(HP掲載用) 平成29年3月2日 (第19回)音 楽 鑑 賞 会 (紀尾井ホ-ル) ~紀尾井シンフォニエッタ東京とパリ管弦楽団のトップ奏者たち~ 2016 年 11 月 29 日(火)19 時から、9 名の会員と家族が鑑賞した。 「紀尾井シンフォニエッ タ東京」の名手たちと、 「パリ管弦楽団」のトップ奏者たちの共演で、素晴らしいアンサンブルが 披露された。紀尾井シンフォニエッタ東京のコンサートマスターであり、パリ管弦楽団の副コン サートマスターを務めるヴァイオリニスト千々石英一氏が中心になり、編成された室内アンサン ブルである。 なお、紀尾井シンフォニエッタ東京は、2017 年 4 月から、 「紀尾井ホール室内管弦楽団」に衣 替えをすることとなっている。 プログラム 通常は大編成の管弦楽団によって演奏される曲であるが、シェーンベルクと、強くその影響を受けた 二人の音楽家が、小編成の室内管弦楽団による演奏を目的として、それぞれ編曲した、3曲で構成され ている。 音楽評論家広瀬大介氏によると、20 世紀前半の音楽界をリードした大作曲家アルノルド.シェーン ベルク(1874~1951)は、無調音楽、12 音音楽など、現代音楽に多大な影響を残したウィーン生ま れのユダヤ人の音楽家である。ウィーン、ベルリンで活躍したが、ナチスが台頭してくる中、アメリカ に亡命し、晩年を過ごして 76 歳で他界している。 シェーンベルクは、第一次世界大戦が終焉した 1918 年に、戦後の混乱からの文化の復興を願い、ウ ィーンで、 「私的音楽協会」を設立し、同時代の音楽を精力的に演奏した。3 年あまりで 117 回の私的 (HP掲載用) 平成29年3月2日 演奏会を開催し、154 作品を取り上げたということである。 (プログラムの解説より) 記録によると、ウィーンでの私的音楽協会の実質的な活動は 3~4 年という短期間であったが、非公 開の音楽愛好家の集いとしての濃密な時間であったらしい。音楽を渇望している社会へ、 「音楽の提供」 を行いつつ同時代の前衛的な音楽を世に広めていく、そんな活動の『場』となったのかと思われる。そ の演奏会での演奏のためにシェーンベルク自らが多くの編曲を手掛けており、多彩な音楽家としての一 面がみられる。 今回のプログラムは、その私的演奏会において演奏する目的で、あるいは、運営経費のカバーをする ために編曲した楽譜を販売する目的で、室内アンサンブルの演奏用に編曲された作品の中から選ばれた ものである。いずれも通常は大規模な管弦楽団により演奏される曲であり、なかなか聴く機会がないも のであった。 ドビュッシー 牧神の午後への前奏曲 (B.ザックス編曲) ドビュッシー(1862~1918)が、1894 年にマラルメの詩を題材に書いた器楽曲であり、新しい響 きを追求した曲である。フルートの響きにくい中音域で、しかも、半音移行を多用しながら幻想的官能 的な詩のイメージをかもし出すところが印象的。ドビュッシーが、ワグナーの影響から抜け出そうとし ていた時期の管弦楽の名曲である。 室内アンサンブル用に、ザックスがシェーンベルクの助力を得て編曲したとされている。(ザックス の人物・活動はほとんど知られていない。)弦、木管、打楽器、鍵盤楽器などが、デリケートな響きを 重ね、幻想へと誘う。 ヨハン・シュトラウス二世「南国のバラ」 「皇帝円舞曲」 (シェーンベルク編曲) いつもはフル編成のオーケストラの演奏で、華やかな響きを楽しむウィンナワルツの名曲を、室内管 弦楽として聴く、稀な体験であった。弦楽器、木管楽器、鍵盤楽器により、10 人ほどで編成された、 文字通り「それなりの大きさの室内」での演奏になじむもののようであった。 紀尾井ホールという中規模ホールでも、やや広すぎる感じもあったが、「紀尾井」のしっくりした響 きのおかげで、一つひとつの楽器の音と、デリケートな重なりあいを、身近に感じながらゆっくり楽し むことができた。 マーラー「交響曲第4番 ト長調」 (エルヴィン・シュタイン編曲) 編曲者シュタイン(1885~1958)はシェーンベルクの教えを受け、また助手として私的音楽協会の 運営を支えた一人といわれており、多くの編曲をしている。オーストリアがドイツに併合された頃、ロ ンドンに亡命し、音楽活動を続けた。 マーラーの交響曲は、大規模な管弦楽団による壮大なオーケストレーションをイメージしてしまうの で、10 名規模の室内アンサンブルによって、どんな音の世界が展開するのか、とても興味があった。 弦楽器、木管楽器、ピアノ、ハーモ二ウム、打楽器が、微妙に響きあいながら、いつの間にか、マー ラーの音の世界引き入れてくれていたように感じた。 そして、第 4 楽章はソプラノソロが登場し『天上の生活~少年の魔法の角笛より』が詠唱される。第 1 楽章から第 3 楽章までは、この楽章に向けての、道のりという趣といってもよく、小林沙羅さんのソ プラノ詠唱が、透明な響きとなってアンサンブルと調和した第4楽章は圧巻であった。 各奏者が持ちかえ楽器を傍らに置いて、瞬時に持ち替えて演奏し、また、元の楽器に戻り、何事もな (HP掲載用) かったように演奏を続けるのも、とても面白かった。 平成29年3月2日 ハーモ二ウムという楽器はあまりなじみがないので、興味があったが、紀尾井ホールの解説によると、 19 世紀から 20 世紀初頭に、ヨーロッパで広まった足踏み式のオルガンということである。身近にある オルガンは、空気を吸い込む時リードが震えることで音が出る仕組みということだが、ハーモ二ウムは、 逆に空気を送りだすことでリードをふるわせる仕組みということである。きわめてデリケートな調整が 必要ということで、次第に製造されなくなり、忘れ去られたもののようであるが、この楽器ならではの 音色があるとのことである。 (八ヶ岳リードオルガン美術館所蔵のものをお借りして、持ちこんで使用) 2 つのオーケストラの中核メンバーである千々岩コンサートマスターを中心に、トップレベルの演奏 家が相互に語りかけながら、お互いの音楽を融合させながら演奏している空気が、ホールにしっくりと しみとおっていた。 晩秋のひととき、なかなか得られない体験をさせていただいた。紀尾井ホールならではの企画である と感じ、余韻を楽しみながら帰路に就いた。 (白神 賢志記) 以上
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