建築コンペを通じて建築の素晴らしさを伝える

建築コンペを通じて建築の素晴らしさを伝える
兵庫県立神戸工業高等学校
教諭 飴 野 正 彦
1 取組の内容・方法
(1) 本校は、明治 45 年兵庫県立工業学校 夜間部として設立され、昭和 23 年の学制改革
により現在の校名に変更し、創立より 103 年を迎えました。
現在、建築科、機械科、電気科、情報技術科の4学科を有し、また昭和 55 年より生涯教
育の観点から専修コースが設置され、地域社会を中心に1万1千人余りの卒業生を輩出し
ております。また、平成 11 年度より3年間で卒業できる3修制を実施しております。
建築科の設計製図の授業の取組の一環として、平成5年度より建築設計競技(以下建築コ
ンペ)にチャレンジし、全日制の建築科、高等専門学校(高専)の強豪のなかで、毎年欠か
さず上位入賞を果たしています。
写真1 第 26 回日本工業大学建築設計競技
1等入選作品
写真 2 第 29 回日本工業大学建築設計競技
1等入選作品
写真3 第 61 回日本大学全国高等学校建築設計競技
1等入選作品
(2) 建築コンペとは、建築系の学科を持つ大学や専門学校、または建設・環境系の企業が、
毎年様々な課題を出し、それに対して高校生が3ヶ月から半年ぐらいの期間をかけて取り
組み、作品を完成させて応募するといったものです。
伝統ある建築コンペは、全国工業高等学校長協会のジュニアマイスター顕彰において、
1等に入賞すれば 20 ポイントを与えられる栄誉あるものとなっています。
近年では、多くの大学が建築コンペを主催しており、建築コンペで入賞した優秀な生徒
を、各大学の学生(奨学生)として確保しようという狙いもあるようです。
また、応募資格に高等専門学校(高専)の3年次までの在籍者にも応募資格を広げる建
築コンペも目立ってきており、入賞するための難易度は年々高くなってきています。
ここ数年は、高校生を対象とした建築コンペが 20 近くに増え、やや建築コンペ乱立気味
で、ジュニアマイスター顕彰制度で高いポイントを与えられる伝統の建築コンペなどと比
べると、新進の建築コンペは出展数やそのレベルにおいて格差も目立ってきています。
しかしながら、ほとんどの建築コンペが入賞図面の作品集を作って、全国の工業高校に
配布をしたり、またインターネットの HP 上で作品が紹介されたりということもあり、高校
生の技術レベル、知的レベルをアップするのに建築コンペは随分と貢献していると思われ
ます。
(3) 課題は大半の建築コンペが3月から4月ごろにかけて発表され、提出は大半が8月の
終わりに集中しておりますが、中には3学期に提出のものもあります。
ジュニアマイスター顕彰の対象となっているコンペでは、設計製図や課題研究の授業の
中で取り組んでいる学校も多いと聞きます。
課題は、主催者によってもさまざまな出し方の<色>がありますが、ここ数年の例を挙
げると、表1のように比較的身近にイメージを捉えられる課題から、かなり哲学的な課題
までさまざまです。
これらの課題に対する考え方(答え)を出し、それを美しい建築空間にまとめ上げ、A
1サイズの用紙に可能な限りのプレゼンテーションを行って作品を完成させます。
コンセプトとそれを反映した建築空間、表現力のすべてが審査で問われます。
建築コンペに挑戦する生徒は1年次の中ごろから設計製図の授業の中で入賞に向けての
トレーニングを開始させます。3年生では課題研究の授業の中でも取り組みをさせます。
下級生は上級生の作品制作の手伝いをしながらスキルアップをさせています。意欲の強
い生徒は授業の他、建築設計競技部に所属して建築の知識や表現方法を学び放課後も課題
製作に励みます。
一番大変なのは課題製作のメインとなる夏季休業中の時間の確保ですが、どの生徒も学
期中と同じく朝から夕方5時前まで仕事をし、それから登校して課題に取り組みます。制
作活動の開始は 17 時半ごろからとなり、次の日の仕事のためあまり遅い時間までは活動で
きません。
全日制の生徒とは課題製作に取り組む時間が絶対的に少なく、仕事で疲れきった体に鞭
を打って取り組まなければなりません。生徒の意欲や体力も相当強いものでなければ作品
を完成し提出することは叶いません。
日本工業大学建築設計競技(顕彰ポイント:20)
第26回
最小限住宅
第25回
五感に響く家
第24回
「内」と「外」の中間領域をもつ家
第23回
小さな豪邸
第23回
天と地を結ぶ家
日本大学全国高等学校建築設計競技(顕彰ポイント:20)
第 59 回
はたらく家
第 58 回
向こう三軒両隣
第57回
現実をよく観察し、さらに創造的に
第56回
ロハスな家 人と地球にやさしい住まい
第55回
変化に対応できるすまい
表1 過去の課題例
写真4 課題に取り組む
2 取組の成果
本校は定時制のため、多くの生徒が建築コンペにチャレンジしているわけではありませ
ん。
また、建築コンペに参加している全国唯一の<定時制高校>ではないかと思います。
全日制や高専に勝って上位に入賞することは、非常に困難が伴いますが、それゆえに入
賞した時の喜びと、生徒の成長を見て取れる喜びは最高です。
私は新任時から 11 年間全日制に勤務し、そこでも建築コンペを指導し、連続で上位入賞
に導きましたが、定時制での指導は全日制での指導とは費やす労力が異次元的に異なりま
す。
本校では、ジュニアマイスター顕彰で 20 ポイントが与えられている権威ある建築コンペ
に絞って取り組んでいます。当然、入賞への難易度は他の建築コンペより数段高いものと
なりますが、文字通り「身を削って」チャレンジしています。
本校に入学する生徒は、学力的にも決して高くなく、経済的にも恵まれない生徒が大半
です。本校で建築という学問に出会い、そのすばらしさを知り、生まれて初めて自主的に
必死で勉強をする、それが建築コンペなのです。どちらかといえば、入学してくるまでは
勉強に対してマイナス思考の生徒が入賞を果たすことで自信を身につけ、人間的にも大き
く成長をするのです。
また、本校の活動に刺激され県下の工業高校も建築コンペにチャレンジし成果を上げ始
めました。全国的にみても兵庫県のレベルはハイレベルなものとなっています。
写真5
第 26 回日本工業大学建築設計競技表彰式
1等入選
写真7
第 57 回日本大学全国高等学校建築設計競技
2次審査風景 (1等入選)
写真6 第 29 回日本工業大学建築設計競技表彰式
1等入選 審査委員長を囲んで
写真8 第 62 回日本大学全国高等学校建築設計競技
2次審査風景 (2 等入選)
H5 年
3 課題及び今後の取組の方向
春から秋口まで必死に課題に取り組む
生徒に対し、私達指導者はある種の敬意
すら感じながら毎年建築コンペの指導を
しています。
勉強に無関心であった生徒が建築の面
白さに目覚め、文字どおり寝る間を惜し
んで課題に取り組み、力をつけて大きく
成長します。
しかしながら、彼らの大半が経済的な
理由で進学することが叶いません。
また、就職先もせっかく身に付けた能
力を生かす形には繋っていないのが現状
です。
これからも建築学のすばらしさを建築
コンペを通じて彼らに伝え、彼らの進路
により結びくように取り組んでいきたい
と思っています。
3等
第 41 回全国工業高等学校建築設計競技
佳作
第 13 回高等学校建築コンクール
佳作
H7 年
第 42 回全国工業高等学校建築設計競技
佳作
H8 年
第 10 回日本工業大学建築設計競技
H9年
H10 年
H11 年
3等
第 44 回全国工業高等学校建築設計競技
2等
第 11 回日本工業大学建築設計競技
佳作
第1回 HL21 進住宅研究会設計競技
最優秀
第 45 回全国工業高等学校建築設計競技
佳作
第 12 回日本工業大学建築設計競技
佳作
第2回 HL21 進住宅研究会設計競技
最優秀
第 13 回日本工業大学建築設計競技
1等
第3回 HL21 進住宅研究会設計競技
最優秀
第 14 回日本工業大学建築設計競技
2等
H13 年
第 48 回全国工業高等学校建築設計競技
1等
H14 年
第 16 回日本工業大学建築設計競技
1等
H15 年
第 17 回日本工業大学建築設計競技
H16 年
第 18 回日本工業大学建築設計競技
H17 年
第 52 回全国工業高等学校建築設計競技
H19 年
H21 年
H22 年
H23 年
H24 年
H25 年
H26 年
H27 年
第 20 回日本工業大学建築設計競技
1等
審査員賞
審査員賞
奨励賞
2等
1等
佳作
第 53 回全国工業高等学校建築設計競技
2等
第 21 回日本工業大学建築設計競技
1等
第 54 回全国工業高等学校建築設計競技
2等
第 22 回日本工業大学建築設計競技
審査員賞
第 56 回全国工業高等学校建築設計競技
1等
第 23 回日本工業大学建築設計競技
佳作
第 57 回全国工業高等学校建築設計競技
1等
第 24 回日本工業大学建築設計競技
第 58 回全国工業高等学校建築設計競技
奨励賞
2等
第 25回日本工業大学建築設計競技
審査員賞
第 26 回日本工業大学建築設計競技
1等
第 59 回全国工業高等学校建築設計競技
2等
第 60 回全国工業高等学校建築設計競技
1等
第 27 回日本工業大学建築設計競技
3等
第 61回全国工業高等学校建築設計競技
第 28 回日本工業大学建築設計競技
第 29 回日本工業大学建築設計競技
第 62 回全国工業高等学校建築設計競技
写真 11 課題を完成させて
1等
H12 年
H20 年
写真 10 模型の作成
佳作
第8回日本工業大学建築設計競技
H6 年
H18 年
写真 9 ラジオ関西に出演させていただく
第 40 回全国工業高等学校建築設計競技
表2 平成 5 年からの入賞成績
1等
佳作 2 点
1等
佳作 2 点
2等