Vol.22

KPMG
Insight
KPMG Newsletter
22
Vol.
January 2017
2016年世界経営者会議
KPMGセッション
kpmg.com/ jp
巻頭インタビュー
2016年世界経営者会議
KPMGセッション
KPMGジャパンは、2016年11月8日、9日に開催された第18 回日経フォーラム「世界
経営者会議」を特別協賛しました。
「 勝ち抜く企業の条件」をテーマとした本フォーラ
ムでは、各国のトップがイノベーションの創出を強調。その中で、KPMGインターナ
ショナル チェアマンのジョン・ビーマイヤーも「トランスフォーメーションで現状
を打破する」と題して登壇し、
フィナンシャル・タイムズ 国際金融主席特派員である
ヘニー・センダー氏と対談を行いました。以下に当対談を抜粋してお知らせします。
KPMGインターナショナル チェアマン
ジョン・ビーマイヤー
(以下JBV)
フィナンシャル・タイムズ 国際金融主席特派員
ヘニー・センダー氏
(以下 FT)
FT:テクノロジーによる事業モデルの変革が世界中の企業で
FT:KPMGでは「グローバル製造業の展望 」と題した調査報
起こっていますが、企業経営者はテクノロジーのリスクとチャ
告を発行しています。製造業―――特に自動車業界について、
ンスをどのように捉えれば良いでしょうか。
日本には世界的な企業が多く有利な立場にありますが、どのよ
うな変化が起こりつつありますか?
JBV:KPMGが 2 0 1 6 年に主要 1 0 カ国および主要 1 1 業界の
CEO 1,2 6 8 人に対して実施した「グローバルCEO調査 」による
JBV:自動車業界は急速に変化しつつあり、現在企業が有し
と、世界の企業経営者の多くは「現在の事業モデルを数年後に
ている優位性が数年後にも優位に働くとは限りません。そのた
は大きく変革しなければならない」と考えています。今後、規
め、
ハード面での生産設備や生産台数の拡大を求めるのではな
制環境の変化に応じて、多くの産業で事業モデルを変える必
く、
ソフト面での新しいテクノロジーを求める必要があると感じ
要が出てくるでしょう。しかしテクノロジーの急速な進化こそ
ています。従来は自動車業界に属する企業であれば同業種間だ
が、経営に変革をもたらす主な要因であることは間違いありま
けの競争でしたが、これからは異業種のベンチャー企業が、例
せん。
えば自動運転のようなテクノロジーに参入してくるかもしれま
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KPMG Insight Vol. 22 Jan. 2017
© 2017 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the
KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.
巻頭インタビュー
せん。自動車業界においては競合企業や、提携先企業そのもの
が変化してくると考えられます。
自動車業界の変化はほとんどの産業に影響しますので、多く
の業界がこの動きに対応する形で変化していくでしょう。企業
経営者は他業種に起こった抜本的な変革は、いずれ自業種にも
起こりうると考えなければいけません。
FT:市場縮小の局面にある自動車業界の経営者にアドバイス
をする場合、自業種内で合併・買収(以下、M&A)を行い規模
の拡大を狙うのか、今までにない異業種のベンチャー企業と提
携すべきなのか、具体的にはどのような手法をとるべきと考え
ますか。
JBV:克服できると考えていますが、そのためにはゴールを
明確にし、買収側・買収先の両方の企業が変わらなければいけ
JBV:各社の状況によりますが、まず3~10年先の自社にとっ
ません。買収側が買収先に文化を押し付け、買収先だけが変化
て何が最も必要なのかを検討する必要があります。ある企業に
しなければいけない状況というのはうまくいきません。買収側
とっては規模の大きさかもしれませんし、ある企業にとっては
は、自社が持っていないテクノロジー等の経営資源を付加する
イノベーションが必要な要素かもしれません。M&Aに関して
ために買収したはずです。合併後のシナジーを最大化し新しい
は、企業規模の拡大や弱点を補完するものではなく、新しいテ
文化を創り出すためには、両方の企業が変わることを前提とし
クノロジーや将来の自社に必要なものを獲得することが成功に
なければなりません。
つながります。
FT:海外と比較して、日本企業は終身雇用制度によって、会
FT:本フォーラムで講演したスイスのビジネススクール、
社内の様々な事業を異動し自社内部を熟知した人材が多い傾
IMDのドミニク・テュルパン学長はM&Aの6 0%以上が失敗に
向にありますが、企業経営者に必要なスキルとはどのようなも
終わると言及しています。なぜ多くのM&Aがこのような結果
のでしょうか?
になってしまうのでしょうか。
JBV:10年前とは全く異なり、今の企業経営者に求められるも
JBV:多くの企業は買収前の事前調査がきちんとできていな
のは強みと弱みの自己認識であると考えます。例えば 5 年前は
いと感じます。M&Aにおいては企業の文化を統合することが
自分たちの業界の中で競争し、市場におけるリーダーとなれば
最も難しいプロセスです。そのため、M&Aを実施する前に各社
よかったかもしれません。しかし、今の顧客は他業界で起こっ
のテクノロジー、顧客、社内のプロセス、人事をどう統合してい
た革新的な顧客体験を自らの業界にも求めています。企業経営
くのか考える必要があります。KPMGのCEO調査によると、日
者は、業界の専門家だけではなく、様々なスキルをもった人材
本企業は市場拡大を目的として海外進出に積極的ですが、海外
を確保し、一枚岩となって力を発揮できるようにマネジメント
の企業とのM&Aを行った場合、文化的背景の違いもあります
する能力が必要です。
ので、さらに合併後の統合( PMI )は困難になります。M&Aは
合併後の統合が最も重要であり、単なる買収だけでは効果は高
FT:このような変化のスピードが速い時代、企業経営者と
くないと考えています。また、
アライアンス戦略では自社が不足
なりうる人材は、どのような知識を持つべきでしょうか。また、
している要素の補完を目的としていますが、M&A戦略では合
KPMGではどのような人材を採用しているでしょうか。
併後の組織的統合を行う必要があり、難易度が高いため、企業
経営者はより慎重な決定を下す必要があります。
JBV:今までは会計、税務、ITなどの専門家を多く雇用して
いましたが、現在では多様な分野からの雇用を行っています。
FT:統合にあたって、特に製造業では、日本は「質の高さ」、
もちろん会計的な知識や経験を持っている職員が多いですが、
中国は「コスト」を重視する文化があります。こういった文化的
テクノロジーの変化に応じて、将来的には数学やロボット工学
背景に基づく特徴は克服できるでしょうか。
の専門家も雇用する必要があると考えています。また、現在ど
のようなスキルを持っているかに関わらず、大きな変化があっ
ても対応できる人材が必要です。
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巻頭インタビュー
FT:2 0〜3 0 年前にインドで業務改善の一環として会計記帳
などのアウトソースが始まりました。これからはAI( 人工知能)
の時代と言われています。AIで人の仕事は置き換わるでしょ
うか。
JBV:カスタマーセンターの簡単な電話応対など、企業がア
ウトソースしてきたものは、AIに置き換わると考えられます。
KPMGは「IBM Watson (*1)」
を活用し、企業変革を促進させる技
術であるコグニティブ・テクノロジーを、どのように利用するこ
とができるか模索しています。テクノロジーが進歩することで
ルーティン的な業務はAIに置き換わり、人間が行う仕事内容は
より高度で判断的思考が必要なものへ変化していくでしょう。
このような環境変化に対していかに自社をトランスフォーメー
ションしていくか。これが現状を打破するための重要な鍵に
なってきていると思います。
(*1 )
IBM
Watsonは、世界の多くの国で登録されたInternational
Business Machines Corporationの商標です。
―略歴―
KPMGインターナショナル
チェアマン
ジョン・ビーマイヤー
ジョン・ビーマイヤーは、3 5 年以上にもわたり有能なチームを統率して世界の先進企業に助言をしてきた経験から、ビジネスや財務の
問題に関する影響力のある論客として知られており、そのテーマは倫理に基づくリーダーシップ、ダイバーシティ、財務報告、監査品
質、リスク管理、ガバナンス、および教育など多岐にわたっている。これまで、KPMG米国のチェアマンならびにCEO、KPMGワシントン
D.C.事務所長、リスク管理および規制担当のグローバル統括責任者など、多くの指導的な役職を歴任している。
また、Accounting Today Magazineによる「 会計分野における最も影響力のある 1 0 0 人 」やDirectorship Magazineによる「 コーポレート
ガバナンスにおける最も影響力のある 1 0 0 人 」などに選ばれている。ビジネス・ラウンドテーブル、世界経済フォーラムのメンバーで
あり、彼の卒業校であるノートルダム大学のメンドーサ・カレッジ・オブ・ビジネスの諮問委員会のメンバーでもある。さらに、British
American Business International 諮問委員会のメンバーであるとともに、U.S.-India Business Council、US Council for International
Business (USIBC)、the Financial Accounting Foundation (FAF)、Business-Higher Education Forum (BHEF) のボードメンバーも務めている。
ビーマイヤーは、働きがいがあり、キャリアも形成していくことができるような職場環境を創っていく基盤として、多様性(ダイバーシ
ティ)のある組織の実現に注力してきており、KPMGの広く認知されたハイパフォーマンスな文化の先導者となっている。Catalyst( 女
性のキャリア推進とビジネスの発展をグローバルにリードする企業会員制の非営利団体 )のボードメンバーであり、2 0 1 1 年にはダイ
バーシティ問題への貢献が認められ、Diversity Best Practicesより「CEOリーダーシップ賞」を受賞している。
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