インフラ整備計画立案時に心がけたいこと

後輩技術者に向けたメッセージ
インフラ整備計画立案時に心がけたいこと
はやし
いさお
林 功*
1.はじめに
近年インフラ整備や維持管理に関して、新たな手
法が実践されはじめている。みなさんも一度は耳に
したであろうPPPがそれである。PPPにはPFI、指
階ごとに異なった幅広の知識が必要である。各段階
で意識する事項も異なってくる。
以下、計画立案業務に着目し、計画立案時のさま
定管理、DB等、さまざまな手法が含まれるがいず
ざまな段階で意識すべきポイントを述べる。
れにせよ私が奈良県庁にお世話になった当時(昭和
⑴ 構想検討段階
55年)と比べて、工事現場が官公庁で働く技術者
から遠くなった感が否めない。
私が入庁当時は、インフラの種類に関わらず計画
インフラ整備の構想をまとめる際には、国土利用
計画や広域基本計画等の上位計画を参考にする必要
がある。
検討、施工それぞれの段階で外注し、成果品を受け
構想検討の段階で意識すべき点は、インフラに関
取る、あるいは完工したインフラの引渡しを受ける
する上位計画と各地方自治体の政策とのすり合わせ
のが一般的であった。また小規模な工事は自分で図
であると思われる。
面を作成し、部材の数量も計算し、積算を行い発注
例えば都市計画のマスタープランを立案する際に
する場合もあった。さらに時代を遡ると、工事の規
は、自分の所属する自治体が工業振興を掲げている
模によらず測量から積算まで官庁が直営で行ってい
のであればマスタープランに工業振興ゾーンを位置
た時代もあった。後輩技術者のみなさんも大学等で
づけることになる。その場所は流通の要となる高速
測量実習の単位を取得された方も多いと思われるが、
道路等の主要幹線道路近傍となるが、その際意識し
私も含め大半の方が実際のインフラ整備時に測量業
たいのが時間距離である。例えばゾーン内の都市計
務に携わったことはないと思われる。
画道路が未完成である場合、財政上等さまざまな理
インフラ整備や維持管理をめぐる状況が様変わり
由で道路整備が遅くなるようであれば、いくら適地
した時代ではあるが、計画立案時における官公庁技
であっても工場の誘致に関して高速道路からの時間
術者(以下、
「インハウスの技術者」という)の果
距離の短い他の自治体に敗れる等、フィージビリ
たす役割は、逆にますます重要になっている。イン
ティ(実現可能性)の低い構想になりかねない。
ハウスの技術者が計画立案時に心がけることは何な
のか、特に地方公務員OBとして、自分がなかなか
実践できなかった反省を踏まえ提案してみたい。
2.インフラ整備等に係る計画立案
インハウスの技術者はインフラの整備〜維持管理
のさまざまな段階で発注者の立場でコンサルタント
や建設業者の方と関わり、協働して実務を行ってい
る。このようにすべての段階で関与できるのはイン
*元奈良県 まちづくり推進局長(道路建設課長、道路交通環境課長等を歴任)
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ハウスの技術者だけであり、魅力的である反面各段
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まちづくりの将来目標
将来めざすべき、まちづくりの目標
まちづくりの方針
将来目標を実現するための、まち全体の分野別のまちづくり
の方針
地域別のまちづくりの方針
地域特性の違いを踏まえた、地域別のまちづくりの将来目標
や、まちづくりの方針
実現に向けて
本計画に基づき、まちづくりを有効に進めていくための、実
現に向けての方針
図- 1 都市計画マスタープランの構成
単純化した例をもとに説明したが、実際はもっと
さまざまな要素を考慮する必要がある。構想検討段
階でもコンサルタントに外注することもあると思わ
れるが、所属する自治体の主要な施策を頭に入れな
がら作業を進めることを意識したい。
⑵ 整備計画策定段階
短中期(5〜10年間)に必要となるインフラ整
備計画を作成する際に意識すべき点を考えてみたい。
この際に意識すべき点は、関連計画と財政状況で
あると思われる。
例えば、公営住宅の再整備計画を立案する場合、
コンサルタント任せにすると、単に老朽化の程度に
合わせて、順次建て替える計画になってしまいがち
である。一方関連計画には、市街地のコンパクト化
を目指す立地適正化計画、公共施設量の整備統合を
目指すファシリティマネジメント、将来人口予測を
もとに立案された総合戦略等があり、これらを考慮
すれば、立地適正化計画における居住誘導区域外に
ある公営住宅は、建て替えを行わず居住誘導区域内
の公営住宅との統合計画とすべきである。また、整
備計画上の優先度を決める際には構想策定時と同様、
関連する都市計画道路の整備見通しが立たない場合
は、優先度を低くする必要がある。
また、インフラの整備計画は5年毎に見直される
場合が多いと思われるが、5年の間には新たな関連
計画が策定されていたり、既存計画が見直されてい
る場合も多い。例えば、道路整備計画の基礎資料と
なる道路交通センサスは代表的なものであるが、新
しいデータが公表された際には、所管するエリアの
将来交通量の再予測を行い整備計画の見直しに反映
させる必要があろう。
また、大半の地方自治体が財政的に余裕がなく、
地方交付税の交付団体である現状では、インフラの
整備に必要となる財源の確保等、財政面から見た
フィージビリティは重要なファクターである。各自
治体の財政部局は中期財政見通しといった財政計画
を検討する部署であり、整備に必要な事業費を提示
しチェックも依頼することになる。しかしながら、
財政部局に任せきりにするのではなく、担当者とし
て国庫補助確保の見通しに加え、発行可能な起債の
種別や償還時の交付税措置等、事業に係る財政制度
を理解したうえで協議に臨んでもらいたい。できれ
ば独自にシミュレーションをして議論ができれば理
想である。
この段階では特にインハウスの技術者として意識
しなければならない事項が多いのでコンサルタント
任せにせず技術的な側面、行政的な側面ともに関連
部署とこまめに情報交換をし整備計画に反映させる
必要がある。
⑶ 実施計画段階
この段階では、測量業務、概略設計、詳細設計等
すべての業務を測量会社や専門コンサルタントに外
注することになり、インハウスの技術者としては関
与が少なくなると思いがちであるが事業をプロジェ
クトとして捉え、成功裏に終わるように導くのが目
的と考えれば主体はやはり発注者であるといえる。
プロジェクトマネジメントには進捗管理、事業完
成後の効果分析、次への対応策検討まで含まれるが
(PDCA)、ここでは主に事業着手までの段階に着
目する。
①リスクの予測
実施計画はフィージビリティの観点から想定さ
れる障害(リスク)を考慮した実施計画とすべき
である。
道路整備を例にあげると当該計画が地元の協力
や地権者の同意が得られやすいものになっている
かという観点である。道路整備の場合用地買収が
できれば事業は9割方完成したも同然といわれる。
地図上に道路法線を引く際には、事前に可能な限
り地権者情報も含め地元の状況を把握して作業に
当たるべきである。地形や地勢上の問題で、道路
の線形計画が代替性の乏しい場合はやむを得ない
が事前説明すら受け入れてもらえない地域は、迂
回するルート案も検討すべきである。経済性に優
れた案であっても地元の協力が得られずに供用ま
でに10年以上もかかるのであれば、効果の発現
が遅れ経済性にも劣る案となりかねない。
また、奈良県のように埋蔵文化財が多い地域で
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は、同じく経済性に優れた案であっても遺跡の重
できるので、大規模事業の実施にはPPPの可能性
要度によっては用地買収後に遺構保存のために法
を検討すべきである。
線変更をしなければならない場合もある。そこま
で行かなくても遺構保護のために施工費が大幅増
になり、不経済なルート案になる場合がある。
この段階では、可能な限り現地に入り技術者の
立場で地形・地勢の状況に加え、地元状況や文化
財の分布状況等を把握しフィージビリティの高い
実施計画を立案していく必要がある。
②事業費の見積りと資金調達
各インフラの短期・中期の整備計画が立案済み
であっても個別事業の実施には総事業費の精査に
加え、事業費の年度割も再検討する必要がある。
PPP/PFIの概念図
PPP(Public Private Partnership)
公共施設等の建設、維持管理、運営等を行政と民間が連
携して行うことにより、民間の創意工夫等を活用し、財政資
金の効率的使用や行政の効率化等を図るもの。
PFI(Private Finance Initiative)
PFI法に基づき、公共施設等の建設、維持管理、
運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を
活用して行う手法。
【類型Ⅰ】
公共施設等運営権制度を活用した
PFI事業(コンセッション事業)
大規模災害対応以外にも政策的な理由で優先度や
実施期間等の見直しを求められる場合がある。
また、事業実施の確実性を高めるための資金調
達も重要な要素である。各地方自治体は国庫補助
や交付金を想定して予算を組み立てていくが想定
どおりに補助金等が得られるとは限らない。予算
要望時には前例踏襲型で前年度と同種の要望にな
りがちであるが、国の経済対策全般の情報から新
しい交付金や補助金の情報まで可能な限り把握し
【類型Ⅱ】
収益施設の併設・活
用など事業収入等で
費用を回収する
PPP/PFI事業
(収益型事業)
【類型Ⅳ】
その他の
PPP/PFI事業
(①サービス購入
型PFI事業)
(②包括的民間委託)
【類型Ⅲ】
公的不動産の有効活用を図るPPP事業
(公的不動産利活用事業)
確度の高い事業項目で要望すべきである。
図- 2 PPP/PFI の概念図
③実施体制の確保
出典:内閣府ホームページより
プロジェクトマネジメントでいう人的資源の確
保については、担当者ではなく主に管理職が意識
すべき事項であるが、事業完遂には欠かせないポ
工事現場から遠くなったとはいえ、さまざまな事
イントである。しかしながら国、地方自治体とも
業を現場の担当者として経験することはフィージビ
に人員削減を行っている昨今では、いくらビッグ
リティの高い計画を立案するためには必要であり、
プロジェクトだからといって簡単に組織が立ち上
ぜひとも担当者として可能な限り実践を積んでもら
がることはなく、立ち上がっても想定より小規模
いたい。そのうえで行政全般を俯瞰する目や現場経
な組織となるのが普通である。
験に裏打ちされた幅広い意識を持って計画立案にあ
このような場合、事業完成に向けて意識したい
たることで、インフラ整備の実効性は高まるのである。
のが冒頭で触れたPPP、民間事業者との連携であ
最後にインフラ整備の最上流にいるのはインハウ
る。従来型の設計〜工事完了・維持管理では資金
スの技術者であるとの自負を持って、日々の業務に
調達やマンパワーに不安がある場合でも、インフ
携わっていただくよう切に希望するものである。
ラの種別によっては事業実施の可能性が出てくる
のである。またこれら実施体制に不安がない場合
でも予算の効率的使用や行政事務の効率化が期待
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3.おわりに
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