恐怖の館「最恐館」 ―至高の恐怖。それは拷問の苦痛

恐怖の館「最恐館」 ―至高の恐怖。それは拷問の苦痛
―
りょう
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︻小説タイトル︼
恐怖の館﹁最恐館﹂ ︱至高の恐怖。それは拷問の苦痛︱
︻Nコード︼
N8825CY
︻作者名︼
りょう
︻あらすじ︼
恐怖の館﹁最恐館﹂。この館では四人が一つのグループとなって
様々な恐怖を体験する。僕のグループは、男二人、女二人の四人だ。
館の演出は過激さを増して行く。リタイアは拒否され、暴力が振る
われた。来た事を後悔する僕達を待っていたのは本物の拷問だった。
ここは拷問の苦痛と恐怖を体験させる恐怖の館だったのだ。
1
※食虫、食糞、脱糞、流血、肉体破壊、強制中絶などの猟奇的な内
容が含まれます。
2
はると
登場人物紹介
たかの
■高野
佐奈
さな
主人公の男。僕と語る。
やまなか
■山中
ショートカットで幼顔の可愛い女の子。小顔でスラリとした体型。
性格は控え目。十九歳。
童顔のために子どもに見られるのが嫌で、ファッションやメイクで
大人っぽくみせている。
いつき
最恐館へは一人で参加した。僕と同じグループで常に行動を共にす
る。
ひぐち
■樋口
二十代前半の男。後述する雫の彼氏。
サーファーのような容姿。
雫
しずく
僕と同じグループ。
きたむら
■北村
二十代前半の女。いつきの彼女。
綺麗な顔に長い黒髪が似合っている。
僕と同じグループ。
3
■パル
地下組織のボス。東南アジア系。二十代後半。
金のためなら何でもする。部下に二十人ほどの男がいる。
僕たちを酷い目に合せる。
■マクル
パルの女。東洋人と白人の混血で肌が白く瞳が青い。小悪魔的な魅
力が漂っている。二十歳前後。
僕たちを酷い目に合せる。やり方がパルよりも陰湿。
4
第一話 最恐館のホームページ
さいきょうかん
最恐館のホームページは次のような内容だった。
∼∼∼∼∼∼
最恐館へようこそ。
この館は様々な事を強制されながら進む体験型の恐怖の館です。
世界一の恐怖体験をお約束致します。
︻所要時間︼
最長24時間
︻ご注意事項︼
・館内では体験者を拘束する場合があります。
・館内に一切の私物は持ち込めません。
・館内では所定の衣類へお着替え頂きます。
・館内で外部と連絡を取ることはできません。
・入館に際し健康診断を受診して頂きます。
・入館に際し契約書へご署名頂きます。
以下に該当する方は体験頂けません。
・20歳未満の方
・体力に自信の無い方
・持病のある方︵心臓疾患、血圧異常、暗所恐怖症等︶
・肌の弱い方
・グロテスクな表現が苦手な方
・精神的な苦痛が苦手な方
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以下が苦手な方は体験頂けません。
・拘束
・水
・虫
・大音量
・暴言
・におい
︻入館料︼
200万円 ※いかなる場合もご返金は致しかねます
︻お申し込み︼
本館は完全予約制となっております。
ご予約はこちらのフォームからお願い致します。
※複数名でお申し込み頂いても館内では別行動となります。
※お一人でのご予約を歓迎致します。
※入館中は無償にて電話・メールの代行対応を致します。
※お子様連れの方は無償の保育施設をご利用頂けます。
︻その他︼
食事や都度必要となるものにつきましては館にて提供致します。
∼∼∼∼∼∼
参加費用が馬鹿高いものの予約が殺到しているらしい。
僕はただの怖いもの見たさで予約した。
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繰り返される平坦な日々に嫌気がさしていた。日常を離れて非日常
を楽しみたかった。
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第二話 運命のグループ
体験日当日、僕は最恐館にやってきた。
館は西洋のホテルのようだった。元々は結婚式場だったらしい。ベ
ルサイユ宮殿を模して造られていて、お姫様のような気分で式をあ
げることができた。バブル期の産物だ。式場の費用が馬鹿高くバブ
ル崩壊と共に破綻した。持ち主が転々としたが再建はできなかった。
それが今では恐怖の館として機能している。
僕はロビーのソファーに座りスタッフに呼ばれるのを待っていた。
大理石の床、高い天井、シャンデリア、広い窓、心地良い空調。非
日常的な空間なのに妙に落ち着く。
ロビーには僕の他にも何人かが腰を掛けていて思い思いの時間を過
ごしている。彼らもこの館を体験しに来た物好きようだ。
﹁高野様、大変お待たせ致しました。こちらへどうぞ﹂
屋上に描かれた立派な絵画を眺めていて近くにスタッフが近づいて
いるのに気づかなかったが、正装の男性スタッフが僕の前に立って
いた。
僕は慌てて立ち上がり男の後に続いて歩く。回りを見ると他の人達
もスタッフと共に移動をはじめていた。
男は応接室ほどの広さの部屋に僕を通した。
中には三人の男女が他のスタッフに連れられて入室したばかりのよ
うだ。
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部屋の中央には円卓が置かれており、その周囲には高そうなソファ
ーが四脚置かれている。この椅子は僕たちが座るのだと理解した。
﹁みなさん、どうぞお座り下さい﹂
スタッフが僕たちに声をかけた。
三人のうちの二人の男女は手を繋いでいたのでカップルだと分かっ
た。もう一人は女で一人での参加のようだ。
僕たちは席についた。
スタッフは入り口のドアを閉じて話し始めた。
﹁改めまして、最恐館へようこそお越し下さいました。この館は体
験型の恐怖の館で御座います。館の中はグループ単位でご案内して
おります。皆様方、四名が一つのグループで御座います。館の中で
は様々な困難な状況が発生致します。その際には皆様で助けあって
頂きます。いざという時にお互いの知識が活かせるように自己紹介
等でしばらくの間ご歓談下さい。次の準備ができましたお声掛け致
します﹂
そう言うとスタッフは部屋を出て行った。入れ替わりに別の女性ス
タッフがお茶を出す。その女性もすぐに部屋を出て行った。
しずく
部屋には客である僕たち四人だけになった。
﹁自己紹介か﹂
カップルの男が話はじめた。
﹁俺は樋口いつき、コイツは彼女の雫です。俺たちの事はいつき、
雫と呼んで下さい﹂
そういうと二人は見つめ合って笑った。いつきは細身だが筋肉質で
サーファーのようにみえた。
﹁北村雫です。私たちはもうすぐ結婚するんです﹂
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そう言って左手薬指の指輪を見せた。しずくは可愛いというよりも
綺麗な女性で肩まで伸びる綺麗な黒髪が印象的だ。しずくは話を続
けた。
﹁私がお化け屋敷大好きで、どうしてもこの屋敷に来たかったんで
す﹂
﹁ほんと、コイツのお化け屋敷好きには困ったもんで披露宴のため
に貯めてた金、全部使ってココへ来たんですよ﹂
いつきは笑いながらため息をついた。
﹁ここは常に予約が一杯でこうして来れただけでも奇跡ですよ﹂
雫はそう言うと笑ってお茶を飲んだ。
﹁あなたはどうしてここへ?﹂
いつきが気を利かせて僕の隣に座る女に声をかけた。女は童顔で若
さな
干明るくしたショートボブの髪がよく似あっていた。カラーコンタ
クトをした目が大きく見えた。
﹁私もお化け屋敷が好きでやって来ました。山中佐奈といいます。
私も気軽に佐奈って呼んで下さい。色々と辛い事があったのでパー
ッと忘れてしまいたいと思ってやって来たんですけど⋮既に怖いで
す﹂
そう言って笑った。そして僕の方を見て聞いた。
﹁あなたもお一人ですか?﹂
僕は答えた。
﹁ええ一人です。高野はるとと申します。よろしくお願いします。
お化け屋敷は怖くて苦手なんですけど世界一の恐怖の館だという人
もいるので怖いもの見たさで来ました。この中で初めにリタイアす
るのは僕だと思います。しかし、よくカップルで参加できましたね
?﹂
僕はそう言ってカップルに話を戻した。雫が答えた。
﹁そうなんですよ。ここのスタッフには彼の無様な姿を見ることに
なるので別々に参加するようにと何度も言われたんですけど、無理
言ってお願いしたんです。みんなで楽しくゴールしましょう﹂
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そう言って笑った。いつきも笑った。幸せそうなカップルだ。
﹁幸せそう﹂
隣に座る佐奈がボツりと呟いた。顔から笑顔が消えそうになってい
た。美しい花から枯れていない花びらが落ちていくようだった。彼
女は辛いことがあったと言っていたのを思い出してその場を和ます
ために佐奈に話しかけた。
﹁家には何と言って出てきたんですか?ここって体験が始まったら
二十四時間連絡取れないですよね。職場から急ぎの連絡があったら
どうしようとハラハラしてますよ﹂
﹁家族には少し旅に出てくると言って出てきました。私、時々、一
人で出かけるのでいつもどおりですね﹂
佐奈が笑顔を戻して話した。そして続けた。
﹁お仕事していると中々大変ですね。私は美容師だったんですけど
今は特に何もやっていないんです﹂
僕たちは二人で話続けた。目の前のカップルは新婚旅行の計画の話
で盛り上がっていたのでそっとしておいた。それはそれで都合が良
かった。佐奈は上京して美容師になったもののしばらくして家族が
病に伏してしまい夢を諦めて田舎に戻ったそうだ。彼女は直接は言
わなかったが祖父母から多くの財産を受け継いだようだったが、そ
のことで親族と揉めて疲れはてたようだった。僕は佐奈の当たり障
りのないやわらかな魅力に惹かれていった。いや、初めに彼女に会
った時から惹かれていたのかもしれない。吊り橋効果の可能性もあ
った。僕も彼女もこれから体験する恐怖に怯えていた。理由はとも
あれ、ほんの短い時間で僕たちは目の前のカップル以上に輝いてい
るように思えた。
ドアをノックして正装のスタッフが入ってきた。そして言った。
﹁大変お待たせ致しました。先ほどお受け頂いた健康診断の結果が
でました。皆様ご健康体で御座いますので本館のアトラクションを
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ご体験して頂けます。これより更衣室にご案内致します﹂
そう、僕たちはこの館に来てすぐに健康診断を受けた。心電図、レ
ントゲン、血液検査等よくある健康診断に加えて全身を裸体で検査
された。過激な演出があるので念のための検査だそうだ。
﹁どうぞこちらへ﹂
僕たちは席を立って男性スタッフに続いた。カップルが手をつない
で男性スタッフの後に続く。僕と佐奈はそんな彼らの後に続いて歩
いた。
佐奈のヒールの音が古い石造りの廊下にこだました。規則正いヒー
ルのリズムが時々狂う。その狂いが命ある佐奈がそこにいる事を感
じさせた。彼女の姿は就職活動をする女子大生のように綺麗だった
がどこかぎこちなく不安げだ。僕も彼女も周囲をキョロキョロを見
渡していて時々視線があった。その度に笑った。彼女との距離は少
しずつ近づいていた。
廊下を進むとエレベーターホールのような開けた場所に出た。正面
の壁には次へ続くドアが六つあって、その前に白衣を来た四人のス
タッフが立っていた。ドアには左から番号がふられている。
﹁更衣室となります。皆様それぞれの部屋にお入りいただきます。
一番の部屋は樋口様、二番の部屋は北村様、三番の部屋は山中様、
四番の部屋は高野様となっております。この先はここにいるスタッ
フがご案内致します。
ここから先、皆さまが顔を合わせるのはアトラクション中となりま
す。楽しそうに顔を合わせる事ができるのはこれが最後、かもしれ
ません。引き返すなら今のうちでございます。ここは最恐館。この
世で最も恐ろしく狂った館である事をお忘れなく﹂
正装のスタッフが無表情で凄んだ。カップルの二人は始まったなと
ばかりに興味深々としていた。緊張してきた。喉が渇いた。これか
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ら何が起こるか知りたくはないが知りたかった。
﹁それではお部屋にお入り下さい﹂
正装の男が促した。
カップルはキスをして、男が一番の部屋に入り、女が二番の部屋に
入った。三番の部屋に入る佐奈は不安そうだ。扉に近づくと立ち止
まった。そして四番の部屋の前に来た僕に話かけた。
﹁本当に行くんですか⋮。怖い⋮﹂
僕は答えた。
﹁なぁに大丈夫ですよ。身に危険が有るわけじゃないでしょうし、
一緒に楽しみましょう﹂
と言いながらも緊張していたため少し声が裏返った。
﹁⋮やさしいですね⋮﹂
佐奈は緊張したような顔で僕を見つめた。二重のくるりとした瞳が
僕を捕らえていた。佐奈の整った顔が、血色の良い肌が、唇が愛お
しく思える。わずかな香水の香りが僕をつつんだ。
佐奈が何かを言おうとしたちょうどその時、時計台の鐘の音が館内
になり響いた。ボーンボーンという重低音の鐘の音が佐奈の声を掻
き消し、僕の体をふるわせた。元々は祝福の鐘の音だった。それが
今では僕を不安に駆り立てる。佐奈も同じ気持なのだろう。不安そ
うな表情で僕を見つめたまま立ち尽くしていた。
佐奈は鐘が鳴り止むのを待っていたが諦めたようだ。口元が動き何
かを喋った。そして、柔らかい笑顔を作り、手を振って三番の部屋
に入った。
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第三話 更衣室
僕は入り口に立つ白衣の男性スタッフと四番の部屋に入った。
十二畳程の部屋だ。部屋の隅にはカーテンで仕切られた簡易な更衣
室があり、部屋の中央には簡易な机と椅子が置かれている。向こう
側の壁には扉があった。
白衣の男は僕を更衣室の前に案内してカーテンをあけた。正面は鏡
で床には鍵のかかる木箱が置かれている。壁には麻で作られたライ
トグレイのつなぎ服が掛けられている。
男が喋った。
﹁ここから先は一切の私物は持ち込めません。携帯電話、貴重品、
装飾品などは外して頂き、こちらの箱にお入れ下さい。私どもが責
任を持ってお預かり致します。衣類はこちらで用意しておりますも
のにお着替え下さい。濡れたり汚れる可能性が御座いますので下着
もお取り替え頂く事をおすすめしております。靴下と靴もお脱ぎ頂
きます﹂
男は丁寧に更衣室内に置かれているものを説明した。
﹁指輪やネックレス、ピアスを着用されていましたら紛失する恐れ
が御座いますのでお外し下さい。爪が伸びておりますと怪我する恐
れが御座います。こちらに爪切りが御座いますのでお切り下さい。
説明は以上となります。御質問は御座いますしょうか﹂
特に質問はない、そう伝えるとにこやかな笑顔で男はカーテンを外
から閉めた。
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僕は言われるがままに全ての服を脱いで床に置かれた箱に放り込ん
だ。靴下もパンツも脱いで全裸になった。そして用意されていたパ
ンツに履き替えた。パンツはトランクスの形状でナイロン繊維でで
きているようだ。水着のように若干肌に張り付く感じが慣れそうに
ない。
服は女性用のワンピースのような形状で頭から被って着るようにな
っている。服の前後には油性ペンで﹁4﹂と大きく書かれている。
この部屋の番号と同じだ。
服を頭から被った。腕の袖は手首まであって、足元もヒザ下まで隠
れた。ポケットは無い。麻でできているため着心地は最悪だ。腰の
位置にはベルト代わりの紐が通されていたのでそれで胴回りを縛っ
た。鏡に映る自分の姿は、労働中の囚人のようだ。
爪は伸びていなかったし、装飾品はつけていなかった。カップルの
二人はここで指輪を外したんだろうなぁと思った。そして、佐奈を
思い出した。指にネイルをしていたはずだ。ここでネイルを外した
のかなと考えた。
着替え終わった僕は床の箱をパタンと締めて更衣室から出た。
外では白衣の男が待っていた。手には棒のようなものを持っている。
僕は少しビビった。そんな僕をよそに男はにこやかに話し始めた。
﹁お疲れ様です。裸足のままこちらにお越し下さい。念のためこち
らの金属探知機で確認させて頂きますね﹂
そう言うと僕の近くで僕を左右に振って体の回りを確認した。
﹁はい問題御座いません。それではこちらでお写真をお取り致しま
す﹂
そう言うと男は僕を壁際に立たせた。そして、ポケットから取り出
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したカメラで写真を取った。
﹁はい結構です。それではこちらにお掛けください﹂
僕は言われるがままに部屋の中央に置かれた椅子に腰掛けた。
男は部屋の片隅に置かれていた机から書類を持って対面の椅子に座
った。
﹁こちらが先ほどご提出頂いた契約書です。ご本人様のもので間違
いないでしょうか﹂
契約書には僕のサインと印鑑が座っていた。僕はコクリと頷く。
この館を体験するための契約書だ。契約書の内容は大した事はない。
何か不測の事態が発生しても館としては責任を取らないこと、館内
での出来事は一切口外しない事が書かれていた。そして脅しのよう
に異議申し立ては一切しない事が書かれていた。
﹁もう一度内容をご確認頂き、同意頂けましたら、最終確認欄にご
署名をお願い致します﹂
男は僕にペンを差し出しながら話した。
僕は最終確認欄に自分の名前を書いた。周囲から一切の音はせず、
カリカリというペンの音だけが鳴り響いた。
男はサインを確認し終わると書類を部屋の隅の机に戻した。
﹁はい結構です。契約は成立しました。こちらへどうぞ﹂
そう言うと男は僕を次へ続くと思わる扉の前に案内した。
﹁繰り返しとなりますが、契約内容の履行に努めて頂ますようお願
い致します。スタッフの指示には必ず従って下さい。リタイアした
くなった場合は中の人間に言ってみてください﹂
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そう言うと男は古びたドアを手前に開いた。
﹁この中であなたは名前では呼ばれません。服に書かれている番号
の四番と呼ばれます。どうぞお進み下さい﹂
僕は扉の中に足を踏み入れた。
男は背後で見送った。
﹁いってらっしゃいませ。⋮そして、さようなら﹂
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第四話 車椅子への拘束
僕は扉の中に入った。周りの見えない暗い廊下の先にぽつりと光が
灯っている。壁に手を這わせながら恐る恐る前へ進んだ。
目が暗闇に慣れてくると廊下の奥に部屋があるのが見えた。心臓の
高まりを堪えて足を進める。コンクリートの床の冷たさが僕の手足
を冷やしていく。
部屋の入口までやってきた。
傘の付いた裸電球が部屋の中央部に吊るされていて部屋の中央部は
良く見ることができた。だが周囲はよく見えない。
電球の真下には車椅子が置かれていた。ホラー映画に出てくるよう
な薄汚れた車椅子で、ごつい作りが威圧感を放つ。腕の部分と足の
部分に拘束具が取り付けれている。
車椅子の隣には看護婦が二人立っていた。二人とも清楚で美しい。
場所に不釣合いな優しい笑顔だ。
看護婦は何も喋らずに近づいてきて僕の手をとり車椅子まで導びい
た。そして車椅子に座るように優しく指差した。
僕は導かれるままに車椅子に座った。看護婦は怖くないよと言わん
ばかりの顔を時々僕に向けながら両腕と両足を車椅子から伸びる拘
束具で固定した。
更衣室にいた白衣の男はそれを見届けるとドアを閉めた。そしてカ
チャリと鍵がかかる音が聞こえた。
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看護婦は決して僕が車椅子から逃れられないように、更に拘束具を
きつく締めあげていく。
拘束が終わると看護婦の一人が目隠しを持って近づいてきた。もう
一人の看護婦はその隣に立って、僕の気を引くように手を振ったか
と思うと、首を掻き切るジェスチャーをし、親指を立てた拳を下に
向けた。そして不気味に笑い始めた。もう一人の看護婦は目隠しで
僕の視界を遮った。
どちらかの看護婦が車椅子を蹴った。ガンという音がしたかと思う
と後輪を中心に車椅子が回転した。体が強く揺さぶられた。看護婦
は不気味に笑う。そして何度も車椅子を蹴った。目が見えないので
平衡感覚がない。体のバランスを崩せば車椅子ごと転倒してしまう。
時々車椅子の片輪が持ち上がるのを感じて体に力が入る。僕は怖い
のを悟られないように耐えた。
﹁叫ばないのかい?お兄さん﹂
看護婦が耳元で囁いた。そして車椅子後部のハンドルを持って前後
に揺すったかと思うと後ろに体重をかけて前輪を浮かせて手を離し
た。車椅子はガタンと音をたてて前輪を床に叩きつけた。
僕は悲鳴をあげなかった。前かがみで必死に耐えた。
﹁鳴かないねぇ。つまんなーい。階段から突き落としてみる?﹂
﹁いいねー﹂
看護婦はそう話すと車椅子を押して走り始めた。看護婦が床を蹴る
たびに車椅子が加速するのが分かる。車椅子がタガタガと震えて音
を立てる。本気なのか!僕は恐怖して叫んだ。
﹁やめてくれ!怖いんだ!﹂
背後の看護婦が息を切らしながら言った。
﹁手を離すね。すぐそこが階段だから﹂
看護婦は手を離したに違いない。車椅子の加速が失われたかと思う
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と前輪がガタンと音をたてて下に落ちていくのを感じた。次の瞬間
には体が前のめりになって車椅子の後輪が持ち上がるのを感じた。
体は拘束されれていて動かない。目も見えない。このままでは車椅
子ごと頭から階段を落下する。恐怖した。僕は叫んだ。
体が宙を舞って地面に叩きつけられる覚悟をした。だがそうはなら
なかった。前輪はすぐに地面に付いた。そして後輪も地面に落下し
た。加速していた車椅子は周囲の壁にぶつかりながら止った。
僕は肩で息をした。何が起こったか分からない。ただ助かったと思
った。
﹁ハハハ!だせー!何だよ今の叫び声。聞いた?ヒヒハハ!ただの
段差だよハハハハ!﹂
看護婦が近づきながら笑う。
いくら笑われてもよかった。それよりも再び車椅子が動かされるの
が怖かった。
﹁ねぇ?怖い?﹂
そう言うと車椅子を前方から押して後ろに押し始めた。徐々に速度
が上がっていくのが分かった。
先ほどと同じような段差があれば後ろに倒れることは火を見るより
明らかだ。この看護婦は全く信用できない。頭のいかれた人間が担
当になったのだと、この女共は暴走しているんだと思った。
﹁やめろ!本当に死んだらどうするんだ!﹂
僕は怒鳴った。
看護婦は声を弾ませて楽しそうに言った。
﹁よく分かってるね。男には用が無いんだって。だからあんたはこ
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こで死ぬんだよ﹂
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第五話 取調室
﹁おい。お前たち何してる!﹂
男の怒鳴る声が廊下に響く。目隠しされている僕はそれが誰か分か
らない。
﹁少佐殿、四番の男は事故死に見せかけて始末するようにとの指令
を受けておりまして⋮﹂
看護婦が答えた。
﹁そんな指令を出したのは誰だ。そいつは殺してはならん。まだ聞
く事があるんだ﹂
﹁確かにそうしろと指令を⋮﹂
﹁もういい。その男は私が引き取る。元の仕事に戻れ﹂
看護婦はしどろもどろに返答しながらその場を去って行った。
少佐?という事は軍隊?殺す?頭が混乱する。とにかくこの少佐と
呼ばれる男に救われた事に感謝しなければならない。いかれた看護
婦共から開放してくれたのだから。
看護婦と入れ替わるように少佐の足音が近づく。
﹁すまなかったね。とんだ人違いだ。君には聞きたい事があるんだ。
怪我はないかい?﹂
少佐は車椅子を押しはじめた。優しい口調で気遣う。僕はホッとし
て彼に礼を言った。
少佐は僕を近くの部屋に運んだ。そして車椅子を動かないようにす
るためのブレーキをして目隠しを取った。
暗闇だった眼前に光が差し込み目がくらむ。
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ここは取調室のようだ。僕の乗る車椅子は部屋の中央に置かれた机
の前に止められていた。隣には目隠しを手に持つ男が立っている。
ラグビー選手のような巨漢な軍服男が少佐だ。大男が僕を見下出す。
その威圧感は半端ない。
少佐は僕の隣に座り話し始めた。
﹁君に聞きたい事があるんだ。少々強引ではあったがこうして来て
もらった。正直に話してくれたら危害を加えるつもりはない﹂
そう言うと机の上に一枚の写真を置いた。写真には血を流して倒れ
ている初老の男が写っている。
﹁まだ公にはされていないが、昨夜、防衛大臣が何者かに殺害され
た。軍の施設内で車から降りようとしたところを遠距離から射殺さ
れた。警備が万全な軍の施設内で襲撃されるとは誰も思っていなか
っただろう。その点は我々に落ち度があったと認めざる負えない。
我々はすぐに犯人の居場所を突き止めて追い詰めた。だが最後の土
壇場で逃げられてしまった。情けない限りだ。二度も失態を繰り返
したんだ。上の人間は大激怒だよ。君にもそれは分かるだろう。い
つまでも国防大臣不在という訳にはいかない。近いうちに国民に公
表する必要がある。だが、大臣が軍の施設で殺害されたにもかかわ
らず犯人が見つかっていないなどと公表できるわけがない。何とし
てでも犯人を捕まえる必要があるんだよ﹂
少佐は一呼吸おいて続けた。
﹁犯人の逃走経路で奴が落としたと思われる携帯電話が見つかった。
これだ﹂
透明な袋に入った携帯電話を机に置いた。
﹁これを見ろ﹂
少佐は携帯電話を袋の上から操作して僕の目の前に差し出した。発
23
信履歴の表示だ。そこには知らない番号に混じって僕の携帯電話の
番号があった。
﹁これは君の電話番号だろう?﹂
少佐は僕の顔を覗き込みながら聞いた。僕は素直にはいと答えた。
﹁一昨日、君へ三回電話した発信記録がこの携帯電話の中に残って
いる。つまり犯人は君を知っているという事だ。正直に答えてほし
い。この携帯電話の持ち主は誰なんだ?﹂
少佐の顔が近づいた。
心臓の鼓動が一気に高まった。というのも確かに一昨日、携帯に着
信があった。だが非通知だったので電話に出る事はせずに無視して
いた。僕は答えた。
﹁知りません。ただ電話は確かにあったような⋮﹂
少佐が話を遮った。
﹁知らないだと?正直に答えた方が君のためだぞ﹂
少佐は僕を睨んだが知らないものは知らない。
﹁まぁいいだろう。君が誰かの名前を口にしたところでそれが信用
できる情報だとは限らない。我々には時間が無いんだ﹂
少佐はそう言うと壁にある電話を取ってダイヤルした。
﹁私だ。電話相手に間違いない。照合の準備をしてくれ﹂
数分経たぬ間に白衣を来た男が機械の乗った荷台を押して部屋に入
ってきた。そして荷台を僕の横につけると機械から伸びるケーブル
の先端を僕の指に挟んだ。
﹁これは嘘発見器だ。君が嘘をついてもすぐに分かる。電話の持ち
主を教えてもらおうか﹂
少佐はそう言うと照明を落とし、前方の壁に人物の写真を表示した。
﹁犯人だと思われる人物をある程度まで絞り込んだのだが、それで
も数が多すぎる。君は前に映る写真を見ていてくれたらいい。君が
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知っている顔があれば機械が反応する。こうすれば早く犯人に辿り
着けるというわけだ。さあはじめてくれ﹂
人物の写真が次々と表示される。何枚目かに先ほどまで一緒だった
樋口いつきがの写真が表示された。その瞬間に機械に表示されてい
る波形が大きく揺れて、ピピッと音を出した。
﹁こいつが犯人か?﹂
少佐が白衣の男に聞いた。
﹁いいえ違います。疑わしいですが反応が小さすぎます﹂
白衣はそう言うと次の写真を表示した。しばらく後にいつきの彼女
である雫の写真が表示された。肩まである髪は首が出るように後頭
部で束ねられていて清楚感漂う綺麗な顔の輪郭がはっきりと分かる。
そこでも機械は反応した。僕は嘘発見器の凄さに関心した一方、単
にそういう演出なのかもしれないとも思った。次々と知らない人物
の写真が続いた。たぶんどこかに佐奈の写真があるだろう。そう思
ってしばらくすると佐奈の写真が表示された。服は今僕が来ている
ものと同じだ。更衣室で撮られた写真だろう。パーツが過不足なく
配置された顔は可愛いい。カラーコンタクトを取った佐奈は幼く見
える。心臓の鼓動が高まった。機械が再びピピッと音を立てる。機
械の波形はこれまでになく大きく乱れていた。
﹁この女が犯人か?﹂
大佐は助手に聞いた。助手は答えた。
﹁反応した中で一番可能性はあります。ただ、違うように思います﹂
﹁この女が電話の持ち主か?﹂
少佐が僕に詰め寄った。僕は首を横に振った。佐奈の写真で波形が
大きく乱れた事が恥ずかしい。顔が火照ってくるのを感じる。
ダン!少佐が机を殴った。
﹁正直に言え。この女が電話の持ち主か?この女は誰だ?﹂
少佐はそう言うと僕の襟首を掴んで引き上げた。
25
﹁知りません。本当に知りません﹂
平常を装って同じグループのメンバーですと答えればよかったのに
誤魔化した。佐奈に惚れたという事を知られたくないという気持ち
を知られたくないばかりに大きな嘘をついてしまった。すると、機
械がこれまでとは異なるけたたましい音を発した。機械に表示され
た波形は上限値に振り切れている。
﹁嘘だな!この女は何者だ!﹂
少佐が叫んだ。僕はビビった。機械が嘘を嘘だと認識したからだ。
僕は堪忍して正直に話した。
﹁さっき会ったんです。ここへ来る時に﹂
僕は何も悟られぬようにボソボソと話した。少佐は襟首を更に引き
上げる。苦しい。体が宙に浮いて車椅子も宙に浮こうとしていた。
壁の電話が鳴った。
少佐は掴んでいた僕の襟を離して電話を取った。僕は車椅子ごと床
に落下した。
﹁はい。それがまだ取調中でして。申し訳ありません。ええ、数名
の人物が候補に上がっているのですが特定には至っておりません。
はいそうです。彼らに引き渡すのですか?それはやり過ぎではない
かと﹂
少佐が受話器を耳に当てたままこちらをちらりと見る。
﹁分かりました﹂
そう言うと電話を切った。嫌な予感がする。
﹁上の人間はしびれを切らしている。なんといっても暗殺者に繋が
る手がかりが何も掴めていないんだからな。この国では拷問が禁止
されている。だからこうしてちまちまと尋問しているわけだ。だが
上の人間は君を拷問してでも情報を聞き出したいようだな。携帯電
話の持ち主の事を正直に話せ。すぐに別の部隊が君を引き取りにや
26
ってくる。奴らに情けや容赦はない。早く自白しないと痛い目にあ
うぞ﹂
僕は言葉を発しなかった。何も話せる事がなかった。佐奈の事を話
そうかと思ったが、惚れたかもしれないなんて野暮な話は恥ずかし
すぎてできるわけが無い。
少佐は何度も電話の持ち主を聞いた。とりあえずできる範囲で話を
したが彼を納得させる事はできなかった。
しばらくするとドアをノックする音が聞こえた。
ドアが開き白衣の女が姿を表した。女は手にもつトレイを目の前の
机に置いた。トレイの中にはガーゼと液体の入った瓶が入っている。
女は手袋をして瓶を開け中の液体をガーゼに含ませ僕に近づいてく
る。
拷問される?僕は恐怖した。少佐が言った。
﹁正直に話す最後のチャンスだぞ﹂
脱脂綿を持つ女の手が近づく。悪い予感しかしない。本能が逃げる
ように僕に告げた。僕は叫んだ。
﹁知らない!本当に何も知らないんだ!助けてくれ!﹂
僕は暴れた。力の限り叫んだ。
﹁残念ながら時間切れだ。君のような善良な市民を地獄に送り込む
のは俺でも心が痛む。たぶん君は何も知らないんだろう。だとして
も命令に従うのが俺の仕事だ。許してくれ﹂
脱脂綿を持つ女の手が僕の鼻と口を塞いだ。脱脂綿からは強烈な悪
臭が漂っていた。吸う息も吐く息も悪臭で満たされて頭がくらくら
する。目の前が白くなり平衡感覚が無くなり意識を失った。
27
第六話 頭に被せられるビニール袋
僕は意識を取り戻した。
話し声が聞こえる。頭がくらりとして周囲の景色が歪む。
僕は車椅子に拘束されたままだ。ここは地下室なのだろうか。打ち
っぱなしのコンクリートが周囲を覆っていて窓が一つもないがドア
はいくつかある。
僕の隣には最恐館でグループとなった男のいつき、その彼女の雫、
そして僕が恋心を抱いている佐奈が同じように車椅子に拘束されて
いる。四つ車椅子は弧を描くように並べられている。
周囲には複数人の柄の悪そうな男女がいた。前方にはスーツ姿の男
とアウトロー系の服を着た東南アジア系の男が話をしていてその前
には札束が積まれている。
﹁依頼金だ。この四人は防衛大臣殺害犯の名前を知っていると思わ
れる。我々は可能なかぎり早く犯人繋がる情報がほしい﹂
﹁お前たちはいつも自分の手を汚さないな。汚れ役はいつも俺たち
か﹂
﹁君たちを信用しているからこうして依頼しているまでだ。そうで
なければこうしてここまで来ない﹂
﹁それでいつものようにやっていいんだな?﹂
﹁ああ、頼むよ。いい仕事を期待している﹂
男たちは握手を交わした。スーツ姿の男は部屋から去っていく。
部屋に残ったもう一人の男はこちらを向いてしばらく僕たちを観察
した後に喋り始めた。
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﹁お前たち意識ははっきりしたか?俺はここのボス、パルだ。そこ
に居るのが俺の女のマクル。いい女だろ﹂
後ろから一人の女が現れた。モデルのように整ったプロポーション
で綺麗な顔に青い瞳。脱色したストレートの銀髪が腰まで伸びてい
る。唇と耳には複数のピアスがついている。ボスのパルはマクルを
抱き寄せながら話す。
﹁周りに居るのは俺の部下だ﹂
パルがアゴを付き出して周りを見るように促す。
﹁ここでは俺の命令に絶対服従してもらう。マクルの命令にもな。
それ以外の事は自由に楽しんでくれ﹂
部下の何人かが吹き出すように笑う。マクルは僕たちの方を見て薄
ら笑いを浮かべる。パルは続ける。
﹁俺はお前たちの事を何も知らないし知る必要もない。俺の仕事は
お前たちから大臣を殺した奴の事を聞き出すことだ﹂
パルは片手でマクルの腰を抱きながら別の手を札束の山に置く。そ
して僕たちの方を向いて喋る。
﹁犯人が誰なのか俺に教えてくれる優しい人はいないか?﹂
誰も何も答えない。四人とも無表情だ。
僕たちはこれが最恐館の演出だと心の片隅で思っていて余裕があっ
た。お化け屋敷好きの雫は徐々に楽しそうな表情へと変わっていく。
﹁だろうな。お前たちは殺人鬼の味方をするクズってことだ。お前
たちは悪人で俺たちは正義だ﹂
パルは正義を部下に言い聞かせた。
﹁マクル、今日も始めようか﹂
パルはそう言うとマクルと官能的なキスをした。
29
マクルはパルの元を離れると透明のビニール袋、ガムテープよりも
強力なダクトテープ、ハサミを持って戻ってきた。
﹁何が始まるか分かるか?﹂
パルはそう言うといつきの頭にビニール袋を被せた。そしてマクル
が首元に隙間ができないようにダクトテープを巻き付けた。二人は
その横に座る雫、さらにその右の佐奈、そして僕にも同様に袋を被
せて首元をテープで巻いた。
﹁クズにはゴミ袋がお似合いだな。犯人の名前を初めに言った奴だ
け袋を取ってやるよ﹂
パルは言った。
袋の内側が息で白く曇ってきた。徐々に袋に酸素が少なくなってく
る。体が酸素を求めてより多くの空気を吸うため徐々に袋の膨張と
縮小が大きくなっていく。
﹁もう無理だ。苦しい﹂
いつきが声をあげると雫が言う。
﹁まだ大丈夫よ。すぐに袋が取られるわ。頑張って﹂
﹁雫、悪いがこれ系の恐怖は無理だ。俺は先にここから出るよ。ギ
ブアップだ!﹂
いつきがパルに向かってギブアップを伝える。パルは答えた。
﹁もう音を上げるのか?つまらない男だな。おまえたち知り合いか
?﹂
いつきが答える。
﹁こいつは俺の女だ。俺は先に帰る。こいつの事はよろしく頼むよ﹂
パルはふーんと言ったが動こうとしない。いつきが切れた。
﹁おいギブアップ!リタイアだって言ってるだろう!﹂
﹁何を分けが分からない事を言ってんだ?犯人の名前を言えば帰し
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てやるよ﹂
パルが冷たく言い放つ。僕達四人の顔が強張る。
いつきが叫ぶ。
﹁そんなもん知るわけないだろう!苦しい!早く袋を取れ!﹂
雫が切羽詰まったようにパルに頼む。
﹁私も苦しい。袋を取って下さい﹂
パルは二人の願いを無視した。いつきと雫は手足をばたつかせて拘
束を解こうとしたが外れない。
﹁私ももう無理。リアタイアします!助けてください!﹂
僕の隣に座る佐奈がパルに向かって叫んだ。僕も苦しさにバルに嘆
願した。佐奈と僕も手足の拘束を解こうともがいたがびくともしな
い。
﹁はるとさん助けて﹂
佐奈が僕の方をみて悲壮感漂う表情で頼んだ。だが僕にはどうしよ
うもできない。
﹁契約違反だ!早く開放しろ!﹂
僕は力の限り叫んだ。叫びは誰にも聞き入れられずに虚しく響き酸
素を減らしただけだった。
空気を吸うと袋が顔に張り付いて呼吸を拒む。酸素はもう残って無
かった。四人の阿鼻叫喚の悲鳴が響く。死の恐怖が襲い、体が生き
ようともがく。
パルがマクルに合図した。マクルはいつきから順に袋の上端を切り
取り袋を首元に引き下げる。冷たい空気が流れこみ、肺に酸素が取
り込まれる。真っ白になっていた頭に思考力が回復する。僕たちは
肩で呼吸して生きている事を噛みしめた。
雫と佐奈は泣き始めた。いつきは怒りはじめる。僕はリタイアでき
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ない事に絶望した。安全だと思っていた恐怖の館が安全で無くなっ
ている。
いつきと雫は恐怖と絶望を紛らわすかのように、なんでこんな状況
になったのか、これからどうなるのかを、責め合い、叫び合い、励
まし合っていた。
取り残された僕と佐奈は恐怖をかき消してくれる心の支えを求めて
いた。自然と僕らは見つめ合い、昔から知っていたかのように絶望
を分かち合った。
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第七話 鼻タバコの煙で満たされるビニール袋
﹁お前たち落ち着けよ﹂
パルはそう言うとポケットからタバコの箱を取り出し僕の方へ近づ
いてくる。座る僕を見下しながらタバコを一本取り出しフィルター
側を僕の顔へ差し出した。
﹁咥えろ﹂
言われるがままに咥える。
僕は普段タバコは吸わない。幼い頃に興味本位で吸ってみたが煙た
いだけで何がよいのかさっぱり分からなかった。
パルはライターを取り出しタバコに火をつけた。タバコの先から煙
が昇る。
﹁思いっきり吸い込め﹂
僕は肺に煙を取り込む。口の中に嫌な味が広がり喉が異物を感知し
てゲホゲホとむせる。タバコは口から飛び出してパルの足元に転が
った。
﹁危ねーじゃねーかよ﹂
バルは怒鳴るとタバコを拾い上げ隣の佐奈の前へ向かう。
﹁咥えろ﹂
パルはタバコを佐奈の口に差し出す。佐奈は下にうつ向いて首を横
に振る。パルはしばらくの間タバコを差し出していたが佐奈が咥え
ないのが分かるとその隣に座る雫に同じようにタバコを差し出した。
雫も佐奈も同じようにうつむきながら首を横に振った。
﹁なんだお前も吸わないのか。なら兄ちゃん残りは吸っていいぜ﹂
パルはいつきにタバコを差し出す。
﹁要らねーよ﹂
いつきはそう言うと見下すパルを見上げて睨む。
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﹁そうか﹂
パルは自分の口にタバコを咥えていつきから離れた。タバコを何度
か吹かすと言った。
﹁ここでは俺の命令は絶対だって事を忘れてるようだな。俺が吸え
と言ったら吸うんだ!クソを喰えと言ったら食うんだ!死ねと言っ
たら死ぬんだ!分かったか。拒否したらどうなるか教えてやるよ。
吸わなかった三人には罰を与える﹂
パルはマクルに接着剤と冷湿布を持って来させた。パルは湿布を手
に取った。
二人は佐奈の前後に立つ。佐奈は何が始まるか分からない恐怖で顔
が青い。後ろに立つマクルが先ほど首元に下ろしたビニール袋を引
き上げて頭を覆う。パルは佐奈の鼻から口の位置に袋の外から湿布
を貼ると袋を首元まで引き下ろした。雫といつきの袋にも同じよう
にして湿布を貼っていく。
次にパルは接着剤の瓶の蓋を開け、マクルはダクトテープを手に取
り、佐奈の前後に立つ。マクルは佐奈の首に腕を巻き付けて佐奈の
頭が動かないように固定した。パルはポケットからタバコを一本取
り出しフィルター側を接着剤の瓶につけ、ドロリとした接着剤のつ
いたタバコを佐奈の鼻に差し込み火をつけた。マクルはそれを見届
けると首に巻き付けた腕を解き、ビニール袋を首元から引き上げ、
頭頂の開いた部分をダクトテープで塞ぐ。
タバコの煙が閉ざされた袋の中を満たしていく。佐奈は咳込んだ。
﹁許して!命令には従います!煙は苦手なの、許して下さい!﹂
佐奈が叫ぶ。
﹁おい、動くなよ。顔に火が当たって火傷するぞ。あとな、ビニー
ルは燃えるから気をつけろよ。お前の顔面を焼いて髪の毛を燃やす
からな﹂
パルは隣に座る雫の方に歩みよりながら事務的に答えた。
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苦しむ佐奈と自分の元へ近づいてくる二人を見て雫の顔は恐怖で固
まっている。パルはタバコを取り出し接着剤の瓶に漬ける。雫が叫
ぶ。
﹁タバコはダメなの。お願い。やめて!﹂
パルは雫の鼻にタバコを差し込む。
﹁やめて!私妊娠してるの。本当よ。妊婦はここに来てはいけない
って知ってたわ。でもどうしてもここに来たかったの。こんな事に
なると思ってもみなかったの!﹂
彼氏のいつきが驚きの声をあげる。
﹁俺の子?まじかよ?なんで言わねーんだよ!﹂
﹁ごめんなさい。先週分かったの。言うとここに来るのを止められ
ると思った﹂
﹁当たり前じゃねーか!なぁパル、雫は開放してやってくれないか。
最恐館の演出でリタイアできないのはよく分かった。でもこれは例
外だろ?﹂
いつきがパルに頼み終わらないうちに、パルは雫のタバコに火を点
した。
﹁この人でなし!赤ちゃんが死んだらどうするの!﹂
雫がパルを睨みつける。パルは袋を閉じるようにマクルに合図を送
った。マクルは雫の耳元で囁く。
﹁パルを悪く言うんじゃないよ。お前が悪いんだろ﹂
そう言うとマクルは雫の頭を小突くとビニール袋を引き上げて封を
した。雫が泣き叫ぶ。
いつきは向かってくるパルに言う。
﹁雫だけは助けてやってくれなか。俺がタバコを二本吸うからさ。
なぁお願いだよ﹂
パルはいつきの片方の鼻の穴に接着剤をつけたタバコを差し込み火
をつける。
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﹁そうか。二本吸いたいか﹂
パルはそう言うともう一本タバコを取り出していつきの鼻に挿して
火をつけた。マクルがいつきに袋を被せる。
パルは一仕事終えたように四人の前に置かれた札束の前で、タバコ
をふかし始めた。
﹁ゲホゲホ⋮おい、パル!雫は助ける約束だろ!﹂
いつきがむせながら叫ぶ。
﹁約束?何気取ってんだ?お前は俺に命令する立場にねーんだよ。
立場をわきまえろや﹂
パルは平穏に答えた。
三人の袋の中の煙が濃度を増していく。酸素が減り続ける。ゲホゲ
ホと咳をしては深く呼吸をしてまた咳をする。目は煙で涙が溢れ出
す。涙腺が緩むとタバコを挿していない鼻の穴から鼻水がダラリと
垂れる。タバコは接着剤で固まり鼻からは抜けない。三人は叫び声
を発しながら暴れるが、車椅子の拘束具が動きを阻む。タバコの火
はビニール袋に触れるが外側に冷湿布を貼っているため温度が上が
らずに燃えない。
一人だけ無事だった僕は酷い拷問を受ける彼らをただ見ているしか
なかった。隣に座る佐奈は徐々に白くなる袋の中で叫び悶えている。
枷を取ろうと拳を握りしめ細い腕が折れんばかりにばたつかせる。
佐奈を助けたい一方、助けを求められるのを恐れた。僕にできる事
は何も無い。苦しみ狂う充血した目で救いの言葉を叫ばれたらトラ
ウマになるだろう。
袋の中は煙で真っ白になった。マクルはタイミングを見計らい、三
人の袋に貼られた湿布を剥がしていく。息を吸い込んだ時に顔に張
り付かんばかりにしぼむ袋にタバコの火が接触し袋から炎があがっ
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た。三人とも袋から炎が上がったのが見えたに違いない。袋に穴が
徐々に広がり新鮮な空気が流れ込む一方、目の前で燃え上がる炎。
獣のような悲鳴がこだまする。
パルは部屋の隅からホースを引っ張ってきて前方から三人に水を浴
びせた。三人とも顔に火傷する事もなく髪の毛も焦がさなかった。
袋の中は吐息に含まれる水分と汗で湿気を帯びているため火は燃え
移らない。燃えてぽっかりと空いたビニールの間からは死んだよう
な顔で咳をする三人の姿があった。
﹁大丈夫かお前たち。そう簡単には死なせないから安心しろよ。こ
れから地獄のような拷問をとくと味あわせてやる。さぁ犯人の名前
を言う気になった奴はいるか?﹂
パルは僕たちに向かって尋ねるが知るわけない。誰も答えなかった。
﹁強情な奴らだなぁ。マクル、俺は飯に行く。こいつらの面倒見て
てもらっていいか?﹂
パルが言うとマクルは分かったと答えた。パルは札束の山を部下に
分け与えた。そして半分程の部下を連れて外に消えて行った。
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第八話 足に剥き出しの電気コードを巻きつけてレイプ強要
パルが居なくなるとマクルは三人の頭からビニール袋を取った。そ
して三人にバスタオルを被せながら、私もパルには逆らえないんだ、
すまないね、苦しかっただろう、大丈夫かい、赤ちゃんはきっと大
丈夫だよ、向こうの部屋で休もう、と優しい言葉をかけた。
マクルが佐奈の車椅子を押し、部下の男が僕の車椅子を押し始める。
まずは僕たち二人を隣の部屋に運んだ。マクルは佐奈を気遣い優し
い言葉をかけ続ける。
﹁ごめんな。逃がす事はできないんだ。拘束を解くからしばらく横
になって休みな﹂
佐奈はバスタオルを頭から垂らして泣き崩れた。僕を部屋に運んだ
男が佐奈の拘束を解き、マクルが佐奈の頭を撫でながら抱きしめる。
男は佐奈をお姫様抱っこして車椅子から持ち上げ隣の椅子の上に下
ろした。
僕はその様子を血の気の引く思いで見ていた。薄汚い部屋の中央に
はM字開脚椅子が置かれていて、男は佐奈をその上に下ろしたのだ。
佐奈はマクルの腕の中で安心して泣いていてその事に全く気づいて
いない。男は椅子の拘束具で素早く佐奈を拘束して行く。ゆるく拘
束具を締めたので佐奈は気づかない。男は佐奈が逃げられない程度
に拘束し終わると、順に拘束具をきつく締め始めた。その時になっ
て佐奈は異変に気がついた。
﹁どういうこと?なんでこんな事を⋮﹂
佐奈はマクルを見上げて震えた声で聞いた。
﹁ははは。気づいた?まさかあんた、ここに心休まる場所があると
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思ったのかい?そんなものここには無いんだよ!拷問だよ、拷問。
パルが居ない間、私があんたたちを拷問するのさ﹂
いつきと雫も車椅子を押されて部屋に入ってきた。安心した表情だ
った二人の顔がM字開脚椅子に拘束された佐奈を見て顔を強張らせ
る。
部下の男は延長コードに使われる電源コードを部屋の棚から取って
来るとプラグと反対側を一メートルほど二つに割き、被覆を剥いで
中の銅線を三十センチほど剥き出しにした。剥かれた二股の銅線を
僕の両足首にそれぞれ巻き付ける。別の男たちが僕の両腕の拘束具
を解いて後手に手錠をはめる。僕は抵抗したが複数人の男に両腕を
押さえつけられては逆らう事はできなかった。別の男が僕の着てい
るワンピースのようなつなぎ服の前方を下からヘソの辺りまで切り、
その下に履いているパンツを切って剥ぎとった。ペニスが露出する
と両足の拘束具が外され、男たちに両腕を抱え上げられるようにし
て立ち上がった。
目の前の椅子に拘束されている佐奈も同じようにつなぎ服をヘソの
付近まで切られて、その下に履くショーツを切り取られていた。た
ぶん自前の下着なのだろう。最恐館から提供された下着とは違って、
かわいらしいショーツだった。佐奈も同じように性器を露出させら
れた。丸見えとなった秘部と綺麗に整った薄い陰毛が見える。椅子
に付くハンドルをマクルが回すと両足が広がっていく。
﹁いや、やめて。恥ずかしい﹂
佐奈が叫ぶ。マクルは百二十度ほど両足を開くとハンドルから手を
離した。そして、僕の目の前に歩み寄り僕の目を見つめる。そして
佐奈を指差しながら冷たく言い放った。
﹁あの女をレイプしろ﹂
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僕はマクルの目をみて立ち尽くした。レイプ?何言ってるんだ、そ
う目で訴えかけた。佐奈は凍りついたような顔でこちらを見ている。
僕を後ろで掴んでいる男たちが佐奈の股間の前まで僕を押し出して
後ろに下がった。
僕と佐奈は互いに視線を合せ、そしてマクルを見た。マクルは僕を
見て叫んだ。
﹁聞こえなかったのかよ!レイプだよレイプ!早くやれよ!チンコ
をおっ立ててマンコに突っ込むんだよ!﹂
﹁何言ってるんだ。できるわけないじゃないか!﹂
僕は叫んだ。マクルは僕の両足に巻きつけられた電源コードのプラ
グを床から拾い上げると、壁にある電源コンセントに刺した。
﹁ギャーーー!!﹂
僕は唸り声を発した。両足に電流が流れ激痛が走る。立っていられ
なくなり床に倒れ込んだ。マクルはプラグを抜いて言った。
﹁レイプしろよ。するまで電流を流すからな﹂
そう言うと再びプラグをコンセントに刺した。僕は再び叫び、苦痛
で体を震わた。僕は逃げるように叫んだ。
﹁分かった。レイプしますからやめてください!﹂
情けない声が僕の口から吐き出されると電流が止った。心臓が高な
っていて全身から汗が吹き出している。もう電流は懲り懲りだ。僕
は立ち上がり佐奈の前に立った。僕は電流で虚ろとなった目を佐奈
に向ける。佐奈は嘆願した。
﹁はるとさん、嘘だよね。お願い、乱暴はやめて﹂
佐奈の辛そうな顔から涙が流れる。僕の目からも涙が流れ出た。僕
は泣きながら言った。
﹁佐奈さんごめんよ。こうするしかないんだ﹂
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僕は佐奈に謝った。
﹁ほら、はやくチンコを勃てろよ。また電気を喰らいたいのかい﹂
マクルが追い立てる。だが勃たない。マクルが後ろに立ち僕の尻を
蹴り上げる。
﹁はやくしろって言ってんだろ﹂
マクルは佐奈の頭上まで歩いて行くと顔を近づけて言った。
﹁あんたみたいな可愛い子を見てもあいつは勃たないんだってよ。
ショックだよな﹂
フフッと笑うと手に持っていたハサミで佐奈の服をヘソの位置から
首元まで切り、服を左右に開いて胸を露出させた。佐奈の形のよい
乳房が見え、細い腹に腹筋が浮いて見える。
マクルは佐奈の体に指を這わせながら僕に近づいて言う。
﹁よく見ろよ。いい体してるじゃないか。犯したくなるだろ﹂
いくら体に電流を流されてもレイプを楽しめるような性格に変わる
わけではなく興奮しない。不安と恐怖に苛まれてペニスは勃起しな
い。
マクルが部下の男に薬を持って来るように頼んだ。男は注射器と液
体の入った瓶を持ってくると注射器に液を満たし、僕の体に突き刺
した。
僕に周囲を見渡すほど冷静な余裕は無い。注射針を刺されて初めて
注射されている事に気づいた。注射針を抜くために体を動かそうと
すると周囲の男が阻止した。注射はすぐに終わった。
﹁心配するな。勃起薬だよ。すぐに効いてくる。リラックスしなよ﹂
マクルはそう言うと、ヘソの位置まで切り開いていた僕の服を首元
まで切り開いた。マクルは僕の正面から腰に手を回し体を密着させ
る。そして僕の顔を見上げて言う。
﹁あんたみたいな男、嫌いじゃないよ﹂
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マクルは囁くようにそう言うと片手で僕のペニスを愛撫し始めた。
ペニスに快感が走る。マクルから漂う香水の香りが本能を揺さぶる。
ペニスは徐々に膨張を始めた。マクルは僕の背後に回り体を密着さ
せてペニスをしごく。勃起薬が効いてきたせいか痛いほどにペニス
が反り上がった。
マクルは僕の背中を押し体を佐奈に近づける。反り返ったペニスを
押し下げ、佐奈の秘部の入り口に亀頭を導く。
﹁一気に奥まで突き刺すんだ。そしてイクまで猿のように腰を振れ
よ﹂
背後でマクルが囁く。
怯える佐奈も覚悟を決めたようだった。どう足掻いても状況は変え
る事ができない。
﹁はるとさん。痛くしないで。私初めてなの﹂
佐奈は僕の目を痛いほど見つめた。
﹁バージンか。ははっ。それは丁度いい。レイプだからな!手加減
すんじゃないよ!電気を食らいたくなかったら言う通りにしろ!﹂
マクルはそういうと佐奈に当てたペニスの根本をしごき、快楽を誘
発させ、腰をグイと押した。僕は佐奈から目をそらしペニスを佐奈
に突き刺した。膣は乾いていてペニスの侵入を阻むが、亀頭をめり
込ませる。温かく柔らか肉の感覚が気持ちいい。
﹁ひいいい!痛い!やめて!くっ、やめろって言ってんだろ!﹂
佐奈は悲鳴を発したかと思うとどすを効かせた声で叫んだ。僕はハ
ッと我に返り、悲鳴に怯えてペニスを抜いた。亀頭に佐奈から出血
した血がまとわりついている。
マクルはため息をつき僕に電流を流した。
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﹁誰がチンコを抜いていいって言ったんだよ!ほら早く続けろよ﹂
マクルはコンセントにプラグを抜き差しする。僕はその場で悶えて
冷静な考えは失い獣となった。
﹁やる。やります。レイプしますから許してください!!!﹂
僕は叫んだ。マクルは電流を流すのを止めたが、コンセントの前で
プラグを振り、早くレイプを始めないと電流を流すという素振りを
見せる。僕は薬でいきり立ったペニスを佐奈の膣にあてがい、勢い
良く根本まで突き刺した。佐奈が叫び声を上げる。助けを求める声
がする。聞こえていた。だが脳は佐奈の声をノイズに変えて僕に伝
えない。僕は電気の苦しみから逃れたい一心で腰を振った。性器に
伝わる快感が恐怖を和らげる。恐怖が和らぐと佐奈の声が聞こえる。
助けを求める悲鳴が僕の心を揺さぶる。自分の心を押し潰すようさ
らに激しく腰を振り、快感で自分を誤魔化した。
佐奈の膣がペニスをやさしく包み込み快楽を誘発する。愛液が分泌
されはじめペニスの出し入れと共にクチュクチュと音が鳴る。佐奈
があまり苦しまなくなり、僕の快感は増す。
そんな様子を見ていたマクルは後手に拘束した僕の手錠を外して言
った。
﹁この子、感じてんじゃないか?両手を使え﹂
佐奈は頭を左右に振って感じていない事を主張し痛いと訴える。僕
はもっと快楽に酔いたかった。両手を手を佐奈の乳房にあて愛撫す
る。乳首に触れると佐奈の体がピクリと反応する。
﹁あんた優しいんだね。でもね、これはレイプなんだ。手を使う場
所が違うよ﹂
マクルはそう言うと乳房を握りしめる僕の手を優しく掴むと、佐奈
の細い首に巻き付けた。そして僕の手の上から佐奈の首を締めた。
佐奈が体をばたつかせる。膣に力が入り、ペニスへの快感が増す。
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﹁快楽なんて与えるんじゃないよ。電気を流されたくなかったら、
この女を苦しめろよ!﹂
マクルは手を離した。佐奈が咳き込み深い呼吸をする。それに合せ
て膣を締め付ける力が弱まっていく。早く射精して気持ちよくなり
たい。僕の頭は快楽の事で一杯だった。佐奈の首を自分の意志で締
めた。膣に再び力が入る。佐奈が体をばたつかせるとペニスに新た
な刺激が加わる。僕は徐々に手に力を加えていく。﹁グゲーー﹂と
いう人とは思えない声が佐奈の口から漏れる。目は左右別々に動き
始め体が痙攣を始める。僕は射精間際でそんな佐奈の事など微塵も
気にとめない。僕は佐奈の体が壊れるほど強くペニスを奥まで突き
刺して射精した。
どくどくと溢れだす精子に反比例するように冷静さを取り戻してい
く。脱力して白目を剥く佐奈がただの肉の塊のように映る。僕は精
子を出し切るとペニスを抜いた。佐奈の秘部から血の混じった精子
が流れ出て垂れ落ちる。M字開脚椅子の上にある物体は腐った生ご
みのように思えた。
徐々に頭が正常に動き始める。すると汚らわしく思えた佐奈の体が、
無残に見え、不安を掻き立て、自分のやってしまった事の罪悪感が
僕を蝕み始めた。
回りを見渡す。汚れたものを見るような目で僕を見つめるいつきと
雫がいて、その周囲にはニヤついた男たちが立っていた。
マクルは失神している佐奈の肩をゆすりながら僕に言った。
﹁レイプしたのはあんただからね。しかし酷い男だよ。ここまです
る必要は無かったんじゃない?﹂
レイプしろと言ったのはお前だろうという気持ちが湧き上がるもの
の、グッタリとした佐奈を見ると気持ちはかき消され、マクルの言
葉がぐさりと刺さる。
44
しばらくすると佐奈が意識を取り戻した。自分の陰部を恐る恐る見
て、その側に立つ僕を上から下まで眺めると、顔を背けて泣いた。
その様が僕の罪悪感を更に掻き立てた。
45
第九話 金蹴りと顔面騎乗でのくすぐり
マクルが佐奈の拘束を解くと部下の男が佐奈を抱えてM字開脚椅子
から降ろした。佐奈は力なく床にへたり込んで泣いた。
﹁可哀想に。酷い男だよな。罪の意識があるんだったら、大人しく
ここに座りな。お前が少しでも痛い目にあえば彼女の心も紛れる﹂
マクルは言葉巧みにそう言うとM字開脚椅子を叩いた。この部屋の
中で僕の味方は一人も居ない。ただマクルだけが僕に手を差し伸べ
てくれているように思えた。僕はこの場の居づらさを紛らわせるか
のように、マクルの導くままM字開脚椅子に腰掛けた。マクルと男
が椅子の拘束具を締めて僕の体を固定した。
周囲の男が嫌がる佐奈を無理やり立たせて後手に手錠をはめた。そ
して僕の両足首に止めていた剥き出しの電気コードを取ると、暴れ
る佐奈の足首に巻き付けた。
﹁嫌だ。家に帰して!﹂
佐奈は叫んで暴れるが、男に羽交い締めにされていて逃げる事など
できない。
マクルは佐奈の目の前に立って言った。
﹁次はお前の番だ。お前を無理やり犯したこの男が憎いだろ?こい
つは苦しむお前を見て快楽に酔いしれてたんだ。こんな奴のチンコ
は潰してしまえよ。さぁこの男の股間を蹴り上げろ﹂
佐奈は暴れるのをやめて震えた。僕は罪悪感で満たされた心を和ら
げるように佐奈に叫んだ。
﹁佐奈、僕の事はいいから蹴るんだ。電気を流されたら嫌でも蹴る
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事になる。苦しむ君を見たくないんだ。いいから蹴ってくれ!﹂
僕はこの時初めて佐奈を呼び捨てた。マクルは笑って僕の目の前に
立って佐奈に言った。
﹁こうやって蹴るんだよ!﹂
マクルは剥き出しの僕の股間を力いっぱい蹴りあげた。
﹁ギャーーー!!﹂
僕の口から悲鳴が自然と悲鳴があふれる。この世のものとは思えな
い苦痛が全身を駆け巡り汗が吹き出す。体は痛みを交わすかのよう
に自然とくの字に折り曲がろうとするが拘束具がそれを阻む。
﹁痛い!玉が潰れる。無理だ!蹴らないでくれ!﹂
思考は停止し、本能が口を動かす。大きく見開かれた僕の目と佐奈
の恐怖する目が交差する。
佐奈を羽交い締めにしていた男は腕を解き、僕の方へ佐奈を押し出
す。佐奈はよろけるように歩き床にへたり込む。
﹁誰が座っていいって言ったんだよ。立てよ﹂
マクルはそう言うと佐奈の太ももの裏を蹴る。
﹁痛い!止めて下さい。うううう﹂
佐奈が床で崩れる。マクルはため息をつくと佐奈の足に繋がれた電
気コードのプラグを持って壁に歩きコンセントに差し込んだ。両足
に電流が流れる。
﹁ギャーー!!痛い!﹂
悲鳴を上げて床でのたうち回る。マクルがプラグを抜き差しする度
に佐奈が苦しみならが床を転がる。
﹁許して、許して下さい!何でもやります!﹂
佐奈が許しを求めるもマクルは電流を流し続ける。
﹁立てって言ってんだろう!聞こえねーのかよ!﹂
佐奈は立とうとするが、電流が流れるたびに床に倒れこむ。佐奈は
後手に拘束された手で片足の電源コードを引きちぎった。そして中
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腰に座りし、ゆっくりと立ち上がる。うなだれた頭を力なく持ち上
げ僕とは視線を合わせずに口を開いた。
﹁はるとさん。ごめんなさい﹂
そう言うと右足の甲で僕の股間を蹴り上げた。僕は痛かったが耐え
た。
﹁全然苦しんでないじゃないか。もっと強くるんだ﹂
マクルが佐奈に言う。佐奈は素足で更に強く股間を蹴る。僕は痛み
に耐えて歯を食いしばり全身に力を込める。佐奈は更に強く蹴る。
﹁ギィィィ。佐奈、痛い、止めてくれ!﹂
僕は悲鳴をあげる。佐奈は汚いものを見るような目で僕を見る。そ
して目をそらして蹴る。蹴る。蹴る。僕は痛みに全身を震わせて叫
ぶ。汗が溢れ出る。
﹁そんなんじゃ、玉が潰れないだろ。もっと強くけれよ!﹂
マクルの怒声が飛ぶ。佐奈の足の甲は赤く腫れたが蹴り続ける。僕
は何度も何度も佐奈に助けを乞うた。佐奈が怖い。佐奈の体がフラ
リと揺れただけで蹴られると思い叫び声が上がる。
佐奈は蹴り続けた。
僕は気を失った。
﹁いつまで寝てんだよ﹂
頭から水をぶっかけられて僕は目を覚ました。床に仰向けに膝を立
てて寝かされていた。手が動かない。見ると右手首と右足首が手錠
で繋がれている。左も同じように手足が繋がれていた。意識が朦朧
とする。
﹁言った通りに座るんだ﹂
どこからかマクルの声が聞こえる。頭上を見上げると佐奈が頭の上
に立っていた。佐奈が徐々に腰を下ろし、中腰になる。それでもな
お座り続け、佐奈の局部が僕の顔面に迫った。
僕は異様な光景に意識を急速に回復させて叫んだ。
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﹁佐奈、何するんだ﹂
佐奈がロボットのように抑揚の無いかすれた声で言う。
﹁子どもができたらどうする⋮んだ。私の中に出した精子を吸い取
ってくだ⋮吸い取れ﹂
マクルが頭上の視界にニヤけた顔で現れたので、言わされているの
がよく分かった。佐奈は迷う事もなくわ大陰唇を僕の口に押し当て、
頭の上に座った。栗と洗剤が混じったような臭いがする。
﹁鼻が塞がってないぞ。こんな簡単な事もできないのか!﹂
マクルが佐奈の髪を掴みあげ叫ぶ。
﹁すいません。ごめんなさい。ごめんなさい﹂
佐奈が震えた声を出し、尻を動かし割れ目を締める。そうすると僕
は鼻と口は塞がれて呼吸ができない。息を吐き出す事はできるが吸
うことができない。頭を左右に振って隙間を作り何とか呼吸するが、
十分に空気を吸う間も無く佐奈が隙間を塞ぐ。僕は空気を求めて佐
奈の秘部を吸うが空気は入って来ず、何か分からない体液が口の中
に流れこむ。
﹁私の言っていた事を聞いてたのか?早く手を動かせよ!そんなに
電流がほしいのか﹂
マクルが怒鳴ると、佐奈は僕の脇をくすぐり始めた。まさかくすぐ
られるとは思いもしなかった。何をされるんだろうと肝を冷やして
いただけに、不意をつかれ、余計にくすぐったい。手足をばたつか
せて笑い叫ぶが口は佐奈の股間に押さえ付けられていて声にならず、
放屁をするような音を立てて空気が漏れていく。苦しいと叫ぶ空気
は既に肺に無い。
苦しみで暴れ狂う体を佐奈の手がくすぐり、さらに体が暴れる。脇
腹、腰、腹、胸と羽を肌になでつけるかのように小さな手が軽く這
い、埃を拭うように乾いた指先が無尽に動く。
佐奈は感情の無い機械となって被さりくすぐり続ける。僕は佐奈が
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少しは労ってくれるものだと心のどこかで思っていた。それは幻だ
った。すがるものを完全に失った心は酷く暴走して僕を絶望で苛ま
せる。
マクルが佐奈に言った。
﹁おまえの汚いマンコを掃除してくれてるんだ。喘ぎ声の一つでも
出せよ﹂
佐奈の悲痛な声が響く。
﹁えっ無理です。どうしたらいいんですか。ああ、止めて下さい。
やります、やりますから電気は流さないで下さい。
はぁ⋮はぁ⋮うっあっああ﹂
周囲の男たちが笑う。男たちは色っぽさが無い、声が小さいと罵声
を浴びせる。
僕はそんな佐奈にこれっぽちも興味を向ける余裕がない。力を入れ
続けたため体のあちこちが悲鳴を上げて、筋肉はつり、暴れる体を
徐々に止める。酸欠で体は痙攣を始め、その現実を受け入れさせな
いかのように意識が遠のく。
こうして僕は再び意識を失った。
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第十話 タバスコを飲ませた口でイラマチオ
﹁⋮はるとさん、はるとさん⋮﹂
僕は遠く聞こえる佐奈の声で意識を取り戻した。僕と佐奈は元の車
椅子に手足を拘束されて座っていた。僕の左に佐奈がいる。僕らの
車椅子は密着するほど近くに停められていた。意識を取り戻した時、
佐奈の肩に寄りかかっていた。僕は体を起こす。
﹁私が分かる?ああよかった。意識が戻って本当によかった。戻ら
なかったら私どうしようかと⋮﹂
佐奈はホッとしたような顔を僕に向ける。僕はうつろな意識の中で
佐奈に謝らなければと思考して口を動かした。声になったか分から
なかった。
﹁⋮佐奈⋮さん、ごめんよ、本当にごめん﹂
﹁いいの、私こそごめんなさい。やりたく無かった。でもあの電流
の痛みには耐えられなかった。あぁ思い出したくない﹂
佐奈が僕を責めなかった事に安堵した。こうして話ができる相手が
いる。それだけで十分だ。体に力を入れると佐奈に蹴られた股間が
痛む。顔をしかめたくなる。だが見つめる佐奈を前にしては痛みを
顔に出せなかった。佐奈の服は前が上から下まで切られているため
にはだけていて陰部が見える。その周辺の肌は乾いた血が付いてい
て、服を所々赤く染めている。僕が痛みで苦しめば佐奈も自分の苦
しみを訴たえるかもしれない事が怖かった。僕は佐奈をレイプした
という罪の意識をできるだけ感じたく無かった。
目の前には男たちが車椅子に拘束されたいつきと雫を囲んでいる。
男が雫の足首に剥き出しの電気コードを巻きつける。マクルは二人
の服の全部を下から上に切り開き、パンツを切り、引きちぎるよう
にして床に捨てる。そして言った。
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﹁次はお前たちの番だ。あの二人を見ただろう。どんなに抵抗した
って逃げられないんだ。無駄に苦しみたく無かったら言う通りにす
るんだな﹂
いつきと雫は血の気の引いた顔で震えている。
マクルは部下の男に指示をした。男は雫を車椅子の拘束から解くと
立たせて後手に手錠を嵌めた。マクルは言った。
﹁彼氏のチンコをしゃぶれ。勃起させるんだ﹂
雫の後ろに立つ男が、雫をいつきの座る車椅子の前に押し出して押
さえつけるようにしゃがませる。雫の前にはいつきのペニスがあっ
た。
マクルが言った。
﹁一分以内にチンコを立たせろ。できなければ電流を流す。一分ご
とに立たせられるまでな﹂
カップルの二人にとっては無理な条件ではない。そう考えたいつき
は雫を見下ろして言った。
﹁とりあえず従おう。フェラしてくれ雫﹂
雫も同じ事を考えていたのだろう。軽く頷くといつきのペニスを口
に含んだ。雫は舌で、口の粘膜で、ペニスを愛撫する。いつきも股
間に意識を集中する。徐々にペニスが膨らみ始める。
﹁彼女が頑張ってるんだから、彼氏クン、君も頑張れるよね。これ
を一気飲みしてくれる?﹂
マクルがいつきにそう言いながらタバスコの瓶を振る。いつきは瓶
をしばらく見つめて
﹁飲んでやるよ!﹂
と強がるように言葉を発した。マクルはニヤリと笑うとタバスコの
蓋を取る。そしていつきの口にタバスコを流しこんだ。トクトクと
音をたてて赤い液体をいつきの口に流れ込む。辛子が舌を強烈に刺
激する。顔が赤くなったかと思うと滝のように汗が吹き出し、体が
拒否反応を示す。咳をしてタバスコを吹き出した。マクルはタバス
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コを流し込むのをやめて叫んだ。
﹁誰が吐き出していいって言ったんだよ!一気に飲めって言っただ
ろう!罰を与える。誰か女を床に仰向けに寝かせろ﹂
回りにいた男の一人がフェラに励む雫の髪の毛を掴んでいつきから
引き剥がし後ろに引き倒した。雫は床に倒れいる。別の男が雫の腹
の上に馬乗りに座る。
﹁ギャー!﹂
雫が叫ぶ。何が起こるか分からない恐怖が雫を支配する。マクルは
雫の頭上にしゃがみ込んで
﹁あんたは頑張ってるんだが彼氏がやる気ないみたいなんだ。悪い
けど責任取ってもらうからな﹂
と言い、手に持っていたタバスコの瓶を雫の口に押し込み、残って
いたタバスコを雫の口に流し込んだ。タバスコが舌を喉を刺激して
痛みが走った。雫は目を見開き、頭を振り、体を悶えさせて抵抗す
る。体には取り込まないように口からはタバスコが吹き出す。それ
でもマクルはやめない。瓶が空になるまで雫の口の中にタバスコを
流しこんだ。
雫はのたうちまわりながらむせた。男は雫の髪の毛を掴んで床から
起こし、いつきのペニスの前に頭を戻す。雫は泣きながら、水を下
さいと誰かに言った。いつきのペニスは再び縮まっていた。マクル
が雫に冷たく言った。
﹁一分経ったけどチンコが立ってないじゃよなぁ?罰を与える!﹂
マクルは雫の足に巻きつけてある電気コードのプラグをコンセント
突き刺した。
﹁ギャーーー!!!止めて!助けて!!!﹂
雫は悲鳴を発して床に転がる。マクルは何度か雫に通電した。罰が
終わるとマクルは言った。
﹁ほら、寝てないでとっととチンコを立たせろよ﹂
周囲の男が雫の体を起こしていつきの陰部に頭を押し付ける。雫は
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電流の痛みの恐怖ですぐにいつきのペニスを咥えてフェラを始めた。
タバスコで赤く染まった口がいつきのペニスを包む。尿道の粘膜に
タバスコが触れると強烈な痛みでいつきが悲鳴を発した。
﹁雫、痛い!やめてくれ!﹂
雫はそれを聞くとペニスから口を離した。それを見てマクルは言う。
﹁おい、分かってるだろうな!あと五十秒で勃起させる事ができな
ければ電流を流すぞ﹂
雫はマクルを怯えた目で見ると、すぐにいつきのペニスを口に含ん
でフェラを再開した。いつきは雫にやめるように言ったが雫は聞か
なかった。
マクルはいつきの所に近づいて言った。
﹁彼氏クン。早くチンコを立たせろよ。彼女が可愛そうだろ。さぁ
約束通りタバスコを一気飲みしてもらおうか﹂
マクルの手には新しいタバスコの瓶があった。いつきは叫ぶ。
﹁おまえ達は狂ってる!こんな酷い目にあわせて何の得があるって
いうんだ。俺たちは金を払ってここに来てやってるんだぞ!﹂
﹁知らねーよ、そんなこと。開放してほしけりゃパルに犯人の名前
を言ってどうにかしてもらえよ。アタシはそんな事に興味が無いか
らさ。お前達のようなクズが苦しむ様が見れるだけで心が和むんだ
よ﹂
マクルはタバスコの瓶をいつきの喉奥に押し込んだ。いつきが目を
見開き雄叫びをあげて暴れる。むせて吐き出されたタバスコが周囲
に飛び散る。僅かに開く口から助けを求める声が出る。
﹁さっきまでの威勢はどうしたんだよ。アタシと対等に話していた
プライドはどこにいったんだ?あぁ!?﹂
マクルはタバスコが瓶から無くなるといつきの口から引き抜く。い
つきはゲホゲホとむせて血走った目を周囲に向ける。
﹁水を、水をくれ!喉が痛い!!﹂
﹁あんた、口の利き方ってものを知らないんだね﹂
マクルはそう言うと近くの男が持っていたスタンガンを持つといつ
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きの首に押し当てた。
﹁ギャーーーー!!!﹂
カチッという電源の入る音と共にいつきが悲鳴を上げ、体を反らせ
てばたつかせる。
﹁立場をわきまえろよ!水をください、願いします、だろ﹂
いつきが噛み殺すように口を開く。
﹁水をください。お願い⋮します﹂
マクルはニヤリとして言った。
﹁水がほしいのか?なら水をやるよ﹂
そして足元に置いてあったペットボトルの水をいつきに飲ませた。
そして言った。
﹁はやくチンコを勃たせろよ。彼女を苦しめたくないだろ﹂
懸命にフェラをする雫の後ろにマクルは立つと、頭を押し付けた。
﹁喉奥までしっかりと咥えろよ。そんなフェラじゃここでは生き残
れないよ﹂
マクルは雫の背後に回ると髪の毛を掴んで頭を前後に振った。徐々
に膨らむペニスが喉奥に突き刺さる。その度にえずき胃液がこみ上
げる。体をそらしてペニスを吐き出そうとするがマクルは頭を押さ
えつけて阻止する。行き場を失った胃液は口の隙間から、そして鼻
から吹き出す。それでもマクルは止めない。雫の長い髪を止めてあ
った髪ゴムを解き、髪を鷲掴みにして力の限りピストン運動させた。
彼氏のペニスを噛むわけにはいかない雫は水面に浮かぶ鯉のように
口をパクパクさせながらペニスの隙間からハァハァと呼吸すると体
を震わせてタバスコ色に染まる体液を吐き出し涙を流した。
タバスコを含んだ口でフェラされたいつきはしばらくの間悶ていた
が、雫の体液でタバスコが薄まったか、それとも、痛みの感覚が麻
痺したのか分からないが体をバタつかせなくなった。普段は体験で
きない連続的で奥まで吸い込むフェラに快感を感じ出していた。
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マクルは雫の髪を後ろに引っ張り、口からペニスを引き抜いた。む
せる雫。
﹁ほら、これを咥えろ。おら、休んでないで、はやくしろよ﹂
マクルはそう言うと雫の口に金属でできた管の端を咥えさせた。管
はストローほどの太さで二十センチほどの長さだ。
﹁彼氏のチンコに突き刺せ。はやくしろ。勃起してる今じゃねーと
刺さんねーぞ﹂
雫は管のを吐き出した。うつ向き、はぁはぁと肩で息をして動こう
としない。
﹁はやく!こんな簡単な事もできないのかよ﹂
マクルは管を拾い上げると雫の口に咥えさせ、背後に立つ。手を顎
の下に回して下顎引き上げた。頭を押し出し、管の先をいつきのペ
ニスに近づけた。雫が嫌だと言わんばかりに頭を左右に振る。
﹁動くなバカ。電流喰らいたいのかよ﹂
マクルは右膝で雫の後頭部を小突いた。雫はううっと声を出すと自
らの意志で動くのをやめた。マクルは指先で雫の顎を引き上げたま
ま両手で顔の左右を押さえ、管の先端をいつきのペニスの先に開く
尿道口に狙いを定める。管を慎重に尿道口に当てると雫の頭を押し
て勢い良く押し込んだ。
﹁ぎゃああああああーーー!﹂
いつきが尿道を通る管の痛みに悲鳴をあげる。そして一呼吸すると
叫んだ。
﹁痛い!もうやめてくれ。金ならいくらでも払う。お願いだ。すぐ
に用意できなければ将来必ず払う。だから、もうやめてくれ!!!﹂
叫んで助けを求めるいつきを無視してマクルは言った。
﹁よく頑張ったね。可愛い顔が台無しだ﹂
放心する雫の頭を撫でると、タオルで顔を拭いてやり、はだけた髪
の毛を元のように留めた。かがみ込み、後手に拘束してある手錠を
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外す。両足首に巻きつけてある電気コードを解く。
﹁あの椅子に座るんだ﹂
M字開脚椅子を指差すと、雫にしか聞こえないように耳元で神妙に
囁いた。
﹁ここはアンタが思っているよりも危ない所だ。けど私もこれが仕
事だ。アンタには辛い目にあってもらわなきゃいけない。ただ、お
腹の子どもを失いたくないだろう。皆に分からないように手加減し
てやるやるから、大人しく私の言うことに従え﹂
雫は何も言葉を発する事もなく目の焦点をM字開脚椅子に合わせた。
マクルは雫の背後で不敵な笑みを浮かべた。
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第十一話 尿で子宮内洗浄して妊娠中絶
﹁グズグズせずに立てよ!﹂
マクルは雫の頭を叩く。そして部下の一人に命じた。
﹁この女を椅子に拘束しろ﹂
雫は背後から抱きかかえられるように立たされると、そのまま引き
ずられるようにM字開脚椅子まで連れて行かれた。自らの意志でゆ
っくりと椅子に腰掛ける。抵抗はしない。男たちが雫の手足と体が
動かないように椅子に固定していく。椅子から伸びる拘束具が雫を
囚えていく。
マクルは車椅子に拘束されているいつきに近づき、すでに収縮した
ペニスの前にかがんだ。ペニスに刺さる金属の管の先端に、持って
来たゴムチューブの一端をはめた。ゴムチューブはT字状になって
いてる。マクルはいつきの尿が漏れ出ないようにゴムチューブを洗
濯バサミのような形のクリップで止めた。そして、先ほど雫から取
り外した剥き出しの電気コードをいつきの両足に巻き付けた。
マクルは立ち上がり、いつきの目を見た。M字開脚椅子に拘束され
ている雫を指差す。
﹁彼女にチンコをしゃぶってもらって気持ちよかっただろ?次はお
前の番だ。気持よくしてやれよ﹂
マクルはいつきの座る車椅子の背後に回りグリップを握り椅子を押
した。いつきの口と雫の陰部は同じ高さだった。マクルはいつきの
口が雫の陰部に接触するまで押し当てた。いつきが仰け反るとさら
に車椅子を押し出す。
﹁いつもやってんだろ?好きなんだろ?早くなめろよ。おまえに拒
否する権利は無いんだ﹂
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マクルはいつきの頭を押し出す。
いつきは、頭を動かし、口を離した。
﹁やめてくれ。こんな事して誰が得するんだ!やめてくれよ﹂いつ
きが泣きそうに叫ぶ。
﹁命令を無視したな。罰を与える﹂
マクルはボソリと呟くといつきの元を離れるといつきの足に巻かれ
た剥き出しの電気コードの先についたプラグをコンセントに挿した。
﹁ぎゃーーーーー!!!﹂
いつきが悲鳴を出して全身を震わせる。拘束している車椅子が倒れ
んばかりに車輪が浮き上がっては落下する。
マクルはコンセントからプラグを抜いた。
﹁やるのか、やらないのかどっちだ?あぁ?﹂
マクルはいつきに叫ぶと、再度、コンセントにプラグを差し込んだ。
﹁うぎぎゃーーーー!!!やる、やります、やめてくれーーーー!
!﹂
いつきがすぐに悲鳴と共に言葉を発した。
マクルはプラグを抜くと、いつきの元に戻った。いつきが暴れて動
いてしまった車椅子を元の場所に戻し、いつきの口を雫の陰部に押
し当てた。いつきは涙しながら舌を出して雫の陰部をなめた。
M字開脚椅子に固定されている雫は、いつきの舌が陰部を舐めるの
をしばらく我慢していたが、体に力を入れると、顔を曇らせて、声
を出す。
﹁痛い、痛いよ。いつき、しみる!﹂
いつきはタバスコを飲まされていた。タバスコの残骸が残る舌が雫
の敏感な部分を刺激する。いつきは雫の声を聞いたが、か細い声が
聞こえなかったかのように舌を動かし続ける。
﹁いつき、痛いよ!やめて!いつき!!!!﹂雫は声を張り上げた。
いつきは止めなかった。まだ痺れの残る電気の痛みと、恐怖が、い
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つきの行動を支配した。
しばらくすると雫の陰部は愛液と唾液で濡れた。必死に舐め続ける
いつきにマクルが声をかけた。
﹁もういいぞ。次はこれを咥えてマンコに差し込むんだ﹂
いつきがマクルの差し出す手を見ると、缶コーヒーほどの太さの金
属の筒があった。
マクルはいつきの口に筒を咥えさせると、ほらやれよ、と言わんば
かりに顎を突き出した。
いつきは恐る恐る筒の端を雫の膣口に押し当てるが、筒が太くて中
に入る気がしない。ためらっていると、マクルが背後に立った。そ
して頭を力いっぱい押し出した。
筒の端が陰部にめり込もうとする。
﹁ギャーーー!!痛い!!!!﹂雫が悲鳴を発する。
それでもマクルはいつきの頭を押しつける。雫の膣に入らない筒は
いつきの喉奥に向かってめり込みはじめる。
﹁グゲーーーー!!﹂いつきが口に加える筒に喉奥を刺激されて嘔
吐した。
﹁そうそう、そうやってゲロで筒の滑りをよくするんだ。そうじゃ
なきゃ、彼女のマンコは擦れて血が吹き出す事になるからな﹂いつ
きの背後からマクルが声を放つ。
マクルがいつきの頭を前後させる度に、体液が筒の表面を濡らして
いく。
﹁そろそろ入るんじゃないか。筒の端をしっかり噛んでおけよ﹂マ
クルがいつきに叫ぶ。
もはや雫の事など考える暇もなく、今の状況から開放されたいいつ
きはマクルの指示に従う。マクルが頭を押すと目の前の筒の先が雫
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の膣口を押し広げていく。
﹁ウギャーーーーーーー!!!痛い、痛いよ!!!無理!裂ける!
!!やめてーーー!!﹂雫が絶叫する。
膣口が切れて血が流れる。それでも筒を押し込む。雫が悲鳴を発し
て体をばたつかせる。それでも止めない。筒は徐々に膣にめり込む。
雫の苦しみを無視するかのように筒が膣内を押し広げていく。そし
て、これ以上進まないところまで筒は進んだ。
﹁もういいぞ。口を離せ﹂
マクルはいつきに言った。雫の陰部から顔を離したいつきの顔には、
雫の膣口から出血した血がベトリとまとわりついていた。
開放されたいつきはホッとしたのだろう。尿意がこみ上げてくるの
を感じた。
﹁便所に行かせてくれないか。ションベンが出そうだ﹂
いつきは傍に立つマクルに言った。
﹁我慢しろ。もう一仕事したらスッキリさせてやる﹂
マクルは細いストローのような鉄の管を持ってくると、いつきの口
に咥えさせた。そして言った。
﹁彼女のマンコが奥までよく見えるだろ?突き当りにある穴にこの
管を突き刺せ。そこまでできたらトイレさせてやるよ﹂
それを聞いていた雫が叫んだ。
﹁やめて!そこは子宮口よ!中には赤ちゃんがいるの。何もしない
で!﹂
管を咥えているいつきの顔色が青くなっていく。咥えているこの管
を子宮に差し込まなければならない状況、決して逃げる事ができな
い状況、急速にもよおしてくる尿意。背中を押すようにマクルが口
を開く。
﹁ほら、早くやれよ。電気を流されたいのか?﹂
マクルはいつきの背後に回ると頭を押し始める。管の先端がぱっく
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りと開かれた膣の中を進んでいく。そして、奥の肉に突き当たった。
﹁いたっ。嫌だ、やめて!!!!子宮にそんなもの差し込んだら赤
ちゃんが死んでしまうわ!ねぇ、さっき赤ちゃんは助けてくれるっ
て言ったじゃない?ねぇ!聞いてるの?﹂
マクルは雫の叫びを無視して、いつきの頭を引いたり押したりして、
管の先を子宮口に定めようと励んだ。
﹁いつき、やめて!私たちの赤ちゃんよ!あなたの赤ちゃんなのよ
!!いつき!ああああああーーー!!!﹂
管の先が子宮口を捉えた。先端が少し食い込む。
﹁痛い!ぎゃーーーーーーー!!﹂
雫が悲鳴をあげる。手足がもげるほどの力で暴れる。だが拘束具は
外れない。
怯むいつきをマクルは逃さない。頭を強く押さえつけて管を奥に差
し込ませる。何センチか子宮口を進んだところでいつきの頭を開放
した。
ぱっくりと開いた膣口の中央に突き刺さる鉄の管が、雫が呼吸する
度に上下に揺れる。
マクルがようやく口を開いた。
﹁よく頑張ったな。便器もできたし、用をたさせてやるよ﹂いつき
に言った。
﹁まさか﹂いつきが恐怖の声をあげる。
マクルはいつきのペニスの先に繋がったゴムチューブの一端を雫の
子宮口に突き刺さった管と繋いだ。バケツを持って来ると、T字型
のゴムチューブの中央から垂れ下がる管の下に置くと、その管をク
リップで閉じた。
T字のゴムチューブの両端が、いつきのペニスと雫の子宮口を繋い
だ。その中央から伸びるチューブがバケツへと伸びた。
マクルは、いつきのペニスの元でチューブを閉じていたクリップを
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外した。そして冷たく言い放った。
﹁さぁ、好きなだけオシッコを出しな。お前の汚い精子が進んだ道
だ。綺麗にしてやれよ﹂
いつきは尿意を我慢する。顔から汗が吹き出してくる。
雫はやめてくれと泣き叫ぶ。
﹁我慢してないで出せよ。さっき飲ませてやった水は利尿剤が入っ
てる。どんどんオシッコが出てくるぞ。我慢しきれない。もし膀胱
が破裂しても病院には行けないからな。そうなったら苦しいぞ。悶
え苦しむ事になる。決まりの刻までな﹂マクルがいつきに言った。
﹁うがあーーーーーーーーーーーーーー!!!﹂いつきは上を向い
て叫んだ。もう尿意を我慢できそうになかった。
﹁お前さっき言ったよな。金を出すから助けてくれって。いったい
いくら出せる?一億か二億か?いくらなんだ?﹂
マクルはそう言うといつきの頭をゆする。
﹁ひー、そんな金︰無理だ。百万でどうだ?分かった三百万。お願
いだ﹂
﹁話にならないわ。交渉決裂だ﹂
いつきは限界だった。気を緩めた瞬間に暖かな尿がペニスを通るの
を感じた。尿は止まらない。勢いよくチューブを伝い、雫の子宮の
中に流れ込んだ。雫は子宮の中に何か異物が入ってくるのを感じた。
それがいつきの尿だという事は言われるまでもなく理解できた。
﹁いつき、あんた、最低﹂雫が諦めたようにボソリと呟く。雫の目
から涙が止まること無く溢れだした。
子宮は狭く、すぐに尿で満たされた。マクルはチューブ内を眺める
尿の動きが止ったのを見ると、いつき側のチューブをクリップで閉
じた。そして、中央に置かれたバケツの元に垂れるチューブのクリ
63
ップを外した。尿が子宮内からバケツに流れ出してくる。尿が出て
しまうと、元のようにバケツの上のクリップを閉じ、いつきの元の
クリップを外した。尿が再び子宮内に流れ込む。
先ほど飲んだタバスコが尿に混じって出てきた。尿道をタバスコが
刺激し、痛みでいつきが悲鳴をあげる。そして、その尿が雫の子宮
に流れ込むと粘膜でできた子宮をタバスコの痛みが襲う。
いつきと、雫は、痛みで叫び声をあげた。男と女が獣のように叫ん
だ。
何度も、何度も、子宮内が尿で洗浄された。いつきが尿を出し渋る
と、下腹部を殴り、全ての尿を出させた。
いつきが全ての尿を出しきると、マクルは二人に刺していた管を抜
き、雫の膣を広げていた筒を取り除いた。パックリと開いた雫の膣
が徐々に閉じていく。
マクルは、尿の溜まったバケツの中を覗き込んでいた。そして、ど
こかに消えると手にピンセットを持って戻ってきた。バケツの中で
ピンセットを動かして何かを掴むと目の前に近づけて眺めた。そし
てニヤリと笑った。
マクルはM字開脚椅子に拘束される雫の頭にゆっくりと近づいた。
そして言った。
﹁やぁ、ママ。出産おめでとう!ほら見てごらん。赤ちゃんだよ!﹂
手に持つピンセットの先を雫の目に近づけた。そこには、二ミリほ
どの透明な球体が挟まれていた。受精卵だ。
﹁イヤーーーー!!!!﹂雫が絶望の悲鳴を上げた。
﹁うわっ。驚いたなぁ。そんな声出すから手に力が入っちゃった。
あぁ、ごめんね。潰れちゃったよ﹂
マクルは驚いたような声を出して、ピンセットの先を再度雫に近づ
64
けて言った。
﹁あなたの赤ちゃん潰れたよ﹂
雫は潰れた受精卵を見ると目を大きく見開いたかと思うと意識を失
った。
マクルはピンセットを投げ捨てた。ピンセットが金属音を鳴らせて
床に転がる。
﹁全部、アンタが悪いんだ﹂
マクルは少し悲しそうな表情で呟いた。手を雫の顔に伸ばし、頬を
優しくさする。雫は目覚めなかった。しばらく雫を眺めていたが諦
めたように部屋の外で出て行った。
車椅子に拘束されている僕と佐奈は、重ねあった手を握り合い、い
つきと雫が拷問される様を見ていた。佐奈が怯えている事が分かっ
た。車椅子に拘束されている僕たちは逃げる事もできず、ただ成り
行きを見守るしか無かった。下手に口を挟もうものなら、その残忍
な苦しみが僕たちへ向けられる事を恐れた。
二人の拷問が終わり、マクルが部屋を去った。グッタリとしたいつ
きと雫を男たちが車椅子に座らせて、元のように両手、両足を車椅
子の拘束具で固定した。二人は僕たちとは離れた場所にいた。しば
らくすると雫は意識を取り戻し、声を殺して泣いた。いつきと雫は
すぐ隣に居たが会話は無かった。
僕と佐奈は悲痛な表情で見つめ合った。言葉を交わさなかった。こ
の受け入れがたい現実がまだ続くであろう事に怯え、傷を舐め合う
ように視線を合わせた。
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第十二話 虫樽に頭だけを出して閉じ込められる男女
どれくらいか時間が経って、僕たち四人は初めにいた広い部屋に戻
された。
部屋の中央にはさっきは無かった大きなテーブルが置かれていて、
外から買ってきた料理が並んでいる。その周りで立つ二十人ほどの
男が楽しそうに話をしており、その中にボスのパルと、僕たちを酷
い目に合わせたマクルの姿があった。
パルの部下が車椅子に拘束された僕たちを運ぶ。古い車椅子のタイ
ヤがキイキイと音をたてて、歓談する男たちの後ろから部屋の正面
へ向かう。
僕たちが来た事に気づいた男たちは話をやめてこちらを見るが、恐
ろしくて視線を合せられない。僕は縮こまり進みゆく床を眺めて何
事も起こらない事を願った。
たる
男たちが視界に入らなくなったので、前方に視線を向けると、樽が
二つ縦に置かれている。車椅子はそこまで進むと止った。長い間ワ
インが入っていたと思われる木製の樽はくすんだ茶色をして、上部
の平らな板が取り除かれていて何もない内側が見える。
﹁お前たち元気ないじゃないか﹂
後ろから男の声がした。振り向くとボスのパルがにこやかな表情で
すぐ後ろに立っていた。
﹁腹が減って元気無いんだろ?分かるよ、俺も腹ペコなんだ。お前
たちが来るのを飯を喰わずに待ってたんだよ。客人よりも先に手を
66
付ける訳にもいかないからな﹂
そう言うと机に並んだ料理を指差し、
﹁お前たちの席はここだよ﹂
と、指をそのまま樽に向けた。そして、僕たちから顔を背けると、
近くに立つ男に﹁やれっ﹂と命じた。
男が手にダクトテープを持って近づいた。僕の前に立つと、手首か
ら先にダクトテープを巻きつける。車椅子に拘束されている手首の
辺りから順にテープを巻き、拳を閉じるように言うと、躊躇う僕の
手を無理やり閉じ、テープを幾重にも巻き付けた。こうして両手は
少しも開かなくなった。
僕の両手の自由を奪った男は隣の佐奈の両手を同じようにテープで
巻いていく。
僕たちは為されるがまま声も立てず抵抗しない。というのも、パル
の部下の男たちが興味津々に僕たちを取り囲んでいて、恐怖で声が
出ないという方が正しい。
別の男が手足を車椅子に繋ぐ拘束具を外して言った。
﹁樽の中に入って座れ﹂
僕は無理やり立たされ、樽に向けて押し出された。僕はよろけなが
ら口を広げる樽の縁に手をつき中を覗く。何も入っていないが酒臭
い。もたついていると早く入れと周囲の男が罵声を浴びせてくるの
で、追い立てられるように腰の高さほどある樽を跨いで中に入った。
﹁尻を底につけて座るんだ。そう、体操座りみたいに膝を立てろ。
そうだ﹂
僕は言われるがままに狭い樽の中に座った。
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佐奈の隣に立っていた男は僕が樽の中に座ったのを見ると佐奈に言
った。
﹁お前は、あの男と同じ樽に入れ。ほら、もたもたするな﹂
車椅子の拘束具を外された佐奈は怯えながら立ち上がる。男は佐奈
の腕を乱暴に掴むと急かすように僕のいる樽の前に引き連れてくる。
男は僕に言った。
﹁おい、お前、膝を開いて、この女が入れるように隙間を作れ﹂
僕は円形状の樽の縁に膝がつくほど股を開いた。陰部が丸見えで恥
ずかしかったが抵抗する気にはならない。
佐奈は背を押されながらも、樽を跨いで中に入り、僕が作った隙間
に立った。
﹁座るんだ。尻を底につけて座れ。早くしろ﹂
男は佐奈を急かしたが、佐奈は狭い樽の中でどうやって座るか悩ん
でいた。
﹁マンコとチンコをくっつけて抱き合うように座るんだ﹂
男が言うと佐奈は理解したようだった。怯えながら尻を底につける
と足を開き、僕の背後に足を巻き付けた。
﹁もっと近づけ﹂男は言った。
僕たちは向き合って抱きしめ合いながら陰部を接触させた。佐奈の
暖かな体温がペニスに伝わる。僕たちは恥ずかしくて互いに視線を
外した。
別の男が僕たちの服を脱がせた。前が切り裂かれたツナギの服は両
腕を抜くと簡単に脱ぐことができた。裸にされた僕は周囲の男たち
から浴びせられる下半身への視線を避けるように、佐奈に肩に腕を
巻きつけて抱きよせた。佐奈は抵抗しせず同じように僕の肩に手を
巻き付けた。佐奈のすすり泣く声が耳元で聞こえる。僕たちは言葉
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を交すでもなく、視線を合わすでもなく、ただ抱き合った。温かみ
のある柔らかな肌を抱きしめると不安な気持ちが紛れた。
それも束の間だった。とこからか近づいてきた男が僕の片腕を掴む
と佐奈から引き離す。そして、手首にΩ型の金属を嵌めると、樽の
内側に押し付け、電動ドライバーで端を留めていく。金属に空けら
れた四つの穴を木ネジで留め終わると、肘にも同じ金属を嵌めて樽
と固定した。
僕の両腕を固定し終わると佐奈も同じように腕を固定されていく。
佐奈は電動ドライバーの音に怯えて、辛そうな視線を僕に向けて救
いを求めた。僕はただ佐奈の視線を受け止める事しかできない。
僕たちの腕が固定し終わり、男が去ると、隣の樽から電動ドライバ
ーの音が聞こえてくる。その音を聞いて、いつきと雫も同じように
樽に居れられているんだと、この時になってようやく理解した。
﹁ボス、準備できました﹂
部下の男が離れた所で笑談しているパルに声をかける。
パルが近づいてくる。嫌な予感しかしない。パルは僕たちを見ると
部下にいい感じだなと褒めた。そして、笑談する部下たちに向かっ
て叫んだ。
﹁お前たち、聞いてくれ﹂
ざわざわしていた室内がシンと静まり返る。
﹁可愛い顔した女が二人もここにいる。皆、さぞかし期待してるだ
ろう﹂
パルは雫の顔を掴むと男たちの方へ向けた。
﹁残念だがこいつらは人間じゃない。ただのモノ、そう、便器だ。
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分かっちゃいると思うが、変な情を抱くんじゃねーぞ。物として扱
え。かわいい顔してるからって手加減した奴は俺が許さねぇ。分か
ったか!﹂
パルの言葉に歓声が湧く。佐奈と雫の顔が強張る。既に人間扱いな
どされていない。それでも大勢の男を前に手加減しないと言われる
と恐怖した。
﹁よーし。分かった奴はこいつらにションベンしろ。ただの便器だ。
遠慮するな﹂パルが言った。
僕と佐奈は驚いて互いを見つめ合った。
男たちが僕らを囲う。ファスナーを下げ、ペニスを出し、放尿する。
樽の中に座る僕たちの頭の位置に、男たちの腰が近づく。僕たちは
頭の上から尿を浴びせられた。異臭が立ち込める。目に滲みる。呼
吸した時に尿が口に入り嫌な味が口に広がる。樽の中には尿が薄く
たまり、樽の回りには飛び散った尿が散乱する。いったい何人に尿
を浴びせられたか分からない。
目の前にいる佐奈は、頭から水を被せられたかのように髪を濡らし、
全身を濡らせていた。ボブの髪が水分を含み、小さな頭の輪郭に張
り付いた。眉間に皺を寄せて荒い呼吸をしている。
男たちが用を足し終わると、パルは悪臭漂う僕たちから離れ、部下
達に叫んだ。
﹁それじゃパーティーを始めよう。宴を楽しんでくれ!﹂
男たちは湧き上がる。ある者は酒を飲み、ある者は飯を食い始めた。
マクルと数人の男たちが僕らの元へやってきた。手にはいびつな形
の木の板を持っている。それは樽の蓋だった。樽から頭を出して蓋
を閉められるように、首がはまる部分が切り抜かれている。男たち
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は僕と佐奈の首を板で挟んでは外し、サイズが小さい首の穴を工具
で広げ、ピッタリサイズにした。蓋となる木の大きさが定まると、
一旦、木を外した。
マクルは透明な液体の入った瓶を持って樽の前までやってると、瓶
を傾けドロリとした液体を樽の中に垂らした。液体は僕と佐奈の陰
部を濡らしていく。それが終わると男たちが先ほどの樽の蓋を締め
た。木ネジで端を留めていく。
僕と佐奈は向き合った状態で、樽から頭だけを出す格好となった。
隣の樽のいつきと雫も同様だ。
パルが荷台を押して僕たちの元へやってきた。
荷台には大きな虫カゴが多数積み重ねてあり、中には虫が蠢いてい
た。ミミズ、バッタ、芋虫、ゴキブリ、蜘蛛、ウジ虫。それ以外に
も名前の分からない虫が多数入っている。
﹁お前たちのために虫を買ってきてやったんだ。喜べよ。便所は虫
が好きだろ?﹂パルが陽気に言う。
部下の男が僕のいる樽の上部にある丸い蓋を開いて漏斗を挿した。
僕と佐奈は何をされるか分かった。虫を僕たちの体の入る樽に入れ
ようとしていたのだ。マクルが近づいてきて楽しそうに言った。
﹁さっき垂らしたこの液体、蜂蜜なの。虫は蜂蜜が大好きよ。すぐ
にあなた達の性器に群がってくるわ。痛いわよ。喰われて血だらけ
になるんじゃない?嫌だったらマンコにチンコを突っ込んで虫に喰
われないようにすれば?﹂
そう言うと声を出して笑った。
男が虫の入った虫カゴを持って近づいてくる。
﹁いやっ!虫は嫌い!やめて下さい、お願いします。何だってしま
71
すから!﹂蠢く虫を間近で見て、佐奈が男に嘆願する。
だが、男はニヤリと笑い虫カゴの蓋をとる。
僕と佐奈は視線を合せた。性器を虫に喰われるなんてまっぴらごめ
んだ。恥ずかしいとか嫌だとか言っている場合ではない。堪忍して
互いの性器を擦りあわせた。垂らされた蜂蜜がぬるりと滑り快感を
もたらす。僕は勃起したペニスをすぐに佐奈のマンコに押し込んだ。
佐奈は痛がって腰を引いたが、佐奈の腰に巻き付いている両足で逃
げるのを阻止した。
虫カゴを持つ男は、腰を振る僕たちを楽しそうに観察すると、虫を
樽の中に注ぎ始めた。
虫がボトボトと樽の中に落ちてくる。足に落ち、腹に落ち、這いま
わる。僕も佐奈も悲鳴を出して体を悶える。恐怖で、ペニスが縮ん
でくるが、抜く訳にはいかない。必死で腰を振り勃起を維持する。
男は何箱分もの虫を樽に注ぐと、蓋を締めた。
樽の中で虫が暴れた。ある虫は爪を肌に挿し、ある虫はかじりつい
た。体のあちこちがくすぐられながら、針を刺されているような感
じがする。佐奈は泣き叫んだ。いつきと雫の悲鳴が聞こえる。たぶ
ん、同じ状況なのだろう。
陰部の回りを虫が這いまわる。何匹の虫が、どのように性器の周り
でうろついているか分からない。性器の周囲で気配を感じる度に、
喰われる恐怖に駆られて、ペニスが抜けないように腰を振って虫を
追い払う。動きをやめるとすぐに虫がやってくる。
腰を振り続けた。徐々にペニスに快楽がこみ上げてくる。
﹁佐奈、腰を動かさないで。中でイッてしまう!﹂
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僕はたまりかねて目の前で苦しむ佐奈に言った。佐奈は泣きながら
言った。
﹁⋮ぅぅ⋮いってもいい。だけど、抜かないで。虫に中を喰われた
くない!﹂
佐奈は恐怖で腰を振りつづけた。
﹁いくっ﹂
僕は目を閉じて射精した。佐奈の膣の奥深くに精子を放った。
それを見ていたマクルが近づいてきて嬉しそうに言った。
﹁中でいったの?あなたバカね。虫は蜂蜜には近づかないの。でも、
精液の匂いは好きなのよ。ペニスを抜いたら、この子の中になだれ
込んで来るんじゃない?﹂
マクルを見る佐奈の顔から血の気が引いていく。
﹁騙したな!﹂僕は叫んだ。
﹁自分の快楽のために、その子をレイプして傷つけたのに、次は虫
の餌食にするの?これだからクズは。ああ、既に人じゃ無かったわ。
便器同士、せいぜい頑張りな﹂
たた
マクルは冷たくそう言うと、隣の樽で射精しそうないつきの元へ笑
顔で向かった。
僕は恐怖する佐奈に言った。
﹁佐奈、聞いて。いつまでも勃起させていられない。立っていなく
ても動かなければ外れない。だから動かないで﹂
佐奈はうんと頷いた。そして、暴れて泣き叫ぶのをピタリとやめて
固まった。
虫は相変わらず僕たちの体を気持ち悪く這ったが、僕たちが動かな
ければ虫はあまり動かなかった。
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第十三話 虫食い競争 ︱スタンガン、虫
僕と佐奈は虫の放たれた樽から頭だけを出して、見えぬ虫の気持ち
悪さと恐怖で苦しんでいた。
ボスのパルは僕たちに近づくと言った。
﹁お前たちにも飯を喰わせてやる。その前に体重測定だ。十分に飯
を喰わせずに死なれても困るからな﹂
部屋の片隅に置かれていた体重計を部下の男が押してくる。その体
重計は保健室に置かれているような大きさで、丸い時計のような盤
が伸びた首の先についている。
隣の樽で僕たちと同じように虫に苦しむ、いつきと雫の元へ体重計
は運ばれた。ションベンで悪臭を放つ樽に触れまいと、厚手のゴム
手袋をした三人の男が樽を持ち上げて体重計に乗せる。そして、針
の指し示す値を紙にメモると、樽を体重計からおろし、僕たちの入
る樽も同じように重さを測った。
パルは飲み食いする二十人ほどいる部下に叫んだ。
﹁虫食い競争を始める。お前らどっちの樽の奴らが多く虫を食える
か賭けろ。掛け金の多い四人に自分の賭けた樽の奴らに虫を食わせ
る権利を与える。我こそはと思う奴は張り切って金を出せ﹂
向こうから大量の虫の入ったカゴの積まれた荷台が押されてくる。
僕たちの樽の前には机が置かれ、荷台から降ろされた虫の蠢くカゴ
が置かれた。その隣には、スタンガンが四つ置かれ、分厚いゴム手
袋が八人分準備された。
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僕たちの食事はこれ!?僕と佐奈は顔を見合わせると、これから起
こる惨事を想像して恐怖した。虫カゴの中には、今、樽の中で蠢い
ているものと同じような虫たちで、ミミズ、バッタ、芋虫、ゴキブ
リ、蜘蛛、ウジ虫⋮、こんなの食べられるわけがない。
男たちは盛り上がって金を出し、それをパルが受け取り、金額と名
前を紙に書いていく。全員がかけ終わると、パルに名を呼ばれた男
たちが嬉しそうに僕達の前に歩み寄る。選ばれた男たちは、まるで
ヒーローのようで、同じ樽に金を賭けた男に﹁頼んだぞ﹂と肩をた
かかれ握手を交わした。
僕たちのいる二つの樽の前に、四人ずつ八人の男が立った。そして、
机に置かれた魚屋がつけているような厚手のゴム手袋をはめた。
樽から頭だけだして向かい合う僕たちの間に金属製のタライが置か
れた。ピカピカしていて鏡のようだ。
パルは振り返ると僕たちに言った。
飯
﹁ルールを説明する。樽の中のお前たちには飯を食う権利を与える。
両手が使えなくたって問題ない。俺の部下が虫を食わせてやる。俺
からのもてなしだ、たらふく食え。ただ誠意ってやつをみせてほし
い。隣の樽の奴らよりも多く食って俺に敬意を示してほしい。分か
ってるよな。後で体重を測る。食ってない方の樽の奴らには罰を与
える。言っておくが、イジメたいわけじゃない。どうしようもない
クズのお前達が少しでも長く生きられるように体調を気遣ってやっ
てるだ。感謝しろ﹂
そして代表となった八人の部下に言った。
﹁準備できたか?こいつらにはまだ聞きたい事がある。壊すなよ。
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便器を壊すような奴は俺の部下には居ないと思うが一応な。お前た
ちはこいつらの飯のサポートだ。口を開けてやって、虫を食わせる。
そうそう、最近の便所は電気が無いと動かないらしい。不便な世の
中になっちまったもんだ。必要ならスタンガン使え。電気があれば
動くはずだからな。制限時間は三十分。さぁ始めるぞ、スタンバイ
しろ﹂
僕と佐奈の入る樽に四人の男が近づいてくる。二人は手にスタンガ
ンをもう二人は虫の詰まった虫カゴを持ってくる。カゴの中には虫
が幾重にも重なって蠢いている。動きの鈍い虫が下に地層のように
へばりつき、その上を動きが活発な虫が我先に逃げ出さんと言わん
ばかりに踏みつけあう。
男は虫カゴを開けて、僕たちの目の前に置かれたタライに一気に流
し込んだ。我先に逃げようとしていた虫達は何か良からぬ事が起っ
たのかと思い、逆さまになりながらも勢いよく走り回り、その上を
虫カゴの下で踏み固めされて一つの絡まりとなった虫の固まりがド
サリと落ちる。そして下敷きとなった機敏な虫達は這い出て、固ま
りとなった虫の上を再び占領した。タライの三分のニを満たした虫
は這い出ようと丸い縁に詰め寄るが足がツルリと滑り転がりながら
他の虫の下敷きとなる。
四人の男たちは僕たちの左右に近寄った。スタンガンを持つ男は、
電源を入れバチバチと音を出して火花が出る事を確認すると僕たち
に冷たい視線を向けた。もう二人は樽の上に顔を出す僕たちと同じ
高さまで腰を下ろしてみるも、頭からかけたションベンの悪臭が樽
の周囲から立ち上っているため嫌になったと見え﹁臭え﹂と言うと
嫌な顔して立ち上がり、汚い物を見る目で僕らを見下した。
佐奈は目の前のタライでカサカサと音をたてて蠢く虫から視線をそ
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らし、涙を満たした顔をこれから酷い目に合わせようとする男に向
けた。可愛い顔を曇らせて子犬のようにか弱く震える。女の本能な
のか、それともこういう表情であれば男が助けてくれると思ってや
っているのか分からない。男たちはそんな佐奈を救う気などこれっ
ぽちも無く、ウジの湧いた死体を見るような顔を佐奈に向けた。僕
には佐奈がどれほど怯えているのかよく分かった。声が出ないほど
怯えた佐奈の震えが、樽の中で体を重ねる僕の体をも震わせ、僕の
恐怖を増幅させていた。
無言で怯える僕たちとは対照的に、隣の樽に詰められたいつきと雫
は大声で泣き叫んだ。ここから出せ、と威勢よく出てみるものの、
誰からも相手にされず、そのうちに、俺達が悪かった助けてくれ、
と弱気になっていく。
パルが声を張った。
﹁始めるぞ。カウントダウンだ!三、二、一、始めろ!﹂
パルが手を叩く。部下の男たちは盛り上がり部屋の中が歓声に包ま
れた。
堪ったものではない。
横に立つ男が目の前の虫の入るタライに手を突っ込み、手一杯に虫
を掴みと僕たちの口に押し付けた。
﹁食え!口を開けろ!﹂
僕たちの口に無理やり虫を押し込もうとするが、食べたくない僕た
ちは、口を固く閉ざして抵抗する。そんな事はお構いなく、虫を押
しつぶすように口にねじり混む。運の良い虫はゴム手袋をはめた男
の指の隙間から這い出て逃げ、そうでない虫はブチブチと音をたて
て潰れていく。潰れた虫から溢れた体液が青汁のような臭いを鼻の
下で放つ。頭とも足ともわからぬ固い棘が僕の唇と口の周りに突き
刺さり痛い。それでも口をあけるわけにはいかない。首を左右に振
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り抵抗する。男はもう片方の手で僕の鼻を掴んで呼吸口を塞いだ。
男は力いっぱい鼻を掴んだ。粗い紙やすりのような手袋の滑り止め
が容赦なく肉に食い込み、千切れんばかりの痛みがして、頭を動か
す事もできない。息が苦しくなっていく。男を睨みつけた。それが
今の僕にできる全てだった。
佐奈の左右に立つ男は気が短かった。佐奈が口を開かないのが分か
ると、佐奈の間の前でスタンガンの火花を散らしてみせた。怯えた
佐奈は目を閉じる。
﹁痛い目にあいたくなかったら口をあけろ!ここにある虫を全部食
うんだ!俺の金を奪われるような事になったらタダじゃおかねーか
らな!﹂
男はそう言うと、バチバチと音をたてるスタンガンを佐奈の額に押
し当てた。
﹁ギャーーーーーー!!!﹂
つ
佐奈は固く閉じていた目を見開き悲鳴を出した。強烈な痛みが額に
走り、眉の筋肉が痙攣する。スタンガンの痛みは攣った足をミシン
のように高速で動く針で突き刺されるような痛みだ。何秒も耐えら
れない。
その瞬間を待ってたかのように、虫を口に押し当てていた男が悲鳴
を出す開いた口に虫をねじ込み、吐き出せないように口を塞ぐ。
﹁飲み込め!早くしろ﹂
そう言ってゴツゴツした手袋で佐奈の口を擦る。スタンガンを持つ
男が佐奈の見開く目の前で、スタンガンの火花を再び見せながら目
に近づけていく。閉じる佐奈の上瞼を別の手で無理やり開き、火花
を見せる。佐奈は目の前の恐怖に負けて口の中で動く嫌な味のする
虫を飲み込んだ。男は佐奈の喉が動くのをみて口を塞ぐ手を離す。
佐奈は男の手が離れるとすぐに飲み込んだ虫を吐き出した。気持ち
悪く体が受け付けるのを拒否した。体の潰れた虫や手足を失って蠢
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く虫が佐奈の体液に混じって目の前の桶に吐き出された。
男はチャンスと言わんばかりに、タライから虫をすくい上げるとゲ
ホゲホとむせる佐奈の口に虫をねじ込んで口を塞ぎ、もう片方の手
で鼻を塞いだ。嘔吐して息を吐き切った佐奈は空気を求めて、口の
中に入った虫を飲み込んだ。それでも鼻と口は塞がれたままで、呼
吸できずに藻掻く。
﹁吐き出さないと約束できるか?どうなんだ!?約束できるなら呼
吸させてやる﹂
佐奈は必死で首を上下に振って頷いた。男が佐奈の顔から手を離す
と、佐奈は粗い呼吸した。そして、悲鳴のような泣き声をあげた。
﹁ぅうううう⋮気持ち悪い。吐きそう。ぅう。⋮無理です⋮助けて
下さい⋮お願いしま⋮あぁぁあああ﹂
佐奈の目の前には、虫が盛られた男の手が迫っていた。
﹁口を開けろ!﹂
虫を持つ男はそう言い佐奈の口に手を近づける、別な男が佐奈の目
の横でスタンガンの火花を散らす。スタンガンの痛みには耐えられ
ない、そう思った佐奈は八方塞がりの恐怖でうつ向き、目を閉じて
口をあけて服従した。目からは涙が滝のように溢れ出た。スタンガ
ンを持つ男は小さく開く佐奈の口に両手を突っ込み口を上下に押し
広げる。
﹁もっと口を開け!﹂
そう言って佐奈の背後から強引に口を開く。これ以上開かいほどに
口を開けさせると手を離した。その開いた口に待っていた男が虫を
入れる。別の手でもうひと掴みタライから虫をすくうと口の隙間に
ねじ込んだ。虫が口の中でもがき動く。
﹁口を閉じろ。噛め。早くしろ。虫が逃げるだろ﹂
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男が急かす。佐奈の口から虫が這い出て来る。佐奈はなんとか口を
閉じたものの男を見て無理だと言わんばかりに首を横に振った。男
はスタンガンを佐奈の唇に押し当てて、もう一方の手で佐奈の髪の
毛を力いっぱい掴むと叫んだ。
﹁食え!やるんだよ!一匹でも逃したら、どうなるか分かってるだ
ろうな!﹂
スタンガンを押し当てられている佐奈の唇は恐怖でみるみる青くな
っていく。佐奈はスタンガンのスイッチを押そうとする男の目を見
て待ってくれと訴え、ゆっくりと口を狭め虫を噛み砕いていく。口
の中にまずい味が広がり、魚の骨のような棘が刺さる。それでもや
められない。スタンガンのスイッチに触れる男の指が今にも動き出
しそうで怖かった。十回ほど噛んだ。そして、喉につかえずに胃に
入るように祈るようにして飲み込んだ。口の中には何もなくなった。
それでも口を開けなかった。スタンガンから今にも電気が流れて来
そうで身動きできなかった。
男はスタンガンの電極を佐奈の唇から離した。佐奈がほっとして、
男から視線を外した。その先には、蠢く虫を盛った男の手があった。
目の前に虫が差し出された。口を休める暇など与えられなかった。
こうして僕たちは虫を食べさられた。スタンガンの恐怖に怯えて虫
を食べる。人である事をやめて従順に従う僕たちの努力などこれっ
ぽっちも奴らは気にしない。罵倒するように新たな要求を出す。食
べるのが遅い、噛まずに飲み込め、呼吸する暇があれば虫を食え、
俺たちの金のために命を賭けろ、隣の樽の奴らは百倍喰ってる、便
器が人のように振る舞うな、口を閉じるな喉と舌動かして飲み込め、
そう言い、少しでも食べるペースが落ちるとスタンガンで通電した。
僕と佐奈の顔には赤い痕が点々と付いていく。スタンガンの電極が
触れた肌が火傷したように痛む。ションベンを頭から浴びて濡れて
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いる僕たちの肌はスタンガンの電流をより良く流し、苦しめた。
胃に虫が入らなくなった僕たちは嘔吐した。男たちは鬼のように怒
ってスタンガンを押し当てて、再び虫を口にねじ込んだ。意識が遠
のくとスタンガンで呼び戻され、戻った意識で朦朧とする僕たちに
罵声を浴びせて、スタンガンの電流を浴びせた。
僕たちが虫を食べる度に応援する男たちは喜び、吐き出すと怒鳴っ
た。僕は誰にでも良心があると思っていた。けど違った。ここの人
達は金のためになら人を人とは思わない。目に見えない一線があっ
て、僕たちは人じゃなかった。人間ではない何か、社会のゴミ、た
だの生物、⋮便器。意識がはっきりする瞬間には酷い扱いを受ける
自分は何者なのだろうかと思うようになった。目の前で苦しむ人の
形をした佐奈を見ると、自分も同じように人の形をしているんだろ
うと思い、そういえば人間だったと想い出すと、置かれた状況に絶
望した。
佐奈と時々目が合った。怯えて力のない目がその一瞬だけ魂を帯び
たように見えた。ここで僕の苦しみを理解できるのは佐奈だけで、
佐奈にとっても僕だけだった。僕が人だと知っている仲間がいる、
一人ぼっちじゃない、それだけが希望であり救いとなった。
81
第十四話 罰ゲーム ︱開口マスク、ゴキブリ
三十分が経過した。
﹁そこまでだ!﹂
ボスのパスが叫んだ。虫食い競争の終了時間が来たのだ。
虫を食わされた僕たちの顔には、死んだ虫の足や羽、千切れた胴体
や臓物が鼻水や胃液と混じってねっとりと絡みついている。運良く
逃げ出した芋虫やウジ虫は耳を這い、髪の毛の間に身を潜める。動
きの素早いゴキブリや蜘蛛は樽の周囲を這いまわる。
意識が朦朧とする。気持ち悪い。呼吸する度に潰れた虫の体液の青
臭さが鼻を抜ける。吐きそうだ。胃の中で生きた虫が蠢いている。
異常を感じた体は井の中の異物を吐き出させようとする。けれども
吐き出せない。吐き出すとスタンガンで容赦なく通電された。その
苦しみの記憶が吐き気と共に蘇り、恐怖で吐き出せない。
僕の目の前に座る佐奈も同じだった。オエッと吐き出そうとした虫
の混じる胃液を、口を固く閉じて出さないように耐え、息を止めて
呑み込んだ。飲み込まないと息をさせないぞと自分の体に言い聞か
せて飲み込むのだ。佐奈は嘔吐物を飲み込み終わると荒い呼吸をし
てうなだれた。開いた口からは何匹かの虫が這い出し、顔を伝って
逃げていく。
﹁吐き出すんじゃねーぞ!﹂
僕たちに虫を食わせた男たちは威圧的に言うと虫の死骸にまみれた
手袋を脱ぎ捨てて、仲間の元へ向かい、拳を突合していく。観てい
82
た者はよくやったなと、その男たちに賞賛を贈った。
僕たちの入る樽は体重計に乗せられた。どれだけ虫を食べたかを調
べるためだ。樽が揺れる度に胃の中の虫は何事かと驚き暴れて這い
出して来ようとする。どんなに頑張ってもその強烈な嗚咽感には耐
えられず吐いてしまう。すると、周りの男たちから怒声の交じる罵
声が飛ぶ。吐くと樽の重さが減り、賭けた金が戻って来ない恐れが
あるからだ。
僕と佐奈の入る樽と、いつきと雫の入る樽の重さが測られた。値は
ボスのパルだけが見た。
パルは、結果を見て、ニヤリとし、もったいぶるように一呼吸おい
て叫んだ。
﹁勝者はお前たちだ!﹂
いつきと雫の樽の前に群がる部下の男たちを指差す。その先の男た
ちは喜び、パルから金を受け取っていく。
僕と佐奈は負けた。けれども僕たちにはどうでも良かった。口に虫
を押し込む男が居なくなった事にただ安堵していた。スタンガンに
怯える事も無くなった。こみ上げる胃のむかつきを素直に受け止め
嘔吐した。
僕たちが勝つ方に賭けた男たちは怒った。
﹁俺の金、どうしてくれるんだ!ただ済むと思うなよ!﹂
何人かの男がビールの缶を投げつけてきた。
パルは賭けに勝った部下に金を配り終えると、僕たちの樽に近づき
言った。
﹁お前たち、意識はあるか?俺の声が聞こえるんだったら問題ねぇ
83
な。勝てば天国、負ければ地獄。昔の人はうまい事言ったもんだよ
な。不思議なもんだよ。どんなにクズな連中でも勝った方に優しく
してやろうって気にはなるが、負けたお前たちにこれっぽっちも慈
愛をかけてやろうなんて気にならない。お前たちはこれから罰ゲー
ムだ。せいぜい苦しんで、もがけ﹂
そう言うと、勝ったいつきと雫の方を向いて言った。
﹁お前ら、負けた奴がどうなるかしっかり見ておくんだな﹂
そして、歓談する部下の方を向いて言った。
﹁負けた方に賭けた奴、手伝え。こいつらに罰を与えたいだろ?﹂
何人かの男たち興味を示したようでパルと共に部屋を出ると、すぐ
に戻ってきた。男が荷台を押している。角形の金属でできた一斗缶
がいくつか積まれた荷台が僕たちの樽の前に止められた。
男のうちの一人が僕たちの入る樽の上に付いた蓋を開けて漏斗を差
し込み、別な男が一斗缶を持ち上げて蓋をあけ、中身を漏斗に流し
込んだ。
中身は大きなゴキブリだった。一斗缶一杯に詰められたゴキブリが、
僕たちの裸の体の入る樽の中に流し込まれていく。すでに樽の中に
は虫が放たれていたが、それとは大きさが比べ物にならない。十セ
ンチはある丸々と太ったゴキブリだ。
一缶、また一缶とゴキブリが流し込まれる。
﹁痛い!痛い!ぎゃーーーー!!!﹂
僕と佐奈は叫び始めた。巨大なゴキブリが這いまわり、足で体を引
っ掻き、噛みつく。
そんな僕らの事など気にもとめず、男はゴキブリを次々と流し込む。
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胸の辺りまでゴキブリが流し込まれた。僕は死に物狂いで泣き叫ん
だ。
パルが近づいて僕たちの顔を覗き込むと言った。
﹁苦しそうだな?助かりたいか?そうか、だったら口を開け﹂
助かりたいに決まっている僕と佐奈は言われた通りに口を開く。
いつの間にか背後に立っていた男が開口マスクを僕らの口に付けた。
開口マスクの先にはT字状の透明なチューブが付いていて、左右に
伸びるチューブが僕と佐奈の口に繋がっている。男は残るチューブ
の端を掴むと、ゴキブリを流し込んでいた漏斗を外して樽の中に差
し込んだ。
するとゴキブリが、一匹、また一匹とチューブの内側を登ってきた。
僕と佐奈は絶句した。パルは僕たちを助ける気なんて無かったのだ。
別な男がドリルを持ってきて、樽の上に穴をあけた。そしてその穴
に水道の蛇口に繋がれたホースを差し込む。そうして樽の中に水を
注ぎ始めた。冷たい水が溜まり始めと、ゴキブリは水から逃げるよ
うに上へ上へと移動した。
僕たちの口に繋がれたチューブに這い出てきたゴキブリは、はじめ
数匹だったが、すぐに数を増し、五匹、十匹、二十匹と増していく。
水に追い立てられたゴキブリが我先にとチューブへ押し寄せ、這い
上がってくる。
堪ったものではない。ゴキブリが口に迫ってくる。開口マスクで口
を閉じることができない僕と佐奈は、助けを求めて叫ぶが、マスク
が口を広げているため言葉にならない。目の前の佐奈は気が狂った
ように首を横に振り、視線があった男達に助けを求めたが、言葉に
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ならない叫び声を上げる美女に男共は喜ぶだけで助ける者は居ない。
樽の中に水は注がれ続ける。水に押し出されて、透明なチューブは
ゴキブリで真っ黒となった。口の中にゴキブリが入ってくる。舌で
なんとかゴキブリの侵入を防ぐも、後から次々と押し寄せてくるゴ
キブリの力に押される。
佐奈の口にゴキブリが流れ込んだ。押し寄せるゴキブリに抵抗しき
れなかったのだ。ゴキブリは佐奈の口の奥へ奥へと進む。もはやそ
の勢いを止めることはできない。佐奈は目を見開き、上を向いて悶
えた。甲高い女の子の叫び声は低いうめき声へと変わった。
パルが佐奈の背後に立ち、佐奈を見下した。
﹁苦しいか?﹂
佐奈は頷いた。
﹁そうか。もっと苦しめ﹂
そう言うと、前頭マスクに繋がるゴキブリの詰まったチューブを掴
むと強引に揺すった。ゴキブリは、チューブから樽の中に流れ落ち
たかと思うと、ものすごい勢いで駆け上がってきた。
僕の口の中にもゴキブリが侵入した。あまりの勢いに耐えられない。
次々と喉の中へと這っていく。僕はうめき声を上げた。声を出して
いないと気管へゴキブリが入ってしまう。次々と押し寄せるゴキブ
リ。無理だ。耐えられない。体を死に物狂いで揺する。体を動かせ
ば樽の中で水が波打ち、その波に乗ってゴキブリが押し寄せる。
苦しい。いつ終わるか分からない罰ゲーム。絶望する。意識を失え
ばどれだけ楽になることか。
ふと考えがよぎる。助かるにはこれしかない、そう思った。
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佐奈の体の動きに合わせて体を大きく動かした。すると樽の中で波
打つ水が共振して重心が狂った。僕の思惑は当たった。バランスを
失った樽は、勢いよく横転すると横に転がった。その拍子に佐奈の
開口マスクが外れた。佐奈の小さな頭に取り付けられた開口マスク
は緩かったので外れたのだ。外れた開口マスクから流れ出す水に押
し出されて次々とゴキブリが溢れ出す。周囲で僕らを見ていた男た
ちは床に這い出す大量のゴキブリに驚いて後ずさる。
﹁おい!何て事しやがるんだ。誰が樽を転ばしていいって言った!﹂
パルは怒って、僕の頭を踏みつけた。そして何度も後頭部を蹴った。
恐怖で謝罪の声を出すもマスクに遮られて声とならない。鼻血が出
て樽から溢れ出た水を赤く染めていく。それでもパルは止めない。
僕を蹴り続ける。
はじめは涼しい顔で見ていたマクルも次第と険しい表情となりパル
を止めた。
﹁パル、その辺で許してやりなよ。脳に障害を負ったら、話ができ
なくなるわ﹂
それを聞いたパルは
﹁俺に指図するな!﹂
と言ってマクルを突き飛ばしたが、我にかえったように蹴るのをや
めた。
タバコに火をつけ、煙を口に含むと、苛つきながら足元で転がる僕
に言った。
﹁今回は許してやる。次に俺の命令しない事をやったらただじゃお
かない。俺が苦しめと言ったら死ぬまで苦しむんだ。いいな!﹂
そう言い終わると僕らの元を去っていく。
佐奈は眉を落として後方に去っていくパルを目で追っていた。パル
87
が遠くへ行ったのだろう。僕の方を見た。
﹁大丈夫?﹂
佐奈は心配そうに僕に聞いた。何とか聞き取れるほどの細い声だ。
開口マスクを付けられたままの僕は喋る事ができないので頷いたが、
大丈夫なわけがない。体は痛く、吐き気がする。こうして開放され
たものの、この先何をされるかと思うと不安で胸が苦しい。
けれども僕は嬉しかった。佐奈の気遣いが嬉しかった。
佐奈と僕は転がる樽の中で体を密着させて抱き合った。腕は樽の内
側に固定されていて動かない。だから足を体に巻き付けあい性器を
密着させて抱き合った。性的な欲望のためではない。少しでも誰か
の暖かさに触れて心を休めたかった。
なぜなら周りで男たちが、次の拷問の準備を始めようとしていたか
らだ。
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第十五話 逆さ吊りと鼻フック
僕は樽に頭だけ出して閉じ込められていた。同じ樽の中には佐奈が
いて、互いに向き合っている。
隣の樽には、いつきと雫が同じように樽に閉じ込められていた。
僕たちの入る樽は天井から逆さに吊るされた。
樽の下部にフック付きの巨大な木ねじが四つ取り付けられた。フッ
クの先には天井から伸びる鎖に繋がれていて、鎖が巻き上げられる
事で逆さに吊るされた。
ボスのパルは言った。
﹁さぁ、そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?犯人の名前、
素性⋮なんだっていい。お前たちがこんな酷い目に合ってるなんて
これっぽっちも思っちゃいないだろうよ。そんな冷たい奴の事なん
て庇う必要ないだろ?﹂
パルは逆さに吊るされた僕達の樽を蹴って揺する。
いわ
犯人なんて知らない。そもそもそんな人間存在しないじゃないか。
謂れのない架空話で拷問されているんだ。
﹁知らない。助けて!もう止めてくれ!許して!﹂
僕と佐奈とは違い体力に余裕のある隣の樽の二人は叫ぶ。
﹁とっとと吐けば楽になるのによ。全くクズはプライドだけは高い
から手に負えねーな﹂
パルはそう言うと部下の男に合図した。
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男は向き合う僕達の鼻に鼻フックをかけ、その先に付く紐を一つの
バケツに結んだ。宙に浮くバケツの重さで鼻が引き上がる。男は自
然と開く僕達の口に洗濯バサミのような金属製のクリップをねじ込
み舌を挟んだ。クリップの先には紐が付いていて、その紐を強引に
引っ張って舌を引き出し、向かい合う僕たちの紐同士を結んだ。
舌に挟まるクリップが痛い。口の中を噛んだ時のような痛みが続く。
異物に掴まれた舌は異常を察知して唾液の分泌を促し、口から唾が
溢れだしてくる。頭を動かせば舌が千切れそうだ。
パルが言った。
﹁動くなよ。先にバケツを落とした樽の奴らには罰を与える﹂
部下の男はチェンソーと脚立を持ってきた。樽の隣に脚立を置いて
上り、チェンソーで樽の底を丸く切り取った。足の有る直ぐ近くを
チェンソーの刃が動いていく。ここからは様子が見えない。体を丸
め切られにように祈った。
底を切り取り終わると、どこから持って来たか分からぬ大量の氷を
樽に流し込み始めた。首元から足先までビッシリと氷が詰められた。
体は直ぐに冷え始めた。冷たいようで痛い。氷は体温を奪いながら
溶け、その溶けた水は首の周りのわずかな隙間から漏れ出すと、頭
を伝ってバケツに流れ込む。
目の前の佐奈の鼻は引き上げられて変形していき前歯の歯茎が見え
て来る。逆さに吊るされているため頭に血が上り紅くなっていた顔
は、氷で体が冷めていくため、血の気を失っていった。唇は青くな
り、ガタガタと震えていて、その震えが互いに引き出されている舌
をつなぐ紐を通して伝わってくる。
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苦しむ僕たちの樽に、追い打ちを掛けるように、多量の塩が入れら
れた。塩は氷を溶かすのを早めた。鼻フックに繋がれたバケツに水
がどんどん溜まっていく。塩水が体の傷口に染みて痛い。目が塩分
でチクチクとする。体は更に冷えて腹痛がする。
佐奈は耐えかねたように泣き出した。何か喋ったが舌が引き出され
ているため何を言っているか分からない。
その理由は直ぐに分かった。佐奈は放屁したかと思うと脱糞した。
下痢気味の便が塩水と混じり佐奈の顔を伝うとバケツに流れ込んだ。
恥ずかしさのためから目を閉じて開かない。
けれどもすぐに目を開けて悲鳴を上げる事となった。パルが逆さ吊
りにされている僕たちに野球ボールを投げてきた。その一球が佐奈
の頭に当たったのだ。
その衝撃で佐奈は頭を揺する。すると舌が紐で繋がっているため、
僕の舌に千切れそうな苦痛が走る。その苦痛を交わそうと頭を動か
すとバケツが揺れて鼻フックが鼻に食い込んでいく。
パルは頭だけでなく、バケツを狙ってボールを投げる。バケツにボ
ールが当たると大きく揺れて鼻が千切れそうな痛みに見舞われる。
そして時々、ボールをバケツに投げ込む。その度に僕たちの鼻は広
げられて原型を失っていく。
パルがボールの投げながら叫ぶ。
﹁お前たち、そのままじゃ鼻が千切れるぞ。バケツを落として楽に
なったらいい。そうすりゃ罰を受けるだけで済むんだからな!﹂
バケツの重みはどんどんと増していく。頭を振れば鼻フックが外れ
てバケツが落下し、楽になる。けども、それはできない。さっき罰
91
ゲームで酷い目にあった僕と佐奈は絶対に罰ゲームだけは避けたか
った。心の中でいつきと雫が早くバケツを落とす事を願った。
鼻フックは容赦なく鼻を痛めつけた。広がった佐奈の鼻からは鼻血
が流れだした。鼻が千切れかかっているのかもしれない。佐奈の小
さな鼻は限界だったのが僕には分かった。僕は怖かった。このまま
では佐奈を失ってしまいそうで怖かったのだ。たかが鼻だが、この
脱出不可能な世界が僕をそう思わせた。それほどまでに僕の心は追
いつめられていたのだ。
僕は顎を引いてバケツの重量を自分の鼻に乗せ、佐奈の負担を軽く
した。それと同時に口の中に血の味が広がった。限界を超えた鼻か
ら鼻血が出たのだ。鼻が痛い。けども耐えられた。僕がバケツの重
みを引き受けたら、佐奈の鼻はすぐに元に戻った。佐奈の鼻が傷つ
いていないであろう事が分かり、嬉しかった。たったそれだけの事
で苦痛に抗う力が湧いてきた。佐奈は僕がバケツの重みを引き受け
た事を分かっていて感謝するような視線を向けたことも僕に力を与
えた。
だがそれもつかの間、パルが投げるボールが僕の頭に直撃すると、
その痛みで湧きでた力が一気に枯れてしまい、再び、佐奈を豚鼻に
して苦しめた。情けないがどうしようも無い。
しばらく経った。
隣の樽の雫が悲鳴を発したかと思うとバケツが床に落ちる音が聞こ
えた。いつきと雫の二人は苦痛に耐えかねてバケツを落としたのだ。
勝った!僕は心の中で叫んだ。その喜びは何とも表現しがたい。そ
れは純粋な喜びではなく他人を地獄に突き落とす快感を噛みしめる
92
喜びだ。これで罰ゲームを受けずに済む。自分達の受けた苦しみを
彼らも味わえばいい、そういう良からぬ思いがこみ上げてくる。僕
は頭を揺すってバケツを落とし、佐奈と喜びを分かちあった。
パルがいつき達の元へ向かい話しかけている。
﹁お前たちが勝つ方に期待していたのに、ガッカリしたよ。罰を受
けてもらおうか﹂
そういうと部下の男たちに指示した。
﹁樽遊びは終わりだ。こいつらを樽から引き出せ﹂
いつきと雫は悲痛な表情で向き合うと、互いを罵りあった。お前が
動くのが悪いだの、思いやりが足りないだの互いに責あっている。
その後、二人がどうなったかは残念な事に記憶がない。というのも
僕は逆さ吊りから開放された途端に気絶してしまった。逆さ吊りで
頭に登っていた血が、一気に引いたため貧血になってしまったから
だ。
目覚めた時、僕たち四人は裸のまま部屋の片隅に追いやられていて
いた。首には金属製の首輪がついていて、四人の首輪を鎖が繋いで
いた。手首は前側で手錠が嵌められている。
皆疲れて横たわっている。僕も燃え尽きたように疲れていて動く気
がない。部屋の中央では男たちは酒盛りして盛り上がっていて僕た
ちの事など気に留めていなかった。僕たちが動けば、彼らの注目が
こちらに集まるのが怖かった。
佐奈は僕の目が覚めたのに気づいたようだ。遠くを力なく見つめて
いた彼女の目が僕を捉えたかと思うと力強く焦点を合わせた。佐奈
は喋らず、ゆっくりと手を伸ばして僕の手を握りしめた。温かく柔
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らかな手が僕を包んだ。
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第十六話 地下の肥溜め部屋︵一︶︵前書き︶
︻これまでのあらすじ︼
世界一の恐怖を体験できる﹁最恐館﹂は、拷問の苦痛と恐怖を体験
させる恐怖の館だった。
ここは無機質な大広間で、二十人ほどの男たちが料理を囲って酒を
飲んでいる。
その部屋の片隅で僕たちは居た。
僕たち四人は様々な拷問を受けて疲れており、ぐったりとしている。
腕には手錠が、首には鉄製の首輪が付けられていて四人を鎖で繋い
でいるため逃げる事はできない。
裸のまま次の拷問に怯えていた。
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第十六話 地下の肥溜め部屋︵一︶
パルはビール瓶片手にやってきた。次の拷問が始まるんだ。そう思
った僕は佐奈と固く手を握り合った。
パルは言った。
﹁もうお眠か?だらしない奴らだな。⋮まぁ夜だからな。そろそろ、
お前たちの寝床へ案内してやる﹂
そう言うと、何人かの部下を呼んだ。
いたぶ
怯えていた僕らが胸を撫で下ろしたのは言う間でもない。今日はも
う彼らに甚振られることはない。そんな当たり前の事がとても嬉し
い。怯えて固くなっていた体からは力が抜け、幸せな気持ちが頭を
満たす。
部下の男が僕たちの首を繋いだ鎖を乱暴に引っ張り言った。
﹁立て。ノロマが!グズグズするな。大人しくついてこい﹂
僕たちは引きずられるように立たされ、一列となって扉の一つへ向
かう。扉をくぐると薄暗い通路があった。窓の無い狭い通路の所々
に灯りがともる。何とか見えるコンクリート造りの通路の先には階
段があった。
人が一人通れる程の石の階段を降ると、金属製のがっちりとした扉
が現れた。先頭を行く男がノブに手をかけ手前に引くと厚みのある
ドアが甲高い音をあげて開く。中に足を踏み入れると掃除されてい
ない便所のような強烈な臭いが鼻を突く。そこはレンガとコンクリ
ートで造られた十二畳ほどの部屋で薄汚れている。天井はそれほど
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高くない。窓は無く薄暗い灯りが辛うじて室内を照らす。奥の床の
三分の一は用水路を塞ぐような丈夫な金網で蓋がされている。その
上には四本の金属パイプが天井から等間隔で伸びており床から一メ
ートル程の位置で途切れている。パイプの先端からは水がぽたりぽ
たりと垂れ、その度にピチャンピチャンと水面に水が落ちる音がす
る。
先頭を行く男が鎖を引いて僕たちを奥へと導く。奥の様子が鮮明に
なるに従い僕は血の気が引いてゆく。雫はその場にペタリと座り込
み歩くのを拒否した。立ち止まった佐奈は震えながら後ろに立つ僕
に腕を絡めて手を握った。
僕たちは暖かい寝床が待っているものと期待していたのに、ここは
どう見ても拷問部屋だった。
天井から床に伸びる四本の金属パイプの左右には、鎖で繋がれた鉄
枷がぶら下がっている。
金属パイプの先端には藻が生えているかのように汚れた開口マスク
がぶら下がっている。開口マスクをパイプが十センチほど貫いてい
て、水滴が落ちている。僕たち四人の前に四組の手枷と開口マスク。
悪い予感しかしない。
後ろからついてきたパルが話した。声が部屋の中に響く。
﹁くせーな。ここがお前たちの寝床だ。明日からの拷問に備えてゆ
っくり休んでくれ。この部屋は肥溜めなんだ。俺には耐えられない
が便器のお前たちなら落ち着くだろ。上の階は便所で便器の排水が
この四本のパイプを伝って落ちてくる。右の二本が大便器で左の二
本が小便器だ。パイプの先の床下は深い水槽で汚水を溜めるように
なっている﹂
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ちょうどその時、ゴーという唸り音が部屋に響いたかと思うと右か
みずしぶき
ら二つ目のパイプの先から滝のように水が吹き出してきて、周囲を
水飛沫で濡らした。水はその下の金網を通り水槽に流れ落ちていく。
﹁誰かが糞をしたんだな。おい、誰か便所を使うなって言って来い
!﹂
パルは部下に言うと話を続けた。
﹁見ての通りだ。パイプが途中で途切れているから糞が撒き散らか
されて汚くて仕方ない。お前らは便器の端くれだろ。床とパイプを
繋いで糞がばら撒かれないようにしてくれ、よろしく頼むよ﹂
パルがいつきと雫を指差して言った。
﹁お前たちはさっきの罰として大便器を担当しろ。残りの二人は小
便器だ﹂
僕たちは死刑宣告された罪人のように青ざめ凍りついた。
部下の男たちが僕らを取り囲み押さえつける。パルが言った。
﹁先に大便器の準備をしろ﹂
男達は僕たちの首を連結している首輪を外し、いつきと雫をパイプ
の所へ連れて行こうとする。床にへたり込む雫が悲痛な声をあげ、
いつきが叫ぶ。罰という言葉が二人の恐怖を助長させる。
﹁嘘でしょ?本当にあのパイプに繋ぐ気?!!止めて!!あんな大
量の水飲めないわ!!!嫌だぁぁぁー!!!﹂
﹁離せこの野郎!やめろって言ってんだろうがよ!!!くっ⋮!﹂
雫はゴツゴツとした床を引きずられていく。男達はいつきの腹を殴
り弱ったところを両腕を抱えるようにして無理やり歩かせる。
まず男たちは手の焼ける男のいつきに群がった。右端のパイプの所
まで引き連れて行き壁の方を向いて座らせる。暴れるいつきを上か
98
ら押さえつけるようにして金網の上に膝をつかせる。金網は床から
十センチほど低い位置にある。パイプの下には、手前の床から奥の
またが
ひざまず
壁に向かって固定された一本の鉄棒が渡されていて、いつきはそれ
に跨るように跪かされた。
男の一人が手に持つ鉄パイプを固定された鉄棒の下に垂直に通し、
いつきの膝の裏まで寄せる。いつきは両足を鉄パイプと鉄棒に押さ
えつけられ立ち上がる自由が奪われた。いつきの背後に立っていた
男たちはすかさず床の金網から伸びる鎖をいつきの足首に巻きつけ
て南京錠で閉じた。別な男たちはいつきが足元に気を取られている
間に手錠を外し、天井から鎖で吊るされた金属の手枷に左右の手を
それぞれはめた。
膝をついた状態で、両手、両足を拘束されたいつきは逃げられなく
なった。
次に男たちは床で泣き叫ぶ雫の手錠を外すして両腕を掴み上げる。
雫は二人の男にぶら下がるようにして、右から二番目のパイプの元
へ連れて行かれた。男たちは雫の腕を引き伸ばし天井から伸びる手
枷をつなげた。男たちが雫の両腕から手を離すと、雫は落下するよ
うに金網に両膝をついた。両膝が金網にめり込んだ。
﹁痛い!﹂
雫は叫んで立ち上がろうとするが、床に固定された鉄棒と垂直に鉄
パイプを膝の裏に通されてしまったために、立ち上がる事ができな
くなった。動きが大人しくなった雫の足首に男が鎖をまきつける。
仕事を終えた男たちが僕と佐奈の元に歩み寄る。僕たちは抵抗しな
かった。そんなものに意味は無い。これだけの男たちに囲まれたら
逃げ出す事など不可能だ。手を固く握り合う僕たちを男たちが引き
裂く。男たちは僕たちの腕を抱えるように掴むと、佐奈を左から二
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つ目のパイプに、僕を左端のパイプ向けて歩かせた。僕は希望を失
った罪人が処刑場に引き立たられるかのように力なく歩む。
天井から垂れるパイプの前まできた。近づくとその周囲の様子がは
っきりと分かった。
手が届きそうな目の前の壁は、コンクリートが剥がれ落ちて中のレ
ンガがむき出しになっている。常に汚水がかかるためか湿っていて、
尿に含まれる塩分が結晶となり模様となっている。壁の所々に便と
トイレットペーパーの切れ端がまとわりついていて、大便器に繋が
るパイプのある右の方へ向かうにしたがって酷く汚れている。
上を見上げると錆びた鉄の排水管が天井から不気味に垂れ下がって
いる。僕と佐奈の目の前にある小便器の排水管よりも、雫のいつき
の前にある大便器の排水管の方が随分と太い。排水管の左右には錆
びた鎖が天井からぶら下がっていて下端には鉄製の分厚い手枷が口
を広げている。頭上にも天井から鎖が一本垂れ下がっていたが何に
使うものなのかは分からない。
下を見ると鉄格子のような金網が途切れなく右端のいつきの元まで
水槽を塞いでいる。金網は僕らが歩いて来た床よりも十センチ程低
い。金網のすぐ下には汚水が溜まっている事が分かるが、室内が暗
あく
いため汚水の溜まる水槽がどの程度深いのか、どうなっているのか
は分からない。ただ、茶色に濁ったドロリとした汚水の中に灰汁の
ような泡ができており発酵しているように見える。そのためか、と
にかく臭い。
男が金網を指差して膝をついて膝立ちになるように言った。男の指
差す先には膝を置く位置を示していると思われるゴム板が二つ、金
網の上に取り付けられている。僕は抵抗せずにゴム板の上に膝を置
100
いて膝立ちになった。股下には一本の鉄棒が金網から十センチほど
上の床と同じ高さにあり、目の前の壁の中に突き刺さっていて動か
ないように固定されている。男は手に持つ鉄パイプを僕の右膝の後
ろから通し、鉄棒の下を通し、左膝の後ろを通す。
後ろを振り向くと別な男が金網の上に置かれたコンクリートブロッ
クの穴に鎖の一方を通し、右足首にきつく何度か巻きつけると南京
錠で鎖を閉じた。そしてブロックの穴から伸びる鎖のもう一方を同
じように左足にまきつけて錠した。
前に立つ男が手錠を外し、手を天井から伸びる鉄枷に繋いだ。腕は
直角に曲がるくらいの十分な余裕があった。
目の前にある排水管のパイプを見る。天井から垂れ下がる金属製の
排水管は少し見上げた辺りで終わっていて、そこから先は洗濯機と
排水口を繋いでいるような柔軟性のあるチューブが繋がっている。
元は透明だったチューブは内側が黄ばんで透明度を失っている。チ
ューブの外側は誰のものか分からない長い髪の毛が所々に絡まり、
へそ
糊で固めたように固まっている。そのチューブの先が開口マスクの
外側に繋がっていて、臍の上辺りで宙吊りとなっている。ゴム製の
開口マスクはずっとここに取り付けられているのだろう。酷く汚れ
てくたびれている。いったいどれだけの人がこのマスクを着けたの
だろうか。
右を見ると佐奈が同じように拘束されていて、側の男に涙ながらに
助けを求めている。
さらにその隣の雫はむせび泣き、右端に拘束されている彼氏のいつ
きは雫に声をかけては、開放してくれとパルに叫ぶ。
パルは僕たちの背後に立っていて、四人の拘束が終わったのを確認
101
すると言った。
﹁三番の小便器にマスクを被せろ。他の奴らは自分たちがどうなる
かよく見ておけ﹂
指名された佐奈はピタリと泣き止むと振り返って恐怖した顔をパル
に向けてた。どうして私なの?と震える唇が言葉を発しようとした
が、背後に立つ男が頭を掴んだので佐奈の意識はそちらに向かう。
男は佐奈の両耳を挟むように頭を掴むと無理やり顔を前に向けさせ
た。前では別な男が排水管と佐奈との間に立って、排水管に垂れ下
がっている開口マスクを掴むと自身の股の間から持ち上げ、両手で
左右のベルトをそれぞれ掴み内側を佐奈の顔に近づける。
佐奈はマスクの内側を見ると目の前に立つ男に涙ながらに訴えた。
﹁嫌だぁあああ!お許し下さい!⋮本当に私をこれに繋ぐんですか
?これでトイレの水を飲めと?冗談ですよね⋮﹂
男は開口マスクを更に佐奈に近づけ、マスクの中から付き出してい
る十センチほどのパイプを佐奈の口に当てて言った。
﹁咥えるんだ﹂
悲鳴を上げて、頭を後ろにそらし、逃げようとする佐奈を後ろに立
つ男が前に押し出す。パイプの先端を佐奈の口に押しつけるが佐奈
は口を固く閉ざして頭を左右に振る。すると前に立つ男が右手を振
り上げ佐奈の頬を叩いた。佐奈の上半身がその力で倒れる。男は佐
奈の首をつかんで引き戻すと、再度、同じ方の頬を叩いて、倒れ込
んだ佐奈を引き戻して言った。
﹁さぁ咥えろ。次は殴るぞ﹂
佐奈は全身を震わせて怯えながら開口マスクの内側に突き出るパイ
プに唇をつけて口を開いた。前に立つ男はパイプの先を容赦なく佐
奈の口に押しこむと、両手で佐奈の頭を掴み、腰でマスクを佐奈の
102
顔に押し付けてた。開口マスクの内側から伸びるパイプが佐奈の口
に押し込まれていく。
パイプは佐奈の喉奥に触れた。
﹁ウゲェーーーーー﹂
佐奈はえずき、パイプを吐き出そうとするが男が腰を押し当てて阻
む。男は楽しそうに腰を振って佐奈の喉をパイプで突いた。その度
に佐奈はえずき、両手、両足をばたつかせると目を見開いて涙を流
す。後ろに立つ男が開口マスクから伸びるベルトを佐奈の頭の後ろ
で次々と締めていく。たるみができないように佐奈の喉奥にパイプ
の先が触れる時にベルトを締める。ベルトを締め終えると、男は佐
奈から離れた。
佐奈の小さな頭には不釣り合いに大きいマスクが顔の下半分を覆っ
ていて排水パイプに繋がれる様は痛々しい。佐奈は何かを叫ぼうと
しているが口の中のパイプが舌を押さえていて、言葉にはならず﹁
ガゴー﹂という音が漏れるだけだった。気持ち悪いのか時々えずい
た。
しばらくすると佐奈は現状を受け入れたように大人しくうなだれ、
苦しさを訴えるような目を僕の方に向けて涙を流した。
103
第十七話 地下の肥溜め部屋︵二︶︵前書き︶
︻これまでのあらすじ︼
世界一の恐怖を体験できる﹁最恐館﹂は、拷問の苦痛と恐怖を体験
させる恐怖の館だった。
今、僕たち四人は地下の肥溜め部屋に居る。
薄汚いこの部屋の上の階は便所で、便器に直結している四本の排水
管がこの部屋の天井から垂れ下がっていたが、途中で途切れており、
便器の水が流される度に汚水を撒き散らしていた。
ひざ
僕たちは天井から垂れる四本の排水管の前に膝立ちに拘束された。
両手は天井から垂れ下がった鉄製の手枷に繋がれ、足首にはコンク
リートブロックに繋がれた鎖が巻かれた。足を置く金網の下は汚水
を溜める深い水槽となっていて悪臭を放っている。
恐ろしい事に天井から伸びる四本の排水管の先には開口マスクが付
いていた。この部屋は便所の排水を飲ませる拷問部屋だったのだ。
まず見せしめとして、僕の隣にいた佐奈の口に開口マスクが取り付
けられた。排水管に繋がれて苦しそうにもがく佐奈を見て僕たちは
震え上がっていた。
104
第十七話 地下の肥溜め部屋︵二︶
佐奈の後ろに立ったパルは、膝立ちで座る佐奈の頭に足を置いた。
そして靴底を佐奈の後頭部にねじ込みながら言った。
﹁どうした?苦しいのか?おいおい、しっかりしろよ。まだ何も始
まっちゃあいない、苦しむのはこれからだ。分かったか﹂
それを聞いた佐奈は、滝のように涙を流して泣き叫んだ。口には排
水管に繋がるチューブが差し込まれているため声にはならない。そ
の代わりに声が天井からぶら下がる排水管に共鳴してパイプオルガ
ンのような低い唸り音をあげた。
﹁ぶざまだな。さて次は誰が便所の排水管になるんだ?﹂
パルは佐奈の頭から足を離した。そして、まだ排水管に繋がれてい
ない僕たち三人を見渡した。パルを見ていた僕たちは一斉に目を逸
らす。
一瞬だったがパルと目があった。恐怖で体が固まる。
﹁次はお前だ。四番の男をパイプに繋げ﹂
!?四番?僕だ。体が恐怖で動かないのだが目は勝手に周囲の状況
を掴もうと動きまわる。僕の周りに男たちが集まって来る。佐奈の
口に開口マスクが取り付けられた時と同じように、背後に立つ男が
僕の頭を掴んで前に向けさせる。僕の目の前には別な男が両足を広
げて立った。男はうつむくと、天井から伸びる排水管の先についた
開口マスクを両足の間から掴み上げると、マスクの内側を僕の顔に
近づけた。
105
マスクの内側を見た僕は震え上がった。ただの開口マスクでは無い。
マスクの内側に突き出た十センチ程のパイプは勃起した男性器を模
していて、中央を貫く穴からちょろちょろと水が流れ出している。
黒いゴム製のディルドの中央を無理やりくり抜いて水が通るように
加工してマスクの内側に取り付けたようだった。
マスクの内側は鼻と口を塞ぐガスマスクのようになっていて、シュ
ノーケリングで使うゴーグルのように分厚いゴムで肌の隙間からの
水の出入りをさせないようになっている。そのため、このマスクを
付けられたら口に流れ込む全ての水を飲まなければ呼吸ができない。
暗くてよく見えないマスクが近づくほどその酷い様が見えてくる。
黒いゴム製のマスクの内側は、古びた排水管のように藻のような茶
色く汚れていて、むせ返るようなアンモニア臭がする。この汚いマ
スクを住処としていた数匹の虫が驚いたように這い出してきて、足
元の水槽の中に飛び込んでいった。
こんな開口マスクを取り付けられたらたまったものではない。佐奈
が泣き叫んだのも納得がいく。そんな僕の恐怖など構う事無く、前
に立つ男はマスクから突き出たディルドの先を口に押し当て、後ろ
に立つ男が頭を前に押し出す。
前に立つ男は見下しながら叫ぶ。
﹁口をあけて咥えろ。隣の女みたいに咥えるんだよ﹂
僕は口元に押し付けられたディルドを追い払うように首を振る。抵
抗せずには居られない。
男は叫んだ。
﹁口をあけろ!痛い目にあいたいのか!﹂
106
僕は抵抗し続けた。すると、後ろに立つ男が頭から手を離し、僕の
股間を蹴り上げた。股を開いて膝立ちしている僕の陰部に男の固い
靴がめり込む。
﹁ぎゃーーーーーー!!!!﹂
陰部に走る痛みで悲鳴をあげた。目の前には光の虫が飛んで見える。
悲鳴を上げて開いた口に、開口マスクの中から突き出たディルドが
ねじ込まれた。前に立つ男はチャンスと言わんばかりに強引にマス
クを顔に押し付ける。鼻と口を塞ぐマスクの内側のゴムが顔の肉に
食い込んで隙間を潰していく。それでも男は手を緩めない。ディル
ドの先が喉奥をつく。吐き気がする。オエッと嘔吐した胃液はディ
ルドの隙間から口の外へ溢れ出すが、口元をマスクが塞いでいるた
め、再び口の中に流れ込んでくる。暴れる僕の事など構うことなく
男は陰湿に何度も喉奥にディルドを突き刺す。涙が自然と溢れ出て
きてマスクの外側を伝い足元へ落ちていく。後ろに立つ男は、マス
クについたベルトを絞めていく。前から後ろへベルトを絞め、そし
て、上下にずれないように、顎下から頭頂へベルトを締め上げる。
じきにどんなに頭を振ってもマスクはピクリともずれないように頭
に固定された。
男が僕の元を離れた。
マスクの中はむせ返るようなアンモニア臭が胃液の臭いと交じり合
い、更に、古いプラスチックから放たれるワキガのような臭いが交
じっていて呼吸する事すらためらうほどだ。天井から伸びる排水管
に繋がれたチューブは口の中のディルドに繋がっていて、そのディ
ルドの先からちょろちょろと不味い味の液体が流れ出てくる。ディ
ルドの先は、喉奥の少し手前まで押し込められている。舌を少し動
107
かせば、ディルドが喉ちんこを刺激して、一気に吐き気がこみ上げ
てくる。
パルは背後で声をあげた。
﹁残りは大便器の二人だな。お前たち見ていただろ。抵抗しても時
間の無駄だんだよ。俺はこんな臭い所から早く出て行きたいんだ。
だから大人しくマスクをつけろよ。おい、聞いてるのか!クズ女、
お前の事だ!﹂
そう言うと、うつ向いて怯えている雫の背中に靴底を押し当てるよ
うに蹴った。
﹁ヒッ!﹂
雫は驚き、身震いした。
パルは雫の背中を軽く蹴りながら部下の男に言った。
﹁この頭の足り無さそうな女を排水管に繋げ﹂
二人の男が雫の前後に立った。
雫は震えながら目の前に立つ男に言った。
﹁言う通りにします。だから痛くしないで。⋮恐いの﹂
男は雫を見下して言った。
﹁なら大人しく口をあけろ。もっと、もっとだ﹂
雫は男の顔を見上げぎこちなく口を開ける。男は天井から垂れる排
水パイプに垂れ下がった開口マスクを手に取り、その内側から突き
出しているパイプの先を雫の口にあてる。
僕と佐奈に付けられたマスクと外見は同じようだが、内側から伸び
るパイプの太さが全く違った。拳ほどある。僕と佐奈はペニスサイ
ズのパイプを咥えて苦しんでいるというのに、あのパイプを咥える
108
事を思うと背筋に寒気が走る。雫は口を開けたままマスクの内側を
チラリと見たが、汚いマスクの内側から突き出す太いパイプに驚い
たようで、すぐに視線を逸らして涙を流した。マスクを持つ男がパ
イプの先を雫の口に当てがうが、口よりもパイプの方が太いため中
に入らない。
いら
マスクを持つ男は苛ついた口調で雫に言った。
﹁もっと口を開け!入らないぞ!もっとだ。おい、真面目にやれよ
!﹂
雫は男の顔がみるみると怖くなっていくのが分かった。頑張って開
あご
いていた口を閉じると男の機嫌を伺うように小さな声で言った。
﹁これ以上は開かないの。顎が外れるわ﹂
男は雫に冷たい視線を向けて言う。
﹁そうか。なら顎を外せ!顎が外れても死ぬわけじゃないからな、
後ではめればいいだけだろ﹂
雫は悲痛な表情で答える。
﹁!!!?酷い。何て事いうの?⋮何でそんな目で見るのよ?まさ
か本当に顎が外れてもそれを咥えろと???﹂
男はマスクの内側から突き出したパイプを早く口を開けと言わんば
かりに雫の閉じた口に押し当てる。
雫は首を振ってパイプの先を口元からどけて叫んだ。
﹁狂ってる!あなた達狂ってるわ。イヤ!いつき助けて!見てない
で、ねぇ、何とか言ってよ。助けてよ!﹂
そしていつきの方を向く。
いつきは困った。雫をどうにかしてやりたかった。けれども拘束さ
れていて、逃げる事も抵抗する事もできない。それに、これまでの
有様を見て、恐怖し、少しでも火の粉が我が身に降りかからぬ事を
109
祈るだけの臆病者に成り果てていた。それでも、いつきは雫の顔を
みて、大好きな雫を見捨てるわけにはいかないと僅かな勇気が湧い
た。振り返ると、平静を装ってパルに言った。
﹁なぁ、パル、雫はもう限界なんだ。俺もクタクタなんだよ。この
まま、こんな事されたら死んじまう。もう許してくれよ!!!﹂
パルは無表情でいつきの背後に立つといつきを睨んで叫んだ。
﹁外野は黙ってろ!﹂
そして、いつきの横顔を力いっぱい蹴飛ばした。いつきの体は横に
吹き飛んだが、天井から垂れる手枷が、体が倒れ込むのを阻む。口
から血が流れ出した。蹴られて口の中が切れたのだ。いつきはうつ
向いて痛みに苦しんだ。
﹁やだ⋮。いつき、ねぇ⋮大丈夫?聞こえる?﹂
雫が震えた声でいつきに声をかける。
いつきは返事をしない。いつきは暴力の恐怖に支配されていた。も
はや抵抗する気はおきない。雫を守る気力は完全に失われた。
パルはそんな雫に言った。
﹁お前、俺の命令よりも、この男の事の方が重要だってのか?許さ
ねーぞ!早くそのマスクのパイプを咥えろよ!﹂
﹁無理です。本当に無理なんです﹂ 雫は泣きながら答える。
パルは雫に言った。
﹁無理じゃねーよ!やれよ!その太さのパイプじゃないと糞が詰ま
るだ﹂
パルは雫に嫌気がさしたようで、振り向くと後にいた部下に言った。
﹁開口器を持ってこい。馬用のでかいヤツだ﹂
110
部下の男は部屋の隅に置かれている棚から金属フレームで作られた
巨大な開口器を持ってくると、雫の後ろに立つ男に渡した。
パルが雫に言う。
﹁口が開かないなら開けてやるよ。人用の開口器じゃ顎が外れるま
では開かないからな﹂
そして雫の前後に立つ男に続けるように言った。
男の手に渡された巨大な開口器を見た。開口器は金属のフレームで
できていて、馬の頭に被せて固定しておき、開口部を前歯の奥に差
し込み、その横に付くハンドルを回す事で口を強制的に開く構造と
なっている。馬の強い歯の食いしばりさえも無理やりこじあける事
ができる開口器、その見るからにオドオドしい開口器を、男が雫の
頭に被せようとしていた。
﹁口を開け﹂目の前の男が言う。
雫は叫んで暴れた。
﹁イヤッ!ヤメテ!!!死ぬ!本当に死んでしまうわ!!!ギャー
ーー!﹂
ドスッと鈍い音がした。雫の前に立つ男が靴先で雫の腹を蹴り上げ
こら
たのだ。雫は痛みで﹁ウッ﹂と声をあげて固く目を閉じてうつ向き、
歯を食いしばるって痛みを堪える。腹が痛くて呼吸ができない。少
し痛みが引くと口をあけて荒い呼吸を始めた。男たちは、その開い
た口に開口器を差し込むと、一気にハンドルをまわして口を開いて
いく。ハンドルを回す度に逆回転防止用の歯車がカタカタを音をた
てる。雫の口は人の口とは思えないほど広げられた。目を見開き、
血走った目で目の前の男を睨みつけて唸り声をあげる。その男は、
開口マスクを手に取ると、そこから突き出たパイプを雫の口にあて
がう。
111
﹁まだ入らねーな。もっと開いてくれ﹂雫の前に立つ男は後ろに立
つ男に言う。
カタカタと音をたてて雫の口がさらに押し広げられる。雫は斜め上
の壁の一点を見つめたまま、悲鳴とも唸り声が混じった叫びを上げ
た。
前に立つ男が、開口マスクの内側のパイプを口にねじ込んだ。パイ
プの先は柔らかな口の中の肉をえぐるように先へ進む。
﹁グゲーーー!!!﹂
獣のような叫び声が雫の口から漏れ響く。唾液が流れだし、涙と鼻
水が溢れだして泣き叫ぶ。綺麗だった顔は体液と無残に広げられた
口で原型を留めない。男は喉奥までパイプをねじ込むと開口器を外
した。押し広げられていた雫の口はパイプを隙間なく包み込む。前
に立つ男が開口マスクを雫の顔に強く押し付け、後ろに立つ男が頭
を前方に押し出して、マスクのベルトを締めていく。雫の叫び声と、
天井から腕に繋がれた鎖のジャラジャラという音だけがけたたまし
く響く。
雫を大便器に繋がる排水管に繋ぎおえ、男が雫の元を離れていく。
すかさず、パルが雫の背中を蹴った。
﹁顎が外れるって言ったな?外れてねーじゃねーか。死ぬって言っ
たよな?死んでねーじゃねーか。この嘘つき女め。二度とテメーの
言う事は信じねーからな﹂
雫はパルの言葉を聞いたかどうか分からない。苦しみで獣のように
叫び、悶ていた。
パルは顔を蹴られてグッタリとしているいつきの後ろに立った。そ
して、いつきを指さして部下の男に言った。
112
﹁こいつにマスクをつけろ。抵抗したら何をしても構わない﹂
113
第十八話 地下の肥溜め部屋︵三︶︵前書き︶
︻これまでのあらすじ︼
世界一の恐怖を体験できる﹁最恐館﹂は、拷問の苦痛と恐怖を体験
させる恐怖の館だった。
僕たち四人は地下の肥溜め部屋に居る。薄汚いこの部屋の上の階は
便所で、便器から延びる四本の配水管が僕たち四人の口に繋がれた。
114
第十八話 地下の肥溜め部屋︵三︶
僕たち四人の口は便器に繋がる排水管にそれぞれ繋がれた。僕と佐
奈は小便器から延びる配水管に、いつきと雫は大便器から延びる配
水管に口を繋がれた。
ボスのパルの合図を受けて、部下の男が部屋の片隅にあるレバーを
操作すると、金属が擦れ合う音がして足元の金網が下がり始める。
ひざまず
便所から出る汚水を溜める水槽の上に被せられた金網、それは僕た
つがい
ちが今、跪いているその金網が下がり始めたのだ。金網は僕たちの
座る後ろ側に番が付いていて、壁側が下に押し開くように、ドロリ
とした汚水をかき分け沈んでいった。
また
ひざまず
僕たちの股の下には鉄棒が水槽を跨ぐように取り付けられている。
僕たちはその鉄棒を跨ぐように跪いていたので、体の体重を支えて
いた金網が沈むと、股の下の鉄棒で全体重を支える事となった。追
い打ちをかけるように、足首に巻きつけられた鎖の先につくコンク
リートブロックが水槽の深くに沈んでいき、足を引っ張る。
﹁ウギィィィーーーーー!﹂
股間に食い込む鉄棒に僕たちは悲鳴を上げる。開口マスクで口が広
がっているため声は出ず、動物のような悲鳴だけが漏れる。
真っ裸な僕たち四人は拷問部屋の奥の壁に向かって、等間隔に並べ
られていて、床の高さの位置にある鉄棒を跨いでいる。目の前には
便器に繋がる金属製の配水管があって、途中から柔軟性のあるチュ
ーブが接続されており、その先に付く開口マスクが僕たちの口元に
115
緩みなく取り付けられている。口の中には配水管につながるパイプ
が突き出していて喉奥の少し手前まで押し込まれている。天井から
垂れる金属製の手枷に繋がれた両腕は、斜め四十五度の角度で開い
ていて、若干腕を曲げられるほどの余裕しかない。両足は足先から
膝までが冷たい汚水の中に浸かっている。足を動かせば、ドロリと
した汚水の中に海藻のような固形物がまとわりつく。そして、足先
に吊るされたコンクリートブロックが振り子の先についたオモリの
ように、足を動かした方向に引っ張っていく。すると、股間に食い
込む鉄棒が更なる痛みを加える。
部下の男たちは僕たちの頭の上に垂れている鎖の先に鈴を取り付け
た。
準備が終わったようだ。ボスのパルが後ろで立つ部下に言った。
﹁上の階に行って、もう便所は使ってもいいと言ってこい﹂
苦しむ僕たちはその言葉を聞いて、一斉にパルの方を振り返った。
やめてくれ!と叫ぶが声にはならない。
パルが僕たちに言った。
﹁ブーブーとうるせー便器だな!いいか、お前たちは明日の朝まで
ここで便所の汚水を飲み続けるんだ。簡単だろ?水を飲んで、ケツ
の穴から出すだけだ。寝ながらだってできる、そうだろ?﹂
そしてニヤリと笑う。
パルの話が終わるや否や、天井から延びる配水管がゴゴゴと音を立
てて震え出した。僕たちは一斉に自分たちの前の排水パイプを見上
げた。右から二番目の大便器に繋がれたパイプだけが震えていて、
直ぐに雫の口の中に排水が流れこんだ。雫は口に流れる水から逃れ
るようと、手足をばたつかせる。手をマスクに伸ばそうとするが届
116
かない。
パルは雫の後ろまで歩み寄ると言った。
﹁小便器じゃなくて、お前が初めの犠牲者か。糞をして、流すのを
待っていた奴がいたみたいだな。ほら、流れて来る水を全部飲め。
早く飲まないと呼吸できないぞ﹂
雫は強制的に開かれた口に次々と流れ込む排水でパニックになって
いた。肌とピッタリと密着した開口マスクが口と鼻を塞いでいるの
で水がどこからも漏れていかない。水はマスクの中の空気を押しの
け、目の前の透明なパイプを水で満たしていき、所々に、糞やチリ
紙が見える。飲んでも飲んでも水が減っていかない。息がだんだん
苦しくなってくる。
﹁飲め、飲め、飲め!!!﹂ パルが後ろでまくしたてる。
雫のスラリとした腹がみるみると膨らんでいく。苦しそうに体をば
けんすい
たつかせる。見開いた血走った眼を天井に向けた。そして、天井か
ら両手首を吊るしている手枷の鎖を力の限り掴むと、懸垂するよう
に体を持ち上げはじめた。腕を振るわせながら体を徐々に持ち上げ
ていく。体が三十センチほど浮きあがると、頭の上に吊るされた鈴
に頭が触れて、ジャラジャラという鈴の甲高い音が部屋の中に響き
渡った。
その様を見ていた僕たち三人にパルが言った。
﹁お前ら、よく見ておけよ。これが﹃鯉のぼり﹄だ。ほら、鯉が滝
を上っていっているみたいに見えるだろ?空気に飢えた人間はこう
やって体をばたつかせて空気を得ようともがくんだ。口の位置がパ
イプに溜まっている水の水面よりも高くなると、わずかに空気の空
間がマスクの中にできる。鯉のぼりをすると、その空気にありつけ
117
るんだ。腕の力続く限りな﹂
雫はわずかに呼吸すると、苦しみによってあふれ出てきていた腕の
力が抜けて落下した。ゴンという鈍い音がして、雫の股間が鉄棒に
打ち付けられると、その痛みでのたうち回る。そこに追い打ちをか
けるようにパイプに残っていた排水が喉奥に流れ込む。雫は、人と
は思えぬ形相となって悶えながら水を飲みほした。腹は妊婦かと思
うほどにパンパンに膨れ上がっている。
雫は水の無くなったパイプから、欲していた空気を荒々しく何度か
吸うと、無理して飲み込んだ排水を吐き出した。水はマスクからジ
ャバジャバと足下の水槽の中に流れ落ちていく。雫の腹が見る見る
うちに凹んでいった。雫はえずくいて、胃に残った水を吐き出して
いく。雫は全ての水を吐き出すと、うなだれて、肩で荒い呼吸をし
た。
雫の動きが一段落すると、パルは言った。
﹁大便器のマスクはな、排水を全部飲み干したら、水を吐き出せる
ようになってるんだ。ただし、出ていくのは水だけだ。汚物は出て
いかねーからちゃんと食うんだ。一つ、教えておいてやる。何度も
汚水を吐き出していたら、排水弁のフィルタに糞が詰まって水が出
ていかなくなる。そうなったら、全ての水を受け入れるしかなくな
る。まぁ本来のお前たちの仕事をするだけだ﹂
そして僕と佐奈の方を見て言った。
﹁小便器のマスクに排水機能はない。吐き出しても無駄だ﹂
その時すでに、僕と佐奈の繋がれた小便器に誰かが小便をしたよう
で、むせかえるような匂いの尿が、口の中のパイプの先から喉奥に
向かって流れこんでいて、その不味さにせき込んでいた。尿が流れ
118
こみ終わると、天井から延びる排水パイプがガタガタを震えながら、
水が流れ落ちてきた。僕たちは口の中につきこまれたパイプに吸い
付くように口を狭め、水の流れを緩めようとするがうまくいかず、
まるで亀頭を舐めるようにパイプの出口を下で舐めるようにして塞
ぎ、水を飲み込むと流れ込んで来る水を口に受け入れて飲み込んだ。
もが
徐々にマスクの中は水で満たされて呼吸が一切できなくなった。僕
たちは手足をばたつかせて藻掻きながら、何とか排水を飲み込んだ。
ホッとしたのもつかの間で、気持ち悪さがこみ上げてきて胃の中に
入った水を吐き出すものの、マスクの中に溜まっていくだけで息が
できない。そのため、吐き出した水を再び飲むしかない。
そうやってモタモタと排水を処理している間に、再び口の中に尿の
味が広がっていき、天井から伸びるパイプが震えだす。誰かが小便
器の水を流したのだ。僕は呼吸するために流れ込む水を必死で飲む。
苦しいとか、汚いとか言っている場合ではない。呼吸できない恐怖
を一度体験すると、本能がそれを記憶していて、是が非でもその状
況を回避しようと僕をつき動かす。
ジャラジャラと鎖がけたたましく音をたてる。音の出る隣を見ると、
小便器に繋がれた佐奈が﹃鯉のぼり﹄を始めていた。僕よりも体の
小さい佐奈の胃は排水が入らなくなっていた。海面から口を出して
呼吸するように、空気を求めて、腕に力を込め、体を浮かせていく。
頭上に吊るされた鈴に頭が触れて、ジャラジャラと音をたて、マス
クの中に僅かにできる水面で呼吸すると、落下した。股間に鉄棒が
めり込み、その痛みで獣ののような痛みを発すると、口に流れ込む
水に耐えかねて、再び鯉のぼりをはじめた。両目を見切らき、目の
前の汚れた壁を穴があくほど睨みつけている。そして水で膨れてい
た腹を更に膨らませて水を飲み込むと、深い呼吸をしながら落下し
て悶えると意識を失った。
119
それを見ていたパルが佐奈の背中に一本鞭を振り下ろした。
﹁グギャーーーーーー!!!!﹂
佐奈は悲鳴を発して意識を取り戻す。そして、ハッとしたように目
の前の排水管を見上げて泣き叫んだ。すぐに排水管は震えて水が喉
奥に吹き出してきたのだ。
もだ
こうして僕達四人は排水を飲んでは悶え、意識を失うと鞭で打たれ
て叩き起こされた。腹は、はち切れんばかりに膨れ上がり、背中に
は無数の鞭痕が刻まれた。何度か鯉のぼりして、汚水のたまる水槽
に足を突っ込んで落下したので、飛び散った汚水で体が汚れた。
いつの間にかパルとその部下はこの部屋からは居なくなっていて、
ただ一人の男が、気を失った僕らに鞭を振るっていた。僕たちはヘ
トヘトで、徐々に悲鳴も出なくなってうなだれていたので、時々男
は僕達を鞭打っては悲鳴が漏れる事で生存を確認した。
その頃には、誰かが鳴らす鈴の音を聞くだけで、鯉のぼりの時の空
気を求める苦しさが有り有りと蘇り、まるで自分の排水管に水が流
れ落ちたような錯覚が襲った。
男は小便器の排水管に繋がれた僕達が死なないように﹁排水﹂と呼
ぶ作業を時々行った。それは、僕達の腹がパンパンになって、これ
以上水を飲めそうになると行われた。僕は隣の佐奈でその様子を見
ていた。
男は、二メートルほどある棒を二本持ってきて、両手にそれぞれ持
った。その棒の先は、金属製のフックがついていて、そのフックを
佐奈のつける開口マスクの左右についているO字型の金具に引っ掛
120
けた。男は片足立ちになると、浮かせたもう一方の足の裏を佐奈の
後頭部に押し付けると、開口マスクの金具を力いっぱい引き寄せた。
すると、口の中のパイプが喉奥に突き刺さり、胃の中に溜まった水
が吐き出される。普段であればマスクの中にその水が溜まるだけだ
が、O時型の金具を引いている時は、マスクの排水口が開き、水が
外に出ていく仕組みとなっていた。こうして、﹁排水﹂処理を行っ
て胃の中を空にしたら、再び小便器の排水管として機能させられる
のだ。
大便器にはこの﹁排水﹂はない。大便器に繋がる開口マスクは全て
の水を飲み干せば、吐いた水が自然に排水される仕組みとなってい
るためだ。
どれだけ時間が経ったか分からない。何時間も時間が経過したよう
にも思うし、幾分も時間が経っていないようにも感じられたその時、
これまでとは異なる事態となった。
大便器に繋がれた雫は鯉のぼりを終えると動かなくなった。男が何
度も雫を鞭打つがピクリとも動かない。白目を向いて低い唸り声を
上げるだけだ。
﹁ちっ、壊れたか﹂
男は舌打ちすると、めんどくさそうに歩くと、壁につく電話をダイ
ヤルして言った。
﹁二番便器が故障しました﹂
直ぐに何人かの男が部屋の中に入ってきた。
雫の下だけ金網を元に戻し、足場を作ると、うなだれた雫の口につ
く開口マスクを外した。そして手足の拘束を外すと、床に寝かせた。
大きく開かれた口には糞や紙の汚物が詰まっていて、閉じることが
121
できない。見開かれた白目に時々、黒目が左右別々の方向を向いて
動きまわる。
尻はブリブリと音を立てて、水の混じった便を垂れ流していて、膨
れ上がった腹から汚水を排出しようとしているようだった。
男たちは、そんな雫の両足をつかむと床をひきずって、部屋の外へ
連れ出した。
かろうじて意識のある僕達三人は、その惨たらしい様をみて、震え
上がった。雫のような無様な姿になるまでこの部屋から出られない
と理解したためだ。
幾分も経たぬ間に、大便器に繋がれたいつきも﹁故障﹂してしまい
部屋から連れだされた。
男たちは戻ってくると、小便器に繋がれた僕と佐奈を鞭打ち、意識
がある事を確認すると言った。
﹁大便器の奴らが早々に故障しちまって困ってるんだ。小便器は無
くても困らねーが、大便器は無いと困るんだよ。ボスに言われてる
んだ。お前らの繋がれていない便器は使うなってな。お前たちは、
俺の権限で大便器に昇格さえてやる。ありがたく思え﹂
男は佐奈の拘束を解いた。二人の男が佐奈の両脇を抱え、大便器へ
繋がった排水管の方へ引きずっていく。佐奈は抵抗するが弱り切っ
た体は動かず、僅かに体をばたつかせると直ぐに大人しくなって、
引きずられていく。男たちは佐奈を一番右端の排水管へ繋いだ。開
口マスクの内側から突き出る太いパイプを口にねじ込められ顔を歪
めるも大人しく運命を受け入れたようだが、直ぐにうめき声を上げ、
体をばたつかせ始める。
122
僕も同じように佐奈の隣に引きずられていき、手足を拘束された。
そして開口マスクを取り付けられた。そのマスクの内側は雫が飲み
込み損ねた糞が隙間なく詰まっていたので、僕は糞の山に口をねじ
込まれるようにしてマスクを取り付けられた。もはや逃げるという
当たり前の感覚は無くなっていて、為されるがままだ。そして、マ
スクをつけられてから、息ができない事に気がついた。口の中に突
き刺されたパイプは便が詰まっていて、吸おうが、息を吐こうがビ
もが
クリともせず、外気が一切入って来ない。僕は直ぐに鯉のぼりを始
めて藻掻いた。後ろに立つ男に、呼吸ができない事を訴えたかった。
けども、男たちはそんな僕の苦しみなどこれっぽっちも気にする様
子などなく、もっと苦しめ!と言って鞭を食らわせてくる始末だ。
隣では佐奈の口に便器から流された排水が流れこんでいて、最後の
力を振り絞るかのように鯉のぼりを始めていた。死んだ魚の目のよ
うな佐奈の目が宙を舞っている。
鎖の擦れる音に混じって佐奈の鳴らす鈴の音が聞こえる。その恐怖
がこみ上げる音を聞きながら、酸素を失った僕は、意識を失った。
123
第十九話 半田ごて付き貞操帯
ここは⋮どこだろう?
おぼろげ
重い瞼を開いた僕は、視界の中に朧気に映る景色を眺めながら、自
分が何者かを思い出し、現状を認識しようとした。
僕は鉄格子の檻の中でいた。打ちっぱなしのコンクリートの上に薄
いマットレスが敷かれていて、その上で横になっていた。檻は四帖
ほどの広さだ。床から天井まで太い鉄製の柵が周囲を囲っている。
ぼやけていた視界が次第とはっきりしてくる。
左の檻の中には佐奈が横たわっていて、さらにその奥には雫が、一
番向こうにいつきがいた。僕たちは、隣り合った檻の中に一人づず
閉じ込められている。みんな裸だ。檻のある殺風景なこの部屋には、
他に誰もいない。倉庫にあるような簡易な蛍光灯が所々についてい
て明るいが、一方で部屋のみすぼらしさを鮮明にしている。
ここに来る前の記憶をたぐった。僕は確か肥溜め部屋で便所の汚水
を飲まされた。そこまで思い出すと、生々しい苦しみの記憶が次々
と蘇てくる。急に息苦しさを覚えて飛び起き、荒い呼吸をした。顔
を手で触り、腕を触り、自分の体が自由に動く事に安心すると、脱
力して再び横になった。あんなに汚れていた体は綺麗に洗われてい
たが、鼻をつく汚水の香りが今も目の前に立ち込めているような錯
覚がして気持ち悪い。
横たわる佐奈は僕の意識が回復した事に気づいたようで、鉄格子の
124
間から手を伸ばした。僕を何かが突き動かした。その手を是が非で
も取らなければならない気がしたのだ。鉛のように重い体に力を込
めて転がると、佐奈の細い指先に触れた。僅かに触れ合う指先から
温もりが伝わり、生きている事を実感する。それは佐奈も同じなの
だろう。日本人形のように表情を失っていた佐奈の顔が、徐々に人
間らしさを取り戻していく。
僕は佐奈の腕をたぐり寄せるようにして近づくと、鉄格子越しに横
たわる佐奈を抱きしめた。僅か数センチのところに佐奈の顔があっ
て、疲れきった顔につく澄んだ瞳が僕を捉えている。僕はその瞳に
吸い寄せられるように更に佐奈に近づくと、本能に突き動かされる
ままに佐奈の唇へキスをした。佐奈は抵抗する事も無く目を閉じて
キスを受け入れた。幾分かして佐奈の柔らかな唇が離れると、佐奈
は少し微笑んで囁くような細い声で聞いた。
﹁私の事、好き?﹂
うなづ
絞るように出された小さな声は、確かにそう言った。僕は頷くと佐
奈を抱きしめた。僕は佐奈の事を何も知らない。つい数時間前に知
り合ったばかりだ。けれども、僕は佐奈が好きで仕方なくなってい
た。
そんな幸せな時間を切り裂くように叫び声が聞こえた。ボスの女の
マクルだ。
﹁役立たずのクズども!起きな﹂
部屋の扉が開き、マクルが何人かの男を引き連れて近づいてくる。
檻の前に立つと言った。
﹁なに寝そべってるんだよ。正座しな。罰を受けたいのかい?﹂
そう言うと手に持つ警棒を鉄格子に叩きつける。床から天井まで伸
125
むしば
びる鉄格子が震え、甲高い音が部屋の中に響き渡った。僕たちは怯
えてその場に正座した。既に僕達を奴隷根性が蝕んでいて彼らの命
令に背く気力は無くなっていた。
黒いパーティドレス姿のマクルが檻の前を歩きながら話す。美しい
顔に透き通るような青い瞳のマクルが近づくと甘い香水の香りが汚
れた僕達を浄化するように包む。
﹁お前たち、肥溜めから逃げ出したんだってね。パルはお怒りだよ。
アタシもね、仕事を途中で投げ出すような人間が大嫌いなんだよ。
いたぶ
口先だけの人間は特にね。まぁ、アタシはアンタ達に何にも期待し
ちゃいない。クズだって知ってるから。だからこそ心痛めずに甚振
ることができるってもんさ。言っておくけど、これまでの拷問はお
遊びだからね。あんなの拷問じゃない。五体満足でいられる拷問な
んて拷問とは言わない﹂
僕達四人に緊張が走り、恐怖で体が強張った。これまで散々苦しん
だのに、それがお遊びだなんて。小悪魔的な表情のマクルを僕たち
は苦悩の表情で見上げた。
マクルが話している間に、部下の男たちは部屋の棚をあけて、中に
収納されている鉄の器具を四つ取り出し、僕らの入る檻の前に置い
た。
マクルは一呼吸置くと話を続ける。
﹁明日の朝、二度鐘が鳴る。初めの鐘は起床の合図だ。その三十分
後に二度目の鐘が鳴る。その時までに、この貞操帯を付けて正座し
ておくこと。二度目の鐘の後、アタシはここへ来るからね。その時
までに、できていない者には罰を与える。アタシ達の罰がどんなに
辛いか経験してるお前たちには分かるだろ?﹂
そう言うと床に並べられた鉄製の貞操帯を指差した。
126
それはT字型をした貞操帯だった。力士がつけるフンドシのような
形をしているが重そうな鉄製で古びている。貞操帯はまず金属製の
腰ベルトを腹回りに巻きつけて締めるようになっている。尻の割れ
つがい
目の上辺りからは、股間部を閉じるためのU字型の金属が伸びてい
る。U字型の金属は、腰ベルトとの接続部分が番となっているため、
は
自由に開閉できるようになっている。その金属を股下に密着するよ
うに持ち上げて正面の結合部に嵌め込む事で閉じるようになってい
る。
腰ベルトの左右には短い鎖に繋がれた鉄製の手枷が口を広げてる。
そしてなぜか電源コードが貞操帯から伸び出ている。
マクルが貞操帯の一つを重そうに両手で持ち上げると説明をはじめ
た。
﹁貞操帯は男用と女用があって、どちらにも半田ごてが取り付けて
ある。内側に突き出す半田ごての先を性器に突っ込んで貞操帯を閉
じるんだ。男用にはチンコの位置に筒がついている。そこにチンコ
を差し込むんだ。その筒の中に半田ごての先が突き出ているから尿
道に突き刺せ﹂
そう言ってペニスに見立てた指先を筒の内側に差し込んだ。マクル
はニヤリと笑うと男用の貞操帯を床に置いて、隣の女用の貞操帯を
手にとった。
﹁女用にはマンコの位置に半田ごての先が突き出ている。マンコに
差しこむんだ﹂
マクルは股間部に突き出した半田ごての先に握った拳を包むように
突き刺して見せた。
127
﹁そして、隙間ができないように貞操帯を閉じろ。鍵は明日の朝ア
タシ達が閉める。そこまでできたら、貞操帯の左右についている手
枷に腕を通して閉じるんだ﹂
マクルは貞操帯を閉じて見せ、手枷を閉じると、女用の貞操帯を床
に置いた。
﹁以上だ。分かってると思うが、装着を誤魔化せるなんて思わない
事だね。できてない奴にはきつい罰が待ってる﹂
マクルはそう言うと、うつ向いて乱れたストレートの銀髪をかき上
げて片側の耳にかけると、不敵な笑みを浮かべて話を続けた。
﹁明日から本当の拷問を味あわせてあげる。明日の夜には、誰一人
として五体満足でこの場にいないだろう。アタシは優しいから教え
ますかき
ておいてやるよ。このうちの何人かは性器がぶっ壊れて二度と使い
物にならなくなる。せいぜい人生最後の枡掻を楽しんでおくことだ
ね﹂
檻の中で正座して大人しく話を聞いていたいつきが叫んだ。
﹁待ってくれよ!なんで俺たちがそんな目に合わなきゃならないだ。
俺たちが怪我したら、それこそ死んでみろ、お前たち、ただじゃ済
まないぞ。警察が黙っちゃいない﹂
マクルはいつきの檻の前に立って楽しそうに話す。
﹁警察ねぇ。大体、テロリストのお仲間のアンタ達に、国家権力が
味方するとでも思ってるのかい?社会のゴミのアンタ達を始末する
アタシ達は正義なんだよ。誰もとがめたりはしない。例え、お前た
ちがテロリストの事を何も知らなかったとしてもね。⋮アタシには
分かる。たぶんお前たちは何も知らない。いいんだよ、それで。ア
タシ達だって生きていかなきゃいけないからね、金がいるのさ。だ
から軍から金を貰ってお前たちを拷問する。そして、酷く苦しんで
128
死んだ死体を軍の奴らに返す。ただそれだけの事さ。アンタ達の死
体を見せながら、アタシ達が汚れ仕事を真剣にやったんだっていう
誠意を示すことができればそれでいいんだよ。そうすりゃ、軍の奴
ら納得するのさ。情報を得られなかったのは残念だ、けど、この国
のために日の当たらない仕事をよくやってくれたって言ってくれる、
褒めてくれるんだ﹂
いつきが立ち上がり、檻の格子を掴んで叫んだ。
﹁なに!?そんな茶番、まだ言ってやがるのか!馬鹿にするのもい
い加減にしやがれ!ここから出せ!おい、聞いてるのかよ!﹂
鉄格子を挟んだ僅かな距離で、凄い剣幕で叫ぶいつきに、マクルは
微動だにしない。マクルを見下すいつきを見上げると、高らかに笑
った。
﹁ははははっ。その威勢、いつまで続くかしらね。明日、お前が悶
え苦しむ姿を楽しみしてるわ﹂
そう言うと、いつきに背を向けて部屋の外へ消えて行った。
檻にしがみつき暴れるいつきに、部下の男が棒状のスタンガンを格
子の間から突きつけた。
﹁ギャーーーーーー!!!!!﹂
いつきが悲鳴をあげてその場にかがみ込んだかと思うと、脱力した
ように床に伏した。男はその隙に檻を開けて、貞操帯を投げ入れた。
ゴトンという鈍い音を響かせて貞操帯が床に転がる。
男は、残り三人の檻をあけて、同じように貞操帯を投げ込んだ。そ
して仕事を終えると、僕達に何の興味を示す事もなく部屋から去っ
て行く。
129
扉が締まり、施錠する音が部屋の中に響くと、息を潜めていた静け
さが部屋を覆った。
130
第二十話 鉄格子越しの性交︵前書き︶
︻これまでのあらすじ︼
世界一の恐怖を体験できる﹁最恐館﹂は、拷問の苦痛と恐怖を体験
させる恐怖の館だった。
僕達四人は鉄格子の檻の中にそれぞれ入れられていた。
檻の中には半田ごての突き出た貞操帯が転がっている。ついさっき、
マクルが置いていったものだ。明日の朝の鐘が鳴る時までに貞操帯
から突き出た半田ごての先を性器に突き刺して装着しなければなら
ない。
マクルは言っていた。
﹁明日から本当の拷問を味あわせてあげる。明日の夜には、誰一人
として五体満足でこの場にいないだろう。アタシは優しいから教え
ておいてやるよ。このうちの何人かは性器がぶっ壊れて二度と使い
物にならなくなる﹂、と。
131
第二十話 鉄格子越しの性交
明日はさらに酷い拷問を受けるなんて、まるで実感がわかない。た
だ、ふつふつと恐怖が込み上げてきて、震えが止らない。僕はここ
で死ぬの?なぜ?どうしてこうなった?答えのない疑問が込み上げ
てきて頭が張り裂けそうだ。
目の前には、おどおどしい金属製の貞操帯がコンクリートの床にゴ
ロリと転がっている。半田ごての鋭利な切っ先がペニスを差し込む
管の中から突き出していて不気味な光沢を放っている。明日これを
付けなきゃいけない。付けないとどんな酷い目に合わせられること
か⋮けれど貞操帯を付けると僕のペニスは⋮壊されるに違いない。
マクルが言ったセリフが次々と蘇ってくる。明日の今、誰一人とし
て五体満足では居られない。死ぬまで拷問される⋮。信じたくはな
いが、今この場の代えがたい現実が変化する事もなく、今日から明
日へとただ続いていく未来しか思い描けない。考えが悪い方、悪い
方へと向かっていく。
いつきと雫が背後で言い争う声が聞こえる。
﹁いつき、嫌だよ!こんなところで死にたくない﹂
﹁それは俺の言うセリフじゃねーかよ。お前が、ここに来たいって
言ったんじゃないか!どうするんだよ!﹂
﹁ごめんなさい。私、こんな所だとは知らなくて⋮﹂
むせび泣く雫。いつきが怒りに任せて貞操帯を壁に投げつけた。ボ
わず
ーリング球ほどの重量のある硬い金属製の貞操帯が壁のコンクリー
トにヒビを入れ、床にドスリと落ちて転がった。コンクリートは僅
かに剥がれたが、貞操帯はビクともしない。
132
僕は貞操帯がコンクリートに打ち付けられる大きな音で我に返り、
いつきの方を振り向いた。暴れるいつきの隣の檻で、頭を抱えて怯
え座り込む雫の姿があった。いつきの視界に怯える雫が入った。愛
する雫が自分に怯えている事に気づいたいつきは、恥じたようだ。
振り上げていた拳を力なく下ろし、鉄格子越しに雫を抱きしめた。
佐奈は僕の隣の檻の中で座り込んで呆然と二人の様子を眺めていた
が、二人がキスし始めたため、目のやり場に困ったようで、こちら
に顔を向いた。
僕は立ち上がった。佐奈の檻とを隔てる鉄格子に近づくと、佐奈に
手を伸ばした。佐奈は不安そうな顔に無理やり笑顔をつくって同じ
ように立ち上がると、僕の手を取るのではなく、体へ抱きついた。
鉄格子のひんやりとした冷たさと佐奈の柔らかな肌の暖かさが伝わ
ってくる。
僕からはいつきと雫が見えていたが、佐奈は二人に背を向けている。
僕は佐奈を抱きしめながら二人を眺めていた。いつきは裸の雫の秘
部に手を伸ばして愛撫をはじめた。それから二人がセックスを始め
るまでにそう時間はかからなかった。
佐奈は二人を見る僕を見上げた。そして、いったい何を見ているの
だろうかと僕の視線を追うように振り返ろうとしたが、なんとも説
明しがたい気まずい状況になりかかっていたため、佐奈の頬に手を
伸ばして撫でるように手を這わせると、顎を軽く持ち上げ、小さな
唇にキスをした。佐奈は少し驚いたように大きな目を僕に向けたが、
直ぐに目を細めると僕の唇を味わうように口を僅かに動かした。
佐奈は二重の可愛らしい瞳をとろけさせながら不安に満ちた僕の顔
133
を観察すると、その柔らかな唇を少し離し、ポツリと言葉を口にし
た。
﹁大丈夫よ⋮私たちは無事にここから出られるわ﹂
佐奈は僕を勇気づけようとしたいるようだ。男の僕がしっかりしな
きゃならないのに何てザマなんだ。僕は情けない恥ずかしさを隠す
ように﹁好きだよ﹂と佐奈の耳元で呟いてキスをした。そして示し
合わせたかのように舌を絡めた。
明日、性器が壊されるかもしれないという恐怖が僕達の生存本能に
よこしま
火をつけた。子孫を残せる可能性が少しでもあるなら、精子を女の
マンコに注ぎ込みたい、そんな邪な感情と、佐奈が好きでたまらな
いという感情が同時に込み上げてき、疲れた僕の体を突き動かす。
僕の視界にはいつきと雫が絡まり合い、愛しあう姿が映っていた。
僕は思っている事を素直に口にした。
﹁佐奈、君のことが好きでたまらない、死ぬ前に君がほしい⋮愛し
合いたいんだ﹂
佐奈は顔を赤らめながら﹁うん﹂と頷くと、僕に体を預けた。
僕は鉄格子越しに佐奈の腰を抱き寄せ、ペニスを佐奈の秘部に合わ
せた。見つめ合うと、何度もキスをした。佐奈の陰部は愛液で濡れ
はじめ、僕の勃起したペニスを包み込みはじめる。陰部をすりあわ
せているうちに、佐奈の膣が僕のペニスを受け入れた。にゅるりと
入っていく。腰を振ると、佐奈が溶けそうに体を悶えさせて荒い呼
吸をする。
向こうからは雫の喘ぎ声が聞こえてきた。雫はそれを聞いて、安心
したように、口から声を漏らした。
134
﹁あっ、あっ⋮あぁ、気持ちいい。はると、愛してるよ。もっと私
を愛して﹂
そう耳元でささやくように声を上ずると、僕から離れぬようにしが
みついた。
肩に顔を埋めて感じている佐奈を覗き込むと、可愛らしい喘ぎ超え
をあげる口にキスをして舌を絡ませ、腰を振った。佐奈の膣のヒダ
が僕のペニスを程よい強さで包み込み、この上ない快楽をもたらす。
腰を引くと膣口はペニスを逃すまいと亀頭を締め付け更なる快楽を
僕に与える。僕はその快楽に思考の全てを奪われて、膣の奥へペニ
スを突き戻す。その度に佐奈は喘ぎ声を上げ、開いた口から僕の舌
を逃すまいと、唇を密着さえて、僕の口の中で舌を絡める。佐奈が
僕の全てを求めているのが分かった。
快楽が絶頂に達し、膨張したペニスから精液が溢れ出そうになる。
それを必死に堪えて、我慢の限界で射精した。ドクドクと脈打つペ
ニスに合わせて快楽が頭を満たしていき、目の前が真っ白になる。
佐奈は僕がイッた事が分かったようで、動きをとめた僕の動きに代
わるように、腰を動かし、全ての精子を膣で絞り取ろうとする。そ
れがくすぐったくも気持ちいい。
勃起収まらぬペニスを佐奈は包み込んだまま言った。
﹁もっとやって﹂
佐奈は体に力が入らないのか脱力して崩れていく。立っていた僕達
は溶けるように床に膝をついた。僕はペニスを佐奈の膣に入れたま
ま、力の抜けた佐奈の腰を引き上げ、バックの姿勢を取らせた。そ
して、先ほど、射精した精子を掻き出すように腰を振った。
目の前には同じようにいつきと雫がバックの体位でセックスをして
135
いて雫が喘ぎ声をあげている。
佐奈はその様を恥ずかしそうに見ながらも、同じように喘ぎ声を上
げ始めた。
﹁あっ、あっ。イクッ!﹂
そう言っては逃げるようにして膣からペニスを抜こうをするが、僕
は佐奈の逃げる腰を押さえつけて離さない。佐奈がイクと、膣がピ
クピクと痙攣しながらペニスを締め付ける。その快感を味わうと、
佐奈の腰を逃す気には到底なれない。その快楽を味わうために更に
腰をふって佐奈をイかせる。そして締まる痙攣する膣に激しくペニ
スをこすりつけ射精した。小刻みに震える膣が精子を奥へ奥へと絞
りとっていく。
佐奈は、僕の精子を全て吸い込むと、力尽きてその場に倒れ込んだ。
体を震わせて息をしてイッた快楽の余韻に浸っている。
佐奈は這うようにこちらに向くと
﹁気持よかったよ、はると﹂
と言って微笑み、まだ勃起する僕のペニスをチラリと見て笑った。
﹁足りない?﹂佐奈は言う。
﹁最後にお願いがあるんだ。口でしてほしい﹂
僕が言うと佐奈は頷いた。嫌そうではなかった。
僕は立ち上がると鉄格子の間からペニスを突き出した。
佐奈は鉄格子を両手で掴んで膝立ちになると、ペニスを口に含んだ。
上目遣いで僕を見ながら、頭を前後させる。閉じられた唇が亀頭を
刺激し、舌が裏筋を舐める。気持ちいい。射精して敏感になってい
るペニスが心地よさに包まれていく。
136
徐々にもっと奥にペニスを突き込みたいという欲望が出てくる。佐
奈の頭をつかみペニスを奥へ奥へと差し込む。
苦しさで苦痛に歪む佐奈の顔を見ても不思議と罪悪感が込み上げて
こない。佐奈を見下して、頭を押さえつけ、ペニスを喉奥にねじ込
む。男として備わっていた支配欲求が溢れ出て来て止らない。
佐奈は嗚咽してペニスを吐き出したが、すぐに佐奈の口にねじ込ん
だ。佐奈の目に涙がたまって頬を流れる。それでも佐奈は僕に服従
してペニスをできるだけ離さない。佐奈の頭を鉄格子の間に力の限
り引き寄せて、喉奥めがけて腰をふる。根本までしっかりと咥えさ
せる。
射精感が込み上げてきた。膨張したペニスを喉奥につきたて、いき
そうだと佐奈に伝える。佐奈はもうひと頑張りと、喉奥にペニスを
受け入れた。喉奥がヒクヒクと震え、射精を促す。僕は精巣に残っ
た全ての精子をぶちまけるつもりで、佐奈の頭を力の限り引き寄せ
て喉奥に射精した。この上ない快感だ。
全てを出し切ると、口からペニスを抜いた。佐奈の唇からどろりと
した精子が流れ落ちる。
僕ははっと我に帰って佐奈を抱きしめた。佐奈の顔は涙と胃液でグ
チャグチャだった。
﹁ごめん。酷い事をするつもりはなかったんだ。気持ちよくて頭が
どうにかなってた﹂
﹁いいんだよ。はるとが気持ちよかったならそれでいいんだ﹂
佐奈は汚れた顔で微笑んだ。
僕は鉄格子の隙間から佐奈の唇にキスをした。苦い精液の味がする。
137
気持ち悪い。けど構わない。僕は佐奈が大好きなんだ。
離さない。この柔らかな温もりを誰にも渡しはしない。
僕たちは横になり再び抱き合った。
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第二十一話 ナイフ︵前書き︶
︻これまでのあらすじ︼
世界一の恐怖を体験できる﹁最恐館﹂は、拷問の苦痛と恐怖を体験
させる恐怖の館だった。
今、僕達四人は鉄格子の檻の中にそれぞれ入れられている。檻の中
には貞操帯が転がっていて、朝の鐘が鳴る時までに貞操帯から突き
出す半田ごての先を性器に突き刺して装着しなければならない。
僕は性器が破壊され、体が動かなくなってしまう恐怖に駆られ、鉄
格子越しに愛する佐奈を抱いた。何度も、何度も、力続く限り。
139
第二十一話 ナイフ
ゴーーゥウン⋮ゴーーゥウン⋮
遠くからコンクリートの壁を震わせて低いうなるような音が伝わる。
朝を知らせる鐘の音だ。
深い眠りに落ちていた僕は鐘の鳴る直前にはっと目覚めた。その瞬
間、僕の目覚めを見つけたように鐘の音が鳴り始めた。
僕は隣の檻で眠る佐奈を見た。鉄格子を挟んで手の届く場所で眠る
佐奈は、体液で汚れた薄いマットレスに顔を半分埋めていて、若葉
のように柔らかな肌を呼吸に合わせて微かに動かしていた。その安
らかな寝顔を見つめる僕の目の前で、佐奈は眠そうに眼を開いた。
そして視界の中に僕を見つけると、寝起きの顔を恥ずかしそうに隠
した。両腕に顔を埋めると床を転がって向こうを向き、一糸まとわ
ぬ躰を起こした。
僕たちは直ぐに覚悟を決めて行動しなければならない。三十分後に
はマクルがやって来る。それまでに半田ごての突き出す貞操帯を装
着していなければならないのだ。
僕はだるい上半身を床から剥がすように起き上がると、佐奈の居る
檻とは反対側を向いた。湿度を帯びた埃の積もる荒いコンクリート
の床の上に、金属製の貞操帯が転がっている。
これを着けるなんて嫌だ。寝起きの胃がぎゅっと締め付けられる。
けれど拒否しても逃れる事が不可能である事はこれまでの経験から
140
分かっていた。もはや僕らの頭脳は、彼らの要求に従いながら、い
かにして苦しみを最小限に留めるか、それを考えるためだけに働い
た。今やるべき事はこの貞操帯をマクルの指示通り着けて罰を受け
ないことだ。
重厚な鉄で作られた貞操帯に手をかけた。冷たく重い金属を掴み引
き寄せる。床の凹凸で貞操帯をガタガタ言わせながら引き寄せ、上
から覗き込んだ。ペニスを収める筒が貞操帯の前方から外側へ付き
出していて、その先からは半田ごての電気コードがだらしなく垂れ
出している。貞操帯の内側から見える筒の内側にはアイスピックの
ように尖った半田ごての先が見えた。これをペニスに挿したら、ペ
ニスを失ってしまい、もう二度とセックスはできなくなるだろうと
いう恐怖がこみ上げる。五体満足で今日は終わらないと言ったマク
ルの言葉が蘇える。僕たちはこれから体のどこかを失ってしまうん
だ。
体が自由に動く残された少ない時間。
僕は振り向いた。そこには床にペタリと座り込み、貞操帯を手に途
方に暮れている佐奈の姿があった。それは溶けかかった雪だるまの
ように消えゆく運命を静かに受け入れようとしているかのように見
えた。
僕は貞操帯を投げ捨てて佐奈を呼んだ。
﹁佐奈!﹂
佐奈がこちらを向く。僕は叫んだ。
﹁愛してる、愛してるんだ!最後にもう一度だけHしたい。このま
ま死にたくないんだ!﹂
141
佐奈は驚いたような表情をしたが、立ち上がると僕達を隔てる鉄格
子に駆け寄った。
﹁私も!早く来て。時間が無いわ﹂
僕は佐奈の元に駆け寄ると抱きしめ、キスをして、体を密着させた。
まさぐ
佐奈の匂いがする。ペニスがみるみるうちに勃起してきた。佐奈の
陰部に手を伸ばし、内側を弄ると湿り出している。愛撫なんて必要
ない。僕はペニスを佐奈の中に押し込んだ。腰を振る。
佐奈は吐息のような喘ぎ声をあげながら僕の瞳を見つめて聞いた。
﹁ハァハァ⋮ねぇ、はると、ここから出たら、私と付き合ってくる
?ずっと一緒にいてくれる?﹂
﹁付き合うよ。離さない﹂
ひげ
それを聞いた佐奈は、少し髭の生えかかったザラリとした僕の顔を
柔らかな手で触れ、目を潤めると噛みつくように激しいキスをした。
種族維持本能が最後の働きをするかのように、この上ない快楽を僕
達にもたらし、確実な射精へと導いた。僕が死んでも、佐奈は生き
残るかもしれない。その僅かな望みにかけて。
﹁イク!﹂僕が叫ぶと﹁私も﹂と佐奈も答える。
突き抜けるような射精感。佐奈の膣の奥深くに精液がドクドクと流
れ出た。昨日、枯れるほど射精したのに、これでもかというほど精
液が放出された。
僕たちは尽き果てたお互いの顔から、まだ知らない魅力を探るよう
に観察しあい、見つめ合うと、キスをして僅かな時間、舌を絡めて、
離れた。やるべき事はやった。種族維持本能の衝動は跡形もなく消
え失せて、生き残るための生存本能が暴れだす。
142
少しでも長く生きるためには、貞操帯を付けなければならない。
次の鐘が鳴るとマクルがやってくる。それまでの残された時間がい
かほどあるか分からない。
僕と佐奈は言葉を交わす事もなく貞操帯の元へ向かうと、膝をつい
て座り、貞操帯の腰ベルトを骨盤の上で巻きつけた。前方の金具の
中に緩みないようにベルトを押し込む。鍵穴の付くその金具はカチ
カチと音を立ててベルトを飲み込んでいく。ベルトの端はノコギリ
のような刃型になっていて、一度締まると、二度と緩まない。
金属の冷たいベルトが腹の肉に食い込む。これでいいのかと戸惑う
時間は無い。股間部を締めるU字型の金具が、貞操帯の後ろに垂れ
下がっている。それを尻の割れ目にはめ込むように引き上げる。ペ
ニスの位置には外側に金属の筒が付き出している。精液と愛液で乾
ききらぬペニスの亀頭を手でつかみ、尿道を広げ、筒の中から不気
味に突き出す半田ごての先にあてがった。アイスピックのように尖
った半田ごての先を尿道の奥に進めながら、筒の中にペニスを挿し
ていく。怖くてたまらない。自分で自分を壊そうとしている。けれ
どもやるしかない。尿道に残る精液のヌメリが潤滑液の働きをして
尿道に痛みはない。時々、チクチクとするも、何とか根本までペニ
スを筒に差し込み終えた。
U字型の金具を完全に持ち上げ、端を前方の金具の中に差し込む。
カチカチと音を立てて、金具が締まる。U字型の金具が、尻の割れ
目に食い込み、睾丸を体の中にめり込ませる。これ以上、持ち上が
らないほどに股下の金具を締めた。
最大の難関を終えた僕は、隣の佐奈を見た。腰ベルトをして、片手
で大陰唇を開き、U字型の金具から突き出た半田ごての先を膣に挿
そうとしていた。手で広げた膣口から、先ほど射精した僕の精液が
143
半田ごての先を伝って流れ出てくるのが見える。佐奈は、精液が流
れ出るのを防ぐかのように、半田ごての先を押し込み、股下のU字
型の金具を前方で締めた。
ゴーーゥウン⋮ゴーーゥウン⋮
二度目の鐘が鳴り響いた。
すぐにマクルがやって来るだろう。僕は慌てた。両手を貞操帯の左
右から伸びる手枷に収めなければならない。腰の右側から伸びる手
枷に右手首を入れて左手で閉じようとしたが、固くて閉じる事がで
きない。貞操帯の重さでよろけるように立ち上がると壁に向かった。
そして、壁と貞操帯で金属製の手枷を挟み、力任せに手枷を閉じた。
ガチリと鈍い音がしてロックがかかった。反対側の手も同じように
して手枷に繋いだ。
うろた
準備はできた。安心して、佐奈の方に視線を向けると、手枷を閉じ
ることができずに狼狽えている。僕がこちらを見ている事に気づく
と焦りからか早口に喋った。
﹁閉じる事ができない。どうしよう⋮﹂
﹁こっちへ﹂
僕は佐奈に叫ぶように言うと、佐奈を僕たちを隔てる鉄格子の所に
呼び寄せた。そして、ズシリと重い手枷を不自由となってしまった
手で佐奈の腰から伸びる手枷を掴むと手首を挟んで閉じた。そして、
反対側に向かせて、もう片方の手も閉じた。ふと罪悪感がこみ上げ
る。この手で佐奈の自由を奪った事にいたたまれない気持ちとなる。
けれども仕方のない事だ。
佐奈が安心したような表情をした。僕は佐奈に言葉をかけようとし
たちょうどその時、外へ通じる扉の鍵を開ける音が聞こえた。
144
マクルだ。マクルが来たのだ。
扉の方に眼をやろうとした時、いつきと雫が視界に入った。貞操帯
を付けて凍りついたような表情で正座する二人の姿があった。
僕と佐奈は互い反発しあう磁石のように、その場を離れると、重力
にまかせて座り込んだ。
間一髪で間に合ったと思う。扉の方を見ると、開いた扉からヒール
を履いたマクルの足先が見えていた。
マクルは何も言わずに部屋の中に入ってくると、僕たの檻の前まで
来て、その前を歩いた。僕達が指示通りに貞操帯を付けているかを
確認するように鋭い視線を向けて歩いていく。カツカツと音を立て
るヒールの音のリズムが狂う度に良からぬ事を言われるのではない
かと緊張が走る。指示通りにできているか不安で仕方ない。
僕の不安をよそにマクルは僕に背を向けて部屋の中央に歩いて行っ
た。
﹁いいだろう﹂
マクルはポツリと呟くと、マクルと共に入ってきた男たちに目配せ
した。
男はマクルの前の床に、持参した首枷を広げた。鉄製の四つの首枷
が鎖で直列に繋がれていて、首枷の内側からは無数の棘が突き出し
ている。
男達は、貞操帯をつけて正座する僕達を檻から連れ出すと、首枷の
前に座らせて、おどおどしい首枷を僕達の首に巻つけた。僕たち四
人は一本の鎖で繋がれた。左からいつき、雫、佐奈、僕の順だ。男
145
は貞操帯に緩みがない事を確認すると、前方に付く鍵穴に鍵を差し
込みロックした。
マクルの後ろで男たちが忙しそうに動いている。ある男は天井から
鎖を吊るし、また別の男は部屋の隅に置いてあった机を持ってくる
と、棚から取り出した金槌や釘、ペンチやナイフを並べはじめた。
血の気を失って恐怖に満ちた表情に変わる僕たち。そんな僕たちと
は相反するようにマクルは満足そうな表情浮かべた。
﹁この部屋、相当臭うね。セックスしたんだろ?気持ちよかったか
い?アタシの計らいでお前たちは天国のような快楽を最後に味わえ
たんだ。感謝しろよ!けど、もう二度とお前たちに幸せは訪れない。
アタシがそうさせない﹂
マクルはそう言うと、後ろの机に並べられた拷問器具の中からサバ
イバルナイフを手に取った。そしてこちらを向くと刃先を指で弾き
ながら言った。
﹁このナイフにフェラしてくれる献身的な人はいない?こんな体じ
ゃ自慰する事すらできないってのに、あの棚の中でお前たちの快楽
にひたる様を見せつけられていたんだ。可哀想だと思わないかい?﹂
腕を突き出すとナイフの先を僕たちの方へ向けた。
曇り一つなく鏡のように光るナイフの刃先を僕たち一人ひとりへ向
けていく。
こんな研ぎ澄まされたナイフを口にふくんだらどうなることか。背
中から汗が吹き出す。
床に座る僕たち四人は誰も何も答えず動かない。うかつにマクルか
ら視線を外す事もできず、ただその場に固まって息を殺した。
146
﹁なんだ。冷たい奴らだね﹂
マクルはため息混じりにそう言うと、横に立つ部下の男に言った。
﹁こいつらに目隠しを﹂
四人の男が手にハチマキのような黒い布でできた目隠しを持って近
づいてくる。自然と身がひけ、体が逃げようとする。それを制する
ようにマクルが叫んだ。
﹁動くな!はじめに動いたヤツにはこのナイフをしゃぶってもらう
からね。泣くんじゃないよ。すすり声一つ立ててみな、口にナイフ
をねじ込んでやる﹂
静止する僕たちを男たちが目隠ししていく。
視界は遮られた。僅かに明るい光が見えるだけだ。顔面に浮き出る
汗を目隠しの布が吸い取り、湿り気を帯びてくる。
﹁全員、口をあけろ﹂
マクルが叫ぶ。
僕は仕方なく指示に従って口を開く。
僕たちの前をマクルが歩く。コツコツと鈍く響くヒールの音。淀ん
だ空気に混じる香水の香り。
僕の前に足音が近づくと遠ざかる。そして、左の方でヒールの音が
止まった。
いつきが静かな部屋を切り裂くように悲鳴を発した。
﹁ギィィーーーー!!痛い!口が!うぅぅぅ⋮頼む!やめてくれ!
殺さないでくれ!!!﹂
ジャラジャラと鎖を揺する音が鳴り響く。
147
マクルが声を強めていつきに言った。
﹁殺さないでくれ?ねぇ、昨日の威勢はどこへ行ったんだい?どう
せアタシの話、聞いて無かったんでしょ?お前は死ぬんだよ。ここ
でなっ。でも心配しなくていいよ。人はそう簡単に死なないからさ。
だから、ほら、シャブれよ。咥えろよ。ナイフに歯を立てんな!﹂
﹁こいつを押さえつけて﹂
マクルが部下の男に言う。
﹁ウグッ!ギィ痛い!ウグッ!ウウウウ﹂
男が、暴れるいつきを押さえつける。そのバタついた音に混じり、
いつきが悲鳴をあげている。
﹁もっとはやく頭を動かせないかなぁ。そんなんじゃナイフ君、射
精できないよ﹂
マクルが嫌らしい声色を出してまくし立てる。
マクルは怒ったように叫んだ。
﹁お前ら、誰が口を閉じて良いって言った!﹂
僕はハッとして閉じかかっていた口を開いた。いや、閉じかかって
いたと思うだけで開いていたのかもしれない。そんな単純な自分の
感覚でさえ、いつきに襲いかかっている惨事の恐怖で意識からかき
消されていた。僕は高い崖の淵に追いやられているような恐怖の中
にいたのだ。
﹁すごい。赤い我慢汁が出てきたよ。ほら、口を閉じて吸えよ!舌
を使え!はははっ﹂
マクルが嬉しそうに言う。 ﹁ギャァァァァ!!!!﹂
いつきの高い悲鳴が聞こえたか思うと、のたうち回りながら、うめ
148
き声をあげる。マクルはそんないつきを置いて再び歩き始めた。
マクルが部下の男に言った。
﹁こいつらにボールギャグを噛ませろ﹂
男が僕のボールギャクの玉をねじ込んだ。プラスチックの味がする。
男は僕の頭の後ろでボールギャクのベルトを締めた。カチャリとい
う金属音が聞こえる。たぶん南京錠で錠をしたのだろう。
﹁さぁ、次は⋮アタシに耳を差し出してくれる子はいない?名乗り
出るヤツは好きなだけ声を出していいよ﹂
マクルが楽しそうに言いながら、僕たちの前を歩く。何度か僕たち
の前を歩いた後、立ち止まると残念そうに言った。
﹁何だ。誰も名乗りでないのね。誰か立候補しなよ。ゆっくり丁寧
に切り落としてやるからさ。じゃなきゃ全員の耳を削ぐよ﹂
そう言われて名乗りでる者がいる訳がない。誰だって耳を失いたく
ない。沈黙が走る。誰も声を出さない。苦しみ悶ていたいつきでさ
え声を出さない。
マクルの足音が僕の前で止まった。そこから動かない。
僕の全身から汗が吹き出した。顔を伝う汗が床に落ちる。心臓はバ
クバクと高鳴る音を響かせた。
不安は現実となった。マクルが僕の右耳の上部を掴んだのだ。汗で
マクルの手から耳が離れたが、マクルは逃すまいと爪を立てて耳を
掴む。
だめだ、マクルに耳を切り落とされる!頭はパニックで叫び声すら
出ない。恐怖の縁で覚悟を決めて歯を食いしばった。だがマクルは
予想外の事を口にした。
149
・・
﹁ああ、もうこんな時間か。上の部屋でボスがお前たちと話したい
そうよ。続きはその後でしようじゃないか。せいぜいボスに命乞い
して来な。どうせ無駄だと思うけど。はははははっ﹂
マクルは高らかに笑いながら、僕の耳から手を離す。そして、つま
らなそうに部下に言った。
﹁こいつらを上へ連れて行きな﹂
僕は死刑宣告されたように生きた心地がまるでしていなかった。僕
の耳を掴んだのは、そこから、つまり僕の耳を削ぐところから続き
を始めるという事なのか、それとも別の意味なのか、まるで分から
ない。脅しなのか?できればそうあってほしい。耳を切られる痛み
がどのようなものかは分からないが酷い痛みなのだろうと想像した。
それと替わるように、耳が無い状態で開放された時の事を想像して
身震いした。耳を失ったら、何食わぬ顔で人前に出られなくなる。
きっと皆、汚い物を見るような目で僕を見るんだ。
幸いにも最悪の時は伸びた。ボスのパルのおかげで、今、耳を失う
事は免れた。僕はパルに深く感謝し、恐怖の中で胸を撫で下ろした。
150
第二十二話 出口を求めて
首枷で一列に繋がれた裸の僕たちは、今までいた檻の部屋を出て、
ボスの居る部屋へ向かっている。先頭では部下の男が首枷に繋がる
鎖を引いていて、その鎖に、いつき、雫、佐奈、僕の順で首が繋が
っている。
目隠しされていて周囲が見えない。そんな僕たちに繋がる鎖を先頭
を行く男が強引に引く。男は急いでいるようだ。男が鎖を引くと鉄
製の首枷の内側から飛び出た棘が首回りに食い込んで痛むので歩み
を早めざる負えない。文句を言おうにもボールギャグを噛まされて
いるため喋る事はできない。
腰と股に取り付けられた分厚く幅広い金属製の貞操帯が足を閉じる
のを阻むためガニ股で歩いていたが、次第に柔らかな内股の皮膚が
ゴツゴツした貞操帯の縁に擦れて痛み始めた。そのため、今では酷
いガニ股で歩いている。
僕たちが歩むたびに鎖が擦れる音が響く。
コンクリートの床を歩いたかと思うと、病院の床に貼られたリノニ
ウムのようなツルリとした場所を歩き、ゴツゴツとした石の階段を
登る。素足に床の感覚が伝わる。何度もけつまずき、タンスの角に
指をぶつけたような痛みによろけなりながら歩く。手でよろける体
を支えようとするも両手は腰から僅かに伸びる手枷で繋がれている
ため役に立たず、壁に肩を激突させた。それでも首輪に繋がる鎖は
容赦なく引かれる。苦しくても立ち止まる事などできない。首輪の
内側から無数に生えた棘が僕たちの首を貫くのを今か今かと待って
151
いるのだ。
冷たい空気と暖かな空気の漂う空間を幾つか超え、その先にある部
屋に入った。閉め切った音楽室のように埃っぽく淀んだ空気に満た
されていて温かい。目隠しで見えないがここが目的の部屋だと分か
った。これまでの冷たい床とは違って暖かな木製の床だったし、僕
たちを繋ぐ鎖が放つ冷たい音が柔らかみを帯びたように小さくなっ
たからだ。これまで歩いて来た殺風景であろう場所とは違い、周囲
には人の使う物があって音を吸収したのだろう。
首を引く鎖が緩んだ。僕たちを引き連れて歩く男は立ち止まったよ
うだ。
ふと背後に気配がしたかと思うと誰かの手が頭に触れた。その手は
僕の目隠しを外す。
開けた視界の中に四人の男女が映った。僕たちと同じように裸で首
を枷で繋がれていて、疲れきった顔で部屋の中央の長椅子に座って
いるではないか!四人はボールギャグを噛まされた顔をこちらに向
けて驚きの表情を見せた。目隠しを取られた僕たち四人も同じよう
な顔で彼らを見た。
彼らの周囲には五人の男が立っている。黒い布で全身を覆っていて
顔は見えないが背丈からして男だ。
先頭で僕らの鎖を引いていた男は、部屋の中央に三つ並べられた長
椅子に僕たちを運んだ。一番前の長椅子には、今しがた目を合わせ
た四人がいる。その後ろの長椅子に僕たちは連れていかれた。長椅
子は駅のホームにあるようなもので、一人づつ腰掛けるようになっ
ており、左右には低めの肘掛けが付いている。肘掛けは金属製で弁
当が置けるほどの広さがある。座と背もたれは木製で焦げ茶色の塗
152
料が表面を覆っている。三列に並ぶ長椅子の間隔は広く、二メート
ルは有りそうだ。
僕たちは鎖を引く男の指示通りその椅子に座る。
座ると分厚い貞操帯の底が尻に食い込んで痛かったが、しばらく尻
を動かしていると、座の中央に空けられた長細い穴に、股下を覆う
貞操帯の金属がスッポリと収まった。そのために違和感なく座れる。
座るや否や黒ずくめの男たちが僕たちに近寄ってきた。肩に手をか
けると背もたれに背中をつけさせた。背もたれは木製なので冷たく
もなく、疲れた体を安心してあづけられた。貞操帯が背もたれにふ
れる部分には座と同じように穴が空いているため背中をぴったりと
つけてもたれる事ができた。
僕たちの椅子の背後で黒ずくめの男は動き回る。
彼らは貞操帯を椅子に固定しようとしていた。貞操帯の後ろ側に溶
接された金属の筒と、背もたれの上下に付くO字型の筒を一直線に
なるように合わせると、L字型の鉄の棒を上から下に差し込んだ。
鉄の棒は、椅子、貞操帯、椅子の順で貫く。棒はL字型のため一定
以上は落下しない。
僕たちはこうして長椅子に固定された。手枷に阻まれて背後に手が
回らない僕たちは椅子から立ち上がって逃げる事ができなくなった。
だが、その事に気づくのは少し後になる。僕たちの意識は、背後で
何かやっている黒ずくめの男ではなく、今置かれている部屋の理解
へと向けられていた。この部屋に何が置かれているかで次に我が身
に降りかかる災難が決まるからだ。
153
前方の長椅子には右側から男女男女と座っていた。僕は一番左端で、
目の前は女だ。背を向ける女の美しかったであろう長い黒髪は、不
揃いに切り刻まれて乱れていて、毛先は焼け焦げたように縮れてい
むし
る。その隣で座る男の眉毛は無くなっていて、短い髪の毛は所々が
毟り取られたように禿げており、そこに見える頭皮は赤く腫れてい
る。その右側の女の背中は何度も鞭打たれたのかどす黒く内出血し
てる。よほど痛いのか背もたれからわずかに背中を離している。右
端の男の背中も同様だ。左耳からは血が流れ出して固まった痕が首
元までついている。皆痛々しい。
おそらく彼らも最恐館に来た客なのだろう。そう思った瞬間にハッ
と我に返った。僕は拷問されて酷い扱うを受けている間に今の環境
に飲み込まれていた。ここは最恐館の中だという認識が徐々に失わ
れていて、パルとマクルに殺されるのを待つ虫けらのような存在な
んだと思い込んでいた。確かに僕は昨日まで普通の人間として生活
を送っていたのだ。その日常の感覚が急速に戻ってくると、次第に
気分が高揚した。なぜなら僕たちの他にもここには仲間がいる。八
人も仲間がいるんだ。それに対して敵はたった五人。僕たちの方が
数で優位だ。
冷静に周囲を見渡した。教室ほどの広さの部屋だ。木の床と柱でで
きていている。壁の上半分は、やや黄ばんだ漆喰で塗られており、
下半分は木板だ。窓は無い。正面には十字架が掲げられていて、そ
の手前に、白い石で作られたマリア像がひび割れながらも、一段高
い位置に立てられている。ここは祈りの間のようだ。天井はアーチ
状で、青空を舞う天使が描かれており、所々に西洋風のランプが灯
る。僕たちの座るそれぞれの椅子の上には手元灯であろうか、傘の
ついたオシャレな長細い裸電球がぶら下がっているが明かりは灯っ
ていない。気品溢れる部屋だ。
154
右側の壁を見た。そこにはただ一つ、黒い鉄製の扉があった。逆方
向を見た。部屋の左には白く塗られた木製の扉があり﹁EXIT﹂
と印字された白いプラスチック製のプレートついている。僕はその
文字を見るなり心の中で叫んだ。
!?! 出口だ! 出口がある!
この扉から逃げ出す事ができればこの苦しみから開放されるんだ!
その溢れんばかりの喜びが僕を奮い立たせた。喜びを佐奈に伝えよ
うと右隣に座る佐奈を見た。佐奈も出口の扉を見ていたが表情が浮
かない。喜ぶ僕と視線を合わせると、うつ向き、腰から伸びる手枷
を揺すった。そして顔をあげると拘束されているから逃げられない
わと言いたそうな視線を僕に向けた。その通りではあるが、今逃げ
ないと本当に殺されてしまう。最恐館がまともな所でない事はこれ
までの経験で痛いほど分かっている。これは二度とない脱出のチャ
ンスかもしれないのだ。
後ろの扉が開く音がした。僕たちがこの部屋に入って来た扉だ。椅
子に座る僕たちは一斉にそちらを振り向いた。そこには、四人の男
女が僕たちと同じように貞操帯をつけて鎖で繋がれていて、驚いた
ような表情を僕たちに向けた。その口はやはり僕たちと同様にボー
ルギャグで塞がれていた。
彼らは僕たちの後ろの長椅子に連れて来られて座らされた。
部屋の中央に三列に置かれた長椅子が埋まった。
僕は彼らに興味を抱かなかった。脱出する方法を考えるので頭が一
杯だったからだ。立ち上がって出口のドアに向かうためには僕たち
四人を繋ぐ首枷が邪魔だ。四人同時に行動する必要がある。手の自
由は殆ど効かないため黒ずくめの男たちに襲われたらひとたまりも
155
ない。
そうこう考えていると、黒ずくめの男のうちの一人が正面に立ち、
しわ
頭にかかる頭巾を取った。舞踏会で着けるようなマスクが目を覆っ
ているため人相は分からない。顔には皺が刻まれていて、薄くなっ
た白髪が頭を覆っている。老人だった。骨格は細く骸骨のようだ。
この男なら不自由な体でも倒せそうだ。残りの四人はどんな男なの
だろう。
その四人の男は紙の束の山を両手で抱えて僕らに近づいた。そして、
椅子の左右にある肘掛けのようなテーブルに、数百枚の紙が糊付け
された日めくりのような紙の束を順に置いて行く。僕は近づく男の
人相を観察した。どいつも筋肉質の若い男のように見える。こいつ
らから逃げるのは大変そうだ。そう思いながら彼らが置いて行った
紙の束に印刷されている文字に目をやった。
−−
嘆願書
/
希望せず退場します。
私は最恐館のアトラクションの継続を
希望します。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︵どちらか一方を○で囲むこと︶
氏名
−−
156
第二十三話 絶望の選択 ︱膣焼き︵前書き︶
︻これまでのあらすじ︼
世界一の恐怖を体験できる﹁最恐館﹂は、拷問の苦痛と恐怖を体験
させる恐怖の館だった。
拷問を受け続けた十二人の男女が祈りの間に集められた。僕はその
中の一人だ。
この部屋の左の壁には出口の扉があった。チャンスだった。今逃げ
出さなければ殺されてしまう。脱出方法を思考していた僕の前に嘆
願書が置かれた。
−−
嘆願書
/
希望せず退場します。
私は最恐館のアトラクションの継続を
希望します。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︵どちらか一方を○で囲むこと︶
氏名
−−
157
第二十三話 絶望の選択 ︱膣焼き
椅子の広い肘掛けに置かれた日めくりのような紙の束。その上に乗
るボールペーンを払い除け、印刷内容に目を通すと、僕は喜びに震
え上がった。震えが止らぬ手で紙をめくる。何枚めくっても同じ内
容だ。
最恐館のアトラクションはここで終わりだ!ここで客にサインをさ
せて出口を出る、そういう事なんだ。あぁ本当に怖かった。けれど、
それもここで終わりだ!僕はそう理解した。
喜びに満たされたのは僕だけではない。周囲の誰もが希望に沸き立
ち、ボールギャグで塞がれた口から歓声を上げ、拘束されている腕
の拳を握りしめた。
僕はここから出て、隣に座る佐奈と付き合うんだ。既に愛を誓い合
い体を重ねた。これからは佐奈との輝きに満ちた日々が始まる。オ
シャレなカフェで笑い合って、街中の人目につかない所でキスをし
て、その愛くるしい笑顔を独り占めしながら、こんなに可愛い子が
僕の彼女なんだと世界中の人に自慢するんだ。
僕は灰色がかっていた日常を頭から消し去って、佐奈との甘い日常
で満たした。それは不可能な事じゃない。これから始まる僕たち二
人の未来なんだ。彼女もきっと同じ気持ちだろう。そう思った僕は
浮き立つ気持ちで隣に座る佐奈を見た。
⋮?佐奈は不安そうな表情で手元の嘆願書に視線を落としている。
喜びに満ちている僕がこちらへ向いたのに気づくと、嘆願書の束を
158
うなず
右手で傾けて見せ、恐怖に満ちた瞳を僕に向けた。僕はただ頷いた。
これを書けばここから出られるの?と言っているように思えたから
だ。佐奈は傾けていた嘆願書を元の位置に戻し、ボールペンを走ら
せた。そして、再び嘆願書を傾けて僕に見せた。
錆びた手枷が擦れて下半分が汚れてしまった嘆願書の右端に、
本当にここから出られる?
そう書かれていた。初めてみる佐奈の書く文字。彼女らしい丸みを
帯びた文字が、心境を物語るかのように小さく紙の隅に並ぶのを見
て、佐奈はまだ恐怖に囚われたままなのだと気づいた。長い間、籠
の中に閉じ込められていた鳥のように、望んだ元の世界へ戻る事を
忘れてしまっている。彼女の本能は、死ぬまで拷問されるというこ
の辛い世界に順応しようとしていて、楽しかった元の世界の記憶を
消し去ろうとしているのだと思った。僕は子供のように怯える佐奈
を今すぐに抱きしめて、かけられてしまった悪い魔法を解いてやり
たかった。
拘束されていて動けない僕は、精一杯の優しい表情を作って佐奈に
言った。
﹁心配しなくていい。終わったんだ。元の世界に戻れるんだ﹂
ボールギャグを噛まされているため、モゴモゴという音が口から出
ただけで言葉には成らない。けれども佐奈には伝わったと思う。佐
奈の曇った顔が少しだけ明るくなったからだ。
僕は意思を確実に伝えるために、手元にある嘆願書の退場の方に丸
をつけ、﹁終わったんだ。一緒にここを出よう﹂と書いて佐奈に見
159
せた。
僕の書く汚い文字を読んだ佐奈は、僕を見て、不安の混じる顔を無
理に引き締めると笑顔を作った。そして僕を信頼するかのように頷
くとボールペンを手に取り嘆願書に向かった。
浮足立つ僕の気持ちを後押しするかのように前に立つ老人が話し始
めた。
﹁お手元にある嘆願書をご覧下さい。最恐館のアトラクションの継
続を希望される方は﹁希望します﹂と書かれている方に丸をつけて
下さい。継続を希望されない方は﹁希望せず退場します﹂の方に丸
を付けて下さい。そして御署名をお願い致します。皆さんは望んで
ここへ来られたわけですから、継続される事と存じます。しかしな
がら、もしも退場される方がおいででしたら注意事項を申し上げま
す。契約書にも記しておりました通り、途中退場された場合の参加
費用はお返し致しかねます。また、一度退場が受理されますと、再
び継続する事はできませんのでご注意下さい。その他、退場に関す
る一切は契約書に準じさせて頂きます﹂
退場だ。そんなの決まってるじゃないか。僕は改めて意思を心で繰
り返した。これ以上続ける奴なんて頭のいかれた奴だけだ。僕は落
書きしてしまった一枚目の嘆願書を剥ぎ取って何百枚も連なる紙の
下に置いた。そして新しく現れた嘆願書の退場の方に丸を付けてサ
インをした。
やるべき事をやり終えた僕は佐奈を見た。佐奈と目が合った。彼女
は僕の行動を見ていたようで僕がこちらを向いた事を知ると、慌て
たように下を向いた。そして、僕と同じように一枚目の紙を剥いで
退場の方に丸をし、丁寧に自分の名前を書き始めた。僕の後に続い
160
て行動する佐奈を見ていると、頼りにされているようで嬉しい。
周囲を見た。裸で座る哀れな仲間達はペンを走らせ、安堵した表情
でペンを置いていく。
前に立つ老人は最前列に座る四人の前を歩き、嘆願書を書き終えた
事を確認すると一枚目を丁寧に剥ぎ取っていく。四枚の嘆願書を手
に持った老人は元居た真正面に戻るとこちらを向いた。一呼吸置い
て僕たち全員を見渡す。次の瞬間、老人は左手に持っていた嘆願書
をグシャリと握り潰し床に捨てた。そして何事も無かったかのよう
に喋り始める。
﹁お手元にある嘆願書をご覧下さい。最恐館のアトラクションの継
続を希望される方は﹁希望します﹂と書かれている方に丸をつけて
下さい。継続を希望されない方は﹁希望せず退場します﹂の方に丸
を付けて下さい⋮﹂
先ほどと同じ説明を喋り始めたのだ。家に帰る気で浮足立っていた
僕たちは凍ったように固まった。
周囲で立っていた黒ずくめの男達が、僕の前に座る四人の前に歩み
寄ってくる。黒ずくめは、裸の男女が装着している貞操帯の前方か
ら垂れ下がる電気コードを掴むと頭上に引き上げた。そこには傘付
きの透明な電球がぶら下がっていてる。明かりは灯っていない。男
は背伸びしてその傘を傾けると、隠れていたコンセントへコードの
先を差し込んだ。
座る四人の股から伸び出たコードは顔から十センチほど離れた位置
で、一直線に真上に伸びている。傘に入った切れ込みにコードがは
まるようになっていたため、傘は傾かず元の安定した位置へと戻っ
161
た。コードは貞操帯の内側で半田ごてと繋がっている。男は半田ご
ての先を尿道の奥深くまで差し込んでいるし、女は膣の中にアイス
ピックのようなコテ先を収めている。その半田ごてに電源が入れら
れたのだ。
透明なガラスで作られた長細い電球が微かに光り始めた。黒ずくめ
の男達はそれを確認すると離れて行く。
嘘だろ!?僕たちはパニックに陥った。前に座る四人は目の前で起
こった出来事に理解できぬように目を見開き、血の気の引いた顔で
互いを見合った。誰か状況を教えてくれ、何が起こった?どうした
らいいんだ?何かの間違いだよな?そうに違いない!他人の顔に滲
む不安な表情から何かを読み取ったように、四人は一斉に嘆願書へ
ペンを走らせた。前に立つ老人は、書き上げられた嘆願書を見つけ
ると、乱暴に切り取り、握り潰してその場に捨てた。
老人は口を開いた。
﹁お手元にある嘆願書をご覧下さい。最恐館のアトラクションの継
続を希望される方は﹁希望します﹂と書かれている方に丸をつけて
下さい。継続を希望されない方は﹁希望せず退場します﹂の方に丸
を付けて下さい⋮﹂
老人は退場する方に丸をつけた嘆願書の受け取りを拒否したのだ。
そうしている間にも四人の頭上に灯る電球は明るさを増して行く。
性器へ差し込まれた半田ごてが徐々に温まり始めたのだ。半田ごて
の先がカイロのように熱を帯びてくるのを四人は感じた。そして頭
上を見上げ、電球の明るさと半田ごての温度が連動している事を理
解した。
162
乾いていた四人の男女の肌から焦りの汗が滲み出してくる。ボール
ギャグで塞がれた口で老人に何かを叫ぶが声にならない。立ち上が
って逃げようとするが、椅子と固定された貞操帯はピクリとも動か
ない。鎖と繋がれていて僅かにしか自由の無い腕を強引に揺すって
藻掻くがガチャガチャという金属のすれ違う音が虚しく響くだけだ。
半田ごての温度は上がり続ける。温かくなった半田ごてが熱くなり
始め、四人は悲鳴を上げた。
それでも前に立つ老人は表情一つ変えずに同じ説明を繰り返し、恐
怖の中で裸の男女が書く嘆願書を破り捨てる。何度でも、何度でも、
終わらない。頭上の明かりは眩さを増した。
嘆願書の継続の方へ丸を付ければ、この苦痛から開放されるであろ
う事は皆、薄々想像できていた。けれども、これまで味わった地獄
の様な苦しみを続ける事などできようか。絶対に無理だ。その強い
意思が、嘆願書に何度も向かわせた。だがその強い意思も性器の中
で温度を上げ続ける半田ごての前では砕け散った。性器が熱で痛み
始めた。苦痛と性器が焼け焦げて使い物にならなくなる恐怖が四人
を襲った。
まずは右から二番目に座る女が、継続する方に丸をした嘆願書を書
いた。老人は、彼女の前に立つと嘆願書を丁寧に切り取り、内容を
確認すると、手に持つクリアファイルの中へ仕舞った。そして周囲
に立つ黒ずくめの男へ合図した。男は彼女の前まで来ると、背伸び
して半田ごての電源コードを抜く。煌々と灯っていた電球は消え、
何事も無かったように元の透明な姿へ戻った。女は電球を見上げて、
膣に突き刺さった半田ごての温度が上がっていない事を感じ取ると、
ほっとしたように大きなため息をつき、泣き始めた。黒ずくめの男
は、棘の突き出す鉄の首枷を女の首から取ると、椅子の後ろに挿し
てある貞操帯と椅子を固定するL字型の金具を抜き取った。二人の
163
黒ずくめの男は女の前に近寄ると、脇に手をかけて立たせ、右側の
壁にある黒い扉へと歩かせた。女は頭だけ僕たちの方へ向けて立ち
止まろうとする。一番右側に座る男に何かを言おうとしていた。け
ども男が強引に歩かせる。そして重そうな鉄製の扉を横に開くと、
暗い中へと連れ込んだ。
女が無事にこの窮地から脱出したのを見ていた三人は一斉に嘆願書
へ向かう。彼らの選択は継続だ。今すぐに開放されなければ性器が
焼け焦げてしまう。
老人は書き終えた嘆願書を右端の男から回収した。その後を追うか
のように黒ずくめの男が貞操帯に繋がるコードを抜いていく。嘆願
書を回収された男は修羅場をくぐり抜けて安堵のため息をついた。
そして体の力を抜いて背を丸めた時、右側の黒い扉の奥から女の悲
鳴が轟いた。
﹁ギャーーーーーー!!!﹂
空気を切り裂くような断末魔の叫び。何が起こったのか。椅子に座
ただ
る僕たちは一斉に黒い扉の奥に目を凝らした。けれども暗くて中は
見えない。けれども只ならぬ何かが起こった事は間違いない。その
後、何度か弱々しい悲鳴が聞こえてくると声はパタリと止まった。
その悲痛な叫び声を聞いた目の前の女は、今しがた書いた嘆願書を
切り取ろうとする老人の手を払い除け、自らの手で破り捨てた。継
続するのも地獄、退場するのも地獄、その苦悩に満ちた女の顔から
大粒の汗が吹き出して流れ落ちる。
﹁ぐぅぅぅううう⋮!!!﹂
164
女は明るく光る電球の下で膣の中に広がる痛みに唸り声を上げた。
女は帰りたかった。手を止め、出口の白い扉を苦しみに苛まれなが
ら見つめた。けれども、あまりの痛みに再びペンを手に取り、嘆願
書を書いた。退出、退出、退出⋮何度も何度も書く。その度に老人
は破り捨てた。それでも止めない。
女がペンを走らせ続けている間に、先に嘆願書を書き終えた二人の
男が次々と黒い鉄の扉の奥へ連れて行かれ、悲鳴をあげ、戻って来
なかった。女にとって継続する事は死を意味していた。
女の股間から細い煙が上がり始めた。半田ごてが女の膣を焼き始め
たのだ。こて先は、異常を感じて分泌される愛液を蒸発させ、膣壁
を炙り、流れ出た脂を一瞬で煙に変えた。痛みで女は暴れた。力の
限り体をくねらせ、腕をあらぬ方向に曲げ、貞操帯から逃れようと
えぐ
する。暴れると膣に突き刺ししているアイスピックのように鋭いコ
テ先が、柔らかな膣の粘膜を抉る。吹き出す血は半田ごての熱で沸
騰し、行き場の無い蒸気が、空間のある子宮に向かって進む。高温
の蒸気は子宮口の細胞を壊しながら奥へ奥へと進んでいく。
もが
女は退場を諦めた。苦痛から逃れるために継続する道を選んだ。嘆
願書を完成させ、老人を納得させようと藻掻く。息を止めてボール
ペンを握りしめるも、苦痛で腕が震えて文字とはならず、紙にぐに
ゃりとした曲線が描かれるだけだ。署名欄は描き重なったインクに
よって塗りつぶされていく。ペンが手から抜け落ちる。女はそのペ
ンを鷲掴みにするように握りしめると、紙を突き破りながら黒く塗
りつぶしていく。女は文字が書けなくなった自分に恐怖し、ついに
は、ペンを握る事すらできなくなった事に絶望した。女はそんな自
分を受け入れないかのように、嘆願書の束を床に払い落とし暴れた。
165
女の股間から薄く立ち上がっていた白い煙は、徐々に濃度を増して
いき、もくもくと煙を上げはじめた。部屋の中が白く霞みはじめ、
肉の焼けるおぞましい臭いが立ち込めた。
女はションベンを垂れ流した。その度に半田ごての温度が下がるの
か、明かりが弱まったがすぐに強まる。女は上を向いて、夏の日の
太陽のように煌々と照りつける電球を細い目で見つめて涙を流すと、
有りったけの力で叫ぶと、動かなくなった。白目を剥き、口に噛ま
されたボールギャグの間からブクブクと泡を吹き出し始める。
電球は女の魂を吸い尽くすように更に明るさを増しながらしばらく
の間輝くと、バリッというガラスが割れる音を立てて消えた。
電球の明るさでまだ目が眩んでいる。僕は、強く瞬きして、視界を
取り戻すと、目の前の椅子で仰け反っている女を見た。後ろに垂れ
た頭、顔が見える。その見開いた瞳の中にある血走った白目が僕を
見つめていて、今しがた流れ出したと思われる鼻血が、頬を伝って
涙と混じり、木の床にポタポタと滴った。
死んだのか?そう思った矢先、女が獣のような低い唸り声をあげ始
めた。女は生きていた。体を痙攣させて震わせている。けれども素
直に喜べない。女としての機能を失ったこんな体で意識を取り戻す
くらいなら、そのまま死んだ方が幸せなのではないかと思えた。も
し女が意識を取り戻して、白目を黒目に反転させた時、僕はどうい
う目で女と視線を合わせたらいいか分からなかった。
166
第二十四話 君と生きる ︱首吊り︵前書き︶
︻これまでのあらすじ︼
世界一の恐怖を体験できる﹁最恐館﹂は、拷問の苦痛と恐怖を体験
させる恐怖の館だった。
拷問を受け続けた十二人の男女が祈りの間に集められた。僕はその
中の一人だ。
これまでリタイアは受け付けられなかったが、僕らの座る目の前に、
継続するか退場するかを記す嘆願書が置かれたのだ。当然、退場だ。
皆がそう思った。
裸の僕たちは貞操帯を付けて椅子に拘束された。その貞操帯の内側
には半田ごてのコテ先が突き出していて、男はペニスに、女は膣に
鋭く尖った切っ先を収めている。
目の前に座る四人の半田ごてに電源が入れられた。退場を希望する
者は性器を焼かれ続け、継続を希望する者だけが苦痛から開放され
た。三人の男女は渋々拷問の継続を選択して、黒い扉の向こうへ連
れて行かれた。
残る一人の女は、退場を希望し続けたため、膣を焼かれ続けた。辛
うじて生きていてはいるものの僕の目の前で白目を剥いている。
167
第二十四話 君と生きる ︱首吊り
目の前に座る女の股間からは勢いを失った一筋の煙が乱れながら昇
り、室内を薄く煙らせる。人肉の焼けた臭いはおぞましくも香しい。
膣を焼けていく様を無表情で眺めていた老人は、女の前で屈むと床
に転がる紙クズを拾い上げた。くしゃくしゃに丸まった紙を広げる。
それは女が最後まで望み続けた退場の嘆願書だった。
老人は女に言った。
﹁退場を認めます。どうぞお帰り下さい、出口はあちらで御座いま
す﹂
左の壁にある白い出口の扉に手を向ける。けれども意識を失ってい
る女に聞こえるはずもない。老人は側で立つ黒ずくめの男達の方を
向く。
﹁お前たち、この女人をお連れなさい﹂
老人は枯れた声で言うと、手に持つ嘆願書を脇に抱えていたクリア
ファイルにしまう。
男は上を向いて白目を向く女の頭を掴むと、口を塞ぐボールギャグ
を外した。うつ向いた女の口から大量の唾液が流れ出し、青くなっ
た唇の間から舌が垂れ出る。次に金属製の分厚い首枷が外された。
内側から伸びる棘が皮膚を突き刺していて点々と出血している。
別の男は貞操帯の前方から真上に伸びる電気コードを頭上のコンセ
ントから抜くと、女の腕と貞操帯を繋ぐ金属製の手枷の鍵穴に鍵を
168
差し込み解錠した。錆びて滑りの悪い手枷を椅子に叩きつけて開く。
僅かに開いた開口部から、皮が剥げて血が滲んだ細い腕が落ちる。
男は貞操帯の前方に付く鍵穴に鍵を差し込んで分厚い金属製のベル
トを押し広げた。閉ざされた陰部から封じられていた異臭が広がる。
膣の肉の焼ける匂いに、汗と尿と愛液と血液が混ざり、つんと鼻を
つく異臭がする。
男は座る女に背中を向けて屈んだ。一糸まとわぬ女の体を肩に担ぐ。
柔らかな曲線を描く女の体は青痣と傷から滲む血で染まっていて痛
々しい。
貞操帯から引き剥がされた女の陰部が、真後ろに座る僕からはよく
ただ
見える。小陰唇は半田ごての熱で水ぶくれしていて握りこぶし大に
腫れあがっていて、その中央に黒く焼け爛れた膣口が豆粒ほどの大
きさの穴となって見える。その穴からどす黒い血が流れ出ている。
女は﹁ウゥー⋮ウゥー⋮﹂と低い唸り声をあげ、体を痙攣させた。
その度に尻の穴から水っぽい便が垂れ落ち腐敗臭を放つ。
むご
その惨い有様に嘔吐した。何も無い胃の中から酸っぱい胃液だけが
流れ出る。それでも女から目を離す訳にはいかなかった。四人の中
で唯一退場する者の行く末であり、次に我が身に振りかかる運命だ
ったからだ。
女を担ぐ男は左側にある出口の扉へ向かった。女から垂れだす体液
が床を点々と染める。
男が近づくと扉は音もなく横に開く。その先には白いタイルの貼ら
れた清潔そうな部屋だった。男は部屋の片隅に置かれた幅の狭い移
動式のベッドに女を寝かせると、直ぐにこちらの部屋に戻って来る。
169
扉を越えると、その白い扉は音もなく閉じた。
僕も、その他の者も、女の行方を見守っていた。
性器を焼き切った者だけが退場できる、その事を皆が確信した。
僕がこうして出口の方に気を取られていると、近くで老人が話し始
めた。
﹁お手元にある嘆願書をご覧下さい。最恐館のアトラクションの継
続を希望される方は﹁希望します﹂と書かれている方に丸をつけて
下さい。継続を希望されない方は﹁希望せず退場します﹂の方に丸
を付けて下さい⋮﹂
はっとして声の方を向くと僕たち四人の前に老人が立っていて、目
の前に座っていた男女を苦しめた悪魔のような宣告を唱え始めてい
たのだ。
次はこの長椅子に座る僕たち四人の番なのだ。継続か退場かを決め
なければならない。当然、退場したい。もうこんなゲーム続けたく
ない。けれど、退場するには目の前でいた女のように性器を焼かれ
て、虫の息になるまで悶え苦しむ事になる。本当に生きて出られる
のか? あの女は運良く生き延びたただけかもしれない。だとすれ
だが、あの
中に連れて行かれた者は、僕たちが身震いする程の
ば右の黒い扉へ向かう﹁継続﹂という選択しかない。
扉は安全か?
断末魔の悲鳴を上げていた。
黒ずくめの男たちが、僕たち四人が装着している貞操帯、その陰部
から伸びる半田ごてのコードを次々と頭上にある電球のコンセント
に挿していく。
170
老人は先程僕たちが書いた嘆願書を剥ぎ取って、握り潰し、捨てて
いく。
僕たちは女の惨事を見たショックから立ち直る事ができていない。
災難が降りかかろうとしているのに、悲鳴を上げる気力すら湧かず、
青白い顔で固まった。
尿道に突き刺した半田ごての先が熱を帯びてくる。上を見た。天井
から吊るされた透明な電球の中にあるコイルが変色していく。赤く
色づき始めたコイルは、輝きを増しながら黄色に変わり、白い光を
放ち始めた。
佐奈は恐怖で震え、悪魔が乗り移ったかのように、ぎこちなくペン
を走らせた。嘆願書の継続の方に丸をつけ、サインした。角張って
大きさの揃わない文字が署名欄に並ぶ。
佐奈は幽霊のように青ざめた顔をこちらに向けると、遥か彼方を見
るような焦点の合わぬ眼で僕を見た。生きる希望を失ったような、
その冷めた目に僕は吸い込まれ、寒気がして体が強張る。彼女の底
知れぬ絶望が僕を侵食していく。
老人は佐奈の書いた嘆願書を紙の束から剥ぎ取った。黒ずくめの男
たちが佐奈の膣に繋がる半田ごてのコードを抜いて椅子から立たせ
る。
震える佐奈は貞操帯の重さでよろけながら、僕の方へ倒れこむよう
に、床にへたり込むと僕の手を掴んだ。苦悩に満ちた顔とは正反対
の暖かく柔らかい手が、僕の手を掴んで離さない。
目の前で佐奈が叫んだ。
171
﹁一人にしないで!﹂
そう言ったのが分かった。僕が是が非でも退場すると思ったのかも
しれない。けれども僕は、継続する勇気も、退場する勇気も、どち
らかを選択する勇気も持ち合わせていなかった。
二人の男たちが佐奈の両腕に腕を通して、僕から佐奈を引き剥がそ
うとしたが、佐奈は暴れて僕から離れようとしない。けれども男た
ちの力には勝てず、仰向けに床を引きずられるようにして黒い扉の
中へ連れて行かれた。いつまでも僕の名を叫ぶ声が音の反射の少な
いこの部屋に響き渡る。
その声は僕にとって恐怖だった。けども不思議と勇気が湧いた。何
としてでも彼女を救わなければと思った。幼い子どもが助けを求め
て泣き叫んでいるように僕には聞こえたのだ。
僕は自分の意識しないところで、彼女のためだという都合の良い言
い訳を作り出し、自分を納得させようとしていた。
佐奈の後を追うんだ。彼女が僕を望んでいるから﹁継続﹂を選ぶん
だ、と。
迷いの途切れた僕は誓約書にペンを走らせた。
黒い扉の奥から切り裂くような佐奈の悲鳴が聞こえる。脳裏に佐奈
の苦しむ顔が浮かぶ。待っていてくれ、直ぐに僕もそこへ行く!愛
から生じた自分勝手な正義感が僕を駆り立てる。
老人は僕が書いた継続の嘆願書を目ざとく見つけるとすぐに回収し
た。黒ずくめの男が僕を立たせる。右を見ると、いつきと雫が悲痛
な表情で僕を見ている。
172
継続すると決めてから、僕を覆っていたもどかしい気持ちは消え失
せて、不安ながらも清々しい気持ちだった。苦悩を克服したのだと
いう勝ち誇ったような安堵感に満たされていた。﹁いつき、雫、君
たちも悩まずに楽になればいいのに﹂と口を塞がれていなければ言
っただろう。
黒ずくめの男たちは僕を連れて黒い扉へ向かう。
何かを踏んだ。下を見ると、先ほど佐奈が暴れて落とした嘆願書の
紙の束と、落書きして切り取られた嘆願書が落ちていた。
さび
切り取られた嘆願書には﹁本当にここから出られる?﹂と書かれて
いて下半分は鉄枷の錆で汚れていた。佐奈に見せられた時は気づか
なかったが、幾重にも書き殴られた誰かの名前が錆の間に白く浮き
出ていた。
◇ ◇ ◇
二人の男に左右から脇を抱えられて黒い扉の中を進む。分厚い鉄製
の貞操帯はつけられたままだ。両腕は貞操帯の左右から伸びる手枷
に繋がれている。
黒い扉の内側は廊下になっていて、床と壁と天井を黒色の薄い絨毯
が覆っている。廊下の先は行き止まりで赤いカーテンが塞いでいる。
この向こうに佐奈がいる、そう思った。酷い目にあっているかもし
れない。それでも僕を待ち焦がれているに違いない。
173
男は奥の部屋へ続くカーテンを開けた。
!? 佐奈が居ない。そればかりか誰もいない。代わりに天井から
無数のロープがぶら下がっている。教室の半分の広さの無機質な部
屋。その天井から絞首刑に使う太いロープが輪っかを広げて無数に
垂れ下がっている。
切れかかった棒状の蛍光灯がチカチカと点灯と消灯を繰り返し部屋
を薄暗く照らす。
ロープは四本ずつ三列に天井からぶら下がっている。最前列の三本
は、床下に開いた四角い穴の奥底へ伸びている。二列目の天井には
四角い穴が四つ開いている。その暗い穴からロープが伸びていて、
首を縛るためのロープの輪が床から1メートルほどの距離で浮いて
いる。左から二本目の穴から垂れるロープは見えない。
二人の男は、僕を二列目の左端に垂れるロープの前まで僕を押し出
すように連れていく。
愕然とした。先ほど居た部屋の席と同じ位置に連れて行かれている。
ロープの先が床の穴に落ちている所には、目の前で座っていた男女
がいた。そして、二列目の僕が向かう右隣、ロープがない場所は佐
奈がいた場所⋮。
足がすくんで動かない。この部屋に至るまでの廊下は他に向かう道
や扉は無かった。この部屋は扉もなければ窓もない。つまり、皆こ
こに連れて来られて首を吊られたことになる。
僕は力の限り抵抗した。叫んで、叫んで、叫んだ。
174
コイツラ僕を殺すつもりだ。佐奈を殺し、僕を殺し、そして他の人
達も殺すつもりだ。なぜ? どうして?! 僕はパニックになった。
性器を焼かれずに済むと思ったら死ぬ事になるなんて。選択を誤っ
たのか?
男たちは抵抗して逃げようとする僕から手を離す。自由になった僕
は来た道に向けて駆け出した。男たちは、それを見越していたかの
ように、走り出す僕の足元に足を伸ばして転倒させた。両手が貞操
帯に繋がれていている僕は床に激突するように倒れこみ、立ち上が
れない。
たぐ
男はそんな僕に馬乗りになると、天井から伸びるロープを手繰り寄
せた。ロープの先に結ばた輪を広げて頭を通し、首元で締める。暴
れる僕の抵抗など、何の影響も受けないかのように、慣れた手つき
で事を運ぶ。
一人の男が壁に向かい、壁につく青いボタンを押した。
ロープが上へ引き上げられていく。天井にぽっかりと空く、真っ暗
で四角い穴にロープが吸い込まれていく。首にロープが食い込んだ。
背中には男が乗っている。僕はエビ反りのようになりながら首が引
き上げられていく。男はロープに緩みができないように、背中、尻、
太ももと乗る位置をずらしていく。
死にたくない! 助けてくれ! なんだってする! お願いします
! 死ぬ! 死んでしまう! ギャーーーーー!!!!!!
僕は声が潰れて出なくなるほどの叫びを上げた。けれども男は僕を
助ける気配など微塵もなく、淡々を作業をこなしていく。
175
僕は遂につま先立ちとなった。縄が喉に食い込み、首がこれ以上伸
びきらなくなり、体が宙に浮いた。それでもロープの上昇は止らな
い。
苦しい!息ができない!
藻掻く度に振り子のように、吊られた体が揺れて縄が絞まり、気道
を塞ぐ。
二人の男はカーテンを締めて部屋から出て行く。誰にも見とられず
に死ぬんだ。佐奈もそうやって孤独の中で首を吊って死んだのか?
! こんな最期、嫌だ! 誰か助けてくれ!
僕は天井の穴の中へ引き上げられていく。真っ暗だ。何も見えない。
苦しい。足をばたつかせる。足先が壁に触れるものの体重を支えら
れるほどの足掛かりが無い。もはや目が見えているのかどうかすら
分からない。心臓の高鳴る音が聞こる。ロープが首を締めあげて軋
む音が骨を伝って聞こえる。口からは﹁ウゲッ﹂というくぐもった
声が無意識に漏れ出た。
僕が自由になる五感は、もはや聴覚だけだった。命の危機で研ぎ澄
まされた耳は、虚しくも自分が絶命するうめき声を聞くためだけに
機能した。
176
第二十五話 ダストシュート
僕は首を吊られて暗い煙突のような空間内を引き上げられていた。
首が絞まって息ができない。本能はこれでもかと言わんばかりの苦
しみを僕に味わせ、この危機を回避せよと囁く。
ギィィ⋮
鉄の扉の開く音。
暗闇の中に扉があった。けたたましい音を立てて、半身ほどの大き
さの扉が目の前で開いていく。扉の隙間から光が差し込み暗闇をか
き消す。
扉の向こうには石造りの廊下が鈍い灯りに照らされていて、そこか
ら漏れた光が僕を照らした。僕のバタつく足は廊下の端を捉えて、
首への締め付けを緩めさせながら、躰をそこに向かわせた。
目の前の光の中に男の影が見えたのは、廊下の床に倒れ込もうとし
た時だった。大きな体の黒人だった。男は僕の脇に手をかけると、
軽々と体を持ち上げて立たせたまま、もう片方の手で僕の首に巻き
付いているロープを外した。
酸素を長く失っていた体は力が入らない。男はそんな僕を引きずり、
廊下を進む。
男は幾分か進んだ所で止まった。そこには木製の扉があった。
男はふらつく僕を扉の前で立たせると、扉を奥に押し開けた。
そこは石造りの部屋だった。壁も床も天井も石で、教室ほどの広さ
177
だ。左の壁には暖炉があり、火が燃え上がっている。その火の中に
複数の焼きごてが斜めに突き込まれていて、取手部分が 取りやす
いように暖炉の前に置かれた台に並んでいる。
灯りは無く、揺らめく炎が暗い部屋の中をゆらりと照らす。天井か
ら垂れ下がる何本もの鎖の影が暖炉と反対側の壁に映り、まるで生
き物のように蠢いて見える。
その薄暗い部屋の中で、裸の女がこちらを向いて座っていた。扉が
開いた事に気づいた女は、うつ向いていた体を起こすと僕を見た。
他には誰も居ない。
男は僕を部屋の中に押し込んだ。後ろから首を掴んで歩かせると女
の正面に置かれた椅子に座らせる。女との距離は近い。膝がつくく
らいの距離だ。男は僕の腰回りに鎖を巻きつけると椅子の後ろで止
め、椅子の足から伸びる足枷に両足を繋いだ。椅子は木材を切って
作った荒い造りで座り心地は最悪だ。ザラリとした木目が肌を削る
ように撫でる。貞操帯の分厚い金属が股下に食い込む。
ただただ
僕はというと、首を吊ったまま死ななかった事に只々ほっとしてい
て何も考える気力が沸かない。
目の前に座る女を機械的に眺める。裸で僕と同じように貞操帯をつ
けている。最恐館に運悪く訪れた参加者だろう。
女は涙に濡れた顔を手で拭った。女の腕を拘束されていなかった。
両足は僕と同じように椅子の足から伸びた鉄枷に繋がれている。
女の体は傷だらけだ。顔、胸、腹、どこも青痣で黒ずんでいて、血
が埃と混じりあい、女の体をみすぼらしく彩っている。左腕は上腕
178
の途中から無く、切断面はダクトテープのようなガムテープで幾重
にも巻かれて止血されている。右腕はあるが指には爪は無く、中指
と薬指は切り取られたのか不自然に短い。胸の張り具合や目尻の上
がり具合から若い女だろうが、薄汚れていてよく分からない。
黒人の男が女を見下して言った。
﹁始めろ﹂
男はそう言い終わると暖炉の前のソファーへ腰を下ろし、弱くなっ
た火を気にして新しい薪を焚べ始めた。
僕の目の前に座る女は僕を足先から頭上までを何度か観察すると、
疲れた顔に僅かな笑みを作って口を開いた。
﹁私はリサ。あなたと同じ、最恐館のアトラクションに参加した者。
よろしくね。私は彼らの命令でここに居るの。怯えなくていい。こ
れにサインさえすれば酷い目にはあわなくて済むから﹂
女は床に置かれていた書類の束を僕の目の前に差し出した。
﹁私の言うことを聞いてほしいの。私に与えられた命令はあなたを
拷問してでもこの書類にサインさせること。できなければ私もあな
たも罰を受ける。ここでは彼らに逆らう事なんてできない。言われ
るがまま受け入れるしかない。説明しなくても分かってるよね﹂
女はチラリと暖炉前の男の方を見た。男は暖炉に薪を投げ入れる事
に夢中でこちらを見ていない。
女はチャンスとばかりに僕の耳元で囁いた。
﹁彼らはあなたを苦しめたいの。この書類を見て怯えさせて、サイ
ンを拒否するあなたに暴力を振うのが彼らの仕事。だからここに書
かれている内容を真に受けないで。何も考えずにサインしていくの
179
よ。そうすれば苦しまずにこの部屋から出て行く事ができる。分か
った?﹂
そう言い終わると、すぐに頭を僕から離す。かすれてはいたものの
優しい声だった。
女は拘束されて自由の利かない僕の手の近くに台を寄せ、書類を置
いた。そして僕の右手にペンを握らせると、男に聞こえるように大
きな声で喋った。
﹁ここに書かれている内容をよく読んでサインして下さい。途中で
選択肢がある場合もあるので記入漏れには気をつけて。⋮そう、注
意事項が一つだけ。時間はあまり無いから⋮﹂
黒人の男は立ち上がり、こちらに歩いて来る。女は震えならが男を
見上げた。男は女の貞操帯から伸びる半田ごての電源コードを掴む
と天井から垂れ下がるコンセントに突き刺した。そして何事も無か
ったかのように暖炉の前の自分の椅子に戻っていく。
女は焦るように叫んだ。
﹁ここをみて﹂
女が壁を指差した。
﹁今、私の貞操帯の半田ごてには電源が入れられたわ。直に熱を帯
びてくる。それを避けるには、壁のコンセントにあなたの貞操帯の
コードを挿すしかないの。そうすれば、私の貞操帯の半田ごては止
まって、あなたの半田ごてが温まる。私が書く所を指差すから、早
くサインを始めて。モタモタしてたら私もあなたの性器も黒焦げよ﹂
女は書類の表紙をめくると、一枚目のサイン欄に指を押し付けて僕
に名前を書くことを促す。
180
僕は女の手を払い除けて書類をめくった。
先ほど書いた嘆願書と同じように見えたが、紙をめくる度に内容が
変化していて、文字数が増えていく。僕は紙をめくりながら恐怖し
た。
︱︱⋮⋮
身体に修復不可能な損傷が生じる事に同意します
極度のマゾヒストのため甚振られる事に同意します
衰弱するまで監禁される事に同意します
死亡するまで拷問される事に同意します
死体は遺族に引き渡さない事を希望します
⋮⋮︱︱
ある所から嘆願書が誓約書になり契約書へと変わっている。途中か
ら内容がガラリと変わる。
職場の離職届、住んでいるアパートの退去届と続いていて、あたか
も僕が書きそうな理由が印字されている。
その後に、隔離病棟入院申込書、手術承諾書、献体申込書と続く。
僕は恐怖で青ざめて震えた。殺されて跡形もなく消し去られるんだ、
そう思った。法律上許されるとか許されないとかそんな事はどうで
もいい話だ。彼らは既に法律を無視している。それなのに誰も僕を
助けてはくれない。彼らは僕が消えても社会的に困らないように万
全の準備を整えていているに違いなかった。
バシッ
女が僕の頬を叩いた。
181
﹁しっかりして! 時間が無いの。私が言った事を思い出して! この部屋のコンセントにはリミッタが付いていないの。どんなに半
田ごてが温まっても止らない。死ぬまで性器を焼かれるわ。そんな
の嫌! さぁ早く!﹂
女は僕がめくった紙を戻し、一番上の紙のサイン欄を指差した。う
ろたえる僕に苛つくように女は叫んだ。
﹁聞いてる? 私はあなたのために時間をつくってあげてるの。自
分の膣を焼いてあなたがサインし終わる時間を稼いでるのよ。我慢
できなくなったらあなたの性器の半田ごてに電源を入れるしかない。
時間を無駄にしないで! ⋮あぁ呆れた、駄目な男ね!﹂
女は僕の貞操帯から伸びる半田ごてのコードを掴むと壁のコンセン
トに挿した。
﹁私の親切を理解できない馬鹿はこのまま焼け死ねばいいわ。この
コンセントからあなたの半田ごてに繋がるコードを抜かなければ私
の半田ごては温まらない。自業自得よ﹂
ペニスの尿道に突き刺した半田ごての先が温まってくるのを感じる。
僕は泣きそうになりながら女の目を見た。女は僕を睨んだ。
﹁サインしなさい。あなたが死んだら私が罰を受けるの。死ぬより
はマシだけど苦しむのは絶対イヤ!﹂
僕はサインを始めた。こうするしかなかった。泣きながらペンを走
らせる。
書類の内容が再び変わり始める。
︱︱⋮⋮
爪を剥がされる事に同意します
指を切断される事に同意します
182
皮膚を剥ぎ取られる事に同意します
歯を失う事に同意します
眼球を失う事に同意します
⋮⋮︱︱
事細かに体の部位を傷めつける文言が並ぶ。僕は言葉を理解するの
をやめて、ひたすらサインをする。女の指し示すままに選択肢にマ
ルを付ける。半田ごての熱が僕を追い立てる。熱い!痛い!苦しい
!僕はミミズが這った様なサインし続けた。
最後のページにまで辿り着いた。
﹁これで終わりね。やればできるじゃない! はははっ! 終わっ
た⋮終わったわ。これでここから出られる!﹂
女は僕が書いた書類の束を掴み取ると胸に抱えて、笑いながら泣き
出した。そして、忘れていたように、僕の貞操帯に繋がる電源コー
ドを壁から引き抜くと暖炉の前の男に叫んだ。
﹁命令された通りにサインさせ終わりました。この男で十人達成で
す。約束通り、賢司と家に帰して下さい﹂
男は広げていた本を閉じると無言で立ち上がった。女の後ろを通り
過ぎて、壁のコンセントに蓋をし、何事も無かったかのように元の
椅子へ戻り本を広げる。
﹁⋮。どうして黙ってるんですか? 私の貞操帯のコードを抜いて
下さい、うぅ熱い。約束を守って!﹂
女は男の方に顔を向けて顔をしかめる。
183
男は、本に視線を落としたまま喋った。
﹁約束は守っている。お前の男は失敗したそうだ。女に指示通りサ
インさせられなかった。そういう事だ﹂
﹁賢司が失敗? まさか、ありえない。そんなの嘘よ! 賢司をこ
こへ連れてきて! 話を聞かせて! ⋮はめたわね。あんたは初め
から私を殺すつもりだった、そうでしょ?!! 私と賢司が言われ
た通りに十人ずつサインさせたら家に帰してくれるって言ったのは
私に希望を抱かせるための嘘だった! 違うわけ? 答えてよ!﹂
女は目の前にぶら下がる半田ごてのコードを引っ張ったが、抜ける
事も切れもしない。
﹁ぅううううっっっ!!! 熱い! 死にたくない!﹂
女はコードに噛み付いた。
男は珍しいものを見るかのように視線を女に向けた。
どうだ? 痛いか? そりゃあ結
﹁俺が言った事は真実だ。お前の男は失敗した。そん時はお前も死
ぬ。そういう約束だっただろ?
構。そのコードには幾重にも金属繊維で覆ってある。女の力じゃビ
クともしないぜ。ハハハハハ﹂
女は泣き叫んだ。
﹁殺すならとっとと殺して! 人が苦しむ姿が見たいの?! この
サゾ野郎! あなたの望むままに何度もヤラせてあげたでしょ。そ
れなのに、私の希望の一つも聞いてくれないわけ!? 人でなし!
悪魔! うぅうう痛い﹂
女は目の前の僕に向かって叫んだ。
﹁助けて! 助けてよ! あなた男でしょ! ねぇ!!!!熱い!
グゥウウ⋮ギャアアアアアア﹂
184
女の股間から煙が立ち込め始める。膣をが焼けたことで生じた煙は
暖炉へ向かって一直線に伸び、煙突に吸い込まれていく。
女は血走った目を僕に向けて呪いをかけるかのように声を絞り出し
た。
﹁ハァハァ⋮お前も苦しめばいいんだ! 苦しめ!苦しめ!苦しめ
!苦しめ!苦しめ! 教えてあげる。この先、あなたには地獄のよ
うな苦しみしかないわ。私は経験したから分かる。拷問されて、最
期には殺される。誰一人として生きて出られないのよ! 生きて帰
る希望、そのために苦しみに耐えてきたけど全て無駄だった。あな
たが口枷で喋る事ができないのも、拘束されて動けないのも、苦痛
で自殺させないため。そして⋮﹂
ゴッ!
黒人の男は、暖炉で熱していた太い焼きごてで、女の頭を殴りつけ
た。髪が焼けて、皮膚が焦げる匂いが一気に広がる。頭からは血が
吹き出し、顔面を赤く染めていく。
﹁余計な事喋るんじゃねぇよ﹂
男はそう言うと、ぐったりとしてしまった女に近づいた。足と椅子
とを繋いでいる枷を外すと、女の貞操帯に繋がるコードを天井のコ
ンセントから引き抜く。男は女の腕を掴むと無造作に引きずり、部
屋の奥に引きずっていく。
そこにはダストシュートがあった。ダストシュートは壁の中に作ら
れた煙突のような縦穴で、捨てられたゴミが地上の収集室に溜まる
仕組みになっている。
男は投入口の扉を手前に開くと、両腕で女を軽々と抱え上げた。女
185
は薄目をあけている。男は言った。
﹁生きてるか? それは良かった。男に会わせやる。じゃあな﹂
男はニヤリと笑うとダストシュートに女を投げ込んだ。女はハッと
現状を理解して暴れ始めた。必死に投入口の縁に掴まろうとするも
血で滑って掴めない。
﹁殺さないで! 助けて! 助けて下さい! ギャアアアアアーー
ーーーー⋮﹂
女は叫びながら地上五階の高さから落下した。狭いコンクリートの
縦穴に手足を押し付けて落下を阻止しようとするが止らない。皮が
裂け骨が折れる。
投入口からは壊れた蓄音機のように不快な音が発せられた。女の叫
び声に混じって、ボキボキと骨の折れる音がこだまし、分厚い金属
製の貞操帯が壁に激突する音が聞こえたかと思うと静けさを取り戻
した。
しんと静まり返った部屋に薪がパキパキと割れる音だけが響く。
僕は恐怖の余り固まった。少しでも音をたてれば同じように殺され
るじゃないか、そう思った。目の前で女が死んだのだ。女の柔らか
な声と悲痛な叫びと恨みのこもったような声が頭の中でこだまし続
けて離れない。
男はダストシュートの蓋を閉め、僕の方を振り向いた。
﹁あの女の言った事は全て嘘だ。忘れろ。そもそもだ、ここに女な
んて居なかった。そうだろう? 分かっているとは思うがお前は俺
の言う事を信じるしかない。ここでは俺たちがルールだ。お前は奴
186
隷のように俺たちの言うことを聞いていればいい。そうすりゃ生き
て帰れるし、女を抱くことだってできる﹂
男は真顔でそう言うと暖炉に向かった。
187
第二十六話 石の牢獄︵一︶ ︱怯える百人の裸体男女と拷問の
悲鳴
黒人の男に突き飛ばされながら薄暗い石の廊下を歩く。
背中がひどく痛む。男に焼きごてを押しつけられた所だ。
思い出したくもないが痛みが記憶を呼び戻す。
男は暖炉の中で真っ赤に焼けた焼きごてを手に僕の元に歩み寄った。
長い棒のこて先は﹁④﹂と型どられていて、焼けた金属の熱気で周
囲の景色がグニャリと歪む。その熱が冷まさぬように一直線に僕へ
と向かってきた男は、背中に焼けたコテ先を押し当てた。ジュッと
いう音と共に背中に痛みが駆け抜ける。
焼きごてを元の暖炉の中に戻した男は、天井から垂れる鎖の先に吊
るされていた﹁工﹂字型の鉄枷を手に戻ってくる。象が踏んでも曲
がりそうにない﹁工﹂字型の鉄の塊。四つの端には固定された鉄枷
が外向きに口を広げている。背後に立った男は手に持つ枷を僕の腕
にあてがった。上腕で枷を閉じ手首で枷を閉じる。体が仰け反る。
男が軽々と持っていた枷は怖ろしく重い。
腕の自由を奪った男は、僕の着けている貞操帯から伸びる手枷を取
り、貞操帯の鍵を開いた。
そうして部屋から連れ出された僕は薄暗い石の廊下を歩いている。
股間を阻む貞操帯から開放されたおかげで歩きやすい。
188
真っ裸な僕は後手におどおどしい手枷を填められて腕を曲げる事も
ままならず、口にはボールギャグを噛まされて喋る事ができない。
﹁工﹂字型の枷の中央からは鎖が伸びていて、鎖の先端は後ろを歩
く黒人の男の手の中にある。その大きな手に鎖を幾重にも巻きつけ
ているのだから逃げれられる気が全くしない。男は鎖をジャラリと
鳴らしては早く歩けと追い立てる。
廊下を行くに従い、石の床の中央に黒く滲んだ一筋の帯模様が浮か
び上がっていくのに気がついた。その帯の所々に乾ききっていない
血がポタリ、ポタリと落ちている。僕はいつの間にかその血を踏ん
でいたようだ。振り返ると、埃で黒く汚れた足の裏で踏みしめた血
の足跡が、歩いてきた廊下に湿り気を帯びた模様を浮かべては、す
ぐに乾燥して、帯模様に同化していく様が見えた。
廊下の床に浮き出る帯模様は何人もの人々の血、涙、汗、足垢、埃
が踏み固められてできた足跡だった。
えぐ
僕の視線は歩む先の帯を追っていた。
帯から逸れる血痕、その横の壁を抉るような傷跡。それは血を流す
誰かが暴れた痕。
床の先に消えるように付いた五本の赤い線。その場にうずくまった
人間が無理やり引きずられて行った指の痕。
今の僕にはその時の様子が手に取るように思い浮かぶ。怨念ともと
れる痕が僕に囁きかけるのだ。僕は亡き者に魂を奪われてしまいそ
うな寒気を感じて、多くの人が辿ったであろう黒い帯だけを目で追
った。横道にそれちゃいけない。そこに救いはないんだ。僕の中の
僕が囁く。
にじ
その黒く滲んだ帯はついに途切れた。そこは行き止まりの壁で、床
189
から視線を上げた視界の先には鋼鉄製の巨大な扉があった。左右に
はフードの付いた黒いマントで全身を覆い、黒い仮面で顔を隠した
黒ずくめの者が立っている。
かんぬき
僕が近づく事に気づいた黒ずくめは、扉が決して開かぬように、扉
かんぬき
の手前を貫くように通していた木製の太い閂を二人がかりで抜き取
り始める。その扉はまるで核シェルターの扉のようだった。閂が外
された扉のノブに黒ずくめの一人がが両手をかけて九十度回転させ
る。
ノブが手前に引かれた。すると扉は滑るように手前にせり出してく
る。随分と分厚い扉だ。五センチ、十センチと鋼鉄の扉がせり出し
てくる。扉は鉄の板が何枚も重ねて作られていたが途中から石へと
変わる。
扉の前で立ち尽くす僕に背後の黒人が言う。
﹁俺たちはここを石の牢獄と呼ぶ。周囲をダイヤモンドにも匹敵す
あが
る硬い石が覆っていて音も空気も水すら逃さない。人の力じゃどん
なに足掻いても逃げ出せないんだ。中で居る奴らの気が知れないね。
扉が故障したら野垂れ死にだっていうのにな。それなのに何でこん
な場所が必要なのかお前には分かるか?﹂
男は僕の枷から伸びる鎖を黒ずくめの一人に渡しながら聞いた。
﹁虫けら一匹逃げ出せないこの中だと、誰でも安心して絶望する様
を楽しめるからさ⋮﹂
男の声は途中でかき消された。
一メートルほど手前にせり出した扉の向こうから耳を切り裂くよう
190
な悲鳴が次々と漏れ出してきたからだ。
手前にせり出した扉は氷の上を滑るかのような滑らかさで横にスラ
イドしていく。
そこには目を疑うような光景が広がっていた。
体育館ほどある広さの空間。その中に僕と同じ格好をした百人程の
男女が膝立ちで壁に頭を押し当てていて、涙を流して怯えている。
彼らの後ろを金属バットのようなこん棒を持った何人もの黒ずくめ
があちこちと歩いていて、壁から額を外した者を容赦なく撲打して
いく。
正面の一番奥にはオドオドしい拷問器具がズラリと並んでいて、十
人ほどの裸の男女が断末魔の悲鳴を発している。
壁も天井も床もガラスのように平らに研磨された灰色の石で覆われ
ている。そのためか銭湯のように音が反射して拷問される人々の声
が響き止まない。
床の中央は低くなっていて、壁に額をつける人々が垂れ流す尿が流
れ集まり水たまりを作っている。
空気の出入りの無い牢獄から酷い匂いが流れ出してくる。病院の便
所のような匂いで、排便臭と薬品が混ざりあったような臭いだ。
地獄のような光景に呆然と立ち尽くしていた僕は、手枷に繋がれた
鎖を引かれて我に返った。僕の手枷に繋がる鎖はいつの間にか牢獄
の中にいる黒ずくめの一人に引き渡されていて、乱暴に引き寄せら
れていたのだ。
191
嫌だ!こんなところに入りたくない!その場から逃げ出そうと牢獄
の内側に背を向けて暴れる僕は中に引きこまれていく。黒板を爪で
引っ掻いたような甲高い悲鳴が僕を包み込んで、震えを増す僕から
抵抗する力を奪っていく。
目の前で開いていた扉は閉じていく。そして遂には壁の一部と同化
した。
それでも逃げ出す事を諦めずに暴れる僕を何人もの黒ずくめが押さ
えつける。
﹁抵抗しないで!﹂
僕の耳元で女が叫んだ。若い女の声だ。全身は黒ずくめで体型には
不釣り合いに太いこん棒を右手で引きずっている。
女は何を思ったか、そのこん棒を振り回すように持ち上げると、腕
をピンと伸ばして、棒の先を僕の鼻先に突きつけた。
﹁少しでも抵抗したら、あの女が酷い目に合うことになるけど構わ
ないの?﹂
女はこん棒の先を僕の鼻先から少し離して背後の一点を指し示した。
その先を目で追う。壁に顔を押しつけた何十人もの男女がずらりと
並ぶ、その中に壁に頭をつけて怯える佐奈がいた。あろうことか、
その背後で黒ずくめの一人がこん棒を振り上げている。男は僕の横
にいる女の方を向くとコクリと頷き、佐奈の横腹に棒を振り下ろし
た。
﹁ギャーーーーー!!!!﹂
こん棒を振り上げた男が背後に居る事など知らなかった佐奈はいき
192
なり横腹に食い込んだ殴打に悲鳴を発した。その悲鳴は閉ざされた
室内を何度も往来して、壁に頭をつける人々を震え上がらせ、僕を
震え上がらさせると、他の悲鳴にかき消された。
殴られた痛みで苦しむ佐奈は頭をうなだれてうずくまった。誰も佐
奈を助けようとはしない。こん棒を振り下ろした黒ずくめは、苦し
む佐奈の髪を掴むと頭を引き上げ、壁に顔を押し付ける。苦しみな
がら元のように壁に顔を付ける佐奈に、背後の男は再びこん棒を振
り上げた。
﹁言うとおりにするから止めてくれ! 佐奈を助けてくれ!﹂
いたぶ
僕は口枷で自由に喋れない口で叫んだ。愛する佐奈が虫けらのよう
に甚振られるのに耐えられるわけない。
﹁分かったかしら? ここではあなた達を生かすも殺すも私たち次
第。あなたはこれから奴隷として私たちの玩具になるの。どんな事
ひざまず
があっても私たちの命令には絶対服従。痛くとも苦しくとも気を失
おうとも逆らっては駄目。理解できたなら跪いて私の靴にキスしな
さい。できなきゃあの女がどうなるか⋮﹂
女は佐奈の背後でこん棒を振り上げる黒ずくめの方を向く。
やめてくれ! 僕は叫びながらその場にひれ伏して、女の足元に這
い寄った。その僕の体を痛みが襲う。女がこん棒で僕の横腹を殴り
つけたのだ。僕はその痛みに転がり叫んだ。
﹁痛い? はははっ。痛みを感じられるようで良かったわ。あの女
はあなたのせいでこの痛みを味わってるのよ。いつまで寝転がって
るつもり? 立て! 歩け! あの女の隣に座るのよ!﹂
193
痛みで床を転がる僕に仁王立ちの女はこん棒を振り上げた。狂って
る! この女、狂ってる! そう思っても為す術のない僕は痛みを
堪えて立ち上がり、よろめきながら佐奈の元へ向かった。
いくにん
壁に顔をつけて膝立ちとなる幾人もの男女に近づく。涙ぐむ彼らの
足は床ではなく、三角形の鉄の棒が五本敷き詰められた台の上にあ
って、足の肉が三角形の棒の頂点に食い込んでいる。足首は床の石
面に固定された鉄枷に繋がれていて、立ち上がる事はできても逃げ
出す事はできない。そもそも立ち上がる事などできない。立ち上が
った瞬間にこん棒を持った黒ずくめが殴りかかってくる。だから皆、
足の痛みに耐えて膝立ちでい続けている。
佐奈に近づく。佐奈の足元にも三角形の鉄の棒が同じように敷かれ
ていて、その隣の空いた隙間、僕が座る場所にも続いている。灰色
に見えた石の壁は近くで見ると白と黒のまだら模様で、墓石のよう
だ。
近づく僕に佐奈は気づいた。
顔を壁に押し当てたまま、ちらりとこちらを見て涙を流したのだ。
心細かったのだろう。僕だってそうだ。
けれども僕は佐奈の顔をまともに見ることができない。佐奈の横腹
に振り下ろされたこん棒の青痣が、細い体ににじみ出ている。その
痛々しい姿に罪の意識を感じないわけにはいかなかった。
黒ずくめに囲まれながら佐奈の右横の空いた場所に立った。僕の足
は床から伸びる足枷に繋がれる。その様子を胸から血を流す右隣の
女が怯えた目で見ている。
背後で黒ずくめの女が叫んだ。
194
﹁他の奴らみたいに膝を立てて座るのよ﹂
言われるがままに従う。足下の三角形の棒が足の肉を押しつぶして
骨に食い込んで痛む。そんな事などお構い無しに背後の女は言う。
﹁何をもたもたしているの? 壁に顔面をつけるの。凹みがあるで
しょ? それが鼻の位置。額を壁につけて、壁にキスするのよ。聞
こえてる? そう、それが定位置。そこから一ミリでも離れたらど
うなるか、言わなくても分かるわよね?﹂
膝を立てて座る目の前のツルリとした壁には女の言う凹みがある。
僕はその壁を見て恐怖していた。壁には人の顔の形が浮かび上がっ
ていたからだ。何人もの人が頭を押しつけた壁。涙、汗、血、それ
が壁の石に染み付いていて人の顔を作り出してる。その顔は鼻水を
流し、涎を流し、涙を流しているのだ。体液に含まれる塩分が結晶
となってツルリとした壁を紙やすりのようにざらついた岩へと変化
させていた。
ためらう僕に女は容赦しない。こん棒の先を僕の後頭部に押し当て
ると一気に壁に押しつけた。
壁の顔に僕の顔を重ねる。顔の中で一番突き出た鼻は壁の凹みに綺
麗にはまり、次に突き出る口元と額が壁に当たる。壁に近づくと耳
の後ろに手をかざした時のように音が大きく聞こえる。
耳元で女が囁いた。
﹁ほら聞こえるでしょ? 拷問される人たちの悲鳴。あなたの番も
直にやってくるわ。けど安心して。殺したりはしないわ。苦しみに
耐え抜いたら家に帰してあげる。約束。勝手に死んだら許さないか
らね。⋮ははははっ。何ビビってるの? たまらない!﹂
女はそう言って震える僕から離れる。この状況で恐怖しない方がお
195
かしい。
佐奈は顔を壁に付けたまま心配そうにこちらを見ている。
拷問される男女の悲鳴に混じって、遠ざかる女の話し声が聞こえる。
﹁ねぇ? 今の男、私がやってもいい?⋮ええ分かってる⋮生きて
いる事⋮後悔させてや⋮た⋮だけ⋮﹂
﹁ウグゥゥゥ・・・!﹂
右隣の女のうめき声が去りゆく黒ずくめ女の声をかき消す。見ると、
裸の女の背後から黒ずくめの男が覆いかぶさり、ペニスを秘部に突
き刺し始めていた。レイプだ。
女は乾いている膣を侵されてうめき声を上げて涙する。けれども決
して壁から顔は離さない。石の壁を伝って女の涙が流れ落ちる。腰
を振る男は、女の後ろ髪を掴み女の顔を壁から十センチほど離すと、
髪から手を離した。女は急いで顔を壁に押しつけるが、男は手に持
つこん棒を振り上げて女の頭に振り下ろした。
﹁ギャァアアアアーー!!!﹂
女が悲鳴を発する。
それは壁から顔を離した罰だった。どんな状況であっても壁から顔
を離すと罰を受けるのだ。男は腰を振り快楽に溺れながら、何度も
女の顔を壁から引き剥がしてはこん棒を振り下ろす。殴打された首
筋に、背中に内出血が広がる。女の目の前の壁は頭から流れ出た血
と、女が顔を壁に押し当てた時にできた傷から溢れた血で染まって
いく。他の黒ずくめはそんな事は気にもとめない。
それもそのはずだ。この閉ざされた牢獄では、黒ずくめの者達はど
196
こまでも自由な神であり、壁に顔を押し付ける僕たちは虫けら以下
の奴隷でしか無かった。
197
第二十七話 石の牢獄︵二︶ ︱拷問を待つ奴隷への暴行︵前書
き︶
︻これまでのあらすじ︼
体育館ほどある広さの牢獄、その正面には拷問器具がずらりと並ん
でいて十人ほどの男女が悲鳴していた。
その他に百人ほどの男女が裸で怯えていた。後手に手枷をはめられ
ていて、ボールギャクで口を塞がれている。皆、膝立ちで顔を壁に
つけている。そうしていないと殴られるからだ。
僕もそうしている。左側には壁に頭を押し当てて怯える佐奈がいて、
右側には背後から犯されている女がいた。
198
第二十七話 石の牢獄︵二︶ ︱拷問を待つ奴隷への暴行
﹁いいマンコしやがって。イッちまう。⋮うっイクッ。⋮はぁ⋮は
ぁ⋮﹂
右隣りの女に背後から覆いかぶさっていた男が絶頂を迎えた。
男は女の腹に両腕を巻きつけて引き寄せ、精液を女の奥へと注ぎ込
む。果てた男は、縮みつつあるペニスで女の膣をかき回し、快楽の
余韻を余すこと無く味わい尽くすと、ペニスを引き抜いた。ドロリ
とした精液の塊が床に落ち、呼吸に合わせて広がっては狭まる女の
秘部からは、糸を引いた精液の残りが垂れ落ちる。
犯された女は荒い呼吸をしながら、こん棒で何度も殴られた体の痛
みに堪えて体を震わせている。血を流した顔を壁に押し当てたまま、
目を固く閉じ、声を出さない。女は背後の男がこれで去ってくれる
ことを祈っていた。
は
ペニスを黒いマントの中にしまった男は、女の後手に嵌めてある手
枷に繋がる鎖を手繰りよせて叫んだ。
﹁⑲番、立て。拷問の時間だ﹂
女は壁に頭をつけたまま、瞳を見開くと、何が見えるわけでもない
壁を見つめたまま震えはじめる。
﹁まさかこれしきの事で拷問から開放されるなどと思っているわけ
ではあるまいな。俺はまだ何人も女を犯さなきゃならないってのに
イかせやがって。そのマンコ、ぶっ壊してやる﹂
199
男は女の足枷を外すと、手枷に繋がる鎖を強引に引いて歩き始めた。
膝立ちで座ったままの女は、後方に引かれる衝動で真後ろに倒れこ
むと、悲痛な表情で悲鳴を発した。
﹁うぎゃあああああ!!!﹂
女は床を転がりながら牢獄の正面の拷問器具が並ぶ方へと引きずら
れていく。
﹁⑳番、お前もだ。次は俺が相手しやるよ﹂
女の右隣に座っていた男に別の黒ずくめの男が言う。⑳番と呼ばれ
た男の顔面はボコボコで痛々しい。左手の薬指が無くなっていて、
途切れら指先からは血が滴り床に血溜まりを作っている。その指に
はめられていたと思われる指輪は、真っ赤に腫れ上がったペニスの
根本に押し込まれ、血の流れを阻んでいる。
男もたった今引きずられて行った⑲番の女と同じように、泣き叫び
ながら引きづられていく。
僕と佐奈は壁に額をつけたまま、右隣で起こった惨事を目の当たり
にして震え上がっいていた。女はいきなりレイプされて、拷問器具
の所へ引きづられて行った。その隣の男は酷く殴られて指が切断さ
れていた。
これが僕たちの辿る運命⋮? まさか⋮そんなわけない⋮よね⋮?
いたぶ
歯が震えて汗が流れ落ちる。
抵抗する事もできず、ただ甚振られるだけなんて耐えられない。
﹁そこに膝を立てて座れ﹂
右後ろで男の声がする。顔面を壁につけていないといけないため、
視界は狭い。目だけを動かして声の方を見る。そこには疲れきった
200
女が数人の黒ずくめに連れられて歩いていて、僕の方へ向かってく
る。僕が入って来た入口の扉が閉じようとしている。この女は外か
ら連れて来られたのだ。女が僕を見た。怯え切った僕の姿は女の瞳
にさぞ滑稽に映ったに違いない。
女は僕の右隣りまで歩いて来ると、黒ずくめの男に押さえつけられ
て、三角形の金属棒が並ぶ床へと膝をつく。倒れ込むように膝をつ
こら
いた女は、金属棒の頂点が膝に食い込む痛みで苦悶しながらも痛み
を堪えた。胸まである長い髪がうつむく女の顔を隠す。女は視線の
先にある足元の床に白い精液が垂れ落ちているのを見つけると、我
が身の行く末を予感したのか驚いて顔を上げる。
背後の男が女に言う。
﹁壁に凹みがある。そこに鼻を押し付けろ﹂
その壁には、先程までいた女が流した血がべっとりと付いていて、
同じく壁を伝って流れ落ちた涙と混じりあい、血の涙を流した顔模
様が浮かび上がっていたものだから、たまったものではない。
女は震えて泣き始める。背後の黒ずくめは、胸まで伸びる女の黒髪
を掴むと、左右に分け、両手にまきつける。そして右足を上げると
足の裏を女の後頭部に押し当て、嫌がる女の顔面を壁に押し当てた。
﹁いやぁああああああ﹂
女は壁に泣き叫びながら顔を壁につけたが、すぐに顔を壁から離す。
その顔には血がまとわりついていた。
﹁俺の命令が聞けないってのか。壁から顔を離したらどうなるか、
教えておいてやらないとな﹂
男はそう言うと手に持つこん棒を振り上げて女の太ももを殴打した。
201
﹁うぎゃあああ!!!﹂
女はその場に倒れこむ。
﹁早く壁に顔をつけろよ﹂
そう言って男は再びこん棒を振り上げ、先ほどと同じ場所を殴打し
た。
﹁ぎゃあああああ!!!!﹂
女は鼻水を垂れ流して涙を流しながら体をばたつかせると、苦しみ
ながら顔を壁に埋めた。殴られた女の足は、内出血でどす黒く変わ
っていく。
こん棒を振り下ろした男が壁に顔をつける女に言う。
﹁なかなか可愛い顔をしてるじゃねーか。その顔がいつまで原型を
留めていられるかはお前次第だって事を覚えておくんだな。後でた
っぷり可愛がってやる﹂
女が大人しくなると、背後でいた黒ずくめ達は去っていく。
右隣りの女は泣き止まない。
左隣りの佐奈は恐怖ですすり泣きながら僕を見つめる。手を伸ばせ
ばすぐに触れ合える距離だというのに、黒ずくめの暴力に怯える僕
たちは触れ合うことも話すこともできない。
音が反響するこの牢獄の中を、拷問される奴隷の悲鳴と拷問を待つ
奴隷の恐怖する泣き声は途絶える事無くいつまでも往来しつづける。
その悲痛な叫びは柔らかな肉体をさらけ出した僕たち奴隷の体が吸
収するまで永遠とさまよい続ける。僕たちはその絶望のこもった叫
びを成すすべなく受け入れて、心を疲弊させながら、巡回する黒ず
202
くめが何事もなく通り過ぎる事を祈るしか無い。
ただ、拷問される人が悲鳴しながら引きづられて行く時、そして拷
問された人が無言で血の筋を作りながら引きづられて来る時、その
時だけは黒ずくめが僕たちの元へ向かってくる訳ではない事が分か
り安堵した。
黒ずくめは冷酷にもそんな僕と佐奈を逃さない。
恐怖で縮こまる僕達にも遂にその時が訪れたのだ。
背後を通りすぎようとした黒ずくめの男は立ち止まると叫んだ。
﹁3番、④番、立て。拷問だ﹂ ④番は僕で、3番は佐奈だ。佐奈の背中には﹁3﹂を型どった焼印
が押されている。僕と佐奈は痛い程の恐怖の眼差しを浴びせ合いな
がら後ろに倒れこんだ。背後の手枷に繋がる鎖が引かれたのだ。三
角の鉄の棒が並んだ床の上に座っていた足はしびれて動かない。僕
と佐奈は平らな石の床を後ろ向きに引きづられていく。
引きづられ行く先を見る。牢獄の正面には拷問器具が並んでいて、
十人ほどの男女が痛みに悲鳴を発していた。
右端の男女は天井から吊るされた一本のサンドバッグに背中合わせ
に縛り付けられていた。その前にはメリケンサックをはめた男が立
っていて、目の前のサンドバッグに縛り付けている女を殴る。女は
痛みを堪えかねて体の体制を変えるとサンドバッグはくるりと回り、
裏側にしばりつけられた男が殴られる。サンドバッグは血に染まり
ながらくるくると回っては殴られる衝動で揺られ続けている。
その隣には、股を開いて逆さ吊りにされた男女がいて、足の太さほ
203
どある杭の先を尻の穴に押し当てられ、巨大なハンマーで打ち付け
られていて、血を流しながら悲鳴している。
さらにその隣では、棘が無数に飛び出た拷問椅子に拘束された男女
が、足の裏を火で炙られながら、広げられた手の指の爪をやっとこ
で剥がされて悲鳴している。
さらにもう隣では、うつ伏せに寝かされて下半身のみを平らな台に
拘束された男女が、目の前の水槽の中に上半身を沈めている。二人
の首には水槽の底を通してロープが巻きつけられていて、一人が呼
吸するために水面から顔を上げると、もう一人の頭は水槽の奥底に
沈んでいく。男女の背筋は限界に達していて、痙攣しながらも生き
るために水面から体を上げ続ける。そんな男女の下半身を黒ずくめ
がこん棒で殴りつけている。
僕と佐奈はその悲惨な有様を目の当たりにして、泣き叫びながら逃
げようともがくが、汗で滑る床に立ち上がることすらできず、刑場
のように拷問器具が並ぶ元へ引かれていく。
僕たちが連れられていく先には石で作られた三角木馬があって、そ
また
の上で男女が切り裂くような悲鳴を発していた。その三角木馬は三
十度ほどある傾斜の三角柱で、鋭い頂点を跨いで男女が向かい合う。
三角木馬の頂点が食い込む股からは血が流れ出していて、三角木馬
の表面を伝って床に滴り、血の水たまりを作っている。三角木馬は
天井から鎖で吊るされていて、跨る男女の足は床から一メートル五
〇センチほどの高さで宙吊りとなっており、足首から真下に伸びる
鎖の先には、横長の重りがぶら下げられていて、両足を押し広げて
いる。男女は天井から伸びる鎖で後手の手枷を繋がれているために
落下する事もなく苦しみ続けている。
204
近づく程によく見えるその様は酷い。男女は痛みに気絶しては筋肉
の緩んだ体から尿と糞を垂れ流すが、あまりの痛みにすぐに意識を
取り戻し、再び獣のように叫びはじめる。
女の左右の大陰唇には紐のついた釣り針が通されていて、男の足の
指先に結ばれている。男の左右の玉袋には同じように紐のついた釣
り針が通されていて、女の足の指先に結ばれている。三角木馬の男
女は痛みに悶えるたびに、互いの性器を傷めつけ、その痛みの衝動
で体を揺すり、股間を更に切り裂いてゆく。
僕と佐奈はその元まで引きづられて行った。
これが僕たちの辿る運命なのかと受け入れざる負えない状況に追い
込まれつつあった。その時は、刻一刻と近づいていく。三角木馬に
乗せられていた男女の足の重りは取られ、二人の体は天井から吊る
された鎖に引き上げられて体が宙に浮くと、床に降ろされた。男女
は床でぴくりとも動かない。そんな彼らの手枷に繋がる鎖を黒ずく
めたちは引き、壁に額をつける人々の元へと引きずっていく。床に
は彼らの流す血の痕が蛇行している。
黒ずくめ達が僕と佐奈に近づいてくる。
拷問される⋮
僕は佐奈と床にぺたりと座り込みながら肩を寄せあい、額と額を重
ねて励まし合うように泣いた。ただ泣く事で辛い現実から逃れよう
としていた。
﹁待たせたね﹂
背後で若い女の軽い声がした。その方を見上げる。
それは僕をこん棒で殴りつけた女だった。
女はフードの付いた黒いマントを頭からかぶり体を覆っていて、目
205
と口と鼻が繰り抜かれた黒い仮面で顔を隠している。右手には金属
バットのようなこん棒を握っていて、床を引きずって歩く。ひらり
とはだけたマントの隙間からは硬そうなブーツが覗く。
女は怯える僕たちの前まで来ると、指先が切れている革手袋をはめ
た手を伸ばし、宙に吊るされて血に染まった三角木馬を指差す。
﹁これが、これから味わう拷問だよ。さっきの二人もこの牢獄に連
れてこられて初めての拷問がコレだったみたい。見てたでしょ? 楽しそうだったよね。 はははっ﹂
女は楽しそうに話すと回りの黒ずくめに言う。
﹁女を三角木馬へ乗せちゃって。男は邪魔だからその柱に繋いでも
らえる?﹂
先ほどの男女のように三角木馬に乗せられると怯えていたのに佐奈
だけとは。だけど油断はできない。後で僕も乗せられるに違いない。
佐奈は状況が飲み込めず白い顔を僕に向ける。
黒ずくめの女はそんな佐奈に近寄る。右手に持つこん棒を僕と佐奈
ここ
の間に差し込んで見つめ合う僕たちの視界を遮ぎると怯える佐奈に
優しく言った。
彼
﹁可哀想に。あなたは④番に捨てられたの。だからね、石の牢獄の
拷問で苦しむのはあなただけ﹂
206
第二十八話 石の牢獄︵三︶ ︱三角木馬︵前書き︶
︻これまでのあらすじ︼
体育館ほどある広さの牢獄には百人ほどの男女が裸で怯えていた。
後手に手枷をはめられていて、ボールギャクで口を塞がれている。
皆、膝立ちで顔を壁につけていた。そうしていないとマントと仮面
で全身を覆った黒ずくめの者に殴られるからだ。
牢獄の正面にはずらりと拷問器具が並んでいて十人ほどの男女が拷
問され断末魔の悲鳴をあげていた。黒ずくめたちは僕たちを順に拷
問していく。
僕と佐奈にもついにその時がやってきて、拷問器具の並ぶ前まで連
れて来られてしまう。
黒ずくめの女は血塗られた三角木馬の前で怯える佐奈に優しく言っ
た。
﹁可哀想に。あなたは彼に捨てられたの。だからね、ここの拷問で
苦しむのはあなただけ﹂
207
第二十八話 石の牢獄︵三︶ ︱三角木馬
僕が佐奈を捨てるだと? この女は何を言っているんだ。僕が佐奈
を捨てるなんてあり得ない。
僕の心は佐奈を思う気持ちで一杯だ。何より彼女が慕ってくれるか
らこのつらい現実に耐えられる。その佐奈を捨てるなんて。
﹁見なよ﹂
女は身にまとうマントの中から折り畳んでいた一枚の紙を取り出し
て広げ、僕と佐奈の前に突き出した。
−−−
誓約書
1.私は﹃石の牢獄﹄の拷問を抵抗すること無く受け入れます。
②.私は﹃石の牢獄﹄の拷問を私に代わって山中佐奈に受けさせま
す。
氏名 高野はると
−−−
﹁2﹂に○が付いていて僕の筆跡のサインがある。
そんな馬鹿な! 僕が佐奈に拷問の苦痛を押しつけるわけないじゃ
ないか! 覚えはないが明らかに僕の文字だ。
記憶を辿る。
208
あるとすれば、あの時。
暖炉のある部屋でリサという女に大量の書類を書かされたあの時だ。
その時の書類の束にはこれからの僕がどんな酷い目にあうかが書か
れていた。僕の体が傷つくことに同意するか、指を失う事に同意す
るか、健康な歯を麻酔なしに引き抜く事に同意するか、そんな身の
毛もよだつ事が一枚一枚の紙に書かれいた。ペンを持たされて、尿
道に突き挿した半田ごての先がどんどん温まっていく苦しみに追わ
れて無我夢中で紙にサインしていった。その中の一枚⋮なのか。
﹁ほら、これも見なよ﹂
女はそう言ってもう一枚の紙を僕たちの前へ差し出す。
−−−
誓約書
①.私は﹃石の牢獄﹄の拷問を抵抗すること無く受け入れます。
2.私は﹃石の牢獄﹄の拷問を私に代わって高野はるとに受けさせ
ます。
氏名 山中佐奈
−−−
!!! どうして⋮ 佐奈は﹁1﹂を選んでいるというのに、どう
して僕は﹁2﹂を選んでいるんだ⋮。
違うんだ、佐奈! これは僕の意思じゃない、ボールギャクで塞が
れた口で叫ぶも声にはならず伝わらない。頭を振って意思を示すも、
既に佐奈の視線の先に僕は居ない。
209
佐奈はわずかに触れ合っていた僕から体を離してうつむき、床へ大
粒の涙を落とす。
女は佐奈に触れるほどの距離まで近づいて同情するように言う。
﹁この男はね、あなたの事なんて何とも思っちゃいないんだよ。自
分さえ助かればそれでいい、そういう奴なの。女をその気にさせて、
もて遊んで、そして捨てる、そういう男。あなたはそんな心ない男
の身代わりになって苦しむの﹂
無茶苦茶だ。僕はそんな男じゃない。君を愛してる、好きなんだ。
佐奈に叫ぶ。けれども離れた柱の元へ引きずられはじめていた僕が
発する言葉は口枷に阻まれて、後手に引かれ行くことに悲鳴してい
るようにしか伝わらない。
僕は佐奈からどんどん引き離されていって、建築上何の意味も持た
ない、奴隷を繋ぐためだけに造られた低い柱に繋がれた。
うつむいたままの佐奈の隣に立つ女は、周囲で拷問されゆく男女の
悲鳴に負けないほどの声で喋る。
﹁さっき三角木馬に乗せられていた男と女、一人、百キロの重りを
足にぶら下げてたわ。随分と苦しんでたねぇ。けれどもあなたはこ
んな男のために、その倍、二百キロの重りに耐えなきゃならない。
ここから生きて出るにはそれしかないのよ。あぁ可哀想に⋮ ふふ
っ、はははっ ははははは!!!﹂
女は楽しそうに笑ないながら佐奈の元を離れた。そして何を思った
か手に持つこん棒を両手で持って、クルクルと回り始める。よろけ
つつも回転しながら移動して、勢いづいたこん棒で三角木馬を殴り
つけた。金属バットのようなこん棒がグニャリと曲がる。
210
﹁くくっ⋮ははははははは!!!! ヤバッ ひひっ⋮ぎゃははは
はっ!﹂
目が回って安定しない体を酔っぱらいのようにくねらせながら、腹
いたぶ
を抱えて、ひとり不気味に笑う。
頭のおかしな女。こんな奴に甚振られたらどうなるか分かったもの
じゃない。
佐奈は僕に裏切られたことがショックだったのか、うなだれたまま
動かない。床を見つめて涙を落とし続ける。
周囲に集まった黒ずくめの男達はそんな佐奈の腕を掴み、三角木馬
の元へと引きずる。
頭を垂らして脱力したまま引きずられて行く佐奈は、血と尿と排便
でヌルリと汚れた床にハッと気づいて上を見上げた。そこには巨大
な三角木馬が宙に浮いていた。
幅は四メートル、高さ一メートルの三角形をした石が、親指ほどあ
る太さの鋼で作られた鎖で天井から吊るされ、床から一メートル五
十センチほどの上空でゆっくりと揺れている。頂上は鋭く尖ってい
て、その急斜面からは前に拷問された男女が流した二筋の血がポタ
リポタリと床に滴る。三角木馬の表面は、血、汗、尿、鼻水、排便
で汚れて染み付いている。それは公園などにある壁式の古い小便器
のよう。その下の床は、垂れ流ちた体液と排泄物が広い水たまりを
つくり悪臭を放つ。空気の出入りが無いので牢獄の中の空気は淀む
ばかリだ。床に溜まる汚水は、傾斜の付いた床を少しずつ流れてい
き、牢獄中央の凹みへと向かう。
三角木馬を見上げた佐奈は恐怖のあまりか、泣く事も悲鳴を上げる
ことも無かった。ぎこちない動きで悲しみと驚きの入り混じった顔
211
を黒ずくめの女に向けた。嘘でしょ? そう言っているかのような
表情だ。次第に佐奈は震えながら首を横にぶんぶんと振り、無理だ、
と訴えはじめる。
黒ずくめの男はそんな佐奈の背後で手際よく事を運ぶ。
佐奈を後手に拘束している﹁工﹂字型の手枷は左右の上腕と手首を
分厚い鉄骨が繋いでいている。その中央から伸びる鎖に天井から垂
れる鎖を繋ぐ。
床には先程まで拷問されていた男女が足につけていた一メートルほ
どの鎖が四本転がっている。鎖の片側には革製の拘束具が付いてい
て血と尿と体液でぐっしょりと湿ってる。
男はそのうちのニ本を拾い上げると、佐奈の細い足首に拘束具を巻
きつけてベルトを閉めた。
体育館ほどの高さの天井から伸びる鎖が上へと巻き上げられる。そ
の先は佐奈の背後の手枷に繋がっている。佐奈の細い腕が鎖に引か
れて引き上げられ始めた。
佐奈は恐怖の滲む顔で何かを叫ぶ。周囲にいる黒ずくめの男たちを
見て、黒ずくめの女を見て、僕を見て、必死に叫ぶ。けれども口は
口枷で塞がれているため何を言ってかは分からない。止めて!か、
助けて!か、そんなところだろう。助けてやりたいけれど、拘束さ
れている僕はただ見守るしかない。僕にできることは佐奈から視線
を外さないこと。佐奈の味方は僕だけしかいない。彼女が助けを求
めて僕を見る時、僕がそっぽを向いていたらどれだけ孤独を感じる
ことだろう。そうはさせたくない。ただそれだけのために苦しむ佐
奈を見る。
鎖はどんどん引き上げられていく。佐奈の両腕は不自然なほど後ろ
212
に持ち上がり、遂には足先が宙に浮いた。
﹁ギャーーーーーー!!!﹂
佐奈は吊り上げられて全体重のかかる肩の痛みに悲鳴する。
泣き叫ぶ佐奈は宙高くで揺れ動く。その両足から伸びる鎖を、三角
木馬の左右に立つ男が引き、無理やりに股を開かせる。下から両足
の鎖を引かれると吊るされた肩がさらに痛むため、佐奈は自らの意
思で両足を開いて抵抗しない。そうして佐奈は三角木馬の鋭い切っ
先の上へ降ろされた。
肩の痛みが引くのもつかの間、三角木馬が佐奈に牙をむく。
﹁うぎっ⋮うぅぅうう!!!﹂
佐奈の股間に三十度の角度に尖った刃先が食い込む。佐奈は両足を
の
でんぶ
必死に閉じて三角木馬の切っ先が股間に食い込む力を削がせようと
もがく。体を後ろに仰け反らせ、性器よりも痛みに鈍感な臀部で三
角木馬の刃先を受け止めようとするが、男たちがそれを許さない。
男たちは、緩めておいた佐奈を後手に吊るす鎖を再び引き上げ、上
半身を四五度ほど前方に傾けさせた。そうする事で佐奈の尻の穴か
らクリトリスにまでの女性器の全てが三角木馬の刃先にめり込んだ。
その痛みから逃れようと体を後ろに反らすと、引き上げられた両腕
の付け根である肩に痛みが走る。
﹁ぎぃぃいぃいいい⋮!!!﹂
佐奈は歯を食いしばって唸る。
三角木馬を挟む足の筋肉は既に限界に達していてプルプルと震えて
いる。太ももが三角木馬を挟む力を失えば全体重を股間で受け止め
213
なければならない。そうなれば丸みを帯びた股下の骨に鋭い三角木
馬の先が突き上げて、挟まれる肉と皮は押し潰され、痛みに敏感な
女性器をペンチで握りつぶすような痛みがいつまでも襲うこととな
る。
黒ずくめの女は三角木馬の正面に立った。佐奈を見上げ、楽しそう
に話しかける。
またが
みかげいし
﹁いい眺め。そこからの眺めもさぞかし素晴らしいんじゃない? あじいし
あなたが跨るその三角木馬、壁と同じ石でできているのよ。御影石
の中でも一番硬い庵治石で作られてるんだって。ほら、こん棒がこ
んなにも曲がったのに傷一つ付かないの。昔の人はね、暖かな木で
できた三角木馬に乗せられて拷問されたんだ。怪我をさせないよう
に配慮されてたの。それでも辛くて自白しない罪人なんていなかっ
たんだって。けど、この三角木馬にそんな優しさは無いんだよ。乗
る人間がどうなろうが苦しめばそれでいい、そういう代物。いい趣
味してると思わない? まずは百キロの重りを足に吊るすから期待
しててよ﹂
佐奈は目を見開いて、嫌だ!と叫びながら、頭を左右に振る。口枷
で塞がれた声は大音量で音割れしたスピーカーのように耳障りな悲
鳴となって牢獄内に響く。
二人の黒ずくめの男は床に置かれた長細い石の重りを持ち上げて、
三角木馬の真下に運ぶ。それは百キロの石で佐奈の両足を押し広げ
程の幅がある。男たちは石の端に付く鎖を、佐奈の足首から伸びる
鎖へと繋ぐ。
黒ずくめの女が男たちに言う。
﹁待って。まだ重りから手を離さないで﹂
214
そして佐奈に言う。
﹁ねぇ拷問されるのはどんな気分? これからさっきの男女︵奴ら︶
みたいに糞を垂れ流して、もがき苦しむ事になるんだよ﹂
佐奈は既に全身から汗を流していて、残された下半身の力で滑る三
角木馬に必死に堪えていた。重りなど無くとも十分な苦痛が小柄な
少女の体を襲っている。佐奈は黒ずくめの女を辛そうな目で見て、
何度も何度も助けを求めて叫ぶ。
女はもがく佐奈に冷たく言った。
﹁分かってるよね? これは拷問なんだ。悪いけど、耐えられるよ
うな都合のいい拷問なんてここには無いの。覚悟して﹂
﹁重りから、手を⋮離して⋮﹂
女は佐奈を見たまま、重りを持つ男たちへ静かに言う。
涙を流して必死に頭を左右に振る佐奈。
重りを持つ男たちは手を離す。
佐奈の細い足先に百キロの重りがぶら下がった。
﹁ギャアアアアアアアアアーーーー!!!!﹂
佐奈は両目を見開いて、斜め上を見据えて悲鳴を発した。重りは両
足で三角木馬を挟んで耐えようとする佐奈の力など安々と削いで足
を引き延ばす。三角木馬の底辺よりも幅のある重りが佐奈の足を左
右に押し広げて、床から五十センチの高さで宙に浮く。佐奈の全体
重と百キロの重りが股下を襲う。
﹁ウギィィィ!!!!ギャーーーー!!!!ウグッ!!!ギャァァ
ァァ!!!!﹂
佐奈が痛みで暴れる度に、大切な割れ目を、周辺の柔らかな肉を、
215
三角木馬の切っ先が容赦なく押しつぶす。
次第に三角木馬は前へ後ろへと揺れ始める。佐奈が暴れる度に両足
に吊るされた重りが前後に揺れた。それにつられて高い天井から吊
るされた三角木馬も徐々に揺れはじめたのだ。三角木馬と重りが異
なる周期で揺れる。佐奈の体は重量のある重りに揺られて前へ後ろ
へと揺すられた。三角木馬の刃先が佐奈の性器を隅々まで潰してい
く。大陰唇も、小陰唇も、更にその奥の柔らかな肉も、小さなクリ
トリスさえも、固く冷たい三角木馬の切っ先が潰していく。
﹁はははっ 動くと股が切れるよ!﹂
女は楽しそうに佐奈に叫ぶ。
佐奈は佐奈とは思えぬ甲高い獣のような悲鳴を発してもがくと、脱
力して気を失うが、股間の痛みですぐに意識を取り戻して悲鳴し、
再び気を失っては、正気を取り戻して叫びまくった。
にじ
佐奈が苦痛から逃れようともがく度に、三角木馬へ深く食い込んで
いる肉が次第に切れて血が滲み出した。その清らかな血は三角木馬
の急斜面を流れ落ちていき、床の上に薄く広がる何人もの体液と汚
物が入り混じった水たまりへと消えていく。
僕は三角木馬の正面よりもやや横にずれた位置の床に座り込んでい
た。ここからは佐奈の様子がよく見える。
腕の拘束具から伸びる鎖を、背後の柱の床に近い位置で留められて
いるものだから立ち上がる事はできない。
﹁見なよ! 苦しんでる。ははっはははっ。ヤバイね、最高!﹂
僕の隣に立つ黒ずくめの女は苦しむ佐奈を見ながら、長くもない僕
の髪を細い指で力いっぱい掴み、僕の頭を揺する。
216
やめてくれ! 佐奈が死んでしまう! 僕はボールギャクで話せな
い口で力いっぱい女に叫んだ。口枷で言葉にならない声は佐奈の悲
痛な悲鳴にかき消されてしまう。
﹁何言ってるの? 聞こえない﹂
女はそういうと、僕の口にはめられた口枷を取って床に投げ捨てる
と、僕の顔を見る。
僕はチャンスとばかりに叫んだ。
﹁こんな酷いこと止めてくれ! 佐奈を助けてくれよ! あんなに
も苦しんでるじゃないか!﹂
﹁ははっ 君は面白いことを言うね。拷問してるんだよ。苦しまな
きゃ意味ないじゃない。⋮素直になりなよ。本当は女の子を酷い目
にあわせるのが好きなんでしょ?﹂
女はそう言いながら僕が書いた誓約書を振る。
3番
﹁違う、書かされたんだ。無理やりに﹂
﹁書かされた? 佐奈はそうじゃないのに?﹂
﹁それは⋮﹂
僕は言葉に詰まる。
﹁そんな言い訳がここで通用すると思ってる? 全く、あなたみた
いな男のいったいどこが良いのかしら⋮まぁ別にいいんだけど。お
かげで私は楽しめるわけだし。それじゃあ次の百キロいっちゃおう
か。君の望んだ分だよ。 ははははっ!﹂
﹁やめてくれ!﹂
217
﹁見なよ。ションベンを垂れ流し始めた。じきに糞を垂れ流すよ。
⋮ははっ無様。ねぇこんな姿になっても、あの子のこと好きなわけ
?﹂
﹁当たり前じゃないか! もう佐奈は限界だ。あんなにも血が。死
んでしまう。お願いだよ。佐奈を助けてくれよ! ⋮もう、そんな
紙切れのことなんて忘れて、いっそうのこと僕を、、、﹂
﹁拷問しろって?⋮ふぅーん。その気持ちがどれ程のものなのか、
私、興味あるよ。⋮そうだ。ゲームしよっか。君が勝てばすぐにで
もあの子を三角木馬から下ろしてあげる。もし私が勝ったら、君の
分の百キロの重りと、追加でもう五十キロの重りを加える。どう?﹂
﹁ゲーム? 何するってんだ!﹂
﹁それは秘密っ。言ったら面白くないじゃない。別にやらなくって
もいいんだよ。彼女の足に合計でニ百キロの重りがぶら下がる。た
だそれだけ。眺めているのも悪くないと思うわ。どうなっちゃうか
想像したらワクワクしない? あんなにも可愛らしい顔をしている
のに二度と彼氏ができない体になるんだよ。アソコはぐちゃぐちゃ
に潰れて、刃物で何度も切り刻んだような傷跡が残るの。そんなの
を見て起つ男がいる? こんな平和な世の中じゃ拷問されたなんて
誰も想像だにしない。皆思うはずよ。この女、アソコをリスカする
ようなヤバイ女だ、ってね。そんな不良品、誰も掴みたくない。君
だってそうでしょ? ⋮ふふっはははっ﹂
﹁やめろ! 佐奈を侮辱するな! 佐奈は僕のものだ。誰にも渡さ
ないし、どんなに傷ついても見捨てたりはしない! ⋮やるよ、や
ってやる。佐奈を救えるなら、どんなゲームだってやってやる! 218
約束は守ってくれるんだろうな!?﹂
﹁ははっ。ウケる! もちろん約束は守るわ。だって私が負けても
失うものは無いんだもの﹂
黒ずくめの女は嬉しそうにそう言うと小さな拷問器具がずらり並ぶ
牢獄の隅へと向かった。
219
第二十九話 石の牢獄︵四︶ ︱棘ブラジャー、乳房ペンチ潰し
、男性器ペンチ潰し︵前書き︶
︻これまでのあらすじ︼
体育館ほどある広さの牢獄には百人ほどの男女が裸で怯えていた。
後手に手枷をはめられていて、ボールギャクで口を塞がれている。
皆、膝立ちで顔を壁につけていた。そうしていないとマントと仮面
で全身を覆った黒ずくめの者に殴られるからだ。
牢獄の正面にはずらりと拷問器具が並んでいて十人ほどの男女が拷
問され断末魔の悲鳴をあげていた。黒ずくめたちは僕たちを順に拷
問していく。
佐奈は三角木馬の上で悶え苦しんでいる。百キロの重りが足に吊る
された。三角木馬の刃先が女性器の柔らかな肉を潰しながら傷つけ
ていく。
苦しむ佐奈をただ眺めるだけしかできない僕に、黒ずくめの女はゲ
ームをもちかけた。
﹁君が勝てばすぐにでもあの子を三角木馬から下ろしてあげる。も
し私が勝ったら、君の分の百キロの重りと、追加でもう五十キロの
重りをあの子に加える。どう?﹂
220
第二十九話 石の牢獄︵四︶ ︱棘ブラジャー、乳房ペンチ潰し
、男性器ペンチ潰し
﹁このショーツとブラ、かわいいでしょ﹂
黒ずくめの女は床に座る僕に駆け寄った。両腕を付き出し真っ白な
パンティとブラジャーを広げて見せる。
﹁君はこっちね﹂ そう言うとパンティを僕へ投げる。
純白のパンティは見た目の柔らさからは考えられない重量感で僕
の膝下に落ちた。
僕はそれを見た。落ちたパンティの内側がはだけて見える。パンテ
ィらしからぬ厚みのある生地の内側には棘が無数に突き出している
ではないか。画鋲をパンティの内側に隙間なく敷き詰めたような具
合だ。棘は画鋲ほどの長さでナイフで削られた鉛筆のように荒々し
くも鋭利で痛々しい。
これを履けということか? 女を見上げた。
女はブラジャーの端を片手で持って僕の目の前に垂らす。そしてカ
ップの内側を僕に見せた。
は
内側にはパンティと同じように棘が無痛に突き出している。
女は無邪気に言った。
﹁このブラはあの子がつけるの。とりあえずソレを履いててよ﹂
言わなくても分かると思うけど棘がある方が内側だからね。そう言
うと佐奈を乗せる三角木馬の元へ向かった。苦しむ佐奈の左右に立
つ男にブラジャーを手渡す。何かを話しているが周囲の悲鳴にかき
消されて聞こえない。
221
佐奈は、涙と涎と鼻水と汗でぐちゃぐちゃになった顔を振り回して
いる。悶えて悲鳴しては助けを求める目を僕と黒ずくめの女に向け
る。
ゲーム
に勝って佐奈を救うんだ。
待ってろ。すぐに助けてやるから。
あの女の言う
僕は後手に拘束されている上に手枷から伸びる鎖が床近くの柱で留
められているため立ち上がる事ができない。手でパンティを拾い上
げると、狭い箱の中に閉じ込められているかのように、小さくかが
んだままパンティを履く。女性の下着を着ける恥ずかしさも、無数
の棘が肌を包み込む恐怖も感じない。僕の心は愛する佐奈が拷問さ
れて肉体を壊されていく辛さと、さらに傷つけるように仕向けてし
まった僕の不甲斐なさによる罪悪感に満たされていて、何かせずに
はいられなかった。
パンティはきつい。肌に密着するように作られているため内側から
しょくざい
突き出す全ての棘が肌に突き刺さって痛い。けれど嫌では無かった。
その痛みが苦しむ佐奈に対する贖罪のように思えたからだ。
黒ずくめの女は再び牢獄の隅へと向かう。
佐奈の左右には踏み台が置かれた。それぞれに男が登る。後手に吊
るされてうつむき加減に三角木馬に跨る佐奈。胸はより膨らみを増
して魅力的に見える。踏み台の上の男たちは目の前にさらけ出され
た佐奈の乳房を撫で回した。黒ずくめの女が居ないのを良い事に欲
望のままに佐奈を味わう。棘の突き出すブラジャーを着けたら、胸
は傷だらけになってしまい、男を魅力する輝きを失ってしまうから
だ。男たちは佐奈の柔らかな胸を堪能しきるとブラジャーのカップ
を丁寧にあてがった。背中でホックをとめる。肩紐の端を外して紐
222
を肩に這わせると、再び端をブラジャーに留める。
けが
僕は佐奈の胸が男たちの汚い手で穢されていくのを、歯痒くも眺め
ているだけだった。本当は止めろと叫びたかった。けれども身動き
がとれない僕が叫んでも、男たちを調子づかせてしまうことは想像
できた。僕はこれ以上佐奈の足を引っ張ってはならないんだ。
﹁もう履いたの? ぷっ⋮ぎゃははっ おかしい! 似合ってるよ。
はははっ﹂
黒ずくめの女は戻って来るなり僕を笑う。
﹁ゲームするんだろ! 早く始めろよ!﹂ 僕は怒鳴った。
つま
﹁はははっ⋮ごめんごめん。それじゃゲームのルールを言うね。こ
れで君のショーツを抓むから⋮﹂
女は身を覆う黒いマントの間から右手に出した。手にはペンチが握
られている。
﹁声を出さずに耐えてね。もし君が声を出したら、その間、あの子
のブラをペンチで抓むからね。ショーツもブラも棘があるから血が
出るわ。あの子のブラよりも先に君のショーツが血で真っ赤に染ま
ったら君の勝ち。その時はあの子を三角木馬から下ろしてあげる。
けど、あの子のブラが先に真っ赤になったら君の負け。三角木馬の
拷問を続ける。簡単でしょ? 君は声を出さないだけであの子を救
えるんだよ﹂
女はそう言うと床に座った。女の子座りで僕に触れる程の距離まで
近づく。
僕はと言うと膝立ちだ。棘の突き出たパンティを履いたまま床に座
りこんだりはしない。
223
女はペンチの先を目の前に差し出し開閉させながら言う。
﹁じゃぁ始めよっか﹂
僕は何も言わなかった。ただ女を睨んだ。怖かったのだ。病院で
注射針を刺される瞬間に滲み出す恐怖心のようなものが僕を包んで
いた。今更止めたいなんて言い出す訳にもいかず、流れに身をまか
あざけ
せ強がってみせるしか無かった。女はそんな僕の本心を見抜いてい
たんだと思う。ぎゃはははっと僕を嘲笑った。
ためら
女はペンチの先を下ろしてパンティの手前で広げた。女は躊躇う事
無くペニスの根本を掴んだ。そのまま力を込めてペンチを握りしめ
た。無数の棘がペニスに突き刺さる。
﹁ぎゃああああ!!!﹂
僕はあまりの激痛に悲鳴した。ペンチの下のパンティが赤く色づき
始める。
女は慌てて革手袋をはめた手を僕の口に押し当てた。
﹁おっと。ダメだよ。この程度で声出しちゃ。あの子がどうなって
もいいの?﹂
つね
女はペンチを握る手に力を込めて棘を根本までペニスに貫通させる
と、右へ、左へとねじ込むように抓る。痛みで声と涙が出る。痛み
に耐えきれない。
﹁うぐぐぐ!!﹂ 口を押さえる女の手の中で僕の悲鳴はくぐもり、
消えた。
ぎゃはははっ! 女は苦しむ僕を見て楽しそうに笑うと僕の口から
224
手を離した。
﹁うぐっ!ぎぃいいいぎゃああああ!!!!﹂
声が止らない。僕の喉は暴走して僕の言うことを聞かない。
つま
佐奈の左右に立つ男は僕の悲鳴を待っていたとばかリにブラジャー
をペンチで抓んだ。ブラジャーの一番膨らんだ部分、乳首のある部
分を抓んだのだ。しかも左右に立つ男がそれぞれにペンチを持って
いて、左右の胸を抓んでいる。乳房の一番敏感な乳首を左右同時に
つねられた佐奈は痛みと恐怖で悲鳴をあげる。佐奈の滑らかな肌を
荒く削られた棘の先が突き破る。次々にその柔らかな肉に穴があい
ていく。血が流れ出して白いブラジャーを赤く染めていく。
﹁ぎぃいい! 見ろ! 約束が違う。アイツら何とかしろよ!﹂
僕は何とか喉の制御を取り戻して目の前の女に叫んだ。
女は血の滲んだパンティからペンチを離して後方の三角木馬を振り
返る。
うーん。女が悩むように唸る。
﹁何か間違ってる? ああ、アレね。君の分の苦痛を彼女に与える、
そういう誓約書だったじゃない。私、決め事は守る主義なんだ。へ
へへっ。だからね、二個のペンチで抓むんだ。君の二倍の痛みをあ
の子は受けなきゃいけないだよ。もうあんなに赤くなってるねぇ。
ブラは面積が狭いから頑張らないと、君、負けるよ。はははっ﹂ 女は笑いならが僕を見る。
﹁そんな⋮。痛いんだ⋮耐えられない⋮﹂ 僕は涙ぐみながら女に
訴えた。
225
﹁じゃぁいい方法教えてあげる。あの子のこと好きなんでしょ? なら命かけなよ。舌を噛んで死ぬの。そしたら声が出なくなるから
さ! ぎゃはははっ﹂
死ねと? 女は弱り果てた僕に血も涙も無いこと言う。佐奈の耳に
もその言葉が聞こえたに違いない。佐奈の悲鳴がぴたりと止んだ。
歯を食いしばって股間を切り裂く三角木馬の痛みに耐えて鬼のよう
な形相で女を睨みつけた。
﹁あの子にも聞こえたみたいね。うわっ。見なよ。あの怖い目。君
を睨んでるわ。﹃早く死んで私を助けてぇ∼﹄って言ってんじゃな
い? ははっ﹂
つま
女は笑いながらペンチをパンティに突き出して狙いを定めると、い
っくよーと言って一気に抓んだ。
﹁ぎゃあああああああ!!!!!﹂
僕はこの世のものとは思えぬ痛みに悲鳴を上げた。女は金玉を摘ん
だのだ。
﹁ぎゃははははっ! 死ね!死ね!死ね!死ね! はははははっ!﹂
女は手に力を込めていく。
男たちは佐奈の胸を壊すように乳房のあらゆる部分をペンチで抓っ
ていく。
﹁ギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア!!!!!!﹂
佐奈は耐え切れずに悲鳴を上げた。ブラジャーが真っ赤に染まって
いく。辛そうな目を僕へ向けて視線を外さない。
眉間に皺を寄せるその目は僕への恨みに満ちているように思えた。
226
ひる
僕は怯んで、心の中で佐奈に謝った。ごめん、ごめんよ。助けられ
ない。ごめんなさい!
そんな僕の人間らしさは金玉を突き刺す棘の痛みに一瞬で消失した。
僕の全てが痛みに飲み込まれた。痛くてたまらない。呼吸する事を
忘れて悲鳴しつづけた。生きるのが辛い。楽になりたい。僕はただ
それだけの思いで舌を噛んだ。血の味がして唾液に混じった血が口
から溢れだす。
女は驚いた。ペンチを掴む手を緩めると別の手で床に転がるボール
ギャグを掴み僕の口に押し込んだ。そして再びペンチを握る手に力
を込める。
﹁ははっ残念! その程度じゃ死ねないねっ!﹂
女はペンチを挟む力をさらに強める。
﹁ぎゃーーーー!!!!﹂
僕は叫んで叫んで叫んだ。体が沸騰するほど熱くなって汗が吹き出
す。気絶しているのか、生きているのか、死んでいるのか分からな
い。僕の頭の中には痛みで満たされていて、永遠とも感じられる地
獄の苦しみを味わい続けるしかなかった。
しばらくして僕は開放された。女は力を緩めてペンチを握る腕をマ
ントの中に収めたのだ。
僕が僕を取り戻した時、視線の先の佐奈のブラジャーは真っ赤に染
まっていた。僕は⋮ゲームに敗れた⋮
﹁私の声、聞こえる? このゲーム私の勝ちっ。痛みに耐えること
も死ぬこともできないダメなオトコねぇ。そこで大好きなあの子の
股が裂けるのを見てな﹂
227
女は、意識を朦朧とさせながら肩で荒い息をする僕の顔を覗き込み、
そう言い残すと佐奈の元へ向かっていく。
﹁ギギギギギギィ!!!!!﹂
佐奈は歯ぎしりするような悲鳴を発しながら、佐奈とは思えぬ鬼の
ような形相で、近づく女を睨みつけた。
女は三角木馬に跨る佐奈を睨み返して叫んだ。
﹁なにその目! 言っておくけど、あんたが足を踏み入れたのは最
恐館。ただで済むと思って? ここじゃ甘っちょろい恋愛の駆け引
きなんて求めてないの。痛み、苦しみ、悲しみ、恐怖、後悔、絶望。
ぶざま
奴隷のあなた達が感じていいのはそれだけよ。これからあなたの足
にもう百キロ重りを載せるからね。助かりたければ無様に命乞いし
なさいよ。笑ってあげるから﹂
女は佐奈をなじると黒ずくめの男に目配せした。男たちは百キロの
重りのぶら下がる佐奈の足に、もう百キロの石の重りを重ねてぶら
下げた。
﹁グッ!!!! ギャァァァァアアアアアーーーーーーーーーーー
ーーーー!!!﹂
佐奈は悲鳴した。その小さな体から発せられたとは思えぬ獣のよう
な悲鳴が牢獄を包みこんだ。股から流れ出る血は勢いを増す。血は
宙に浮く三角木馬の急斜面を伝って流れ落ちた。止らなくなった蛇
口のように血が次々と流れだしては床の血だまりを広げていく。
﹁まだだよ。もう五十キロ乗せるからね﹂
女は吐き捨てるようにそう言うと、佐奈の足に吊るされた石の重り
に飛び乗った。そしてブランコをこぐように前後にゆする。
228
﹁ハァハァ!ウグぅううう!ギィィギャアアアア!!!!!!!!
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!﹂
佐奈は更に一段と甲高い悲鳴を上げた。
佐奈の血走った目から血が流れ出した。股からは血が溢れだして、
股下の重りに座る女に流れ落ちた。女のマントが血で染まっていく。
女は興奮して叫んだ。
﹁はははっ! 最高! もっといい声出して泣き叫びなよ! ぎゃ
はははははは!!!﹂
女は佐奈の重りをブランコにしてゆすり続ける。
さいな
僕は女の悪魔のような所業に血の気を失った。それと同時に自分の
犯した罪に苛まれた。僕のせいで佐奈はこの有様だ。僕は一体何を
やってるんだ。佐奈を救うばかりか傷つけてばかりだ。自分に腹が
立ってたまらない。
可愛らしい佐奈の面影は失われていった。次第にゾンビのように人
間味のない物体が血を流して悶ているようにしか見えなくなった。
それでも僕の愛は途切れなかった。その瞳に、体に、声に、微かに
残る佐奈を見つけ出そうとした。
女はそんな僕を見て言った。
﹁彼氏クン、次は何の拷問して遊ぼうか? この子がうんと嫌がる
ものがいいなっ。そうだ。君はこの子のどこが好き? 顔? おっ
ぱい? それともアソコの締まり具合? まさか性格? まぁ何だ
っていいから言ってみなよ。私がぶっ潰してあげる! 私、興味あ
るんだ。この子がどれだけ原型を失えば君の愛が冷めるか、にね。
ぎゃははははっ! ⋮ん?﹂
229
・・・
女の肩に黒ずくめの男の一人が手を置いた。そして男は言った。
﹁お客様、お時間です﹂
﹁⋮ジカン? ⋮あぁ時間。⋮もう?﹂
女はハッとしたような声を出した。そしてブランコにしていた佐
奈の足に吊るされた重りから飛び降りると、よろけながら三角木馬
から後ずさる。
周囲の男たちは佐奈の足から重りを外した。泡を吹いて意識を失っ
た佐奈を三角木馬から下ろし床に寝かせる。佐奈はぴくりとも動か
ない。
男は自
﹁⋮生きてる⋮よね?﹂ 血に染まった黒ずくめの女は時を告げた
男に不安げに尋ねた。
﹁⋮えぇ。出血量は多いですが⋮問題ないと思います﹂
信なさげに答える。
﹁⋮良かった⋮こんなので死なれちゃ困る⋮もっと⋮もおっと苦し
んでもらわなきゃいけないんだから⋮。ははっ! ははははっ!﹂
女は天を仰いで高らかに笑う。けれども次の瞬間、女は黙ってうつ
向いた。
﹁うっ⋮血が目に⋮気持ち悪い⋮﹂
おけ
は
女はその場にしゃがみ込んだ。目を閉じたまま、近くの水の入った
桶に向かって這って行く。そして僕に背を向けると血に染まる仮面
を顔から取った。水に顔を沈めるようして顔を洗う。顔を上げると
仮面を桶に沈めて手と共に洗った。
こんな酷い事をする女はいったいどんな奴なんだ。一生恨んでやる
230
から顔を見せろ! 僕は心の中で叫んだ。
あろうことか女は僕に顔を見せたのだ。濡れた仮面を手に立ち上が
ると、振り向き、向かってくる。
佐奈の血で塗まった黒いマントをまとって歩いて来るのは海外のお
とぎ話で出て来そうな少女だった。透き通るような白い肌に金色の
髪の毛。薄いブラウンの瞳。西洋人形のように整った顔立ち。僕た
ち黄色人種の日本人とは違うので年齢がよくは分からないがおそら
くは十代後半。
悪魔のような形
!!! 僕は言葉を失った。⋮どうして⋮どうしてこんなにも可愛
らしい子が⋮こんな酷いことを⋮するんだ???
相の憎たらしい女に違いないと思っていた僕はパニックに陥った。
りゅうちょう
少女は近づくと長いまつ毛に囲まれたキラキラと光る瞳を僕へと向
けた。そして日本人と何ら変わらない流暢な日本語を口にした。
﹁彼氏クン、君はお金持ちなんでしょ? 私のために延長料金を払
ってよ﹂
231
第三十話 石の牢獄︵五︶ ︱抜歯、有刺鉄線、眼球拷問、火炙
り、膣内モデルガン連射、イラマチオ
目の前には虫すら殺しそうにない美しい少女がいて、血に染まった
黒いマントを羽織っている。その血は三角木馬で拷問された佐奈か
ら流れ出したものだ。酷いことを平気でするこの少女は、顔こそ可
愛くはあれど、心は悪魔そのものだった。
少女は微笑した。健康的なピンク色の唇が動く。
﹁私は優しいよ。必ず家に帰してあげる。見なよ。ああなったら終
わりだよ﹂
左腕を横に伸ばして指差す。
その先には金属製の拷問椅子に裸で拘束された男女がいた。
は
体は背もたれから動かないように有刺鉄線できつく巻かれている。
両腕は後手に枷が嵌められており背中と背もたれの間に挟まれてい
る。椅子に肘掛けは無い。
首と頭にも有刺鉄線が巻かれている。
首の周りを幾重にも巻いた有刺鉄線は背もたれの後ろで留められて
いる。頭も同様だ。そのために頭を動かすことはできない。
頭を留める有刺鉄線は眉毛の上で巻かれている。十センチ間隔で付
く棘が肉の少ない頭の皮膚をえぐっていて、血が流れ出している。
皮膚の間からは血に染まった白い頭蓋骨が見えた。有刺鉄線を締め
上げた時にできた傷だ。
足は九十度に開かれいる。椅子の足には縦長の万力が溶接されてい
232
くるぶし
て膝下から踝までを挟む。椅子が高いため、足先は床から二十セン
チほどの高さで浮いている。
床から真上に伸びる椅子の足は、膝の裏で直角にまがり、背もたれ
に繋がる。座は無く、尻穴や性器を阻むものは一切無い。
手前には裸の女が、向こう側には男が座っている。女の前には黒ず
くめの男が立っていて拷問していた。
女の椅子の真下には油で満たされた中華鍋が置かれていている。業
務用ガスコンロから吹き出す炎は丸い鍋底を包みながら油を温めて
いく。
女の性器はクスコで広げられており、その奥深くに機関銃の先が押
し込まれている。本物ではなくガス式のモデルガンだ。そのトリガ
ーには紐が通されていて女の左右の足先、親指に結ばれている。宙
に浮いた足先を動かすとプラスチック製の弾丸が子宮口に向けて連
射されるようになっている。
女の口は血だらけだ。女の前に立つ黒ずくめは、ボールギャングを
噛ませてある女の口にペンチをあてがうと歯を引き抜いた。
﹁うぎぃぃぃぃぃぃいい!﹂
女の悲鳴と共に白い歯が抜ける。歯茎から血が流れ出す。綺麗な歯
並びの女の口から四本目の犬歯が引きぬかれたところだ。
男はペンチで掴んである歯を真後ろ置かれた台に丁寧に置いた。そ
こには合計で四本の犬歯が綺麗に並べられている。男は並べた歯に
布を被せた。そして床に転がるハンマーを拾い上げると歯を打ち砕
きはじめる。布を被せてあるため破片が飛び散らない。男は時々布
をめくっては更にハンマーを振り下ろす。歯は砕けていき砂のよう
233
になった。砂とは言っても海にあるようなサラサラした砂ではなく
角ばった荒い砂だ。
かいけんき
男は歯に被せてあった布を取り砕けた歯を満足そうに眺めた。そし
て床に転がる開瞼器を手に女に近づく。
怯える女の目は涙で満たされていた。男はその両目に開瞼器を差し
込んだ。瞳が円形に開く。白目がむき出しとなってギョロリとした
目玉が小刻みに動くのがよく見える。男は床に転がるスプーンを向
かい合わせにしたハサミを手にすると女の右目に差し込んだ。目玉
を掴んで引き出していく。
﹁うぐぅぅぅ・・・・﹂
女の口からはくぐもった声が漏れる。視界を遮る物が無い女は目に
差し込まれるハサミを恐怖しながら見ているしか無かった。眼球が
掴まれると景色がグニャリと歪み、失明する恐怖が女を襲う。自分
の目玉がイクラのように容易に潰れてしまうのではないかと思う。
その恐怖心から暴れることもできず声を押し殺して耐えるしか無か
った。
がんか
男は女の右目を半分ほど引き出すと、その奥にぽっかりと開く眼窩
へ砕いておいた歯を流し込み、再び目玉を押し戻した。
﹁ギャァァァァァ!﹂
これまで味わった事のない目の奥の痛みに女は悲鳴をあげた。
異物の刺激を受けた事の無い目の奥の細胞を、尖った歯の破片が傷
つけていく。目を動かせない。切り裂くような痛みが目の奥を襲う
ためだ。だが人間の目は自然に小刻みに動き周囲の状況を把握しよ
うとする。そのために女の目から痛みが和らぐ事はない。白かった
目は血走っていく。目の奥は傷つけられていき出血しはじめる。血
234
は瞳を赤く染めると、血の涙へと変わって女の頬を流れる。
男はもう片側の目にもスプーンを合わせたようなハサミを差し込み
始めた。このままでは両目を失ってしまうと思った女は暴れ始めた。
﹃ダダダダダダ!﹄
モデルガンの銃声が鳴り響く。女が足先を動かしたのだ。膣に突き
刺してあるモデルガンの先から玉が連射され子宮口にめり込んでい
く。
﹁うぎぃぃ!ギャァアアアア!!!﹂
男は女の事など構いもせず、引き出した左目の奥に砕いた歯を流し
込みむと目玉を戻した。
女は両目から血を流す。
﹁ギャーーー!!﹂
﹃ダダッ! ダダダ!﹄
女は目の痛みと、性器に打ち付ける玉の痛みに悲鳴を上げて暴れ、
自ら銃のトリガーを引いてしまう。
柔らかな粘膜でできている子宮口を玉が傷つけていき、遂には出血
しはじめた。血は恐怖で分泌された愛液と混じりあい、股下に置か
れた中華鍋の中へと落ちる。熱された油に落ちた血はパンパンと音
を立ててはじけ飛ぶ。女の尻に高温の油が飛び散ると、火傷する痛
みに耐えかねて女は更に暴れる。
男は両端が細く研がれた十センチほどの針を二本持ってきて、苦し
む女の口に差し込んだ。犬歯の無くなった歯茎へ縦に差し込み、口
を閉じれなくした。ボールギャグを外す。女の口は二本の針で押し
235
広げられた。
男は床に転がる革ベルトを手にとった。ズボンが落ちる事を防ぐた
めに腰回りに巻くような細手のものだ。片側には金属の金具が付い
ていて締める事ができるようになっている。男はベルトの両端を両
手で持つと、女の顎下から頭上へ巻き上げ、頭上で締め上げた。
女は口を開閉する自由を失った。口を閉じようとすると歯茎の敏感
な神経を針先が貫いて激痛が走る。ベルトが顎下から頭上までを締
め上げているために口を開くこともできない。
男は女の両膝に飛び乗った。女の髪を掴みバランスをとる。そして
黒いマントの間からペニスを出して女の口の中へ差し込んだ。
男は女の髪を乱暴に掴んで腰を振る。頭が強引に揺すられると、額
の周りに巻かれた有刺鉄線の棘は容赦なく女の柔らかな肌を切り裂
いていく。
刺激を求める男は女の顔の回りに巻きつけたベルトを更に締め上げ
た。口は強制的に狭められて行き、ペニスを挟む圧が増す。男はよ
り良い快楽に浸る事ができるが、女はたまったものではない。歯茎
の奥深くに針が刺さり痛みに悶え苦しむ。
﹁うぐっ⋮うぐっ⋮おえっギィィイイイ!!! うぐぅぅ!!!﹂
ペニスが喉奥に突き刺さって吐き気がする。気絶する事もできない
程の激痛が歯茎を襲う。機関銃からは止まる事無く玉が出続けて女
の膣内を潰していく。自然と流れ出る尿が膣から流れ出す血と交じ
ただ
りながら煮えたぎる油の中へ落ちていき、油を飛び散らせ、女の尻
を爛れさせていく。
拷問椅子の上で暴れ狂う女にペニスを差し込んでいる男は快楽に浸
236
っていた。
固く反り上がったペニスで女の口を犯し続ける。痛みで暴れる女の
口の中は無尽に動き続けていた。歯を食いしばる為に閉じようとす
るが、歯茎の痛みで開こうとする。ペニスは挟まれては開放されて
心地よい。喉奥目掛けてペニスを差し込むと気道が塞がって息が止
まりのと同時に嘔吐感が込み上げる。女はペニスをどかそうと舌は
動かす。男にとってはそれが気持ち良い。裏筋と亀頭の裏が刺激さ
れるためだ。女は唇をアヒルのように広げ、僅かに開いた気道から
荒い呼吸をする。その度にペニスの根本を柔らかな唇が包み込む。
男は普通のイラマチオでは味わえない快感を得るために女を苦しめ
続ける。
﹁男って野蛮。最低ね﹂
僕の前に立つ少女は呟いた。性欲に塗れた男に呆れたようだ。
ししゅう
﹁あの男、マントの端に赤い刺繍が入ってるでしょ。VIP会員よ。
一般会員の私とは違って、殺さなければ何をやっていいの﹂
射精し終えた男は女から降りると、拷問椅子の下に置かれた中華鍋
に火を放った。
尻の肌が焼けていく。強化プラスチック製のモデルガンの銃身は熱
で溶けていき女の膣の奥深くに突きこまれた銃口からは熱風が吹き
出す。
﹁ウウウギャアアアアアアアアアアア!!!!!ギィイイイイイイ
!!!﹂
女は唸り声をあげて悶え苦しみながら意識を失った。男は鍋に防火
237
用の布を被せて火を消した。まだ死なせない。男の背中はそう言っ
ているように見えた。
拷問は終わらなかった。
男は女の膣に突き刺さったままの銃身を蹴けた。膣内にあった銃口
が子宮内にめり込む。女はその痛みで意識を取り戻した。男は朦朧
としている女の唇を片手で摘むとハサミで切断し始める。
﹁あの男、よっぽど日本人が嫌いなのね﹂
少女は拷問椅子の上で傷ついた女を眺めながら楽しそう言った。
﹁知ってる? ここにいる奴隷たちは皆、金持ちの日本人なんだよ﹂
少女は冷たい視線を僕へと向ける。
﹁日本人に恨みのある外国人だけがココの会員になれるの。
会員になったらね憎たらしい君達に復讐できるだ。ううん、違う。
復讐じゃない。正義よ。悪い奴らを罰するための正義。
とが
君たちは悪魔なんだよ。だから制裁するの。ここじゃ憎い君達をボ
コボコにしても誰からも咎められない。そういう素晴らしい場所。
私たちはここで誇りと尊厳を取り戻す事ができる。
⋮君には私が何を言ってるか分からないだろうから教えてあげるわ。
私達の国はね、一言で言えば貧乏。仕事が無いの。だから希望に胸
膨らませて日本に来たわ。あなた達日本人は私たちの国へ来てこう
言ったの。日本へ来れば家族が一生暮らしていけるだけのお金を稼
ぐ事ができる、是非来てほしいってね。誰も信じて止まなかったわ。
だって私たちの身の回りには日本製品が溢れていたんだもの。お金
が稼げる事も嬉しかったけれどそれだけじゃなかったわ。こんな素
238
晴らしいものを作る人たちと働けたらどんなに幸せな事だろうと思
ったの。
けれど現実は違った。
日本に来た私を待っていたのは奴隷としての生活だった。
仕事場は周囲には何も無い山奥。朝から晩まで働いて、働いて、働
いて、それで得た少しばかりのお金を祖国で待つ家族の元へ送る。
そんな毎日。大金のように思えたお給料もこの国で生きていくには
あまりに少なすぎたわ。けどそんな事は大した問題じゃ無いの。私
たちは元々貧乏だったからお金が少ないことには慣れてる。
何よりも私たちを苦しめたのは人だったわ。日本人よ。毎日、怒鳴
られた。優しい言葉の一つもかけてもらえない。何の技術も持たな
いお前たちに仕事を与えてやってるんだ! 働け! 体調が悪いだ
と? 這ってでて来て仕事をしろ! お前たちの仕事が下手くそだ
から、俺の給料が減ったじゃないか、どうしてくれるんだ! 今日
からは寝ずに働け、ってね。
この国で私たちは便利な奴隷でしかなかったのよ。わずかな賃金で
働かせておいて、使えなくなったら国に送り返すの。
国に返されるわけにはいかなかった。どうしてもお金が必要なのよ。
出稼ぎに日本へ来る人たちは皆、交通費と当面の生活費を借金して
作るの。自分の国では何十年も働かなければ稼げない額になるわ。
それでも親戚中の人たちは喜んで金を貸してくれる。お前、あの日
本へ行けるのか、凄いじゃないか! 家系の誇りだってね。
私達は家族の期待を背負って日本へ来ているものだから、家族に帰
りたい何て言えなるわけがない。
239
初めは嬉しかった家族との国際電話でさえも、すぐに苦痛へと変わ
ったわ。
うん。元気。
すごく楽しい!
みんな優しいんだ。
お金はいっぱい稼げるし何だって手に入るの。
家族には嘘をつき続けた。心が痛んだ。
私の国は貧乏だけどみんな陽気。辛いなんてのはお葬式の時だけよ。
だからね、仕事が辛いなんて口にすれば親は何事かと思うわ。父を
そして母を悲しませないためには嘘を言うしか無いの。
家族でさえも心の内を話すことはできない。精神を蝕まれていった
わ。異国の地で頼る人も居なくて、心細くて、ここしか居場所がな
いというのに、ここは地獄。
私たちは、自分を殺して、働き続けるしかない。
抵抗する事も、逃げ出す事もできない。
奴隷。
それが私。
そんな絶望した私の元へ彼らはやってきたの。
君は日本人に騙されている。君の国が貧しいのも、君が辛い思いす
るのも全部、日本人のせいだ。って言ったの。
あいつらは、つらい仕事を全部俺たちに押し付けてるんだ。そして
俺達の稼いだ金で自由気ままに生活してやがる。そして言いやがる
240
んだ。ああ暇だ。刺激がほしい。恐怖の館にでも遊びに行こうかっ
てね。
俺たちは日々恐怖の中で生きているというのに、奴らにとって恐怖
は娯楽でしかないんだ。
腹が立つだろ?
一緒に奴らに地獄を見せてやろう。
ここ
私はそう言う彼らの導きがあって最恐館へ来るようになったの。
いた
ここで普段の鬱憤を晴らすんだよ。意気がってる日本人を甚振って
ひざまずかせる。
快感よ。胸がすーっとするわ。私の足元で怯えながら跪く日本人を
見て、人としての尊厳を取り戻すの。
それが今日は君たち。
私は安い一般会員だから、生活に支障のない程度にしか奴隷を甚振
れないし時間制限があるけれど、彼みたいなVIP会員だと、何を
しても構わないし何時間でも奴隷をいたぶり続けられる。
私がいなくなれば、次は誰が君たちを拷問するか分からないよ。一
般会員に当たればラッキー。でもVIP会員に目をつけられたらそ
この女みたいに拷問されてしまう。そしたら生きて出られないわ。
ここ
最恐館を出ることができる奴隷はね、日常生活を送れる程度の傷を
負った者で、ここの秘密を話さない者だけ。それ以外の者は殺処分
されるの。全員殺してしまえばいいと思うんだけど、罪悪感を覚え
る会員が多いらしいわ。自分が手をかけた人間が死んでしまうと後
味が悪いみたいね。まぁ私もどちらかと言えばそうなんだけど⋮﹂
241
見なよ。少女はそう言って隣で拷問された女を指差す。
﹁傷を負いすぎてる。ああなったら日常生活は無理でしょ。あの女
は限界までここで拷問された後、この牢獄から連れだされて殺され
るの。まぁ私は殺される現場を見た事は無いんだけどね。なんでも
殺しを見たい人たちだけの特別な会員制度が有るとか無いとか﹂
少女の澄んだ目が僕を捉える。
﹁彼氏クン、生きてここを出たいでしょ。延長料金を払ってくれた
ら、私は今日だけVIP会員になれるわ。そうしたら生かしてあげ
る。後ろにいる男に﹁延長﹂とだけ言ってくれたらそれでいいの。
そしたら君が預けてあるクレジットカードからお金が支払われるわ。
私はもうここを出なきゃならない。
だからね、今すぐに決めてほしいの。
ゆだ
私を選んで生き延びるのか、誰に拷問されるのかも分からない運命
に身を委ねるのか﹂
242
第三十一話 石の牢獄︵六︶ ︱フォークリフトで体を押さえつ
け、ふくらはぎブロック乗せ
黒ずくめの少女を僕は見上げた。
この女は信用できなかった。
佐奈はこの女に拷問されたせいで、床に突っ伏して微塵も動かない。
三角木馬に切り裂かれた股間。三角木馬の刃先で潰された女性器の
肉は黒ずんで腫れ上がり、幾重にも切り裂かれている。周囲の男た
ちは傷口に止血剤を塗って血を止めた。しかし、腫れは増す一方で
傷口が再び開いて、血が流れ出している。
この女のせいだった。僕はこの黒ずくめの女を一秒でも早く、佐奈
から遠ざけたかった。愛する佐奈を守りたかった。この先、何が待
ち受けるかは分からない。それでもこの頭のおかしな女に佐奈の、
そして僕の運命を託す訳にはいかない。
周囲を見渡す。牢獄の中には三十人ほどの黒ずくめがいる。その中
から赤帯のマントを羽織るVIP会員を探す。その数は二人ほどに
思えた。他は一般会員なのだろう。彼らに目をつけられなければ最
悪の事態は避けられる。その確率の方が十分に高い。
僕の腹は決まった。この女に金を払ってまで延長する価値はない。
口から外れそうなボールギャグを噛み締めて口を閉ざし、少女を睨
み上げる。
少女の美しい顔が僕を捉える。
女がわざわざ仮面を取って素顔を晒したのは、その美貌で僕を誘惑
243
して楽しんでいるのではないかとすら思えた。この世のものとは思
えないような美しくも優しい笑顔を創ってみせる女に、魂を吸い取
れられそうな気がして恐ろしい。僕は罠に捉えられた狼のような威
勢で強がり、女を睨み続けた。
黒ずくめの女は僕が延長する気が無いのを悟ったようだ。笑みを消
して静かに言った。
﹁怖い目。彼氏クン、君もそんな目で私を見るんだね﹂
僕は女が何を言っているのか理解できなかった。
﹁あーあ。何か白けちゃう﹂
女はつまらなそうにそう言うと歩き始めた。手に持つ濡れた仮面を
顔につけ、僕の横を通り抜ける。
﹁お幸せに﹂
女はポツリと呟く。
振り向くと女は牢獄の出入口に向かっていた。床に座り込む僕との
距離が開いていく。
勝った! そう思った。女は僕たちを諦めた。僕は佐奈を守ったん
だ。
ホッと胸を撫で下ろした僕の視線の先で、女はクルリを振り向き、
歩く方向を変える。僕の元へ戻ってくる訳では無かった。僕の隣で
男女を拷問しているVIP会員の元へと向かう。女はVIP会員の
男の背中をチョイチョイとつつき、何かを話しかけると、その指先
を僕の方へ向けた。男の視線がこちらに向く。そしてその視線は佐
奈に向けられた。
なんてことだ。あの女、僕と佐奈を残虐なVIP会員に紹介しやが
った。
244
女は追い打ちをかけるかのように、ポケットの中から僕と佐奈の誓
約書を取り出すと、男のマントの内側のポケットへねじ込んだ。V
IP会員の黒ずくめの男は、今しがた目の前の奴隷の男から抜いた
金歯を、礼だと言わんばかりに女の手に持たせた。交渉成立。そう
言わんばかりに二人は拳を突き合わせる。
最悪だ。僕たちはあのVIP会員の男の獲物となったのだ。
自分の置かれた状態に脱力して気が遠くなる。震えが止らずに何も
考えられない。
目の前では黒ずくめの女が楽しそうに僕へ手を振った。
すぐに女は牢獄の外へと消えていき、僕たちの運命を握るVIP会
員の男は、目の前に座る裸の男への拷問へと戻る。
﹁こいつらを壁へ戻せ﹂
僕の周りにいた黒ずくめの中の一人が言った。
は
汚れた床で寝たまま動かない佐奈に黒ずくめの一人が近づく。佐奈
の後手に嵌めてある手枷から伸びる鎖を男が引いた。脱力しきった
佐奈の体はくの字に折れ曲り、血や汚水の水たまりのできた床を押
し広げながら僕の方へ引きずられてくる。
佐奈の顔が見える。半開きの瞳、血の気の無い顔。目は痙攣してい
るように無尽に動いて視線が定まっていない。ボールギャグの嵌め
られた口は、引きずられる度に唇がめくれ上がり、綺麗な歯をすり
減らすように床を引っ掻く。
﹁佐奈! 大丈夫か!? しっかりしろ!﹂
僕は外れかけのボールギャグを吐き出して叫んだ。意識が失われた
245
その体に彼女を呼び戻したかった。僕は佐奈を失うのが怖かった。
目の前で人が死んでしまうのが怖かったのだ。
僕の隣に立っていた黒ずくめは、叫ぶ僕を押さえつけて、血と唾液
で濡れ切ったボールギャグを口の中に押し戻した。そして、僕の目
の前を横切って引きずられ行く佐奈の後を追うように僕を引きずり
始めた。僕は立ち上がろうとしたが、長い時間座っていた足に感覚
は無く、力が入らない。
後ろ向きに引きずられる体から頭だけを動かし佐奈を追った。視線
の先に引きづられ行く彼女の目が僕を捉えようとしていた。揺れ動
く黒目が僕へ向けて焦点を合わせようとした。少なくとも僕にはそ
う見えた。そんなわずかな事が嬉しくてたまらない。目が合う度に
希望が吹き込まれてくる。佐奈が生きていて僕を見ている。それだ
けで十分だった。
心に余裕が生まれた僕はようやく引きずられ行く先に意識が向かっ
た。
行く先はこの牢獄ではじめに連れて行かれた場所だ。百人ほどの裸
の男女が一定間隔に壁に額をつけて膝立ちをしている、その場所だ。
壁に向かう恐怖する男女。垂れ流された尿、流れ出た血、それが傾
斜のついた床を流れて、牢獄中央の凹みにどす黒い血の池を造って
いる。
僕と佐奈はその池を通り越した先にある右の壁へ連れて行かれた。
二人分の空きスペースがあった。黒ずくめはそこまで僕たちを引き
ずって来ると、顔を壁につけて座るように言った。男たちは床に寝
そべる僕たちを引き起こし、壁に向かって座らせると、両腕の脇下
に腕を通して抱え上げて壁際に押しやった。
246
床には三角形の鉄の棒が横向きに五本敷かれている。そこに膝立ち
になって、痛みを堪えながら、壁に額を押し当てた。油絵のように
幾重にも重なった血と涙の痕に、額をつけて唇を押し当てる。
左の佐奈へ向けて黒ずくめの男が怒声を浴びせた。
﹁なんだ!!? 死んだふりか!!? 壁に頭をつけて座れと言っ
てんのが聞こえないのか! あぁ?!!﹂
男は脱力しきった佐奈の髪の毛を掴んで体を引き上げると壁に頭を
押し当てた。男が髪の毛から手を離すと意識がはっきりしない佐奈
は床に崩れ落ちる。男は手を緩めない。再び髪の毛を掴んで、体を
引き上げると、額を壁に打ち付けては手を緩め、姿勢を維持できな
いと額を打ち付けた。何度も何度も繰り返す。その度に硬い壁が鈍
い音を放ち、佐奈が鈍いうめき声を出した。鼻血が流れ出して壁を
赤く染めた。それでも佐奈は自力で姿勢を維持する事はできず、床
に崩れた。
﹁誰が寝ていいって言った! 起きろ!﹂
男はこん棒を振り上げて佐奈の体を殴る。
﹁うぐぅぅぅ⋮﹂
佐奈は殴られる度に低いうめき声上げては、床をわずかに転がった。
意識が有るのか無いのか僕には分からなかった。少なくとも自力で
は動けないことは分かった。このまま殴られ続けたら佐奈が死んで
しまう。
それだけは嫌だ。
僕の心には火がついた。佐奈を守ろう、そう思った。
僕は壁から体を離して、うずくまる佐奈に覆いかぶさった。こん棒
247
を振り上げて立つ男と佐奈の間に割って入った。そして男を睨んで
口枷で自由に喋れない口で獣のように威嚇して叫んだ。
男はそんな僕目掛けてこん棒を振り下ろした。
﹁ぎゃぁああああ!!!﹂
僕の威勢のこもった雄叫びは悲鳴へと変わった。左の腹に痛みが走
る。僕は男から顔を背けて、佐奈の背中に顔をうずめた。男は僕を
何度もこん棒で殴りつける。元の場所へ戻れ! そう叫ぶ男の声が
聞こえる。けれども僕はここから離れる訳にはいかない。
痛みで体が震える。意識が飛びそうだ。それでも僕は耐えて佐奈を
守るしかない。
僕は佐奈を失うのが怖かった。このひどい場所で、佐奈を居なくな
ったら僕は一人ぼっちだ。
僕が僕であり続けるためには佐奈が必要だ。既に彼女は僕の一部に
なっていて代わりは無い。
佐奈の頭を守るように頭を重ねる。頬を頬に押し当てる。柔らかで
滑らかな佐奈の肌がほのかに暖かくも冷たい。佐奈の耳元で僕は悲
鳴を上げ続けた。ふと佐奈と目があった。これまで力なく泳いでい
た目が僕を捉えていたのだ。佐奈が意識を取り戻した。僕にはそれ
がはっきと分かった。
背後の男は殴るのをやめて僕を佐奈から引き離した。体中を殴られ
続けた僕は痛みで動く事ができない。男は僕の首を両手で絞めなが
ら掴み上げた。
﹁お前、ここのルールが分かってないようだな。俺達の言うことを
聞かなきゃどうなるか教えてやる﹂
そう言うと、僕を壁めがけて投げた。後手に拘束されている僕は、
避ける事ができず頭を壁に激突させて床に崩れた。
248
別な黒ずくめの男が僕を投げ飛ばした男に言った。
﹁おい。この女丸無しだぞ﹂
僕の背中には﹁④﹂と型どられた焼印が押されていたが、佐奈の背
中には﹁3﹂と型どられた丸のつかない焼印が押されている。どう
やらその事のようだ。
僕を投げた男は言った。
﹁命拾いしたな。お前の罰はこの丸無し女に受けてもらう。自分の
引き起こした災難ってのを見てるんだな﹂
男は、僕を後手に拘束する手枷に繋がる鎖をたぐり寄せ、後に振り
向かせる。
背後にはいつの間にか、コンクリートブロックを積み上げたフォー
クリフトが一台停まっていた。
一メートル程の高さに積み上げられたコンクリートブロックは崩れ
ないように鎖でクリスマスプレゼントを包むリボンのように束ねて
ある。フォークリフトのフォークは幅が狭めてあって、積み重なる
ブロックの最下端の両穴に差し込まれていた。
黒ずくめの一人が、脱力した佐奈の髪を掴んで引き上げ壁に向かわ
せた。別の黒ずくめが佐奈の両足を膝立ちになるように膝を壁に押
しつけて、床に並ぶ三角形の鉄棒の上に足を乗せ並べた。
フォークリフトの操縦席に座る黒ずくめがアクセル踏んだ。電動式
のフォークリフトは音もなく動き始める。
フォークリフトは速度を増しながら佐奈の背中に突っ込んだ。
膝立ちの佐奈の体は壁とフォークリフトに積み上げられたコンクリ
249
ートブロックとの間に挟まれた。太ももから頭までの高さのあるコ
ンクリートブロックの壁が佐奈を押しつぶしていく。頭が胸が歪ん
でいく。
﹁ギャーーーーーーーー!!!﹂
佐奈はあまりの激痛に意識を取り戻して悲鳴を上げた。それでも工
業用の重機は無情にも佐奈を潰す。
﹁ギィィイイイイイイ!!!!﹂
悲鳴は唸りに変わった。肺が圧迫されて呼吸ができなくなったから
だ。血走った目は見開かれていて、逃げようと藻掻く顔面は擦れて
血が溢れた。
前進し続けるフォークリフトのタイヤはキュルキュルと音をたて始
めた。白い煙とゴムの焼けた臭いがする。タイヤが空転しはじめた
のだ。ツルリとした石の床がタイヤの前進する力を阻む。
フォークリフトを操縦していた男は前進するのを諦めてサイドブレ
ーキを引いた。すると車体がわずかに後ずさった。ブレーキに遊び
があるためだ。
体を押し付ける力が弱まり佐奈の肺に空気が流れ込む。佐奈は大き
く息を吸い込んで吐いた。そして過呼吸に陥ったように荒い呼吸を
はじめた。
フォークリフトに乗る男はコンクリートブロックの積まれたフォー
クを下げた。積まれたコンクリートブロックは佐奈の柔らかな肌を
削りながら、佐奈の足の上へ乗せられた。膝立ちとなった膝の裏か
ら足首までの間にブロックの山が乗せられる。
﹁ギャアアアアア!!!﹂
佐奈は足の痛みに悲鳴を上げた。細い足はコンクリートブロックの
250
山と床に敷かれた三角形の鉄の棒に挟まれた。鉄の棒の頂点が骨に
食い込んで、挟まれた皮と肉が潰される痛みが佐奈を襲う。
﹁グギィ!!! ギャアアアアアア!!! ギィイイイイイイアア
アアアアア!!!﹂
佐奈が苦痛でもがく度に、食い込む鉄の棒で足が切れて、血が流れ
出し、床を伝う。
背後で僕を押さえつけていた男は嘲笑いながら言った。
﹁よく見ておけ。お前が歯向かった罰だ。女、壊れないといいなあ。
さぁ自分がどうすればいいか分かるよな﹂
男は手に持つこん棒の先を、コンクリートブロックの山からわずか
に見える佐奈の頭に乗せて、コツコツと小突いて見せる。
僕はすぐさま顔を壁に押し当てた。壁から顔を離してはならない。
それがここのルールだった。
僕では佐奈を助けることができない。
絶望した。
こんなはずじゃ無かった。
僕は佐奈を助けてその笑顔を独り占めしたかっただけなんだ。それ
だけの事なのに全くうまくいかない。僕の決断は誤ってばかりだ。
佐奈の悲鳴が胸に突き刺さる。手を伸ばせば届く距離にいるのに、
どうする事もできない。僕が何かすれば佐奈は不幸にしかならない。
君は知らないだどうれど、直にあの残忍なVIP会員がやって来て、
君に更に酷い拷問を加えるだろう。僕があの女を帰さなければ良か
ったんだ。
251
ごめんよ佐奈。
僕は冷たい石の壁に涙を流して謝った。
252
第三十二話 石の牢獄︵七︶
﹁ギャアアアーーー!!!!﹂
佐奈の悲鳴は止まない。
黒ずくめの男は僕の右に立って、必死に壁に顔を押し付ける僕を覗
き込む。
﹁おいおい急にお利口ちゃんになって、一体どうしたっていうんだ
い? お前の女、苦しがってるぞ。ほおーら、助けてやれよ!﹂
男はそう言うと僕の肩を蹴飛ばした。
僕は横に吹き飛んだ。そして佐奈を壁と挟んでいるコンクリートブ
ロックの山の側面に激突した。コンクリートブロックは佐奈の足を
踏みにじるようにずれる。
﹁ウギャアアアアアアア!!!!!﹂
佐奈が痛みで叫んだ。
僕はコンクリートブロックのデコボコとした端をずれ落ち、佐奈の
足元の床へと転がった。目の前には、三角形の鉄の棒に乗せられた
佐奈の足があって、コンクリートブロックの重みで横へと膨らみな
がら不自然に平らになりながら震え、血を流している。
あん
﹁兄ちゃんよ、誰が顔を壁から離していいって言った?﹂
後で僕を蹴り倒した男が叫んだ。振り返ると、男はこん棒を振り上
げている。
殴られる! そう思った次の瞬間、男はそのこん棒を、悲鳴する佐
253
奈の頭上に振り下ろした。鈍い音がして佐奈の悲鳴が途絶える。床
で見上げる僕に霧状の血が降りかかった。佐奈の頭から流れ出した
赤い血が弾け飛んで僕を覆う。
僕の受けるべき罰は佐奈が受ける。それが僕を苦しめるこの牢獄の
ルールだった。
こんなに理不尽なことがあるものか。
最悪
動かなくなった佐奈に死の予感がする。
現実を確かめるのが怖くて、何も受け入れたくなくて、目を閉じて
叫んだ。
その時、男の声がした。
﹁俺の奴隷になーにやってんだ?﹂
近くにいる黒ずくめの男とは違う太い声だ。
目を開けた。視界に男が映る。
血に染まった黒いマントを羽織る男が佐奈を殴りつけた男に歩み寄
った。顔は仮面で分からない。けれども僕にはこの男が嫌でも分か
った。VIP会員だ。
マル無し
﹁見たら分かるだろ。この女に罰を与えてるんだ﹂
男は威嚇するかのように、こん棒の先についた血を振り払いながら
言った。
﹁おいおい。俺の楽しみを奪わないでもらえるかなあ﹂ 太い声が
答える。
VIP会員の男は見ろよと言わんばかりに、羽織るマントの端を握
254
って両手を横に伸ばし広げた。パンッとマントが張る音がして、防
水加工されたマントにまとわりついた血が一斉に弾け飛んぶ。そし
ししゅう
て男はマントを羽織り直す。漆黒の光沢を取り戻したマントには、
VIP会員を示す赤い刺繍が施されている。
あんた
﹁こ、こいらはVIPの獲物だったのか。それは悪かった﹂
目の前に現れた男がVIP会員だと気づいた男は気まずそうに後ず
さる。一般会員にとってVIP会員は得体のしれない気持ち悪い存
在でしか無い。
機械
﹁分かったら、フォークリフト、どけろ﹂
意識のない佐奈を壁と挟むフォークリフトがバックした。
VIP会員の男は、佐奈の髪の毛を掴んで、後頭部が床に打ちつけ
られるのを間一髪で防ぐ。そして白目を剥く佐奈を見下ろして楽し
そうに言った。
﹁拷問だ。立てよ。目を覚ませ。鼻を削ぎ落とすぞ。⋮おーい、生
きてっかぁ?﹂
男は後ろ向きに倒れ込む佐奈の髪の毛を掴んだまま、背中を蹴り上
げる。佐奈の体は力を受け流すように揺れる。
佐奈はぐったりしたまま意識を戻さない。
﹁ダメだな。壊れてる﹂
男は佐奈の髪の毛から手を離した。佐奈の体は床に落ちる。
・・
﹁看守、処分だ﹂
VIP会員の男は黒ずくめの中の一人に言った。その黒ずくめはコ
ックリと頷く。
255
﹁処分!? 大した怪我じゃないだろ?﹂ 佐奈を殴った男が驚い
たように言う。
﹁俺はな奴隷を絶望させながら壊していくのが好きなんだよ。あん
な感じでねな﹂
VIP会員の男は拷問器具が並ぶ方の一角を指さす。
三角木馬の隣には、椅子に縛り付けられたまま両腕を切断された男
女がいて、その鼻の穴には切断されたそれぞれの腕の先につく指が
一本、押し込まれていて、腕がぶら下がっている。意識ははっきり
としているようで、助けを求めて叫んでいた。
﹁活きの悪い奴隷に興味はねぇ。お前たちが余計な事しなけりゃな
ぁ、もったいねぇ。とにかく、俺が処分って言ったら処分なんだよ。
VIPの特権に口出ししないでもらえるかな、一般会員さんよ﹂
処分というのは、あの女の言っていた殺処分のことであろう事は間
違い無かった。
僕の心に死の恐怖が満たしていく。
キュルキュルと油の切れたタイヤが転がる音がした。
鋼鉄製の檻の乗せられた台車が目の前で停まる。
檻の下には液体が漏れ出さないようにアルミ製のトレイが敷かれて
いて、血が薄く溜まっている。
台車を押してきた黒ずくめは、床に倒れ込んだままの佐奈を抱え上
げて、開いた檻の上部から中へ入れ、座らせた。
256
﹁お前も入るんだ﹂ 黒ずくめは僕に言う。
ところどころが焦げた檻。その中で壊れた人形のように肉の塊とな
って動かない佐奈を見ると不吉な予感がした。足を踏み入れたら、
生きたまま火葬場に放り込まれるのではないか、そのような恐怖を
抱かずにはいられない。
絶望にも似た恐怖が僕を包み込む。
体が動かない。
僕に拒否する権利などは無くて、枷に繋がる鎖を引かれて檻に手繰
り寄せられる。仰向く体が十センチ、また十センチと動いていく。
殺される⋮
殺される⋮
殺される⋮
殺される⋮
殺される⋮
逃げなきゃ
体が動かない
どうやってこの体を動かしてた?
思い出せない
檻に体が触れる。
冷たい
硬い
汚い
257
こんな檻の中で一生を終えるの?
僕には佐奈がいる。
佐奈! 佐奈? ⋮佐奈じゃない⋮あれは佐奈じゃない⋮僕の佐奈
はどこ⋮
あれは死体だ。
誰にも見られないように捨てられるゴミ。
僕は違う!
なんでそこに入れようとするの?
怖い! 誰か、誰か助けて
嫌だ!
死にたくない、殺さないで!
僕はまだ生きているんだ!!!
恐怖は限界を超えた。
体がフワリと軽くなって恐怖心が一気に消えた。それだけではない。
不思議と幸せな気持ちが込み上げてくる。
愉快でたまらない。
僕は頭がおかしくなった人のようにニヤけて笑い始めた。
男は、抵抗するでもなく、ただ不気味に笑うだけの僕をそっと抱え
上げて、檻へ入れた。
僕と佐奈は壊れた人間となって、狭い檻に閉じ込められた。
男は台車を押して分厚い出入口の扉へと向かう。
258
僕は夢見心地ながらも冷静だった。
考えていた。
最恐館に来た人間が、何人も姿を消してしまって、問題にならない
はずがない。
皆、無事に帰っているはずだ。そうでなければ、この最恐館がこれ
ほど人気になるわけがない。
だから思った。
僕たちはアトラクションの出口に向かっている。
十分な恐怖を苦痛を味わった僕たちはドクターストップがかかって
強制退場になったんだ。
僕は勇気を出して、後手に拘束されて不自由となった手を伸ばして
佐奈の手に触れた。
暖かく脈もある。
佐奈は死んでいなくて、間違いなく生きている!
肩で肩を揺すって佐奈の目覚めを誘う。何度も、何度も繰り返す。
僕たちを乗せた檻は石の牢獄を出て、廊下を進んだ。
何度か廊下を曲がりエレベーターホールの前で停まった。
そこには檻の乗せられた台車が三台停まっていた。中には人が入れ
られている。僕と佐奈と同じように裸のまま拘束された男女だ。皆、
傷つき、血を流し、憔悴しきっている。体操座りするように小さく
うずくまって、動こうとしない。有る者は、目を開けたまま涙を流
し続け、有る者は、放心したまま頭を檻に打ち続けていた。
意識が戻らない佐奈を揺するのをやめて周囲を見渡した。皆、怪我
してるけども五体満足じゃないか! やっぱりそうなんだ! 259
エレベーターの扉が開く。
僕の台車を押して来た黒ずくめはいつの間にか居なくなっていて、
スーツを着た男が台車を押し始める。台車は後ろ向きになって、エ
レベータの奥に進んだ。残りの三台の台車も順に男がエレベーター
につめていく。
業務用に奥の広いエレベーターには台車で一杯となった。最後に男
が二人乗り込むと扉を閉めた。
エレベーターの右上に付く電光板に下向きの矢印が表示されては流
れ落ちる。エレベーターは下へ向かっていた。
一人の女が泣き声をあげて、意識を失ってうなだれた男の胸に顔を
埋めた。重い空気が密室の箱を覆っていく。
それでも僕は希望を失わなかった。
佐奈の手に指を絡め、優しく撫でながら、心の中で語りかけた。
ゴールだよ佐奈。
エレベーターは止まった。扉が左右に開く。
明るい光が差し込んで、日常の空気がどっと流れ込む。
僕は嬉しさのあまり声を出して叫んだ。
﹁お疲れ様でした! 最恐館のアトラクションはここで終了ですっ﹂
リクルートスーツ姿の女が二人立っていて笑顔で僕たちに手を差し
伸ばした。
﹁皆さん、大丈夫でしたかぁ? うんうん。怖かった? 今、鍵を
260
あけますからねっ﹂
エレベーターから一台、また一台と檻の乗った台車が降ろされる。
その度に女性は檻の中の人に優しく語りかける。
そこは更衣室のような場所だった。
綺麗でも汚くもない。灰色の殺風景な空間だ。
それでも、そこは僕たちが待ち焦がれた元の世界だ。
エレベーターの一番奥に乗せられた僕と佐奈の台車に男が手をかけ
る。
僕は目を閉じたまま意識の戻らない佐奈の顔を覗き込んで、額に額
を押し当てた。
佐奈の柔らかな体温を感じる。
僕は祈るように念じた。
君の瞳が開いて僕を見つけられますように、と。
261
第三十三話 溶けた顔の大男︵一︶ ︱鉄仮面、火炙り、破折
音がした。エレベータの扉が閉まる音だ。
僕と佐奈がまだ降りていないエレベーターは、アトラクションの出
口を前にして閉じてしまった。
操作ボタンの前に立つ男は慌てる様子はなく電光板を見上げる。僕
たちが乗る台車を出口に押し出す役目を負った男もまたハンドルを
握ったまま僕たちの存在を忘れている。
僕はボールギャグで塞がれた口から唸り声を上げて存在を主張した。
男たちは無反応だ。
体がフワリと浮く感じがして電光掲示板に下矢印が灯る。エレベー
ターは下へ向かって動き始めた。
なぜだ! 出口から遠ざかっていく。僕達はどこへ向かってるんだ⋮
電光掲示が消えてもエレベーターは下っていく。
・・
﹃看守、処分だ﹄
VIP会員の言った言葉が脳裏に蘇る。思い出すと身震いしてしま
う。本当に殺すつもりじゃ⋮まさかあり得ない⋮
別な言葉が脳内に再生される。
マントを羽織った黒ずくめの少女が不敵な笑む。
262
ここ
﹃最恐館を出ることができる奴隷はね、日常生活を送れる程度の傷
を負った者で、ここの秘密を話さない者だけ。それ以外の者は殺処
分されるの﹄
ダメだ。ダメだダメだ! 僕は目を閉じ、押し寄せる不安を追い払
った。
僕の体は正常だし、秘密を話したりはしない。僕は視線を意識を取
り戻さない佐奈へ向けた。佐奈が日常生活に戻れない怪我をしたか
ら僕も道連れで帰れなくなった!? この女のせいで僕は⋮。やめ
ふがい
ろ! それもダメだ! 脳内で喋る自分の言葉にハッとして考える
のを止める。怪我をして子猫のように弱りきる佐奈に、この不甲斐
ない状況を押し付けるなんて、男のやることじゃない。
僕は気分を落ち着けるように、ため息を吐き、閉じていた目を開く。
その時、佐奈の指がピクリと動いた。うつむく顔から垂れた前髪の
間からまつ毛が動くのが見える。
佐奈!
僕は叫んだ。ボールギャグで自由の利かない口を開き、意識を取り
戻そうとする佐奈を呼ぶ。
佐奈は顔をあげ、開ききらない目で僕をちらりと見ると、周囲をう
かがうために目玉を動かす。何かを見つけたのか頭を横へを向けた。
佐奈の視線の先を追う。エレベーターはいつの間にか止まっていて
扉が開いているではないか。佐奈の目覚めに気を取られていて全く
気づかなかった。
打ちっぱなしのコンクリートで造られた窓の無い空間の中に大きな
263
扉がある。左右に開く倉庫の出入口のような扉で大型トラックでも
通れそうだ。
扉の左右にはイヤホンを耳に差し込んだボディーガードのような身
なりの男が立っている。肩にかけられた革ベルトの先には機関銃が
吊るされており男の手がグリップを握る。
僕と佐奈の入る檻を乗せた台車は、そのコンクリートに囲まれた空
間に押し出された。男が台車を押して扉へと進む。
佐奈は僕の存在など忘れたように、狭い檻の中で背中を僕へ向けて
周囲を見渡した。目覚めたらこんな所で居たのだから仕方ない。僕
だってここがどこかすら分からないんだから。
機関銃を持つ男は真っ裸の僕達を舐め回すように見た。手首を口に
寄せ、ワイシャツの袖口からわずかに覗く小さなマイクに向けて喋
る。
﹁到着しました。ええ二人います﹂
すぐに扉の向こうから鍵が外れる音が聞こえた。金属製の扉が左右
に開く。向こう側には男が二人いて、人が通れるほどの隙間を空け
て止めた。そのうちの一人が扉のこちら側歩いてくる。ボーイのよ
うな蝶ネクタイをつけた品の良さそうな男だ。
﹁ご苦労﹂
その男は僕たちをここまで連れてきたスーツ姿の男に小さな声で言
うと、荷台のハンドルを奪い、僕達の乗る台車を押し始めた。台車
は速度を増して扉の隙間を潜る。
扉の中は四方がコンクリートで覆われた部屋だった。内装前のビル
264
のように殺風景だ。剥き出しのパイプが天井を伝っていて簡易ライ
トが灯る。バスケットができそうなくらい広い。
部屋の中央は男女がいて⋮!? いつきと雫だ! 最恐館で唯一、
話らしい話をした佐奈以外の男女。僕たり四人はグループで⋮そん
な事は今はいい。それよりも、この状況、何なんだ。
純白のウエディングドレスを着た雫はうつ向きになってギロチン台
の穴に首を通している。その顔は美しくメイクされていて、長い黒
髪はこの上なく艶やかに光りながら床に垂らしている。両腕は首を
通している穴の左右に開いた穴から目の前の椅子に座るいつきへと
伸びる。
屈強な木製の椅子に縛り付けられているいつきは、両腕を前へ真っ
直ぐと伸ばし、雫が伸ばす手のひらに手を重ね指を絡めている。そ
の腕には手錠が嵌めれていて伸ばし合う二人の手首を繋ぎ止めてい
る。雫のドレスに包まれた体はギロチン台に横たわっていて、両足
を三十度に開いており、光沢を放つ白いハイヒールが、光沢のない
白いストッキングで覆われた細い足先を包む。その足首と腰には台
座から伸びる茶色いベルトが巻かれて固定されている。
ゴツゴツして丸みの無い椅子から伸びるベルトで拘束されているい
つきの格好は変だ。中世の貴族のような服を着ている。音楽室に飾
られていたモーツアルトのような格好だ。
いつきと雫の二人の前には大男が一人立っていた。スーツを着ては
いるが、ズボンもパンツも履いておらず下半身は剥き出しだ。背を
向ける大男の尻は縮れた尻毛が覆い、股間から巨大なペニスが垂れ
下がっているのが見える。
その隣には、髪の毛をオールバックにして固めた細身の男がいた。
265
タキシード姿だ。顔の半分は入れ墨が入っている。
荷台を押す男が声を張り上げる。
﹁お待たせしました。お客さま。ご希望でした女の子、ただいま到
着しました﹂
大男がこちらを向いた。
醜い顔だ。皮膚は溶けてただれ、かき乱されて固まったチーズのよ
うだ。その顔には瞼の無くなった丸い目がギョロリとこちらを見る。
男は閉じ切らない唇から涎を垂れ流している。巨漢の足を支える太
ももには手の平大の蜘蛛の入れ墨が見える。
大男と細身の男がこちらへ歩み来る。大男は腰をかがめて檻に入る
僕と佐奈を観察した。男の強烈な体臭がする。檻の中にポタリポタ
リと半開きの口から唾液が垂れる。
荷台に押してきたボーイ姿の男は、再度言った。
﹁こちらがお客さまのご希望した女の子、愛し合う男女。でござい
ます﹂
﹁お、おだのじゃない﹂ 大男はボーイを睨む。
﹁お客さま、再度ご覧くださいませ。今は少々汚れておりますが、
この女でございます﹂
ボーイはボケットから写真を取り出す。最恐館の更衣室で撮影され
た佐奈の写真だ。
﹁ごれが? ごんな、ぎたねぇ女。カネ、カネ、カネ⋮﹂
大男は滑舌が悪く短い言葉しか喋れないようで、隣に立つ細身の男
がさり気なく補足した。
266
﹁旦那様は約束が違うと申されております。このような血だらけで
薄汚れた女の為に高いお代をお支払した訳ではございません。この
女は不要。ご返金頂けないでしょうか﹂
旦那様? という事は、この顔に入れ墨の入った細身の男は執事な
のだろう。僕は思った。
ボーイ姿の男は落ち着いた表情で、二人を交互に見ながら話す。
﹁大丈夫でございます。綺麗に洗って着飾らせれば、もと以上の美
しさとなりましょう。お客さまの目に狂いはございません。必ずご
満足頂けます﹂
﹁なめるでねぇ⋮潰ず⋮﹂ 大男が低い声を絞る。
細身の男が後に続いて言葉を続ける。
﹁旦那様はお怒りで御座います。こんな薄汚れた女を得るために六
億もの大金をお支払した訳ではございません。旦那様のお父上が本
気になれば、こんな外国人︽よそ者︾の集まりを消し去ることなど、
何の造作もございませんのに﹂
睨む細身の男の視線に、ボーイは緊張した声となった。
﹁お客さまのことは十二分に承知しております。お父様はこの国の
お偉方、大変お世話になっております。ですが、突然訪問なさいま
して、商品をご希望されましても、えぇ、もっともそれは私どもの
力不足ではございますが、アルバムの中からご希望なさった娘を努
力の末に用意致したことをご理解頂ければ⋮﹂
ボーイの男は和まない空気に焦りを滲ませた。
﹁分かりました。次回からは事前にご連絡頂いた上でお越し頂ける
ようでしたら、私の一存で五億円のお代にさせて頂く事でご了解頂
けませんでしょうか﹂
267
細身の男は、大男を見ると、再びボーイを睨んだ。
﹁旦那様のお言葉があなたには届かないようだ。残念だ﹂
ボーイは慌てて答えた。
﹁お、お待ちを。分かりました。一人一億円で合計四億円。本来は
二名分のお代でございますが、今回だけは特別にサービスさせて頂
きます。ですので、これまで通りお付き合いをお願い致します﹂
頭を下げる。
溶けた顔の大男は満足したように頷くと、向きを変え、雫といつき
の所へ向かった。
大男は、両手を伸ばし合う雫といつきの前に立つと言った。
﹁おめぇ達ば、この仮面を被るだぁ﹂
床には二つ鉄仮面が転がっている。その仮面に繋がる鎖を引き上げ
た。
それは仮面というよりも丸みを帯びた黒い鉄の固まりだ。縦長のフ
ラスコのような形をしている。頭を収める部分があって、そこから
ラッパのような筒状の細い管が上部に向かって二十センチほど伸び
て先で広がっている。丸みを帯びた仮面の下側は絞られていて、首
を五センチほど包み込むようになっている。周囲には鎖を留めるた
めのU字状の突起が、前部、後部、上部の三箇所についている。お
男はこの突起の一つに繋がれた鎖を引き上げたのだ。
ちょうつがい
大男は仮面の右側を縦に通している棒を抜いた。すると仮面は半分
に割れて開いた。開いた側とは反対の左側には蝶番がついていて合
わせ貝のように開く。
268
それは二センチはある分厚い鋼鉄で囲われた鉄仮面だった。両目の
位置には鋭い棘が突き出しており、口が収まる場所には三センチ程
の厚さの鉄板が突き出ている。十センチほど幅のあるその鉄板の上
下には、歯型の切れ込みが幾重にも深く掘られていて、歯を入れて
噛みしめるようになっている。その切れ込みは斜め四十度で、深く
なるほど細くなっている。強く噛みしめると歯が刺さって抜けなく
なる作りだ。切れ込みは頭に対して、不自然に斜めのため、強く噛
み締めたまま頭を振ると歯が折れてしまう。
空気穴だろうか、口元に突き出す鉄板が溶接された所に一円玉サイ
ズの穴がぽっかりと空いている。
﹁おでが、特別、造らぜだ。こっぢ、男。こっぢ、女﹂
な
男は仮面を掴む左右の手を順に振り上げた。二つある仮面のサイズ
は違った。女用の方が小さい。
﹁ごれ、被ぜる。ゴゴ、咥える﹂
口元に来る、飛び出た鉄の板を指差す。
﹁じっかり、噛む。噛まない、棘、目、刺ざる﹂
大男は目の来る位置に突き出た二つの棘、その先を太い指で撫でた。
顔の溶けた大男は、執事と思わる細身の男に仮面を引き渡しす。
腕を伸ばす執事の腕には、大男の太ももに彫られた入れ墨と同じ、
蜘蛛の入れ墨が覗く。
おぼこ
﹁女、おめぇの顔、火、焼ける。男、薬品、おでの顔、なる﹂
大男に細身の男が続ける。
﹁旦那様は、あなたのような美しい女に裏切られて、このようなお
もてあそ
姿になったのです。元々旦那様は清楚で清いお方でした。けれども、
そんな旦那様を弄ぶ悪い女が現れたのです。他に愛する男がいなが
269
くわだ
ら、旦那様を愛しているとたぶらかせ、殺害を企て、財産を奪おう
とした。これは復讐なのです。様々な薬を投与して何とか生き延び
た旦那様は、今のお姿に生まれ変わり、曇りなき眼で、裁きをお下
しになる﹂
細身の男はそう言うと、鉄仮面を天井から垂れる鎖の先へ繋ぐ。二
つの鉄仮面は雫といつきの頭上に吊るされた。
一つはギロチン台から頭を出す雫の頭上にあって、後頭部を収める
場所の外側にあるU字状の突起に鎖が繋がれて、吊るされている。
雫が頭の重さで垂れた首を水平に持ち上げれば、触れる位置に開い
た鉄仮面の内側がある。雫の視界には、眼球を貫く硬い棘が見えた。
細身の男は、雫といつきに言った。
﹁旦那さまを裏切るお前たちに刑を言い渡す。娘、お前は主人を裏
切り、他の男を愛した罪で死罪とする。顔面火あぶりの後、断首。
通じた男は、顔面溶解の後、胴体切断の刑に処す﹂
雫は眉毛を吊り上げて叫んだ。
﹁何言ってんの? 意味わかんない。罪? 初めて会ったあなたと
私に何の関係があるっていうの? ねぇ、ちょっと!﹂
細身の男は澄ました声で続けた。
﹁旦那さまがご慈愛くださる。天に召されるよう汚れた秘部をお清
めになられる。ありがたく思いなさい﹂
大男はギロチン台にうつ伏せに寝かされた雫のドレスをまくり上げ、
シルクのショーツを下ろした。手入れさたヴァギナが見える。大男
は足を開いたまま拘束された雫に覆いかぶさると、勃起した巨大な
ペニスを膣口に突き刺した。赤い血が流れる。男は腰を振る。ギロ
チン台がギシギシと音を立てて揺れる。
270
﹁ぎぃ! 痛い!! 何するの! やめて! いやぁああああ!!
!!﹂
雫の叫ぶ顔が歪み、涙が流れ落ちる。
﹁刑を執行する﹂ 細身の男は品よく叫んだ。
男は雫の上に吊るされた鉄仮面を掴むと、雫の頭の後半分を鉄仮面
に押し込み、半円状の鉄の首輪を喉仏に押し当て、鉄仮面に押し込
んだ。ガチャリと音がして、雫の首は鉄仮面の後ろ側に固定された。
﹁この世にお別れを﹂ 細身の男は雫の顎をなで上げると微笑みな
がら囁いた。そして用意しておいた足元に転がるガスバーナに点火
して雫に見せた。紫色の炎が吹き出す。
﹁この火で鉄仮面を着けた頭を炙ります。息の途絶えるまで、旦那
さまが良いと仰るまで。すぐには死にません。分厚い鉄仮面は徐々
に温まり、長い時間をかけて貴方の美しい顔を焼き苦しませること
でしょう。 罪を償いなさい。旦那さまを楽しませるのです。高い
カネを払ったのですから﹂
﹁ひっ!!! 待って!﹂ 雫が上ずった声で叫んだ。
細身の男は開かれた鉄仮面の前半分を掴んで閉じ始める。
﹁口を開けなさい。歯が折れますよ﹂
雫は口元に突き出した板にハッと気づいて口を開けた。男はその隙
に鉄仮面を閉じる。雫の口の中に鉄の板がハマりながら仮面は閉じ
る。
271
鉄仮面の暗闇が雫を包んだ。
﹁助けて! 助けてください! お願いします! 怖い。怖いの。
何も見えない。 いつき! いつき! 助けて! やめて。体を揺
すらないで! 棘が目に刺さる!!!﹂
雫は彼氏のいつきの手を握りしめて、背後に覆いかぶさる大男に叫
んだ。その声は閉された鉄仮面の外にボヤケて伝わった。
閉された鉄仮面が声を伝えるのは、口元に空いた小さな穴と、ラッ
パのように頭上に伸び開いた筒だけだ。口元の小さな穴から雫の悲
壮な言葉が漏れ聞こえた。一方、頭上にラッパのように伸びる筒の
先からは、雫の声の低音成分だけが共鳴して、ブオォォォと不気味
な音を立てて鳴り響く。
細身の男は炎の吹き出すガスバーナーで、雫の頭を覆う鉄仮面を炙
り始めた。下から上から、周囲を回りをぐるりと炙っていく。分厚
い鉄が少しずつ熱を帯びてくる。鉄仮面の表面に滲み込んだ脂が焦
げる臭いが込み上げる。
﹁何するの!? 熱い! 止めてください! 顔が焼ける! 熱
い! 熱い! 熱ッ⋮! 痛い! ぅぐううう! ぅぎゃあああ!
!!!﹂
雫は頭を左右に振って、鉄仮面を外そうともがく。すると、目の前
に突き出た棘が、雫の目の周りに突き刺さり肉を剥いだ。
﹁ギィィィイ!!! ウグゥゥゥ!!﹂
そこに棘がある事などすっかり忘れていた雫は、暗闇の中で突然襲
みぞ
ってきた棘に驚いて、悲鳴すると、歯を食いしばった。斜め四十五
度に彫られた板の溝に歯がめり込んでいく。
272
﹁ウグゥゥゥゥ!!!﹂
口が開かなくなった雫がうなり声を上げる。
更に鉄仮面は熱せられていく。
﹁ウギィィィィイイイイイ!!!﹂
雫は熱さに耐えかねて、歯を食いしばったまま頭を振った。天井か
ら鎖で吊るされた重い鉄仮面が左右に揺れる。
ボキッ ボキボキッ!
歯が何本も折れる音が仮面の外に響いた。頭上から伸びるラッパ状
の筒が鈍い音を増幅させる。
﹁ギャヤアアアアア!!!!!﹂
雫は口の中の鉄板に食い込んだ歯が折れて、開くようになった口か
ら悲鳴を放った。体をばたつかせて叫び狂う。
﹁ブォォォォーーーーーーー⋮﹂
頭上の筒から鳴り響く低いうなり音が空気を震わせた。女の金切り
声と、不愉快な重低音が部屋の中をこだまする。
雫の折れた歯は、口元に空けられた鉄仮面の穴から落ちて、コンク
リートの床に転がった。
雫が悲鳴するたびに膣は固く締め付けられた。ペニスを膣に突き刺
して、腰を揺する大男は雫が苦しむほどに、その快楽に歓喜した。
273
第三十四話 溶けた顔の大男︵二︶ ︱ギロチン断首、強姦、屍
姦、顔面溶解、グロ
﹁雫! おい、お前⋮ 俺の女に何しやがるんだ﹂
彼氏のいつきは、ガスバーナーで雫の鉄仮面を炙る細身の男に叫ん
だ。声は強かってはいても弱々しい。
細身の男は、雫に被せてある鉄仮面を真っ赤に焼きながら、木製の
ゴツゴツした椅子に拘束しているいつきを見た。
﹁そろそろ頃合いでしょう。あなたも死ぬ準備が整いましたか?﹂
男はガスバーナーの火を止めた。バーナーを床に置き、いつきに近
づく。椅子に拘束されているいつきに体の自由は無い。いつきの頭
の真横には、目の前の雫を苦しめている鉄仮面が天井からぶら下が
っている。細身の男は二つに開いた鉄仮面の後ろ側をいつきの頭の
後ろに入れ、鉄仮面から頭が離れないように、半円状の鉄製の首輪
を首に押し当てた。カチャリと音がしていつきの首が鉄仮面に固定
される。
﹁⋮! 俺は⋮死ぬ? 嫌だ! やめてくれ! 頼む! なぁ! 金は好きなだけやるよ。本当だ! 借金してでも払う。 だから見
逃してくれよ!!!! 百万! 五百万? 一千万⋮いや、五千万
でどうだ? なぁ!!!﹂
﹁あなたにはお金なんて求めていませんよ。いい声で鳴いてくれれ
ばそれで良いのです。旦那さまが深い快楽を味わえるよう泣き狂う
のです。分かりましたね﹂
細身の男は冷たく言うと、いつきの右目に五百円玉を押し当て、テ
274
ーピングで貼り付けた。幾重にも目の周りにテーピングを張る。
﹁これであなたの右目は棘で潰れる事は無いでしょう﹂
そう呟くと開いた鉄仮面をバタリと閉めた。
鉄仮面の内側から突き出た、口の位置に突き出した鉄の板が、いつ
きの口に激突した。閉じた口に一センチ程の厚みのある鉄板が突き
こまれる。前歯をバキバキと音を立てて折りながら、鉄仮面が閉じ
ていく。
﹁ウガアアアアアアアアアア!!!!﹂
いつきが悲鳴をあげた。
細身の男は鉄仮面が開かぬように、閉じられた二枚貝状の鉄仮面に
縦の棒を通して開かぬようにした。
男はいつきの椅子の下から透明な液体の入ったバケツを取り出す。
人の皮と肉を徐々に溶かしていく溶解液だ。男はヒシャクで液体を
すくい、鉄仮面の上部から伸びるラッパ上の筒の中に流し込んだ。
溶解液は鉄仮面の中にあるいつきの頭を濡らす。化学反応がおきて、
皮膚からはプクプクと泡が出て、白い煙が立ち昇る。
夏の海で日焼けした時のような痛みがいつきを襲う。
﹁ぎぃぃぃ! 痛い!熱い! やめてくれーーー!!。うぇ!!!
ゲホゲホ! 喉が焼ける!! うぐっ、ぎゃああああ!﹂
いつきの顔は塩をかけたナメクジのように溶け始める。細身の男は
いつきが苦しみで気を失わぬように、少しずつ溶解液を鉄仮面の中
に流し込む。
275
両腕を伸ばして手を絡めあっていた雫といつきは、指をほどき、手
を離した。鉄仮面を取り除くために、手を自らの元へ引きあう。け
れども手錠で互いが繋がれているため自由とはならない。手をぶん
ぶんと振っては、勢い良く引っ張る。その度に、手首の柔らかな皮
膚を手錠がえぐった。血が滲み、肉ははげ、骨が剥き出しとなった。
それでも二人は手を引きあった。
ゴキッ。指の骨が折れる音がした。雫の右手が手錠から抜ける。親
指は折れてあらぬ方向に向く。雫はその血だらけの右手で、自らの
頭に覆いかぶさる鉄仮面に触れた。焼けた鉄仮面に触れた手は、ジ
ュッと音をたてて、焼け付いた。熱さで雫が仮面から手を離すと、
手のひらの皮がズルリと剥ける。それでも雫は止めない。仮面を閉
じている留め具に、指を押し込み外そうとする。硬い鉄仮面の表面
を細い指の先が押し滑る。その度に爪は剥がれ、指先は削られてい
くように焼けて無くなり、骨が露出した。
いつきは、自由となった左手で自らの右腕をつかみ、力の限り引っ
張った。雫の左手と、いつきの右手を繋ぐ手錠は、骨格が細く、遊
びの多い、雫の手首の肉を剥いで外れた。
いつきは自らの頭を覆う鉄仮面に手を伸ばした。鉄仮面を開こう爪
を立てるが開かない。いつきはただならぬ痛みを生じさせる溶解液
の侵入を防ごうと、頭上の穴を塞いだ。細身の男はその手の上にヒ
シャクを傾け、溶解液を垂らした。
手錠でえぐられて皮膚を失っていた手首に溶解液が深く浸透してい
く。細胞を急速に溶かしていき、手首の骨が徐々に姿を現す。
いつきは痛みに耐えかねて、腕を這う虫を追い払うように腕を掻き
むしった。すると溶解液を浴びた腕の皮は、お湯をかけたトマトの
276
皮のようにツルリと剥けて、垂れ下がった。
ギロチン台に寝かされている雫を犯している大男は、二人の様子を
眺めて恍惚に浸っていた。雫の柔らかな胸を掴みながら腰を振る。
顔が焼かれて苦しむ雫の体はまな板に乗せられた魚のように機敏に
動き回る。その体を背後からお覆いかぶさって押さえつけ、荒い呼
吸をするように締め付けては緩まる膣を堪能した。
雫は地獄の苦しみに悶えていた。顔は焼けただれ、歯は折れて抜け
落ちていた。舌を噛み切って自殺しようにも、歯は失われてしまっ
たし、何より、口に突きこまれた鉄の板が口を閉じるのを防いだ。
熱された鉄仮面の内部は熱がこもり、呼吸をするたびに、熱せられ
た空気が内蔵を焼いた。耳の鼓膜も熱で破れ音が聞こえなくなった。
﹁うぐぅ、ぐううう、グゲェェェエ、グガアアアア﹂
雫から女らしい声は出てこなくなった。人間らしい言葉も無くなっ
た。外に伝え聞こえるのは獣のような低い声だけだ。
雫の意識が遠のくと、顔の前に伸びた二本の棘が、両目を突き刺し
た。すると雫は意識を取り戻し、重い鉄仮面を揺すり、再び低い唸
り声をあげ始める。鉄仮面の頭頂部からラッパ状に突き出た穴から
は、ブオォォォーという重低音が勢いを増して溢れ出た。雫の声が
潰れて低くなればなるほど、共鳴してより大きな音が出るようにな
っていたのだ。
雫は死んで楽になりたいのに死ななかった。目も見えない、耳も聞
こえない、臭いも感じなくなった、そんな暗い鉄仮面の中でただ一
人、犯されながら苦しみに耐え続けた。
277
じきに雫は動かなくなった。全身の筋肉が緩んだ。両腕をだらりと
床に垂らした。頭も垂れ下がり、鉄仮面の中から突き出した棘に両
目を深く突き刺し、鉄仮面の口元に空いた穴からポタリポタリと血
を滴らせる。
雫の秘部を犯し続けていた大男は、ペニスを締め付ける膣圧が下が
ったことに気づくと、ギロチンの刃を留めてあるロープを外した。
シュッ、ダン!
重い鉄の刃が、雫の細い首を分断した。切断面からは血が吹き出し
た。それと同時に体は痙攣しはじめる。脳のコントロールを失った
体組織は統一性を失い、個別の意志で動きはじめた。
膣は再び力を取り戻した。痙攣して小刻みに揺れる。吸い付くよう
に大男のペニスを強く包み込む。大男は根本までペニスを突き刺し
てその脈動を堪能すると、雫の消えかかった命の灯火を突き殺すよ
うに腰を振り、射精した。
大男はゼエゼエと荒い息をすると、余韻に浸る間もなく勃起したま
まのペニスを屍から引き抜いた。ぽっかりと開いた膣口からは血と
混じりあった精液がドロリと流れ出て、木製のギロチン台を濡らし
ながら広がった。
大男は立ち上がり、床に投げ捨ててあったズボンからベルトを引き
抜いた。そしてギロチン台の前方へと回り、切断された雫の頭に目
をやった。頭は天井から吊るされてた鉄仮面の中にある。大男は、
鉄仮面から突き出して途切れた雫の首にベルトを巻いた。そして、
丸く空いた食道の穴に勃起したペニスを突き刺した。
278
ベルトを締め上げ、腰を振り始める。熱の冷めきらぬ鉄仮面をつか
み、イラマチオをするかのように首から口内へ向かってペニスを押
し込む。ペニスの先端は柔らかい喉の粘膜を押し広げながら、喉ち
んこを潰し、焼けて柔らかくなった上顎にめり込んだ。両目の深く
まで突き刺さった鉄仮面の棘が、雫の頭を固定して、男が突き込む
ペニスの力を逃さない。男が乱暴に腰を振る度に、焼けてもろくな
った喉はグチュグチュと音を立てて潰れいく。
大男は雫の頭を貪りながら、目の前の椅子で苦しむいつきに目をや
った。溶解液を浴び続けたいつきは、殺虫剤をかけられたゴキブリ
のように、不気味に両腕をばたつかせて、唸り声をあげている。
いつきの鉄仮面に溶解液を流し込んでいた細身の男は、大男の視線
に気づくと、頷いてかしこまりましたと答えた。
溶解液を浴びせる手を止め、ヒシャクをバケツの中へ戻した。そし
て、いつきの鉄仮面を閉じる留め具に手をやると、縦に通してある
棒を引き抜いた。
鉄仮面は、鈍い音をたてながら左に開いた。酷い臭いが仮面の外に
流れ出た。
いつきの顔は完全に溶けて、原型を失い、じゅくじゅくとした肉が
泡立っていた。左目は棘が突き刺さり、潰れている。前歯は折れて
なくなっていて、口の中に流れ込んだ溶解液が、歯茎を溶かし、舌
を溶かし、喉をとかし、筋肉を溶かし、力を失った顎はだらしなく
垂れ下がっている。
まぶた
いつきの右目に貼られていたテーピングが剥がされた。目の回りの
弱った肌はテーピングの粘着力に負けて剥離した。瞼が失われて、
279
閉じる事ができなくなった右目がギョロリと動く。視力は無事で景
色が見えた。
いつきは溶けて骨の剥き出した両手を震えながら眼前まで近づけた。
恐る恐る顔に触れ、大切な脳の収まる頭上に触れた。髪の毛はスル
リと抜け落ちて両手にまとわりつく。
﹁グゥウウウウウウ⋮﹂
いつきは溶けて壊れた声帯を震わせて唸り声をあげた。自分の意志
通りに動くこの気持ち悪い体が、やはり自分のものなのだと理解し
て絶望した。頭を抱えながら視線を前方へ向ける。
ギロチン台に横たわる首の無い恋人の体。失われた首の付け根から
流れ落ちる血。赤く染まっていく純白のドレス。だらりと垂れた両
腕。骨が折れて短くなった両手。その手前。天井から吊るされた鉄
仮面に剥き出しの下半身を押し当てる大男。
大男は顔の潰れたいつきを見ると、息を荒げて絶頂に達した。雫の
頭の中を勃起したペニスでかき回しながら余韻に浸る。
鉄仮面の口元に空けられた穴からは、精液と血と黒く焦げた体組織
がマーブル状に混じり合って床に垂れ落ちた。
大男はオナホールと化した鉄仮面にペニスを刺したまま、仮面を閉
じている留め具を外した。仮面の前方が落ちるように左へと開く。
雫の両目を突き刺していた棘は、目の組織をえぐり出しながら雫か
ら離れた。大男のペニスに串刺しとなった雫の頭は、その重さに、
潰れた首の肉が耐えきれず、男から逃げるように落ちた。
美しい顔も、美しい髪の毛も、人の形さえも失った雫の真っ黒に焦
280
げた頭は、周囲を見渡すように回転しながらコンクリートの床に落
下すると、鈍い音をたてて砕けた。頭蓋骨が割れ、脳みそが弾け飛
ぶ。
目の前でその様子を見ていた彼氏のいつきは、生かされた右目に涙
を浮かべ、獣のように叫んだ。拘束の解かれた椅子からよろけなが
ら立ち上がる。そろりそろりと歩み始める。宙に漂う雫の魂を追う
かのように、皮の垂れる右腕を宙に伸ばし、出入口の鉄の扉へ向か
っていく。
僕はその様子を檻の中で見ていた。
いつきはよろけながら、出入口の扉へ、一歩、また一歩と足を進め
た。溶けた右手で何かを掴もうとするかのように斜め上に伸ばして
歩く。
僕にはその姿が人ではなく神に見えた。地獄から蘇った神だった。
生まれたばかりの神だった。その神が地上に降り立とうと、出口に
向かっている。そう見えたのだ。僕の頭は何が現実か、何が空想か、
それすらも分からなくなるほど混乱していて、目の前で起こってい
る現実を受け止めきれずにいた。
大男は斧を持って、神の背後に迫った。
神は伸ばした右手を出入口の鉄の扉へつける。押し当てた手からは
光が放たれ、扉はマグマのように溶けて穴が開いていく。
大男は斧を振り上げてその胴体を分断した。
281
光は失われた。神の体は血を吹き出しながら、真っ二つに割れ、床
に転がった。引きちぎられたミミズのようであった。二つに分かれ
た体はバラバラに暴れ、ネジリ動きながら内蔵を撒き散らした。
⋮ちがう、こんなの神じゃない。この気持ち悪い生き物は⋮人⋮。
僕はハッとした。出入口の扉に目をやる。鉄の扉は固く閉されてい
て溶けてなんかいない。その床にはいつきの死体が転がる。僕はど
うなってしまったんだ。これが現実なのか妄想なのか幻覚なのか。
分からない。分からない。分からない。
佐奈が不意にもたれかかってきた。僕はハッとして現実に自分を呼
び戻した。震えている。固まった血が顔から剥がれ落ちて、血色の
悪い肌が見える。大きく見開かれた虚ろな瞳はいつきの死体を捉え
たままだ。まるで体の動かし方を忘れたように固まっている。雫は
硬直したまま僕の胸に倒れ込むと顔を埋めた。声を殺して泣く。血
の気の失われた僕の胸に佐奈の暖かな涙が伝う。
静かな部屋に突如、音が鳴り響いた。
ゴゴッ、ガラッ
鉄の塊がコンクリートと擦れながら転がる音だ。僕と佐奈はその方
に目をやった。
大男だった。いつきと、雫を苦しめた鉄仮面を鎖で引きずりながら
こちらへ向かってくる。
佐奈が僕の手を痛いほどに握りしめた。その手は燃えるように熱い。
魂を削って燃やしたような熱量が、恐ろしいほどの恐怖として僕に
伝わった。
282
大男は手に握りしめた鎖を振って、鉄仮面を僕たちの入る檻の前に
投げ置いた。
大きさの異なる二つの鉄仮面。さっきまで雫といつきの頭を覆って
いた鉄仮面が、開いたまま目の前の床に転がった。
雫が被っていた小さい方の鉄仮面がはじめに目に入った。内側に突
き出た二本の棘には、えぐり取られた目玉が潰れたイクラのように
突き刺さり、裂けている。仮面の内側は、焼けた鉄仮面に触れて剥
がれた皮膚が焦げつき、じゅくりとした肉片と共に剥げ、仮面の至
る所に付着する。剥がれた頭皮も鉄仮面の内側に焦げ付いていて、
焼けて縮れた長い髪の毛が、仮面の内側から生えているように見え
た。口元に突き出した板には喉や口内の肉が生々しくまとわりつき、
その根本には、折れた歯や根本からスッポリと抜けた歯が、板に彫
られた歯型の溝に沿って生えるように刺ささっている。その上から
は口から吐き出された血と脂と精液が混じり合ったドロリとした液
体が覆い、口元に空いた穴から流れ出る。
いつきが被らされた鉄仮面も同様にグロテスクな有様だった。溶解
液で溶けて剥がれた肌が鉄仮面の内側にまとわりついている。口か
ら体内に流れ込んだ溶解液が溶かした粘膜が吐き出され、温めた牛
乳に張った膜のようなグニャリとした物体が鉄仮面の口元に溜まっ
ている。
ここに人間が顔を埋めていたとは思えない。気持ち悪い。
﹁ウゲッ⋮﹂
佐奈は僕から顔を背けると、檻に額をつけてうつ向き、ボールギャ
グで塞がれた口の隙間から嘔吐した。
283
﹁次、おめぇらだぁ。びひひ、ひぃ﹂
溶けた顔の大男は、だらしなく開いた口から気味の悪い笑い声を上
げては、鉄仮面へと繋がる鎖をジャラリと振った。興奮しているよ
うだ。股間に垂れ下がったペニスが膨らみを増していく。
ボーイの男は間に割って入り、大男へと告げた。
﹁お客さま。それでは、この者たちの準備に取り掛からせて頂きま
す。先程の者たちと同じように、綺麗な服を着せ、化粧を施し、そ
の命を消し去ることに、戸惑いを覚えるほどの美しい装いを施しま
すゆえ、別室にて、しばらくお待ち下さいませ﹂
ボーイはこちらに振り返ると、僕達の入る檻を開いた。
﹁出ろ。お客さまにご無礼のないように、その身を清めるのだ﹂
もう一人のボーイと共に僕と佐奈を檻から引きずり出した。ザラリ
としたコンクリートの床が冷たい。後手に鉄枷で拘束されたまま床
に転がった。ボーイは手枷に繋がる鎖を引いた。後ろ向きとなって
引きずられると、コンクリートの床に肌が削られて痛い。立ち上が
ろうと足に力を入れはするものの、すぐに後に引かれて再びコンク
リートに転がる。
ボーイは壁側にある小さな扉を開き、薄暗くて狭い廊下に引きずり
込むと、足をばたつかせてもがく僕たちを立たせた。引きずられる
よりも歩く方が何倍もマシだ。あの大男から離れられるんだ。強制
されなくとも歩く。ボーイは僕たちを押し出すように歩かせた。僕
は疲れた体を引きずって歩き、佐奈はよろける体を支えられながら
も歩いた。
きし
押しやられ行く先に古びた木の扉があった。丸い取手の付いたその
扉から軋む音がした。誰も手を触れていないのに向こう側へと開い
284
ていく。
まばゆ
眩い白い光が僕たちを包んだ。白濁した光はすぐに泡のように消え
去って、向こう側の景色を僕へと届けた。
そこは外の世界だった。高い天井。大理石の床。ソファー。グラン
ドピアノ。その向こうの窓の外にどこまでも広がる新緑の山々。
﹁おかえりなさいませ、お客様。最恐館のアトラクションはここで
終了でございます﹂
すぐ隣で声がした。木の扉の取手を握るタキシード姿の男が微笑む。
正装の男が僕へ、女が佐奈に笑顔で近づいた。真っ裸の僕たちへバ
スローブを被せると、手枷を外し、ボールギャグを外した。
周囲を見渡した。ホテルのホールのようだった。正装の従業員が何
人か壁際に立っている。静かに流れる音楽。白、黄、ピンク、様々
な花が背の高さほどの巨大な花瓶に活けられていて空間を彩る。そ
の隣には半透明のすりガラスで区切られたエリアがあり、白衣を着
た数人の男女が動く様子がガラス越しに見える。
僕にバスローブを被せた正装の男は、呆然と立ち尽くした僕に声を
かけた。
﹁お疲れでしょう。お風呂の準備ができておりますので汗をお流し
ください。その後は、お食事を準備しております﹂
本当に終わったんだ。ただそう思った。喜ぶべきことなのに、嬉し
さが込み上げて来なかった。喜ぶこと、笑うこと、楽しむこと、ど
れもが遠い過去の記憶ように感じられて実感が沸かなかったのだ。
285
僕は隣の佐奈を見た。戸惑いながら周囲を見渡している。
佐奈は弱々しく声を出した。
﹁ここは⋮どこ⋮?﹂
佐奈は優しく微笑む正装の女を睨むと語気を強めた。
﹁あなた⋮誰?!﹂
そして突然叫んだ。
﹁サクラサク⋮。サクラ、サク! ⋮。 桜っ!咲くっ!!! ⋮
? どうして⋮通じないの⋮? まさか⋮!!! 嫌ああああアア
アアア!!!!!!!﹂
佐奈は血相を変えて頭を抱えた。隣に立つ正装の女はそんな佐奈に
驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻して、大丈夫ですよ、とそっと
佐奈の肩に手をまわした。
﹁近づかないで!﹂
佐奈は優しさに満ちた女の手をなぎ払い、突き飛ばした。女は大理
石の床にヒールを滑らせて倒れた。
佐奈はよろけながら走った。壁側のレセプションに似たカウンター
へ向かうと、その上に並べられていた筆記用具を振り落とし、内側
へ身を乗り出した。ガラスでできたペン立てや、筆記台は床に落ち、
砕け散った。
﹁電話は?!! どこにあるの? 話をさせて!!!﹂
カウンター越しの一段低いテーブルに手を這わせて電話を探す。置
かれていた書類の山は宙に舞い、紙で切れた佐奈の指からは血が飛
286
び散った。
仕切られたガラスの向こう側でいた、白衣を着た人たちは、何事か
と駆け寄り、暴れる佐奈を押さえつけた。
僕は驚いた。佐奈、どうしてしまったんだ。あまりに突然の出来事
に僕は固まった。両腕をつかまれて動きを封じられた佐奈は、僕へ
と振り向いて叫んだ。
﹁はると! 逃げて! 逃げるのよ!!! あの大男に殺される!
何してるの!? 言うことを聞いて! 信じて! 私たち殺され
るわ!!! 今すぐに逃げてぇええええ!!!!!﹂
静かなホールに佐奈の叫び声が響き渡る。
﹁離せ! 離せ! 離せええええ!!!!﹂
佐奈は鬼の様な形相で白衣を睨みつけた。噛み付くように威嚇し、
自由の奪われた体を振り回す。
逃げる? どうして? 言っていることが無茶苦茶だ。最恐館のア
トラクションは終わったんだ。叫ばないで、もうやめてくれ。君は
微笑みの似合う物静かな女の子だったじゃないか。僕の好きな佐奈
に戻ってくれ。これじゃ君は狂人じゃないか!
白衣の男が注射器を取り出して、佐奈の腕に刺した。
﹁痛い! 何するのよ! やっぱり殺すのね、そうなんでしょ! 離してっ!!! お父様! お父様!! お父様!!! どこッ?
お父様を呼ん⋮で⋮⋮意識が⋮⋮はると⋮⋮愛し⋮て⋮⋮る⋮に
げ⋮⋮⋮﹂
287
佐奈は最後の力を振り絞って僕を見ると、脱力して床へ崩れた。
僕の中で何かが弾けた。疲れきった体に力が込み上げてくる。とに
かく助けなきゃと思った。
佐奈へ向かって駆け出そうとした時、隣にいたタキシードの男が僕
の肩を掴んだ。ゆっくりとした口調で話す。
﹁ご心配には及びません。彼らは医者です。こういう事態を想定し
て彼らは待機しているのです。若い女性にはよくある事です。恐怖
で張り詰めた緊張が一気に緩むと精神が混乱して、このような状態
となるのです。大丈夫。彼女はおかしくなった訳ではございません。
少し休めば心身のバランスを取り戻して元に戻ります。ここは専門
家にお任せになって、お疲れの体をお休め下さい﹂
僕は立ち止まり、彼の言葉に耳を傾けた。涙が溢れそうだった。そ
うだよ。佐奈はおかしくなった訳じゃない。耐えきれなかったんだ。
純粋な心に、この体験は残酷すぎた。僕だって叫びたい。体に蓄積
した不安を、恐怖を、全て吐き出してスッキリしてしまいたい。
恐怖し続けた僕の心は惰性のままに、助けてくれ、と叫び止まない
でいた。
288
第三十五話 アナとミカ︵一︶ ︱騎乗位セックス
僕は震えていた。辛うじて自分の意識を保てているだけで、体験し
た恐怖を受け止め切れないでいる。
﹁お客さま。こちらの者がお風呂へご案内致します﹂
男の声のする方を見ると、少女が二人立っている。メイド服姿だ。
一人は高校生のようで、幼顔がわずかに残りつつも大人びた顔をし
ていて、肌が美しい。前髪を流行りのアイドルのように二手に分け
て片側の眉毛を覗かせる。
もう一人は中学生のようだ。背が低くて骨格が細い。前髪を自然と
垂らし眉毛で切りそろえている。
二人とも髪の毛が抜け落ちぬよう、後頭部で髪を束ねている。
高校生に見える少女が元気に喋る。
﹁お世話をさせて頂くアナと申します。こちらはミカ﹂
隣の少女は緊張気味に頭を下げた。
﹁お疲れでしょう。どうぞこちらへ﹂
アナは隣まで歩み寄ると、僕の右手を両手で優しく挟み上げて微笑
んだ。僕はその柔らかな手に引かれながら後に続く。
清潔感溢れる少女だった。時々振り返り、優しい笑顔をつくる。ま
るで天使だ。
﹁ふふっ。緊張していますか? 大丈夫ですよ。怖いのはもう終わ
りですから﹂
僕の冷たくなった手をギュッと握る。
289
残酷な空間で居続けた僕にとって、アナの優しさはあまりに眩しい。
﹁お客さま、こちらがお風呂でござます﹂
アナは木の扉の前で立ち止まった。僕から手を離す。
床に膝をついて正座し、引戸を開く。
﹁どうぞ﹂
真っ白な大理石の床と壁のその中に、湯気に包まれた大浴場があっ
た。
目の前は脱衣スペースになっていて赤い絨毯が敷かれている。その
奥の中央には丸い大風呂があって、その向こうに小風呂がある。小
風呂の向こうはすぐ窓だ。壁全体が一枚のガラスとなっていて、針
葉樹が植えられた西洋庭園が見える。中には誰もいない。
僕とミカが中へ入るとアナは扉を閉め、再び僕の手を握った。
﹁滑りますから、お足元にご注意ください。どうぞこちらへ。お背
中をお流し致します﹂
僕は戸惑った。こんな可愛い子に背中を流してもらえるのは嬉しい。
けれども汚物に塗れたこの汚い体を見られたくなかった。
﹁風呂くらいは一人で入れるから﹂
﹁ふふふっ。恥ずかしがらなくてもいいんですよ。わたくしは男性
を見慣れておりますから﹂
﹁そういう意味じゃ⋮﹂
﹁ではご準備だけでも﹂
290
アナは僕を一番奥の小風呂へと連れて行った。家庭用の風呂を一回
り広くした大きさで浅い。
幼いミカはバスタオルやシャンプーの入った箱を抱えてきて風呂の
隣へと置き、重ねていた三つの箱を広げた。
僕に頭を下げると脱衣所の方へ戻っていく。
入って来た時には気づかなかったが大浴場と脱衣所の間には扉があ
ったようだ。ミカは壁に収まっていた半透明の扉を引き出すと、脱
衣所の方から閉めた。正座して頭を下げると扉を最後まで閉める。
アナは箱から瓶を取り出した。中には白い粉が入っている。その粉
を風呂の湯に入れた。鉄と抹茶が混じり合ったような匂いがする。
﹁傷の治癒力を高める入浴剤でございます。一般には市販されてい
ない大変貴重なものでございますの﹂
床に身をかがめて湯を混ぜる。湯はヌルリとした湯へと変わった。
次にアナは箱の中からアルミの小箱を取り出した。中には花びらが
入っていた。赤、黄、ピンク、紫。色とりどりの花びらで水面が埋
められていく。
これでよしと言わんばかりにアナは頷くと立ち上がった。窓に手を
触れる。すると窓は一瞬で暗くなり、外は見えない。
﹁電子カーテンでございます。映像を映す事もできるらしいのです
が、わたし、機械は苦手で⋮殺風景でごめんなさい﹂
アナは少女らしい笑顔を作って口ごもった。確かに真っ黒な窓は殺
風景だ。
291
アナはタオルを風呂の縁へと敷いた。
﹁こちらが頭となります。浅いお風呂でございますが、寝ながら入
れるためにご高評頂いておりますの。さあどうぞ。あっ、バスロー
ブはお預かり致します。向こう向いていますから﹂
なんだか恥ずかしいが、彼女の真後ろでバスローブを脱ぎ、その手
へと渡した。
風呂に足を入れる。思ったよりも浅い。体が何とか浸かる程度だ。
﹁仰向けでお願いします﹂
アナはバスローブをたたみながら言った。
横になって足を伸ばす。広さは十分。湯の中に体が収まる。花びら
が浮かんでいるため中は見えない。深さも丁度良い。これ以上深い
と寝にくいだろう。
よい香りがする。入浴剤と花びらの香りが混じり合って、癒やし系
アロマのようだ。
アナは寝転がる僕の上から顔を覗き込むと、頭の下にもう一枚タオ
ルを敷いた。首が楽になる。気の利く子だ。
﹁それでは失礼致します﹂
アナは一仕事終えたようだ。
﹁ありがとう﹂
僕は礼を言って目を閉じた。
急に不安となった。体験した恐怖が目の前に映像として蘇ってくる。
292
もう終わったんだと自分に言い聞かせる。けれども心は頭の思い通
りには動かない。不安で僕をかき乱す。
僕は恐怖のあまりトラウマに囚われていたのだ。記憶が現実のよう
に蘇る。フラッシュバックだ。震える。息が苦しい。体が動かない。
﹁お客さま、大丈夫ですか﹂
声がする。肩を揺すられる。僕は現実に引き戻された。
目を開くと、裸のアナがいる。大浴場からは出て行ったと思ってい
たアナが、覆いかぶさるように僕へと体を重ねる。
僕は驚いて叫んだ。
﹁何やってるんだ!﹂
アナは落ち着いた優しい声で言う。
﹁⋮。どうか落ち着いて下さいませ。お客さまにはわたくしが必要
でございます。今、怖い夢を見てらしたでしょう﹂
僕の首に腕を絡ませた。耳元で吐息がする。
﹁これがわたくしの仕事でございます。疲れたお客さまのお体をお
アナ
癒やしすること。そのためだけに存在するのです。⋮⋮わたくしの
名は穴。お客さまを気持ちよくするための性具。人ではなく、物で
ございます﹂
アナは顔をあげると、唇が触れるほどの距離に近づいた。赤らめた
顔に笑顔をつくり僕の反応を伺う。
﹁目の前にいるのは快楽を得るための道具、ダッチワイフやオナホ
ールのようなものだとお考え下さい。お心遣いはご無用です。本能
の赴くままに、動け、しゃぶれ、喘げ、そう申して下さればよいの
です﹂
293
ただただ
僕は驚きながらも、目の前に迫る少女の魅惑に取り込まれた。幼さ
の残る少女の顔は只々美しく雌の香りを漂わせる。こんな魅力的な
少女に言い寄られて断れる男などいないだろう。
アナは秘部の割れ目に沿って、ペニスを押し当てた。ゆっくりと前
後に動く。割れ目が裏筋を優しく愛撫する。ヌルリとするお湯がロ
ーションのように滑って気持ちいい。
目の前の少女の口はわずかに開いて荒い呼吸を始めた。ピンク色に
染まる薄い唇が一センチほどの距離にあるのだ。奪わずにはいられ
ない。
﹁キス⋮﹂
僕は呟いた。期待しつつも半信半疑だった。僕の言うとおりに行動
するとは思えなかったのだ。
けれどもアナは応えた。はいと返事をすると、僕に唇を重ねたのだ。
柔らかな唇が心地よい。僕たちは口を開いたり閉じたりしながら唇
の感覚を味わうと、舌を絡めた。小さな舌が僕と絡まる。優しく、
羽のように柔らかく僕の舌を愛撫する。僕の吐いた息を彼女が吸う。
そして彼女の吐いた甘い息を僕が吸った。
甘いキスが佐奈を思い出させた。
﹁佐奈⋮﹂
僕はその名を声に出した。おかしい。体が震える。佐奈の苦しむ姿
が蘇る。
アナは唇を離して、僕の顔を覗き込んだ。
﹁さな⋮⋮ひょっとすると、お連れ様のことでしょうか﹂
294
不安げな声を出したアナにハッと我に帰った。
最悪だ。キスしながら他の女の名を呼んだのだ。
﹁ごめん﹂
僕は取り乱して謝った。
一方アナは優しい笑顔で答えた。
﹁良いのです。わたくしはただの道具でございますから﹂
何といい子なのだ。
僕はアナを抱きしめた。柔らかくも張りのある肌が暖かく心地よい。
けれども僕の体は震えていた。
﹁怖いんだ。急に不安が込み上げてきて、おかしくなるんだ﹂
﹁それは、さぞかし怖い思いをされたようですね。でも大丈夫。わ
たくしがおりますから﹂
アナは子どもをあやすようにそう言うと、再び腰を前後に動かしは
じめた。ゆっくりと優しく、柔らかな秘部の肉をペニスに這わせる。
﹁何も考えてはなりません。ただ快楽に身を任せるのです。そうす
れば不安は消えましょう﹂
アナは腰を前後に激しく動かして素股を始める。ペニスが勃起して
快楽が僕を満たす。確かにアナの言った通り、嫌な気持ちが消え去
った。
﹁あっあっ⋮わたしは気持ちいい⋮です。おちんちん、固くなって
きました、気持ちいい。うれしいです、感じてもらえてうれしい⋮
295
あっあっうぅ⋮あぁ⋮わたしを見てください。⋮かわいい、ですか
?﹂
僕は恐怖から逃げるようにアナへ心を預けた。感じたままの事を口
にする。
﹁かわいいよ。すごくかわいい﹂
﹁あっあっ⋮うれしい。ああ。大っきくなったおちんちんの先がク
リトリスに触れてます。気持ちいい。お客さまも気持ちいいですか
?﹂
アナは体をビクつかせながら、とろけた瞳を向ける。
﹁気持ちいい。もっと気持ちよくなりたい﹂ 僕は答えた。
アナは腰をくねらせた。秘部の穴に亀頭の先端をあてて、股を閉じ
る。大陰唇と小陰唇が亀頭を包み込んで、中に入れているような快
感が込み上げる。けれどもすぐに股を開いて、刺激を止め、じらす
ように僕を見ると、再び股を閉じた。それを繰り返すものだからた
まらない。持続した刺激がほしい。その気持ちいいマンコにチンコ
を入れたい! 僕は腰を押し出して膣口にペニスの先を突きこんだ。けれどもアナ
は腰を浮かせて亀頭の侵入を阻む。
アナは微笑みながら、僕に覆いかぶさった上半身を起こした。騎乗
位の姿勢になって腰を浮かせる。足を開き、両手で秘部のひだを広
げた。
﹁どうぞご覧下さい。これがわたくしのオマンコ。お客さまのため
296
の穴でございます﹂
アナはそう言うと恥ずかしそうに視線を逸らした。広げた割れ目が
僕から良く見えるように腰を突き出す。毛のない股間にピンク色の
女性器がぱっくり開いて見える。
アナは片手で割れ目を押し広げたまま、もう片方の手でペニスを掴
むと、亀頭を秘穴へあてた。浮かせた腰をゆっくりと下ろす。
にゅるりと嫌らしい音を立てながら、ひくひくする穴の中に亀頭が
入っていく。
柔らかくて、暖かくて、気持ちいい。
﹁はぁはぁ⋮気持ちいい⋮もう我慢できません⋮﹂
アナは浮かしていた腰を一気に落として、ペニスを根本まで受け入
れた。亀頭が子宮口を突く。
﹁あんっ 奥が一番感じるんです⋮﹂
アナは騎乗位となって腰を上下に動かし始める。
にゅるっ⋮にゅるっ⋮
﹁あっ、あっ、あっ、ああんん⋮﹂
気持ちいい。ギュッと閉まった膣がねっとりと絡みついて僕を逃さ
ない。目の前では若い女が体を振り乱して喘いでいるのだ。その細
い体から程よく突き出した胸が揺れる。
僕は乳房を両手で掴み上げた。柔らかく張りがある。乳輪に沿って
指を合わせ、乳首を愛撫する。アナが身をよじらせる。
297
﹁うん⋮ああーん⋮﹂
僕は体をおこして、乳首の先をペロペロと舐めた。オマンコにズボ
ズボと入るペニスを見ながら舌で乳首を転がす。
アナが感じているのが分かる。膣をひくひくさせて喘ぎ声を高める。
チンコがより気持ちいい。もっとだ。もっと気持ちよくさせろ。
僕は向かい合ったまま腰を振り続けるアナをギュッと抱きしめた。
驚くアナの耳元に優しくキスをして、甘く囁く。
﹁もっと早く動け﹂
⋮はい⋮
アナは喘ぎ声の合間でとろけるような声で返事をした。
ズブッ⋮ズブッ⋮ズブッ⋮ズブッ
あん⋮あん⋮あん⋮あん⋮
腕の中の少女は恥ずかしそうに顔を背けて喘ぎ声をあげている。動
くことを止めない。細かな肌からは汗が滲み出てメスの香りがする。
束ね上げられた髪によって、剥き出しのとなった、首筋と頬。その
若い肌に指を這わせて唇に触れた。親指を唇の奥に入れると小さな
舌でペロペロと舐める。エロくてかわいい。
親指を口に入れたまま、顎に指をはわせて、顔をこちらへ向けさせ
る。
僕は命令した。
298
目を逸らすな。
もっと早く腰を振れ。
もっとだ。
もっと気持ちよくさせろ!
⋮あんっ⋮あんっ⋮はぃ⋮あんっ⋮あんっ⋮⋮あんっ⋮はぃ⋮はぃ
⋮うううう⋮
アナはこれ以上動けないほど激しく腰を振る。
それでも僕は命令する。
もっと腰を振れ。
チンコを満たす快感は留まることをしらない。アナのマンコは、こ
れでもかと言わんばかりの強い快楽を、僕へと与え続ける。
キスをさせる。
性具の口に舌をねじ込んで、喘ぎ声をあげさせない。
ぱんぱんと腰を振る音と、ぐちょぐちょと膣とチンコが摩擦する音
だけが響く。
潤んだ瞳が僕を捉え続ける。命令したからだ。
僕の欲望を叶える性具。
決して期待を裏切らない。
最高だ。
気持ちいい。
射精感が込み上げる。
299
歯を食いしばって絶頂を耐え、快楽をむさぼる。
アナは僕の背中に手を回し、きつく抱きついた。
﹁⋮まだイッちゃダメ⋮うぅうう、わたしもイキそう⋮頑張ります
から、わたしのオマンコでもっと気持ちよくなってぇええ!﹂
アナは更に激しく腰を上下する。
ぱん!ぱん!ぱん!ぱん!
ずぼっ!ずぼっ!ずぼっ!ずぼっ!
﹁おちんちん気持ちいい! ああああああ! イきそう! ぐうう
うう!!!﹂
僕のチンコは限界だ。どう頑張っても溢れ出そうとする精子を止め
られない。
﹁イくっ!﹂
﹁わたしもイクぅッ!﹂
アナは残った体力で膣に力を入れた。ペニスの中央を通る尿道がギ
ュッと閉じて、飛び出そうとする精液を一瞬せき止められる。する
と尿道の奥に精液が高圧で溜まった。次にアナが膣の力を緩めた拍
子に、一気に発射された。
どびゅっ!
どびゅっ!
どびゅっ!
射精の反動で腰を振り、膣の奥をガンガン突く。
300
ぴゅっ!
ぴゅっ! ドクドクと精液が溢れ出す。
あまりの気持ちよさに眼の前が真っ白だ。
僕たちは力尽きてその場に倒れ込んだ。
アナを抱きしめたまま、浅い風呂に転がる。
ペニスはまだ脈打っていて、その度に亀頭の先から精液が出ている
のが分かる。
アナはイッて力の入らない体を動かした。僕の体の上で足を伸ばし
て両足を閉じた。ペニスの根本がギュッと締め付けられて、竿に残
った精液が絞り出される。
﹁もうオマンコに力が入らなくて。ごめんなさい。これで、おちん
ちんの中の精子、全部出るかな﹂
十分だ。こんな気持ちいいセックスをしたのは初めてだった。
アナは荒い息をして僕の腕の中でぐったりとしている。
ありがとう。アナに告げた。汗で濡れた顔をタオルで拭いてやり、
ペットボトルの水を飲ませてやった。
胸の上から弱々しい声がする。
﹁あまり優しくしないで⋮ください。性具とて、女の心が宿ってし
まいそうでございます﹂
301
僕たちは言葉を交わさず、抱き合ったまま、重なり続けた。
そんな幸せな気持ちは幾分も続かなかった。
消えていた恐怖が、心の奥底からじわりと滲み上がってくるのだ。
体が足から順に冷たくなってゆき、重なり合う少女の温もりさえも
感じられなくなった。
﹁何も考えてはなりません。恐怖の嵐が過ぎ去るのをじっと待つの
です﹂
アナは心を見透かすようにそう言った。
彼女は心臓の音を聞いていた。音が早まったから再び不安に駆られ
ているのが分かったと言う。
疲れきった体を起こして僕に微笑むと、結合したままの性器を動か
しはじめた。
﹁お客さまにはもう少し、過激なお遊びが必要で、ございますね﹂
302
第三十六話 アナとミカ︵二︶ ︱拘束イラマチオ
僕の上に乗るアナは、ゆっくりと腰を動かした。結合したままのペ
ニスに刺激を与える。ぐちゅぐちゅと音を立てながら、先ほど射精
した精液が膣口から流れ出す。
アナは声を張り上げ、脱衣所で待機しているミカを呼んだ。
大浴場と脱衣所を隔てる半透明の扉が開き、メイド服姿のミカが顔
を覗かせる。
﹁お汗流しの準備をなさい。できますね?﹂
アナは語尾を強めた。
ミカはその幼顔に、柔らかな微笑みを作りながらも、戸惑いを混じ
らせ、準備致しますと答えた。
アナは再び僕の胸に顔を埋めた。腰を動かし、上目遣いで僕を見る。
おなご
﹁わたしくのオマンコ汁で汚れたおちんちん、ミカがお流し致しま
す。⋮お客さまは、齢十二となる女のお口、堪能されたことがござ
いますか﹂
あるわけ無い。十二歳といえば中学一年生、下手すれば小学生。ロ
リコンじゃないんだ。恋心を抱く事もなければ欲情する事もない。
﹁また何か考えていらっしゃる。いけませんわ。⋮ほら、ご覧にな
って。ミカのイヤらしい、あの、お口﹂
303
ミカは木箱を抱えてこちらに向かっている。髪を後で束ね上げ、丸
みを帯びた幼い顔を見せる。すぼめられた小さな唇が成熟した果実
のように赤く色づいている。裸で重なり合う僕を見ては視線を逸ら
す。くるりとした瞳が幼さをより感じさせる。
色気を帯びた声でアナが囁く。
﹁初潮を迎えれば誰だって女。あんなに幼い顔をしておっても、男
とまぐわうことを夢みておりますの。顔を赤らめて、発情期のメス
そのものではありませんか。ふふっ。おちんちん固くなってきまし
た⋮ハァ⋮気持ちいい⋮﹂
ペニスに快感が帯びると、幼い顔をしたミカでさえチンコをねじ込
むための穴に見えてくる。愛や恋が芽生えることなく、ただヤリた
いと思う女。抱く気もおきなかった幼い女が、実はこの上ない快楽
もたらしてくれるのではないか、そういう期待感が込み上げてくる。
目の前までやって来たミカは大理石のタイルに膝をついて座った。
頭の後で団子状に束ねていた髪を解く。胸まで伸びる長い黒髪を左
右に分け、ツインテールを作った。
さかずき
箱の中から両腕を丸めた程ある巨大な盃を取り出し、後の湯船から
湯をすくった。波々と注がれた盃を床に置くと、箱に手を伸ばす。
細い指が紙でできた白い袋をつまみ出した。粉が入っているようで
サラサラと音がする。ミカは口を開けて上を向くと、袋の中の白い
粉を口に含んだ。
ミカの表情は変わらず、粉が甘いのか苦いのかまるで分からない。
旨い味では無いようで、湯をためた盃を両手で持ち上げると喉を鳴
304
らして流し込む。息継ぎをしながら四リットルはある盃を傾け、一
滴もこぼさず胃に納めた。
ミカい
ミカはこちらを向いて改まった。両手を膝のまえにつき、やや頭を
下げる。
つう
﹁それではお汗流しをさせて頂きます。わたくしの名はミカ、未開
通の処女でございます。どうぞよろしくお願い致します。まずはわ
たくしの口マンコをご堪能下さい。どうぞこちらへ﹂
緊張した抑揚の無い声で僕を誘う。
僕の上に乗るアナは立ち上がると、さぁ参りましょうと僕の手を引
いた。僕は導かれるままに、ミカが正座する前へと向かう。
近づくにつれて躊躇した。幼い少女の前に勃起したペニスを突き出
すのはさすがに気が引ける。そんな僕を迎え入れるかのように、ミ
カは膝を立てて近づいてくる。
両目を寄せて、マン汁と精液で汚れたペニスを見つめると、意を決
したように亀頭の先へとキスをした。小さな口から細い舌を出し、
亀頭の裏をペロリと舐め上げると口を開いて、先を口へと含んだ。
柔らかな粘膜が亀頭を包む。ぎこちなく舌を動かし裏筋を舐める。
感じているかを確かめるかのように上目遣いで僕を見る。幼女の丸
い目が僕を捉え、その下につく小さな鼻からは吐息が漏れてペニス
の上を通り抜ける。その様は何とも嫌らしい。
ぐちゅ⋮ぐちゅ⋮
305
ミカは頭を前後に揺すりながら、奥へ奥へとペニスを受け入れてい
く。動きは次第に早くなる。
じゅぽ⋮じゅぼ⋮じゅぽ⋮じゅぽ
小さな口一杯にペニスを含んでフェラをする。口をすぼめて快楽を
誘う。幼い女の口は男性器の大きさにぴったりと合って緩みがない。
最高の口マンコだ。
僕はたまらなくなって、ミカの頭を押さえ、ペニスを喉の奥へと突
き入れた。
ウゲッ⋮
ミカが嘔吐した。するとどうだ、ドロリとした液体が胃から流れ出
した。それが口の滑りをよくして気持ちいい。
涙目のミカにひたすらチンコを突きこむ。
ウェッ⋮ウェッ⋮ウェッ⋮
様子を見守っていたアナがふふっと微笑んだ。
﹁気持ちよくなって参りましたか。ミカが先程飲んだ白い粉、凝固
剤ですのよ。少しずつ固まっていって、ゼリーのようになりますの。
それがお口の隙間を埋め合わせて、入れる時も、出す時も、満遍な
くお客さまを包み込むのでございます﹂
その通りだった。嘔吐させればさせるほどに気持ちよくなっていく。
﹁さぁミカ、もっと喉を開いてお客さまを受け入れなさい﹂
306
アナがミカの頭を掴んで押し込んだ。ペニスの三分の二までは入る
がそれ以上はミカが拒む。苦しそうにペニスを吐き出した。
﹁ウゲッ⋮はぁ⋮はぁ⋮申し訳ござません。わたくしは未熟者でご
ざいますがゆえに補助具を使わせて頂きとうございます﹂
ミカは箱に手を伸ばし、開口マスクを手に取った。
﹁このドロリとした液体は、徐々に固まり、わたくしの呼吸を困難
にして参ります。どうか喉の奥深くまでお客さまを突き入れ、空気
の通り道を作って頂けないでしょうか﹂
ミカは痰が詰まったように喉を鳴らせて荒い呼吸をしながら、開口
マスクを自らの口へと取り付けた。そしてやや後ろにある柱まで後
ずさった。箱を手繰りよせ、中から手錠を取り出し、柱の後ろに突
き出した両足に手錠をはめる。次に黒い帯を取り出し、目隠しをし
た。手探りで箱に手を伸ばし、手錠をもう一つ取り出すと、柱の後
で両手にはめた。
アナが言った。
﹁準備できたようでございますわ。お客さま、ここは一つ、人助け
だと思って、ミカの喉の奥をご堪能下さいませ﹂
ミカの顔にポッカリと空く黒い穴に反り返るペニスを挿し入れた。
開口マスクで開かれた口は、何の抵抗もなく亀頭を受け入れる。こ
れまで心地よかった口内は、強制的に開かれていて締め付けが足り
ない。
僕は快楽を求めて自然とペニスを喉の奥へと進ませる。喉の奥まで
突き刺すと、気持ちいい。ミカの頭を柱に押さえつけ、全体重をか
307
けて、チンコをねじ込む。
膝立ちのミカは、上から押さえつけられるものだから、尻もちをつ
いて女の子座りとなった。その上を向いたミカの喉奥の気道にペニ
スがズボリと入り込む。
ウゲェェェ! ミカは苦しみで体をバタつかせた。ジャラジャラと手錠が音を立て
る。僕はそんなミカを押さえつけ根本までチンコをねじ込んだ。気
持ちよくてやめられない。胃から込み上げてくるドロドロの液体が
亀頭を撫でて吐き出されていき、肺が息を吸おうとすると、喉奥が
ギュッと狭まり亀頭を吸い付けるのだ。
時々、ミカに呼吸をさせるためにチンコを引き抜く。ミカが荒い呼
吸をしている間、舌の下にペニスを押し当てて柔らかな舌の付け根
を犯す。そして再び喉の奥底目掛けてチンコを突き立てる。
ウグッ! ウグッ! ウグッ!
ニュル⋮ ウゲェェェ! グゲェェェェ!!!
ミカが頭を左右に振ってペニスを抜こうとするが逃がさない。ツイ
テールの髪の毛を両手に巻きつけて、引き寄せ、ただ快楽をむさぼ
る。ミカが望んだ事なのだ。罪悪感を感じる必要などない。それに
耳元ではアナが、もっと奥まで突いてくださいまし、もっと! と
囁くのだ。
﹁お客さま。更に気持ちよくして差し上げますわ﹂
アナはピンクローターを十個ほど持ってきた。
308
﹁ミカのお口に入れますの﹂
僕はペニスを引き抜いた。開口マスクで開かれた口の中にピンクロ
ータを詰めていく。手を離すとローターが口から溢れ出る。
﹁もう、ミカ。出しちゃだめ。お客さま、おちんちんで栓をして下
さいますか﹂
アナは開口マスクを押さえている指と指の間に隙間をつくり、僕の
ペニスを導いた。
﹁奥まで差し込んでくださいませ﹂
言われるがままにペニスを推し進める。いくつかのローターがミカ
の喉の奥へと落ちていく。
アナはローターのスイッチを入れた。
ウィーン、ウィーン、ウィーン、ウィーン⋮
ペニスの回りをぐるりと囲うピンクローターが一斉に動き出す。小
刻みにミカの口の中が震え出した。
何と気持ちいいのだ。
ミカの小さな口はローターをペニスに押さえつけ、余すこと無く振
動を伝える。喉奥に落ちたローターは時々吐き出され、亀頭の先端
を刺激する。気持ち良すぎて腰を動かす必要すらない。ミカが勝手
に悶えて口を動かすので刺激が無尽に変わっていく。
309
アナはミカのスカートをめくると、パンツの中にピンクローターを
一つ差し込みスイッチを入れた。暴れるローターがクリトリスを刺
激する。ミカは腰をくねらせて悶え始めた。
ふふっ。アナは笑った。別のピンクロータを持って僕の正面に立つ。
﹁わたくしも気持ちよくして頂けませんか﹂
アナは恥ずかしそうにピンクローターを自身のクリトリスに当てが
うと、スイッチを入れた。その快楽に体をくねらせながら、僕の片
手を取ると、ピンクローターを押さえさせた。手マンするようにピ
ンクローターを動かすとアナが悶える。
アナはミカの頭上をまたぐように立つと僕に抱きついた。とろけた
目で僕を見て喘ぎ声をあげる。その可愛らしい少女は、僕と同じよ
うに快楽に酔いしれている。
﹁あっあああ! はぁはぁ⋮ううん⋮ねぇ⋮お客さま。わたしと佐
奈さまどちらが好きですか⋮あん⋮はぁはぁ﹂
サナ⋮その名は⋮やめてくれ⋮気持ちいいんだ⋮現実に戻さないで
くれ⋮⋮可愛いい、君の事が好きだ。
﹁あん⋮ぅうん⋮うれしい。私も大好き⋮﹂
アナは唇を僕へと重ねた。恋人同士のように深く舌を絡める。
僕はピンクローターを押し当てながら、膣口に指を差し込んだ。中
は愛液でびっしょりだ。僕が指を這わせる度に、アナは激しくキス
をした。歯と歯を押し当ててより深く僕を感じようとした。そして
310
仕返しとばかりに僕の腰をギュッと手繰りよせ、ミカの口の奥深く
へペニスを押し込ませた。
性器に伝わる快楽をただ楽しみ合う。そんな男と女。なんて幸せな
のだろう。
射精感がこみ上げてきた。片手に巻きつけたミカの髪の毛をグイと
引き寄せ、ペニスを根本まで押し込む。イくっ。
ウゲェェェ!
ドピュッ!
ドピュッ!
ウグッ⋮
喉奥へ精子を放つ。
ミカの鼻から行き場を失った精液がドロリと垂れ出す。
呼吸できずに体をばたつかせる。
それでも開口マスクに栓をするようにペニスを押し当て続ける。
動き続けるローターの振動が精液を出させ続け、快感が止まない。
その快楽を最後まで堪能するんだ。
抱きつくアナは体をよじりながら絶頂し、その場に崩れた。
目の前には、涙で目隠しを濡らした幼い少女が、プクプクと泡を吹
きながらペニスを咥え続ける。
311
僕はその口からペニスを引き抜いた。
ミカは頭をうなだれた。その口から動き続けるローターが飛び出し、
絡まった精液が糸をひいて床に滴る。髪の毛は乱れ、掴んだ手の形
を記憶するように癖を残す。濡れたメイド服に包まる体はピクリと
も動かない。
罪悪感が込み上げた。いったい僕は何をやっているんだ⋮
床にへたり込むアナはミカのスカートに手を入れて股をまさぐった。
そして引き出した手を僕にかざす。ぐっしょりと濡れた手を閉じて
は開く。
﹁ふふっ。ご覧下さい。このイヤらしい愛液。この子、お口を犯さ
れながら感じていたのです。何度も、何度もイッて落ちてしまった
のですわ﹂
アナは畳んでおいたバスローブを掴んで立ち上がると、僕の背中へ
とかけた。
﹁お疲れになったでしょう。あちらにベッドがございます﹂
バスタオルを巻きつけて自身の体を隠すと、僕の手をひく。大浴場
を出て脱衣所へ向かう。
その奥には小部屋があった。
キングサイズの大きなベッドが部屋の大半を占める。冷蔵庫があっ
て、観葉植物があって、テレビがある。窓は無くて薄暗い。まるで
ラブホテルのようだ。
312
アナは僕をベッドに座らせると耳元で囁いた。
﹁すぐにミカを連れて参ります。優しく抱いてやるもよし、その処
女を味わうもよし。ミカとて性具、お客さまの玩具でございます。
このような若い娘を抱く機会に恵まれた殿方など、そうそうにおり
ませんでしょう。心ゆくまでご堪能下さい﹂
アナはそう言うと去っていった。埃っぽい部屋にメスの香りを残し
てゆく。
十二歳の処女か。悪くない。ミカの顔を思い出しながらベッドに転
がる。
柔らかなベッド、何日ぶりだろう。僕はひたすら拷問されて⋮思い
出すのはやめよう。今を楽しむんだ。これがずっと続けばいいのに
⋮しかし眠い⋮体が沈んでいく⋮
313
第三十七話 佐奈の懺悔
僕を呼ぶ声がする。
眠い目を薄く開けると女が居て、何かを言っている。ああ、きっと
ミカだ。僕はあの子を待てずに寝てしまったらしい。
ここへ来て。一緒に寝よう。起きたら抱いてあげる。
僕はそう言って再び意識を彼方に飛ばす。彼女に聞こえたかどうか
は分からない。けれど分かるだろう。ベッドを横にずれて彼女のた
めのスペースを作ったのだから。
暖かな女の手が僕の腕に絡まるのを感じた。心地いい。耳元で声が
する。キンキンとした声⋮
﹁はると、大丈夫? ねぇ返事して、はると!!!﹂
!?!!?
佐奈の声だ! 僕は飛び起きた。視界に佐奈を捉えるまでの間に頭
が勝手にフル回転して、今しがた寝言のように発した言葉の言い訳
を考える。好きな佐奈から離れてすぐに他の女を抱いた。しかも今
までだ。そんな僕がどれだけ慌てたか話すまでも無いだろう。
﹁はると! あぁ良かった。意識が戻って本当に良かった﹂
佐奈は固く掴んでいた僕の腕から手を離した。
314
﹁ねぇ、大丈夫⋮?﹂
きっと今の僕は引きつった青い顔をしている事だろう。
﹁君は?﹂ 僕は忙しなく質問で返す。
﹁私は大丈夫よ。ねぇ⋮﹂
寝起きの目に映った佐奈はとても綺麗だった。これまでよりも、ず
っとだ。
水々しい肌に自然なメイク。薄紫のカラーコンタクトの入った目。
その目元に淡く塗られたアイシャドーが強い眼力を感じさせ、絹の
ようにサラリとした前髪が整った眉を覆う。潤いのある唇は言葉を
吐き出して忙しなく動いている。
﹁可愛いよ、佐奈﹂ 見とれる僕の口から自然と声が漏れる。
﹁!!! こんな時に、何言ってるのよ! 殺されるわ、私たち!﹂
佐奈は回りを見なさいよと言わんばかりに、ピンと伸ばした腕をく
るりと回す。ジャラリと音がして佐奈の手首につけられた枷の鎖が
宙を舞った。
その先には鉄仮面が二つ、不気味に口を広げ転がっていて、コンク
リートの床に点々と付いた血痕⋮その先の扉には赤い手形が浮かん
でいる。恐る恐る視線を動かす。血に染まるギロチン台と拷問椅子。
ここは雫といつきが殺された部屋⋮
﹁嘘だろ!﹂ 僕は叫んだ。
315
どうしてココにいるんだ! 最恐館のアトラクションは終わったは
ずだ。僕は震え始めた手を佐奈へと伸ばした。するとジャラリと鎖
の音がする。手首には壁に繋がる分厚い手枷が見えた。拘束されて
いる! 恐怖が一気にこみ上げてきて、その重さすら感じない。
僕はうつ向いて自分の体を見た。何だこの服は。殺されたいつきの
服と同じじゃないか。中世ヨーロッパの男が着ているようなダサい
服をいつの間にか着せられている。
うつ向く視界に純白のレースが映る。顔を上げて佐奈を見た。床に
パタリと座り込むその少女は、あろう事か純白のドレスに身を包み、
壁から伸びる鎖に両手を繋がれていた。囚われたお姫様のようだ。
整った髪には、ご丁寧にティアラに飾られていて、首から垂れる銀
色のネックレスが、ふくよかな胸の谷間に吸い込まれている。両腕
は肘まであるシルクの手袋をはめていて、二の腕で途切れたドレス
の袖との間から白い肌が見える。丈の長いドレスは床に大きな円を
描いて広がる。
﹁逃げられなかったのね﹂ 佐奈が辛そうに呟いた。
﹁逃げる?﹂
﹁逃げてって言ったでしょ! まさか私の言うこと、信じてくれな
かったの?!!﹂
記憶が蘇えった。
﹁あぁ⋮。信じるも何も、最恐館のアトラクションは終わったはず
じゃ⋮﹂
316
﹁この状況を見なさいよ。私は逃げてって言ったでしょ! 何で行
かなかったのよ!﹂
﹁君がいきなり豹変したものだから、どうかしてしまったのかと思
ったんだ﹂
﹁豹変? 馬鹿じゃないの!? 目の前で人が死んだというのに!
あなた⋮私じゃなくてあの人たちを信じたのね﹂
﹁そう思ったんだ。元の世界に戻ったと。普通はそう思う﹂
﹁あれが元の世界? 普通? あなたはあんな立派な建物で優雅な
生活しているわけ? おかしいと思わなかったの? 騙されたのよ
! あんなに苦しんだのに、急に優しくされて嘘を信じた。どうか
してるのは私じゃなくあなたよ! 殺されるわ! あの二人のよう
に殺される!!﹂
動揺する僕は自分に諭すように佐奈へと言った。
﹁佐奈、落ち着いて。最恐館は恐怖の館。人が死ぬなんてあり得な
い。うん⋮そうだよ。いつきと雫は従業員で、死んだのは演技だっ
たんだ。君は騙されなかったけど、僕は騙されて、あれが出口だと
勘違いした。アトラクションはまだ続いている⋮けれども必ず出口
にたどり着けるはずだ﹂
﹁出口は無いわ!!! 私は最恐館の従業員! 全ての部屋、出口、
緊急脱出方法を把握している! けど、こんな部屋、知らない⋮﹂
従業員?!!! 何言ってるの佐奈⋮
317
﹁私たちは石の牢獄を出て⋮エレベーターに乗って⋮二階にある偽
の出口を通り過ぎて⋮地下一階、そこはパルとマクルの居た地下の
広間、そこも通り過ぎて、地下二階、肥溜め部屋、そこも通り過ぎ
て、地下三階にある処分場へ向かうはずだった。そこで私たち四人
はガス室に閉じ込められて、死にかけるところをパルとマクルに助
けられるの。そして車いすで元の場所、更衣室まで戻って終了。多
少の違いはあっても、大きく変わる事は無いはず⋮。私は⋮参加者
じゃないの。私の仕事は、あなたのパートナーとなって惚れさせる
こと⋮﹂
嘘だ⋮ 仕事だと? 僕を好きだと言ったのも、甘えてみせたのも、
全部ウソだと!?
﹁⋮あぁ混乱してる、今のは忘れて。順を追って説明するわ。あな
たも知っている通り、最恐館のアトラクションは危険なの。だから
色々な場所に隠しカメラがあって監視してる。でも不測の事態は起
こるわ。大地震が起こるかもしれない。体調が急変するかもしれな
い。そういう時にSOSを発して安全を確保すること、それが私の
役目なの! それだけじゃないわ。恐怖を演出すること。私が恐怖
に陥れば恐怖が皆に伝染する、その役目も担ってるの、それでね⋮﹂
怒りがこみ上げてくる。苦しんでいたのも演技、僕を好きだと言っ
たのも演技。そういうことか! この女は僕をだました! おかし
いと思ったんだ。こんないい女が僕の事を好きになるわけがないん
だ。
﹁お願い、怒らないで。言いたく無かった、あなたにだけは知られ
たくなかった。私はね、あたかも客としてここへ来て、あなたと愛
し合って、そして、一緒にここから出て行きたかった﹂
318
﹁信じてたのに! 嘘つきめ! もう嫌だ⋮帰る。家に帰してくれ
! この枷を外せ!﹂
僕は佐奈に掴みかかった。怒りのままに、馬乗りになって拳を振り
上げた。
怯える佐奈が細い声を絞り出した。
桜咲く
⋮通じなかった⋮必死で叫ん
﹁無理なの⋮ここがどこか分からない⋮緊急脱出用の合鍵も無けれ
ば秘密の合図も通じない⋮
だのよ、それなのに⋮あなたも聞いたしょ?⋮私は見捨てられた⋮
殺される⋮噂で聞いたことあるの⋮金払いのいい客に殺しをさせて
るんだって⋮そんなの嘘だと思ってた⋮。たぶん私のせいだ。はる
と、殴ってもいい⋮殺してもいい⋮どうせ逃げられない⋮それなら
あなたの手で⋮。けれどこれだけは信じて!あなたが好き⋮﹂
佐奈は目の前にかざされた拳に堪忍して目を閉じた。歯を食いしば
って抵抗しない。
﹁好きだと? ふざけんな! どうせ他の男にも同じ事言って、股
を開いてるんだろ! お前が僕の何を知ってるって言うんだ。何か
言えよ! おぃ!﹂
佐奈は閉じた瞳から涙を流した。
僕は誰も殴ったことのない拳を、怒りにまかせてに振り下ろしたか
った。次の一言で殴ろうと息を飲んだ。
﹁⋮私は⋮見ていたの⋮覚えてる? 子猫が道で轢かれたこと⋮私
はあなたを調べてた。最恐館を訪れるのにふさわしい人物かどうか
審査するのが私の本当の仕事。⋮子猫が車に轢かれて、それを見て
319
いたあなたは密かに尾行していた私を見つけて、助けてくれと叫ん
だ﹂
覚えている。人気のない家への帰り道。滅多に車は通らない。けれ
どあの時に限って車がきた。道を渡ろうとした子猫は驚いてその場
に立ちすくんで⋮車が通りすぎた後には血を流して動かなくなった。
運良く僕の他にも人がいた。
﹁⋮ケータイを持っていなかったあなたは救急車を呼んでくれって
私に言った⋮そんなの無理⋮猫のために救急車は来ない⋮ぐったり
とした猫を抱えたあなたは、そういう私に涙を浮かべて⋮ならどう
したらいい?⋮そんなはずないだろう⋮こういう時のために沢山の
税金を納めてるんだ⋮来てくれないわけないじゃないかって⋮﹂
女のケータイを奪って119をダイヤルした。女の言った通り、救
急車は来てくれなかった。そんなことは分かっていた。目の前で轢
かれた猫を置き去りにすることもできず、ただ助けが欲しかった。
後味悪く傷つきたく無かったんだ。
女は近くに動物病院があると言う。でもこんな時間じゃ閉まってる、
諦めましょうと言った。僕はそんな事は聞かなかった。血を流す猫
を離れないように強く抱きしめて、走って、走って⋮ドアを叩いた
けど暗い建物からは誰も出てこなくて、隣接する家のチャイムを何
度も押した。
﹁⋮私が追いついた時には、たった今、明かりの灯った動物病院に
入っていくあなたの背中が見えた⋮﹂
下半身が複雑骨折だった。内蔵も潰れていて、助からないと言われ
たけど、お金ならいくらでもあるから助けてくれと頼んだ。院長は
320
言った。もし助かっても長くは生きられない、苦しむ猫のことを思
うなら安楽死を、と。僕は⋮受け入れた。
﹁⋮明け方近くに病院から出てきたあなたは⋮私を見つけて⋮君の
おかげであの猫は救われたって、笑顔を私に向けてくれたの。嘘つ
くのが下手な、優しい人。別れ際に差し出された手は温かくて、私
も救われる気がした。あの時から私は⋮﹂
閉じていた佐奈の目が開いた。
僕は振り上げていた拳を、その視界に捕らわれぬように、そっと隠
した。あの時の女が佐奈だったなんて⋮一度見たら忘れないこの輝
く女を、どうして僕は覚えてないんだ⋮
﹁その後、何度もあなたの前へ現れたわ。けれどもあなたは気づき
もしない。まるで動かぬ木を避けるように通り過ぎていく。そりゃ
あそうよ。あなたは普通の人。けど私は⋮犯罪集団の一員⋮。小学
生だった私は彼らに拾われた。
私の家は荒れていた。両親は喧嘩ばかり。事業に失敗した父の借金
は増えていく一方で、食べる物さえままならなかった。優しかった
父は、いつしか別人のようになって、母に暴力を振るうようになっ
たわ。はじめは抵抗していた母も次第に抵抗しなくなった。鳴り止
まない借金取りからの電話、暴れる父、笑顔の途絶えた幼い私。不
審がるご近所に体裁を繕いながら働き続けた母は、枯れ木のように
やつれていって、そして⋮殺されたのよ。
その日も朝からチャイムが鳴った。借金取りだと想像がついた。父
は居留守を使うために二階で寝込んでいた母を無言で蹴り起こす、
いつものことだった。起き上がる母に、父は都合よく手を差し伸べ
321
た。そして階段を降ろうとした時、父は母を突き落とした⋮
今思えば保険金目当てだったのだと思う。
当時の私は小学生。次は私が殺される! そう思った。
貯金箱の底にわずかに貯まった小銭を握りしめて家を飛び出した。
少しでも遠くへ逃げた。走って、バスに乗って、電車に乗って、街
へ出た。人混みに紛れれば見つからないと思ったの。無茶苦茶よね。
行く宛の無い私は補導されて連れ戻されるのが関の山。
ユートピア
。当時、リーダーすら存在しないこ
けど私は運が良かった。組織に拾われたの。
外国人犯罪組織
の組織は、外国人労働者を緩く結びつけていた。彼らは騙されてこ
の国へやってきて、誰もやりたがらないような仕事をさせられてた。
彼らは高い賃金を夢みて訪日していたわ。だけど現実は甘くない。
家すら借りることのできない彼らに法外の値段で家を貸し出す悪徳
業者。言葉が不便なことを良いことに低賃金で働かせる悪徳業者。
気づいた時には、借金漬けにされて、奴隷のように働くだけ。あろ
うことかその悪い人たちは日本人だったのよ。
そんな彼らは職場から逃げ出して、地下へ潜った。金を稼ぐために、
故郷に帰るために、犯罪に手を染めた。全国で偶発的に発生した小
ユートピア
さな犯罪集団は、利害の一致から、融合し合って巨大な組織へと変
わっていった。金を稼ぐことができるこの組織は真の日本国と呼ば
れるようになった。
日本に出稼ぎに来る外国人は優秀な人が多いの。天国に行くよりも
難しいと言われるこの国に、いい加減な人間は入ることすらできな
322
い。地頭の良い人が自然と集まり、組織は急速に拡大していた。
そんな中、私は拾われたの。
最初は身代金目的で誘拐したみたいなのだけど、父の信用調査は真
っ黒。借金しか無かったものだから、人質としての価値は無かった。
けれども組織は私を開放しなかった。私が望んだのもあると思う。
気づけば私は組織の一員となっていたわ。
当然、学校には行かず、外はできるだけ出歩かなかった。それは私
だけじゃなった。事情を抱えた子ども達、主に外国人の子どもなの
だけれど、彼らと過ごした。日本語の話せない彼らに日本語を教え
た。犯罪に手を染める大人に代わって、家事をして、子守をした。
組織のメンバーは日本人よりも日本人らしかった。組織に加わる者
は歓迎された。何もしなくても誰もとがめなかった。身を挺して仕
にんきょう
事をこなした者は尊敬されたけれど、楽して金を稼いだ者は軽蔑さ
れた。いつしか日本人に途絶えた任侠がこの組織の信条となってい
たわ。金持ちから金を奪って弱き者を救う、それが私たちを奮い立
たせる正義だった。正義のために人を消し去ることもいとわなかっ
た。
そうやって皆、本来得るはずだった金を稼いで、国へと帰って行っ
たわ。人は途切れなかった。血液が入れ替わるように、人が入れ替
わっては増え続け、組織はより強固へと発展していった。そんな彼
らが得た金で私は生かされ続けたの。
海面下で活動していた私たちは、徐々に表舞台へと活動の場を広げ
ていった。莫大な資金で健全な企業を買収して隠れ蓑にした。少し
でも健全な仕事をしたい、そんな気持ちが組織を揺り動かしていた
323
わ。そんな中で最恐館の構想が生み出されたのよ。それは組織が得
意としていた暴力を、正しい方向へ活用しようとしたものだった﹂
語気を強めた佐奈に、僕は息を飲んだ。
馬乗りとなっていた僕は身を下ろした。佐奈は身を起こし、鋭い眼
光で僕をのぞき込むと、視線をよそへと逸らした。
﹁最恐館では男女をペアにして拷問する。死んでしまうかもしれな
い、そう思うことで私たちの本能は子孫を残すために働き始め、恋
に落ちるの。それは平和に暮らす人達じゃ味わえない深い愛。
普通は拷問され続けると心が壊れてしまうわ。受け入れがたい現実
に順応して恥も苦痛も感じない生きる屍となってしまう。けれど愛
しあう二人は違う。恋人を想う気持ちが生きる意思となって心が壊
れないの。苦しめば苦しむほど深い愛に落ちてく。そうして人が備
ここ
える能力を限界まで引き出して味わう究極の愛、それが最恐館が提
供するサービスの本質よ。
素敵だと思わない?
普通に暮らしていたんじゃ決して体験できない愛が最恐館にはある。
やるせない思春期を過ごしていた私にとって、このプロジェクトは
いたく魅力的に思えたわ。だって強盗、殺人、麻薬密売、そんな事
しかして来なかった人たちが愛を語り始めたのよ。興味が湧かない
わけないじゃない。
程なくして私は最恐館の従業員に加わった。十七歳となっていた私
が補導される可能性は低かったし、日本人の私なら人混みに混ざっ
ても不自然じゃなかった。だから調査員になったの。それは応募者
の身辺を調査して適材かどうかを判定する仕事。十分な資産が有る
324
ートピア
ユ
か、秘密を守れそうな人物か、性格に難は無いか、清潔か、⋮寄生
するのに最適か。
最恐館を体験した人は現実の世界が空虚に思えてしまうの。何をし
ても、どんなに愛し合っても快楽が及ばない。そりゃそうよね、生
死の狭間で生じた本能を揺るがす愛と、平和な世の中で生まれる薄
っぺらな快感が同じ次元の快楽をもたらすわけがない。
だから多くの人が失われた快楽を求めて最恐館を訪れたがる。けれ
ど最恐館に訪れる事ができるのは一回だけ。そんな人の元に悪い人
たちが訪れるの。希望を叶える良いお薬がありますよってね。それ
も私たち。薬物は飛ぶように売れるわ。なんたって最恐館に訪れる
客はお金を持ってる人達ですもの。
いけないことだと分かってる。けれど仲間がそうして稼いだお金で
今まで生きてこられた⋮
私は、自らの手を汚すこと無く、仲間から尊敬を集めることもなく、
ただ綺麗な仕事をして、生きていたのよ。
そんな時、あなたに出会った。
最恐館への参加を希望するあなたを調査した私は、結果を保留し続
けた。最恐館へ近づけたく無かった。他の女に触れられたく無かっ
た。私のモノにしたかった。けれど、あなたに声をかける勇気なん
てこれっぽっちも無かった。ただ近くにいれば、気づいてもらえる
んじゃないかと期待した。随分とワガママ。そうよ、そんなのうま
くいくわけない。諦めよう。そう思った時にね、私に転機が訪れた
の。
母の母、祖母が亡くなり、莫大な資産を相続したの。
325
母は父の借金のせいで、祖母から度重なる借金を繰り返していたわ。
父と共にやってきて金を貸すまで帰らない。そんなのだから、親族
の怒りをかって、絶縁を突きつけられていた。
私は祖母が好きだった。数少ない私の癒やしの場所だったの。祖母
も私が好きだったのだと思う。行方をくらませた私をずっと探して
いたわ。新聞の人探し欄にね、私の名が載り続けたの。掲載人は祖
母だった。
辛くて仕方なかった。けれど連絡できる訳がない。私が現れること
で父の魔の手が祖母に伸びることが怖くて仕方なかった。私の回り
はお金を求める外国人ばかりだったから、喉から手が出るほどお金
を欲しがる人間が、人殺しをもいとわないこと、良く分かってた。
半年ほど前、新聞に載り続けた私の名がピタリと止んだ。どうした
のだろう、私のこと、亡き者として諦めてしまったのだろうか、う
ろたえたわ。いつまでも続くと思っていた家族とを繋ぐ細い絆、数
文字しかない一方通行の活字が、私にとってそれがどれだけ重要だ
ったのか思い知らされた。いてもたってもいられなくなったわ。
新聞社の社員を名乗って祖母の家に電話した。ただ声を聞ければよ
かった。安心したかったの。けれど祖母は居なかった。入院してい
たの。なんとか居場所を聞き出した私は直ぐに病院へと向かった。
偽造した新聞社の名刺で受け付けをすませ、祖母の元へと向かった。
祖母は末期の癌だった。度重なる手術で弱っていたわ。声を出すこ
とも、体を起こす事もできなかった。枯木のように静かに横たわっ
ていた。やせ細った体は、あの日の母のようで、死の匂いがした。
326
病室に飛び込んできた私に、他人を見るような冷めた目を向けた。
ぎょっとしたわ。幼かった頃のように優しく迎えてくれるものだと
思っていたから狼狽した。無理はない、十年以上会っていないのだ
から。
祖母が私を、奇妙な出で立ちで立ちすくんだこの私を、探していた
孫だと理解するまでに、そう時間はかからなかった。薄く開いた祖
母の目から、どっと涙が流れ出した時、嬉しくて、祖母の体に抱き
ついた。その体は小さかった。けれども暖かかった。母の匂いがし
た。私は子どものようにオイオイと泣いて、何の連絡もよこさなか
ったことを謝った。そして失われた時を埋めるように今までの出来
事を話した。
家出した時のこと、優しい人たちの世話になったこと、今は元気に
仕事をしていること、自分の名が載らなくなった新聞に気が動転し
て駆けつけたこと、祖母はただ頷いて話を聞いてくれた。その優し
さが辛かった。
喋りながら整理された自分の人生が、祖母に何の自慢も、安心さえ
も与えるに値しないことが自分でも分かった。犯罪組織に身を置い
ている、そんな現実を口に出すほどの勇気は無かった。上辺を取り
繕った話はしどろもどろになって、嗚咽と涙が言葉を阻んだ。
祖母は私の背に手を回し、幼子をあやすように私を落ち着かせた。
佐奈へ
と私の名が書かれていた。
そしてベッドの隣にある棚の引き出しから、封筒を取り出し、私へ
と渡した。そこには筆で
中を見て驚いたわ。五億円近い海外銀行の預金通帳。なぜ? どう
してこんな大金を私に? 話すことのできない祖母から答えは得ら
れなかった。弱くも優しい祖母の目は役目を果たしたとばかりに力
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を失っていった。
このお金があれば一人でも生きていける。私は組織を抜ける決心を
した。忌まわしき父の親権が及ばなくなる二十歳になるのを待って、
普通の世界へ戻ろうと思った。祖母からもらった海外預金を仮想通
貨に換金して、半分を組織へと上納した。初めての上納金だったわ。
今思えば、そのお金が組織の逆鱗に触れたのだと思う。組織の人間
は楽してお金を稼ぐ人たち、金持ちの日本人を恨んでいた。訪日し
た外国人が必死に稼いだ僅かなお金すら吸い尽くし、奴隷のように
扱う支配階級。そんな日本人は正義の敵だった。私は大金を得てい
い気になっていたんだと思う。彼らが一生かかっても稼げない額を
一夜にして手に入れ、組織を抜け、悠々自適な生活を送ろうとして
いた私は、彼らの恨むべき敵そのものだったのよ。
そんな事を考えもしない私は、新たな生活に夢を膨らませていた。
期待と同じぐらい不安だった。両親に育てられ、組織に守られて温
々と育った私。一人で生きたことなんて無かった。その不安な心を
自然と満たしたのは、はると、あなただったのよ。私の恋心は募る
ばかりだった。
私は計画した。最恐館の完成された深愛プログラムで、あなたを私
のものにして、二十歳となる今日、あなたと旅立つ。最恐館の現場
に出て、あなたのパートナーとなって、身を痛めて働けば組織の人
間も私を認めてくれる。そうすれば円満卒業。そんなつもりだった。
それがこのざま。
組織は、組織を捨てようとした私を捨てた。愛するあなたと共に、
苦しみながら死ねということなのよ。私に残された財産を奪い去り、
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何の価値もない私の体を商品に換えて、あの大男に売りつけた。見
事ね⋮ほんと﹂
佐奈は話を止めると、絶望の滲んだ青い顔をうなだれた。小さくつ
ぶやく。
﹁ごめんね、はると﹂
沈黙が流れる。
僕は思い出していた。最恐館の中での数々の苦痛。佐奈は辛そうだ
ったけど、どこか品を漂わせていた。それは、従業員としての余裕
だったのかもしれない。それが今ではどうだ。車に轢かれる直前の
子猫のように、怯えきり、諦めを滲ませている。その様相が僕を焦
らせた。彼女の話を信じるべきかどうか悩んだ。本当にここから出
る方法が無いのだろうか。
佐奈はここがどこか分からないと言った。けれども僕は知っている。
佐奈は意識を失っていたけれど、ここは石の牢獄から出てから乗っ
たエレベーターの下った先の部屋。地下だ。佐奈は地下三階までは
知っているようだったし、全ての部屋を知っていると言った。つま
りここは佐奈の知らない最恐館の深い場所に位置する地下室という
ことになる。
隣にあるホテルのフロントのような部屋はどうだ。窓があった。外
の景色が見えて、佐奈は逃げろと言った。となればここは地上。地
上にあるこんな巨大な空間を、従業員の佐奈が知らないなどという
事があるだろうか。待てよ。大浴場でアナは、窓を自由に映像を映
せる電子カーテンと言った。つまり、見えた景色は当てにはならな
い。やはり、ここは最恐館の地下。
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そのことを佐奈に聞こうとした時だった。僕と佐奈を包んでいた沈
黙は、聞き覚えのある男の声で終わりを告げた。
あの大男だ。
うなるように言葉を発する顔の溶けた大男と、ひょろりとした小柄
の男が向こうから姿を現したのだ。
戦慄が走る。
目の前でカチカチと歯を鳴らして震え上がる佐奈。そのただならぬ
様子に僕は恐怖した。
彼女の言ったことは真実なのだと、僕たちは殺されるのだと、理解
するには十分だった。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://novel18.syosetu.com/n8825cy/
恐怖の館「最恐館」 ―至高の恐怖。それは拷問の苦痛
―
2017年1月17日12時08分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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