「プロックチェーン」は世界をこう一変させる

東 洋 経 済
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簿
聯国
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とぼ
O N L I N E
「プロックチェーン」は世界をこう一変させる
仮想通貨 の 技術が 国境を越 えて駆 け巡 る時代
翁 百合 :日 本総合研 究所副理事長 NIRA総 合研 究開発機構理 事
2017年 1月 11霞
仮想通貨
1)れ ているブロックチ五一ンは、政府から個人まで、生活を激変させるか
(ど ッ 井コイン)と こ使テ
も しれ な い (写 真
!TAKOMI― CG/PIXTA)
ブロ ックチェ ーンは 「帳簿 (ま たは台帳 )の イノペー ション」 といわれる。台帳
や帳簿 といえば、以前 は紙ペ ースで記録 されていた。だが現在では金融機関な ど
で、台帳 はデジタル化 して1箇所 に、または地震な どに傭えたパ ックア ップ施設 と
2箇 所程度 に、厳重 に記録 され 、保管されているものが多い。
しか し、プロックチェーンの技術 はあ くまで、そうしたデジタルデ ータを取引参
加者全員が共有する。仮想通貨の 「 ビッ トコイン」の技術 に使われていること
で、ブロ ックチェーンは注 目されるようにな つてきたが 、実 はさまざまな分野で
活用が予想 されている。いつたい、ブロックチ ェーンの どんな特性が注 目され 、
どんな分野で使われ ようとしているのか。そ してそれ によつて、私たちの社会が
どう変わ るのか 、探 ってみたい。
「分散」「合意』「共有」がコンセプ ト
東洋経済新報社「東洋経済」
まずブ国 ックチェ ーンの 呼び名 は、カネやモノの取 弓1の 履歴デ ータを要約 しなが
ら一塊 のブロック として集約 し、そのブロックをチェーンとしてつないでい くこ
とに曲来 している。
仕 組 み を簡 単 に述 べ る と、以 下 の よ う にな る 。 ブ ロ ック チ ェ ー ン ・ ネ ッ トワ ー ク
の参 加 者 は 、 カネ や モ ノの取 引 を す る と、 それ らの 取 引デ ータ を ブ ロ ック に し
て 、各 参 加 者 の パ ソコ ンな どで 保 管 す る 。各 参 力田者 が 保 管 す るデ ー タ は 同 じで な
けれ ばな らな いの で 、相 互 にブ ロ ック の デ ー タ が 同 じで あ る こ とに合 意 しな が
ら、参 加 者 全 員 が す べ て の情 報 を 共 有 して い く。 「分 散 」 「合 意 」 「 共 有 」 とい
うコ ンセ プ トが ブ ロ ックチ ェ ー ンの 特 徴 だ 。 も とも とブ ロ ック チ ェ ー ン は 、 ビッ
トコ イ ンを 起 源 と した技 術 で あ り、 中央 集 権 的 な 組 織 や 国 家 に依 存 せ ず 、誰 で も
参 加 で き る取 引 の 実 現 を 目指 して 生 まれ た もの な の で あ る 。
そのメ リッ トは、①過去の情報か らのデータを要約 し、新 しいデータを加えなが
らブロ ックをつ な ぐため、データの改ざんが難 しい、②分散型ネ ッ トワークなの
で、ある人のパ ソコンが壊れても、他の人が同 じ帳簿を持 つているので 障害 に強
い、③個人 と個人が直接結びついて取引ができ、銀行や仲介会社を介 さず に送金
な どがで きるため、仲介 コス トが省 け迅速 に取引できる、といつたものだ。
ブ ロ ック チ ェ ー ンの 技 術 を 使 え ば 、契 約 書 も 自動 的 にプ ログ ラム で 記 述 され 、 関
係 者 が 承 認 すれ ば 契 約 を 自動 的 に執 行 す る 、 とい つ た こ とも可 能 にな る 。 この 仕
組 み を 「ス マ ー トコ ン トラク ト」 とい う。従 来 、取 引 に付 随 して い た膨 大 な 手 作
業 も不 要 とな つて 、取 弓:コ ス トが 魂 減 され 、 カネ や モ ノの 取 引 を 国 境 を越 え て 自
由 に展 開 で き る イ ン フラ と して 、機 能 す る可 能性 が あ る 。 また 、限 られ た取 弓:参
力覆者 だ けが 参 加 し、 Fォロした環 境 で 動 か す タ イ プ の ブ ロ ック チ ェ ー ンの 開発 や 活 用
も進 み つ つ あ る 。
世 界 中 の さ ま ざ ま な企 業 や 金 融 機 関 、政 府 が 、 一 斉 に この 技 術 を使 つ た 多様 な
サ ー ビス の 実 証 実 験 を行 つて い る が 、 それ は この 技 術 に よ つて 、新 た な ビジネ ス
や 電 子 政 府 の 可 能 性 が広 が る と考 え て い るか ら に他 な らな い 。実 際 す で に ビジネ
ス と して ス タ ー トした も の も あ る 。具 体 的 に どの よ うな分 野 で期 待 され て い るの
か。
データの改 ざんを難 しくする ことか ら、ブロックチェーンヘ の政府の関心も高
い。政 府 内 には、国民の住民情報や健康情報、不動産所有情報な どのデータがあ
る。
た とえ ば 、北 欧 の 小 国 で あ る エ ス トエ ア で は 、 国 民 IDに よ る情 報 管 理 が徹 底 して
お り、 医療 や 投 票 な どあ らゆ る場 面 で オ ン ライ ン対 応 が 可 能 とな っ て い る 。役 所
に行 くの は 、人 生 にお いて 結 婚 、離 婚 、不 動 産 取 引 だ け とい う こ とだ 。 同 国 で は
こ う した 電 子 政 府 構 築 にあ た り、政 府 が 持 つ 各 デ ー タ ベ ース をネ ッ トワ ー ク で 結
東洋経済新報社「東洋経済」
ぶ 際、1青 報の改ざん検知のため にブ Elッ クチ正 一ン技術を活用 、データの安全性
に対する国民の信頼 を得 ることに成功 している。エス トエ アで は、次 々と新たな
電子行政サ ー ビスが展 開され 、政府の仕事が大胆 に効率化 している。税の徴収 は
980/Oが 電子納付であ り、効率性 は日本 と比較 しても圧倒 的に高い。
サプライチエーンや金融の分野で期待
民 号ビジネス におけるブロックチェーンの利用 は、新 しい ビジネスチ ャンスを生
F日
み、いろいろな業種の ビジネスモデルを変える可能性を秘めて いるのだ。
そ の 技 術 が 発 展 すれ ば 、取 引 コス トが 肖こ
減 され て企 業 の 生 産 性 向 上 を促 し、取 引
1青 報 を活 用
して 付 加 価 値 の 高 い ビジネ ス を展 開で き る 。特 に IoT(イ ンタ ー ネ ッ
ト・ オ ブ ・ シ ング ス )、 つ ま り全 て の モ ノが イ ンタ ー ネ ッ トでネ ッ トワ ー ク 化 さ
れ 、 自動 操 作 ・ 制 御 な どを通 して の ビジネ ス が 可 能 だ 。分 析 に適 した デ ー タ を 異
業 種 間 で 活 用 した り、情 報 に基 づ い てス マ ー トコ ン トラ ク トで 自動 制 往,し た り、
対 応 した金 融 サ ー ビス を 提 供 した りす る こ とも可 能 にな つて くる 。
例 を挙 げれ ば、カーシェア リング 。カーシェアを使 いたいとき、スマー トフオン
(ス マ木 )の アプ リで注文すれ ば、瞬時 にスマー トコン トラク トが契約を自動執
行 し、代金が決済され 、利用者 三―ズ にぴった り合 った車が 自動走行 して 目の前
に止 ま り、 ドアが開 く、 といつた 日が来 るかも しれない。サプライチェーン (供
給網 )や 物流 の 効率化 、シェア リングエ コノミーの健全な発展や 、ヘ ルスケア分
野で の活用な ど、業種や国境を越えて渚用 され、利用者 には安心を提供 しなが
ら、利便性 と効率性を向上させることができるだろう。
フモン ドの鑑定書や取引履歴を
英ベ ンチ ヤー企 業 のエパ ー レッジヤー社 は、ダイ古
ブロ ックチェ ーン上で データイ
として取引できるようにし、そのデータについて豊
察や保 険会社も参照できるビジネスモデルを構築 した。これ によつて、横行 して
いた鑑定書偽造や保険金詐欺をな くす といつた社会的問題を解決 しなが ら、安心
して取 引できる流通プラッ トフォ ーム を作 ることに成功 している。
ま た金 融 ビジネ ス に関 して も 、貿 易 金 融 や 証 券 取 引 、 国 境 を越 え た送 金 な どの 業
務 を 通 して 、取 引 の 効 率 化 が 進 み 、金 融 機 関 の オ ペ レー シ ョ ンが 改 善 しうる 。 さ
ら に は そ こで 得 られ る情 報 を使 つ た サ ー ビス も展 開 で き るか も しれ な い 。現 在 、
日本 取 引所 の 証 券 取 弓Iの 実 証 実 験 も行 わ れ て お り、実 装 が 進 め ば 、金 融 機 関の ビ
ジネ ス モ デ ル を 変 え る こ とも あ りう るの だ 。
安定 した政府が設立 されていない、社会イ ンフラが未整備な発展途上国の人たち
にも、ブロックチェーンによる金融サ ー ビスが提供 され 、生活上の課題の解決が
図 られ る ことも期 待 されている。
東洋経済新報社「東洋経済」
ブ ロ ックチェ ーンが 使われて いる仮想通貨 は、1直 上が り益狙 いの資産 として保有
され る ことが 多 く、2016年 には大規模な八 ッキ ング事件な どもあつた。ただ、実
際 に通 貨 として利用 される機会 は、少 しず つ広がつてお り、時イ
面総額も拡大 して
いる。 ビッ トコイ ンを使 つた取引が いつの 日か既存通貨を脅かす存在 となるかも
しれ ない。
この ようにブロックチ ェーンは、政府の行政サ ー ビスを便利 にした り、新 しい ビ
ジネス を次 々と誕生 させ、金融サー ビスを効率的にするだろう。 ビジネスの連携
を通 した産業構造の変化 、政府や企業の生産性向上を通 して、経済社会を大き く
発展 ・ 変化 させ うる技術 といえる。
大 量 取 引 へ の 対 応 や 参 加者 の合 意 形成 で 課題
ただ し、ブロックチ 五―ンは、潜在的可能性 は高いものの、まだ発展途上の技術
だ。現段階では、大量の取引に対応できない、スマー トコン トラク トに書き込ん
で いな い想定外 の事態 へ の対応が難 しい、参加者の合意形成の方法 にさまざまな
解決 すべ き課題がある、な どまだまだ多 くの課題がある。石
舜究開発 を繰 り返 し、
課題 を克服 しなが ら、社会 に実装 していかな ければならない。
今後 、ブロックチェーン技術の発展 とその応用 に必要 とされ るのは、官民 による
研究 F汗写発や実装 に向 けた実証実験の積み重ねだろう。官民 ともに新 しいサービス
に対 する利用者の信頼 を得なが ら進める必要がある。医本政府 も自らが導入検討
の実践者 となる と同時 に、民間企業のイノベ ーションを積極的 に支援 するべ き
だ。 一 方 、企業 は積極 的に他社 と連携 したオープン Cイ ノペ ーシ ョンに取 り組
み 、システムの標準化 に対応 してもらいたい。
技術進歩の流れ は速 く、ブロックチェーン 。ネ ッ トワー クが参力隠者間で縦横 につ
なが り、グ 圧l― バル に急速 に広がるかも しれない。潜在的な可能性 を考えて、企
業 は経 営戦略を検討 し、技術力を磨 いて、 ビジネスモデルの改革 につなげなけれ
ばな らない。
なお 、ブロックチェーンの仕組みや取組事例を詳 しく矢日りたい方 は、NIRA(総
合研 究開発機構 )の リポ ー ト「 プ ロックチェー ンは社会を どう変えるか」を参照
して頂 きたい。
東洋経済新報社「東洋経済」