エマルション流の制御を利用した 有価物の回収技術

JST大学連携新技術説明会
2017年2月23日(木) JST東京本部別館
エマルション流の制御を利用した
有価物の回収技術
∼エマルションフロー法∼
国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構
原子力科学研究部門 先端基礎研究センター
長縄 弘親
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背景 ∼溶媒抽出(液液抽出)∼
目的成分と結合する薬剤(抽出剤)を含む”油”を使って、水から目的成分だけを
選択的に抽出する方法
界面を通じて、目的成分の
水相から油相への移動が促進
油相
界面
水相
抽出剤
界面
金属イオン
(目的成分)
水/油の混 合
水/油の分離
水と油の間の界面
の面積を大きくする
1)排水(水相)
2)目的成分回収(油相)
レアメタル、食用油、香料、医薬品、DNAなどの
精製・抽出、等々、産業界で広く用いられている
技術
使用済み核燃料の再処理、高レベル放射性廃棄物の
処理などに用いる技術で、原子力分野でも非常に重要
界面
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背景 ∼溶媒抽出とカラム分離との比較∼
水に溶けている有価物・有害物の選択的回収の二大手法
溶媒抽出(液液抽出)
カラム分離
(吸着・イオン交換)
=
簡便で、扱いやすい
抽出容量が大
簡単な装置
迅速な処理
容易な操作
抽出容量が小
専用の装置が必要
=
非迅速
従来の装置は、簡便ではなく、
扱いづらく、初期コストも大
二大手法の長所と短所は“相補的”な関係にある
カラム分離のように、送液だけで簡単に、高効率な溶媒抽出を行うことができれば、
溶媒抽出とカラム分離の両方の長所を持ち、かつ互いの短所を解消した手法になる
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理想的な溶媒抽出を簡単な仕組みで
理想的な
溶媒抽出
乳濁した状態になるまで、
完全に澄んだ状態にまで、
水と油を
水と油を
十分に混合する &
迅速に分離する
従来の方法
激しく撹拌する
激しく振とうする
超音波をかける
特殊な装置
高コスト
遠心分離する
油水分離膜を使う
たとえば、遠心抽出器
エマルションフロー法
ポンプ送液だけで、
水と油を十分に混合
簡単な装置
低コスト
ポンプ送液だけで、
水と油を迅速に分離
※乳濁するまでの「混合」と透明になるまでの「分離」が同時に進行
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新技術
エマルションフロー法とは?
送液のみで、水/油の乳濁状態の流れ(エマルション流)の発生と消滅を制御する仕組み
→
革新的な液液抽出(溶媒抽出)
水相用
ポンプ
油相
油相用
ポンプ
処理対象の
水溶液
相分離部(上)
水流と油滴
の対向接触
乳濁混合
(混合部)
エマルションフロー
(水/油の乳濁流)の消滅
混合相
ノズル
ヘッド
油滴フローの
急激な減速
混合部
エマルションフロー
(水/油の乳濁流)の発生
相分離部(下)
エマルションフロー
(水/油の乳濁流)の消滅
水相
ノズル微細孔から
の油滴発生
“単分散に近い”エマルションが発生
エマルションフロー法の原理と概要
完璧な2液分離
(相分離部)
水滴フローの
急激な減速
卓上型の装置
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新技術の特徴・従来技術との比較
=最も普及しているが・・・
=最も低コストだが・・・
=最も高性能で小型だが・・・
=最も低コストでありながら
最も高性能で小型
インペラー
回転軸+インペラー
パルス発生器
ノズルヘッド
遠心抽出器
ミキサーセトラー
インペラー回転
重力分離
パルスカラム
パルス振動
重力分離
スプレーカラム
液滴噴出
重力分離
インペラー回転
遠心力分離
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従来技術との比較 ミキサーセトラーと比較
エマルションフロー(EF)
流量 = 30 L/h
ミキサーセトラー(MS)
不十分な2液相混合
MSの13倍
流量 = 2.4 L/h
インペラ回転 = 600 rpm
Yb抽出率=60%
やや濁りあり
十分な2液相混合
Yb抽出率=99%
流量 = 2.4 L/h
インペラ回転 = 1200 rpm
完全な相分離
不十分な相分離
※ 同じサイズ(体積)の装置でEFとMSとを比較
レアアースの1つであるイッテルビウム(Yb)を硝酸(pH2)から10mM DEHPA(抽出剤)/ヘキサン(溶媒)に抽出
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混合部での違い
単分散乳濁
多分散乳濁
接触効率の差
機械撹拌での2液混合
液滴噴出での2液混合
単分散に近い乳濁状態は、
発生と消滅を制御しやすい →良好な乳濁から迅速に完璧な相分離へ
界面の比表面積が大きい →2液相の接触効率が高い
単分散乳濁
多分散乳濁
相分離の差
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混合の違いがもたらすもの
ミキサーセトラー
エマルションフロー
排水時の水相
排水時の水相
エマルションフローでは、ミキサーセトラーよりも
液滴サイズの分布が狭い(液滴の均質性が高い)
相分離しやすい
油膜ができない
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相分離部での違い
(相分離部)
(相分離部)
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相分離の違いがもたらすもの
流速が増すと
相分離が悪化
相分離部
混合部
相分離部
(油相)
流速が増しても
相分離は良好の
まま
混合部
相分離部
(水相)
ミキサーセトラーでは、送液流速を大きくすると相分離部に流入する
エマルションが増加する。一方、エマルションフローでは、送液流速
を大きくしても相分離部にエマルションはほとんど流入しない。
小型装置で
迅速処理
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ミキサーセトラーとの比較(まとめ)
● 同じ大きさの装置で、エマルションフローの処理速度は、
ミキサーセトラーの10倍以上
→1/10 以下にダウンサイズ
※ ただし、抽出速度が遅い場合は、1/3 程度のダウンサイズ
● エマルションフローでは、排水への油相漏れ、油膜の発生がない
→油相の混入なし
→油水分離装置としても利用可能
単分散に近い乳濁は、発生と消滅を容易に制御できるため
● 抽出率でも、エマルションフローはミキサーセトラーに勝る
単分散乳濁に近いことから、2液相の接触効率がより高くなるため
● 送液のみで、撹拌などは、まったく不要
→初期コスト、運転コストを1/5 以下にコストダウン
単分散に近い乳濁は、機械攪拌することなく、送液だけで得られるため
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従来技術との比較 スプレーカラムと比較
水相ノズルヘッド
(微細でない液滴噴出)
非乳濁
有機相ノズルヘッド
(微細でない液滴噴出)
スプレーカラム
乳濁
有機相ノズルヘッド
(微細な液滴噴出)
エマルションフロー
両者の構造的な違いは、主として、有機相ノズルヘッドからの
液滴サイズ、積極的な相分離の仕組みの有無の2点である。
エマルションフローでは水相と有機相を乳濁状態にまで混合できる
が、スプレーカラムでは2液相を乳濁混合できない。
積極的な相分離の仕組みを持たないスプレーカラムでは、排水の
ために、むしろ2液相が乳濁しないための工夫がなされている。
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発展型のエマルションフロー装置
以前の発明をさらに発展
以前のものと比較して、
1)処理する水溶液の装置内での
滞留時間を長くできる。
2)比重が大きい水溶液に対して、
より効率的に乳濁化できる。
混合部
3)混合部の一部で相分離が起こる
容器構造によって、1つの仕組み
で、2段に近い性能を発揮できる。
4)従来型(向流方式)よりも相分離
の性能が向上している。
5)水溶液中の固形成分を連続的
に捕捉して回収できる。
→次ページ以降
(特開2016-123907)
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エマルションフロー法での固形成分の回収・除去
粒子(固形物)回収用エマルションフロー方式
=ノズルヘッド目詰まりなしの方式
粒子(固形)成分を連続的に回収・除去
水
微細化しない水相
微細化した油相
粒子(固形)成分は、界面
にトラップされ、油相には
侵入しない
抽出溶媒
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発展型エマルションフロー装置でのスラッジ除去
従来の方法
新しい方法
P
P
混合部でのスラッジ蓄積に伴い、目的物の抽出率が低下
→いったん、装置を止めて、ピストンなどでスラッジ回収
連続的にスラッジ回収
(特開2016-123907)
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実用化に向けた課題
それぞれの用途に応じた抽出条件(pH、塩濃度、抽出剤濃度、抽出時間など)、
装置条件(容器の形状・大きさ、ノズルヘッドの構造・材料、多段化の要否など)
の検討が必要
新技術の特徴
処理コストを従来法の5分の1以下、処理スピードを10倍以上(あるいは装置
のサイズを10分の1以下)にできる
排水に油分が混入しないので、環境にやさしい
水溶液中の固形成分(スラッジ、微粒子)も、連続的に回収できる
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想定される用途
レアメタルの回収・リサイクル
工場排水の浄化
油水の分離
固液分離(固形成分の回収)
企業への期待
本法は、低コストと高性能が両立した革新的な溶媒抽出の
新手法です。よって、これまで、コスト面から見送られてきた
レアメタルなどの有価物の回収にも利用できる可能性があり
ます。また、油水分離、固液分離など、溶媒抽出以外の用途
にも利用されつつあります。
本法の利用の可能性について、ご提案をいただけますと
幸いです。
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エマルションフロー法に関する知的財産権
登録特許
【特許1】向流方式エマルションフロー連続液液抽出装置 特許第5305382号
【特許2】エマルションフローを利用した連続液-液抽出装置 特許第5565719号
【特許3】塗料廃液処理方法 特許第4759769号
【特許4】溶液処理装置 特許第5648943号
【特許5】溶液中粒子成分の連続回収方法 特許第5733691号
【特許6】揮発性有機化合物除去装置 特許第6021057号
公開特許
【特許7】エマルション流の制御方法 特開2016−123907
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ご清聴、ありがとうございました。
お問い合わせ
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
研究連携成果展開部
E-mail :
[email protected]
Tel : 029-284-3420
Fax: 029-284-3679
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