避難安全検証の概略 - 避難安全検証法 - Avoid HOME

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避難安全検証の概略
関連法律
建築基準法施行令
第 5 章の 2 の 2(避難上の安全の検証)
・ 第 129 条の 2(避難上の安全の検証を行う建築物の階に対する基準の適用)
・ 第 129 条の 2 の 2(避難上の安全の検証を行う建築物に対する基準の適用)
令第 129 条の 2 には階避難安全性能を有している場合に緩和できる項目及び、階避難安全検証
法の大まかな方法が示されています。同じく、令第 129 条の 2 の 2 には全館避難安全性能を有
していた場合の緩和項目及び全館避難安全検証法の方法が大まかに示されています。ただし、具
体的な計算式等は建築基準法施行令では示されていません。
建設省・国土交通省告示
・ 建設省告示第 1440 号(火災の発生の恐れの少ない室を定める件)
・ 建設省告示第 1441 号 (階避難安全検証法に関する算出方法を定める件)
→
第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8
・ 建設省告示第 1442 号 (全館避難安全検証法に関する算出方法を定める件)
→
第1、第2、第3、第4
告示 1441 号には階避難安全検証法、告示 1442 号には全館避難安全検証法の計算式が示されて
います。告示 1440 号は各室が煙の発生源となる火災室とするか非火災室とするかの基準が示さ
れているものになります。
各地方自治体の建築基準法施行条例
地方自治体ごとに定められている建築基準法施行条例の中には避難安全性能を有した場合、緩和
できる項目が条例の中に示されているものがあります。
詳しくは Avoid.jp 「地方自治体の対応」へ
http://www.avoid.jp/taiou.html
ルート A、B、C について
避難関係規定に関する設計手法は以下の 3 方法が用意さていることになります。どの方法
(ルート)を選択するかは設計者の自由に任されています。
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避難関係規定の仕様基準に適合させること。仕様基準に適合しているものは
ルート A
標準的な条件における火災性状や煙流動性、避難行動を想定した場合におい
て、避難安全性能を有していることが確かめられると考えられるそうです。
ルート B
ルート C
告示で定められた避難安全検証法を用いて避難安全性能の検証を行うこと
告示で定められた検証方法以外の方法を用いて避難安全性能の認定を受ける
こと。国土交通大臣による認定が必要となります。
ルート ABC の混在について
階避難安全性能 は階ごとに確かめることができるため、階によって異なるルートを利用するこ
とができます。ただし、同一階での混在は認められていません。
ルート B
ルート A
ルート B
ルート C
ルート B
ルート C
ルート A
ルート B
ルート A
ルート C
ただし、開口部がなく、ある条件以上の壁により区画された当該階の各部分と相互に人等の行き
来がなく、煙の伝播もしない場合、部分的な適用が認められることがあるようです。
『建築物の防火避難規定の解説 2005』P108 8)「ツインビル等の検証方法」
ルート B を採用した場合、建設省告示第 1436 号(火災が発生した場合に避難上支障のある高さ
まで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分を定める件)などとの併用もできなくなります。
『2001 年版 避難安全検証法の解説及び計算例とその解説』P251 質疑 3
適用範囲の制限
構造による制限
建築物の構造が火災により早期に耐力を失うと避難施設等が機能を果たせなくなることから、避
難安全検証法が適用可能な建築物は主要構造部が準耐火構造(令第 108 条の 3 に定める技術的
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基準に適合するものを含む)又は不燃材料であるものに限定されています。
用途による制限
避難安全検証法は基本的に自立で避難できることを前提に避難に要する時間の計算方法が作ら
れています。そのため、病院、診療所、児童福祉施設のように自力で避難することが困難な階又
は建築物には避難安全検証法は適用できません。
適用が除外される規定
避難安全検証法を適用した場合に適用が除外される規定については「避難安全検証法に関連する
表」http://www.avoid.jp/hinan/download.htmlもしくは
『2001 年版
避難安全検証法の解
説及び計算例とその解説』P17 の表をご覧下さい。緩和可能である主な規定及び傾向などは次
のようになります。
・ 避難安全検証法を適用した場合、防煙区画は 1500m2 ごと。
・ 防煙垂れ壁の高さは 300mm から有効。
・ 排煙設備削減目的の階避難安全検証法適用が多い。
・ 平屋建ての場合、階避難安全性能を満たせば全館避難安全性能もあるものとすることがで
きる。
『2001 年版 避難安全検証法の解説及び計算例とその解説』P259 質疑 20
・ 全館避難安全検証法の適用は店舗の階段を削減するのを目的としたものが多い。
・ 直通階段までの歩行距離の緩和は階避難安全検証法で可能。ただし、二方向、重複距離の
緩和は不可。
・ 竪穴区画の除外を目的に全館避難安全検証法を適用する場合、従来の設計方法のままでは、
判定はほぼ NG
全館避難安全検証法の適用について「店舗系用途の場合」
http://www.avoid.jp/gmember/hinan/basic/calc_buiding/1-2.html
避難安全検証法の計算概要
検証法の種類
避難安全検証法には次の 2 種類があります。
(1)階避難安全検証法
居室単位の避難安全検証法と階全体の避難安全検証法から構成されています。階避難安全性
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能を確認するには、全居室の居室単位の避難安全検証の判定と階全体の避難安全検証の判定
を OK にする必要があります。
(2)全館避難安全検証法
全館避難安全検証法を適用するには、すべての階が避難安全検証性能を有していることを階
避難安全検証法により確かめる必要があります。
避難安全検証法の基本的流れ
避難者が避難を終了するまでの時間(tescape)と煙がある高さまで降下してくる時間(ts)を求
め、比較することで避難安全性能があるかどうかを判定します。
避難時間(tescape)≦ 煙降下時間(ts)であれば避難安全性能があることになります。
避難時間
避難時間(tescape)は次の 3 つの時間を合計することで求めます。
(1) 避難開始時間 (tstart)
避難者が火災を認知し、避難を開始するまでの時間。存在している室の床面積から求めま
す。
(2) 歩行時間 (ttravel)
避難者が出口までに到達する時間です。歩行距離と歩行速度から求めます。
(3) 出口通過時間 (tqueue)
出口の前に滞留している避難者が全員通過するまでの時間です。主に扉の幅や避難者の数
などによって求められます。
※各時間の求め方は、検証法(居室・階・全館)によって異なります。
以上、3 つの時間を求め、合計したものが 避難時間 (tescape) になります。
避難時間(tescape) = 避難開始時間(tstart) + 歩行時間(ttravel) + 出口通過時間(tqueue)
煙降下時間
煙がある高さまで降下してくる時間を求めます。
「ある高さ」は検証の種類(居室・階・全館)
によって異なります。
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居室単位の避難安全検証の場合
階単位の避難安全検証の場合
居室で発生した煙がその居室において避難上支障のある高
さまで降下してくる時間。
火災室で発生した煙が直通階段への出口を有する室におい
て避難上支障のある高さまで降下してくる時間。
告示上は「火災室で発生した煙が、階段の部分又は直上階以
上の階に流入するまで」とあるが、たて穴へ進入した後の煙
全館避難安全検証の場合
拡散は非常に早く複雑であることから、たて穴へ煙が進入し
たと同時に上階への煙が流入するものとしている。したがっ
て、火災室で発生した煙が直通階段又はたて穴に面する室に
おいて限界煙層高さまで降下してくる時間となる。
Avoid.jp 仕様設計と性能設計の違い 「限界煙層高さ(Hlim)」
http://www.avoid.jp/sample-tutorial/difference/hlim.html
事前確認
検証計算前に確認すること
「1 室の範囲」など設計者と審査機関では解釈・判断が異なることがあります。そして、そ
れにより計算内容、ひいては判定結果が異なるものとなってしまうことがあります。手戻
り等を防ぐため、異なる判断となりそうな部分はあらかじめ確認を取るようにします。
(1)室の区分の確認
検証計算は「1 室」を一つの単位として計算を進めます。そのため、「1 室の範囲」は検証計算
にとってとても重要な事柄の一つです。次の内容を確認した上、全ての室(階段を含めて)の区
分を確認しておいてください。
・ 避難安全検証法の計算は火災時の状態を想定して行います。火災時に閉鎖するシャッター
などで区画される部分は独立した 1 室として扱うことになります。
『2001 年版 避難安全検証法の解説及び計算例とその解説』P35
・ 図面上、室の役割・使用状況やパーテーション・三方枠などで緩やかに区画されている部
分がある場合、 『2001 年版
避難安全検証法の解説及び計算例とその解説』の次の部
分などを参考にして審査機関と協議の上、1 室の範囲を決定します。
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『2001 年版 避難安全検証法の解説及び計算例とその解説』
P.34
「・・・室の一部が天井から床までのしっかりとした間仕切壁で仕切られている部分は、
独立した室として扱うことになる。・・・」
P.253
質疑応答 7 「区画の構成材料は避難完了まで区画を越えて延焼しないものとする必要
があります。
」
P.253 質疑応答 8 「室の大きさ、開口の大きさに応じて判断することになります。 例えば、
開口の大きさが通常考えられる出入り口程度の大きさであれば、2つの居室 とみなしま
す。また、開口が大きくなれば1つの居室とします。
」
Avoid.jp 仕様設計と性能設計の違い 「1 室の範囲」
http://www.avoid.jp/sample-tutorial/difference/room_range.html
・ 室の面積は壁芯で行います。
『2001 年版 避難安全検証法の解説及び計算例とその解説』196 以降
(2)直通階段の範囲の確認
避難安全検証法の計算では避難者や煙が直通階段までに到達する時間を求めて検証判定を行い
ます。直通階段が壁や建具で明確に区画されている場合は問題ありませんが、廊下などとの境界
がはっきりしていない場合、どこからが直通階段なのかあらかじめ明確にしておく必要がありま
す。場合によっては垂れ壁の設置等で境界を定めることがあります。
(3)検証計算に関係する建具の確認
・避難安全検証法の計算は火災時の状態を想定して行います。したがって、火災時に閉鎖
するシャッターなども検証計算に影響することになります。
・間仕切壁に配置されている建具は扉の他、窓、シャッターも全て検証計算に関係します
例え FIX 窓であっても煙伝播の対象となります。
『2001 年版 避難安全検証法の解説及び計算例とその解説』P267 質疑 35
(3)高さ関係の確認
・ 避難安全検証法では煙降下に関する計算を行うため、室の天井高さや建具の高さ、取付位
置など、高さに関係する情報も明確にしておきます。
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・ 室の天井面がフラットでない場合、平均天井高さを求めておきます。
Avoid.jpTips(基礎編) 「床・天井に段差がある場合の入力について」
http://www.avoid.jp/tutorial/hinan/tips/tutorial_floor_ceiling.html
・ 室内の床面に段差がある場合、一番高いところが各高さを算定する際の「基準点」になり
ます。また、一般的に床面に段差があると検証判定には不利になります。
Avoid.jp 仕様設計と性能設計の違い 「床面の段差」
http://www.avoid.jp/sample-tutorial/difference/difference_in_rank.html
(4)居室/非居室 及び 火災室/非火災室の確認
・ 避難安全検証法の計算では「居室」と「火災室」では扱いが異なります。
居室
火災時には在室者が存在していることが前提となる室。居室単位の検証計算を行
い、検証判定を OK にする必要があります。また、居室は必ず火災室扱いとな
ります。廊下やトイレなど頻繁に人の往来する部分であっても短時間の利用であ
れば非居室となる(
『2001 年版
避難安全検証法の解説及び計算例とその解
説』P34)。
火災室
出火、煙が発生する可能性のある室。非居室でも可燃物が保管されている場合は
火災室となる。
・ 各室が居室か非居室扱いとなるのかを確認します。基本的には「継続して利用する
( 『2001 年版 避難安全検証法の解説及び計算例とその解説』P34)」室が居室扱いと
なります。居室かどうかの判断は
『2001 年版
避難安全検証法の解説及び計算例と
その解説』P34 が参考になりますが、判断に迷う場合は審査機関と事前協議を行います。
・ 各室が火災室なのか非火災室となるのかを決定します。居室は必ず火災室となります。一
方、非居室でも可燃物が多く保管されるような室は火災室扱いとなります。非火災室とな
る室については建設省告示第 1440 号 (火災の発生の恐れの少ない室を定める件)で示さ
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れているほか、 『2001 年版
避難安全検証法の解説及び計算例とその解説』P34 の表
3.2.1 なども参考にします。
Avoid.jp 仕様設計と性能設計の違い 「火災室か非火災室か?」
http://www.avoid.jp/sample-tutorial/difference/kasaiorhikasai.html
・ 例え不燃物が保管される非居室であっても内装の仕上材が準不燃よりも下位の仕上材であ
る場合は火災室扱いとなります。
(5)在館者密度 P(人/m2)、歩行速度v(m/分)
、積載可燃物の発熱量 ql(MJ/m2)の決定
・ 各室に在館者密度 p(人/m2)、歩行速度 v(m/分)、積載可燃物の発熱量 ql(MJ/m2)
をあてはめていきます。
・ 各数値は室の使用状況などから判断、決定することになりますが、実際には図面に記載さ
れている「室名」から判断されることが多いようです。そのため、「室名」は室の使用状
況を反映した正しいものにする必要があります。
・ 非居室は在館者密度 p(人/m2)が 0 人/m2 となります。また、非火災室の場合、積載可 燃
物の発熱量 ql(MJ/m2)の数値は検証計算に関係しません。
・ 避難安全検証法の告示に明示されていない使用状況の室は告示の中から類似したものを
選択し数値を決定します。
『2001 年版 避難安全検証法の解説及び計算例とその解説』P267 質疑 13
居室避難安全検証法
全ての居室に対して居室避難安全検証の計算を行い、判定が OK になることを確認します。
(1)居室避難時間(tescape)の算定
居室避難時間(tescape)は次の 3 種類の時間を合計することで求めます。
①居室避難開始時間(tstart)
②居室歩行時間(ttravel)
③居室出口通過時間(tqueue)
各時間の大まかな算定方法は次のようになります。
①居室避難開始時間(tstart)
次の式から居室避難開始時間を求めます。
tstart =
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∑ Aarea
30
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Aarea には、床面積が入ります。現在計算を行なっている居室を通らなければ避難できないよ
うな居室や廊下がある場合はその部分の床面積も含まれます。
②居室歩行時間(ttravel)
次の式から居室歩行時間を求めます。
⎛ l ⎞
ttravel = max⎜ ∑ l ⎟
⎝ v⎠
ll は歩行距離(m)、 v は居室の用途や建築の部分によって告示で定められた歩行速度(m/分)
になります。出口となる扉が複数ある場合は、その数に応じた歩行経路が存在することになりま
す。その中で歩行時間が最長時間になるものが、その居室の歩行時間となります。
③居室出口通過時間(tqueue)
次の式から居室出口通過時間を求めます。
tqueue =
∑ pAarea
∑ NeffBeff
分子は避難者の数、分母は出口を単位時間当たりに通過可能な人数になります。
Aarea は、居室避難開始時間(tstart)と同じ数値になります。
p は在館者密度で居室の用途によって告示で定められた数値になります。
Neff 及び Beff は計算によってその数値を求めます。
■ Neff は有効流動係数と呼ばれるものです。Neff の数値は避難先が十分に広い場合、90(人/
分・m)になります。十分に広いとは、避難先が外の場合又は避難者を全員収容できるような場
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合です。
避難先が地上以外の場合は、避難先の収容可能人数と居室からの避難者の数を比較し避難者を収
容できるかどうかの判定を行います。
このときの避難者数は、計算している室だけでなく、避難先を通らないと避難できない、他の居
室からの避難者も含みます。
避難先が避難者を収容できない場合は次の計算式によって扉ごとに Neff を求めることになりま
す。
Aco
⎛
⎞
⎜ 80 Bneck ∑
⎟
80
Bneck
an ,
⎟
Neff = max⎜
⎜ Broom ∑ pAload Bload ⎟
⎜
⎟
⎝
⎠
避難先が狭い場合の Neff(有効流動係数)の算定手順については
Avoid.jp 避難安全検証法の実例 「避難先が狭い場合の居室出口通過時間(tqueue)」へ
http://www.avoid.jp/sample-tutorial/example/tqueue_1/tqueue_1.html
■ Beff は有効出口幅と呼ばれるものです。基本的には居室からの出口となる扉の幅になります
が、最大幅のものは火災時の火源の位置などを考慮して、計算した数値になります。
有効出口幅の考え方については
Avoid.jp仕様設計と性能設計の違い 「避難時に計算対象から除く扉」へ
http://www.avoid.jp/sample-tutorial/difference/door.html
有効出口幅を求める式は、避難者が出口に到達するまでの時間と火災が拡大する時間を比較した
上で決定されます。
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・ 避難者が出口に到達する時間(treach)は次の式によって求めます。
treach = tstart + ttravel
避難開始時間(tstart)と歩行時間(ttravel)を合計します。
・火災拡大時間は次の式によって求めます。
火災拡大時間= 0.14 /
αf +αm
αf は積載可燃物の火災成長率、αm は内装の火災成長率となります。
○αf は積載可燃物の発熱量 ql に応じて次の式から算定されます。
ql ≦170の場合 αf = 0.0125
ql > 170 の場合 αf = 2.6 × 10 −6 ql 5 / 3
床面積 1m2 当たりの積載可燃物の発熱量 ql は、室の用途に応じて告示で定められています。
詳しくは、
「避難安全検証に関係する表」http://www.avoid.jp/hinan/download.htmlをご覧くだ
さい。
○αm は壁と天井の仕上げの種類に応じて告示で定められています。
複数の修理が混在している場合は、性能の低い方で計算を行います。
詳しくは、「仕様設計と性能設計の違い」の「内装の仕上げ材」
http://www.avoid.jp/sample-tutorial/difference/naiso.htmlをご覧ください。
以上から求めた、避難者が出口に到達する時間(treach)と火災拡大時間を比較し、Beff を求め
る式を決定します。
treach ≦ 0 .14 / α f +α m の場合
Beff = Broom
treach > 0.14 / αf +αm の場合
{
}
Beff = max Broom − 7.2 αf +αmtreach + 1,0
出口に到達する時間が火災拡大時間より短い場合は、扉の幅すべてを有効出口幅とすることがで
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きます。出口に到達する時間が火災拡大時間より長い場合は扉の幅からいくらかの数値を差し引
いた数値になる計算式になります。最悪の場合、有効出口幅が 0 となる場合もあります。その
ため、扉が一つしか配置されていない居室では居室出口通過時間(tqueue)が ∞(無限大)に
なる場合もあります。
(上記手順で有効出口幅(Beff)を算定するのは、最大幅の扉であり、それ以外の扉については、
扉の幅がそのまま有効出口幅(Beff)となります。)
ここまでの手順で求めた数値を居室出口通過時間(tqueue)を求める式に当てはめて、算定を行
ないます。
以上で、居室避難開始時間(tstart)、居室歩行時間(ttravel)、居室出口通過時間(tqueue)の
算定が完了します。算定した数値を合計することで居室避難時間(tescape)を算定することが
できます。
(2)居室煙降下時間(ts)の算定
次の式から居室煙降下時間を求めます。
ts =
Aroom × (Hroom − 1.8)
max(Vs − Ve,0.01)
分子は居室の空間の中で煙を溜める部分の体積、分母は 1 分当たりの煙の供給量を示していま
す。
Aroom は床面積になります。避難開始時間(tstart)や出口通過時間(tqueue)で出てくる Aarea
とは異なり、居室の奥に居室などがあっても、それらの室の面積は含まれません。
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Hroom は平均天井高さです。床や天井に段差がない場合には、単純に床から天井の高さが平均
天井高さとなります。天井や床がフラットではない場合は次のように求めます。
■床面に段差がある場合
床面の中で一番高い位置から天井までが平均天井高さとなります。避難安全検証法の中で
は床面の一番高い部分を 「基準点」 と呼びます。各高さ関係の情報はこの 「基準点」 か
ら測定することになります。詳しくは、「仕様設計と性能設計の違い」の「床面の段差」
http://www.avoid.jp/sample-tutorial/difference/difference_in_rank.htmlをご覧ください。
基準点
平均天井高さ
このような測定方法のルールがあるため、劇場や大規模な会議場などでは避難安全検証法の適用
が難しい場合があります。
(一般的に平均天井高さは高いほど判定には有利になります。詳しくは、「仕様設計と性能設計
の違い」の「天井高さ」をご覧ください。)
http://www.avoid.jp/sample-tutorial/difference/ceiling-height.html)
■天井に段差がある場合
室の体積を床面積で割ることで平均天井高さを求めます。
平均天井高さ
基準点
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煙降下時間(ts)算定式の中で分母にある Vs と Ve は計算によってその値を求めることになりま
す。
□ Vs は煙等発生量です。次の式から計算を行い値を求めます。
Vs = 9{(αf +αm )Aroom}
1/ 3
(Hlow
5/3
+ (Hlow − Hroom + 1.8)
5/3
)
αf は積載可燃物の火災成長率、αm は内装の火災成長率で、居室出口通過時間(tqueue)の算
定時で既に求めた値を代入します。
Aroom は計算している居室の床面積で煙降下時間を算定する式の分子にあるものと同じ値にな
ります。
Hlow は床面の最も低い位置からの平均天井高さです。(下図参照)
Hroom
Hlow
基準点
Hroom は平均天井高さで煙降下時間を算定する式の分子にあるものと同じ値になります。
□ Ve は有効排煙量です。無排煙の場合は 0 となります。
無排煙以外の場合は、次の式から求められます。
Ve = A * E
A * は排煙効果係数と呼ばれるもので、排煙装置や垂れ壁の位置関係などからどれだけ効率よく
排煙できるかを示した数値になります。
室が防煙区画されていない場合は次の式から排煙効果係数を求めます。
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⎛ H st − 1.8 ⎞
⎟
A* = 0.4⎜⎜
⎟
Htop
1
.
8
−
⎝
⎠
室が防煙区画されている場合は、排煙窓の位置によって求める式が異なってきます。
○有効開口部の上端が防煙垂れ壁の下端より下方にある場合
⎛ H st − 1.8 ⎞
⎟
A* = 0.4⎜⎜
⎟
Htop
1
.
8
−
⎝
⎠
○有効開口部の上端が防煙垂れ壁の下端より上方にある場合
⎛ H st − 1.8 ⎞
Asc ⎞⎛ H st − Hw ⎞
⎟ + 0.6⎛⎜1 −
⎟
A* = 0.4⎜⎜
⎟⎜⎜
⎟
⎟
1
.
8
1
.
8
−
−
Htop
Aroom
Hst
⎝
⎠
⎠
⎝
⎠
⎝
2
E は排煙装置そのものの排煙量になります。E を求める式は室の排煙方式によって異なります。
○自然排煙方式の場合
⎛
⎧
⎫⎞
⎜
⎪
⎪⎟
⎜
⎪
76 As Hc − 1.8 ⎪ ⎟⎟
E = min(∑ e ) = min⎜ ∑ max ⎨19 As hs ,
⎬
2
⎜
⎪
⎛ ∑ As ⎞ ⎪ ⎟
⎜
1+ ⎜
⎟ ⎪⎟
⎪
⎜
⎝ ∑ Aa ⎠ ⎭ ⎟⎠
⎩
⎝
○機械排煙方式の場合
E = min(∑ e ) = min (∑ min{w,3.9(Hc − 1.8)w 2 / 3 })
○第 2 種排煙方式の場合
E = min(s,550 As )
○無排煙(蓄煙)方式の場合
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Avoid
E=0
以上から、居室の避難時間(tescape)と居室煙降下時間(ts)の比較を行ないます。その結果、
避難時間(tescape)の方が短ければ、その居室の避難安全性能は満たされていることになります。
階避難安全検証法
全ての居室の 居室避難安全性能 を満たされていることを確認したら、次に 階避難安全検証法
の計算に入ります。
(1)階避難時間(tescape)の算定
基本的には居室の時と同様、避難開始時間( tstart )、歩行時間( ttravel)、出口通過時間
(tqueue)を合計することで求めます。
各時間の大まかな算定方法は次のようになります。
①階避難開始時間(tstart)
次の式から階避難開始時間を求めます。
tstart =
∑ Afloor
30
+α
Afloor には、検証計算を行っている階の床面積が入ります。普段、人の往来する室の面積は全
て対象となるので、居室の他、廊下や附室、トイレなども面積に含めます。また、検証計算を行
っている階を通過しないと避難できない階がある場合は、その階の面積も計算式に含めます。
αは、「火災室以外の部分への情報伝達には一定の遅れ時間があるものとして」、加算される時
間です。加算する数値は階の用途によって異なります。
加算時間(分)
5
階の用途
共同住宅、ホテルその他これらに類する用途
(病院、診療所及び児童福祉施設を除く)
3
その他の用途
(病院、診療所及び児童福祉施設を除く)
就寝の可能性のある用途の場合で 5 分、それ以外の用途は 3 分となります。
②階歩行時間(ttravel)
次の式から階歩行時間を求めます。
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Avoid
⎛ l ⎞
ttravel = max⎜ ∑ l ⎟
⎝ v⎠
ll は歩行距離(m)、 v は居室の用途や建築の部分によって告示で定められた歩行速度(m/分)
になります。歩行距離は各居室から「階の出口」となる扉までとなります。その中で歩行時間が
一番長いものが、その階の歩行時間となります。
「階の出口」となる扉は、階段への扉や地上へ
の出口となる扉になります。ただし、居室に直接配置されている場合は、その居室が火災室の場
合、最大幅のものは一つ使えなくなるというルールがあるので注意が必要です。
詳しくは、Avoid.jp 仕様設計と性能設計の違い 「避難時に計算対象から除く扉」をご覧くだ
さい。
http://www.avoid.jp/sample-tutorial/difference/door.html
③階出口通過時間(tqueue)
次の式から階出口通過時間を求めます。
tqueue =
∑ pAarea
∑ NeffBst
分子は避難者の数、分母は出口を単位時間当たりに通過可能な人数になります。
Aarea は検証計算を行っている階の各室の床面積になります。
p は各室の用途によって定められている 在館者密度 です。
Neff は 有効流動係数 です。居室の時と同じく避難先が十分に広い(その階の避難者を全て収
容できる)場合は 90(人/分・m)になります。階避難安全検証 での避難先は、避難階の場合
は地上、避難階以外の場合は 直通階段 となります。避難先が直通階段の場合は直下階までの部
分が対象となります。
避難先に避難者が収容しきれない場合は次の計算式によって出口となる扉ごとに Neff を求める
ことになります。
Neff =
320 Bneck ∑ Ast
Bst ∑ pAload
Bst は階の出口となる扉の幅です。階歩行時間(ttravel)算定時と同じく、居室に直接配置され
ている場合は、その居室が火災室の場合、最大幅のものは一つ使えなくなるというルールがある
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Avoid
ので注意が必要です。
Avoid.jp 仕様設計と性能設計の違い 「避難時に計算対象から除く扉」
http://www.avoid.jp/sample-tutorial/difference/door.html
上記のように階の歩行時間(ttravel)と出口通過時間(tqueue)は火災室によって算定される時
間が異なる可能性があります。階避難時間(tescape)として階煙降下時間(ts)と比較対象とな
るものは最長時間であることが必要になります。したがって、火災室ごとに避難時間を算定し、
最長のものを求めることが必要になります。
Avoid.jp 仕様設計と性能設計の違い 「火災室ごとの避難時間」
https://www.avoid.jp/sample-tutorial/difference/hinanjikan.html
以上で、階避難開始時間(tstart)、階歩行時間(ttravel)、階出口通過時間(tqueue)の算定が
完了します。算定した数値を合計することで階避難時間(tescape)を算定することができます。
(2)階煙降下時間(ts)の算定
次の式から「火災室」、
「煙が伝播する室」、
「階の出口がある室」の煙降下時間をそれぞれ算定し、
合計することで求めます。
ts =
Aroom × (Hroom − H lim )
max(Vs − Ve,0.01)
Aroom は各室の床面積になります。
Hroom は平均天井高さです。
H lim は限界煙層高さと呼ばれるものです。
Avoid.jp 仕様設計と性能設計の違い 「限界煙層高さ(Hlim)」
http://www.avoid.jp/sample-tutorial/difference/hlim.html
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Avoid
Vs は煙等発生量です。Vs は火災室と伝播室では算定する方法が異なります。
火災室の場合は居室と同様の式(ただし 1.8→Hlim となります)で求めます。
伝播室の場合は開口部の構造などにより次の表から求めることになります。
壁及び開口部の構造
煙等発生量
準耐火構造の壁又は不燃材料で覆われた壁の開口部に令
Vs = 0.2 Aop
第 112 条第 14 項第二号に規定する防火設備が設けられて
いる場合
Vs = 0.2 Aop
準耐火構造の壁又は不燃材料で覆われた壁の開口部に令
第 112 条第 14 項第二号に規定する防火設備が設けられ、
かつ、平成 12 年建設省告示第 1437 号第二イ、ロ(1)、(3)
及び(5)、ハ(1)(i)、(ii)(イ)及び(2)並びに二の規定に適
合する構造の排煙設備が設けられている場合
Vs = 2 Aop
準耐火構造の壁又は不燃材料で覆われた壁の開口部に令
第 112 条第 14 項第一号に規定する防火設備が設けられて
いる場合
その他の構造
Vs = max(Vs0 − Ve,0)
Aop は開口部の面積の合計
Vs0 は火災室の煙等発生量
Ve は火災室の自然排煙方式の場合の有効排煙量
Ve は有効排煙量です。無排煙の場合は 0 となります。
無排煙以外の場合は、次の式から求められます。
Ve = A * E
基本的に有効排煙量の求め方は居室の場合と同じ方法になります。
煙降下時間は火災室で発生した煙が「階の出口を有す」室まで伝播し床面から 1.8m の位置まで
降下する時間を求めます。そのため、どこが火災室となるかで複数の煙伝播経路が発生します。
さらに、階の出口を有す室が複数ある場合はさらに煙伝播経路が増え、経路上の伝播室を加える
と、プランによっては膨大な煙伝播経路数が発生することがあります。階煙降下時間(ts)は最
短の煙降下時間を階避難時間(tescape)と比較する必要があるため、複数の煙伝播経路の煙降
下時間を算定し、最短のものを求めておく必要があります。
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Avoid
以上から、階の避難時間(tescape)と階煙降下時間(ts)の比較を行ないます。その結果、避難
時間(tescape)の方が短ければ、その階の避難安全性能は満たされていることになります。
全館避難安全検証法
全ての階の 避難安全性能を階避難安全検証法で確認した上で、全館避難安全検証法 の計算に入
ります。全館避難安全検証法 も居室や階の時と同じく、避難時間 と 煙降下時間 を求め比較す
ることで判定を行います。
(1)全館避難時間(tescape)の算定
避難開始時間(tstart)、歩行時間(ttravel)、出口通過時間(tqueue)を合計することで求
めます。基本的な流れは階の計算方法と同じです。
①全館避難開始時間(tstart)
各階の床面積から各階の避難開始時間を求め、その中で最大のものが 全館避難開始時
間 となります。ただし、階避難安全検証とは計算式が異なります。
②全館歩行時間(ttravel)
各居室から建物の出口となる扉までの歩行時間を求め、その中で最大となるものが 全
館歩行時間 となります。
③全館出口通過時間(tqueue)
全ての在館者があらかじめ出口の前に滞留している状態から、地上への出口を通過す
るのに要する時間を求めます。直通階段に避難者を収容しきれるかどうかによって算
定時間に影響します。
(2)全館煙降下時間
各階の煙降下時間を求め、その中で最短となる時間が全館煙降下時間となります。ただし、
階煙降下時間を求める場合とは次の点が異なります。
・ 全ての室の Hlim は開口部の性能や高さ、取付位置によって決定されます。
・ 煙の最終到達室は、直通階段への扉がある室のほか、EV や DS、吹抜けなど竪穴に面す
る室も対象となります。
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Avoid
検証判定を OK にする方法について
検証判定が NG となる部分が発生した場合、次の手順で各検証法での判定を OK にしていきま
す。
<階避難安全検証法を適用する場合>
<全館避難安全検証法を適用する場合>
全ての居室で居室避難安全検証の
全ての居室で居室避難安全検証の
判定を OK にします。
判定を OK にします。
適用する階の階避難安全検証法の
全ての階の階避難安全検証法の判
判定を OK にします。
定を OK にします。
全館避難安全検証法の判定を OK
にします。
基本的に避難時間( tescape )は短く、煙降下時間( ts )は長くなるように設計変更を行ない
ます。
判定を OK にする具体的な方法については次のページをご覧ください。
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Avoid
Avoid.jp 避難安全検証法の実例 Avoid による避難安全検証法
http://www.avoid.jp/sample-tutorial/avoid_deta/building/index.html
Avoid.jp Avoid による検証計算のポイント
平屋建て店舗編(要ログイン)
https://www.avoid.jp/fmember/sosa-guide/knowhow_ok/hiraya_tenpo.files/v3_document.htm
Avoid.jp 全館避難安全検証法の適用について「店舗系用途の場合」
http://www.avoid.jp/hinan/basic/calc_buiding/store/1-2.html
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