やぐら通信No63をアップしました。

感動を伝える
私が高校生だった頃、父親からよくこんなことを言われていました。
「若いときに一度は東京で暮らす
といい。
」父親は、昭和 15 年に旧制の中学校を卒業して東京の会社に就職しました。そして出兵するま
での3年間を東京で生活しました。滋賀県の農家で育った少年には、当時の東京は見るもの全てが感動
的だったと,当時を振り返って話していました。終戦後も再び東京に戻るつもりでしたが、家庭の事情
でその願いは叶わず、生まれ故郷の滋賀県で一生を終えました。田舎育ちの自分が、都会で受けた感動
を是非とも子どもにも体験させてやりたいという思いで私に話してくれていたのですが、残念ながら私
は、関西から出ることはありませんでした。一方、弟は父の思いを受けて東京で数年過ごしました。
20年以上も前に、私が5,6年を担任した時の教え子にS子がいます。当時、S子は、私が学生の
頃に行ったドイツ(旧西ドイツ)の話が凄く心に残ったそうで、
「自分も大人になったら絶対にドイツに
行く」と心に決めていたそうです。実際に彼女は、ドイツに行き行くだけでなく,ドイツ人の男性と結
婚までして、現在ベルリンで3児の母親として暮らしています。毎年秋休みに、帰国する度に会いに来
てくれます。僅か数日のドイツ体験話を、そこまで真剣に聴いてくれていたことへの感謝と、大人の言
葉がここまで影響を与えるのだという驚きを受けました。
人に何かを伝えたいという瞬間があります。親が子どもに。教師が子どもに。しかし、それはともす
れば、大人の一方的な自己満足的な小言や説教としか子どもには受け止められず、何回も何回も同じ事
を繰り返すことになります。けれども、大人が感動した話は、本当に子どもの心にストンと落ちるもの
です。今年も矢倉小学校では、多くの熱い思いや感動を伝えるゲストティーチャーを招きました。ヒロ
シマ被爆語り部の飯田清和さん、上方落語家の桂花団治さん、なでしこジャパンコーチの望月聡さん、
パラリンピック水泳競技メダリストの木村敬一さん・・・。体験に裏付けられた話は、人の心に大きな
インパクトを残すものです。
子育てで大切なことは、大人が自身の『感動体験』を話していくことだと思います。この場合の感動
とは、何も素晴らしい感動だけではないと思います。ご自身の失敗談を話されることもいいと思います。
さらには、哀しかったこと、苦しかったことをどのように乗り越えてきたかでもいいと思います。子育
てとは、
「自身の生き様を語ること」そんなふうに思います。子どもたちはそれを聴きながら、何年か後
にきっと自身の人生に活かしてくれる筈です。
校長
五十嵐 信博