特 集 将来へチャレンジする推進工法技術 解 説 “Boys, Be Ambitious” 少年よ、大志を抱け な か む ら か つ の り 中村 勝則 藤村ヒューム管㈱ 技術開発本部技術営業部長 1 はじめに “Boys, Be Ambitious”「少年よ、大志を抱け」、誰 もが知っているフレーズである。北海道開拓の父とされ たかということを想像する。 3 推進工法の発展には先人の志あり ているクラーク博士の残した言葉として有名であり、北 昭和 23 年に日本で初めて推進工事が行われて70 年 海道を訪れたことのある方は、博士の右手を挙げた銅像 になろうとしている。現在の技術は飛躍的に進歩した。 (写真−1)をご覧になった方も多いと思う。銅像の博 そこに先人の熱い思いと志があったことは疑いようがな 士は「遙か彼方にある永遠の真理」を指しているそう い。推進管はというと、鉄筋コンクリート製であることか である。推進工法の未来、推進管の未来を少し考えて ら圧縮に強く安価な材料として推進工法に適したもので みたい。 あった。推進工法の発展に伴って推進管も進歩してき た。現在では大深度への適用を可能にした継手水密性 2 クラーク博士について少し 0.4MPaの推進管や雨水対策の貯留管として使用できる 内圧推進管、長距離推進で役割が大きくなっている滑 クラーク博士はフルネームをウィリアム・スミス・クラーク 材注入の専用管などが時代の流れや推進工法の要求 といい、アメリカ合衆国のお医者さんの家に生まれ、大 に応える形で開発されている。 学を出た後はドイツに留学し、20 代で教授に出世した秀 才でした。日本を訪れたのは、同志社大学創始者の新 島襄氏との出会いをきっかけに、明治政府から熱望され 36 4 これからの推進管 たことからだ。クラーク博士は日本に滞在した8 箇月の間 これからの推進管に何が必要か、推進管の未来につ に札幌農学校(現在の北海道大学)の教頭として北 いて2 つの方向から考えてみたい。 海道の開拓のみならず、その後の日本の発展に影響を 一つは推進工法を安全確実に行い、他工法から優 与える足跡を残した。8 箇月という短い期間に140 年後 位性を見出すものであり、管体強度や継手の工夫など の今に名を残す功績を上げたのである。時代背景はあっ 工事において推進工法の進歩に繋がる開発である。こ たものの、博士がいかに学生に熱く語り、学生がその れについては施工者と推進管メーカとの交流が重要と考 言葉から多くのことを感じ、時代を動かす力に変えていっ える。 月刊推進技術 Vol. 31 No. 1 2017 写真−1 クラーク博士像 写真−2 実験完了の集合写真 写真−3 小学校の課外授業 もう一つは、管路構造物として今までにない価値を見 であったが、どの顔も達成感から生き生きしていると思い 出す開発である。最近では下水熱の利用や発電といっ ませんか?ここに写っている皆さんも社会人になって建設 たことが考えられ、一部は実用化されている。新たに管 会社やコンサルタント等に就職された方、中には母国に 路を設置することでこれまでにない価値を生み出すこと 帰った留学生もいる。推進の仕事に就いていることを願 ができれば、現在は管路の老朽化対応として管更生工 い、推進工事の現場で再開できる日を楽しみにしている。 法が選択されている部分において、更新という選択に舵 写真−3は推進工事の現場に地元の小学校を招待し を切るきっかけになるのではないか。前出した熱や電気 たスナップである。みんな熱心に聞いている。学校に帰っ といったエネルギーを生み出す管材は利用価値が高く現 てから現場で見てきたこと聞いてきたことをまとめて、例 実性があるものと思うが、例えば「汚水を流れるうちに えば班ごとに発表したりしたのであろう。こういった小さ 浄化する管材」という突拍子のないことを考える研究が い時に見聞きしたことは大人になっても覚えているもので あってもよいのではないかと思う。 ある。願わくは大きくなって推進工法に関わる仕事に就 そういった付加価値を持った管路について「機能性 いてくれるお子さんが出てくれるとうれしい。 管路」という呼び方はどうだろう。推進工法の未来を作 る「機能性管路」の出現を期待する。 5 未来を作る若者たち 6 おわりに 推進工法の将来を考えると、現状のままでは明るい未 来を想像することは簡単でない。これまでとは異なる発 写真−2は数年前に地元の大学と共同実験を行ったと 想や取り組みが求められ、そこには若者の力が必要で きのものである。実験を行ったのはちょうどこの原稿を書 はないでしょうか。だからこそ私たちは若者が推進工法 いているのと同じに12月であった。クリスマスまでに実験 の業界に魅力とやりがいを感じるように工夫と努力をしな を終わらせたいと実験終盤は夜中まで頑張った。冬の日 ければならない。 本海側は海から吹き付ける風が厳しく、日が暮れるとど “Boys, Be Ambitious”クラーク先生は若者に魅力あ んどん寒くなる。午前 0 時を過ぎると眠くなってくる。誰 る未来とやりがいを示すことで人を育てたからこそ現在ま かが歌を歌い始める。まるで雪山のようだと思った。しか で伝えられているのではないでしょうか。 し、楽しかった。写真は実験完了の記念撮影で真夜中 月刊推進技術 Vol. 31 No. 1 2017 37
© Copyright 2024 ExpyDoc