21x6章起源と奇跡 ﹃新約聖書﹄をバクテリア一個のDNAのなかに詰め込む例の計算であれば、ほとんどどんな結晶 そうだが︶、結晶表面につけることのできる、パターンの異なる莫大な数の疵を想像すればよい。 でも同じくらい鮮やかにそっくり再演できるだろう。DNAがふつうの結晶よりすぐれているのは、 情報の読み出し方である。読み出しの問題はさておくにしても、結晶の原子構造にある疵で二進法 の数字を表わす任意の暗号法は簡単に考えつくことができる。そうすれば、数冊の﹃新約聖聿昌を 針の頭ぐらいの大きさの鉱物結晶に詰め込める。規模を大きくすると、これは音楽情報をレーザー ︵﹁コンパクト﹂︶ディスクの表面に記憶させる方法と本質的に同じである。音はコンピューターに よって二進法の数字に変換される。鏡のように滑らかなディスクの表面に小さな疵のパターンを刻 むためには、レーザー光線が使われる。刻まれた各々の小さな窪みが二進法の1︵または0、呼び 名は任意である︶に対応している。ディスクをかけると、別のレーザー光線が疵のパターンを﹁読 み取り﹂、プレーヤーに組み込まれた専用コンピューターが二進法の数字をふたたび音の振動に戻 レーザーディスクは今日ではもっぱら音楽用に利用されているが、その気になれば豆ンサイク して、さらにそれが聴こえるように増幅される。 ロペディア・ブリタニカ﹄全巻をその一枚に詰め込み、同じレーザー技術を使って読み出すことも できる。原子レベルでの結晶の疵は、レーザーディスクの表面に刻み込まれた窪みよりもはるかに 小さいので、結晶は一定の範囲内にもっと多くの情報を詰め込める可能性をもっている。実際、そ 111 I II、 I の情報記憶力に驚嘆させられるDNA分子には、どこか結晶そのものに近いところがある。粘土の ll1 1 なかの結晶は、DNAやレーザーディスクにできるのと同じくらい莫大な量の情報を理論上は記萱 、 、 、 できるのだろうが、粘土がそんなことをしていたなどと言う人は誰もいない。粘土をはじめ 、、 1 1 I 、 / / 2ラ2 IIJ I ノノー ノノ 鉱物結晶がこの仮説で果たしている役割は、最初の﹁ロウ・テク︵低技術︶﹂複製子、つまり最終 の水中で、DNAなら必要とする精巧な﹁装置﹂なしに、自然に形成される。そして自然に疵を生 的にはハイ・テクのDNAに置換されてしまう複製子としてはたらくことである。結晶はここ地球 る結晶のかけらが剥がれると、剥がされたかけらは新たな結晶の﹁種子﹂としてはたらき、新たな じ、生じた疵のいくつかは、後からできた結晶の層でも複製されるだろう。その後に適当な疵のあ こうして、ある種の累積淘汰を開始させるのに必要だったであろう、複製、増殖、遺伝、突然変 結晶はどれも﹁親﹂がもっていた疵のパターンを﹁受け継いで﹂いると想像できる。 それでもなお﹁力﹂という要素が欠けている。つまり複製子の性質が、どうにかして自らの複製さ パワー 異といった特性のいくつかを、原始の地球上の鉱物結晶がそなえていたという想像図が得られる。 は、﹁力﹂は単に複製子そのものの直接的な性質、﹁粘着力﹂のような固有の性質だと見ていた。 れる可能性に影響を及ぼさなければいけないのである。複製子について抽象的に述べていたときに ︵ヘビが生存してきたことの間接的な結果として︶毒牙のDNA暗号を増殖させるヘビの毒牙の力 この初歩的な水準では、﹁力﹂という呼び名はほとんどふさわしくないように思われる。たとえば というふうに、進化のもっと後の段階で現われるもののためだけに私はこの言葉を使っている。最 初のロウ・テク複製子が鉱物の結晶だったにしろ、DNAそのものの直接的前駆的な有機物だった jI 』 / にしろ、それらが行使した﹁力﹂は、粘着力のように直接的で初歩的なものだったと想像してかま / / わないだろう。ヘビの毒牙やランの花のように高度な水準の力はずっと後になってから現われたの j j r / 粘土にとって、﹁力﹂とは何だろうか?同じ変異タイプの粘土がその付近に増えていく可能性 である。 / / ノ / / / j
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