西九州道の延伸に伴って修学旅行生が急増

特集 地域活性化の推進−交流と連携による未来の地域づくりに向けて−
西九州道の延伸に伴って修学旅行生が急増
せ
ざき
まさ
ゆき
瀬 崎 昌 幸*
西九州自動車道が福岡市から松浦、平戸方面へ整備が進むことによって、松浦市、平戸市を中心とした
地域に修学旅行生が急増してきている。本稿では、都市部では体験できない約80種類の農漁村体験プログ
ラムを展開し、年間約30,000人の修学旅行生を受け入れている「まつうら党の里ほんなもん体験」につい
て紹介する。
1.はじめに
2.修学旅行生が急増
西九州自動車道は、福岡県福岡市を起点とし佐賀
西九州自動車道が福岡市から松浦、平戸方面へ整
県唐津市・伊万里市、長崎県松浦市、佐世保市を経
備が進むことによって福岡市から平戸市までの所要
由して佐賀県武雄市で九州横断自動車道長崎大分線
時間が約40分短縮されたため、関東・関西地区か
と接続する延長約150㎞の高規格幹線道路であり、
ら航空機や新幹線を利用して福岡へ来て、バスで松
沿線各都市間の所要時間短縮等により九州北西部の
浦、平戸方面へ農漁村体験に来るという修学旅行
地域経済の活性化、高速定時性の確保に大きく貢献
コースが徐々に確立されてきた。
する道路である。
その結果、「まつうら党の里ほんなもん体験」を
現在、全体延長約150㎞のうち約105㎞が供用さ
開始した平成15年には7校約1,000人だった修学旅
れており、残る約45㎞の未供用区間すべてを国の
行生が、西九州自動車道の延伸に伴い近年では約
直轄事業として整備が進められている。
160校約30,000人まで増加してきている。
また、今回紹介する松浦市、平戸市は九州の西端、
また、体験型観光の修学旅行は特に都会の学校に
長崎県の北西部に位置しており、農業や漁業などの
人気でリピーターとなる学校が多いのが特徴であり、
1次産業が盛んな地域である。
西九州自動車道の整備による時間短縮効果によって、
現 地 で の 滞 在 時 間 が 増 え、 体 験 エ リ ア や 体 験 メ
N
力となってきている。
福重 J.C.T
福岡市
ニューの選択肢が増えてきていることもさらなる魅
月隈 J.C.T
糸島市
福岡県
唐津市
鳥栖 J.C.T
佐賀県
平戸市
九州
松浦市
佐々町
横断
自動
「まつうら党の里ほんなもん体験」の「ほんなもん」
車道
とは長崎の方言で「本物」という意味で、農漁村体
伊万里市
験で本物の自然に触れ、人格を育むための教育プロ
佐世保市
凡 例
武雄市
波佐見町
長崎県
供 用 中
武雄 J.C.T
事 業 中
有明海
フル及びハーフインター
高 速 道 路
大村湾
図-1 西九州自動車道概略図
*長崎県 土木部 道路建設課 主任技師 095-824-1111
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3.まつうら党の里ほんなもん体験
グラムである。一般社団法人まつうら党交流公社が
平成15年から実施しており、平成19年にはその活
動が評価され、農林水産省の「オーライ!ニッポン
大賞」で内閣総理大臣賞を受賞している。
また、まつうら党の里ほんなもん体験では修学旅行
生など多くの参加者に対応できる3つの特徴がある。
①受け入れ態勢
人近くの修学旅行生がやってくるようになったこと
で、地域に新たな活力を生み出している。
多くの修学旅行生が民家に宿泊することで個人の
約80種類の豊富な農林漁業体験プログラムに
収入が増えるだけではなく、食材等は地元のものを
約800人のインストラクターと約500軒の受入民
提供することで地産地消の推進に繋がり、地域経済
家で1日最大1,700名の受入が可能であること。
の活性化に寄与している。
②官民協働
傘下の13地区組織と1団体からなる広域連携
組織である一般社団法人まつうら党交流公社を長
さらに地域の人たちが普段なかなか接点がない孫
世代である中高生と交流することで元気をもらい、
生活の充実に繋がっている。
崎県や松浦市など関係市が強力にバックアップす
また過去の参加者の中には修学旅行での漁師体験
る官民協働のコーディネートシステムが構築され
が忘れられず、高校卒業後に大阪から友人と移住し
ていること。
てきて平戸市で漁師になった人もいる。
③安全対策
このように西九州自動車道は、所要時間の短縮で
受入民家・インストラクターへの定期的な安全
修学旅行生を運んで来てくれるだけではなく、地域
衛生講習の実施や、旅館業法の許可や遊漁船業法
の人に元気や笑顔などを運んで来てくれる道路に
の登録を義務付けるなど安全管理や危機管理の徹
なっている。
底に努めていること。
5.今後の見込み
⑴ 供用区間の拡大
西九州自動車道は、平成29年度に唐津伊万里道
路の南波多谷口IC〜(仮称)伊万里東ICまでの5.3㎞
区間と伊万里松浦道路の今福IC〜(仮称)調川IC
までの2.6㎞区間が、平成30年度に伊万里松浦道路
の(仮称)調川IC〜(仮称)松浦ICまでの2.2㎞区
写真-1 漁業体験(地引網漁)
(提供:一般社団法人まつうら党交流公社)
間がそれぞれ開通を予定しており、さらなる効果が
期待されている。
松浦市
平戸市
松浦IC
調川IC
今福IC
H29年度開通予定
H30年度 H29年度
開通予定 開通予定
佐世保市
写真-2 農林業体験(稲刈体験)
(提供:一般社団法人まつうら党交流公社)
4.地域が元気に
図-2 今後の開通予定箇所
⑵ 体験エリアの拡大
福岡市〜平戸市までの所要時間は、西九州自動車
人口減少や少子高齢化などの問題を抱える地方都
道が整備される前は約160分だったが、現在では約
市へ、西九州自動車道の延伸に伴って年間30,000
120分へ短縮されており、将来は約90分まで短縮
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される見込みである。バスでの移動時間が2時間を
切ることでトイレ休憩がなくなり、見た目以上の短
縮効果が見込まれるため、現地での滞在時間が長く
なり、さらなる体験エリアの拡大や体験メニューの
増加が期待される。
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
H28
図-3 福岡市までの所要時間(長崎県試算)
⑶ 世界遺産との連携
長崎県では、軍艦島やグラバー園など長崎市に多
くの構成資産を持つ「明治日本の産業革命遺産」が
昨年世界文化遺産に登録されたことに続いて、平戸
市などに点在する「長崎と天草地方の潜伏キリシ
タン関連遺産」が今年7月に国内候補に選定され、
平成30年の世界遺産登録を目指している。
図-5 西九州自動車道のストック効果
(提供:国土交通省長崎河川国道事務所)
6.おわりに
長崎県においては、西九州自動車道のさらなる整
農漁村体験と世界遺産を組み合わせた新たな修学
備促進のため、今年4月に関係市町と協力して西九
旅行のコースとして、さらに修学旅行生が訪れるこ
州道推進室を設置し、国の用地取得業務の支援を
とが期待される。
行っている。
西九州自動車道の整備によるストック効果は、今
回紹介した内容以外にも観光客の増加や新たな企業
の進出、農水産物の出荷額の増加など、さまざまな
効果を発揮してきている。今後は、このような多種
多様のストック効果を幅広く発信し、多くの方に理
解してもらえるような道路整備を行っていきたいと
考えている。
最後に、本稿の執筆にあたりご協力いただきまし
た一般社団法人まつうら党交流公社及び国土交通省
長崎河川国道事務所に心から感謝申し上げるととも
図-4 長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産
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に、西九州自動車道が早期全線供用となることを祈
り、末尾の言葉とさせていただきます。