コンクリートの塩害モニタリングに資する鉄筋腐食促進試験

土木学会第71回年次学術講演会(平成28年9月)
CS7-001
コンクリートの塩害モニタリングに資する鉄筋腐食促進試験
日本工営(株)
正会員 ○高地透 中野雅章
前田建設工業(株) 正会員
米田大樹 小原孝之
1.はじめに
コンクリート構造物の塩害は,飛来塩分や凍結防止剤から供給される塩分等により生じる劣化現象である.塩害
は,鋼材腐食が始まっても直ちに外観に変状が現れず,目視点検等で腐食ひび割れを把握したとしても,既に劣化
が加速期以降まで進展している状態であることから,事後対応になり,補修費用の増大や再劣化の原因の一つにな
っている.このため,対策手法や適用時期を見極め,補修効果を定量的に評価するために,効果的なモニタリング
技術の開発が求められている.本研究では,加速期及び劣化期に至る塩分浸透や鉄筋腐食の状況を捕捉することを
目的とし,塩水浸漬や腐食促進試験を実施し,複数のモニタリング技術の適用性について確認した.また,数値解析
をモニタリング技術の補完として活用することを目的に,実験結果と解析結果を比較した.
2.実験概要
2.1 塩分浸漬・電食試験
塩害による劣化促進を模擬するため,RC 梁供試体を
塩水槽に 40 日間浸漬させた後,電食試験を行った.RC
梁供試体下面に銅電極を配して塩水槽に浸漬させ,梁
供試体の主鉄筋に直流電流を加電する方法とした.
2.3 供試体と実験ケース
照合電極
ミニセンサー
供試体概要と電食試験の概要を図-1 に示す.鉄筋腐
梁供試体
リード線
用心鉄筋 D10
測定装置
食のモニタリングのため,供試体には「照合電極」お
よび「ミニセンサー1)」を鉄筋位置に合わせて設置した
構造用主鉄筋 D19
(-)
(写真-1).実験ケースは表-1 に示すとおりであり,せ
塩水
ん断補強筋の有無,
塩分浸漬濃度
(Cl 濃度で 3%と 15%),
浸漬槽
電極(銅板)
直流電源装置
図-1 実験供試体と電食試験の概要
電食程度をパラメータとして考慮した.
各試験ケースでは,センサーの適用時期に合わせて
埋設型か後施工型を分けて設置した供試体と,試験後
に 4 点曲げの耐荷力確認試験を行う用途でセンサーを
設置しない供試体の各々3 供試体を用意した.
ミニセンサー
2.4 計測機器について
写真-1 センサー設置状況
「照合電極」は鉛照合電極を用いた.本試験では,
表-1 実験ケース
供試体作製時に埋め込む場合と供試体に後施工で設置
した場合とで確認した.
照合電極
塩分
浸漬濃度
供試体種類
実験ケース
「ミニセンサー」は直径 4mm の円形の参照電極と内
塩梁-01
塩梁-02
塩梁-03
塩梁-04
塩梁-05
塩梁-06
塩梁-07
塩梁-08
塩梁-09
塩梁-10
塩梁-11
塩梁-12
径 6mm 外形 10mm の環状対極を有し,自然電位,分極
抵抗等の電気化学的特性値から鉄筋の腐食状態をモニ
タリングした.
(せん断補 (せん断補
強筋無)
強筋有)
●
●
3%
電食
(腐食の程度)
15%
●
●
●
●
●
●
●
●
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●
●
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〒300-1259 茨城県つくば市稲荷原 2304 Tel.029-871-2032 Fax.029-871-2022
-1-
●
●
●
●
●
重症
●
●
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●
軽微
●
キーワード 塩害、モニタリング、照合電極、ミニセンサー
連絡先
無
●
●
●
土木学会第71回年次学術講演会(平成28年9月)
CS7-001
照合電極(塩分濃度:3%)
照合電極(塩分濃度:15%)
0 No.01‐1(無・浸漬)
No.04‐1(無・浸漬)
No.02‐1(無・軽微)
‐100 No.05‐1(無・軽微)
‐200 No.03‐1(無・重度)
‐200 No.06‐1(無・重度)
‐300 No.07‐1(有・浸漬)
‐300 No.10‐1(有・浸漬)
No.08‐1(有・軽微)
‐400 No.09‐1(有・重度)
‐500 電位(mV)
電位(mV)
0 ‐100 ‐600 ‐700 ‐800 7/25
No.11‐1(有・軽微)
‐400 No.12‐1(有・重度)
‐500 ‐600 浸漬開始
(電食なし・軽微)
8/24
電食開始
(軽微)
9/23
浸漬開始
(重度)
10/23
‐700 電食開始
(重度)
11/22
12/22
‐800 7/25
1/21
浸漬開始
(電食なし・軽微)
8/24
電食開始
(軽微)
9/23
10/23
測定日
11/22
12/22
1/21
測定日
図-2 照合電極の計測結果
ミニセンサー(塩分濃度:3%)
ミニセンサー(塩分濃度:15%)
200 200 No.01‐1(無・浸漬)
100 No.04‐1(無・浸漬)
100 No.02‐1(無・軽微)
0 No.05‐1(無・軽微)
No.03‐1(無・重度)
0 ‐100 No.07‐1(有・浸漬)
‐100 No.10‐1(有・浸漬)
‐200 No.08‐1(有・軽微)
‐200 No.11‐1(有・軽微)
‐300 No.09‐1(有・重度)
‐300 No.12‐1(有・重度)
‐400 ‐500 自然電位(mV)
自然電位(mV)
電食開始
(重度)
浸漬開始
(重度)
‐600 ‐700 ‐800 7/25
No.06‐1(無・重度)
‐400 ‐500 ‐600 浸漬開始
(電食なし・軽微)
8/24
電食開始
(軽微)
9/23
浸漬開始
(重度)
10/23
電食開始
(重度)
11/22
‐700 12/22
‐800 7/25
1/21
浸漬開始
(電食なし・軽微)
8/24
電食開始
(軽微)
電食開始
(重度)
浸漬開始
(重度)
9/23
10/23
11/22
12/22
1/21
測定日
測定日
図-3 ミニセンサーの計測結果
3.鉄筋腐食可能性に関する計測結果
照合電極の計測結果を図-2 に示す.浸漬開始後の電位が ASTM C876 で
「90%以上の確率で腐食」と判定される-350mV 程度に低下しており,鉄
筋腐食が開始された可能性が高く,電食開始直後には電位が-600~-700mV
程度まで低下したことから,腐食の進行を捉えていると判断できる.また,
写真-2 はつりによる鉄筋腐食確認
電食開始直後には表面にひび割れが認められず,はつりによって鉄筋腐食
らの傾向については,ミニセンサーも同様の結果を示しているため(図-3),
「照合電極」や「ミニセンサー」により進展期の鉄筋腐食を敏感に捉える
ことができ,塩害の早期劣化の把握ができることを確認した.
4.鉄筋腐食とひび割れ幅に関する数値解析
底面ひび割れ幅(mm)
10
が確認できたことから(写真-2),その時点では進展期と判断した.これ
8
解析
実験
6
4
0
0.00
電食重度
電食軽微
2
5.00
10.00
15.00
20.00
25.00
30.00
質量減少(%)
試験後に計測した鉄筋の質量減少率と底面に発生したひび割れ幅(底面
図-4 数値解析結果との比較
に発生した複数のひび割れ幅の合計)と解析結果を比較を図-4 に示す.解析は,コンクリートの微細空隙中に腐食
ゲルが入り込むことによる膨張圧力の低下(Buffer Effect)を考慮可能な COM32)を用いた.解析結果は概ね実験値
の傾向を捉えており,加速期,劣化期の鉄筋腐食状況のモニタリングの補完に数値解析を活用できると考えられる.
5.まとめ
本研究では,塩水浸漬や腐食促進試験を行い,複数のモニタリング技術の適用性について確認した.その結果,
照合電極とミニセンサーを用いた鉄筋腐食検知技術が塩害の早期劣化を捉えることができる可能性を確認した.ま
た,数値解析技術により,鉄筋腐食とひび割れ幅の合計の相関をシミュレートできる可能性も高いことから,今後
は,各種モニタリング技術と数値解析を合わせた塩害に対するモニタリングシステムの構築を目指し,実橋での適
用性も含めて検討していく予定である.
6.謝辞
本研究は,モニタリングシステム技術研究組合(RAIMS)が実施した研究であり,内閣府の「SIPインフラ維持管理・
更新・マネジメント技術」の一環として国土交通省が実施する「社会インフラへのモニタリング技術の活用推進に関する技
術研究開発」委託事業研究の成果である.
参考文献
1) 下澤和幸他:小型埋設センサーによる鉄筋腐食モニタリング,コンクリート工学年次大会論文報告集,
Vol.16,No.1,pp793-798,1994.6
2) Maekawa, K. Ishida, T. and Kishi, T. : Multi-Scale Modeling of Structural Concrete, Talor & Francis, 2009.
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