沖縄のダム技術

技術レポート
沖縄のダム技術
〜空気エネルギーシステムをはじめとして〜
みや
ぎ
かず
まさ
宮 城 一 正*
1.はじめに
領下に置かれたことから経済面での立ち遅れが著し
く、沖縄振興のためには社会資本整備が急務とされ
時間断水日数
給水制限日数(日)
沖縄県は本土復帰までの戦後27年間、米国の占
隔日断水日数
金武ダム
た。とりわけ、水使用量の増大に水供給が追いつけ
ず、構造的に水不足が慢性化していたことから、県
図-1 ダムの完成と給水制限日数
民生活の安定と経済発展のためには安定した水資源
を確保することが最重要課題であった。
そのため、沖縄総合事務局では沖縄本島に安定的
大保ダム
な水資源を確保することを最大の目的として、本島
辺野喜ダム
普久川ダム
北部において国直轄事業として多目的ダム建設を推
進することになった。
安波ダム
新川ダム
福地ダム
金武ダム
羽地ダム
しかしながら、人口の増加や生活環境の向上によ
漢那ダム
り供給が需要に追いつかず、慢性的な水不足に悩ま
され、復帰後も毎年のように給水制限を余儀なくさ
倉敷ダム
れた(図-1)
。
その後、10の多目的ダム(図-2)を完成させ、
※倉敷ダムは瑞慶山ダムとして国が
建設後、
沖縄県が管理している。
安定した水資源を確保してきた結果、復帰当初に比
図-2 建設された多目的ダム
べ水事情は大幅に改善され、沖縄本島では平成6年
度以降は給水制限を行っていない。
2.新技術の先進的取組み
体材料の調達が困難であること等を反映して、沖縄
の水資源コストは高くなる傾向がある。ダムの建設・
管理に当たっては、これらの不利な条件をダム設計
沖縄本島の自然条件・社会条件は、必ずしも水資
施工の合理化や新技術の導入あるいは開発によって
源開発やダム建設に恵まれたものとはいえない。沖
克服し、より経済性のある合理的なダム建設が求め
縄本島北部のダム建設地点と水需要地域である中南
られてきた。
部と距離が離れていること、年間の降雨は全国に比
⑴ 具体的な取組み事例
べ多いが、雨の降り方が梅雨期や台風期に集中する
沖縄総合事務局では、このような状況を克服し、
こと、ダム建設地点の地形、地質的条件により貯水
沖縄の自然風土に即応したダム技術を確立するため、
池の貯留効率が悪いこと、沖縄は離島のためダム建
新技術の開発や新手法の採用を積極的に取り入れて
設用機械や工事材料の調達が不便であること、地質
きた。
的条件に恵まれずコンクリート骨材やフィルダム堤
具体的には、以下のことが挙げられる。
*内閣府 沖縄総合事務局 開発建設部 流域調整課長 098-866-0031
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①高温多湿な気候を考慮したダムコンクリート
配合設計・施工システムの開発
②コンクリート骨材やフィルダム堤体材料の調
表-1 羽地ダムの諸元
型 式
ロックフィルダム
堤 高
66.5m
堤頂長
198m
堤体積
1,050,000㎥
ト骨材製造システムの開発及びフィルター材
流域面積
10.9㎢
料等フィルダム堤体材料生産システムの開発
湛水面積
1.15㎢
総貯水容量
19,800,000㎥
有効貯水容量
19,200,000㎥
達が困難な地質的条件を克服したコンクリー
③ジブクライミングクレーンの導入によるダム
コンクリート運搬打設の合理化
④ダム管理を省力化し、確実な放流設備操作と
運転を図るため非常用洪水吐きの全面越流方
取水設備
式によるゲートレス化
⑤福地ダムのサイホン式上流洪水吐き、下流洪
曝気装置
水吐きのドラムゲートの採用
⑥辺野喜ダムでの複合ダムの接合部として、抱
き込み方式の採用
⑦貯水池からの放流エネルギーで製造した圧縮
空気を貯水池の曝気や管理施設の空調に利用
コンプレッサー
するなどの空気エネルギーの活用、空気ロッ
写真-1 羽地ダム
ク式取水設備の採用
⑧亜熱帯地方の地域特性を踏まえた検討を行い、
羽地ダムの建設においては、多くの技術開発や新
大保ダムにおいて亜熱帯地域初となる拡張レ
技術導入を積極的に行い、技術の発展やコスト縮減
ア工法を採用
の面で成果を上げた。
⑨国 内で初めて台形CSGダム形式を採用し、
⑴ 空気エネルギーシステム
従来のコンクリートダムでは使用できなかっ
羽地ダムでは、小水量、低落差の条件においても
た低品質な材料を使用することにより、コス
ダム放流エネルギーの利用が可能な往復型水力コン
ト縮減、工期縮減、環境負荷低減を実現
プレッサを開発し、圧縮空気を製造している。圧縮
空気は、圧縮空気利用設備に供給後、ダム管理に活
3.羽地ダムにおける技術開発
羽地ダムは、洪水調節、流水の正常な機能の維持、
用されており、この一連のシステムをダム用空気エネ
ルギーシステム
(DAS:Dam Air-energy System)
かんがい用水及び水道用水の供給を目的に、羽地大
と称している(図-3)。このシステムにより、未
川(流域面積14.8㎢、流路延長12.6㎞)の河口か
利用放流エネルギーの活用、ダム湖の水質保全、電
ら約3.1㎞上流地点に建設された高さ66.5mのロッ
力消費抑制による二酸化炭素削減、ダム管理費の縮
クフィルダムである(表-1)
。
減を図ることが可能となる。
羽地ダムは、平成8年3月に本体工事に着工、平
成10年10月本体盛立開始、平成12年3月に完成し
た(写真-1)
。
⑵ 浅層曝気設備
羽地ダムは、集水面積に対して貯水容量が大きい
ため、回転率が約1回/年と極端に低く、水温躍層
が強固に形成される可能性が十分高いことから、表
層部の滞留に伴って植物プランクトンの増殖が懸念
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技術レポート
動ローラに変更することにより、一層の仕上がり
厚さを20㎝から30㎝にすることにより、盛立速
度が上昇し、作業工程の短縮とコスト縮減を図る
ことができた。
②2枚扉型引張ラジアルゲートの開発
ゲートの構造を鋼材の特質を十分活かせるよう、
従来の圧縮荷重を受ける構造から引張り荷重を受
ける構造に変更したラジアルゲートを開発した。
これにより、鋼重半減、駆動装置縮小、格納設備
縮小が図られ、コストを縮減した。
③空気ロック式ゲートレス取水設備
図-3 空気エネルギーシステム
従来の鋼製ゲートの替わりに、逆U字管頂部へ
圧縮空気を給排気することにより、水流の遮断・
解放を行う新たな形式の選択取水設備を開発し採
用した(図-5)。これにより、高価なゲート製
作が必要なく、機械設備の機器点数減少による設
備費や維持管理費の低減が図られた。
散気管
散気装置
図-4 浅層曝気設備
されることから、浅層曝気設備を導入している(図
-4)
。羽地ダムの浅層曝気設備については、微細
気泡管(マイクロバブル)を用いたエアーリフト揚
水管方式で、DASシステムで製造された圧縮空気
を活用することにより年間のコスト(電気代)約
400万円の削減を実現した。
図-5 空気ロック式ゲートレス取水設備
4.おわりに
沖縄はダム建設を行ううえで地質や地形、気候、
材料調達など難しい条件がたくさんあるなか、沖縄
また、浅層曝気設備設置以降は富栄養化問題によ
の自然風土に即応した新技術の開発など積極的な取
るアオコの発生は確認されず、アオコ等の藻類増殖
組みを行うことでこれらを克服してきた。これによ
に伴う水質障害は、特に生じていないなど一定の効
り、沖縄総合事務局では本土復帰以降、42年間に
果が確認されている。
10のダムを建設して沖縄の治水や利水から地域振
⑶ その他技術開発
興まで広く貢献してきた。
①フィルダム堤体
コア材の締固め機種をタンピングローラから振
これまで取り組んできたダム技術の蓄積が、今後
のダム建設の参考となれば幸いである。
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