脂環式モノマー 「ENB」について

P
C
erformance
126
活 躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス
hemicals
㈱サン・ペトロケミカル
企画管理部 部長
脂 環 式モノマー
「E N B 」について
岩崎 良治
[紹介製品のお問い合わせ先]
㈱サン・ペトロケミカル
東京:03−5200−3561(代)
ENB(エ チ リ デ ン ノ ル ボ ル
エラストマー状のエチレンとプ
ENB はほかのジエン成分に比
ネン)は、自動車用、建築用な
ロピレンの二元共重合体を合成
べ共重合速度や加硫速度が速
どに広く使用される合成ゴムで
したことにより始まる。柔軟性
く、加硫後の物性バランスにも
あ る EPDM(エ チ レ ン・プ ロ
や弾性、耐熱性といったゴム性
優れ、現状使用されているジエ
ピレン・ジエン・メチレンリン
能を高めるためには、架橋反応
ン モ ノ マ ー は、そ の 大 部 分 が
ケージ)に、欠かせない第 3 成
の一種である加硫により分子鎖
ENB となっている。ENB を用
分として最も広く使用されてい
を結合させ、網目状の構造を作
い た EPDM は、主 鎖 に 二 重 結
る脂環式炭化水素である。
る必要がある。図 2 に加硫のイ
合がなく、耐熱性、耐候性、耐
EPDM は、エチレンとプロピ
メージを示す。加硫させるため
オゾン性、電気特性に優れ、比
レンの共重合体に、第3成分と
には、第 3 成分としてさまざま
重が小さいといった特長があ
してジエンモノマーを導入した
なジエンモノマーを導入するこ
り、工業的に広く利用される合
三 元 共 重 合 体 で あ る。図 1 に
と が 検 討 さ れ て き た。EPDM
成ゴムの一つとなっている。
EPDMの構造を示す。EPDM の
に使用されているジエンモノ
ENB は、1960 年 代 に Union
開 発 は、1955年 に チ ー グ ラ ー
マーとしては、ENB、DCPD
Carbide(UCC、現 Dow)で 開
ナッタ触媒の開発者の一人であ
(ジシクロペンタジエン)、HD
発製造されていたが、1970 年
るG. Natta 教授(イタリア)が、
(ヘキサジエン)などがあるが、
代に日本石油㈱(現 JX エネル
CH3
CH2
CH2
CH
ENB
CH2
m
エチレン
CH
未加硫ゴム
CH
n
p
CH2
プロピレン
硫黄で
加硫
HC
この二重結合が
硫黄により反応して
架橋する
(加硫)
CH
HC
C
CH
●:架橋点
(反応して
分子鎖がつながる)
CH3
図1
加硫ゴム
EPDMの構造
図2
三洋化成ニュース
加硫のイメージ
❶ 2017 春 No.501
低
低
ギ ー ㈱)の 中 央 技 術 研 究 所 で
は、米 UCC 社の特許に抵触せ
速度アップ
化学㈱(旧日本石油の子会社、
圧縮永久ひずみ
製造技術を確立した。日本石油
架橋速度
ず に、さ ら に 改 良 さ れ た ENB
ゴム性能良化
現 JX エネルギー㈱)と三洋化
成工業㈱は共同出資して ENB
低
製造会社として㈱サン・ペトロ
ケミカルを 1977 年に設立した。
図3
1979 年から、3,000 ㌧ / 年の能
ENB含量
低
高
ENB含量による
架橋速度の変化
図4
ENB含量
高
ENB含量による
圧縮永久ひずみの変化
力 で 操 業 を 開 始 し、現 在 で は
22,000 ㌧ / 年の能力で順調に生
分および酸素濃度は極力低下
アや窓のシール材(ウェザース
産を行っている。その後、米国で
さ せ る 必 要 が あ る。ま た、一
トリップなど)に使用されるこ
も同様に ENB 製造会社 Sunrise
部では高活性なメタロセン触
と が 多 い。自 動 車 部 品 以 外 で
Chemical LLC を設立し、米国
媒 も 使 用 さ れ て お り、さ ら に
は、建築資材、電線被覆などに
で は 2 系 列 40,000 ㌧ / 年 の 能 力
高いレベルでの不純物管理が
用いられている。図 5 に用途例
で生産を行っている。日米両拠
必要となっている。㈱サン・ペ
を示す。
点から世界 No.1 の生産量を誇
トロケミカルでは、長年蓄積し
また、EPDMはTPV(熱可塑
る ENB メーカーとして全世界
た ENB 製造技術をもとに、不
性エラストマー)のゴム成分と
に ENB を供給している。
純物含量の少ない高品質な
しても使用されている。一般的
ENB を提供している。
には、ポリプロピレン、EPDM、
EPDM 中の ENB 含量は、0∼
十数質量%まであるようだが、
平均では 4∼5 質量%といわれ
EPDM の利用分野
プロセスオイル、フィラーなど
を配合し、押出機内で溶融混練
EPDM 中 の 共 重 合 さ れ た ポ
中 に、ゴ ム 成 分 で あ る EPDM
一般に ENB 含量が増加すれ
リマー主鎖は安定した飽和炭化
を架橋することにより製造され
ば、架橋点が増加し、架橋速度
水素となるため、耐熱性、耐候
る。ハードセグメントであるポ
は上昇し、ゴム性能の指標であ
性および耐オゾン性に優れてい
リプロピレン中に架橋ゴム粒子
る圧縮永久ひずみは小さくな
る。また、合成ゴムの中でも比
がソフトセグメントとして分散
り、優れたゴム特性を示すよう
重 が 低 く、補 強 材 で あ る フ ィ
し、海島構造を形成する。常温
になる。(図 3 および図 4 参照)
ラ ー の 高 充 填 が 可 能 で あ る。
では架橋したゴム成分がゴム
一方で、未反応の二重結合の
EPDM は、自 動 車 部 品 と し て
の 機 能 を 付 与 し、高 温 で は 熱
量が多くなるため、熱老化しや
エンジンルーム内の部品や、ド
可塑性樹脂であるポリプロピ
ている。
すくなり耐熱性は下がる。
現 在 、 EP D M の 重 合 に は 、
バ ナ ジ ウ ム(オ キ シ)塩 化 物
と有機アルミニウムから調整
されるチーグラーナッタ触媒
が 主 に 使 用 さ れ て い る が、極
性のある水分や酸素は触媒毒
図5
EPDMの用途例
となるため、ENB 製品中の水
三洋化成ニュース
❷ 2017 春 No.501
レ ン が 流 動 し、射 出 成 形 が 可
ネン)を製造した後、転移反応
2.VNB 製造工程
能となる。通常のゴムに比較し
により二重結合の位置を変えて
+
て加工が容易であり、生産性に
優れる。用途は、自動車部品向
CPD
ENB を製造する。
ブタジエン
VNB
けが多く、ウェザーストリップ
や内装表皮材などに使用され
DA 反 応 の 主 生 成 物 は VNB
で あ る が、CPD と ブ タ ジ エ ン
は共役ジエンであり、さまざま
(代表的副生物)
ている。
な副生物が生成する。反応後、
2
ENB の EPDM 以 外 の 用 途 と
しては、液晶ディスプレー向け
蒸留により未反応モノマーや副
ブタジエン
VCH
フィルムや光学レンズに使用さ
生物を除去して精製し高純度の
VNB を得る。ここで生成する
れている光学用高耐熱透明樹脂
副 生 物 と し て は、VCH(ビ ニ
+
で あ る COP(シ ク ロ オ レ フ ィ
ンポリマー)のモノマーの原料
CPD
ルシクロヘキセン)や THI(テ
ブタジエン
THI
として使用されている。
トラヒドロインデン)などがあ
る。いずれもその重合後の生成
樹脂は透明性、耐熱性に優れて
3.ENB 製造工程
ENB の製造法
いることから、高機能樹脂とし
てさまざまな用途展開が見込ま
ENB は、DCPD とブタジエン
を原料とし、以下に示す三つの
VNB
ENB
れている。
反応工程を経て製造される。
1.CPD 製造工程
ENB は、DCPD を 熱 分 解 し
て 生 成 す る CPD(シ ク ロ ペ ン
2
DCPD
タジエン)とブタジエンから、
Diels−Alder 反 応*(DA 反 応)
CPD
により VNB(ビニルノルボル
CPD製造工程
*Diels−Alder 反応:1928 年に O. Dielsと
K. Alder により発見された共役ジエン
と単オレフィンが六員環を形成する反
応。Diels−Alder 反応は無触媒の発熱
反応であるが、反応熱の除去ができな
くなり温度が上昇すると、暴走反応を
起こす危険性があり、製造工程にはさ
まざまな安全対策が施されている。
VNB製造工程
ENB製造工程
触媒
ブタジエン
Diels−Alder
反応
VNB
ENBの製造工程
三洋化成ニュース
❸ 2017 春 No.501
異性化反応・
後処理
精 製
CPD
精 製
精 製
図6
熱分解
DCPD
ENB
ENB および関連製品
表 1 に ENB および ENB 製造
時の中間製品や副生する関連製
れるエポキシは二重結合を含ま
用途である自動車生産台数に依
ないため、光学用途などの高機
存する。すなわち、ENB の需要
能樹脂への用途開発が期待で
は、自動車生産台数と強い相関
きる。
がある。今後も、世界的に見れ
同 じ く 副 生 す る THI は、分
ば、自動車生産台数の安定成長
VNB は ENB 製 造 時 の 中 間
子中に 2 個の脂環構造を有する
が見込まれており、ENB の需要
製品であるが、ENB と同様に
た め、強 直 な が ら 低 粘 度 で あ
も堅調と考えられる。幸いなこ
EPDM の ジ エ ン 成 分 と し て 使
り、エ ポ キ シ 化 合 物 の 改 質 剤
とに 50 年以上にわたり ENB を
用 さ れ て い る。ENB に 比 べ て
(接着剤、ゴム粘着付与剤など)
凌 駕 す る EPDM の ジ エ ン モ ノ
二つの二重結合の反応性が近
向けに用途開発が検討されて
マーは開発されておらず、今す
く、分岐を生じやすい特性があ
いる。
ぐに新規開発品に代替される可
品の代表的性状を示す。
りょう が
る。長鎖分岐が多いと、溶融時
能性は小さい。しかし、近年、
その他の副生物についても、
に非ニュートン性の高い流体と
脂環式モノマーとして、高透明
中 国 で 新 た な ENB 製 造 メ ー
なり、低せん断速度下では粘度
性、高耐熱性の高機能樹脂への
カーが立ち上がり、業界内での
が高く、一方、高せん断速度下
用途開発が検討されている。
競争の激化が予想されている。
では粘度が低下するため、さま
ENB は 1960 年代に開発され
三洋化成工業/ JX エネルギー
ざまな溶融加工において加工
てから 50 年以上を経過してお
グ ル ー プ は、世 界 シ ェ ア No.1
性能が向上する。
り、一時的な不況はあったもの
の ENB 製造メーカーとして確
VCH は、ENB 製造時に副生
のその市場は右肩上がりに成長
固たる地位を築いてきたが、今
する製品で、透明性、耐熱性に
を 続 け て い る。ENB の 需 要 は
後も競争に打ち勝つべく、安全
優れる特殊脂環式エポキシの原
主 用 途 で あ る EPDM の 生 産 量
操業、高品質維持および生産効
料として使用されている。得ら
に 依 存 し、EPDM の 需 要 は 主
率向上を推進していく。
表1
ENBおよび関連製品の性状
ENB
VNB
VCH
THI
(開発品)
16219−75−3
3048−64−4
100−40−3
3048−65−5
5−エチリデン−2−ノルボルネン
5−ビニル−2−ノルボルネン
4−ビニル−1−シクロヘキセン
3a,4,7,7a−テトラヒドロインデン
構造
CAS No.
化合物名
(5−Ethylidene−2−norbornene) (5−Vinyl−2−norbornene) (4−Vinyl−1−cyclohexene) (3a,4,7,7a−Tetrahydroindene)
分子式
C9H12
C9H12
C8H12
C9H12
分子量
120.2
120.2
108.2
120.2
化審法番号
4−602
4−1474
3−2229
4−581
危険物分類
第4類第2石油類
第4類第2石油類
第4類第1石油類
第4類第2石油類
無色透明液体
無色透明液体
無色透明液体
無色透明液体
0.900
0.895
0.839
0.920
148
141
130
160
32
24
16
38
代表性状
外観
密度
(g/ml)
沸点
(℃)
引火点
(℃)
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( SDS)
を事前にお読みください。
ご使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。
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❹ 2017 春 No.501