大塚 孝治 教授(最終講義) 「核物理の夢を追って40年」

東京大学大学院理学系研究科・理学部
物理学教室 談話会
大塚 孝治 教授(最終講義)
「核物理の夢を追って40年」
2017年 3月15日(水) 午後2時00分~午後3時30分
東京大学 理学部1号館 小柴ホール
原子核物理学は何をやっていて何を目指しているのか、外からは中々分かりに
くい。テーマは大小様々あり、大きな目標が見えにくい。その中で私が院生時
代から40年間追い続けてきたのは、陽子と中性子の多体系としての原子核の
性質を決めている根本的な多体原理は何か、であった。陽子や中性子に働く核
力は量子色力学に源があるものの、そこから核力を導くことは未だに完成して
おらず、核力が複雑であるのは確かである。それにもかかわらず、原子核には
単純な構造や美しい規則性があり、古典的な描像とも結びつく。私にとっては
これが不思議なことであった。研究者としてのキャリアは有馬− ヤケロによる相
互作用ボソン模型から始まり、その基礎や改良に関わった。そこで感じたのは、
フェルミ多体系には何らかのメカニズムがあり、ボソンという極端に単純な模
型でも(現象論をすれば)うまくいくような、深い仕掛けがあるのではないか、
それを明らかにしたい、という願望であった。その仕掛けは、まだ完全ではな
いが、やっと見え始めたように思う。そこに至るまでには、量子多体問題や核
力に関する、(個々にも重要な)いくつかの知の積み上げがあった。それには多
くの先達や共同研究者の助けがあったし、不安定核や RI ビームという新しい面
が加わったこともタイムリーだった。テンソル力や3体力による殻進化とその
帰結として新魔法数や殻の崩壊、原子核での量子相転移や量子自己組織化、計
算手段としてのモンテカルロ殻模型の提案と発展・応用、などのトピックスを
からめながら、原子核のような量子多体系で現れる、古典的調和にも通じる美
しさの起源と「安定の島」など将来への意味について考えてみたい。
※ 小柴ホールラウンジにお茶とお菓子を用意しています。どうぞご利用下さい。