「『アメリカンKOBE BEEF』と地理的表示」(PDF)

D.C.通信
海外だより
連載 70
中村岳志 (JA全中農政部国際企画課<在ワシントン>)
March, 2017
「アメリカンKOBE BEEF」と
地理的表示
祥の名称を用いた産品が生産さ
れている例が少なくなく、例え
ば「アメリカ産ゴルゴンゾー
ラ」も多く販売されている。
「アメリカン KOBE BEEF」――
名称のことを言う。EUにおいて
そのため、生産者サイドでは、
レストランや小売店などでは、
は、特定の条件に合致した特産
こうした名称の制限に反対する
こうした表示を見かけることが
品が制度において登録を受け、
声が強く、例えば最大の酪農団
少なくなく、驚かされる。
その名称(地理的表示)が保護
体である全米生乳生産者連合会
わが国で「神戸ビーフ」と名
されている。
などは、
「地理的表示保護は一
乗るためには、兵庫県産である
具体的には、例えばブルー
般的となっている名称の使用を
ことのほか、霜降りや肉質等に
チーズの一種である「ゴルゴン
制限し、アメリカの競争力を削
関する厳しい基準を満たすこと
ゾーラ」は、イタリアの特定県
ぐ」と強く反対している。
が必要だが、当地ではアメリカ
において、地域産の原料を使用
こうした立場の相違から、地
産でも「KOBE BEEF」として堂々
し、特定の製法で生産される
理的表示は、米・EU間の貿易交
と販売されている。肉質は赤身
チーズの地理的表示として保護
渉において難航課題のひとつと
で固く、本物とは似ても似つか
されており、その他の地域で生
なっているほか、環太平洋連携
ないものであり、こうした商品
産された場合など、決められた
協定(TPP)においても、各国に
が出回れば、ブランド価値が損
条件に合致しない場合、その名
よる保護は認められたものの、
なわれることが懸念される。
称(
「ゴルゴンゾーラ」等)を
異議申し立てなどの手続きが整
これに対処するためには、本
使用することはできない。また、
備され、アメリカ等が影響力を
そ
物を保護する施策として、これ
「ゴルゴンゾーラ風の」などの
行使する道が用意されている。
までに欧州連合(EU)を皮切り
間接的な表示も認められておら
近年アメリカでは、和牛の消
に、
「地理的表示保護制度(GI)
」
ず、偽物がブランドイメージを
費が伸びているが、アメリカ産
が整備されてきている。
脅かすことを防いでいる。
の牛肉に「KOBE BEEF」などの
なお、EU 同様、わが国でも、
名称を自由に使用できるままで
特産品の地理的表示を保護する
は、偽物の氾濫を許し、需要の
ため2014年に「地理的表示法」
パイを奪われてしまいかねない。
「地理的表示」とは、地域にお
が確立され、
「神戸ビーフ」も保
日本からの輸出拡大に当たって
いて長年培われた特別の生産方
護の対象として登録されている。
は、地理的表示の保護も含め
■地理的表示を制度的に保護
する EU・日本
法や気候・風土・土壌などの生
た、何らかの対策を検討するこ
産地の特性により、高い品質と
■保護に反対するアメリカ
評価を獲得するに至った産品の
一方、アメリカでは、外国発
とが必要であると思われる。
2017/03
月刊 JA
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