リサーチ TODAY 2017 年 1 月 26 日 EU懐疑政党勝利は財政拡張で景気回復も 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 先週のTODAYで、ユーロ圏については2017年も不安材料が多いとした1。ただし、今や2010年前後に語 られたユーロ債務危機が生じる状況ではない。そもそもユーロ危機の背景には、マクロバランスの不均衡が あった。下記の図表はユーロ圏の経常収支の推移である。ユーロ危機は図表に示されるように、結局、南 欧諸国の経常収支の赤字によって生じたものだった。世界の国債の生き残り戦争「ソブリン・ワールドカップ」 は経常収支によると筆者は長らく論じてきた。ユーロ圏では2000年代に単一通貨ユーロの利用が進むと、 元来あった加盟国間の競争力の格差が、ドイツの黒字と南欧の赤字という不均衡という形で現れ、図表に あるように、まるで扇が開くがごとく拡大した。これはある面で自然な成り行きでもあった。しかし、その結果 もたらされた債務危機は単一通貨の制約で通貨調整ができない本質的な問題を内包していた。従って、 南欧諸国が経常赤字の改善を実現するには、極めて「不自然な」方法として極端な内需緊縮化が必要とさ れた。 ■図表:ユーロ圏の経常収支推移 4.0 南欧等の経常収支が黒字化 (ユーロ圏名目GDP比、%) 3.0 2.0 1.0 0.0 -1.0 -2.0 -3.0 その他 南欧等5カ国 フランス ドイツ ユーロ圏 -4.0 2001 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (注)2016 年は上半期のみの実績。南欧等 5 カ国=ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリア。 (資料)Eurostat よりみずほ総合研究所作成 その結果、次ページの図表のように、2011年以降、ユーロ圏では大幅な財政緊縮化が生じた。同時に、 南欧を中心に賃金の引き下げなどによる緊縮策も取られたことから、経常赤字は改善した。2016年に緊縮 財政の状況は転換するが、依然として財政ルールの縛りがあるなかで財政面からの景気押し上げは期待 しにくい。 1 リサーチTODAY 2017 年 1 月 26 日 ■図表:ユーロ圏構造的財政収支 緊縮財政 2.0 (構造的財政収支(GDP比)、%) 緊縮財政 1.5 ← 1.0 0.5 0.0 →拡張財政 -0.5 成長親和的な財政政策 -1.0 金融危機後の 拡張財政 -1.5 2008 09 10 11 12 13 14 15 17 (年) 16 (注)構造収支は景気循環及び一時的政策の影響を除いた財政収支。 (資料) 欧州委員会よりみずほ総合研究所作成 下記の図表は、ユーロ圏各国の財政出動の余力を示す。昨年11月に欧州委員会は、ユーロ圏全体で 2017年はGDP比0.5%の財政拡張を目指すべきとした。しかし、財政協定を満たさない国では緊縮財政が 引き続き必要であること、一方で黒字になっているドイツが頑なまでに緊縮財政を続けることで、不均衡に は改善の目途が立たない。ユーロ圏にとって2017年は選挙イヤーであり、そこではEU懐疑政党の議席拡 大が予想される。EU懐疑政党の勝利は、財政拡大に道筋を開くことになる。EU懐疑派の勝利は政治面で は不安要因となるが、一方で経済面では、不確実性の高まりにより景気を押し下げる面もあるが、緊縮策を 脱し欧州の景気回復の要因になるという皮肉な見方もできる。 ■図表:ユーロ圏各国の財政収支と財政出動の余力 ルクセンブルク エストニア ドイツ キプロス ラトビア リトアニア オランダ オーストリア マルタ イタリア フィンランド スロベニア フランス ポルトガル スロバキア アイルランド ベルギー スペイン -3.0 財政協定で定められる 中期財政目標(▲0.5%) 中期財政目標に未達の国は 毎年、GDP比0.5%規模の 緊縮財政を実施することが原則 ドイツなど一部を除き 多くの国は緊縮財政が必要 (財政収支のGDP比、%) -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 (注)財政収支は景気循環や一時的要因を除いた構造的財政収支。2016 年の見込み値。 (資料)各国 2017 年予算案よりみずほ総合研究所作成 1 「2017 年もユーロ圏は問題含み」 (みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2017 年 1 月 18 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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