3 Full Article 健常高齢者の微小出血はその後の出血性・虚血性脳卒中 と関連がある Microbleeds Are Associated With Subsequent Hemorrhagic and Ischemic Stroke in Healthy Elderly Individuals Hirokazu Bokura, MD, PhD1; Reiko Saika, MD1; Takuya Yamaguchi, MD1; Atsushi Nagai, MD, PhD1; Hiroaki Oguro, MD, PhD1; Shotai Kobayashi, MD, PhD2; Shuhei Yamaguchi, MD, PhD1 1 Department of Neurology, Faculty of Medicine, Shimane University; and 2 Shimane University Hospital, Izumo, Japan 背景および目的:脳卒中患者,特に脳内出血をきたした 患者には,脳内微小出血( MB )が認められることが多い。 しかし,脳血管疾患のない人々にみられる MB の臨床的 意義は不明である。我々は前向き研究を実施し,MB の存 在が健常高齢者における有用な予後情報となるか否かを 検討した。 方法:島根難病研究所で自主的に脳検診を受けた 2,102 例 ( 平均年齢:62.1 歳 )を対象に,平均 3.6 年間の追跡調査を 実施した。初期評価により MB および無症候性の脳虚血 病変の存在を確認し,MB の位置をマッピングした。追跡 調査期間中に,各被験者に生じた脳卒中イベントに関す る情報を収集した。 結果:2,102 例中 93 例( 4.4%)に MB が認められた。追跡 調査期間中に 44 例( 2.1%) が脳卒中を発症した。MB を有 する被験者群は脳卒中発症率が有意に高かった。MB の独 立した危険因子は年齢および高血圧であった。MB の存 在は,虚血性脳卒中( ハザード比= 4.48,95% CI:2.20 ∼ 12.2 )よりも深部脳出血と一層強く関連していた( ハザー ド比= 50.2,95% CI:16.7 ∼ 150.9 ) 。出血性脳卒中はい ずれも脳深部で生じており,脳深部に位置する MB と関 連していた。 結論:健常高齢者であっても,MB の存在は出血性・虚血 性脳卒中の予測因子となりうることが,本縦断研究で実 証された。 Stroke 2011; 42: 1867-1871 KEYWORDS 高血圧,脳内出血,磁気共鳴画像法,微小出血,予防,危険因子 T2* 強調 MRI スキャンでは,脳内微小出血 (microbleed: は,健常高齢者にみられる MB および無症候性脳虚血病 MB )は 斑 点 状 の 低 信 号 病 変 と し て 示 さ れ, 脳 卒 中 患 変と,将来的な脳卒中発症の間に独立した関連があるか 者に観察されることが多い。脳内出血( intracerebral 否かを検討するため,前向き研究を実施した。さらに MB hemorrhage:ICH)患者または虚血性脳血管疾患患者の場 の分布はその基礎に,それぞれ別個な血管病理が存在す 合,MB の存在によって高い適中率で将来的な出血性脳 ることを示していると考えられ,近年注目を集めている。 卒中や虚血性脳卒中再発が予測できる 1,2 。最近実施され 脳葉の MB は脳アミロイド血管症と,脳深部の MB は高 たメタアナリシスでは,虚血性脳卒中再発患者の 44%, 血圧性血管症とそれぞれ関連がある 11。そこで同じコホー ICH 再発患者の 83%に MB が認められることが示され トを用いて,MB の分布と将来的な脳卒中イベントの関係 3 ている 。一方,脳血管疾患や神経症状のない人々では, MB 出現率は 5 ∼ 6%程度にすぎず を詳しく検討した。 4,5 ,健常高齢者におけ る MB 出現は加齢や慢性高血圧と関連がある 6。脳卒中患 材料および方法 者における MB の臨床的意義については,さまざまな研 究が実施されているが,MB を有する健常者の長期予後を 7 検討した研究はこれまでに 1 件しかない 。 被験者 2001 ∼ 2007 年に島根難病研究所で自主的に脳検診を 一般に,健常高齢者の場合にも,無症候性脳梗塞や皮 受けた,連続 2,238 例を対象に前向き研究を実施した。検 質下白質病変は,将来的な脳卒中発症の有力な危険因子 診には,内科的,神経学的,精神医学的病歴および脳卒 であると考えられている 8,9 。脳卒中患者では,こうした 中の家族歴の収集,経験豊富な神経内科医による正規の 無症候性の虚血性病変と MB が併存することが多く 10, 神経学的検査,神経心理学的検査,頭部 MRI,心電図, したがって,これらの病変がそれぞれ脳卒中発症にどの 胸部 X 線検査,血液検査が含まれていた。この前向き研 ように寄与しているかを理解することは重要である。我々 究の組入れ基準は以下の通りである:神経疾患および精 stroke6-3.indb 3 11.12.26 1:36:44 PM 4 Stroke 日本語版 Vol. 6, No. 3 表 1 無症候性の MRI 病変の危険因子 MB 変数 OR(95% CI) SBI p値 OR(95% CI) PVH p値 OR(95% CI) SWML p値 OR(95% CI ) p値 年齢( 1 歳あたり)1.08(1.04 ∼ 1.12)< 0.0001 1.09 (1.07 ∼ 1.11)< 0.0001 1.11 (1.07 ∼ 1.15)< 0.0001 1.10 (1.08 ∼ 1.13 )< 0.0001 男性 1.46(0.77 ∼ 2.78) 1.61 (1.06 ∼ 2.46) 0.80 (0.41 ∼ 1.56) 0.51 0.86 (0.58 ∼ 1.25 ) 高血圧 4.21(2.20 ∼ 8.08)< 0.0001 2.27 (1.62 ∼ 3.19)< 0.0001 1.54 (0.91 ∼ 2.61) 0.10 2.03 (1.50 ∼ 2.74 )< 0.0001 糖尿病 1.14(0.52 ∼ 2.51) 0.75 1.52 (0.96 ∼ 2.41) 0.07 1.66 (0.82 ∼ 3.36) 0.16 0.76 (0.46 ∼ 1.26 ) 0.29 脳卒中の家族歴 0.93(0.55 ∼ 1.57) 0.79 1.09 (0.79 ∼ 1.52) 0.59 2.04 (1.17 ∼ 3.54) 0.01 1.31 (0.97 ∼ 1.77 ) 0.08 虚血性心疾患 1.96(0.91 ∼ 4.22) 0.08 1.09 (0.62 ∼ 1.94) 0.76 1.39 (0.63 ∼ 3.11) 0.42 1.51 (0.91 ∼ 2.50 ) 0.11 喫煙 0.55(0.28 ∼ 1.06) 0.07 1.03 (0.69 ∼ 1.54) 0.87 1.07 (0.55 ∼ 2.10) 0.84 1.11 (0.75 ∼ 1.64 ) 0.61 飲酒 1.45(0.68 ∼ 3.07) 0.34 1.18 (0.75 ∼ 1.86) 0.47 1.32 (0.63 ∼ 2.80) 0.47 1.07 (0.69 ∼ 1.69 ) 0.76 0.25 0.03 0.42 結果の分析にはロジスティック回帰分析を用いた。 MB:微小出血,SBI:無症候性脳梗塞,PVH:脳室周囲高信号域,SWML:皮質下白質病変。 神疾患の既往がないこと,神経学的検査で異常が認めら 跡調査率は 93.9%で, 被験者は合計 2,102 例 (男性 1,126 例, れないこと,重度の内科的疾患(腎不全,肝機能障害,心 女性 976 例) ,平均年齢は 62.1 ( 8.0) 歳 (範囲:31 ∼ 87 歳) 不全) がないこと,本研究参加の同意が得られていること。 であった。 他の情報源からの情報収集を含め,本研究デザインは研 究実施施設の倫理委員会の承認を得た。 人口統計学的データ,臨床検査データ,MRI データの 収集方法については,http://stroke.ahajournals.org を参照 追跡調査時の健康状態に関する情報を収集するために, のこと。 被験者全員に年 1 回の割合で質問票を郵送した。医学的 事象が報告された場合は,被験者とその家族に電話で面 統計解析 接を行った。血管性イベントが疑われる場合は,被験者 群間比較を行うために,Student の t 検定 (パラメトリッ が受診した病院の神経内科医に脳画像検査結果を含む事 クデータ) ,Mann-Whitney の U 検定または χ 2 検定(ノン 象の詳細を尋ねることによって,すべての被験者の情報 パラメトリックデータ)を用いた。両側検定による確率 を収集した。これらの情報源から得られた情報に基づき, (p )値を算出し,p < 0.05 を有意差ありとみなした。ロ 脳卒中の種類(脳梗塞,一過性脳虚血発作,ICH,くも膜 ジスティック回帰分析により,無症候性脳病変の危険因 下出血)を判断した。脳梗塞については,Trial of ORG 子を検討した。変数には,年齢,性別,脳卒中の家族歴, 10172 in Acute Stroke Treatment( TOAST)基準 12 を用い 高血圧,糖尿病,虚血性心疾患,喫煙,飲酒を含めた。 てさらに細かく分類した。最終解析には,初回評価から 1 Kaplan-Meier 法により累積無脳卒中率を推定し,ログラ 年以上追跡調査が可能であった被験者のみを含めた。追 ンク検定を用いて各群の曲線を比較した。虚血性脳卒中 および出血性脳卒中発症率に対する MB の影響を検討す るために,ステップワイズ変数選択による Cox 比例ハザー (%) 100 MB なし (n=2,009) 無脳卒中生存率 80 デルから除外した。 40 MB あり (n=93) 20 (52.7%)は脳深部領域に,10 例(12.9%)は脳葉領域に, 0 1 2 3 4 5 6 リスク症例数 MB なし 2,009 1,997 1,618 1,237 834 524 237 stroke6-3.indb 4 結 果 2,102 例 中 93 例( 4.4 %)に MB が 認 め ら れ た。56 例 <0.0001(ログランク検定による) 0 図 追跡調査期間中の症候性脳卒中イベントのハザード比と 95% CI を算出した。p > 0.10 の変数はステップワイズモ 60 MB あり 93 ドモデルを用い,年齢および性別について補正を行い, 92 81 58 34 12 7 7 (年) 27 例(34.4%) は両方の領域に MB が存在した。その他の 2 無症候性病変もかなり高率にみられ,262 例(12.5%) に無 0 症候性脳梗塞が,105 例(5.0%) に脳室周囲高信号域(+) 微小出血( MB )の有無によって層別化した無脳卒中生存率 の Kaplan-Meier 曲線 が,358 例(17.5%) に皮質下白質病変(+) が認められた。 ロジスティック回帰分析の結果,年齢および高血圧が, 11.12.26 1:36:45 PM 健常高齢者の微小出血はその後の出血性・虚血性脳卒中と関連がある 5 表 2 将来的な虚血性脳卒中および ICH の有意な独立した予測因子 虚血性脳卒中 変数 HR (95% CI) ICH p値 MB あり 4.48( 2.20 ∼ 12.2) < 0.0001 SBI あり 2.94 ( 1.26 ∼ 6.82) HR(95% CI) p値 50.2 (16.7 ∼ 150.9)< 0.0001 0.012 ... ... 結果の分析には,年齢および性別について補正したステップワイズ Cox 回帰を用いた。 ICH:脳内出血,HR:ハザード比。 あらゆる無症候性脳病変の独立した危険因子であること に MB が存在する 4 例と,両方の領域に MB が存在する が示された (表 1) 。 5 例が ICH をきたし,同様に,深部脳領域に MB が存在 平均追跡調査期間は 3.6(1.7 )年で,この間に癌および 虚血性心疾患を含む重症疾患により 12 例が死亡し,1 例 が ICH により死亡した。44 例(2.1%) が脳卒中を発症し, する 5 例と,両方の領域に MB が存在する 4 例が虚血性 脳卒中をきたした。 表 3 は, 追跡調査期間中に ICH をきたした被験者 (10 例) このうち 22 例は脳梗塞,10 例は ICH,4 例はくも膜下 の臨床特性および MRI 所見を示したものである。初期評 出血,8 例は一過性脳虚血発作であった。TOAST 基準に 価では 10 例中 9 例に MB が認められた。出血部位は,5 従って脳梗塞症例 22 例を分類した結果,5 例は大血管ア 例が被殻,4 例が視床,1 例が小脳であった。糖尿病を有 テローム性硬化,3 例は心原性脳塞栓症,12 例は小血管 していた 1 例を除き,すべての被験者に高血圧が認めら 閉塞,2 例は評価不十分な脳卒中であった。MB のある被 れた。 験者[18 例(19.4%)] は MB のない被験者[26 例(1.3%)] 136 例については追跡調査データを得ることができな 。 に比べて, 脳卒中発症頻度が有意に高かった (p < 0.0001) かった。このうち 5 例(3.7%) は初期評価で MB が認めら Kaplan-Meier 法とログランク検定を用いて無脳卒中率 れていた。人口統計学的データおよび MRI 所見 (MB を含 曲線を作成した(図) 。臨床的脳卒中の頻度は,MB のな む) に関して,追跡不能例と分析対象となった被験者との い被験者よりも MB のある被験者の方が有意に高かった 間に有意差はみられなかった。 。 (p < 0.0001) 危険因子と脳卒中発症との関連を調べた Cox 比例ハ 考 察 ザードモデルの結果を表 2 に示す。予測因子変数として, MB,無症候性脳梗塞,脳室周囲高信号域,皮質下白質病変, 本研究では,MB を有する被験者は MB のない被験者 脳卒中の家族歴,高血圧,糖尿病,虚血性心疾患,喫煙, に比べて,虚血性脳卒中発症リスクが 5 倍,ICH 発症リ 飲酒をステップワイズ回帰モデルに含めた。MB の存在 (ハ スクが 50 倍高かった。このように,脳血管疾患の既往の ザード比= 4.48,95% CI:2.20 ∼ 12.2,p < 0.0001)と ない人々においても,MB の存在は将来的な脳卒中の有力 無症候性脳梗塞 (ハザード比= 2.94,95% CI:1.26 ∼ 6.82, な独立した危険因子である。本研究結果は過去の研究結 p = 0.012) はともに虚血性脳卒中の有意な危険因子であっ 果に比べてはるかに劇的であり,過去の研究では,MB の たが,MB の方がはるかに有力な予測因子であった。ただ ある患者の ICH 発症リスクは MB のない患者の 7 倍であっ し,MB の存在は ICH のさらに強力な危険因子であった た 13。将来の出血性脳卒中または虚血性脳卒中のどちら (ハザード比= 50.2,95% CI:16.7 ∼ 150.9,p < 0.0001) 。 が MB とより強く関連しているかについては,複数の追 他の因子と将来の脳卒中イベントとの間に関連はみられ 跡調査研究が行われているが,ほとんどの研究は病院を なかった。 ベースにしており,被験者はすでに症候性の出血や梗塞 MB を有し,脳卒中をきたした被験者 18 例のうち,9 をきたした患者であった。さらに研究結果にも不一致が 例は出血性脳卒中,残る 9 例は虚血性脳卒中であった。 みられる。2 件の研究では,少数の脳卒中患者群において 追跡調査期間中,MB が脳葉領域のみに限定されていた MB と将来の ICH との間に有意な関連が認められた 14,15 被験者には虚血性脳卒中も出血性脳卒中も生じなかった。 が,もう 1 件の研究では,MB と将来の虚血性脳卒中との これに対し,脳卒中をきたした 18 例はいずれも深部脳領 間には関連がみられたものの,出血性脳卒中との関連は 域に MB が存在しており,このうち 50%は脳葉領域にも 認められなかった 2。 MB が認められた。MB の位置(深部脳領域のみ,深部脳 最近実施された縦断研究において,症候性脳卒中の既 領域と脳葉領域の両方など) は,ICH か虚血性脳卒中かの 往のない人々にみられる MB が,症候性脳血管イベント 違いに有意な影響を及ぼしてはいなかった。深部脳領域 初発の予測因子であることが初めて示された 7。この研究 stroke6-3.indb 5 11.12.26 1:36:45 PM 6 Stroke 日本語版 Vol. 6, No. 3 表 3 追跡調査期間中に ICH をきたした被験者の臨床特性および画像検査所見 症例番号 年齢(歳) 性別 ICH の部位 高血圧 DM MB SBI PVH SWML 1 61 女性 被殻 + − − − − + 2 67 女性 視床 + − + − − + 3 76 女性 被殻 + − + + + + 4 69 男性 小脳 + − + − − − 5 64 男性 視床 + − + + − − 6 63 男性 被殻 + + + + − − 7 65 男性 視床 + − + + − + 8 67 男性 被殻 + − + + + − 9 53 男性 被殻 + − + − − + 10 66 男性 視床 + − + + + + ICH:脳内出血,DM:糖尿病,MB:微小出血,SBI:無症候性脳梗塞,PVH:脳室周囲高信号,SWML:皮質下白質病変。 の被験者は,今回の研究の中核群に比べて MB の頻度が ICH の主な原因の 1 つである。本研究の被験者には,脳 はるかに高く(それぞれ 17%,4.4%) ,それに呼応して脳 アミロイド血管症に起因する脳葉出血はみられなかった 卒中の全発症率も高かった(それぞれ 1,000 人・年あたり が,これはおそらく,本研究では 80 歳以上の高齢被験者 34.0 件,20.9 件) 。これはあり得ることである。なぜなら, がきわめて少なかった(全体の 3.6%) ためであると思われ 上記の研究の被験者集団には脳卒中の高リスク者が含ま る。さらに,MB はアルツハイマー病 20 や,皮質下梗塞 れていたが,我々の研究の被験者は比較的健康な患者で および白質脳症を伴う常染色体優性遺伝性脳動脈症 21,22 あったからである。いずれにしても,以前の研究と今回 などの認知症患者にもみられることが多い。脳葉の MB の研究に共通していることは,脳血管疾患のない人々に の存在が脳葉領域における ICH 発現と関係しているか否 みられる MB が,将来の脳梗塞発症の有力な予測因子で かについては,さらに詳しい縦断研究が必要である。 あるという所見である。ただし,以前の研究では,年齢, 本研究では,被験者の 4.4%に MB が観察された。この 性別,高血圧について補正を行った結果,両者の間に関 割合は,Rotterdam Scan Study で報告された値( 23.5%)23 係は認められなくなった。本研究は以前の研究よりも被 に比べると低いものの,Framingham study( 4.7%)5 や 験者数が多く,したがって,統計学的検出力も高かった Roob の報告(6.4%)4 で示された値と同様である。MB の ため,臨床的変数の補正を行った後も,MB の存在と将来 頻度は,コホートの特性,特に臨床状態および年齢分布に の ICH 発症との関連についてより説得力のある証拠が示 依存していた。したがって,本研究の統計量と Rotterdam された。 Scan Study の値の差は,後者の研究に脳血管疾患の既往 MB の分布は,ICH リスクに影響を及ぼす重要な因子 のある被験者が含まれていたこと,後者の被験者の方が年 であると思われる。一般に,大脳基底核または視床の MB 齢が高かったこと(平均年齢はそれぞれ 62.1 歳,69.6 歳) は,高血圧性または動脈硬化性微小血管症に関係してい に起因していると思われる。さらに MB の検出は,欧米 ると考えられている。Wardlaw らは,皮質脳卒中よりも 諸国よりも日本における方がより一層重要であると思われ ラクナ梗塞の方が MB が観察される頻度が高く,白質病 る。なぜなら,一般住民を対象とした研究では,ICH は日 16 変の発現率が高くなると報告している 。以上を総合す 本国内の脳卒中症例全体の約 20%を占めており 24,欧米 ると,これらの所見は,MB とラクナ梗塞の間に小血管疾 諸国の ICH 発症率(10%未満)25 とは異なっていたためで 患などの共通する病理学的背景が存在するという考えを ある。深部脳出血は脳葉出血よりも多く,日本国内の ICH 17 裏づけている 。同様に本研究でも,ICH 発症例 10 例の うち,MB を伴う 9 例では被殻,視床,小脳に出血が認め られた (表 3) 。 症例全体の 83%を占めていることが報告されている 26。 本研究にはいくつかの限界がある。第一に,本研究で は追跡調査期間中の内科的治療に関する情報は得られな 注意しなければならないのは,一部の被験者において かった。特に,MB を有する患者の出血性イベントリス 脳葉領域に MB が認められたこと,この種の MB の発生 クを増大させる可能性のある,抗血栓薬の潜在的重要性 病理が深部脳領域の MB とは明確に異なることである 18。 を検討することはできなかった 27,28。第二に,主要な追跡 脳葉の MB は脳アミロイド血管症と関係があると思われ 調査の方法が郵送による質問紙調査に依存していたため, 19 る 。脳アミロイド血管症は,高齢者にみられる脳葉の stroke6-3.indb 6 血圧や血糖値のコントロール状況についてもデータを収 11.12.26 1:36:46 PM 健常高齢者の微小出血はその後の出血性・虚血性脳卒中と関連がある 集することはできなかった。第三に,追跡不能例の人口 統計学的データは,初期評価時の MRI 所見も含め,他の 被験者と変わらなかったものの,追跡不能となった 136 例については,定期的な追跡調査データが得られなかっ た。最後に,本研究の被験者はいずれも自主的に脳検診 を受けた人々であるため,被験者選択に偏りがあった可 能性があり,一般住民を対象とした他のコホート研究の 被験者とは,人口統計学的特性 (医療機関を受診する動機, 経済的レベルなど) が異なる可能性がある。 結 論 健常高齢者の場合でも,MB の存在は,その後の虚血性 脳卒中および ICH の有力な危険因子となる。MB を有す る高齢者の脳卒中予防には,危険因子の注意深い管理が必 要である。特に,受診時に MB を有し,後に脳卒中をき たした者にはいずれも高血圧が認められるため,MB を有 する患者には集中的な降圧薬治療を実施し,将来的な虚血 性脳卒中や出血性脳卒中の発現を予防すべきである。 研究費の財源 本研究の一部は, Mitsubishi Pharma Research Foundation の助成金および JSPS(日本学術振興会)の科学研究費補 助金を受けて実施された。 情報開示 なし。 References 1. 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