第4回 ワインを上手に買いましょう

アカデミー・デュ・ヴァン
ワインABCコース
第4回 ワインを上手に買いましょう
ワインの価格と自分の好み
選ぶ・集める楽しみ
知っておきましょう。
ワインを買うのは楽しいものです。
一度飲んで美味しかったワイン、飲
んだことはないけれど興味を引かれ
るワイン、話題のワイン、希少なワイ
ン……開けたあとの楽しい時間を想
像しながら、人はワインを買います。
買ったものをすぐに開けてしまうこと
もあれば、何か月・何年と手元に置
いておくこともあるでしょう。選ぶ楽
しみ、集める楽しみがワインにはあ
り、その点を深く追求する人はワイ
ン・コレクターと呼ばれます。
ワインには、一本数百円という安
価なものから、100万円を超えるも
のまで極めて幅広い価格がついて
います。ワインもほかの消費財と同
じく、以下二つの要素の掛け合わ
せによって市場での価格が決まりま
す。
コレクターを目指すかどうかはとも
かく、せっかく買い物をするのであ
れば、できるだけ満足のいくワイン
を手にしたいものです。このレッスン
では、ワインの買い物上手になるた
めのヒントをお伝えしていきますが、
まずはワインの値段はどのようにし
て決まるのかを、背景知識として
今日まなぶこと
●
ワインを店で購入
するコツ、気をつけ
るポイントを知る。
●
家庭でのワインの
保管方法、飲み残
しのワインの保存
方法を知る。
製造原価
多くの人が美味しい、あるいは高
品質だと思うワインを造ろうとした場
合、普通よりも製造原価が高くつき
ます。まず、原料となるブドウの価
格。高級ワインがもつ凝縮した味わ
いを出そうとすると、単位面積あたり
のブドウの生産量を抑えることが必
要になり、結果として原料費が高く
なります。また、ブドウ栽培に関して
も、高級ワイン用のブドウは安価品
と比べて多くの手間がかけられて
ワイン評論家の得点
ワインを点数で評価する
評論家が、今日世界中
で人気を博しています。
その中で 最も有力なの
が、100点法の採点で知
られるアメリカ人、ロバー
ト・パーカ ーで す。パ ー
カーは「市場を動かす」
ほどの影響力を持つ人
物で、彼が高得点をつけ
たワインはたちどころに
値 段 が 上 昇 し ま す。ロ
バート・パーカーは鋭い
鑑定眼をもつ有能な評
論家ですが、彼にも個人
的な好き嫌いがあること
を忘れてはなりません。
一般にパーカーは、濃厚
でドラマチックなワインに
高い得点を与える傾向
があります。
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第4回
ワインを上手に買いましょう
買い物のヒント(つづき)
危険なワイン
ディスカウンターやスーパーでワイ
ンを購入するとき、以下のような状
態のワインは避けましょう。品質劣
化が生じている可能性があります。
①店頭で直射日光を浴びている/
夏場に屋外に置かれている
ワインは強い紫外線を長時間浴
びていると劣化します。また、ワイン
は、気温が30度以上の場所に長時
間置かれていても、やはり劣化しま
す。直射日光のあたるところに置か
れているワイン、夏場に屋外で陳列
されているワインは避けましょう。
②コルクが盛り上がっている/
キャップシールのエンボスが潰れ
ている/液漏れしている
たとえ空調のきいた室内に陳列さ
れていても、コルクが瓶口から盛り
上がっているものは避けましょう。流
通段階のどこかで高温にさらされた
証拠です(中身のワインが高温で膨
張してコルクを持ち上げる)。悪質な
業者は、この盛り上がったコルクを
木槌などで叩いて再び瓶口に押し
込むのですが、その際にはキャップ
シールのエンボスが潰れます。中身
のワインが噴き出し、瓶やラベルを
汚しているのも、高温が原因です。
③中身の減りが激しい古酒
ワインはコルク栓で密封されてい
ても、何十年と瓶で熟成させるうち
に中身が少しずつ蒸発していきま
す。10年以上の熟成を経てきたワイ
ンは、その年数に応じて目減りして
いるのが普通です。この目減りの量
が通常よりも大幅に多い場合、保管
状況やコルク栓そのものに問題が
あったと推定されます。「安全圏」の
目安は、10年につき1センチ(1年1
ミリ)程度の減り方です。
ネットショップを使う
インターネット上には多数のワイン
ショップがあり、競争が激しいため
に、価格的には街のワインショップ
よりも安い値段で購入が可能です。
送料が別途かかったとしても、実店
舗までの交通費や移動時間を考え
ると、ネットショップのほうがふつうは
経済的です(重いワインを持って移
動する必要もありません)。
欲しい銘柄を、日本中の店から一
瞬で探し出せることも、ネット購入の
大きなメリットです。ワインは極端に
多品種少ロットのお酒であるため、
莫大な品揃えを誇るワインショップ
であっても、市場に流通しているア
イテム全体のわずかな部分しか
扱っていません。よって、「雑誌や
テレビで見た」銘柄を探してワイン
ショップに足を運んでも、お目当て
のものがそこに売られている可能性
は少ないのです。しかし、インター
ネットを使えば、瞬時に最安値の店
まで探し当てることができます。
一方、ネットショップの最大のデメ
リットは、「店員さんに相談しながら
品選びをする」楽しみがないこと。こ
の点を克服するために、各ネット
ショップはメールマガジンで顧客に
お勧めワインの情報を送っていま
す。ネットショップのもうひとつのデ
メリットは、現物をその場で確かめら
れないこと。良心的な店ではまず発
生しませんが、コルクの盛り上がっ
た瓶が送られてくるようなこともない
わけではありません。
なお、ネットショップから夏場に配
送を受ける際は、クール便の指定
をするのをお忘れなく。
おかしなワインは返品
できるか?
時折、栓を抜いたワイン
の味がおかしいことがあ
りま す。保管・流通環境
に問題があった場合、コ
ルク栓のトラブル、醸造
段階の問題など、原因は
さまざまですが、飲むに
耐 え な い 味だ と 感じ た
ら、そのまま再度栓をし
て買った店に持っていっ
てみましょう。品質評価の
できる店員さんがいる専
門店なら、たいてい交換
してくれます。ただし、そ
れがそのワインの元々の
味で、単にあなたの好み
に合わなかっただけだと
店員さん が判定した場
合は別です。
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第4回
ワインを上手に買いましょう
飲み残しのワインをどうするか?
栓を開けたワインは味が変わる
ワインは、空気(酸素)に触れると
味が少しずつ変わっていきます。こ
れを「酸化」といい、ワインの栓を一
度開けた瞬間から酸化のプロセス
は進行します。酸化が進むと、ワイ
ンからは果実味が失われ、平板で
酸味の目立つバランスの悪い味わ
いに変わっていきます。濃厚で若い
赤ワインや白ワインの場合、この酸
化によって逆に味がまろやかに、飲
みやすくなることもあるのですが、そ
れも一定期間内のこと。ある時期を
すぎると、やはり味わいは落ちてい
きます。
よって、一度栓を開けたワインは、
できるだけその日のうちに飲みきっ
てしまったほうがよいのです。しか
し、現実には常にそうもいきません。
そこで、飲み残しのワインについ
て、できるだけ味を落とさないように
保管する方法を、いくつかご紹介し
ましょう。
という器具も販売されています(「プ
ライベート・プリザーブ」など)。窒素
は空気よりも重いので、ワインの液
面を覆ってくれるのですが、酸素の
ようにワインの味わいを変えることが
ありません。上記の真空ポンプと同
程度の効果があります。
③ビー玉作戦
ビー玉を使って瓶内から空気を
追い出す原始的方法です。清潔な
ビー玉を多数用意し、飲み残しの
ワインが入った瓶に入れていきま
す。だんだん液面が上昇し、瓶口
近くまできたらコルクで栓をします。
酸化を完全に食い止
める装置
ワインバーやレストランな
どで使われる業務用ワイ
ンセーバーの中には、左
記②と同じ窒素ガスを使
い、ワインの酸化を完全
に食い止めるものもあり
ます。ワインの抜栓およ
びグラスへのサービスま
での一連の動作が、窒素
ガスを充満さ せた空間
の中で行なわれるため、
ワインは一度も酸素と触
れることがないのです。
バーやレストランで、高品
質のグラスワインを提供
するために活用されてい
ます。
④小瓶移し変え作戦
375ml(ハーフボトル)や、180~
250ml程度の小瓶をあらかじめ用意
しておき、ワインを抜いたらすぐに
移し変えてきつく栓をします。移し
変えの際に多少酸素には触れます
が、かなり効果的です。
①真空ポンプ器具を使う
ゴムやプラスチックの特殊栓と、小
型の手動ポンプがセットになった器
具が、ワインショップなどで各種売ら
れています(「バキュバン」など)。ポ
ンプを使って瓶内の空気を外に吸
い出し、瓶内の空隙を真空にするこ
とによって、酸化を防ぐという仕組み
です。酸化による風味変化の速度
はゆるやかになりますが、完全にプ
ロセスを止めることはできません(栓
を開け、グラスに注ぐときに、かなり
の量の酸素がワインに混ざってしま
うからです)。
⑤気にしない
酸化による変化も「味のうち」と考
え、気にせず飲んだってかまいま
せん。多少味が落ちても、体に悪
いわけではありませんから。ただ
し、その場合でもワインはコルク栓
をして冷蔵庫には入れておきましょ
う。低温で保管すると、酸化の進行
速度がゆるやかになります。
②窒素ガスのボンベを使う
小型のボンベから瓶内の空隙に
窒素を注入し、ワインの酸化を防ぐ
ボトル内の空気を吸い出す
ポンプと専用栓
(写真提供:日本クリエイティブ㈱)