新生ストラテジーノート 第 263 号

新生ストラテジーノート 第 263 号
2017 年 3 月 3 日
調査部長 江川 由紀雄
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(03) 6880-6035
バーゼル委員会、3月の会合で最終合意に至らず
リスクアセットの見直しの最終局面で
バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は、2017 年 3 月 2 日に、会合の結果を踏まえて、 Ingves
議長の声明として以下の通りの発表を行った。(BCBS のプレス発表からそのまま抜粋する。)
“The Basel Committee has made further progress towards the finalisation of the
Basel III reforms.” (バーゼル委員会はバーゼル III 改革の最終化に向けて更なる進展を
みた。)
“Committee members reiterated their broad support for the key features of
these reforms, which include revisions to the risk-weighted asset framework,
the leverage ratio framework and the output floor. The differences, where they
remain, have narrowed and work continues to reach an agreement.” (委員会メン
バーはリスクアセットの枠組みの見直し、レバレッジ比率ならびにアウトプットフロアを含む改
革の主要な特質につき、おおまかには支持していることを繰り返し強調した。)
“While the finalisation of Basel III will take longer than originally expected, the
Committee remains determined to reach agreement on the remaining elements,
and recognises the importance of providing clarity and certainty to all market
participants.” (バーゼル III の最終化は、当初想定よりも時間がかかることになるが、委
員会メンバーは、全ての市場参加者に明確さと確実性を提供する重要性を認識しており、残
る要素について合意に達することについて従前同様に決意を固めている。)
注: 和訳は筆者による暫定訳
出所:
BCBS, The Chairman of the Basel Committee reaffirms
commitment to finalise post-crisis Basel III reforms, 2 March 2017
http://www.bis.org/press/p170302.htm
先に中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループ(GHOS)は、2017 年 1 月 3 日付でバーゼル
3の最終化に向けて「更なる時間が必要」と発表していた。今回(2017 年 3 月 2 日付)の発表は、
バーゼル委員会における折衝が長引いており、以前として最終化に向けての合意に達していない
ことを議長名で発表したものと解される。今後しばらく時間がかかりそうなニュアンスを滲ませては
いるが、合意達成の日程面での目途については何ら言及していない。
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バーゼル3(またはバーゼル III)の振り返り
「バーゼル3」と呼ばれる銀行の自己資本比率規制の強化は、当初は、2010 年 12 月のバー
ゼル委員会文書 1に書いてあった範囲のルール見直しを意味するものと理解されていた。すなわ
ち、自己資本比率を計算する際に自己資本に算入できる範囲を狭め、自己資本比率の最低要求
水準を引き上げ、自己資本比率規制以外に流動性比率(LCR)、レバレッジ比率、純安定調達比
率(NSFR)などの新たな健全性基準を導入し、それらについても最低要求水準を設定することで
ある。自己資本比率(自己資本を「リスクアセット」で割った値)を分数だとすると、分数の分子とな
る「自己資本」を厳格化し要求水準を引き上げただけで、分母となる「リスクアセット」の算出方法
を変更するようなものではなかった。この意味における「バーゼル3」は、日本を含む多くの国々で
バーゼル委の 2010 年文書に記載されていた通りのスケジュールで 2013 年から 2019 年に掛
けて段階的に導入されている過程にある。
ところが、2014 年から、「リスクアセット」の算出方法を変更する方向性を持つ見直し案が次々
とバーゼル委から発表され始めた。証券化エクスポージャーの扱いの見直し、銀行勘定の金利リ
スクの扱い、銀行の内部モデル利用の可否、信用リスクに係る標準的手法の見直し、アウトプット
フロア(銀行の内部モデルを用いて算出したリスクアセット等に当局が定める方法による下限を設
定すること)などである。証券化エクスポージャーに対する資本賦課ルールの大幅な見直しは、
2014 年 12 月に最終文書の形になった(その後、追加・修正されている)。
こうした見直しは、分数の分子ではなく分母の計算に影響するものである。「分子改革」であっ
た筈の「バーゼル3」の範囲を逸脱し「分母」に踏み込んでいるとして、こうした見直しの動きにつ
いて業界関係者は「バーゼル4」と呼ぶようになった。しかし、バーゼル委や各国の銀行監督当局
は 2015 年頃までに浮上した見直し案を含め「バーゼル3」と呼んでいる。銀行勘定の金利リスク
の扱いについては、2度の市中協議を経て、結局は、「リスクアセット」には含めない(「第1の柱」
扱いではなく「第2の柱」扱いとする)ものの、従前とは異なる計量化(計測)手法を用いた金利リス
ク量の当局への報告と開示を求める方向で決着した。
信用リスクの標準的手法、銀行の内部モデルの利用の可否、内部モデル利用時のインプットフ
ロアの設定、内部モデルで算出したリスクアセットまたは所用自己資本に対するアウトプットフロア
(下限値)の設定などが合意に至らず協議が長引いている。
バーゼル委員会は、2015 年 11 月の G20 アンタルヤサミット向けに発出した文書を皮切りに、
こうした一連の見直しは 2016 年末までに全て最終化すると繰り返し表明していた。しかし、2017
年 1 月 3 日付で GHOS のドラギ会長(ECB 総裁)とバーゼル銀行監督委員会のイングベス議長
(スウェーデン中銀総裁)が連名で、「いくつかの作業を終わらせるため更なる時間が必要」として、
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BCBS, Basel III: A global regulatory framework for more resilient banks and
banking systems, December 2010 http://www.bis.org/publ/bcbs189_dec2010.htm
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最終化を先送りすることを発表した。更に、3 月 1 日・2 日のバーゼル委員会の会合の終了後に、
イングベス議長が本稿の冒頭に掲載した発表を行った。
最終化に向けての合意に時間を要している理由については、多くの報道がなされており、報道
例の大半が米国当局の主張内容と米国における最近の政権交代を指摘している 2が、本稿では
その点には踏み込まないでおきたい。ドイツのハンブルグで 2017 年 7 月 7 日・8 日の両日、G20
サミットが予定されており、この 7 月のサミット前の合意達成が BCBS にとって次のターゲットとな
るであろう。今後の進展を見守りたい。
(調査部長 江川 由紀雄)
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例として、ロイターによる報道 Reuters, Basel regulators say determined to finalise
bank rules, 2 March 2017
http://www.reuters.com/article/basel-banks-regulation-idUSZ8N1F3020
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