特集 子育てを“ 孤育て ”に しないために 子 宝という言葉があるように、子 どもは親にとって何物にも代え 難い宝です。また、将来を担う子ども たちは親だけでなく社会全体としても 守るべき大切な宝といえるでしょう。 少子高齢化を迎えた日本では、厚生 労働省より昨年の出生数が統計開始か ら 初 め て 100 万 人 を 割 り 込 ん だ と 発表されるなど、人口の減少に歯止め が か か ら な い 状 況 に あ り ま す。 ま た、 全国的に核家族が増加したことで、周 囲に支援者や相談できる人がいないた め、孤独に苦しみながら子育てをする “孤育て”世帯も増加しています。 子育ては、子どもが生まれたその日 から始まり、自分中心の生活から子ど も 中 心 の 生 活 へ と 大 き く 変 わ り ま す。 睡眠時間も十分に確保できないような 生活には、周囲の助けがなければ体が ついていきません。体の疲労は孤独感 と 相 ま っ て、 や が て 心 の 疲 労 に つ な がっていきます。そんな状況の“孤育 て” は、母親の産後うつや育児ノイロー ゼなどの心の病を引き起こし、そこか ら児童虐待につながることも懸念され ています。 親にも子にも悪影響を及ぼしかねな い“孤育て”にならないためにはどう したらいいのでしょうか。 2 平成29年2月号 乳と寝かしつけを繰り返す毎日で、先 くことも散歩に行くこともできず、授 当に一日中家にいました。買い物に行 「 生 ま れ た ば か り の 子 を 外 に 連 れ 出 すのはいけないと聞いていたので、本 が弱音を吐きやすかったので、つらい た。知っている人より知らない人の方 間関係をつくる事ができませんでし う冨永さんは、身近で頼れる新しい人 進んで外に出て行って「ママ友つく ろう」と行動するタイプじゃないとい 頼れるところに頼って欲しい の見えない長くて真っ暗なトンネルに 時は市の無料相談に電話しては、泣き 「どうして私だけ」と思う日々 いるようでした」 らっていたそうです。 幌市出身の冨永真奈美さん(天 し な き ゃ と 孤 独 感 に 襲 わ れ、 誰 か に く な り ま し た。 日 中 は 一 人 で 何 も か も 慮してしまうこともありました。また 休日のみ。夫が仕事で疲れていると遠 「 今、 以 前 の 私 の よ う に 苦 し ん で い る人がいたら、つらさや苦しさを我慢 ながら悩みや思いを相談員に聞いても 冨永さんが唯一頼れたのは、夫だけ でした。しかし、夫に頼れるのは夜と 龍)は、富士市出身の夫の転勤 札 しないでほしい。自分や子どもが周り いで、助けを求めることを母親失格と 子育ての悩みとなると、夫には理解し いはずの母親にも頼れず、地元の友人 思わないで、とにかく頼れるところに そばにいて欲しくてたまりませんでし とたまに連絡を取り合う程度で、近く 頼って欲しいです」 ずかしさを感じていました。 比較しては、うまくいかない自分に恥 んなに違うんだろう」と自分と周りを すっぴんで髪はボサボサ。どうしてこ イ ル し て い る 人 も い て、 で も 自 分 は ちはメイクもばっちりで、きれいにネ 思っていました。外で見るお母さんた して私だけこんなにつらいんだろうと どうして私はできないんだろう、どう 「 私 み た い に 実 家 に 頼 れ な く て も 子 育 て し て い る 人 は た く さ ん い る の に、 に助けを求める相手もいません。 で磐田市へ引っ越してきました。見知 “孤育て”経験のある母親に聞きました。 の人たちと違うことに焦らず、比べな そればかり考えていました 持ちで日々を過ごしているのでしょうか。 てもらえないこともあり、一番頼りた “孤育て”に苦しむ母親たちは、どのような気 た」と当時の心境を話してくれました。 どうして自分だけ できないんだろう、 つらいんだろうって 「孤独がこんなに 苦しいなんて」 らぬ土地に戸惑いつつ、待ちわびたわ が子の誕生を心待ちにしていました。 「 出 産 前 は、 子 育 て が こ ん な に 大 変 だなんて思わず、特に不安を感じてい ませんでした」と冨永さんは話します。 冨永さんの母親は病気を患い、父親は 母親の介護で手一杯。 「今実家に帰ると、 家族に余計な負担をかける」と冨永さ んは里帰り出産をせず、初めての出産 と子育てを迎えることになりました。 「この子が生まれてからの一カ月が 一 番 つ ら か っ た で す。 生 ま れ た ば か り の 赤 ち ゃ ん を 目 の 前 に、 不 安 で い っ ぱ い で し た。 で も ち ゃ ん と 育 て な き ゃ と いう責任感もあって、私がこんな風で、 この子に何かあったらどうしようと怖 Interview 1 「これからママ」から「これからパパ」へお願い 「プレパパママ講座」に参加した初めての出産を控える夫婦に、将来 の子育て生活に向けて夫婦で話をしてもらいました。 佐藤 友紀さん・結子さん(鮫島) ゆう こ ゆう き 曽根 泰生さん・沙幸さん(豊岡) さ ゆき やす お ま ゆ か ひろし あ や こ たけ お お休みの日は子どもの 面倒見てもらいたいな。 仕事の早い日や休日は できるだけ子育て頑張 ります。 いろいろ調べすぎず気 楽にのびのびと子育て したいな。家にいる時 は話を聞いてね。 できるだけ話を聞いて、 休みの時はできるだけ 家事をしたいです。 伊藤 洋さん・万由佳さん(池田) 森 健雄さん・亜矢子さん(富丘) 二人で話す時間作って。 仕事大変だけど、家事 の手助けして欲しいな。 夫婦で話す機会を大切 にして、忙しさを理由 に家事をしないことは ないようにしたいです。 どこまで協力してもら えばいいか今はわから ないけど、困ったら相 談してやっていこうね。 妻の負担をなんとか減 らして、休日は息抜き をさせてあげたいです。 は、母親たちが頼れる相手、心 立する母親たちを救うために 子育ては家庭から 孤 のよりどころが必要となります。 では、 母親にとって頼れる相手とは誰でしょ うか。実家や友人の協力、行政の支援 や地域の見守りは、とても重要で必要 なことです。しかし、一番身近で助け となるのはそれぞれの家庭のほかにあ りません。 家庭の中で、母親に最も近く、頼る べき人は父親です。夫婦間で悩みや問 題を共有することで抱える孤独感は軽 減されることでしょう。一方で、最も 頼りたい人に自分の思いを理解されな かったり拒絶されたりすれば、さらに 孤立することにもなりかねません。そ のようなことにならないために、夫婦 に 必 要 な こ と。 そ れ は「 会 話 」 で す。 会話をすることで相手の考えを理解 し、尊重し、夫婦が同じ方向を向いて いくことが大切になります。 父親の協力を得られても、全ての人 が“孤育て”から解放されるわけでは ないでしょう。しかし、父親が夫とし て、父として子育てに誠実に向き合う ことは、母親や子どもにとって必ずや プラスとなるでしょう。 4 平成29年2月号 今 年度行われた「イクメン応援講 しもいけけん じ 歳の娘さんと 座」で講師を務めた下 池 賢 二 さ ん(富士見町)は、 歳の息子さんの父親です。平日は子ど もたちとお風呂に入るため、早朝出勤 など、業務を工夫して早めに帰宅する よう心掛けています。休日は料理をし たり、子どもたちを連れて買い物に出 掛けたり、妻が一人の時間をつくれる ように家事・育児をしています。 言葉が胸に刺さりました。家族を第一 としていたつもりが、実際は自分のこ とを優先してしまっていたことに気付 かされたのです。 それから、下池さんは毎日早く帰る ことを心掛け、進んで家事・育児に関 わるようになりました。 「家事のできな い自分は、妻のように上手にできませ んが、ちょっとしたことに妻がとても 喜んでくれました。こんなことで喜ん でくれるんだと思うと、うれしくなっ で、夫婦関係もいいとは言えませんで ていろいろやるようになりました」 下池さんは鹿児島県の出身で、父親 は絵に描いたような亭主関白の九州男 した」 と 話 し ま す 。 はじめからできた わ け じ ゃ な い 児。父親が家事をしているところは見 くてもいいと思います。一番大事なの 心掛けています と思っています。失敗しても、できな 「妻と同じ子育てをする必要はない 事なのは「やってみること」 大 たことがありません。そんな環境が自 下池さんは平日に 日、趣味のバド ミントンの練習に通っています。ある は、 や っ て み る こ と で す。 失 敗 す る 失敗してもいいから 何でもやってみることを 2 り「 当 時 は そ ん な 日 が 続 い て い た の 身に根付いていて、はじめは家事も育 日妻から「趣味のためには早く帰って お礼を伝えることも大事だと思ってます。 「イクメン」が増加しています。 児も妻任せになっていました。仕事で てほしいです。「いつもありがとう」って 業を取得するなどして子育てを楽しむ ことで妻の大変さもわかるようにな います。子どもと触れ合う時間を大切にし と呼ばれています。近年では、育児休 くるのに、私たちのためには早く帰っ 自分と同じレベルは要求しないようにして 積極的に育児を行う男性は「イクメン」 疲れた日は、育児に疲れて家事に手が 子育てや家事をする時間が私と違うので、 イクメンが 家庭を救う!? るし、何でもやってみることで子ども もえ Interview 2 てきてくれないのね」と言われ、その 妻:下池 萌さん 1 回らない妻にいら立ちを感じる時もあ も信頼してくれます。まずやってみな いと次に進めません。子どものおしっ このおむつは替えられても、うんちの おむつは替えられないという人がいま すが、自分のやれること、やりたいこ とだけをしている内は家事や育児をし ているとは言えないと思います。失敗 してもいいから何でもやってみましょ 平成29年2月号 5 う。自分なりにできることを、少しず つ増やしていけばいいと思います」 イクメン との 付き合い方 4 新米ママたちの 子育てエピソード 親子の絆づくりプログラム(BP プログ ラム)に参加した母親たちに、子育て について聞きました。 BP プログラムとは・・・ 初めて親になった母親のための講座「BP プログラム」。全国で行われている BP の磐田 市での参加者数は全国一(2016 年日本 BP プログラムセンター調べ)です。あなたも BP で「子育ての仲間づくり・親子の絆づくり・ 育児知識の学び」をしてみませんか。 問子育て支援課 ☎ 0538-37-4853 悩んだときは気持 ち を 吐 き 出 し て、 子育てを楽しんで ます! 誰かに大丈夫と 言ってもらうのが 一番安心できる そう ま 柴田 歩美さん・湊真ちゃん(見付) 山本 絵理さん・進一郎ちゃん(加茂) 出掛けるきっかけをつくろうと、保健師さんの赤ちゃ 子ども中心の生活へと変わって、自分の時間がなかな ん訪問の時に紹介されて BP プログラムに参加しまし た。子育ての悩みは、ネットで調べるより、周りの誰 かに「大丈夫」と言われた方が安心しますね。 かつくれないのがストレスでした。子育ての悩みは夫 や義母にも相談するけど、保健師さんに聞いてもらう と安心します。悩みは吐き出すようにしています。 共感できる仲間が いると気持ちが楽 になります ひろ き 西尾 まゆみさん・仁希ちゃん(駒場) 子育ては予想外の連続。やりたいことのスケジュール を立てても思うようにいかず、悩まされます。でも、 自分と同じように悩みながら子育てしている人がいる とお互い共感できて気持ちが楽になります。 「母親は私の仕事」 と割り切れるよう になりました すず ね 戸塚 育美さん・涼寧ちゃん(岩井) 母親としての実感がないまま子育てが始まって、本当 に私がこの子を育てていいのかと不安になりました。 最近は「母親は私の仕事」と割り切って、子育ての中 で子どもと一緒に成長しながら頑張っています。 平成29年2月号 6 家 族以外に頼れる人として友人 が い ま す。 し か し、 家 庭 内 の デリケートな相談をすることに抵抗が あ る 人 も い る で し ょ う。 ま た、 新 し 時 間、 無 ― ― 子育て相談員がお宅を訪問 出産後間もない母親たちへのサポー ト と し て、 日 中 支 援 者 が い な い 家 庭 に 日までの間に 産後、子育て相談員が訪問します。出 産後 れる言葉があるはずです。子ども相談 できる悩みや、専門家だからこそ救わ ください。面識がない相手だから相談 全ての母親を応援しています。赤ちゃ なかあげられないものです。保健師は 要としていても助けを求める声はなか 支援センターに足が向かない方、相 談窓口に電話ができない方。助けを必 ― ん訪問や乳幼児健診などで、子育てや ― 話する、子育て相談員を利用する、子 ~ 談してください。 問健康増進課 ☎ ― ― 頼れるまちの保健師に相談を 問子育て相談室 ☎ できますので、気軽にお電話ください。 への同伴もできます。出産前から相談 イスのほか、沐浴の手伝い、予防接種 料で利用できます。育児相談やアドバ 30 )に電 い友人をつくることは容易ではありま 1 1 2 0 2 普段の生活で困っていることをぜひ相 室( ☎ せん。そんな時は、どうぞ市を頼って サポート サポート ペー 育て支援センターへ行く( ジ 参 照 )、 保 健 師 に 相 談 す る、 そ の 他 にも市では相談窓口を設けたこども図 書館の整備も予定しています。自分に わたしたちがサポートします !! 赤ちゃん訪問で悩みを聞く保健師(左) とがあれば、いつでも頼ってください。 23 3 1 6 2 2 0 1 3 ざまな支援をしています。悩みや不安なこ 22 36 37 市では、子育てする母親や父親のためさま 4 3 1 7 合った相談方法を見つけてください。 る た め に は、 思 い を 共 感 で き は 独 り じ ゃ な い。 そ う 実 感 す 独りじゃない 独りにさせない 私 る相手が必要です。自分のことを理解 し、温かい言葉を掛けてくれる、それ だけで気持ちが楽になるでしょう。そ ういった相手がそばにいる人もいれ ば、そうでない人もいます。支援を求 めて行ったことのない場所へ行き、初 対面の人と話すことは勇気が必要で す。 し か し、 そ の 一 歩 を 踏 み 出 せ ば 「 行 っ て 良 か っ た 」「 話 せ て 良 か っ た 」 ときっとそう思えることでしょう。 “ 孤 育 て ” に 苦 し ん だ 冨 永 さ ん は、 離乳食教室で参加者に声を掛けても らったことをきっかけに、交友関係が 広 が り ま し た。 今 で は 市 内 の 子 育 て サ ー ク ル「 い わ た ゆ る マ マ サ ー ク ル 」 に参加するなど、子育てを楽しんでい ま す。 身 近 で 子 育 て に 悩 ん で い る 人、 苦しんでいる人を見掛けたら、優しく 声を掛けるだけでもその人を救うきっ かけになるかもしれません。 子 育 て を“ 孤 育 て ” に し な い、 「子 育てに優しいまち」 。そんなまちにな るためには、孤立した母親たちが安心 して助けを求められるような環境をみ んなでつくっていくことが必要です。 平成29年2月号 7 35 0 5 3 8 0 5 3 8 あなたの子育て 全力サポート!! 0 5 3 8
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