夢の推進

特 集
将来へチャレンジする推進工法技術
解 説
夢の推進
わ
き
た
き
よ
し
脇田 清司
ジオリード協会会長
㈱ウイングス代表取締役
1
はじめに
ジアのインフラ整備が活発化しだしたのに、肝心の日
本国内での生産活動が後退化しては何もなりません。
近年の「推進工法」の技術躍進はすばらしく「で
入札制度のさらなる見直し、現場技術者の社会保険
きないことはない」というところまできているように思
加入の問題等々、山積みでありますが、行政側、施
います。ただし、特殊な施工条件で、工事費がある
工側、機械納入側三位一体で改善して行く努力がな
程度、リスク料を考慮した発注金額となっているもの
されることを願い、本題の「夢の推進」について述
を除いては、あまりにも低価格での施工となっている
べたいと思います。
のが問題です。この様な状況では、当然、機械損料
が圧縮され、我々の様な、機械レンタル専業者は採
算が悪化し、新規投資ができず、機械のオーバホー
将来に向けての夢
ル費予算も取れないこととなります。
2.1 トラブルゼロ工法
また、施工専業者の機械購入意欲が低下し、製造
掘進機、土木薬材、推進管、測量装置の技術が発
メーカは売れない結果となり、業界全体の悪循環と
達し、基本的には事前の土質データが正しいもので
なっているのがここ数年の実態です。その要因は、工
あれば、おおよそ、問題なく推進可能な時代となった
事の絶対量が激減しているために、専業者が元請に
が、現場での機械のトラブルで「動かない」という電
対し、安くしないと受注できないという「あせり」か
話が過去より減りはしましたが、なくなりません。
ら低価格見積を出してしまう傾向が強くみられ、賃貸
●掘進機の操作線の不具合による制御系の作動不良、
業者もそれに同調してしまう「負の連鎖」が大きいと
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2
計器表示不良→無線化
思われます。ピーク時の収益背景に戻る必要はない
一番多いのが、遠隔操作式ですが、機内操作式で
が、人が生きて行くためのライフラインの構築に貢献
も操作線(制御系)を使用する場合があります。これ
する当業界がこのまま衰退していって良いのでしょう
が、新品の場合は問題ありませんが、再利用の頻度
か?
や現場の取扱不良あるいは、長距離の場合にノイズ
現状のままで推移していけば、専業者がますます
の影響を受けたり、連結コネクタ部の劣化により、信
弱体化し、「世界一の推進技術」がヨーロッパ勢や中
号を正しく伝達できなくなるトラブルです。最近は無
国製に追いつかれてしまう可能性があります。東南ア
線化の技術がすすみ、中継 Box のような発信機器を
月刊推進技術 Vol. 31 No. 1 2017
設置していけば、地中のヒューム管内でも発進立坑か
ら先端掘進機まで、先端から発進立坑まで無線で信
号を受発信できる技術が実用化に向けて、研究され
ていると聞いております。この技術が確立すれば、掘
進機のトラブルは半減すると思われます。
また、既に大規模現場では、管内設置カメラと通
信技術を組み合わして、リアルタイムの運転状況が管
理事務所の机上から24 時間把握されています。最近
は管内の配線にLANケーブルが使用されるようになっ
写真−1 小立坑内での中段ステージ設置状況
ていますが、これが無線になれば、さらに管理しや
すいものと想像します。自動車の自動運転技術が飛
躍的に競争開発されている時代ですので、我々も管
ための立坑を別に築造し、発進立坑と配管で接続し
理事務所で推進線形条件を入力すれば、現場のコン
て、地上まで土砂搬出用の排泥管 1 本を地上に出し、
ピュータにデータが送信され、掘進機が自動運転され
立坑に覆工をかけて、バキューム車1台で排泥を受け、
る時代がくるか?
後は推進管の搬入用のトラックのみで施工すれば、
2.2 オール設備地下設置での推進
道路占有も最小ですみます。埋設物が多くて簡単に
大都市では、発進基地を借地することが難しくなり、
は行かないとは思いますが、泥濃式であれば、そん
車上式プラントで施工するケースが増えていますが、
なに深さは必要ないので、安価な立坑築造技術を模
トラックの台数も数台必要であり、そのための道路の
索することも必要です。都心で発進基地を借地できな
占有も問題です。
ければ、地下に設置するしかないという発想から、地
大深度(大土被り)で大口径のシールド工法では、
上設備全てを地下空間に収納してしまう考え方です。
地下空間が確保でき、泥水式、泥土圧式での送泥、
排泥および処理設備を地下空間に設置し、施工され
ています。推進工法では、比較的、土被りが浅い(小
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おわりに
さい)こともあり、地上設備が一般的で推移してきま
長距離・急曲線・既設マンホール回収・小立坑発
した。中口径以下の施工であれば、立坑の中段にス
進・岩盤推進・障害物対応・小土被り・大土被りと
テージを築造したり、あるいは、地上設備を設置する
いうテーマで、多種多様な現場施工実績が挙げられ
ており、掘削技術については新しい
分野はそんなにないのではと推察し
ますが、センサ技術、探査技術、測
量技術の分野の発展はまだまだ、あ
ると考えます。また、これだけスマー
トフォンが普及し、高速の通信規格
(4G)が進化しているので、スマー
トフォンやタブレット端末にプログラ
ムをインストールしたものを使って、
現場とデータのやり取りすることが主
図−1 推進設備地下収納立坑のイメージ
流となると想像されます。
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