caf Parade/キッシュ Home sweet Home 幸宏は「今日も咲は元気だね」と微笑みつつ、手を引かれ るままに一緒に店の中へと入っていった。 Parade』だ。 扉を開けたその先は、まるで魔法の世界。まるでヴェール に包まれたかのような優しい空気に満たされている。それが 幸宏が作った場所、『Caf 「おはようございます、神谷。あなたのことを水嶋さんが待 その咲はどうしただろう、と幸宏が視線を向けると、三角 巾を頭につけて、何やら奥で卯月巻緒と喋っていた。よく見 っていましたよ」 の風に散らされて消えてしまう。 けた『Caf Parade』のオーナーである神谷幸広 は、店頭にいた咲の姿に気づくと、ゆるやかに手を振りなが すらりと細い体躯に、柔和な表情。そして髪を真ん中で分 「咲が?」 店内に向けて幸広があいさつすると、客用の椅子に腰掛け た東雲荘一郎が軽く頭をさげた。 「――やあ。おはようみんな。今日は俺が一番最後かな?」 幸宏の腕を引いていた咲は、店の中に入ると「またあとで ね!」と言い残し、店の奥へと駆け出していく。 é ツインテールを風に乱されながら、咲が店頭をぐるりと一 巡りしたところで、店に向かって歩んでくる人影が見えた。 える時期だ。吐き出したふわりと白いかたまりは、すぐに冬 の白ストッキングをはいているが、薄手の店先はさすがに冷 rivate party』の札を店頭に置き、両手に息を 吹きかける。可愛さを最重視しているから、普段よりも厚手 髪をツインテールに結い上げた、メイド姿の水嶋咲が『P é ら歩いてくる。 ている。首を傾げる幸広に向け、この店のコックであり、ア わかるが、何故かウエイターである巻緒まで同じものを被っ 「闇の眷属たる我に永劫の時を刻み、饗宴への誘いを拒むと スラン=ベルゼビュートⅡ世が朗々と謳い上げる。 揃ってるよ! さあ、早くこっち来て」 は! カミヤでなければ、この世は劫火で焼き尽くされてい たぞ!」 たいかくらいはわかった。そのまま、アスランの難解なお叱 これがCaf Paradeではなく、他のスタジオでの 集合なら、遅れてしまっていたかもしれない。 ものの、普段と違う道筋を辿ったせいか道に迷いかけたのだ。 けていたアスランがわなわなと震えだす。肩先のサタンがが 咲が、新品のコック帽を幸宏へと手渡す。なぜ自分に渡す のか、と思いつつも幸宏がそれを受け取った。すると、腰掛 「かみやも来たことだし! じゃあ、さっそく今日のパーテ ィの説明をパピッと始めちゃうよ〜」 é 表祝いの気持ちを込めて、今日は、あたしたち三人で、アス 慄くアスランに対し、咲がぱちりとウインクする。 「えへ。今年も一年ありがとうの気持ちと、二人のソロ曲発 「おおお、おお……ッ! サキ、まさか今日我らが同胞たち をこの大地に導いたということはッ!」 「行きに冬のコートをクリーニングに出してきたんだけれど 分以上早く家を出られることについ浮かれ、これからの寒い ランとそういちろうを、Caf Paradeの特別パー まったんだ。待たせてしまってすまない」 ティに招待しちゃいまーすっ♪」 彼 の 証 言 ど お り、 ア ス ラ ン の 果 敢 な 目 覚 ま し 攻 撃 に よ り、 普段より早い時間に幸宏は目を覚ましていた。普段より三十 えへんと胸を張り、手を広げた咲は、巻緒と幸宏を両手で 指し示した。巻緒は頷くが、幸広はまだ状況がわかっていな も、いつもの店が閉まっていてね。つい違うルートで来てし アスランが恨みがましい目で幸宏をじい、と見つめる。心 なしか、肩に乗っているサタンもジト目のように見えた。 カミヤを目覚めさせたぞ!」 「 く っ …… 我 は 陽 光 の 告 げ に 従 い、 猛 る 悪 魔 の 笛 を 鳴 ら し、 くがくと揺れていて、若干ホラーじみている。 たのに〜! アスランは一緒に住んでるならちゃんとかみや を起こしてくれなきゃ困るよ〜?」 「今日は早めに集合だって、あたし、ちゃんとかみやにいっ 「おはよう、巻緒。今日は朝からみんなでどうしたんだい」 「おはようございます、神谷さん」 と咲が幸宏の近くへ歩んできた。 りをゆるりと受け流していると、話が一段落したのか、巻緒 馴染みのクリーニング店はちょうど年末に向けて定休日が ようは、遅刻はダメだよと幸宏に告げたいらしい。 変わっていたらしく、幸宏はコート二着を片手に途方に暮れ 普段、アスランの言葉を解説してくれる巻緒がいなくとも、 る羽目になる。しょうがなく道すがらの店舗に頼んだはいい 幸宏とアスランとはそれなりに長年の付き合いだ。何をいい ぴょん、と飛び跳ねる咲のスカートが、冬風にあおられて ふわりと膨らみ、スカート下のパニエがちらりとのぞく。 「やあ。おはよう、咲。少し遅れてしまったかな」 ると、パティシエである荘一郎がコック帽を被っているのは SAMPLE 「かみや、おはよーっ。ギリギリセーフだよ! もうみんな é 時期に着るコートを持ち出したのがいけなかった。 いのか、にこにこしたまま、咲の話を聞いている。 é 096 Home sweet Home / Cafe Parade 097
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