臨床医として、研究医として

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臨床医として、
研究医として
中
山
遥
子
1.臨床医として
も 多 い か と 思 い ま す。 て ん か ん は 脳 の 異 常 な
「患者がどんな状態で、診察室に入ってきて、
ニューロン活動による反復性の発作です。基本的
そしてどうやって帰っていくかを考えろ」
。
には薬物治療が主体となりますが、中には手術で
私が脳神経外科を志すきっかけとなった師の言
treatable な海馬硬化症あるいは皮質形成異常と
葉です。診察室に、自分の足で歩いてきたか、車
いった病態があります。
こういった症例において、
椅子を自走してきたか、押してもらってきたか、
実際に手術で摘出した標本の形態学的な異常と臨
ストレッチャーで入って来た患者さんが、どのよ
床像、そしててんかんの本質であるニューロンの
うに退院していくか、常にイメージしながら診療
異常活動を、どう結びつけ捉えるかということは
にあたりなさいという教えで、日常診療において
今後の治療にとって非常に重要ですし、ひいては
一つ一つ患者さんのために judge していく上で、
脳全体のニューロン活動あるいは脳機能を理解す
私が大切にしている道標の一つです。
る上で非常に重要な仕事です。機能障害があるか
ここ西新潟中央病院にお世話になるようになっ
ら(つまり発作があるから)形態学的な異常が起
て、早1年半が経ちました。てんかん、機能外科
こるのか、あるいは、形態異常があるから発作が
を扱う当院の脳神経外科は、これまで経験してき
起こるのか、
「鶏が先か、卵が先か」的なジレン
た一般脳外科とはやや異なる現場です。例えばて
マがありますが、形態学だけでなく生化学、生理
んかんについて言えば、一見するとどこも患って
学、
分子生物学、
遺伝学などの多方面からアプロー
いるようには見えない患者さんが、突如発作とな
チし研究が進んでいる最中であります。
ると意識を失い、自動症を呈したり、全身性痙攣
3.医師として
となったり、あるいはその後朦朧状態となること
てんかんの分野でもそうですが、各分野の疾患
もある。そんな患者さんの発作をどうやって捕捉
の多くの原因遺伝子が発見されつつあり、様々な
し、解析し、治療に役立てるかという戦略が非常
分野で人工知能の応用が検討されており、医療を
に重要となる分野です。先に挙げた師の言葉のよ
取り巻く環境も日々進化しています。そのうち人
うには入口と出口で見た目に劇的な変化はないか
工知能に “お加減いかがですか?” と言われ、遺
もしれませんが、患者さんが辿る経過をイメージ
伝子検査一つで疾患の診断ができる時代が来るの
しながら診療するのが大事という点では、やはり
でしょうか。そんなことを考えつつも、臨床医と
同じことが言えるなあ、などと考えながら診療し
しても研究医としても、AI じゃない医師として、
ています。
多くのことを学ぶことができるのはやはり患者さ
2.研究医として
んからだと思います。臨床と研究を両立できる立
現在は西新潟中央病院で勤務をしながら、新潟
場にあることに感謝しつつも、現状の自分にでき
大学脳研究所病理学教室にお世話になり、てんか
ることは何なのかを模索しながら、精進していき
んの病理について勉強させてもらっております。
たいと思います。
“てんかんの病理” と言ってもピンとこない先生
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(国立病院機構西新潟中央病院 脳神経外科)
新潟県医師会報 H29.2 № 803