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特性曲線法による液充填解析の配管設計への適応
吉村英人i
高椋恵ii
眞鍋尚iii
Application of Filling Analysis
by the Method of Characteristics to Pipeline Design
Hideto YOSHIMURA
Kei TAKAMUKU
Takashi MANABE
空の配管内に液体を充填していく場面は様々な配管システムで見受けられる.このような配管システムの
設計では,液体の到達時刻や充填時に管内で発生する水撃の検討を行うことが求められる.しかしながら,
複雑な配管システムに対して充填時の流れを系統的に検討する解析方法はまだ十分には確立されていない.
本報では,特性曲線法に基づく液充填解析を実際の配管設計に適応し,到達時刻および圧力の設計要件を
満たす条件の検討を系統的に行った.テストを行った結果,設計要件を満たし数値解析による予測とも概
ね一致する結果が得られた.また,本解析方法が実際の配管設計に適応可能であることを示した.
(キーワード): 配管系,配管設計,消火設備,液充填解析,水撃,到達時刻,特性曲線法
発生することが知られている 4).特に,充填時には
高圧かつ急速で液体を輸送することが多く,流れが
もつ運動量は満液時よりも一時的に大きくなるため,
流れが弁やバルブに衝突すると大きな水撃圧が発生
する 5, 6).また,充填時には液体による気体の圧縮や
気体の液体への混入が生じることもあり,満液時と
は異なるメカニズムで水撃が発生するため,より注
意深い検討が必要となる.
充填時の到達時刻や水撃の検討を複雑かつスケー
ルの大きい配管系に対して系統的に行うには 1 次元
流体解析が有効である.しかしながら,満液時の解
析方法に比べて充填時の解析方法はまだ十分には確
立されていない 7-9).これは充填時の流れは気液の相
互作用が生じる,いわゆる気液二相流として分類さ
れ,液体や気体のみの単相流と比べると流れがより
複雑になることが理由の 1 つである.そのため,気
相を含む流れや混相流で発生する水撃に関する研究
が続けられている 10,11).また,解析方法に関しても
様々な方法が提案されている.Liou & Hunt12)は流れ
を非圧縮性として取り扱う rigid column model によ
り液充填解析を行い,実験の傾向と一致する結果を
得ている.しかし,この方法では流れの圧縮性や負
1 はじめに
空の配管内に水や燃料などの液体が送水・充填さ
れる,いわゆる液充填流れは様々な配管システムに
おいて存在する.例えば,乾式スプリンクラーでは
常時は管内がガスで充填されているが,火災を検知
するとポンプの起動と合わせてバルブが開き,送水
が開始される 1,2).また,タンカーに積まれた液体を
プラント内のタンクに輸送する際も空の管内に液体
を送ることになる.この他にも,ポンプの運転起動
時では通常配管内は空もしくは残液が残っている状
態であるため,これに相当することになる.このよ
うな配管システムの設計において検討されることの
1 つとして液体の到達時刻がある.到達時刻とは液
体が目的の場所に到達するまでに掛かる時間や配管
内を満液にするまでに掛かる時間のことであり,到
達時刻が要求される時間内に収まるように配管を設
計することが求められる.特に,上記の乾式スプリ
ンクラーのような消火設備では火災の検知から放水
までの時間が非常に重要となる 3).もう 1 つは水撃
(サージ)の検討である.満液時にポンプトリップ
やバルブの急閉鎖に伴い発生する水撃が充填時にも
i
サイエンスソリューション部
デジタルエンジニアリングチーム
ii
サイエンスソリューション部
社会インフラチーム
iii
サイエンスソリューション部
社会インフラチーム
チーフコンサルタント
シニアマネジャー
1
博士(工学)
圧による水柱分離の発生などが取り扱えないため,
水撃の検討に用いることは難しい.また,Popov et al.
13)
は乾式スプリンクラーの配管系に特化した解析方
法を提案しており,配管の分岐や空気の圧縮性を考
慮した解析が行えるようになっている.Malekpour &
Karney14)は水撃解析に用いられることの多い特性曲
線法を拡張し,固定格子系において気液界面の追跡
ができる解析方法を提案している.彼らの方法は従
来の特性曲線法を拡張しているため,界面の追跡を
除いては流体機器による境界条件や水柱分離モデル
等がそのまま利用でき,また,分岐を含む複雑な配
管系にも適応できるため,実用的であると思われる.
上記のように充填時の流れを対象とした 1 次元解
析方法はいくつか提案されており,また,計測値な
どと比較しても精度の良い結果が得られている.し
かしながら,いずれも実験レベルの簡易なモデルを
対象とした検証がほとんどであり,実際の配管設計
に適応し検証を行った例は少なくとも著者の知る限
り見当たらない.当社ではこれまで特性曲線法によ
る管路系水撃解析プログラム u-FLOW®/WH の開発
および解析サービスを行ってきた 15).今回,この水
撃解析プログラムに Malekpour & Karney14)の方法に
基づく充填解析機能を追加し,その検証解析および
実際の配管設計への適応を行った.本報ではその内
容について紹介する.
2.2 基礎方程式
気液界面の移動を伴う液充填解析を行うため,
Malekpour & Karney16)は移動境界格子を用いた解析
方法を提案した.しかし,この方法では解の収束性
が悪く,格子幅の変化に伴い時間刻みを変更させる
必要があるなど,実用面で課題が残るものであった.
その後,これらの課題を克服するために,Malekpour
& Karney14)は固定格子系を用いる方法を提案した.
本報でも,固定格子系による特性曲線法に基づく解
析方法を採用する.
基礎方程式は以下に示す 1 次元圧縮性流体の質量
保存式および運動量保存式を用いる.
(2)
H
1  Q Q 



QQ  0
V

x gA  x t  2 gA2
(3)
ここで,H は圧力水頭,t は時間,a は管内における
音速,A は管断面積,Q は流量,V は断面平均流速,
α は管勾配である.また,λ は管の損失係数であり,
以下のように摩擦損失および形状損失から構成され
る.
2 数値解析手法

2.1 対象とする流れ
本報では液充填時の流れを 1 次元に近似して取り
扱う.液体の先端はいわゆる気液界面であり,充填
とともに界面が移動する.また,流れに対し以下の
仮定を置くものとする.①界面は流れ方向に対して
垂直であり,液先端より上流は全て液体で満たされ
ているものとする,②配管内の気相圧力は大気圧と
する,③液先端近傍は非圧縮性流体とし,それ以外
では圧縮性流体として取り扱う.これらの仮定のう
ち①に関して Liou & Hunt12)は,界面移動速度が気体
の液体への進入速度よりも速ければ,界面は垂直な
状態を保つことができるとしている.彼らは気体の
液体への進入速度 Cgas を以下の式で定義している.
Cgas   gD
H a 2 Q
 H


V 
 sin    0
t gA x

x


n
f
  i
D i 1
(4)
ここで,f は摩擦損失係数,  は単位長さあたりの
形状損失係数である.また, n は形状損失を与える
管に接続されている流体機器の個数である.管内の
圧力波の伝播速度 a は,管の弾性を考慮した以下の
式で評価する.
a
K 
1  K E   D e   C1
(5)
ここで,K は流体の体積弾性率,ρ は密度,E は管
のヤング率,e は管肉厚,μ は Poisson 比であり,0.3
を用いている.
気液界面を含む格子点では,通常の特性曲線法と
同じ方法で計算を行うことができないため特別な取
り扱いが必要となる.本報では,気液界面を含む格
子点では非圧縮性が成り立つと仮定し,基礎方程式
には非圧縮性の質量保存式および運動量保存式を用
いることとする.離散化手法の詳細については次章
で説明する.
(1)
ここで,g は重力加速度であり,D は管内径である.
β は管内径や管路勾配に依存する係数であり,Liou
& Hunt は実験より 0.5 ~ 0.68 の値をとるとしてい
る.本報で対象とする流れもこの条件を満たしてい
る.
2
t
C1  H R 
Gas-liquid
interface
Filling fluid
a
g

QR QR t 
QR sin t
2
2 gA
aA
t  t
C+
C-
C+
a
QR
gA
(10)
Flow
t
C2 
L f x
a
gA
(11)
x
AR
P
S B
C3  H S 
Fluid node
Interface node
a
g

QS QS t 
QS sin t
2
2 gA
aA
図 1 特性曲線法による充填解析の計算格子
2.3 離散化手法
離散化は水撃解析の数値解法として古くから用い
られている特性曲線法により行う.液充填解析では
図 1 に 示 す よ う に 計 算 格 子 点 を ”Fluid node”
と”Interface node”に分類し,それぞれで異なる計算
を行う.”Fluid node”は液内部に位置する格子点であ
り,この格子点では通常の特性曲線法と同様の計算
を行う.式(2)および式(3)をラグランジュの未定乗数
を用いて線形結合した後,整理すると以下の特性曲
線方程式が得られる.
 dx
V  a

  dt
C 
 1 dH  1 dQ  Q2 Q  sin  Q  0

aA
 a dt gA dt 2 gA
C4 
(6)
C : H p  C3  C4Qp
(13)
QP  (1   )QC 
x
t
A0
1
( L f  x)VP  L f VC 
t
 VP2  (1   )VC2  g sin  (x  L f )
C+および C-はそれぞれ正の方向および負の方向に
進む特性曲線であることを示しており,図示すると
図 1 のように表すことができる.また,図中点 P の
格子点において式(6)および式(7)を離散化すると以
下の式が得られる.

a
gA
(12)
である.下付き添え字の R および S は図中に示すよ
うに Δt 前の時刻における特性曲線上での物理量で
あることを示している.また,この位置における物
理量は隣接する格子点の物理量を補間することによ
り得られる.”Fluid node”では式(8)および式(9)から
次の時刻における水頭 Hp および流量 Qp を陽的に計
算することができる.
“Interface node”は図 1 に示すように気液界面を
含む格子点である.この格子点では C+もしくは Cのどちらかの特性曲線しか用いることができないた
め,別途方程式が必要となる.ここでは,気液界面
では非圧縮性であると仮定して以下の非圧縮性流体
の質量保存式と運動量保存式を用いる.
 dx
V  a

  dt
(7)
C 
1
dH
1
dQ

Q
sin




Q
Q0
 a dt gA dt 2 gA2
aA

C  : H p  C1  C2Qp
a
QS
g


(14)
(15)
 g ( H P  z P )  g (1   )( H C  zC )
 g ( L f  x) S fP  g (1   ) L f S fC  0
(8)
ここで,Lf は計算格子点から界面までの距離,δx は
1 ステップにおける界面の移動距離,θ は時間離散化
(9)
の重み係数で 0.5 とした.また,
ここで,
S fP  f
3
L f VP2
D 2g
(16)
0.4382 m
0.354 m
3.118 m
0.0 m
3.111 m
P = 0 atm
α = 2.66 °
α = 2.25 °
図 2 検証解析の配管モデル
表 1 検証解析の計算条件
項目
値
流体物性
水
配管全長 [m]
6.66
管内径 [m]
2.29×10-2
管肉厚 [m]
3.8×10-3
摩擦損失係数 [-]
2.46×10-2
入口およびバルブ形状損失係数 [-]
0.8
リザーバ水面高さ [m]
0.354
図 3
定常状態における実験値と同じ値を用い,それぞれ
0.8 および 2.46×10-2 とした.初期状態は上流からバ
ルブまでが満液であるとし,バルブを開いた後,液
体が管路内に充填され末端に到達するまでの解析を
行った.
図 3 に解析により得られた液先端位置と流速の関
係を Liou & Hunt の実験値および rigid column model
により計算された結果と比較して示す.図より,本
解析手法による結果が実験値と良く一致しているこ
とが確認できる.充填開始直後,流れは急激に加速
され流速が大きくなるが,その後緩やかに減少しな
がら液体が充填されていく.これは,充填開始後し
ばらくは流れの抵抗が小さいが,液体の充填ととも
に流れが発達し抵抗が大きくなるためである.一方,
Liou & Hunt による結果は実験値よりも過大となっ
ているが,この原因として Malekpour & Karney14)は
rigid column model では速度水頭の影響を考慮して
いないからと指摘している.
であり,計算格子点から界面までの区間の摩擦損失
を表す.
“Interface node”における未知数は水頭 Hp,
流量 Qp,界面移動距離 δx の 3 つであるため,流れ
が図 1 と同じ方向に流れている場合,式(8),式(14),
式(15)の 3 つの方程式を Newton-Raphson 法により解
くことでそれぞれの未知数を求めることができる.
また,得られた界面移動距離 δx を用いて界面距離
Lf を以下のように更新する.
Lnf 1  Lnf  x
液先端位置と流速の関係
(19)
上付き添え字の n は計算ステップ数を示す.なお,
界面の移動に伴い”Interface node”は順次”Fluid node”
へと更新される.これらの計算を上流側から繰り返
し行うことにより,界面移動を伴う液充填解析を行
うことが可能となる.
4 配管設計への適応
4.1 解析対象
液充填解析の配管設計への適応事例として本報で
は消火設備を対象とした流体到達時刻解析を紹介す
る.検討を行った消火設備は図 4 に示すような分岐
を含む全長約 300 m からなる配管系であり,上流端
には 3 台のポンプが設置されている.
上流から約 170
m の地点には圧力調整型のフローコントロールバル
ブ(FCV)が設置されており,FCV の直後にはイン
ダクターと呼ばれる管径の細い管が設置されている.
また,下流端には計 12 個の出口ノズルが設置されて
おり,このノズルから放水が行われる.通常時には
配管内はポンプから FCV の一次側までが満水状態
であり,FCV の二次側から出口ノズルまでは空の状
態となっている.火災が検知されるとポンプが起動
するとともに FCV が開き送水が開始され,液水が到
達した出口ノズルから順次放水が行われる.通常,
3 検証計算
特性曲線法による液充填解析の検証のため,Liou
& Hunt12)の実験を対象とした検証解析を行った.対
象とする配管モデルおよび解析条件を図 2 および表
1 にそれぞれ示す.モデルは全長 6.66 m,内径 2.29
×10-2 m,肉厚 3.8×10-3 m の単一管路であり,上流
端には水面高さ 0.354 m のリザーバが設置されてい
る.また,上流から 0.4382 m の地点に内径 2.44×10-2
m のバルブが設置されており,下流端は大気開放と
なっている.上流から 3.118 m までの管路勾配は
2.66°,それより下流では 2.25°である.入口形状
損失係数および摩擦損失係数は Liou & Hunt の満液
4
1.22 m
6.76 m
0.75 m
150A
150A
150A
80A
N01
80A
N08
80A
100A
125A
N09
N06
80A
100A
N03
7.56 m
7.56 m
b1
N05
N02
N10
N07
125A
7.6 m
7.6 m
b2
Nozzle
6.76 m
125A
14.26 m
1.22 m
125A
15 m
80A
N11
N04
7.6 m
80A
58.8 m
N12
Filling fluid
P
Flow Control Valve
Pump
Inductor
図 4 消火設備の配管図(赤色の配管は初期設計からの変更を示す)
スプリンクラーは天井から放水を行うタイプがほと
んどであるが,ここで対象とする消火設備は地面か
ら放水するタイプである.
4.2 検討内容
上記,配管系への要求項目は①全ての出口ノズル
までの到達時刻が 30 秒以内になること,②全ての出
口ノズルの圧力が 40 ~ 45 psi になること,であった.
しかし,これまでの経験で設計上 2 つの要求項目が
満たされていたとしても,実際には様々な誤差によ
り到達時刻が 30 秒を超えてしまうことがわかって
いた.そこで,本解析では到達時刻は 5 秒の安全を
見込んで 25 秒以内とし,2 つの要求項目を満たす配
管設計の検討を行った.配管の流量分配や圧力損失
を検討することは通常の配管設計でも行われるため,
数値解析を用いれば比較的容易に検討を行うことが
できる.しかし,今回の場合はそれらに加えて流体
到達時刻の短縮という条件が付加されるため,検討
はより困難になる.流体到達時刻を短縮させるため
には①供給圧の増加,②管径(管容積)の縮小,③
管路長の短縮,などが対策として考えられるが,①
と②の対策では管内流速が増加すると同時に圧力損
失も増加するため,出口ノズルにおける圧力分布に
バラつきが生じやすくなるなどのデメリットが生じ
5
ることになる.今回の検討では配管ルートの変更は
施設の制約上行えず,③の対策も出口ノズル近傍を
除いて行えないため,基本的には①と②の対策によ
り検討を行った.まず,出口ノズルの圧力が 40 ~ 45
psi となるように初期設計を行い,その後,到達時刻
を短縮するために以下のフローで検討を行った.
(1) 最大到達時刻が短縮されるように管径を一部縮
小させる.
(2) 出口ノズル圧力の最大値と最小値の差が 5 psi 以
内になるように出口ノズル近傍の管径および管
路長を調整する.
(3) (1)および(2)により最大到達時刻および圧力差の
条件を満たした場合,出口ノズル圧力が 40 ~ 45
psi に収まるように FCV 二次側の圧力調整を行う.
なお,各ステップの検討により前ステップの条件を
満たさなくなった場合は,前ステップに戻り条件を
満たすように繰り返し検討を行った.
4.3 解析条件
解析は FCV 二次側より下流を対象とし,FCV 二
次側の圧力を与えて行った.FCV 二次側の圧力はポ
ンプから FCV 一次側までの圧力損失を別途計算し
表 2 出口ノズルにおける到達時刻
30
required time
Nozzle No.
25
Time [sec]
20
15
10
5
計算
実測
0
N01
N02
N03
N04
N05
N06
N07
N08
N09
N10
N11
N12
Nozzle No.
図 5
N01
N02
N03
N04
N05
N06
N07
N08
N09
N10
N11
N12
Time [sec]
計算
実測
19.8
―
21.1
―
22.5
―
23.7
26.1
16.4
―
19.7
―
22.1
24.3
13.9
―
15.9
―
17.8
―
19.9
―
21.9
23.2
出口ノズルにおける到達時刻分布
表 3 出口ノズルにおける圧力
50
Nozzle No.
Pressure [psi]
upper-limit pressure
45
40
lower-limit pressure
計算
実測
35
N01
N02
N03
N04
N05
N06
N07
N08
N09
N10
Node No.
図 6
出口ノズルにおける圧力分布
て求めたものを与え,ポンプの性能の範囲で調整が
可能である.流体は 4.4℃の水とし,配管は圧力配管
用炭素鋼管(STPG)を用いている.配管の摩擦損失
係 数 は Colebrook-White の 式 の 近 似 式 で あ る
Churchill の式 17)により流速に依存させて与え,曲が
り・分岐・合流などの形状損失や各流体機器の圧力
損失は別途データベースや機器仕様の値を与えた.
到達時刻は火災の検知からポンプ起動時間も含めた
ものであるが,ポンプが起動し FCV が開くまでの時
間は計画上 7 秒であった.よって,解析により得ら
れた到達時刻に 7 秒を加えたものを到達時刻として
評価を行った.前述の検討フローに基づき,系統的
に 10 ケース以上の解析を実施し,最大到達時刻が最
も短縮されたケースを採用した.
N11
N12
N01
N02
N03
N04
N05
N06
N07
N08
N09
N10
N11
N12
Pressure [psi]
計算
実測
42.6
43.5
42.7
44.0
43.3
43.8
44.6
43.2
44.8
44.0
40.1
43.5
40.2
42.5
44.1
40.0
41.3
44.4
41.4
43.0
41.6
42.0
44.0
43.0
岐による流量低下の影響が出やすいため管径を 80A
にまで縮小させた.また,管径を縮小させたことに
より局所的な圧力損失が大きくなり,出口ノズルの
圧力差が 5 psi に収まらなくなったため,上流側のノ
ズル N01,N05,N08 に繋がる配管の管径および長
さを調整した.FCV 二次側の圧力は 125.9 psi とした.
施工後,放水テストを行い到達時刻および出口ノ
ズルの圧力を計測し,解析結果との比較を行った.
図 5 および表 2 に出口ノズルまでの到達時刻を実測
値と比較して示す.実測値は N04,N07,N12 の結
果を示している.最遠端である N04 の出口ノズルに
おける到達時刻は解析では 23.7 秒であるのに対し,
実測では 26.1 秒であり,約 10%の誤差があったこと
になる.N07 と N12 でも同程度の誤差であったが,
施工時の誤差やポンプ起動時間の遅れなどを考慮す
ると妥当な結果であるといえる. 図 6 および
表 3 に出口ノズルの圧力を示す.圧力は全てのノ
ズルから放水が行われ定常状態に達した時の値であ
る.これより,分布に違いはあるものの解析の予測
通り全ての出口ノズルで要求圧力である 40 ~ 45 psi
に収まっていることが確認できる.
4.4 解析結果
(1) 最大到達時刻および圧力分布
検討結果に基づく初期設計からの変更点を図 4
に赤色で示す.出口ノズルに繋がる配管の管径を縮
小させることにより到達時刻の短縮を図った.特に,
N08 ~ N12 の系統では出口ノズルが 5 つと多く,分
6
140
N04
N07
N12
120
b2 point
Distance [m]
100
b1 point
80
60
40
20
0
5
10
15
Opening FCV
図 7
20
25
Time [s]
出口ノズルまでの時間と距離の関係
80
70
320
Pressure
280
60
240
50
200
40
160
30
120
20
80
10
40
0
Flow rate [gpm]
Pressure [psi]
Flow rate
0
-10
-40
5
10
Opening FCV
図 8
15
20
Time [s]
25
21.9
30
23.7
出口ノズル N12 における圧力および流量の時系列
(2) 送水時の流れの分析
最後に数値解析の結果から送水時の配管内の流れ
の分析を行う.図 7 に液水が N04,N07,N12 の出
口ノズルに到達するまでの時間と到達距離の関係を
示す.FCV が開いた直後には短時間で到達距離が増
加しているのが確認できる.これは 3 章の検証解析
でもみられたように,送水直後では流れの抵抗が小
さいため,急激に流れが加速されることと同じであ
る.その後,速度が落ち着き分岐点 b1 まではほぼ一
定の速度で進むのがわかる.分岐後,N07 に向かう
直線の勾配が N12 よりも大きいことから,N12 より
も N07 のほうに水が流れていることが伺える.これ
は,N12 に向かう配管では分岐直後に 80A の配管設
けているため,ここで圧力損失が大きくなり結果的
に流量が低下したためと考えられる.N07 に向かう
流れはその後分岐点 b2 でさらに N04 に向かう流れと
分岐する.分岐後,N07 に向かう配管は N12 と同様
に管径を 80A に絞っているため,ここでも流量が低
下する.一方,N12 に向かう流れでは流量が変化し
ないため,最終的に N07 および N12 のノズルまでの
到達時刻はほぼ同時刻となることがわかる.このよ
うに液充填解析を行うことにより,出口ノズルに到
達するまでの過程を把握することができる.図 8 に
出口ノズル N12 における圧力と流量の時間変化を示
す.本解析では管内の空気は大気開放として取り扱
っているため,液水が出口ノズルに到達するまでは
0 psi となっている.その後,液水が出口ノズルに到
達した時刻 21.9 秒で大きな圧力上昇が発生している
のがわかる.これは,流れが出口ノズルに到達し,
急に放水されることにより発生した水撃に起因する
圧力変動である.また,23.7 秒でも再び圧力変動が
生じているが,これは最遠端の出口ノズル N04 に流
れが到達した際に生じる圧力変動と考えられる.こ
のように液体の充填時においても水撃が発生するこ
とが解析から確認できる.今回の配管設計では水撃
が問題になることはないため特別な検討は行ってい
ないが,実際には水撃が問題となる場合があり,そ
の時には,このような充填解析が有効に利用できる
と思われる.
5 おわりに
本報では特性曲線法による液充填解析の数値解法
について述べ,簡易モデルを対象とした検証計算と
7
実際の消火設備を対象とした配管設計への適応事例
について紹介した.
簡 易 モ デ ル を 対 象 と し た 検 証 解 析 で は rigid
column model による計算よりも精度が良く,実験結
果と良く一致する結果が得られた.消火設備を対象
とした配管設計ではある出口ノズルまでの到達時刻
と出口ノズルの圧力が設計要件を満たす配管の条件
を解析により系統的に検討した.施工後,放水テス
トを行った結果,到達時刻および圧力ともに設計要
件を満たすことが確認された.また,数値解析によ
り充填時おける配管内の圧力および流量の時間変化
や,充填の様子を分析することができた.
本報で紹介した事例はほんの一例であるが,今後,
様々な配管システムに対して充填解析の適応が期待
できる.
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※ u-FLOW はみずほ情報総研(株)の登録商標です.
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