プラズマ窒化した鉄-クロム合金中の固溶窒素濃度に関する研究

日本金属学会誌 第 69 巻 第 8 号(2005)775779
プラズマ窒化した鉄
クロム合金中の固溶窒素濃度
に関する研究
細 野 博 志1,
茶 園 和 博1,
桑 原 秀 行2
市 井 一 男1
大 石 敏 雄1
1関西大学大学院工学研究科
2財団法人応用科学研究所
J. Japan Inst. Metals, Vol. 69, No. 8 (2005), pp. 775
779
 2005 The Japan Institute of Metals
Dissolved Nitrogen Concentration in Iron
Chromium Alloys by Plasma Nitriding
Hiroshi Hosono1,
, Kazuhiro Chaen1,
, Hideyuki Kuwahara2, Kazuo Ichii1 and Toshio Oishi1
1Faculty
of Engineering, Kansai University, Suita 5648680
2Research
Institute for Applied Sciences, Kyoto 6068502
Fe5, 10, and 14 massCr alloy foils with the thickness of 60 mm or less were plasma nitrided at 873 K and nitrogen was
saturated throughout the foil specimen.
Fe4N and an inMicrostructure on the cross section of the nitrided specimen was consisted of an external nitrided layer of g′
ternal nitrided layer of dispersed precipitates of CrN in the aFe matrix.
Dissolved chromium was found to retain 1.23, 3.74, and 6.02 mass by XPS (Xray Photoelectron Spectroscopy) for the alloy specimens of Fe5, 10, and 14 massCr nitrided at 873 K for 180 ks, respectively. The results of XPS and the chemical analysis of total nitrogen lead to the conclusion that the concentrations of dissolved nitrogen were 0.41, 0.91, and 1.63 mass in plasmanitrided Fe5, 10, and 14 massCr alloy specimens, respectively. The dissolved nitrogen concentrations were significantly
higher than those attained by gas nitriding.
(Received March 16, 2005; Accepted June 13, 2005)
Keywords: plasma nitriding, ironchromium alloy, dissolved nitrogen, CrN, saturation
し後の室温での表面硬さが 650 HV である SKD61 を 923
1.
緒
言
K に 加 熱 す る と 300 HV 程 度 の 硬 さ に な る . 同 様 に
SKD61 材を焼入れ焼戻し後にプラズマ窒化すると表面硬
機械部品や自動車部品などの多くは鉄鋼材料で製作されて
さは 1300 HV となり,これを 923 K に加熱して硬さ測定
いる.これらの部品の高性能化および長寿命化のために様々
すると 550 HV4) と焼入れ焼戻し材に比べて 250 HV 程度
な材料開発や材料プロセスの開発研究がなされている1).部
硬い状態を維持している.
品の寸法精度を維持したまま耐摩耗性の向上や疲労強度の向
以上のような利点をもつ窒化法には,ガス窒化法,塩浴窒
上を図るために表面改質技術の中でも窒化が汎用されてい
化法,プラズマ窒化法などがある.この中でプラズマ窒化は
る.機械構造用鉄鋼材料の表面の硬さは炭素などの合金元素
水素ガスと窒素ガスあるいはアンモニアガスの混合ガスを数
濃度や熱処理の状態によって異なる.炭素鋼の焼準材のブリ
10 Pa から数 100 Pa の圧力に調節した真空槽内で被処理物
ネル硬さは
109~255HB2)
の範囲であり摩擦摩耗を受ける部
品の場合,何らかの方法によって表面を硬化させる必要があ
を陰極にし,陽極との間に直流電位を印加してグロー放電を
発生させて窒化する方法である.
る.この表面硬化技術の中で原子の侵入により硬化を行う方
プラズマ窒化はガス窒化と比較して処理時間が短く,また
法では窒化および浸炭焼入れが工業的によく用いられてい
イオンによるスパッタリングによって被処理物表面の汚染物
る.とりわけ窒化は浸炭焼入れに較べて以下の点で工業的利
や酸化膜を除去できるため5),ステンレス鋼のように不働態
点がある.
膜を有する難窒化材の窒化が容易である.プラズマ窒化法は
窒化には変態歪がないので,部品の変形はなく歪も浸炭焼
このような特徴を有することから研究報告も多くある610).
入れの 1 / 100 以下とされている.このため変態歪を伴う
しかし,窒化層中の状態(析出物の種類,固溶窒素濃度など
浸炭焼入れと異なって歪矯正のための後加工を必要としな
の状態)を含めた窒化反応についての熱力学的研究例が少な
い 3) .
い11).
窒化材は高温での軟化抵抗が大きい.例えば,焼入れ焼戻
本研究は, Fe 5, 10 および 14 mass  Cr の合金箔を 873
K でプラズマ窒化して窒素を飽和させ, Fe Cr 固溶体中の
関西大学大学院生(Graduate Student, Kansai University)
固溶窒素濃度を求めて,熱力学的立場からプラズマ窒化によ
776
第
日 本 金 属 学 会 誌(2005)
Table 1
る窒化反応の解明を行う端緒とする.
クロム鋼は自動車部品にも多用されていること,ステンレ
69
Nitriding condition of this study.
Nitriding temperature, T/K
673
873
ス鋼の基本成分であること, Fe Cr 二元系平衡状態図によ
Current, I/A
0.5
0.9
ると全率固溶体であることから中間相を無視できること,窒
Voltage, E/V
180
240
18, 144, 216
180
化によりクロム窒化物の析出による強化を期待できることな
Nitriding time, t/ks
どの工業的・学術的重要性から本研究では Fe Cr 合金を対
Pressure, P/Pa
象とした.
実 験
2.
2.1
Partial pressure
巻
700~800
N2, pN2/Pa
560~540
H2, pN2/Pa
140~160
方 法
供試材の溶製
本研究で用いる Fe Cr 合金を以下のように溶製して供試
材とした.

◯
溶解後の質量が各組成約 100 g になるように電解鉄
( 99.99 mass )と純クロム( 99.9 mass ,以下 mass を単
にと記す)を Fe5, 10 および 14Cr の組成に秤量し,ア
セトンで洗浄後温風乾燥してからアーク溶解に供した.

◯
アーク溶解炉内を 2.6 mPa まで排気し,アルゴンガ
スを導入して溶解炉内に残存するガスを排出した.この操作
を 3 回繰り返した後にアルゴンガスを 75 kPa までアーク溶
解炉内に導入して溶解した.それぞれの溶製材は水冷ハース
側とアーク柱側とを入れ替えてそれぞれ 5 回ずつ溶解し,
合金の均一化を図った.

◯
アーク溶解後,各インゴットを真空炉中で 1073 K に
おいて到達圧力 2.7 mPa で 3.6 ks 加熱保持した後,真空中
で冷却した.ただし,加熱用の電気炉は,二分割されるよう
になっており,冷却中の試料は電気炉の残熱の影響を受ける
ことはなく,s 相の析出は生じていない.
このようにして溶製した供試材を窒化用試料として用いた.
2.2
Fig. 1 Illustration of plasma nitriding apparatus.
1. View window. 2. Thermocouple. 3. Mcleod vacuum gauge.
4. Heater. 5. Silica glass tube. 6. Anode. 7. Gas flow meter.
8. Valve. 9. Cathode. 10. Water cooled copper tube. 11. Stainless steel sample for temperature measurement. 12. Specimen.
13. Stainless steel chamber. 14. Specimen table. 15. Rotary
pump.
プラズマ窒化用試料の作製
熱力学的立場からプラズマ窒化反応を解明するためには
1 の 14)を陰極としている.試料箔はジグで挟み垂直に立て
Fe Cr, Cr N, Fe N の相互関係を明らかにすることは必須
た状態で試料台に設置して,試料両面から窒化を行えるよう
の課題である.一方,窒化物析出を伴う窒素の拡散を考慮し
にした.ジグで試料を挟んだ部分とその周辺の 1 mm 幅の部
ながら試料中に窒素を飽和させることを考えると,
分は全て取り除いて試料の評価分析に供した.
Wagner12) や Rhines13) による内部酸化の理論から窒素飽和
に要するプラズマ窒化時間が長時間に及ぶことが予測され
る.これを短時間で十分に飽和させることの必要性から溶体
化処理後の各試料をマイクロカッターで約 1 mm の厚さに切
なお,窒化後の試料は処理ガスを導入しながら窒化温度の
873 K から 473 K までを 240 s で炉中冷却した.
2.4
試料の評価
断し,焼鈍することなく 60 mm 以下の厚さになるまで室温
プラズマ窒化後の試料を 10 mm ×10 mm の大きさに切断
において圧延した.その後,得られた合金箔を約 10 mm ×
して,試料厚さ方向の断面をアルミナパウダー(平均粒径
40 mm の短冊状に金鋏で切断してから,アセトン中で 900 s
0.3 mm)で研磨し,この面において EPMA(Electron
超音波洗浄しプラズマ窒化に供した.
Micro Analyzer,日本電子製,JXA8800R)による窒素の拡
2.3
プラズマ窒化
Probe
散方向への窒素濃度分析を行った.
なお , EPMA 分 析 は , 加 速 電 圧 を 15 kV , 試 料 電 流 を
プラズマ窒化はまず炉内を 1 Pa 以下まで排気し,Table 1
0.05~0.07 mA,取り出し角度を 40 deg とし,分光結晶には
に示す窒化処理用の窒素と水素の混合ガスを 1.3 kPa まで導
NKa 線用に LDE(Layered Dispersion Element), CrKa 線
入してから再度 1 Pa まで排気をした.このようなガス置換
用に PET(Petaerythritol), FeKa 線用に LiF(Lithium Fluo-
によって炉内を洗浄する操作を 3 回行ってから Table 1 に示
ride)をそれぞれ用いた.
す条件でプラズマ窒化を行った.
プラズマ窒化装置の模式図を Fig. 1 に示す.ステンレス
製の真空槽(Fig. 1 の 13)を接地して陽極とし,試料台(Fig.
EPMA 分析の結果, N Ka 線の強度が試料表面から断面
中央部を経て反対側の試料表面までほぼ一定となる窒化時間
を窒素飽和時間とした.
8
第
号
プラズマ窒化した鉄
クロム合金中の固溶窒素濃度に関する研究
777
XRD ( X 線回折,理学電機工業株式会社製, RTP 300 ,
いて Fe 14 Cr 合金を窒素で飽和させるためには 3 ks/ mm
加速電圧 50 kV ,陰極電流 150 mA ,ターゲット Cu ,
以上の時間窒化すれば十分であると言える.即ち,これより
フィルターなし,モノクロメーター湾曲結晶モノクロ
も 200 K 高い 873 K において 180 ks 窒化をすることで厚さ
メーター)によって相の同定を行った.特に,外部窒化層を
60 mm 以下の Fe Cr 合金を窒素で飽和させることができる
除去した試料は,除去後の表面を鏡面研磨してから X 線回
ことがわかった.
更に,同じ分圧比の窒素ガスと水素ガスとの混合ガスを用
折を行った.
Photoelectron
いて窒素分圧 0.081 MPa 下で 1023 K において Fe 10  Cr
Spectroscopy,理学電機工業製,XPS7000,加速電圧10
以上の高クロム合金をガス窒化するとその析出物は CrN と
kV,ターゲットMg)によって Fe および Cr の結合状態を
低次の Cr2N であった14)が,本研究ではその約 1/130 以下の
分析して,波形解析から析出物の分離定量を行った.
窒素分圧下で 350 K 低い 673 K において Fe14Cr 合金を
鏡面研磨した試料の一部を XPS ( X ray
更に,外部窒化層を取り除いた試料を酸素窒素同時分析装
プラズマ窒化すると CrN を析出する.このことはプラズマ
置(堀場製作所製 EMGA620W )による全窒素濃度分析に供
窒化の反応性がガス窒化よりもかなり高い可能性があること
した.窒素濃度分析は各組成それぞれ 4 回ずつ行い,その
を示唆するものである.
平均を全窒素濃度とした.
実験結果および考察
3.
3.1
窒素飽和時間の見積り
3.2
固溶体組成の決定
873 K において 180 ks プラズマ窒化してから外部窒化層
を除去し,鏡面研磨した試料の XRD 分析結果を Fig. 3 に示
す.いずれのクロム濃度の合金も a Fe と CrN を同定して
Fe 14  Cr の合金箔を 673 K で種々の時間プラズマ窒化
いるが,鉄の窒化物は存在していない.FeN 二元系平衡状
して,窒素飽和時間を見積もった.即ち,本研究で用いる最
態図によれば,本研究の窒化温度 873 K は共析温度よりも
大クロム濃度の Fe 14 Cr 合金を 873 K よりも低い 673 K
10 K 高く,オーステナイト相の析出する可能性が予測され
で窒素を飽和させるために必要な窒化時間であれば,873 K
る.この場合,窒化後はオーステナイトからの冷却となり,
において本研究で用いる合金の全てを窒素飽和させるために
873 K から 473 K までの平均冷却速度 1.7 K/s が十分に速い
十分な窒化時間と考えられる.
冷却速度であればマルテンサイト相と CrN になるはずであ
673 K で 18 ks(○), 144 ks(▽)および 216 ks(△)プラズ
る.しかし,Tsuchiya et al.15) によれば FeN 合金において
マ窒化した各試料の断面における EPMA による窒素濃度分
窒素原子濃度が約 4 mol以下ではマルテンサイト変態開始
析結果を Fig. 2 に示す.
18 ks プラズマ窒化した試料は 144 ks および 216 ks プラ
温度 MS 点で過飽和フェライトが生成し,これ以上の濃度で
はマルテンサイトが生成することを明らかにしている.従っ
ズマ窒化した試料に比べて窒素濃度が低く,試料表面と試料
て,後ほど Table 2 および 3 に示すように Fe 10  Cr 合金
内部とで濃度に変動がある.これに対して 144 ks および
の内部窒化層中の固溶窒素濃度が 3.35 mol ( 0.91 mass )
216 ks プラズマ窒化した試料は試料表面近傍を除き試料断
(固溶クロム濃度は 3.71 mol( 3.74 mass ))であることか
面で窒素濃度がほぼ一定になっており,窒素濃度も断面全域
ら,Cr が 10以下の FeCr 合金では窒素を過飽和に固溶す
において 18 ks プラズマ窒化した試料より高くなっている.
るフェライトを生成しているものと本研究では推察してい
試料表面近傍で窒素濃度がやや高くなっているのは試料表面
る.また, 14  Cr 合金の内部窒化層中の固溶窒素濃度は
に析出した外部窒化層の影響である.
5.82 mol  ( 1.63 mass  ) ( 固 溶 ク ロ ム 濃 度 は 5.78 mol 
以上の結果から,試料の厚さが 60 mm 以下であれば,窒
(6.02 mass))であり,Tsuchiya et al.15) に従えばマルテン
化温度が 673 K であっても 144 ks の窒化時間で窒素は飽和
サイト相を生成するはずであるが,本研究では Fig. 3 に示
したとみなせることがわかった.言い換えれば,673 K にお
Fig. 2 EPMA profiles on the cross section. ○18 ks,△
144 ks,▽216 ks.
Fig. 3
layer.
XRD profiles of samples eliminated external nitrided
778
第
日 本 金 属 学 会 誌(2005)
69
巻
したようにマルテンサイト相ではなく aFe 相を検出してい
としての窒素であるか,または Fe Cr 合金中に固溶してい
る.これは Tsuchiya et al.15) の研究が Fe N 二元系である
る窒素であるかのいずれかである.本研究では内部窒化層中
のに対して本研究では FeCrN 三元系となっており,内部
に析出した窒化物は, CrN のみであった( Fig. 3 参照).従
窒化層中の固溶クロムの影響によりフェライトを生成してい
って,Table 3 に示した全窒素濃度 NTotal()は
るものと推察される.
NTotal=NDissolved+NCrN
これらの試料と未窒化の試料とを XPS により分析を行っ
と記述できる.ここで, NDissolved ()は固溶窒素濃度を,
た結果を Fig. 4 に示す.未処理材と窒化材の Fe2p プロファ
NCrN()は CrN としての窒素濃度をそれぞれ表している.
イルのピーク位置は 706.6 eV で差異はなく,窒素の影響は
Table 2 に示したように析出した CrN の濃度は XPS 分析
大きくないと言える.
の結果から求められているので,固溶窒素は
窒化した各試料を XPS によって分析後,Cr2p スペクトル
NDissolved=NTotal-NCrN
を解析して,固溶クロムと窒化クロム析出物(CrN)との濃度
となり,全窒素分析と XPS によって求めた CrN 濃度から容
を求めた結果を Table 2 に示す.プラズマ窒化後の試料に固
易に求めることができる.このようにして求めた 873 K に
溶した Cr 濃度はプラズマ窒化前の合金中に含まれる Cr 濃
おける Fe 5, 10 および 14  Cr 合金の固溶濃度を Table 3
度に依存して増加している.Granito16) は Fe14Cr 合金を
に示し,固溶クロム濃度と固溶窒素濃度との関係を Fig. 5
873 K で 28.8 ks プラズマ窒化した内部窒化層の固溶クロム
に示す.
量を分析し,その値は 6 から 7 であることを報告してい
図から明らかに固溶クロム濃度の増加と共に固溶窒素濃度
る.その下限値は本研究とほぼ一致している.このことは
も単調増加していることが判る.この現象は相互作用助係数
873 K で Fe 14Cr 合金をプラズマ窒化すると全てのクロム
M
eM
N (あるいは相互作用母係数, eN , M は金属元素を表す)が
が窒化物として析出するのではなく,一部のクロムが CrN
として析出し残りのクロムは固溶クロムとして存在すること
を示しておりその熱力学的考察については後述する.
外部窒化層を除去してから全窒素濃度を分析した結果を
Table 3 に示す.窒素の分析値は FeCr 合金中で析出窒化物
Fig. 4
layer.
Fig. 5 Relationship between dissolved Cr and N in plasma
nitrided sample.
XPS profile of samples eliminated external nitrided
Table 2
Concentrations of Cr as CrN and dissolved Cr by XPS.
Chromium as CrN
Specimen
Dissolved Chromium
cCrN
Cr /mol
cCrN
Cr /mass
/mol
cDissloved
Cr
/mass
cDissloved
Cr
Fe
5Cr
3.90
3.80
1.26
1.23
Fe
10Cr
6.07
6.13
3.71
3.74
14Cr
Fe
7.10
7.39
5.78
6.02
Table 3
Concentrations of total nitrogen and dissolved nitrogen.
Total nitrogen
Specimen
/mol
cTotal
N
Dissolved nitrogen
/mass
cTotal
N
/mol
cDissloved
N
/mass
cDissloved
N
Fe
5Cr
5.45
1.43
1.55
0.41
Fe
10Cr
9.42
2.56
3.35
0.91
14Cr
Fe
12.90
3.62
5.82
1.63
8
第
号
プラズマ窒化した鉄
クロム合金中の固溶窒素濃度に関する研究
負の大きい値をとるときに生じる現象で,Ichise17) が詳細に


779
プラズマ窒化によって窒素を飽和させた Fe 5, 10,
解説を行っている.即ち Cr と N は親和力が非常に大きい元
14  Cr 合金の内部窒化層は, a Fe ( Cr, N )マトリックスと
素であることを示している.同様の現象は 81 kPa の窒素ガ
このマトリックス中に析出した CrN で構成されている.
ス と 19 kPa の 水 素 ガ ス と の 混 合 ガ ス を 用 い て 1023 K と


内部窒化層中のマトリックスの固溶クロムは初期組成
1223 K において Fe3, 5, 10, 14, 20 および 30Cr 合金を窒
のクロム濃度の増加に従い増加し,同時に固溶窒素も増加し
化した場合にも生じている14).
ている.この固溶クロムと固溶窒素とはほぼ直線関係にある.
本研究で得られた固溶窒素濃度は FeCr 合金を H2N2 混
合ガス中にて 1223 K でガス窒化した値14)よりもかなり大き
な値を示している.また Kuwahara et
al.11)
10 倍であると報告してお
り,プラズマによる窒化反応はガスによる窒化反応よりも固
溶窒素濃度を大きく増大させる可能性がある.即ち,プラズ
マ窒化では導入する窒素分圧は低いが窒化反応に有効な窒素
の化学ポテンシャルはきわめて大きいと言える.
結
4.
言
厚さ 50~ 60 mm の Fe 5, 10 および 14  Cr 合金箔を窒素
分圧 560 ~ 640 Pa と水素分圧 140 ~ 160 Pa の混合ガスを用
いて 673 K と 873 K においてプラズマ窒化して主として以
下の知見を得た.


673 K において窒素を飽和させるためには 3 ks / mm
以上の時間を必要とすることがわかった.


献
はオーステナイ
ト系 Fe 19Cr8Ni 合金をプラズマ窒化して表面の固溶窒素
濃度が従来報告されている値18)の
文
同じ分圧比の窒素ガスと水素ガスを用いて窒素分圧
81 kPa 下で 1023 K において Fe 10  Cr 以上の高クロム合
金をガス窒化するとその析出物は CrN と低次の Cr2N であ
ったが,その 1 / 130 以下の窒素分圧 560 ~ 640 Pa 下で 673
K において Fe14Cr 合金をプラズマ窒化すると CrN を析
出し,窒化反応を促進していることを明らかにした.
1) For example, Steel Research Center: Progress Report 2001, (National Institute for Materials Science, Tsukuba, 2002), Preliminary matters, pp. 1530.
2) Japanese Standard Association: JIS G 4051, (Heat Treatment
2004, Japanese Standard Association, Tokyo, 2004), p. 1084.
3) For example and H. Kuwahara: PhD Thesis, The University of
Kyoto (1992).
4) Committee of Nitriding Tool Steels: Data on the hardness at
elevated temperature and heat check examination on ion nitrided
tool steels, (The Japan Society for Heat Treatment, 1980).
5) B. Edenhofer: Heat Treat. MET. (1974) 2328.
6) J. Takada, U. Ohizumi, H. Miyamura, H. Kuwahara, S. Kikuchi
and I. Tamura: J. Mater. Sci. 21(1986) 24932496.
7) N. Granito, H. Kuwahara and T. Aizawa: J. Mater. Sci.
37(2002) 835844.
8) J. Takada, Y. Oizumi, H. Miyamura, H. Kuwahara and S.
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9) E. J. Mittemeijer: J. Mater. Sci. 20(1985) 1620.
10) H. Kuwahara, H. Matsuoka, I. Tamura, J. Takada, S. Kikuchi
and Y. Tomii: J. Mater. Sci. 27(1992) 637640.
11) H. Kuwahara, H. Matsuoka, J. Takada, S. Kikuchi, Y. Tomii
and I. Tamura: Oxid. MET. 36(1991) 143157.
12) C. Wagner: Z. Elektrochem. 63(1959) 772790.
13) F. N. Rhines: Trans. AIME 137(1940) 246290.
14) H. Hosono, K. Takio, H. Kuwahara, K. Ichii and T. Oishi: Submitted to Japan Institute of Metals.
15) M. Tsuchiya, M. Izumiyama and Y. Imai: Japan Institute of
Metals 29(1965) 427433.
16) N. Granito: PhD Thesis, The University of Tokyo (2003).
17) E. Ichise: TetsutoHagane 77(1991) 197200.
18) J. F. Eckel and T. B. Cox: J. Mater. 3(1968) 605613.