脚が開き座面が落ちた折りたたみ椅子

国民生活センター 商品テスト部
脚が開き座面が落ちた折りたたみ椅子
折りたたみ椅子に座っていたところ、突然座面を
支える金具を固定するリベットが破断し、椅子が
潰れて尻を強打、床も傷ついた。リベットの強度
が不足していたと思われる事例を紹介する。
空」であったが、受付センターが発売元から得
相談内容
た情報によると、既に、中空ではなく中身があ
4年くらい前に購入した折りたたみ机とセッ
る
「中実」
のタイプに仕様変更しているとのこと
トの折りたたみ椅子に 30 分ほど座っていたとこ
であった。苦情品と同じタイプの製品は発売元
ろ、突然パーンというガラスが割れるような音
にもないため、苦情品のリベット破断面を観察
がして、椅子の脚が全開するように潰れた。座
する外観調査と、中実タイプのリベットを使用
面ごと尻が床にたたきつけられ、からだが床に
した苦情同型品での荷重テストを実施した。そ
投げ出され、尻が強く痛んだ。
の結果、次のことが分かった。
潰れた椅子を見ると、座面を支える金具とパ
⑴苦情品の概要
イプを接続しているリベット*1が左右ともはじ
苦情品は、座面
け飛んでいた。部品を拾い集めると、リベット
支持金具
( 以 下、
が左右ともに、中空
(中身が空)
な先端部分をか
金具)の左右をリ
しめた所で切断していた。表示に耐荷重の記載
ベットでパイプに
はない。安全上問題がないのか調べてほしい。
留めて座面にかか
また、賃貸住宅の床面に椅子の脚が強く当たっ
る負荷を支える構
たようでフローリングに傷が付いた。床の修理
造 で あ っ た。 ま
費をメーカーに出してほしい。
た、椅子に耐荷重
商品テストおよび調査
座面支持金具
金具をパイプにリベット留め
して座面を支える構造
の表示はなかった
(写真1)
。
相談を受けた消費生活センター(以下、受付
センター)
は、国民生活センターに商品テストを
依頼した。苦情品のリベットの先端部分は
「中
座面支持金具
写真1 苦情品の外観
(座面を仮留めした状態)
*1 JIS B0101「ねじ用語」
:軸部にねじのない頭付きの部品。締
結物の穴に軸部を差し込み、軸端をかしめて継手とする。
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座面支持金具は上向き
に変形している
左側
パイプ穴出口面付近
で曲がっている
中実部
中空部
写真2 苦情品のリベットの外観
写真3 苦情品の上向きに変形した金具と
曲がったリベットの先端
2.0mm
2.0mm
33mm
3.5mm
9.7mm
リベット先端のかしめ部が
外側、しかも中空でない
写真4 苦情同型品のリベット
装着部の外観
中空部
4.9mm
苦情品
図
30.7mm
9.8mm
4.8mm
苦情同型品
苦情品および苦情同型品のリベットの寸法
計測した。苦情品の肉厚が薄い中空部
(外径 4.9㎜
⑵苦情品の外観調査
程度、穴径 3.5㎜で肉厚 0.7㎜程度)
(図)
は大きな
リベット留めされていた金具の左側が上向き
に変形し、座面の左右側ともリベットの先端が
せん断荷重に耐えられないものであった。
完全に破断し、軸も曲がっていた。リベットの中
⑸苦情同型品の荷重テスト
空な部分が金具とパイプの境目に位置していた
苦情同型品のリベットおよび金具の強度を調
ため、座った際にこの中空部分にせん断荷重*2
べるため、JIS S1203:1998「家具-いす及びス
が加わって破断したと考えられた
(写真2、3)
。
ツール-強度と耐久性の試験方法」7.1 座面の静
⑶苦情同型品の外観調査
的強度試験*3を準用した荷重テストを行った。
苦情同型品は、リベットのかしめ部が中空で
毎秒2㎜の速度で、試験区分のうち最も大きい
はない中実のタイプが使用され、しかもリベッ
2,000N の荷重を、規格のとおり 10 回繰り返し
トの向きが苦情品とは逆向きで、頭部が椅子の
た。荷重テスト後、苦情同型品のリベットおよ
内側、先端のかしめ部が外側に変更されており、
び金具の変形は小さく、リベットが破断するこ
金具とパイプにより大きなせん断荷重が加わる
とはなかった。
箇所がすべて中実になっていた
(写真4、図)
。
結果概要
⑷リベットおよび座面支持金具の寸法計測
受付センターは、商品テスト結果を相談者に
苦情品および苦情同型品のリベットの寸法を
口頭で伝えた。相談者と発売元が話し合った結
*2 ねじやボルト等の軸に対して直角方向からかかる荷重のこと。
果、商品代金と住宅床修繕費、治療費が支払わ
*3 負荷位置決めジグ
(正しい位置に導くための補助工具)によって
決まる座面負荷位置と座面の前方の縁から 100mm 後方の位置
のそれぞれに対して、座面当て板(表面が硬く、滑らかな自然な
形をした剛性のもの)を置き、その当て板の上から下へ向かって
力を 10 回加える。力は少なくとも 10 秒間維持する。
れることになった。
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