牛飼いの少女 い つ の 頃 か ら か、 天 然 痘 の 治 療 に は 赤 色が有効であると信じられていました。 ハプスブルク帝国皇帝のカール五世(在 位: 一 五 一 九 年 ― 一 五 五 六 年 ) が 天 然 痘 に か か っ た と き に は、 こ の 赤 色 治 療 が 施 さ れ、 窓 の 光 を 赤 い カ ー テ ン で 遮 り、 赤 い 衣 服 を つ け、 赤 い シ ー ツ の ベ ッ ド に 身 を 横 た え た 結 果、 カ ー ル 五 世 は 快 癒 し た といわれています。 藤井基之 さんぜん 一 七 二 一 年、 人 痘 法 が 中 近 東 か ら ヨ ー ロ ッ パ に 初 め て 伝 わ り、 先 進 の 医 療 技 術 を 否 定 し、 革 新 を 否 定 す る と い う 恐 ろ し い 世 の 中 と な り ま し た。 特 定 の 宗 教 組 織 が 突 出 し た 権 威 を 持 ち、 人 々 の 才 能、 創 意 と い っ た も の を 抑 圧 し、 圧 殺 し て い き ま し た。 ロ ー マ 世 界 の 燦 然 と 輝 く 文 明 は 消 し 炭 の よ う に 光 を 失 い、 後 に 暗 黒 時 代 と呼ばれるようになります。 暗黒時代はなんと十四世紀まで続きま す。 一 〇 〇 〇 年 に も わ た っ て 文 明 が 衰 微 し て い っ た 結 果、 ヨ ー ロ ッ パ は 技 術 の 後 進地域となってしまいました。 天 然 痘 へ の 対 処 に し て も、 先 に ご 紹 介 したとおり、赤い衣服を身につけるといっ た よ う な、 そ の 程 度 の“ 医 療 技 術 ” し か 持ち合わせていませんでした。 一 方、 隣 の 世 界 で は、 ヨ ー ロ ッ パ と は 比べものにならないほど高度な医療技術 が発達していました。例えば、人痘法です。 天然痘になると皮膚に醜い膿疱ができま す が、 こ の 汁 を 健 康 な 人 間 の 皮 膚 に 擦 り 込んで天然痘の発症を防ぐというもので す。今でいうワクチンですね。 自民党総務会 副会長 名 誉 顧 問 紀元前一世紀のヨーロッパでは、ローマ 帝国が成立しました。暦としてユリウス暦 が、法律としてローマ法が、ヨーロッパ全 土 に 道 路 網 が 整 備 さ れ ま し た。 科 学 技 術 は高度に発達し、生活用水を供給するため の水道が建設され、人々は文明的な生活を 送ることができるようになりました。公衆 浴場やコロッセオまでつくられ、享楽的に 生きることができるようにもなりました。 まさにローマ世界は文明そのものでした。 文明人として日々の生活を謳歌してい た 人 々 で し た が、 五 世 紀 末 の 西 ロ ー マ 帝 国の滅亡とともにその文明も失われてし ま い ま す。 や が て、 技 術 を 否 定 し、 芸 術 は自分の使用人の子どもに牛痘を植えつ け、 し ば ら く 後 に 本 物 の 天 然 痘 を 植 え つ けてみたのです。 現 在 で は 人 体 実 験 と み な さ れ、 と て も 認められないような乱暴な臨床研究とい えますが、結果だけみると大成功でした。 牛痘法の対象とされた子どもは天然痘を 発症しなかったのです。 牛 痘 法 に関 するジェンナーの 論 文 は 一七九八年に発表されました。しかし、あ まりにも画期的な内容であったがゆえに、 当時の医学界では認められませんでした。 もともと牛飼いの迷信から見出された 医 療 技 術 で す か ら、 医 学 の 権 威 者 た ち も 理解が追いつかなかったのでしょう。「牛 痘を植えつけられると牛になる」という 風 評 も 一 時 は 拡 が っ た よ う で す が、 当 時 のヨーロッパは中世の暗黒時代を既に脱 し て お り、 新 し い 技 術 で あ っ て も 検 証 で さじ と し て 驚 き を も っ て 紹 介 さ れ ま し た。 効 果 は 確 か な も の で あ っ た よ う で し た が、 植えつける量の匙加減がなかなか難し か っ た よ う で す。 多 く 植 え つ け す ぎ て 本 当に天然痘になってしまう人が五十人に 一 人 は い た と い い ま す か ら、 人 痘 法 と い えども深刻な問題を抱えていました。 ぎゅうとう う つ さて、イギリスの片田舎には、ある迷信 が伝えられていました。それは牛飼いは天 然痘にかからないというものです。あまり に非科学的な俗説のように思われたので、 それまで誰 もまじめに取り上 げようとは しませんでした。しかし、町の開業医をし ていたエドワード・ジェンナーは違いまし た。単なる俗説とは思えなかったのです。 牛飼いは、牧草地で牛を飼い、乳を搾り、 牛乳を売って生計を立てています。当然な がら、毎日のように牛に触れて生活してい ます。牛が牛痘という病気にかかると、乳 搾りの女性にもこの病気が伝染ってしまう のですが、その症状は天然痘よりもずっと 軽く、 もちろん命を失うこともありません。 ジェンナーは、牛飼いの少女を診察する きるものはしっかりと認めようとする土 壌ができていました。 牛痘法により天然痘の発症を防ぐこと ができたとする知見が積み重なるにつれ、 その有用性が広く認識されることとなり ました。 こ の ジ ェ ン ナ ー の 業 績 に よ り、 人 類 は 初めて天然痘に対する有効な対処方法を 手 に す る こ と が で き、 天 然 痘 は そ の 活 動 範 囲 を 次 第 に 狭 め て い き ま す。 そ の 後、 ジ ェ ン ナ ー の 牛 痘 法 の 理 論 を 応 用 し て、 天然痘ワクチンが開発されました。 このワクチンを使って天然痘の撲滅活 動 が 世 界 的 規 模 で 行 わ れ、 一 九 八 〇 年、 世 界 保 健 機 関(WHO) が 天 然 痘 の 根 絶 を 宣 言 し ま し た。 つ い に 人 類 は 輝 か し い 勝利を手にしたのです。 その後の話は来月にしましょう。 ●生年月日 昭和 22 年 3 月 16 日 ●選 挙 区 参議院比例区 ●当選回数 3 回 ●出 生 地 岡山県岡山市 ●趣 味 音楽・読書 ●個人ホームページ http://www.mfujii.gr.jp/ ●そ の 他 薬学博士・薬剤師 ●政治信条 私 の 政 策 の 柱 は A( エ イ ジ フ リ ー)B( バ リ ア フ リー)D(ドラッグフリー:薬物乱用のない社会) 社会創りです。 高齢者も、障害を持つ方も、国民誰もが安心して 暮らし、元気で生活を送ることのできる長寿健康 社会を創るために何が必要か、を政治活動の根底 においています。 好きな言葉「昨日の夢は、今日の希望、そして明 日の現実」 ●活動報告 参院議員厚生労働委員会理事等として、食品安全 確保のための食品衛生法改正、健康増進法改正、 薬事法改正、薬剤師法改正、クリーニング業法改正、 国民年金法改正等に関与。 ●経歴 昭和 37 年 岡山大学教育学部付属中学校卒業 昭和 40 年 岡山県立岡山操山高等学校卒業 昭和 44 年 東京大学薬学部薬学科卒業 昭和 44 年 厚生省入省 平成 9 年 厚生省退官 平成 9 年 財団法人 ヒューマンサイエンス 振興財団 専務理事 平成 12 年 日本薬剤師連盟 副会長 社団法人 日本薬剤師会 常務理事 平成 13 年 参議院議員(1期目) 平成 16 年 厚生労働大臣政務官 (平成16年 9月〜平成17 年11月) 平成 22 年 参議院議員(2期目) 平成 23 年 参議院政府開発援助等に関する 特別委員会 委員長 平成 24 年 自由民主党広報本部 副本部長 広報本部新聞 出版局長 平成 25 年 自由民主党党紀委員会 委員 裁判官弾劾裁判所 裁判員 平成 26 年 原子力問題特別委員会 委員長 文部科学副大臣 平成 27 年 自民党政務調査会 副会長 参議院政策審議会 筆頭副会長 参議院厚生労働委員会 委員 平成 28 年 参院沖縄及び北方問題に関する 特別委員会 委員長 参議院厚生労働委員会 委員 国土審議会 離党振興対策分科会 特別委員 参議院議員(3期目) 自民党総務会 副会長 2017年 2月号 味感 50 51 コラム 際、とりわけ丹念に観察していました。牛 痘を発症した手には、天然痘でみられる恐 ろしい膿疱ができていました。その少女の 手を見るかぎり、まさに天然痘の症状のよ うでした。しかし、天然痘の場合とは違っ て、牛飼いの少女は重症化することなくた ちまち軽快してしまいました。 ジ ェ ン ナ ー は、 症 状 の 軽 重 の 差 は あ れ ど、 牛 痘 と 天 然 痘 は 近 い 種 類 の 病 気 で は な い か と 思 い ま し た。 さ ら に 踏 み 込 ん で 仮 説 を 展 開 し、 人 痘 法 の 画 期 的 な 改 良 が できるのではないかと考え始めました。 そ れ は、 天 然 痘 の 代 わ り に 牛 痘 を 植 え つ け た と し て も、 や は り 天 然 痘 に 対 す る 耐 性 が 獲 得 で き る の で は な い か、 そ し て 牛 痘 な ら ば、 た と え 発 症 し た と し て も 重 症化しないのではないかという仮説です。 ふ じ い も と ゆ き 研 究 を 重 ね て い く 中、 一 七 九 六 年、 つ いに臨床研究を決行しました。ジェンナー 藤井 基之
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