会員 寄稿 - 新潟県医師会

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会員
寄稿
「ふりむけば40年 私の透析人生」
(杉田 収 著)
を読んで
高
橋
幸
雄
2014年末のわが国の透析人口は320,448人に達
している。透析療法の歴史を振り返ると、1938年
頃ヘパリンが実用化され、体外循環を安全に行う
準備ができ、1960年のスクリブナーのパーマネン
トシャントの発明により慢性腎不全に対する維持
透析療法が可能になった。1966年、新潟大学では
慢性腎不全患者2名に維持透析が行われており、
そのうち、31歳の女性は透析導入してすぐに外来
通院可能となった。17歳の男性は間歇的腹膜透析
を施行していたが、浮腫性の網膜剥離と眼底出血
で失明、血液透析に移行して改善を期待したが、
視力の回復は出来なかった。しかし、腎癌を合併
して死亡するまで透析患者のわが国での長期生存
記録を維持した。この後に次々と導入された血液
透析例の成績は当時行われていた間歇的腹膜透析
とは比較にならない良好な成績であった。以来、
慢性腎不全の中心的治療となり維持透析患者は激
時に発症し、危険な治療を大切な医局員に行わせ
増した。この増加に対応困難となり、1968年に信
るわけにいかないと、新潟大学から信楽園病院に
楽園病院で透析施設が開設された。当時の透析導
多くの患者を転院させたとの噂もある。この信楽
入の原因疾患は慢性糸球体腎炎が多数で、透析導
園病院でも状況は変わらず、残念ながら劇症肝炎
入年齢は30代、40代が多かった。当初使用した透
による殉職者も出た。更に悲しいことに殉職者の
析器はコルフ型で透析液は外国の文献を参考に主
婚約者まで4か月後劇症肝炎で死亡したと聞いて
治医が試薬を計測して準備、
透析開始前に100リッ
いる。この輸血が必要な状態はエリスロポエチン
トルの透析液を作った。この時に用いられた二重
が1990年に透析例に使用可能となるまで続く。杉
コイルダイアライザーは800-1000ml の血液を充
田収氏が血液透析療法を開始した時代はこのよう
填する必要があり、
保存血の確保も重要であった。
な状況であった。ループ利尿薬、カルシウム拮抗
透析終了後にはこの血液を回収保存し次回の透析
薬、ACEI、ARB など優れた降圧薬が市販され、
で使用した。1967年に血液の充填を必要とせず、
慢性糸球体腎炎の治療成績が向上し、腎機能の安
透析膜を張り替えて滅菌すれば何回でも使用でき
定化や腎不全に至るまでの期間の延長で、透析導
るキール型透析器を導入したが、全症例が高度の
入の原因疾患のトップの座は1997年に糖尿病性腎
貧血を持っていたので、輸血を必要とした。この
症が取って代わる。同時に透析導入時年齢も上昇
結果多くの患者がウイルス肝炎に感染し、劇症肝
し続ける。しかし、慢性腎炎で比較的若年で導入
炎での死亡も多かった。知識もあり注意を払って
された症例も透析が長期になると、透析アミロイ
いたはずの透析を担当していた医師3名がほぼ同
ド症の合併例が多くなり、手根管症候群やばね指
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が多発し、更に長期化するにつれて破壊性脊椎症
の写真撮影も楽しんでおられた。体調管理につい
の合併で車椅子生活を余儀なくされる症例が出始
ても冷静にしかも詳細に自己を観察し、水分出納
める。また、閉塞性動脈硬化症が進行し、四肢の
もご自分の経験から論じておられる。透析患者と
激痛で苦しみ、壊疽で切断せざるを得ない症例も
いえども運動が重要であること、食事の注意も、
増加する。特に一人暮らしの患者さんは深刻であ
例えば突然死につながるカリウムについても細胞
る。透析患者の高齢化も深刻で2014年の1年間に
内への糖の取り込みで低下する理由など一般人に
導入された患者の年齢平均は69歳、透析人口全体
理解できるように詳細に説明がなされている。著
では67.5歳である。自分がこれまで生涯をかけて
書のところどころに出てくる生き物に対する優し
行って来た透析医療は人々を幸せにしたのだろう
さも透析療法に耐えて人生を有意義に過ごした体
か、病気の苦しみを長引かせ、社会的な地位の喪
験を通して培われたのではないか。維持透析の目
失など不幸な人を増加させただけではなかった
的は腎不全となっても社会で活躍できることであ
か。こんな思いを払拭出来ないでいた時に突然、
る。この目的の達成が可能であることをご自身で
杉田収氏がご自分の著書を持って職場を訪問して
示して下さった貴重な記録でもある。
くださった。最後にお会いした時と変わらない元
これから透析に導入される患者さんには是非読
気な様子に驚かされた。透析生活40年となれば重
んで欲しい。更に、現在透析を受けておられる人
篤な合併症を持っていることが多い。なぜ元気で
にも、透析療法に従事する医療関係者にも知識と
いられるのか、まさに驚きである。その著書を読
自信を与える良書と思う。
み感じたことは、食餌や体調管理に対する徹底し
(信楽園病院附属有明診療所)
たご自身の努力、ご家族の並々ならぬご協力であ
る。職務を全うし、お子様を立派に養育し、趣味
発行所:考古堂書店 定価:1,400円(税別)
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平成28年度がん登録届出状況
1月末現在
区分
4月~ 12月
1月
計
(平成27年度計)
届 出 件 数
16,377
404
16,781
28,078
医療機関数
106
17
実医療機関数
113
120
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