fe濃度をもつ新ナノ結晶軟磁性材料薄帯の開発研究の一環として、ナノ結晶
Fe-Si-B-P-Cu 合金の軟磁性および構造特性に与える Si の P による置換の効果を調査した。その結果、
平均直径 14nm の均一析出α-Fe を含むナノ結晶 Fe83.3Si8B8P8Cu0.7 合金は、1.0T-50Hz で 1.4 W/kg の低
磁心損失と 1.70T の高飽和磁束密度を両立することが明らかになった。従来の Fe 基アモルファス合金
と比較して低磁心損失および高飽和磁束密度を示す Fe83.3Si8B8P8Cu0.7 合金は、変圧器、インダクタンス
コイルおよびモータのような電子デバイス中の磁気コア材として適しており、経産省の大型国家プロ
ジェクトおよび企業との共同研究を通じて、省エネの実現に向けた実用化に資する研究を展開した。
(Ref.1)
(2) ナノファイバー/層状組織で強化された高導電性亜共晶 Cu-Zr 合金の応用範囲を拡大するため、
粉末冶金法による研究を行った。その結果、高圧 Ar ガスアトマイズ Cu-4.5at%Zr 合金粉末の押出し材
を加工度η(η =ln(Ao/A)、Ao、A は、それぞれ加工前、加工後の断面積)1.9 で伸線加工し直径 5mm 線材
の導電率(EC)、ヤング率(E)および密度(ρ)は、それぞれ 49.9%IACS、131GPa、8.78g/cm3 である。
さらにη =5.1 まで伸線加工した直径 1mm 線材の EC は 35.4%IACS である。焼結温度 1123 K で作製した
Cu-4.5at% Zr 合金放電プラズマ焼結(SPS)材の組織には、亜共晶が分解することなく存在しており、
熱的に安定である。この SPS 材の EC、ビッカース硬さ(Hv)、E およびρは、それぞれ 50.0%IACS、152、
130GPa、8.80g/cm3 である。ことなどを明らかにした。(Ref.2)
(3) 急冷凝固した亜共晶 Cu-4, Cu-5at%Zr 合金を、加工度η=5.9 以上で伸線加工を行い、機械的・電
気的特性とミクロ組織との関連性を調べた。その結果、直径 40μm(η=8.6)の Cu-5at%Zr 合金線材の
最大引張強度、0.2%耐力、破断伸びおよび導電率は、それぞれ 2234MPa、1873MPa、4.2%、16%IACS で
ある。この線材では、①ナノファイバー状のα-Cu 相と Cu9Zr2 化合物相が発達し、Cu 相内には②変形双
晶、化合物相内には③ナノアモルファス相の生成が認められる。加工に伴う強化は①、②、③による
複合則や①、②、③などの相乗効果によるものと推察できる。強加工後でも良好な導電率を示したの
は、α-Cu 相中に高密度な転位や異相界面などが観察されないためである。ことなどを明らかにした。
(Ref.3)
(4) Zr-Cu-Al 系は高いガラス形成能を有する合金系である。現在、大形状の Zr-Cu-Al 金属ガラス試料
を鋳造するためには、それに適した装置が用いられている。こうした装置を利用する理由の一つに、
表面の酸化被膜などを起点に発生する不均一核生成、すなわち、結晶化を抑制する効果があることが
指摘されている。そこで、バルク金属ガラスの鋳造に特化した装置ではなく、一般的に普及している
液体急冷装置と、酸化被膜からの結晶化を抑制するために新たにデザインした鋳型を組み合わせて、
直径が数 mm 程度の金属ガラス棒状試料の作製を試みた。作製した試料はいずれも金属ガラスに特有の
表面光沢を示した。そのうち、表面光沢のある直径 2.4mm,長さ約 80mm の丸棒は、ほぼ全体が金属ガ
ラスであった。この丸棒から切り出したいくつかの円盤状試料について、ナノインデンテーション法
によりヤング率を測定したところ、これまでの文献値と近い値を示した。本研究で用いた鋳型によっ
て、直径が数 mm の棒状試料を容易に作製できると期待される。
(Ref.4)
Ref.1
Akiri Urata, Makoto Yamaki, Masahiko Takahashi, Koichi Okamoto,
Hiroyuki Matsumoto, Shigeyoshi Yoshida and Akihiro Makino
Low Core Loss of Non-Si Quaternary Fe83.3B8P8Cu0.7 Nanocrystalline Alloy with high Bs of
1.7 T
Journal of Applied Physics, 111 (2012), 07A335-1-07A335-3
Ref. 2 木村久道、村松尚国、井上明久、大久保 昭
Cu-4.5at%Zr合金粉末冶金材の電気的・機械的性質
銅と銅合金、50[1] (2011), 75-79.
Ref. 3 N. Muramatsu, H. Kimura and A. Inoue
Development and Microstructure of Cu-Zr Alloy Wire with Ultimate Tensile Strength of
2.2GPa
Materials Transactions, 53[6] (2012), 1062-1068.
Ref. 4
T. Yamamoto, H. Kimura and A. Inoue
Radial and longitudinal variations in the Young's modulus of a Zr55Al10Ni5Cu30 bulk
metallic glass rod
Materials Science and Engineering A, 534 (2012) 459-464.
2.ナノ構造制御機能材料研究部
新しい機能特性を持つ新素材(アモルファス合金や鋳造ガラス合金など)の研究・開発、およびこ
れらの実用化研究を行い、下記のような研究成果を得た。
優れた精密成形性や機械的性質を利用して、ガラス相と結晶相からなるコンポジットが高比強度構
造材料やマイクロ部品等に実用化されつつある。しかし一方で、疲労や凝固解析そして製造プロセス
と言った実用化のための基礎研究または根幹となる技術開発が十分でないことも否めない。そこで、
優れた諸特性を生かして実用化するために、ナノスケールでの組織制御を可能にする新しい金属冶金
学的アプローチを試み、既存の結晶材料では到達し得ない材料としての限界に挑戦してきた。今年度
に得られた研究結果を以下に記す。
(1) 金属ガラスの曲げ延性を改善する目的で、表面をスパッタした金属ガラス被膜、結晶質被膜およ
びそれらの複合被膜で被覆する表面改質を行った。得られた表面改質した試験片は、曲げ延性が改善
されており、特に Ti 被膜を緩衝とする金属ガラス被膜を用いることで曲げ延性は桁違いに改善されて
いる。(Ref.1)
(2) 均質な塑性変形を実現する目的で、金属ガラスを強加工した素材について、ナノインデンター装
置を用いて局部的な押し込み変形を行った。結果として、強加工した金属ガラスは剪断帯を伴うこと
なく均質な押し込み変形をしていることが分かった。また、熱処理することでこの均質変形は見られ
なくなり剪断帯を伴う変形になるが、強加工することで均質変形は再現するように、延性・脆性遷移
の可逆性が見られた (Ref.2)
(3) 溶融合金の有する曳糸性は液体合金を融点以下にすることで大きく増長される。また、ガラス形
成合金は過冷却状態が比較的安定で、曳糸性に優れた液体を得ることが可能である。そこで、低温で
ガスアトマイズする方法を考案してナノワイヤーを量産することに成功した。(Ref.3)
(4) 鉄白金(FePt)L10 を用いた記録メディアの作製を行った。(Ref.4)
(5) MEMS を用いて作製した金属ガラスのマイクロミラーの開発を行った。(Ref.5)
(6) 鉄系金属ガラスの諸特性を活かしたマイクロ部品を作製するために、核発生を抑えた微小球形粒
子 を パ ル ス 圧 力 付 加 オ リ フ ィ ス 噴 射 法 で 作 製 し た 。 [(Fe0.5Co0.5)0.75Si0.05B0.2]96Nb4 お よ び
[(Fe0.8Co.2)0.75Si0.05B0.2]96Nb4 を用いて体積制御された単分散粒子それぞれ作製し、ガラス形成能や熱的
安定性についても調査を行った。(Ref.6)
(7) 鉄系金属ガラスの粘性係数を測定するために微小球形粒子 1 つを圧縮することにより粘性係数を
評価する新しい方法を提案した。(Ref.7)
Ref.1
Jinn P. Chu, J.E. Greene, Jason S.C. Jang, J.C. Huang, Yu-Lin Shen, Peter K. Liaw,
Yoshihiko Yokoyama, Akihisa Inoue, T.G. Nieh
Bendable bulk metallic glass: Effects of a thin, adhesive, strong, and ductile coating
Acta Materialia 60 (2012) 3226–3238.
Ref.2
Fanqiang Meng, Koichi Tsuchiya, Seiichiro II, and Yoshihiko Yokoyama
Reversible transition of deformation mode by structural rejuvenation and relaxation in
bulk metallic glass
Applied Physics Letters 101, (2012) 121914.
Ref.3
Koji S. Nakayama, Yoshihiko Yokoyama, Takeshi Wada, Na Chen and Akihisa Inoue
Formation of Metallic Glass Nanowires by Gas Atomization
Nano Letters, 12 (2012) , 2404-2407.
Y. Wang, P. Sharma and A.Makino
Ref.4
Magnetization reversal in a preferred oriented (111) L10 FePt grown on a soft magnetic
metallic glass for tilted magnetic recording
Journal of Physics : Condensed Matter,Vol.24, (2012) 076004.
P. Sharma, N. Kaushik, A.Makino, M. Esashi and A.Inoue
Ref.5
L10 Fe Pt(111)/glassy CoFeTaB bilayered structure for patterned media
Journal of Applied Physics Vol.109, (2011) 07B908.
Masahiro Fukue, Noriharu Yodoshi, Rui Yamada, Akira Kawasaki
Ref.6
Critical Cooling Rates of Mono-Sized Fe-Based Glassy Particles in
[(Fe0.5Co0.5)0.75Si0.05B0.2]96Nb4 System
Journal of the Japan Institute of Metals, 10 (2012), 573-578.
Noriharu Yodoshi, Rui Yamada, Akira Kawasaki, Ryuzo Watanabe
Ref.7
Evaluation of viscosity for Fe-based metallic glass in the supercooled liquid region by a
single-particle compressive test
Scripta Matelialia, 67 (2012), 971-974.
3.材料設計研究部
今年度に得られた研究成果の主なものを以下に示す。
効果的なCO2分離を実現する新規吸着材料を開発するため、第一原理計算を適用し、清浄ないしは原
子ドープされたCaO (001)表面上でのCO2吸着過程を研究した。CO2吸着エネルギーに対するCaOへのアル
カリ土類金属酸化物の添加効果の詳細を検討した。(Ref.1)化合物ないしは固溶体形成によるCaO表面
の構造変化が吸着エネルギーを変え、例えばCaO/BeO表面へのCO2吸着過程においては大幅な改善が期待
される。
(1) 金属ガラスの構造的、動的、熱力学的性質を第一原理分子動力学(MD)及び格子力学(LD)シミュレ
ーションによって研究した。Zr50Cu40Al10及びZr60Cu30Al10系を対象とした。急冷過程でZr-Cu-Al系の動的
性質が変わり、系はガラス転移温度近傍で安定化する。算定したギブス自由エネルギーにより、ガラ
ス転移温度以上ではZr-Cu-Al系はエネルギー表面の極小値に対応するガラス状態に到達する。算定し
た部分状態密度により、Zr50Cu40Al10とZr60Cu30Al10系がガラス状態になる時に、電子状態に大幅な変化が
見られることが分かった。
(2) 複数ケージ占有、ホスト格子緩和、及びゲスト分子の量子効果に関する独自アプローチが、複数
ゲスト分子充填可能な純水素及び2元 C2H6+H2 水和物の熱力学的性質の算定に適用された。(Ref.2)
CS-I 水和物の安定化は H2-C2H6-H2O 系において、気相で少量のエタンガスに対しても低圧化で可能であ
る。しかし、この場合、水素貯蔵量は、気相におけるエタン量に強く依存する。低濃度のエタン環境
の CS-I 水和物において、2.5wt%の水素貯蔵が 250K で可能である。本研究手法は2元系水和物の熱力
学的性質を理解するために有用である。また、クラスレート水和物による水素貯蔵材料の実験結果の
正当性が確認された。
(3) オゾン、酸素、及びオゾンー酸素混合水和物の構造的、動的、及び熱力学的性質を研究した。これ
らの水和物の熱力学的安定領域が解明された。オゾンは高圧下、230K 以下で水和物を形成する。2元
水和物形成圧力が、気相におけるオゾン濃度に強く依存することが示された。気相において 5mol%のオ
ゾン濃度で、水和物中のオゾン量は 40%に達する。(Ref.3)
CH4とO3分子によりケージの全てまたは一部を占有させた各種水分子クラスターの熱力学安定性を
調べ、これらの水和物形成過程における水和物核形成機構の役割を明らかにした。(Ref.4)メタン分
子により占有された小さい水分子のキャビティ形成はメタンガス水和物形成の最初のステップであ
る。周囲の水分子による水素結合で小さいキャビティを形成した後は、少数の水分子でも安定な水素
結合ネットワークを形成するに十分であることが明らかになった。キャビティの接合を防ぐために、
小さいケージ間のメタン分子の存在は重要である。さらに、オゾン分子と水分子ホスト構造間の相互
作用エネルギーの値はゲスト分子がメタン分子の系における値に近いために、オゾン分子は小さいケ
ージを安定化させることができることを示すことができた。しかし、オゾン分子は大きなキャビティ
構造に影響を及ぼすため、水和物構造を安定化するために第2ゲスト分子を必要とする。
Ref.1
K. Sasaki, K. Wakuta, N. Tokuda, R. V. Belosludov, S. Ueda, Y. Kawazoe and T. Ariyama,
Experimental Study and Atomic Level Description of Adsorption Process of CO2 on doped
alkaline Earth Oxide– ISIJ International 52 (2012) 1233-1240.
Ref. 2
R. V. Belosludov, R. K. Zhdanov, O. S. Subbotin, H. Mizuseki, M. Souissi, Y. Kawazoe and
V. R. Belosludov
Theoretical Modelling of Phase Diagrams of Hydrogen Storage Applications.
Molecular Simulation 38 (2012) 773-780.
Ref.3
O. S. Subbotin, T. Adamova, R. V. Belosludov, H. Mizuseki, Y. Kawazoe and
V. R. Belosludov.
Theoretical Investigation of Ozone Hydrate Formation Conditions
J. Str. Chem. 53 (2012) 627-633.
Ref.4
R. V. Belosludov, H. Mizuseki, M. Souissi, Y. Kawazoe, J. Kudoh, O. S. Subbotin,
T. Adamova and V. R. Belosludov.
An atomistic Level Description of Guest Molecule Effect on the Formation of Hydrate
Crystal Nuclei by ab initio Calculations.
J. Str. Chem. 53 (2012) 619-626.
4.バルク結晶構造制御材料研究部
新規機能性化合物の創製および単結晶合成に取り組んだ。以下に主たる研究成果を記す。
(1) 2 次元ネットワークを持つ層状化合物α-REAlB4 (RE = Ho ~ Lu)におけるタイリング欠陥とそれ
が物性に与える影響について着目した。Al 自己フラックス法によって合成(冷却速度 50 K·h-1)され
た単結晶は、灰色で板状またはプリズム状の外形を持っており、最大 4.5 mm 程度のサイズであった。
RE = Ho, Er 試料のビッカース硬さは、RE = Tm, Yb, Lu のそれに比べると大きく、希土類元素による
化学結合の違いを反映していると考えられる。磁気転移ネール点以下で複数の相転移が起きるα
-TmAlB4 について、一見直観に反した結晶育成方法(従来より大きな冷却速度 200 K·h-1)で、これま
で intrinsic に導入されると考えられていたタイリング欠陥の無い TmAlB4 の単結晶育成に成功した。
詳細な単結晶X線解析で、それまで他の結晶で必ず検知されていたタイリング欠陥はなかった(TEM
観察でも同様に、以前 TmAlB4 で直接確認されたタイリング欠陥も見つからなかった)
。タイリング欠陥
のある通常の結晶と、タイリング欠陥フリーの結晶の比熱を評価して、タイリング欠陥が顕著に比熱
に影響を及ぼすことが明らかになり、材料設計に有効な指針を示した。(Refs.1&2)
(2) Ta 基板表面に NaTaO3 結晶層をビルドアップ形成した。Ta 基板表面での結晶層形成では、目的結
晶の Ta 成分を基板から供給し、Na 源兼フラックスとして基板表面に塗布した NaNO3 との反応を利用し
た。その結果、Ta 基板表面に立方体結晶が緻密に成長し、膜厚約 150 nm の NaTaO3 結晶層を形成出来
た。NaTaO3 結晶層を NH3 気流中で加熱することによって、Ta3N5 結晶層への変換に成功した。TEM 観察
から、この Ta3N5 結晶は、前駆体 NaTaO3 結晶層の結晶サイズや形状を維持したままポーラス形状に変
化したこと(窒化前後で膜厚に変化がなく、立方体結晶の内部までポーラスになっている)が明らか
になった。(Ref.3)
(3) 透明伝導体 (HoxIn1−x)1.9Sn0.1O3(Ho ドープ ITO)をマトリックスとし、Fe3O4 ナノ粒子を分散させ
たコンポジット材料を合成し、コンポジットのマトリックス中に導入された局在磁気モーメントがコ
ンポジットの磁気特性に与える影響について調査した。x=0.05 試料は、電気抵抗の極小と負の磁気
抵抗効果を示した。Fe3O4 ナノ粒子/Ho ドープ ITO コンポジットの飽和磁化は、Fe3O4 ナノ粒子単体の
それに比べると、1.3 倍になっている。この磁化の増大は、Fe3O4 ナノ粒子から拡散したキャリアのス
ピンとマトリックス中の局在磁気モーメントが交換相互作用によって互いにスピンの向きを平行に
揃えたことを示唆しており、マトリックスに局在常磁性モーメントを導入することにより Fe3O4 ナノ
粒子間を移動するキャリアのスピン緩和を抑制出来た。(Ref.4)
Ref. 1
S. Okada, T. Mori, K. Kudou, K. Yubuta, T. Shishido,
Crystal Growth and Some Properties of α-REAlB4 Type (RE=Ho, Er, Tm, Yb and Lu)
Compound
J. Flux Growth, 7(2012), 6-9.
Ref. 2
T. Mori, I. Kuzmych-Ianchuk, K. Yubuta, T. Shishido, S. Okada, K. Kudou, Y. Grin,
Direct Elucidation of the Effect of Building Defects on the Physical Properties of
alpha-TmAlB4; An AlB2-type Analogous “Tiling” Compound
J. Appl. Phys., 111(2012), 07E127-1-3.
Ref. 3
S. Suzuki, K. Teshima, K. Yubuta, S. Ito, Y. Moriya, T. Takata, T. Shishido, K. Domen,
S. Oishi,
Direct fabrication and nitridation of a high-quality NaTaO3 crystal layer onto a tantalum
substrate
Cryst.Eng.Comm, 14(2012), 7178-7183.
Ref. 4 M. Tanabe, T. Manabe, S. Kohiki, M. Mitome, K. Yubuta,
Effects of (HoxIn1−x)1.9Sn0.1O3 matrix on magnetization of dispersed Fe3O4 nanocrystals
Phys. Status Solidi A, 209(2012), 2570-2573.
【研究計画】
1.
ミクロ組織制御材料合成研究部
下記に示す新ナノ結晶材料を中心とした研究・開発、およびこれらの実用化研究を行う。
(1)新ナノ結晶 Fe-Si-B-P-Cu 系合金の合金組成最適化を実験的手法により行うとともに、モータや
トランス等の応用化、実用化に向けて、シミュレーション等の計算的手法を併せて実施し、その効率
化向上の予測を行う。得られた結果を総合的に判断し、材料組成、熱処理の最適化を行う。
(2)急冷効果を増加できる新たな粉末作製装置を開発し、優れた軟磁気特性有する急冷粉末の作製
を試み、さらにそのバルク化も行う。上述の(1)を含め様々な企業と連携した共同研究を遂行する。
2.
ナノ構造制御機能材料研究部
融体をスタート材として固化したランダム構造体には未知な部分が多く、様々な可能性を秘めて
いる。新しいランダム構造体の創製は、新規な機能性を具現化するポテンシャルを有する。しかし、
一方で新素材を実用化するためには信頼性を得ることも重要である。このように、アモルファス合金
や鋳造ガラス合金をはじめとする多種多様の新材料の創製およびその実用化をするため、当センター
の特徴を活かして幅広い共同研究を推進していく。今年度の研究計画を以下に記す。
(1)実用化を視野に入れた素形材マイクロファクトリーの開発
(2)優れた機械的性質を有する新しい鉄基アモルファス合金の開発
(3)機械的性質およびマイクロ成型性に優れた亜共晶金属ガラス薄膜の開発
(4)生体応用を踏まえた亜共晶組成 Zr 基金属ガラスの開発
(5)曳糸性を利用して成形したナノワイヤーを用いた磁気センシング材料の開発
(6)優れた硬質被膜形成能を有する溶射用鉄基ヘテロアモルファス合金の開発
(7)優れた軟磁気および硬磁気特性を有する磁性材料とその複合材料の開発
(8)鉄系金属ガラス粘性係数の温度依存性の調査
(9)鉄系金属ガラスの応力緩和挙動
(10)単分散鉄系金属ガラス粒子の粘性流動成形加工を用いた高機能マイクロ部品の作製
3.
材料設計研究部
今年度は以下の研究計画に従って研究を進める。
(1) クラスレート水和物を用いた新規温室効果ガス貯留材料
温室効果ガスを貯蔵する材料の実現を目指して、多成分ゲストを入れたクラスレート水和物の熱力
学的形成条件と安定性を評価する。広範な圧力・温度領域において、我々のグループが開発している
原子レベルの理論モデルを様々な構造を有する氷と水和物に適用し、それらの構造的、動的、熱力学
的性質を明らかにする。各種水和物構造を持つホスト格子の安定化へのゲスト分子の影響を評価し、
高い温室効果ガス貯蔵能を持つ水和物を実現させるための知見を得る。さらに温室効果ガスを閉じ込
める水和物における自己保存効果の利用可能性を探る。
(2) 気体分離用有機金属フレームワーク(MOF)
Cu2+の様な解放ないしは不飽和金属サイトを有する MOF の吸着能を研究する。例えば、Cu2+サイトを
持つ HKUST-1 上での CO/N2 と CO/H2 ガスの吸着を対象とする。Cu2+と各種気体間の相互作用を算定し、
解放ないしは不飽和金属サイトの役割を解析する。
(3) TiO2 ナノ粒子の触媒性能
TiO2 基触媒をより良く理解するため、第一原理計算を用いて各種 TiO2 表面の原子レベルの情報を
得る。さらに、アナターゼとルータイル構造でのナノ粒子サイズ依存性が異なることが、観測される
化学的性質の違いに関与していることを活用する。我々は 1-10 nm のレンジで最も安定なクラスター
サイズを決定し、対象とする化合物の分解に関する触媒能を評価する。選択した TiO2 構造体への各種
原子ドーピングによる触媒能の改善に関する研究を実施する。
(4) ナノ結晶軟磁性体材料
第一原理分子動力学計算を用いて Fe 基ナノ結晶合金の原子構造、電子的性質、動力学特性を研究
する。計算で得られた二体分布関数(PDF)から特定原子の部分 PDF とナノ結晶合金の部分状態密度を求
め、異なる組成での特性の原子間結合の幾何学的配置、性質を理解する。動的性質の解析から、特性
のクラスター配置の安定性に寄与する原子の役割を理解する。自由エネルギー、ギブス関数、化学ポ
テンシャルの評価により、Fe 基ナノ結晶合金の熱力学性質を解析する。
(5) 量子ドット QD の医療応用
我々のグループで以前に提案したケージ構造をもとに Cd を含む量子ドット QD の安定構造を探索す
る。この計算では、電子状態、振動スペクトル、励起エネルギー等を求め、安定かつ最適な光学特性
を持つ構造を決定する。現像剤のサイズを小さくし、かつ、毒性を抑えることを目的として、極性基
をつけたシリカポリマー殻を用いて特定の QD をカバーした効果を調べる。
4.
バルク結晶構造制御材料研究部
新規機能性結晶材料の創製とその結晶化学的特徴について研究する。加えて、大型単結晶合成につ
いても遂行する。以下の (1)~(5) に注力する。
(1) エネルギー関連材料:中高温域で使用可能な熱電変換材料の開発を目指して、新規化合物の探索
を実施する。遷移金属ケイ化物および金属酸化物を対象に系統的な結晶合成・構造解析を行い、新規
エネルギー関連材料の創製を目指す。
(2) 超硬材料:高温領域において硬度や耐磨耗性の低下を抑制した実用的な超硬材料を得ることを目
的に、新規ホウ化炭化物の合成をはじめとした結晶化学研究を進める。
(3) 量子ビーム応用材料:規則-不規則変態が起こる三元系金属間化合物の cm 超級の単結晶合成を行
う。
(4) マルチフェロイクス材料:異種元素ドープを含めてバルク単結晶、ナノ構造体単結晶、薄膜単結
晶の作製に関する研究を実施する。
(5) 電子基板材料:金属錯体を用いた有機金属気相成長法を用いて、環境調和型の酸化物薄膜基板材
料の基礎研究を行う。熱処理によって結晶配向性と結晶性をコントロールし、高移動度を有する高品
質透明薄膜トランジスタ作製の基本技術の集積に努める。