SURE: Shizuoka University REpository

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教科書・教材のデジタル化に関する調査研究教科別報告
書《算数・数学》
長崎, 栄三
p. 5-75
2011
http://hdl.handle.net/10297/9941
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1.はじめに
1-1.算数・数学教科書の国際比較
教科書研究センターは,平成 20 年度以降,第 3 期科学技術基本計画フォローアップ「理
数教育部分」に係る調査研究の一部として,算数・数学教科書の国際比較を行ってきた。
調査対象国は,日本,アメリカ,カナダ,イギリス,フランス,ドイツ,フィンランド,
オランダ,韓国,中国,台湾の 11 か国・地域である。この調査研究を通して,これらの多
くの調査対象国の,算数・数学の授業において,我が国と比べて,ICT の活用や教科書・
教材のデジタル化が進展している状況が見られた。
この調査研究の報告書では,算数・数学の教科書における ICT に関して,次のように,
まとめられている。「算数・数学の教科書では,多くの国が ICT を積極的に取り入れてい
る。カナダでは三平方の定理の検証にコンピュータが使われ,イギリスでは電卓や表計算
ソフトが使われ,フランスでは図形の作図にコンピュータが使われ,フィンランドや韓国
ではインターネット教材を使っている。アメリカでは,電卓,グラフ電卓,コンピュータ
が積極的に活用され,さらにウェブ上で自学自習ができるような e-learning の機能も充実
している。算数・数学の教科書で,電卓やコンピュータの数値計算機能,描画機能を活用
するだけではなく,インターネット教材を利用した内容を積極的に取り上げる必要がある。
特に,平成 20,21 年改訂の学習指導要領では,小中高校を通して統計的内容の充実が図ら
れている。そして,そこでは,コンピュータを利用した統計的活動が推奨され,さらに,
実世界のデータを活用するにはインターネットの活用が欠かせない。」(国立教育政策研究
所(2009)
『第 3 期科学技術基本計画フォローアップ「理数教育部分」に係る調査研究 [理
数教科書に関する国際比較調査結果報告]』)
さらに,この比較研究を通して,我が国の算数・数学の教科書について,「算数・数学
を学ぶ意義を明示する」「児童・生徒の多様性への対応の検討する」「実世界との関連を積
極的に取り入れる」
「他教科との関連を密にする」などの改善点が明らかになってきた。そ
の改善のためには現行の教科書の記述の分量を多くすることが必要不可欠である。そこで,
教科書の分量についての大きな制限を受けない,教科書のデジタル化は,算数・数学教科
書のより一層の充実のための一つの選択肢とも考えられる。
1-2.最近の我が国の教育における ICT の活用
平成 20 年・21 年に改訂された学習指導要領の算数・数学では,ICT の積極的な活用が
図られている。その後,平成 22 年から文部科学省や総務省が学校における ICT,特に電子
黒板やタブレット型のコンピュータの利用について検討を始め,それに符合する形で民間
でもデジタル教科書教材協議会などが同じような議論を始めた。その間に,理数系学会教
育問題連絡会に加盟する諸学会は,ICT の学校への急激な導入に危機感を持ち声明を発表
したりした。そして,平成 23 年には,文部科学省,総務省,デジタル教科書教材協議会が
電子黒板・デジタル教科書の活用に関する報告書を公表した。
5
(1)新学習指導要領の算数・数学科における ICT の扱い
平成 20 年・21 年に学習指導要領が改訂された。改訂前の学習指導要領においても,小
中高校の算数・数学の「指導計画の作成と内容の取扱い」においては,コンピュータの利
用に言及されていたが,今回の改訂では,そのような扱いに加え,中学校数学においては,
学年の指導内容においてコンピュータに言及された。中学校数学の「D 資料の活用」領域
では,第 1 学年で「目的に応じて資料を収集し,コンピュータを用いたりするなどして表
やグラフに整理し,代表値や資料の散らばりに着目してその資料の傾向を読み取ることが
できるようにする。」,第 3 学年で「コンピュータを用いたりするなどして,母集団から
標本を取り出し,標本の傾向を調べることで,母集団の傾向が読み取れることを理解でき
るようにする。」とあるように,「コンピュータ」が内容の項目の中に入っている。新学
習指導要領の小中高校の算数・数学における ICT の扱いをまとめると,表 1 の通りである。
表1
新学習指導要領の算数・数学における ICT の扱い
学校段階 ICT に関連した項目
小学校
算数
第 3 指導計画の作成と内容の取扱い
(5) 数 量や 図形 に つ いて の感 覚を豊かにしたり,表やグラフを用いて表現する力を高 め た
りするなどのため,必要な場面においてコンピュータなどを適切に活用すること。
中学校
数学
第 2 各学年の目標及び内容
1 年 D 資料の活用
(1)目的に応じて資料を収集し,コンピュータを用いたりするなどして表やグラフに整理し,
代表値や資料の散らばりに着目してその資料の傾向を読み取ることができるようにする。
ア ヒストグラムや代表値の必要性と意味を理解すること。
イ ヒストグラムや代表値を用いて資料の傾向をとらえ説明すること。
3 年 D 資料の活用
(1) コ ンピ ュー タ を 用い たり するなどして,母集団から標本を取り出し,標本の傾向 を 調
べることで,母集団の傾向が読み取れることを理解できるようにする。
ア 標本調査の必要性と意味を理解すること。
イ 簡単な場合について標本調査を行い,母集団の傾向をとらえ説明すること。
第 3 指導計画の作成と内容の取扱い
(2) 各 領域 の指 導 に 当た って は,必要に応じ,そろばん,電卓,コンピュータや情報 通 信
ネットワークなどを適切に活用し,学習の効果を高めるよう配慮するものとする。特に,数
値計算にかかわる内容の指導や,観察,操作や実験などの活動を通した指導を行う際にはこ
のことに配慮するものとする。
高等学校 第 3 数学Ⅲ
3 内容の取扱い
(1)内容の(1)のアの(イ)及び(ウ)については,二次曲線や内容の(3)及び(4)で取
り上げる曲線を中心に扱うものとし,描画においてはコンピュータなどを積極的に活用する
ものとする。
第 6 数学活用
3 内容の取扱い
(1) こ の科 目の 指 導 に当 たっ て は,数学的活動を一層重視し,身近な事例を取り上げ る な
ど生徒の主体的活動を促すとともに,コンピュータなどを積極的に活用した学習が行われる
よう配慮するものとする。
(2)内容の(1)のアについては,数学における概念の形成や原理・法則の認識の過程と人
間の活動や文化とのかかわりを中心として,数学史的な話題及びコンピュータを活用した問
題の解決などを取り上げるものとする。
第 3 款 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い
2(2) 各科目の指導に当たっては,必要に応じて,コンピュータや情報通信ネットワーク
などを適切に活用し,学習の効果を高めるようにすること。
6
なお,高等学校数学の新しい科目として期待されている「数学活用」においても,コン
ピュータの活用が積極的取り入れられていることも注目に値する。さらに,このような新
教育課程の方向に合わせる形で,独立行政法人・科学技術振興機構(JST)の「理科ねっ
とわーく」には,平成 22 年からは統計のデジタル教材として「算数・数学の資料の活用や
データの分析のための科学の道具箱」が用意され(http://rikanet2.jst.go.jp/contents/cp0530/s
tart.html)日本全国から無料でアクセスして利用できるようになっている。
(2)教育の情報化ビジョン
文部科学省は,平成 22 年 4 月に「学校教育の情報化に関する懇談会」を設置し,平成
23 年 4 月に,2020 年度に向けた教育の情報化に関する総合的な推進方策「教育の情報化ビ
ジョン~21 世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して~」を公表した。その報告書の
構成は,次の 7 章構成になっている。
第一章
21 世紀にふさわしい学びと学校の創造
第二章
情報活用能力の育成
第三章
学びの場における情報通信技術の活用
第四章
特別支援教育における情報通信技術の活用
第五章
校務の情報化の在り方
第六章
教員への支援の在り方
第七章
教育の情報化の着実な推進に向けて
そこでは,「学校教育における重要なツールである教科書・教材や情報端末等について,
21 世紀を生きる子どもたちに求められる力の育成に対応した整備を図っていくことが必
要である。」として,一斉指導による学び(一斉学習),子どもたち一人一人の能力や特
性に応じた学び(個別学習),子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学び(協働学
習)という 3 つの学習指導場面を念頭に置いて,「基礎的・基本的な知識・技能の習得や,
思考力・判断力・表現力等や主体的に学習に取り組む態度の育成に資するものである。」
としている。
そして,デジタル教科書は,「デジタル機器や情報端末向けの教材のうち,既存の教科
書の内容と,それを閲覧するためのソフトウェアに加え,編集,移動,追加,削除などの
基本機能を備えるもの」であり,主に教員が電子黒板等により子どもたちに提示して指導
するためのデジタル教科書(指導者用デジタル教科書)と,主に子どもたちが個々の情報
端末で学習するためのデジタル教科書(学習者用デジタル教科書)に大別されている。
また,一斉学習,個別学習についてはこれまでも述べられていたが,最近我が国でも強
調されるようになってきた協働学習については次のように述べられている。「子どもたち
一人一人の能力や特性に応じた学び,子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学びを
推進するためには,随時,子どもたちが自分の調べた内容を他者のものと比較吟味しなが
ら課題を解決したり,考えを他者に分かりやすく説明したりする中で自らの理解を深めて
いくことや,教員が子どもたちの日々の学習履歴を把握できること等が有用である。また,
日々の学校生活のあらゆる場面において,子どもたちが協力し合いながら活動するために
情報通信技術を活用することも有用である。このためには,子どもたちに 1 人 1 台の情報
端末環境を整備することが重要な鍵となる。」としている。
7
最終章の第七章では,「教育の情報化の着実な推進に向けて」として,次の 3 点が挙げ
られている。ソフト・ハード・ヒューマンの総合的計画的推進,総合的な実証研究の実施
等,総合的な推進体制の構築。
(3)DiTT 第一次提言書
デジタル教科書教材協議会(DiTT)は,「2015 年までに全ての小中学生がデジタル教
科書・教材を持つ環境を実現し,それを活用することによって教育を豊かにすることを目
的」に,2010 年 7 月に設立され,100 社以上の会員企業からなる民間の任意団体である。
DiTT は,2010 年 12 月にアクションプランを出し,2011 年 4 月には「DiTT 第一次提言書」
を公表している。その提言書は次の 6 章構成になっている。
第1章
現代に求められている人材像と教育.
第2章
2015 年のあるべき教育の姿
第3章
機能仕様と課題
第4章
制度と課題
第5章
国内・諸外国の状況
第6章
政策提言
DiTT は「政府の活動と連携してビジョンの具現化,現実化に貢献することにより,教
育の情報化を促進することを目指す」とし,DiTT の会員企業にとって,「企業の社会的
な責任」「将来の人材の育成」「新しいビジネスの模索」の 3 つの側面を持つとしている。
「我々日本の企業が直面しているグローバル化,国際競争力を高めるためには,今から
これからの子どもたちに 21 世紀型学力を身につけさせ,向上させる必要がある。そのた
めに我々は,ICT の利活用による「教育の質の向上」のために取り組みを加速させなけれ
ばならないと考えている。」としている。そして,個別学習,一斉指導,協働学習ごとに
ICT の活用に触れている。
そして,最終章の第 6 章では「政策提言」として,次の 8 つを挙げている。1 目標の前
倒し,2 教育の情報化に関する政府予算の大幅増額,3 官民共同実証実験の拡大,4 連絡
協議会の設置,5 教育クラウドの早期導入,6 復興対策との連動,7 海外展開の促進,8 教
育情報化臨時措置法の制定。
(4)「デジタル教科書」推進に際してのチェックリストの提案と要望
2010 年 11 月,文部科学省やデジタル教科書教材協議会などの動きに合わせる形で,理
数系学会教育問題連絡会に加盟する諸学会(情報処理学会,日本数学会,日本化学会,日
本化学会化学教育協議会,日本統計学会,日本動物学会,日本物理教育学会,日本地球惑
星科学連合)は,「「デジタル教科書」「デジタル教材」推進に際して,世界的に見て低
くない我が国の教育水準を維持し,さらに向上させるために,必要と思われる事項のチェ
ックリストを作成」し,文部科学省生涯学習政策局長に手渡した。
そこでは,デジタル教科書は,「あくまでも教育の手段であり,目的とするのは教育を
高めていくことであるのを忘れてはなりません」とし,特に初等中等教育におけるデジタ
ル教科書の活用に関しては,「生徒・児童の発達過程およびその教育内容との関連につい
てこれまでに行われてきた検討・試行・研究を,技術の進化を踏まえて,さらに深めてい
8
く必要があります」としている。
このチェックリストは,デジタル教科書による弊害を防ぐと思われる 9 つの事項と 2 つ
の付記からなっており,デジタル化をどのように進めるかという視点はないようであり,
「理数系諸学会が「デジタル教科書」の活用に向けて活動する際に配慮すべき事項をまと
めるという趣旨で作成した」とされている。
事項 1:「デジタル教科書」の導入が,手を動かして実験や観察を行う時間の縮減につ
ながらないこと。事項 2:「デジタル教科書」において,虚構の映像を視聴させることの
みで科学的事項の学習とすることが無いこと。事項 3:「デジタル教科書」の使用が,児
童・生徒が紙と筆記用具を使って考えながら作図や計算を進める活動の縮減につながらな
いこと。事項 4:「デジタル教科書」の使用が,児童・生徒が自らの手と頭を働かせて授
業内容を記録し整理する活動の縮減につながらないこと。事項 5:「デジタル教科書」の
使用が,穴埋め形式や選択肢形式の問題による演習の比率増大につながらないこと。事項
6:「デジタル教科書」の使用が,児童・生徒どうしが直接的に考えや意見を交換しながら
進める学習活動の縮減につながらないこと。事項 7:「デジタル教科書」の使用により,
授業の「プレゼンテーション化」や,児童・生徒に対するプレゼンテーション偏重・文章
力軽視意識の植え付けが起きないようにすること。事項 8:「デジタル教科書」の導入に
際して,教員の教科指導能力が軽視されることがないように,また教員の教材研究がより
充実するように配慮すること。事項 9:「デジタル教科書」の導入に際しては,少なくと
も当面の間は,現行の紙の教科書を併用し,評価や採択においては紙の教科書を基準とす
ること。付記 1 健康上の問題点に関する検討。付記 2 児童・生徒のプライバシーに関する
検討。
1-3.研究の目的
教科書研究センターにおいて平成 20 年度以降に行われてきた理数教科書の国際比較に
よって,調査対象国の多くは算数・数学において積極的に ICT を活用しており,さらに,
我が国の算数・数学の教科書の改善には教科書のデジタル化が一つの選択肢であることが
明らかになった。
他方,21 世紀に入り,我が国でも教育における ICT の活用のあり方が喫緊の課題となっ
てきている。特に最近は,小中高校での電子黒板の整備が進み,そして,児童・生徒でも
手軽に操作できる高機能のタブレット型のコンピュータが出回るようになってきた。そこ
で,政府・産業界からは,既存の紙媒体の児童・生徒用の教科書に代わり,タブレット型
のコンピュータを児童・生徒用のデジタル教科書として使う構想も打ち上げられるように
なった。また,欧米や韓国などの ICT 先進国では,電子黒板と児童・生徒用のタブレット
型コンピュータとが連動した教育実験も行われていることが報告されるようになってき
た。このような動きは,教育,とりわけ教科書のあり方に大きな影響を与える可能性があ
る。
そこで教科書研究センターは,教科書・教材のデジタル化に関する調査研究に取り組む
ことになった。本調査研究は,このうちの,算数・数学における教科書・教材のデジタル
化について,国内外の実態をもとに,その課題等を検討・整理することを目的とする。
9
なお,算数・数学教育では,ICT の利用が謳われている。そこで,本研究においては,
デジタル教科書をより包括的にデジタル教材の一部として捉え,デジタル教科書のみなら
ず,デジタル教材のあり方をも含めて,算数・数学教育における ICT 利用について考察す
る。つまり,国内外の調査においては,電子黒板やデジタル教科書の活用状況に焦点を当
てるが,全体としては,算数・数学教育における ICT 利用という立場から考察する。
(長崎栄三)
10
5.算数・数学における教科書・教材のデジタル化の在り方
「教科書・教材のデジタル化に関する調査研究」の算数・数学部会では,算数・数学に
おける教科書・教材のデジタル化について,国内調査・外国調査を行ってきた。国内調査
では,数か所の小中学校の事例を調査し,そのうちの小学校 1 校では指導者用デジタル教
科書を使用した算数の授業を参観し,さらに中学校 1 校でデジタル教材を使用した数学の
授業を参観することができた。外国調査では,韓国,シンガポールにおいて,指導者用デ
ジタル教科書と学習者用デジタル教科書を使用した算数の授業を参観した。さらに,アメ
リカでは,数学の学習者用デジタル教科書の筆者のインタビューを行い,算数・数学教育
の学会においてデジタル教科書の実情を調べた。また,イングランドのコンピュータを使
った算数・数学教育を調べ,フランスやオーストラリアの数学教科書におけるコンピュー
タの利用の状況も調べた。そして,日本の算数・数学教育におけるこれまでのコンピュー
タ利用を概観し,その現状や課題等をまとめた。これらの国内調査・外国調査の結果をも
とに,算数・数学における教科書・教材のデジタル化の在り方を簡単にまとめる。
先ず,当面の課題である,初等・中等教育の算数・数学におけるデジタル教科書につい
て,指導者用デジタル教科書及び学習者用デジタル教科書のそれぞれの立場から論じた後,
より広い文脈で,算数・数学におけるデジタル教材についてまとめ,そして,最後に算数・
数学におけるデジタル化の目指すことやその意味についてまとめる。
5-1.算数・数学における指導者用デジタル教科書の在り方
算数・数学における指導者用デジタル教科書について,その利点,制作上の留意点,今
後の課題等について簡潔にまとめる。なお,*印は,算数・数学に特に関わる項目である。
(1)指導者用デジタル教科書の具体的な利点,利用に当たっての留意点
A.利点
【指導者の立場】
1) 学習者の視線を同一のものに集中させることができる。
2) 必要に応じて,学年や教科をこえて,関連事項を開くことができる。
3) 必要に応じて,見せたり隠したりすることができる。
4) 書き込み保存機能等を使って,指導履歴や学習履歴をたどることができる。
5 * ) 分度器や三角定規などを拡大提示することにより,正しい使い方を説明すること
ができる。
*
6 ) 図形を移動や回転させることができる。
7 * ) 立体を回転,切断,展開させることができる。
8 * ) 点のプロットや関数の式の入力により,グラフを描きやすくすることができる。
9 * ) ヒストグラムなどの統計グラフの加工や修正が容易にできる。
【機能面】
1) 静止画だけでなく動画や音声等を扱うことができる。
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2) 紙媒体の教科書に比べて,コンテンツの修正・変更自体は難しいが,修正・変更し
たコンテンツの差し替えは容易である。
3) ネットワークを駆使した新しい学習指導のあり方を提案できる。
4) ホストコンピュータが学習履歴を一元化して管理しそれを適宜利用することで,一
斉学習のよさを最大限に残した上での「個に応じる指導」が可能となる。
B.留意点
【指導者の立場】
1) 指導者は授業を通して育成する力を今まで以上に明確にもつ必要がある。
2) 画面が変わると前画面が消えて,考えの関連や比較を考え合うことが難しくなる。
3) 黒板のスペースや授業時間の問題から,1 時間の授業内容を黒板 1 枚にまとめると
いう板書がされなくなる恐れがある。
4) デジタルに馴染めない学習者に対するフォローが必要になる。
5) 指導者による教材の工夫のみならず,学習者が自分で工夫した学習に対して臨機応
変に対応できるソフトの開発が望まれる。
6 * ) 学習者の算数・数学の操作活動が手薄になってしまう危険性がある。
7 * ) 学習者が実際に操作や実験を行うことで感覚的に把握する必要がある内容,例え
ば,長さしらべ,かさしらべという量と測定の教材などは,デジタルに馴染みにくい。
【機能面】
1) 学習者の座席の位置や角度によって見易さが異なる。
2) 映像装置(電子黒板,プロジェクターなど)の環境によっては,対象が正しく映ら
ないことがある。例)円が楕円に見える。
3) ハードやソフトのトラブルにより授業が止まってしまう場合がある。
4) フリーズも含めて保存に失敗したときのバックアップ機能が不可欠である。
(2)指導者用デジタル教科書制作に当たっての留意点,利用に当たっての要望
【制作面】
1) 指 導 者 と 学 習 者 の 間 に 双 方 向 性 が あ る 授 業 の た め の コ ン テ ン ツ を 目 指 す 必 要 が あ
る。
2) 市販のコンテンツの利用と並行して,指導者が自分で一斉指導用コンテンツを作成
できるようなソフトの開発が望まれる。
3) 使い方などについて指導者の工夫の余地があるようにする
4) 授業の目標(理解,練習,考え方や創造性の育成など)に合致したコンテンツを考
える。
5) 制作期間の確保が必要である。
6) コンテンツの修正や変更は簡単ではない。
7) OS 等の環境に左右される。
8) 著作権処理に経費がかかる。(算数・数学は比較的低額)
【利用面】
1) 授業を念頭に置いたデジタル教科書を使いこなすための研修が必要不可欠である。
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(3)指導者用デジタル教科書の今後の課題と望ましい在り方
1) デ ジ タ ル 教 科 書 と 紙 媒 体 の 教 科 書 の 両 者 の 長 所 を 活 か せ る 環 境 に す る こ と が 望 ま
しい。
2 * ) 算数・数学教育の目的・目標の議論をもとにしてデジタル教科書を提案する。
5-2.算数・数学における学習者用デジタル教科書の在り方
算数・数学における学習者用デジタル教科書について,その利点,制作上の留意点,今
後の課題等について簡潔にまとめる。なお,*印は,算数・数学に特に関わる項目である。
(1)学習者用デジタル教科書の期待される具体的な利点,利用に当たっての留意点
A.利点
【学習者の立場】
1) 自分の進度に合わせて学習を進められる。
2) 自分の必要とする自分がやりたい学習をすることができる。
3 * ) どこでつまずいているかを自己認識できる。
4*) つ ま ず き の 克 服 に 有 効 と 考 え ら れ る 内 容 に 戻 っ て い つ で も 学 び 直 す こ と が で き
る。
【指導者の立場】
1) 必要に応じて,学年や教科をこえて,関連事項を開くことができる。
2) インターネット等を使って,必要な最新情報を容易に手に入れることができる。
3) 静止画だけでなく動画や音声等が必要な場面を扱うことができる。
4) 実際に行うことが難しい場面で現実感のある画面を見たり,実際に操作することが
難しい事柄をシミュレーションすることができる。
5) 紙媒体の教科書に比べて,コンテンツの修正・変更自体は難しいが,修正・変更し
たコンテンツの差し替えは容易である。
6) 双方向機能によって学習者の考えの把握が容易となり発表・集団検討の展開の仕方
の見通しがもてる。
7) 双方向機能や書き込み保存機能等を使って,学習記録を取ったり,学習履歴をたど
ったりすることができる。
8) 学習者がどこでつまずいているかの把握が容易となる。
9) 学 習 者 の 学 習 履 歴 に 応 じ た 課 題 の 提 示 が で き る ( ホ ス ト コ ン ピ ュ ー タ か ら 自 動 的
に)。
10) 問題の正答率等から学習者の評価に結びつけることができる。
11) 学習者の理解度に応じて家庭学習用の問題を個別に課すことができる。
12) ホストコンピュータを利用することで家庭でも学校と同一の学習ができる。
13) 家庭学習もオンラインで行い,その記録をホストコンピュータに保存することがで
きる。
14) 個別学習や家庭学習の際にもノート機能を活用して過程などを記録しておき,指導
者がそれを見て評価のコメントをすることができる。
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15) ホストコンピュータが学習履歴を一元化して管理することで,学習者の学習履歴と
様々なデータベースを参照して,学習者に最適な学習課題が提示されることが可能に
なろう。特に,授業の内容についていけない学習者や,優秀な学習者への特別な方策
として,ホストコンピュータのデータベースを活用した個に応じる指導が可能となろ
う。
B.留意点
【学習者の立場】
1) 授業におけるコミュニケ-ションの機会が減る可能性がある。
2) 字を書く力,さらには文章力自体が落ちる可能性がある。
3) 答えがあっているか間違っているかだけに関心が向き,なぜかや過程に目が行かな
くなる危険性がある。
4 * ) 学習者にとって親しみやすい雰囲気の工夫を行うとともに,きちんと算数・数学
の本質に迫ることのできる内容を備える必要がある。
*
5 ) 算数・数学の操作活動が手薄になってしまう危険性がある。
6) ノートをとらなくなることが危惧される。
7) じ っ く り 考 え ず に 手 当 た り 次 第 に あ て ず っ ぽ う に 答 え な ど を 入 力 し て し ま う 危 険
性がある。
8) ハードやソフトのトラブルにより学習が止まってしまう場合がある。
9) デジタルに馴染めない学習者に対するフォローが必要である。
10) 学習者が自律した学習を進めていくことができるような数々の工夫が必要である。
11) 指導者による教材の工夫のみならず,学習者が自分で工夫した学習に対して臨機応
変に対応できるソフトの開発が望まれる。
【指導者の立場】
1) コミュニケーション力の育成,社会性の育成などが疎かになる危険性がある。
2) 個を把握し実践するという指導者の力の低下が懸念される。
3) コンテンツによっては,話し合い活動,グループ学習,協調学習がしにくい場合が
ある。
*
4 ) 学習者が実際に操作や実験を行うことで感覚的に把握する必要がある内容,例え
ば,長さしらべ,かさしらべという量と測定の教材などは,デジタルに馴染みにくい。
5) 学習者がノートをとらなくなることが危惧されるので,ノート指導のあり方を見直
す必要がある。
6) 家庭学習の質が家庭のデジタル環境に依存することが懸念される。
(2)学習者用デジタル教科書制作に当たっての留意点,利用に当たっての要望
【制作面】
1) 紙媒体の教科書の限界を分析してから,デジタル教科書に求める可能性を考え,そ
れを基に作成することが必要である。
2) 学習者が自分で工夫した学習に対して,臨機応変に対応できる工夫が欲しい。
3) 学習者にとって親しみやすく興味がもてるような工夫が必要である。
4) 学習者が自律して学習ができるような工夫が欲しい。
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5) 指 導 者 が 自 分 で 学 習 者 用 コ ン テ ン ツ を 作 成 で き る よ う な ソ フ ト の 工 夫 が 必 要 で あ
る。
6 * ) 算数・数学の本質にきちんと迫ることのできる内容や問題にする必要がある。
7) 個別に対応したコンテンツの開発に莫大な時間と費用がかかる。(文字の大きさ,
書体,色使いなど)
8) 制作期間の確保が必要である。
9) コンテンツの修正や変更は簡単ではない。
10) 著作権処理には指導者用以上に経費がかかる。
11) OS 等の環境に左右される。
12) 特別支援教育への対応が不可欠である。
13) 家庭学習の様子を指導者が把握できるような工夫があるとよい。
14) オンラインによる情報提供も必要である。
【利用面】
1) 指 導 者 が 自 分 な り の 計 画 で デ ジ タ ル 教 科 書 を 利 用 し た 授 業 を 展 開 す る こ と が で き
るようなガイドブックの作成が不可欠である。
(3)学習者用デジタル教科書の今後の課題と望ましい在り方
1) 授業の目的・目標の実現に向けてデジタル教科書を有効に利用できる自主性・主体
性をもった指導者をいかに育てていくかが重要な課題である。
2) デ ジ タ ル 教 科 書 の 長 所 や 有 効 性 を 学 習 者 や 保 護 者 が 理 解 し た 上 で 利 用 す る こ と が
重要である。
3) デジタル教科書を検定教科書として位置づける場合には,リンクや差し替え用教材
等について,どの範囲までが検定の対象となるのかを明確にさせる必要がある。
4) デジタル教科書は,検定外教科書としての使用も考えられる。その際は,地域の教
材を取り込むなどして地域版を作ることも可能である。
5) デ ジ タ ル 教 科 書 と 紙 媒 体 の 教 科 書 の 両 者 の 長 所 を 活 か す た め に そ れ ら の 併 用 が 望
ましい。
6) 端末機器,学校環境などの整備が必要不可欠である。
5-3.算数・数学におけるデジタル教材の在り方
算数・数学におけるデジタル教材を考える際に重要な点を簡潔にまとめる。ここでは,
デジタル教材に,デジタル教科書も含め,より一般的にデジタル教材について考察する。
(1)デジタル教材を論じる前提
1) 学校が有機的で複雑な存在であることを認識した上で,デジタル教材の活用の実現
可能性を議論する。
2) 算数・数学教育の目的・目標を実現するために,指導者が「デジタル教材はないよ
りはあった方がよい」と思う程度のことではなく,「デジタル教材はなくてはなら な
い」という思いで議論する。その際の必須の観点として,次のことが挙げられる。
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ア. すべての学習者が算数・数学に参加する。
イ. 現実感・真実感のある算数・数学にする。
ウ. 紙 と 鉛 筆 だ け で は な く 道 具 を 有 効 に 扱 っ て 多 様 な 問 題 を 扱 う 算 数 ・ 数 学 に す
る。
3) 日本の算数・数学の授業のよさを再確認する。
ア. 課題の板書,解決過程の記録,黒板での学習者の多様な考えの並置。
イ. 集団での多様な考えの比較・検討,学習者の考えとの関連付け。
(2)指導者用デジタル教材を考える際に重要なこと
1) 指導者用デジタル教材の「標準」を確立するとともに,指導者の工夫による「周辺」
も栄えるための工夫も考える。
2) 指導者がカスタマイズをできるようにしておく。
3) 既存の媒体ではできないことを示す。
4) コンテンツは簡潔にして,イニシアティブは指導者に委ねる。授業で数分間程度利
用するコンテンツでもよい。
5) 「集団」による学習という授業の利点を活かし,既存の授業のノウハウの邪魔をし
ないようにする。
6) 黒板並みに学習者の考えやノート等を並置表示可能なソフトを工夫する。
7 * ) すでに開発されている数学における汎用ツールの機能を利用する。
8) 効果的な再利用を前提とした学習履歴となるような工夫をする。
(3)学習者用デジタル教材を考える際に重要なこと
1) 数学的な思考力や態度の育成に貢献する教材を考える。
2) 理解を深めるシミュレーションやアニメーションを工夫する。
3) 実験や観察との関連を図る。
4) 静的な思考と動的な思考の切り換えということで,紙と鉛筆による解決とデジタル
教材とを調和させる。
5) 一斉指導・グループ学習・個別学習の効果的な組み合わせと機器の使い分けを図る。
6) グループ学習では,グループでコンピュータを 1 台使用しながら協調して学習する
ことも考える。
7) 小型情報端末との連携も図る。
5-4.算数・数学におけるデジタル化が目指すもの
我が国の初等・中等教育における算数・数学において,すべての子どもが算数・数学に
参加するようにし,現実感・真実感のある算数・数学にし,そして,利用できる道具を有
効に扱って多様な問題を扱う算数・数学にすることで,算数・数学の改善を目指すために
は,デジタル化は必要不可欠である。そこでは,算数・数学の知識・能力等を身に付ける
とともに,ICT 活用能力も身に付けることが意図されている。
そして,デジタル化によって,一斉指導・グループ学習・個別学習のそれぞれの学習形
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態が算数・数学の学習にとってより効果的になる。基本的には,指導者・学習者がそれぞ
れ 1 台のパソコンを持つようになるが,グループ学習の時にはグループで 1 台のパソコン
を使う方が有効なことも多い。
一方で,デジタル化によって,紙媒体の教科書が不要になるというわけではなく,紙媒
体とデジタルのそれぞれの教科書の長所が共存することが望まれる。その際には,紙媒体
の教科書の在り方も変わり,それは学習にとって核となる知識や情報によって構成され,
子どもがいつでもそれらを参照できるものとなろう。他方,デジタル教科書は学習に広が
りや動きをもたらすものとなろう。
また,デジタル化は,指導者に対しても学習者に対しても,これまでとは異なる配慮が
必要となる。指導者に対しては,指導者のためのガイドブックが必要であり,それを用い
た現職講習会が必要になる。そこでは,我が国の算数・数学がこれまでに培ってきた,問
題解決を中心とした指導におけるデジタル教科書・教材の在り方が論じられるであろう。
学習者に対しては,これまで以上に,学習者のコミュニケーション能力や書いたりメモを
取ったりする能力に配慮する必要がある。デジタル化によって,ともすると,そのような
能力が軽視される危険性があるからである。
これまでも我が国の教育ではデジタル化の必要性は叫ばれてきたが,実際にはデジタル
機器の利用が普及していない。特に,算数・数学では,諸外国に比べてそれらが利用され
ていない。我が国の教育におけるデジタル化を拒む最大の要因としては,入学試験が考え
られる。特に大学入試においてデジタル機器の利用が認められないことは,高校に影響を
与え,高校教育ではこれらがほとんど使われず,順次,中学校,小学校へと同じような影
響を与えている。
欧米においては,高等教育への進学は,選抜のための厳しい入学試験ではなく,資格試
験によるところが多く,そのような試験ではデジタル機器が利用される。そこで,中等教
育だけではなく初等教育においても,学習指導を促進する道具の適切な使用は認められる。
我が国も,高等教育への進学が選抜から接続に変わり始めている。
そして,デジタル化は,日進月歩でその姿を新しく,しかも,社会に受け入れやすくな
りつつある。もちろん,教育のデジタル化にも,どのような改革にもあるような光と影の
部分がある。そこで,デジタル化の中でも,算数・数学はどうあるべきかの絶えざる検証
が必要である。その上で,初等・中等教育のデジタル化を正面から受け止めて,算数・数
学におけるその在り方を積極的に論じるべきであろう。
(長崎栄三)
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