連携 最前線 大阪府豊能医療圏急性心筋梗塞地域連携パス 長期予後とQOLを地域ぐるみで改善させる 国民の健康と幸福のために循環器病の克服を目指す国立循環器病研究センター では、急性心筋梗塞の地域連携パスにおいても、心臓リハビリテーションを組 み込み、地域ぐるみで患者さんの予後を改善させることを目標に掲げる。その 概要について、循環器病リハビリテーション部長の後藤葉一氏に聞いた。 国立循環器病研究センター 循環器病リハビリテーション部・心臓血管内科 部長 後藤 葉一 氏 薬の副作用を2週間置きにチェックす ること。2つ目は、ステント留置術か ら半年後あるいは9カ月後に行う冠動 脈の再狭窄の評価です。 しかし、患者さんは退院後どれくら い動いてよいのかが分からず、安静 包括的にケアする 連携パスづくり 施している施 設 が9施 設ありました にしたままで引きこもり状態になり、 (現在は5施設)。それら急性期病院 その状態にある患者さんの4分の1ほ ──急性心筋梗塞の地域連携パスを と4市の 医 師 会で協 議 会 が 作られ、 どは抑うつ状態に陥ります。また、す 作成された経緯をお聞かせください。 私が座長になって連携パスのワーキ べての患者さんには退院後に不整脈 後藤葉一氏 地域連携の推進を目指 ンググループができました。 や心不全を起こす可能性もあります。 した2007年の医療法改正当時、大 これまでに他の地域で作成された だから、血管の閉塞をチェックするだ 阪府豊能二次医療圏(豊中市、池田 急性心筋梗塞の連携パスの多くは、 けでなく、患者さんを包括的にケア 市、吹田市、箕面市、豊能町、能勢 次の2つをかかりつけ医にお願いして するための連携パスが必要だと考え、 町)は人口約100万人に対し、急性 います。1つは、ステント留置後、冠 作成しました。 心筋梗塞の緊急心臓カテーテルを実 動脈の血栓予防に使用した抗血小板 図1「急性心筋梗塞ノート」 外来心臓リハビリで介入し ノートで患者の意識向上 ──心臓リハビリテーションをきちんと 組み込んでいるのが特徴ですね。 後 藤 氏 日本 は 外 来 心 臓リハビリ テーションの普及が非常に遅れてい ます。退院後にリハビリに来院しても らえば前述したような多面的な問題 に介入できます。欧米のデータでは、 外来心臓リハビリを行った患者さん は、行わなかった患 者さんに比べて、 生 活の質(QOL) も長期予 後も良くなるということ が示されています。 急性期病院、退院後の 「急性心筋梗塞ノート」は医師が記録するだけでなく、患者さん向けの資料もある。 02 Excellent Hospital 外来心臓リハビリ施設、か 図2 豊能急性心筋梗塞地域連携パスの4パターン 安定化 退院 慢性 安定期 [5∼10日後] [1∼3週後] [6カ月後] 入院 外来の心臓リハビリを行える「循環器専 門病院」は、当初、国立循環器病研究セ ンターのみだったが、徐々に増えている。 急性期 回復期前期 急性期治療 病棟リハビリ 回復期後期 退院前指導・教育 リハビリ室での運動 維持期 専門病院の外来 外来通院心臓リハビリ 診療所↔専門病院 在宅運動療法 一方向性連携パス 循環型連携パス A 循環器専門病院を救急受診 後、外来リハビリに通う患者 B 急性期病院でカテーテル治療 受診後、 心臓リハビリ病院など に入院、 リハビリを行う患者 C 急性期病院を退院後に心臓 リハビリ病院などで外来リハ ビリを行う患者 急性期病院(心臓リハビリなし) パス D 急性期病院を退院後に在宅 運動療法を行う患者 急性期病院(心臓リハビリなし、遠方) パス 循環器専門病院(心臓リハビリあり) 急性期病院 パス 心臓 リハビリ病院 退院 退院 循環器 専門病院 パス 循環器 専門病院 パス 心臓リハビリ 病院外来 パス 外来心臓リハビリ 在宅運動療法 外来心臓リハビリ 外来心臓リハビリ かかりつけ医 かかりつけ医 在宅運動療法 かかりつけ医 在宅運動療法 かかりつけ医 在宅運動療法 かりつけ医、この3者を組み込んだ豊 後藤氏 厚生労働省の循環器病研究 能 医 療 圏 の 連 携 パスのキャッチフ 委託費の心臓リハビリの研究班で実 患者さんの満足度は高く 2人主治医制も円滑に運用 レーズは、「長期予後とQOLを地域ぐ 態調査を行ったところ、循環器疾患 ──連携パスの効果は、どのような形 るみで改善させる」 です。急性期病院 の専門治療ができる全国の約700施 で表れていますか。 からリハビリ施設を経てかかりつけ医 設のうち、90%以上がPCI(経皮的冠 後藤氏 当院では、このノートを持っ に向かうまでは一方向性ですが、そ 動脈形成術) を実施していました。し た患者さんの受け入れが可能な診療 の後は循環型連携パスとなります。 かし、外来で心臓リハビリを実施して 所のリストを作り、そこから患者さん ――連携パス作成に合わせ 「急性心筋 いる施設は18%、急性心筋梗塞の にかかりつけ医を選んでもらうように 梗塞ノート」 を独自に作られましたね。 連携パスを作成している施設は10% しています。専門病院での担当医と 後藤氏 抗血小板薬の副作用の有無 しかありませんでした。 地域のかかりつけ医の2人の“主治医” や糖尿病のコントロール、LDLコレス 特に、心臓リハビリを実施している を持つことになりますが、患者さんは テロール値など、最小限の項目だけ 施設が少ないため、私たちの連携パ 納得しているので、かかりつけ医か を1枚の紙に盛り込んだパスでは、病 スでは、次の4つのパターンに分けま らは「診療しやすくなった」 という声が 気に対する患者さんの意識は高まり した。A. 当院を救急受診してそのま 聞かれます。 ません。 ま外来リハビリに通う人、B. 他院で 心臓リハビリによる予後の改善を 専門病院とかかりつけ医が相互に 急性期のカテーテル治療を受けた後 証明できれば一番よいのですが、 「急 書き込めるのはもちろん、患者さん に当院に入院してリハビリを行う人、 性心筋梗塞(ST上昇型) の診療に関す 向けには、再発予防と危険因子、心 C. 他院を退院後に当院で外来リハビ るガイドライン」 では心臓リハビリがク 臓リハビリ、運動療法、食事療法の リを行う人、D. 他院を退院後に在宅 ラスⅠ(強く勧める)に分類されている ポイントなどについての資料も付けら 運動療法を行う人です(図2)。 のでコントロール(非実施)群を設定 れるようにノート型にしました (図1) 。 この連携パスをスタートしたころ することができないなど比較検討は 患者さんがこれを読み、持参して医 は、心臓リハビリを実施していた施 難しい面があります。 療機関を受診することで、意識が向 設は医療圏内に当院のみでしたが、 ただし、患者さんへのアンケート調 上すると期待しています。 徐々にリハビリ施設が増え、当初目 査によると、「リハビリへの理解が高 ──全国調査の結果も参考にされたそ 指した3者の連携が実現する状況が まった」など、高い満足度を示す回答 うですね。 整ってきました。 が得られています。 Excellent Hospital 03
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