平成 29 年 1 月 19 日 大阪薬科大学における研究倫理違反に関する調査報告について 大阪薬科大学 学長 政田 幹夫 大阪薬科大学(以下「本学」という。)は、本学薬学部病態分子薬理学研究室の松村靖夫教授(以下 「松村教授」という。 )が筆頭著者若しくは責任著者として発表した論文に研究倫理違反に該当する論 文があるとの申立てを受け、調査委員会を設置して調査を行ってきました。 この度、全ての調査が終了し、その結果、同教授が発表した論文に研究不正行為を含む研究者として 不適切な行為があったと認定しましたので、下記のとおり報告します。 記 1.研究倫理違反の申立て 平成 21 年 12 月 14 日、平成 24 年 5 月 18 日および平成 25 年 12 月 16 日の 3 回にわたり、松村教授 が筆頭著者若しくは責任著者となっている計 27 報の投稿論文について、 「改ざん」、 「捏造」等の研究不 正行為を含む研究倫理違反が疑われるとの申立書が学長あてに届いた。 2.調査委員会による調査 (1)平成 21 年 12 月 14 日付けの申立て 平成 21 年 12 月 14 日付けで松村教授を責任著者とする投稿論文 3 報の無断投稿とそのうちの 1 報 にデータの捏造が疑われるとの申立書の提出があった。 本学は、これを受けて予備調査を行ったうえで、平成 22 年 11 月 24 日に調査委員会を設置し、平 成 23 年 12 月までに計 6 回の調査委員会を開催して関係者の事情聴取を含めた調査を行った。委員 構成、調査内容および調査結果は次のとおりである。 【委員構成】 委員長 辻坊 裕:大阪薬科大学薬学部教授 委員 池田 潔:大阪薬科大学名誉教授 委員 井尻 好雄:大阪薬科大学薬学部准教授 委員 谷澤 克行:大阪大学産業科学研究所教授(当時) 委員 春沢 信哉:大阪薬科大学薬学部教授 【調査内容】 ①松村教授他関係者からの事情聴取 ②対象論文の調査 【調査結果】 松村教授が責任著者として発表した論文「Potentiation by endothelin-1 of 1 vasoconstrictor response in stroke-prone spontaneously hypertensive rats (European Journal of Pharmacology 415,45-49,2001)」(「3.該当論文一覧」論文#1)において、Fig1 および Fig2 の実験に SHRSP ラットの対照ラットとして WKY ラットを使用したとあるが、実際には WKY ラットではなく、Wistar 系ラットを使用していた。これは「データの改ざん」に該当する研究 不正行為であると認定した。 (2)平成 24 年 5 月 18 日付けの申立て 平成 24 年 5 月 18 日付けで論文#1 の数か所に新たなデータの捏造、改ざんが疑われるとの申立書 の提出があった。 本学は、これを受けて本学研究倫理委員会に諮ったうえで、平成 26 年 2 月 26 日に調査委員会を 設置し、平成 26 年 3 月 31 日までに計 2 回の調査委員会を開催して松村教授の事情聴取を含めた調 査を行った。委員構成、調査内容および調査結果は次のとおりである。 【委員構成】 委員長 松島 哲久:大阪薬科大学薬学部教授(当時) 委員 秋月 延夫:大阪薬科大学事務局長 委員 小川 委員 土井 委員 平野 委員 福永理己郎:大阪薬科大学薬学部教授 委員 三野 博:帝塚山学院大学人間科学部教授 光暢:大阪薬科大学薬学部教授 武:龍谷大学名誉教授 芳紀:大阪薬科大学薬学部教授 【調査内容】 ①松村教授からの事情聴取(文書による。) ②対象論文の調査 ③対象論文における研究の公的研究費使用の有無の調査 【調査結果】 論文#1 の数か所にデータの捏造、改ざんが疑われるとの今回の申立てについては、研究不正行 為と認定できるものはなかった。 また、論文#1 については、平成 22 年 11 月 24 日設置の調査委員会で研究不正行為があったと 認定されているが、同論文に科学研究費補助金への謝辞が記載されているため、同論文における研 究に科学研究費補助金が使われていたか調査したところ、論文#1 が同補助金を用いて行われた研 究の成果であると認定できるものはなかった。 (3)平成 25 年 12 月 16 日付けの申立て 平成 25 年 12 月 16 日付けで、松村教授が責任著者若しくは筆頭著者となっている投稿論文 27 報 について、研究不正が疑われる箇所が発覚したとの告発があった。 本学はこれを受けて、本学研究倫理委員会に諮ったうえで、平成 26 年 6 月 23 日に調査委員会を 設置し、平成 27 年 5 月 13 日までに計 9 回の調査委員会を開催して告発された 27 報の投稿論文のう ち、以前に申立てがあり調査済みの 3 論文を除いた 24 報の論文について、関係者の事情聴取を含め た調査を行った。委員構成、調査内容および調査結果は次のとおりである。 2 【委員構成】 委員長 楠瀬 健昭:大阪薬科大学薬学部教授 委員 小川 委員 島本 史夫:大阪薬科大学薬学部教授 委員 土井 光暢:大阪薬科大学薬学部教授 委員 平野 委員 福永理己郎:大阪薬科大学薬学部教授 委員 三野 博:帝塚山学院大学人間科学部教授 武:龍谷大学名誉教授 芳紀:大阪薬科大学薬学部教授 【調査内容】 ①松村教授他関係者からの事情聴取 ②対象論文の調査 【調査結果】 不注意により異なる実験のデータ・画像を使用していたものが 2 報(「3.該当論文一覧」論文 #2,3)確認された。また、異なる論文において共通の正常動物のデータを重複使用していたにもか かわらず、その事実を後発論文において引用記載していなかったものが 7 報(「3.該当論文一覧」 論文#4,5,8,9,10,12,13)、さらに、データの流用があったものが 5 報(「3.該当論文一覧」論文 #5,6,7,8,11)確認され、いわゆる捏造、改ざん、盗用の研究不正には当たらないが、データの重複 使用や流用など研究者として不適切な行為があったと認定した。 松村教授が筆頭著者であった論文および松村教授が指導していた複数の大学院学生等が筆頭著 者であった論文において、不適切な実験データの取り扱い等が行われ、そのうちの 7 報の論文(「3. 該当論文一覧」論文#4,5,7,8,9,12,13)が取り下げ処置になっていることは、憂慮すべき事態であ る。科学研究に参加して間もない学部学生や大学院学生は、一般に実験・研究における不正行為や 不適切行為に対する判断力が低く、コントロール実験の意義やデータの取り扱いに関する認識も未 熟である。科学研究を教育・指導する立場にある松村教授には、論文作成指導においても、細部に わたって注意を払い、データの確認を行うなど、学生指導を徹底すべき責任があったと認定した。 3.該当論文一覧 論文 番号 出版 年 2001 著者名 論文タイトル 発表雑誌名 巻、号 頁 #1 *Matsumura Y, Kita S, Okui T Eur J Pharmacol 415(1) 45-49 #2 Tsutsui H, Sugiura T, Hayashi K, Yukimura T,Ohkita M, Takaoka M, *Matsumura Y Tanaka R, Tsutsui H, Kobuchi S, Sugiura T, Yamagata M, Ohkita M, Takaoka M, Yukimura T, *Matsumura Y Kobuchi S, Tanaka R, Shintani T, Suzuki R, Tsutsui H, Ohkita M, Ayajiki K, *Matsumura Y Potentiation by endothelin-1 of vasoconstrictor response in stroke-prone spontaneously hypertensive rats Protective effect of moxonidine on ischemia/reperfusion-induced acute kidney injury through α2/imidazoline I1 receptor Eur J Pharmacol 718 173180 2013 Protective effect of 17β-estradiol on ischemic acute kidney injury through the renal sympathetic nervous system Eur J Pharmacol 683 270275 2012 Mechanisms Underlying the Renoprotective Effect of GABA against Ischemia/Reperfusion-Induced Renal Injury in Rats J Pharmacol Exp Ther 338(3) 767774 2011 #3 #4 3 論文 番号 出版 年 著者名 論文タイトル 発表雑誌名 巻、号 頁 #5 Ueda K, Tsuji F, Hirata T, Ueda K, Murai M, Aono H, Takaoka M, *Matsumura Y J Pharmacol Exp Ther 329(1) 202209 2009 #6 Fujii T, Sugiura T, Ohkita M, Kobuchi S, Takaoka M, *Matsumura Y Nakajima A, Ueda K, Takaoka M, Kurata H, Takayama J, Ohkita M, *Matsumura Y Preventive Effect of SA13353[1-[2-(1-Adamantyl)ethyl]-1pentyl-3-[3-(4-pyridyl)propyl]urea],a Novel Transient Receptor Potential Vanilloid 1 Agonist, on Ischemia/Reperfusion-Induced Renal Injury in Rats Selective antagonism of the postsynaptic α1-adrenoceptor is protective against ischemic acute renal failure in rats Effects of Pre-and Post-ischemic Treatments with FK409, a Nitric Oxide Donor, on Ischemia/Reperfusion-Induced Renal Injury and Endothelin-1 Production in Rats Opposite Effects of Pre-and Postischemic Treatments with Nitric Oxide Donor on Ischemia/Reperfusion-Induced Renal Injury Dietary Supplementation of L-Carnosine Prevents Ischemia/Reperfusion-Induced Renal Injury in Rats The role of renal sympathetic nervous system in the pathogenesis of ischemic acute renal failure Eur J Pharmacol 574 185191 2007 Biol Pharm Bull 29(3) 577579 2006 J Pharmacol Exp Ther 316(3) 10381046 2006 Biol Pharm Bull 28(2) 361363 2005 Eur J Pharmacol 481 241248 2003 Role of Nitric Oxide in the Renal Protective Effects of Ischemic Preconditioning J Cardiovasc Pharmacol 42(3) 419427 2003 Pre- or Post-Ischemic Treatment with a Novel Na+/Ca2+ Exchange Inhibitor, KB-R7943, Shows Renal Protective Effects in Rats with Ischemic Acute Renal Failure Selective Antagonism of Endothelin ETA or ETB Receptor in Renal Hemodynamics and Function of Deoxycorticosterone Acetate-Salt-Induced Hypertensive Rats J Pharmacol Exp Ther 296(2) 412419 2001 Biol Pharm Bull 22(8) 858862 1999 #7 #8 Nakajima A, Ueda K, Takaoka M, Yoshimi Y, *Matsumura Y #9 Fujii T, Takaoka M, Tsuruoka N, Kiso Y, Tanaka T, *Matsumura Y Fujii T, KurataH, Takaoka M, Muraoka T, Fujisawa Y, Shokoji T, Nishiyama A, Abe Y, *Matsumura Y Yamashita J, Ogata M, Itoh M, Yamasowa H, Shimeda Y, Takaoka M, *Matsumura Y Yamashita J, Itoh M, Kuro T, Kobayashi Y, Ogata M, Takaoka M, *Matsumura Y #10 #11 #12 #13 *Matsumura Y, Taira S, Kitano R, Hashimoto N, Kuro T 4.関係者の処分 平成 21 年 12 月 14 日付けの申立てに対する調査結果において、改ざんとの研究不正行為が認定され たことを受け、懲戒委員会が設置され審議の結果、平成 25 年 6 月に同懲戒委員会で同時に審議してい た松村教授に対する別件の審議結果と合わせて、松村教授を 20 日間の停職とする懲戒処分が決定した。 また、平成 25 年 12 月 16 日付けの申立てに対する調査結果において、いわゆる捏造、改ざん、盗用 の研究不正には当たらないが、データの重複使用や流用など研究者として不適切な行為が多数あったと 認定されたことを受け、懲戒委員会が設置され審議の結果、松村教授を 10 日間の停職とする懲戒処分 が決定した。なお、その他の関係者については、懲戒すべき事由は認められなかった。 4 5.再発防止について 今回、本学において、一連の研究不正行為並びに研究者としての不適切な行為が行われていたことが 発覚し、本学に研究倫理意識の欠如した研究者が存在することが明らかとなりました。このような研究 倫理に反する行為は、大学のみならず科学技術全般への信頼を損ねることにもなりかねない行為で、こ のようなことが起こってしまったことは誠に遺憾であり、心からお詫び申し上げます。こうした事態が 二度と起こらないよう再発防止に全力で取り組む所存であり、平成 27 年 10 月には「大阪薬科大学研 究者行動規範」を制定し、研究者の責務を定めるとともに「大阪薬科大学における研究活動上の不正行 為の防止及び対応に関する規程」を制定して研究者に対する研究倫理教育の義務化や研究資料の保存の 原則等を定めました。また、研究倫理に関する図書を全研究者及び大学院学生に配布するとともに、e -ラーニングによる研究倫理教育や研究倫理研修会等を実施しています。今後も、これらの取組みを継 続し、本学教員をはじめ関係者の研究倫理意識の向上を促進し、不正防止に努めてまいる所存です。 以上 5
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