「ナックプライベートフェア 2015」 中山 秀一

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ナックプライベートフェア 2015
ナックプライベートフェア 2015
中山 秀一
(株)ナックイメージテクノロジーは、恒
識を超えた大型センサーである。ARRI は
講座は、ナックと日本映画テレビ技術協会
例の「ナックプライベートショー」を、去
これを契機に、大型映画の老舗である、
「ア
との共催として行われ、参加者は 120 名
る 6 月 25 ∼ 26 日の 2 日間、東映東京撮
イマックス社」と業務提携を結んだことが
の定員を上回り、補助イスが出るほどの盛
影所内において開催した。
発表された。
況であった。
所の第 7 ステージの広大なフロアーで機材
そして同じフロアーに、ARRI の照明機
☆講演の内容
の展示を行い、自由見学として来場者に開
材が展示されたが、そのほとんどは LED で
放された。そして 13 時から 17 時 30 分
ある。ARRI の LED ライトは、RGB 3色
筆者は 23 日に参加したので、日本人講
まで、東映デジタルセンター内の豪華な試
+ 白色の合計 4 色による可変色温度式の製
師による講演は、2 講座だけ聴講した。最
写室で講演が組まれた。
品である。この展示方法が、やはり ARRI
初は「アリの LED と HMI マックスシリー
機材の展示では、ARRI 製の主なデジタ
の実証主義で、現行のタングステンライト
ズライトの活用」と題して、フリーランス
ルカメラ全製品とその関連機材、CODEX
や、HMI ライトと LED を並べてホリゾン
の照明技師 石井大和氏の講演である。作品
製品が展示され、説明スタッフが常時待機
トを照らし、その色味を比較する展示だ。
は主に CM で、4 ∼ 5 本のショーリールの
して、ていねいな説明が行われた。時流に
筆者はその双方で、ナックのスタッフを
上映があり、それらの解説があった。
乗ってか、
「ALEXA MINI」を積んだ大型ド
モデルに撮影して顔色を比較したのだが、
次には、
「中国映画『血 Blood』でのア
ローンも展示され人気を集めた。
演色の差異が全く認められなかった。
レクサ(ARRIRAW)撮影について」と題し、
講演会の方は、13 時から 16 時まで、
中国で撮影監督を務めた浜田毅
(JSC)
氏が、
なかでも、初展示された注目すべきカメ
ARRI 製品で仕事をされている日本人講師
この撮影で得られた中国でのデジタル撮影
ラは、4K を超えて 8K にも迫る高解像度
の 4 講座が、2 日間に配分して組まれた。
のシステムについて講演があった。
の「ALEXA 65」である。これは、センサ
15 時 30 分∼ 17 時 30 分までの最終
浜田氏は、日本との比較をしながら、中
ーの大きさが、かつて 70 ミリの大型映画
講座では、2 日間ともに ARRI のフランツ・
国での体験を述べて、日本のデジタル撮影
に使われた、65 ミリフィルムカメラと同
クラウス社長による、極めて密度の濃い講
のシステムは現状でよいのか、と問題を提
じフレームサイズで、デジタルカメラの常
演が行われた。なお、このクラウス社長の
起された。
その内容は、10 時から 17 時まで撮影
ALEXA 65 は今回初公開の高解像度カメラ
20
FDI・2015・08
ALEXA 65 のセンサーは 65 ㎜フィルムと同じ
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RGB+W-4 種の LED で構成 3200K が完璧再現
1kw のタングステンと LED(右)の比較テスト
今 回 の 撮 影 で は、2 名 の DIT が 付 き、
的な視力は 1.0(筆者は 0.9)といわれる。
ALEXA と CODEX を 使 っ て RAW 撮 影、
この視力が 2 点を分離して見える視角は
毎日デイリーラッシュが仕上がってくる。
1/60°(1 分)であるから、細かいもの
これが中国のスタンダードで、日本とはだ
を見別けるには近寄らなければ判別できな
いぶ異なり、日本では特定のシステムが定
い。したがって 4K の映像を、標準的な映
着していない。
画館のスクリーンで鑑賞する場合、その解
浜田氏の日本での仕事は、デジタルが大
像感を実感できるのは、最前列と 2 列目ま
変に多くなったが、いわゆるテレビ式の
でで、後席では、2K と 4K の違いは感じ
VE は付けたくないと思っている。それは
られない。これが、クラウス社長の以前か
撮影監督がやるべきクリエイティブな映像
らの持論であるが、筆者も全く同感である。
新製品「ALEXA 65」を事例に大画面と高画質映像に
ついて講演するクラウス社長
思考を VE に管理されたくないからだ。
今の日本のデジタルシステムのように、
今回の講演会場である超立派な試写室は、
収録データの管理を撮影部がやるのはおか
まさにクラウス社長のいわれる標準的なス
しいと思う。日本のフィルム時代からの映
クリーンの映画館である。筆者は前から 3
画撮影の方式は、世界に通用しない。
列目に席を取ったが、実感としては、特別
デジタル時代に向けて、日本だけのもの
に高解像度であるという実感がなかった。
ではなく、世界のスタンダードを作るべき
もっとも、最近のシネコンでは、異常なほ
だ。等々、示唆に富んだ講演で、共感を覚
ど大きなスクリーンなので、もう少し後席
える部分が大変に多かった。
でも高解像度を満喫できると思う。
ユーザーと熱心に語るクラウス ARRI 社長
懇談が、和やかな雰囲気で行われた。
筆者は、クラウス社長の講演を数年も前
☆クラウス社長の講演
から拝聴しているが、講演は徹底した実証
筆者は、アリライト担当のマルクス・ザ
主義で、決して数値に偏ることなく、豊富
イラー氏に、可変ケルビンの LED ライト
ARRI クラウス社長の講演は、まず最初
な実写の資料映像を見せており、重さを感
の説明を求めたところ、展示の実機の所ま
に、ARRI が新たに開発した、8K にも迫る
じる。今回も、おびただしい数と種類の
で快く同行して頂いた。そして、実際の
6560 × 3100 の解像度を持つ大型カメ
実証映像を上映しながらの講演であった。
ライトのふたを開けて、LED の配列とか、
ラ「ALEXA 65」で撮影されたデモ映像を
ARRI 製品の開発も同様で、すべて実験に
RGB 3色に加えて白色の LED を用いて、
上映した。その映像は、あるヨーロッパの
裏付けされた結果であると聞いている。
3原色スペクトルの凹凸を埋めていること
など、大変に詳しく説明をして下さった。
鍛冶屋がコークスの中から灼熱の鉄棒を取
り出し、叩いて鍛えて焼きを入れるようす
☆ユーザーとの交流会
ザイラー氏の、実機を手にして熱心に原
理と操作を説明しているようすには、やは
が、迫力ある、コントラストの強いシャー
プな映像で撮影されている。
クラウス社長の講演が終わってから、機
り ARRI 方式の徹底した実験主義を感じた
クラウス氏は、高解像度映像の効果を発
材展示のステージに飲み物が用意されて、
次第である。
揮するには、解像度だけではなく、フレー
参 加 の ユ ー ザ ー た ち と、ARRI 関 係 者 と
ムレートやダイナミックレンジ、画像圧縮
の 懇 親 交 流 会 が 行 わ れ た。ARRI 側 か ら
などの要素が影響するので、それらの兼ね
はクラウス社長ほか、照明事業部、ARRI
合いが重要である。
AMIRA、レンズ、ARRI ASIA の各担当マ
また、人間の視力には限界があり、平均
ネージャーが参加して、ユーザーたちとの
Syuichi Nakayama 日本映画テレビ技術協会名誉会員 21
FDI・2015・08