財務大臣年頭所感

平成29年1月
財務大臣年頭所感
財務大臣
麻生 太郎
あけましておめでとうございます。平成 29 年
国内経済についても、果断に対応してきまし
の年頭に当たり、謹んで新春のお慶びを申し上げ
た。日本経済は、これまでの安倍内閣の取組の
ますとともに、我が国の経済財政運営等につきま
下、賃金引上げ率は 3 年連続で今世紀最高水準、
して一言所感を述べさせていただきます。
有効求人倍率は 25 年ぶりの高水準となるなど、
雇用・所得環境を中心に着実に改善しています。
昨年を振り返りますと、日本経済はアベノミク
しかし、少子高齢化や潜在成長力の低迷といった
スの進展とともに緩やかな回復基調を続けていた
構造要因も背景に、個人消費や民間投資が力強さ
一方で、世界経済には様々なリスクが生まれた年
を欠いた状況にあることも確かです。こうした情
だったと思います。年明けから市場は大きく変動
勢や、G7 各国間で合意した世界経済のリスクへ
し、中国をはじめとする新興国の経済成長の陰
の認識を踏まえ、政府として、消費税率 10%へ
り、資源価格の下落等が世界経済の大きなリスク
の引上げ時期を平成 31 年 10 月に変更するととも
として意識されたほか、先進各国においても、英
に、事業規模 28.1 兆円の「未来への投資を実現
国の国民投票における EU 離脱の決定など、保護
する経済対策」を策定いたしました。
主義的な動きへの懸念が広がり、前途に不透明感
が広がりました。
こうしたリスクや不透明感に対し、日本は世界
伊勢志摩サミットでの合意をとりまとめた議長
国として、本経済対策も踏まえ、金融政策・財政
政策・構造改革を総動員してまいります。
の先頭に立って敢然と行動しました。昨年 5 月の
G7 伊勢志摩サミットでは、議長国としてリーダ
総動員していく政策の中で、民需主導の持続的
ーシップを発揮し、世界経済のリスクに立ち向か
な成長に向けてとりわけ重要なのが「構造改革」
うため、G7 各国があらゆる政策を総動員してい
です。今後の改革の焦点は、第 4 次産業革命や働
くとの合意を取りまとめました。12 月には TPP
き方改革の実現であり、昨年 9 月に立ち上げた
を国会で承認いただいたところであり、引き続き
「未来投資会議」と「働き方改革実現会議」を車
その戦略的・経済的な意義を世界に発信していく
の両輪として、改革を一体的に進めていきます。
決意です。
第 4 次産業革命とは、IoT や AI など、近年の目
覚ましいデジタル技術を社会に取り入れ、国民生
また、第 2 次補正予算においては、
「未来への投
活を豊かにしながら、企業の生産性を向上させる
資を実現する経済対策」に基づき、長年続いたデ
ことを目指すものです。新たに立ち上げた「未来
フレ不況から完全に脱却し、しっかりと経済が成
投資会議」では、成長戦略の新たな司令塔として
長していく道筋をつけるために、民需主導の持続
構造改革を総ざらいし、第 4 次産業革命の実現に
的な経済成長と一億総活躍社会の着実な実現につ
向けた取組を含め、必要な改革を躊躇なく断行し
ながる施策に取り組むことといたしました。年末
ていくための議論を行っています。これによって
に編成した第 3 次補正予算においては、相次ぐ台
日本経済の成長の限界を突き破り、日本の未来を
風・豪雨被害を受け、災害対策費をはじめとする
切り開いていきます。
追加財政需要に対応してまいります。
働き方改革とは、同一労働同一賃金の実現など
非正規雇用の処遇改善、長時間労働の是正など、
平成 29 年度予算では、一億総活躍社会の実現
日本の労働慣行に踏み込んだ改革を行い、労働生
に向け、保育士・介護職員の処遇改善や給付型奨
産性の向上、労働供給増を図るものです。改革の
学金の創設などの主要施策を確実に実現するとと
実現に向けて新たに「働き方改革実現会議」を立
もに、科学技術振興費の伸びの確保や公共事業関
ち上げ、今年度内に具体的な実行計画を取りまと
係費の成長分野への重点化など経済再生に直結す
めるべく、様々な課題についてスピード感を持っ
る取組を推進してまいります。
て議論を進めています。
平成 29 年度税制改正の大綱においては、配偶
なお、「働き方改革実現会議」では、平成 29 年
者控除・配偶者特別控除の見直しを行うととも
の賃上げの方向性についても議論が行われまし
に、研究開発税制や所得拡大促進税制の見直し、
た。回り始めた経済の好循環の継続に向けては、
中小企業向け設備投資促進税制の拡充等を行うこ
賃上げがカギを握っています。昨年 11 月の第 3
ととしております。あわせて、酒税改革や外国子
回会議においては、経済界・労働界とその認識を
会社合算税制の見直し、災害への税制上の対応に
共有したうえで、総理から、①少なくとも今年並
係る各種の規定の整備等も行うこととしており、
みの水準の賃上げ及び 4 年連続のベア実施、②期
日本の成長力の底上げのため、多岐にわたる内容
待物価上昇率も勘案した賃上げ、③中小企業の取
を含んだものとなっております。
引条件の改善を経済界にお願いし、前向きなお答
えをいただきました。財務省としても、平成 29
日本の財政は、国・地方の債務残高が GDP の
年度税制改正や予算の中に、賃上げの環境整備を
2 倍程度に膨らみ、なおも更なる累増が見込まれ
サポートする施策を盛り込んでおり、今後、早期
るなど、引き続き厳しい状況にあります。平成
の成立・実施を期してまいりたいと思います。
32(2020)年度の基礎的財政収支の黒字化目標
の実現に向けて、「経済・財政再生計画」の枠組
こうした「構造改革」と同時に、
「財政政策」
みの下、経済再生を進めるとともに、手綱を緩め
も、デフレ不況からの脱却や経済の好循環の実現
ることなく、徹底的な重点化・効率化など歳出改
に極めて重要な役割を果たします。
革の取組を強化していくことが重要です。平成
29 年度予算においても、例えば社会保障関係費
平成 28 年度においては、3 次にわたり補正予
については、「改革工程表」等に沿って医療・介
算を編成いたしました。まず、昨年 4 月に発災し
護制度改革を実行し、負担能力に応じた公平な負
た熊本地震に機動的に対応するため第 1 次補正予
担・給付の適正化を行います。こうした諸改革を
算を編成し、熊本地震復旧等予備費の創設等によ
通じて、社会保障関係費・一般歳出の伸びは「経
り、当面の復旧対策に万全を期したところです。
済・財政再生計画」の「目安」を 2 年連続で達成
することとなり、これにより、公債金は引き続き
縮減となります。このように、来年度予算も、経
済再生と財政健全化の両立を実現する予算として
います。
なお、消費税率 10%への引上げ時期は平成 31
年 10 月に変更しましたが、社会保障を次世代に
引き渡す責任を果たすとともに、市場や国際社会
における国の信認を確保するとの立場は揺るぎな
いものです。平成 32(2020)年度の財政健全化
目標はこれを堅持し、その実現を損なうことがな
いよう、平成 31 年 10 月の確実な消費税率引上げ
に向けて、経済財政運営に万全を期してまいりま
す。
平成 28 年は終わり、新年を迎えましたが、世
界が勢いを増して変動していくのはここからで
す。主要国では相次いで首脳が交代しつつありま
す。国際連合事務総長にも、10 年在職した潘基
文氏に代わり、年頭からポルトガルのグテーレス
元首相が就任しました。英国の EU 離脱に関する
交渉が今後本格化していけば、欧州の新たな秩序
の在り方が世界中の注目を集めることになるでし
ょう。
こうしたときこそ、安倍総理の下で実に 5 年目
となる長期政権を実現している日本の役割が、ま
すます重要になってきます。世界経済がいかなる
事態になっても、4 年間の政策運営を貫いてきた
強固な軸は決してぶれることなく、前述の各種改
革を断固として実現していきます。
引き続き、強い経済と強い財政の実現に向け
て、副大臣・政務官とともに全力で取り組んでい
くことをお誓い申し上げ、新年の挨拶とさせてい
ただきます。
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