都立青峰学園 主幹教諭 代表:荻原稔(鶴田京子、永峯秀人、朝倉藍)

特別支援学校における喫茶店営業
・はじめに
東京都立青峰学園には、
「のんびりカフェ」という営業許可を受けた喫茶店があります。
普通教室を改造して開店し、高等部就業技術科の生徒が中心になって運営して、全校で活
用しています。今や地域の皆さんにも知られてきたカフェ3年間の実践を報告します。
・青峰学園
東京都立青峰学園は、二つの教育部門が併
置された特別支援学校であり、平成 21 年 4
月に開校しました。肢体不自由教育部門の小
学部・中学部・高等部には、20 数人の児童・
生徒が在籍し、知的障害教育部門高等部就業
技術科には、1年生60人、2、3年生各4
0人の生徒が在籍しています。また、所在す
る青梅市は東京都でも多摩地区という西側
の山沿い地域にあり、市内には古い宿場町の市街地や工業団地もありますが、学校付近は、
畑も多く残る武蔵野台地上の平坦な住宅地で、商店もあまり多くありません。
・カフェの設置
東京都では平成 16 年 11 月に「東京都特別支援教育推進計画」を策定し、知的障害が軽
い生徒を対象とした養護学校高等部が計画されました。17 年 10 月に本校の基本計画が出さ
れて、平成 21 年 4 月に永福学園に続く二校目の就業技術科として開設されました。就業技
術科は、
「生徒全員の企業就労」を目指して、
「職業に関する教科」を教育課程の中心に置
いており、本校では「エコロジーサービス」
「ロジスティクス」「食品」「福祉」の4コース
があります。これらの職業コースの学習が軌道に乗っていく中で、
「常設のお店が欲しいね」
という思いが湧いてきていました。
そうした中、開校4年目の平成 24 年 4 月に、
「青
梅の地」
「小規模校」
「併置校」という三つの特色を
柱とした新しい学校経営計画が示され、7 月から
「カフェプロジェクト」がスタートしました。古い
歴史がある青梅市における初の特別支援学校とし
て、本校の児童・生徒の活動や特別支援教育に触れ
る理解啓発の場所としていきたいということであ
り、全校で当時 140 人という小ささでもって、身の
丈に応じた小回りの効く活動を進め、
「併置校」としての良さを作り上げていこうというこ
とです。
さて、夏から校内の調整を進めて、肢体不自由教育部門の普通教室の転用が決まり、予
算も校内でやりくりして、道具類や什器類を購入できました。そして、営業許可の必須条
件である客席と厨房を仕切るカウンターは、
「利用者のニーズに合わせた支援」の観点から、
各種の用具類を木工で自作してきた福祉コースで自作することになりました。こうして、
保健所の検査も通過して、営業許可書をいただきました。児童・生徒の選考委員会で最終
的に決定した「のんびりカフェ」という名前も付いて、2月末には営業を開始したのです。
・カフェの運営
「のんびりカフェ」の営業は、月・水・木曜日の午前 10 時から午後 2 時 40 分までです。
スタッフは、福祉と食品コースから生徒 2~3 人と教員1人が入りますが、12 時 40 分でシ
フト交代をしています。また、カフェ営業と並行して、10 時 30 分からはエコロジーサービ
スコースの花の苗の販売と、午後 1 時 30 分からは食品のパン販売が行われます。
開店や閉店業務をはじめ、接客方法や飲み物の作り方については、限られた設備を活用
して、できる限りおいしいお飲み物を、いつでも提供できるようにと、生徒がマニュアル
を制作しています。校内のデリ
バリー注文も受けていて、電話
応対の場にもなっています。パ
ン販売の時間帯は、お客様が増
えるので繁忙期の業務も体験し
ます。また、閉店後には、食器
や道具類の洗浄や片付けだけで
なく、売り上げの清算をします
が、カフェの売り上げは、
「実業
意欲向上プログラム」という制度により、校内予算で原材料を購入し、売り上げは東京都
の歳入として納入されるので、きちんとした伝票も書かなければならず、厳しいお金の扱
いを学ぶいい機会になります。
生徒スタッフは、店に出るようになる前に授業で接客
の流れを学びます。まず、お客様を全員で「いらっしゃ
いませ」とお迎えします。ホール担当は「お好きな席へ
どうぞ」とご案内して、
「ただいま、お冷やとおしぼりを
お持ちします」とあいさつし、水とおしぼりをお出して
から、「ご注文はお決まりでしょうか」とお尋ねします。
伝票を記入して「ご注文を確認させていただきます」と
復唱し、厨房の担当にオーダーを入れます。できたお飲
み物を、
「お待たせいたしました。~でございます。ごゆ
っくりどうぞ。」といってお出しし、伝票を「お帰りの際
にレジにお出しください」といってお渡しします。レジ
対応のあと、みんなで「ありがとうございました」とお
見送りします。
このように流れは定型的になっていますし、学校内のカフェですので、多少のことは大
目に見ていただけるので、生徒自身が気づいて直したりできるゆとりがあります。こうい
う場でもあるので、車いす使用の小学部の児童も「お仕事体験」をします。はじめは、先
輩から「おはようございます」といわれても返事を返せなかったのに、一日のうちには、
お客様に「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました」の言葉もいえるようになりまし
た。安心して、繰り返し体験できる場があることで、できることが増えていきます。
また、大門三丁目の地域の 600 軒に営業カレンダーを配るポスティング活動もしていま
すが、「パンを買いに行っているわよ」とか、
「この花はみんな青峰のものよ」と、声を掛
けられて励まされています。
・カフェの展開
「のんびりカフェ」は、喫茶店ですが、ギ
ャラリーでもあります。壁面には、常設展示
として自然木のオブジェや切り紙のタペス
トリーを飾ったり、企画展示として地域の美
術愛好家や保護者の方のミニ作品展を行っ
てきました。ホワイトボードには小学部の児
童の書道作品が貼られ、テーブルには高等部
の一輪挿しがおかれて季節の花が活けられ
てもいます。さらに、昼休みに、教員のバイ
オリンと生徒のピアノでのミニコンサートや、福祉コースの人形劇の実演もやってみまし
た。この頃では、保護者の方ばかりでなく、地元の方々にも知られてきて、町内会の打ち
合わせの場所になったり、セールスレディの休憩場所になったりと、本当の地元カフェに
なりつつあります。
・まとめ
私たちの「のんびりカフェ」は、普通教室を改造して作った喫茶店です。そして、運営
については、全校の児童・生徒みんなが、それぞれのかかわり方でタッチしています。就
業技術科の各コースは、日常の営業の中で学習成果を発揮することができ、肢体不自由教
育部門の児童・生徒も、敷居の高くない社会経験の場として活用できます。こうして「の
んびりカフェ」は、お客様をおもてなしする経験を、日ごろから持つことによって、社会
性やコミュニケーションの力を伸ばしていく場であり、この地における特別支援教育のシ
ョールームとして、小さなチャレンジを続けています。
福祉コースの生徒(パソコン検定1級所持)が作った「のんびりカフェ」の紹介