巻頭言 - 全国老人保健施設協会

巻 頭 言
厳しい情勢、されど
介護の真ん中で輝きたい
全老健常務理事、社会医療法人慈薫会介護老人保健施設大阪緑ヶ丘理事長
河﨑 茂子
今年も桜の季節が巡ってくる。その中で、老健
施設が置かれた状況は、決して明るいものばかり
ではない。 1 月13 日に開かれた、平成28 年度第
10 回常務理事会の席で、改めてそのことを痛感
した。
常務理事会の議題は「今後の活動」についてで
あった。冒頭部分で報告された介護保険制度改
正・介護報酬改定を巡る国の動きは、平成30 年
度の医療・介護同時改定に向けて、本格始動した
ことを実感させるものであった。
常務理事会で私が衝撃を受けたのは、続く調査
報告の中で、全国の老健施設の約 3 割が赤字であ
ることが明らかにされた点である。我々老健施設
は、昭和62 年 3 月の老人保健施設制度発足以来、
国の施策に則り、真摯に要介護高齢者の医療・リ
ハビリ・介護に取り組んできた。だからこそ、こ
の結果は到底納得できるものではない。
折しも、昨年暮れの12 月28 日に開かれた第
134 回社会保障審議会介護給付費分科会では、
「平成28 年度介護事業経営概況調査の結果」が報
告された。調査結果に見る「介護老人保健施設」
の税引き後の収支差率は、平成26 年度の3.3%か
ら平成27 年度は2.7%と、0.6 ポイント低下して
いる。平成27 年度のマイナス改定の影響が顕著
に現れたと考えられる。
この収支状況の中で、借入金を返済し、利用者
に納得できるケアを提供し、現場で汗を流す職員
の生活を守っていかなくてはならない。そのうえ、
自身の老健施設の将来計画を設計し、実行してい
くにはどうしたらよいのか。正直、途方に暮れる。
全老健は発足以来、老健施設の黎明期を経て、
介護保険制度の導入、入所者の状態像の変化、医
療・介護の枠組みの変化、介護職員等の処遇改善、
さらには、社会構造の変化、新たな介護サービス
類型の誕生、国家財政の逼迫の中で、さまざまな
課題を乗り越え、今日に至っている。
1 月20 日の第193 回通常国会の施政方針演説
で安倍内閣総理大臣は、
「世界の真ん中で輝く国
創り」を一つの柱に打ち出した。
「一億総活躍の
国創り」として『働き方改革』や『女性の活躍』
、
『成長と分配の好循環』を掲げた。
『成長と分配の
好循環』の中では、確かに「介護職員の皆さんに
は、経験などに応じて昇給する仕組みを創り、月
額 1 万円相当の改善を行います」との一文も明示
された。しかし残念ながら、老健施設が直面する
「経営の危機」についての言及はない。そこのと
ころを、国はどう考えているのか。
このような国の施策の中で、老健施設を巡る状
況は新たな局面を迎えている。老健施設の経営現
場からは、
「利用者は減った」
、
「人材の確保も難
しい」
、その結果「在宅強化型老健施設から撤退
した」という声も上がっている。他方、療養病床
の受け皿となる新類型の行方も気にかかる。さら
には、在宅復帰に消極的なご家族の存在。そうし
たご家族の目はサービス付き高齢者住宅に向いて
いるのが現状だ。もはや、加算の見直しや新設と
いった対症療法では、乗り切れなくなっているの
が現実だ。
29 年間の老健施設の歩みをとめることなく、
いま老健施設はいかなる機能を担うべきか。そし
てそのあるべき仕組みは? まさに制度と機能の
根本からの見直しが問われている。介護のフィー
ルドは全老健がリードするという実績と誇りを堅
持するために、いま我々は何をなすべきか。
桜花の季節は短い。しかし桜は花が散っても、
その幹には、脈々と生命が息づいている。老健と
いう大樹の生命を枯らすことなく、老健施設が、
さらには全老健が、いかなる歩みを進めるか。そ
の答えを出すために、我々は全力を尽くしていこ
う。
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