アルコール依存症治療に関わって、今、伝えたいこと 駒木野病院 アルコール総合医療センター 宮脇 真一郎 【はじめに】 我が国のアルコール依存症者数の推計値は 2013 年に 109 万人と発表された。一方で、し っかりと診断され治療につながったアルコール依存症者は全体の 5%ほどである。明らかに 医療につながりにくい病気である。 日々の臨床で様々な患者様やご家族と接する中で、当たり前にある「お酒」や「人の生 き方」、 「家族のあり方」などについても考えさせられることが多い。今回は、アルコール 医療に関わる専門職として、日々感じていることや、日常化している「お酒」の違った一 面があることをお伝えできたらと考えている。 【課題と問題提起】 お酒にまつわる問題は、諸外国と比べ日本の社会では大目にみられることが多い。生活 習慣の中に溶け込んでしまったお酒から離れることは簡単ではない。アル中というマイナ スな表現がなされることがあるが、マイナスな表現がさらに事態を悪化させ、自分はアル 中ではないという否定につながる。実はアルコールは依存性の高い薬物である。20 歳以上 は法律上、飲むことができるが、上手に飲まなければ、自分自身の体を傷つけ、更には家 族を含めた多くの大切な人間関係を無くすことにつながる。日本におけるアルコール関連 問題への対処は、飲酒運転撲滅の活動が広く知られているが、それ以外は、あまり表に出 ることが少ない。平成 26 年 6 月にアルコール健康障害対策基本法が施行され、日本におけ るアルコール関連問題を考える上で大切な法律が出来上がった。毎年 11 月 10 日~16 日の 「アルコール関連問題啓発週間」を利用し、保健医療福祉関係者、更には市民も巻き込み 積極的に啓蒙していき、お酒による害を減らしていく努力をしていかなければならないと 考える。 【駒木野病院におけるアルコール依存症治療の紹介】 生活習慣病に似た特徴があるため、体からお酒を抜く解毒の時期とお酒との付き合い方 を考えるプログラムの時期の合わせて 10 週間の期間を設けている。多くの患者様がアルコ ール依存症という病気を知らない。医療につながって初めて知る。きちんとした病気の知 識が得られる情報提供をしている。また、断酒会、AA と呼ばれるお酒をやめていくための 自助グループに通っていただくことを励行している。退院後、お酒を止め続けるためには、 一緒にやめていく同志が必要である。最終的には人とのつながりで、良くなっていく病気 と言える。厳罰を与えることが必要ではなく、治療が必要な病気である。 【最後に、今、伝えたいこと】 お酒による害だけをお伝えしたいとは考えていない。大切なのは、今、この瞬間の自分 自身のことを考える機会にしていただけたらということである。お酒の問題を自分事とし て考えることによって、新たな気づきが生まれる。他の人にさらに広がった時に、ほんの 少し社会を変える原動力になる。ほんの少しが大きな変化につながることを信じている。
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