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現代ファイナンス論講義ノート No.12
オプション取引
蛭川雅之
2017 年 1 月 7 日
現代ファイナンス論講義ノート No.12
担当:蛭川雅之
1 オプション
1.1 オプションおよびその基本用語
定義 1 オプション (Option) とは、予め定められた期間内に予め定められ
た価格で特定の資産を売るもしくは買う権利を取引の買い手側に付与する
ような取引をいう。
•「予め定められた価格」を権利行使価格 (Strike Price, Exercise
Price) という。
•「特定の資産」を原資産 (Underlying Asset) という。
•「買う権利」をコール (Call)、「売る権利」をプット (Put) という。
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•「予め定められた期間」に関し、以下のような区別がある。
– 買い手が満期日にのみ権利を行使できるオプションをヨーロピ
アン・オプション (European Option) という。
– 買い手が満期日以前にいつでも権利を行使できるオプション
をアメリカン・オプション (American Option) という。
• オプションを購入する際に支払う価格をオプション・プレミアム
(Option Premium) という。
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1.2 コール・オプションとプット・オプション
• オプション取引には次のような 4 種類の基本投資パターンがある。
1. コール・オプションの買い = 「買う権利」の購入
2. コール・オプションの売り = 「買う権利」の売却
3. プット・オプションの買い = 「売る権利」の購入
4. プット・オプションの売り = 「売る権利」の売却
• 原資産価格、権利行使価格、およびオプションの損益の関係はペイ
オフ・ダイアグラム (Payoff Diagram) で示される。
– 4 種類の基本投資パターンそれぞれについて、満期日のペイオ
フ・ダイアグラムを図示する。
– 原資産価格を S 、権利行使価格を X と表記する。
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1.3 オプションの価値
• オプションの価値は本源的価値 (Intrinsic Value) と時間価値 (Time
Value) の和である。
• 時間価値とは、満期日までの原資産価格の不確実性に対する価値を
さす。
• 本源的価値とは、現時点で権利を行使して得られる価値をさす。
– (本源的価値) > 0 ⇔ 権利行使すれば利益が得られる状態 · · ·
イン・ザ・マネー (In The Money, ITM)
– (本源的価値) = 0 ⇔ (原資産価格) = (権利行使価格) · · · アッ
ト・ザ・マネー (At The Money, ATM)
– (本源的価値) < 0 ⇔ 権利行使すれば損失が生じる状態 · · · ア
ウト・オブ・ザ・マネー (Out of The Money, OTM)
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• 原資産価格を S 、権利行使価格を X と表記すると、コール・オプ
ションおよびプット・オプションの本源的価値は以下のように整理
される。
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ITM
ATM
OTM
コール
S>X
S=X
S<X
プット
S<X
S=X
S>X
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■コール・オプションの価値
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■プット・オプションの価値
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1.4 プット・コール・パリティ
• 満期日が同一の 2 種類のポートフォリオを考える。
(A) 「権利行使価格 X のコール・オプション 1 単位」+「額面金
額 X の割引債 1 単位」
(B) 「権利行使価格 X のプット・オプション 1 単位」+「株式 1
単位」
• ポートフォリオ (A) の満期日におけるペイオフ・ダイアグラムは以
下のようになる。
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• 一方、ポートフォリオ (B) の満期日におけるペイオフ・ダイアグラ
ムは以下のようになる。
• これら 2 種類のポートフォリオの満期日におけるペイオフ・ダイア
グラムは一致する。
– 裁定取引の議論から、2 種類のポートフォリオのコストも同一
となる。
• 従って、プット・コール・パリティ (Put-Call Parity) と呼ばれる
次のような関係式が成り立つ。
(コールの価格)+(権利行使価格の現在価値) = (プットの価格)+(株価)
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2 オプション価格の計算
2.1 二項モデル
• 二項モデル (Binomial Model) では、1 期後の原資産価格(例:株
価)のシナリオを二通り考える。
– 株価 S が 1 期後に確率 π で Su に上昇するか、確率 (1 − π) で
Sd に下落するかのいずれかであるとする。
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• 以下のような手順で、権利行使価格を X とするコール・オプショ
ンの価格 C を決定する。
1. リスク中立経済の仮定の下で、この株式の期待収益率がリスク
フリー・レート rf と等価になるような確率(リスク中立確率、
Risk-Neutral Probability)π を求める。
(
)
(
) {
}
Su
Sd
πu + (1 − π) d
S=π
+ (1 − π)
=
S
1 + rf
1 + rf
1 + rf
u−d
.
⇒π=
1 + rf − d
2. この π を利用して、コール・オプションの価格
(
)
(
) {
}
Cu
Cd
πCu + (1 − π) Cd
C=π
+(1 − π)
=
1 + rf
1 + rf
1 + rf
を得る。
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問題 2 ある企業の現在の株価は$100 であり、1 年後にこの株価は$130 に
上昇するか、または$90 に下落するかのいずれかであるとする。リスクフ
リー・レートが年 6% であるとき、この企業の株式に対する期間 1 年、権
利行使価格$110 のヨーロピアン・コール・オプションの価格を求めよ。
解法 3 まずリスク中立確率を求めると、
(100) (1.06) = π (130) + (1 − π) (90) ⇒ π = 0.4
となり、下図を利用して、ヨーロピアン・コール・オプションの価格
C=
を得る。
(0.4) (20) + (0.6) (0)
≈ $7.55
1.06
¥
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2.2 ブラック=ショールズ・モデル
• 対象となる期間が 2 期を超える場合、二項モデルを当てはめるのは
面倒である。
• このような場合、ブラック=ショールズ・モデルを利用してオプ
ション価格を計算するほうが便利である。
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■ブラック=ショールズ・モデルの仮定
1. 株式の配当はゼロである。
2. 税金・取引費用は存在しない。
3. 株価の変化は幾何ブラウン運動に従う(⇒ 一定期間後の株価は対
数正規分布に従う)。
4. 株価収益率の分散は時間の経過とともに変動しない。
5. 証券市場は完全であり、無リスクの裁定機会は存在しない。
6. 株式の売買は連続的に行われる。
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■裁定機会とは. . .
定義 4 現時点における非正の投資が将来非負の収益をもたらし、かつ正
の収益をもたらす状態が少なくとも一つ存在するような投資機会を第 1 種
の裁定機会 (arbitrage opportunity of the first type) とよぶ。
• 元手なしの状態から将来収益を得られる可能性が存在するような投
資機会を指す。
定義 5 現時点における負の投資が将来非負の収益をもたらすような投資
機会を第 2 種の裁定機会 (arbitrage opportunity of the second type) と
よぶ。
• 元手なしの状態から現時点で収益を得られるような投資機会を
指す。
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■ヨーロピアン・オプションの理論価格
• ヨーロピアン・コール・オプションの理論価格の計算式を表現する
ため、以下の表記を用いる。
– C :ヨーロピアン・コール・オプションの価格
– S :現在の株価
– X :権利行使価格
– T :満期までの期間(年)
– r:リスクフリー・レート(年率)
– σ :株価収益率のボラティリティ(= 標準偏差、年率)
– N (x):標準正規分布の累積分布関数
∫ x
1 − z2
√ e 2 dz
N (x) =
2π
−∞
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• ヨーロピアン・コール・オプションの理論価格は以下のようになる。
C = SN (d1 ) − Xe−rT N (d2 )
(
)
2
ln (S/X) + r + σ /2 T
√
d1 =
σ T
(
)
2
√
ln (S/X) + r − σ /2 T
√
d2 = d1 − σ T =
σ T
• N (d1 ) および N (d2 ) はオプションが満期日に ITM になる確率を
示す。
– なぜ 2 通りの確率が必要か?
– 株式は満期までの期間内に自由に変動するのに対し、権利行使
価格は不変である。
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• 権利行使価格および満期日が同一のヨーロピアン・プット・オプ
ションの理論価格 P はどのように計算されるか?
– 連続時間バージョンのプット・コール・パリティ
C + Xe−rT = P + S
を P について解き、標準正規分布の対称性を利用すると
P = −SN (−d1 ) + Xe−rT N (−d2 )
が得られる。
問題 6 ある企業の現在の株価が$100、株価収益率のボラティリティが年
率 20% であるとする。リスクフリー・レートが年 6% であるとき、この企
業の株式に対する期間 1 年、権利行使価格$110 のヨーロピアン・コール・
オプションおよびヨーロピアン・プット・オプションの価格を求めよ。
解法 7 エクセル・ファイル“ln12.xls”内のシート“BS”を参照せよ。
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■オプション価格の変化
変動要因
コール価格 C
プット価格 P
原資産価格 S ↑ (↓)
↑ (↓)
↓ (↑)
権利行使価格 X ↑ (↓)
↓ (↑)
↑ (↓)
リスクフリー・レート r ↑ (↓)
↑ (↓)
↓ (↑)
満期日までの期間 T ↑ (↓)
↑ (↓)
↑ (↓)
ボラティリティ σ ↑ (↓)
↑ (↓)
↑ (↓)
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2.3 ボラティリティ
• ボラティリティを計算する方法は 2 通りある。
1. ヒストリカル・ボラティリティ (Historical Volatility)
2. インプライド・ボラティリティ (Implied Volatility)
• ヒストリカル・ボラティリティは過去の株価実績値から計算する。
– 年次株価収益率の標準偏差を用いるのでなく、日次・週次・月
次収益率の標準偏差を以下のように年率換算する。
(ボラティリティ:年次) =
(ボラティリティ:年次) =
(ボラティリティ:年次) =
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√
√
√
252 (ボラティリティ:日次)
52 (ボラティリティ:週次)
12 (ボラティリティ:月次)
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• インプライド・ボラティリティは、ブラック=ショールズ・モデル
に市場価格を代入し、ボラティリティを逆算して求められる。
– 仮定と異なり、ボラティリティは満期まで一定ではない。
– インプライド・ボラティリティは以下の目的で使用される。
1. 取引量の多いオプションからインプライド・ボラティリ
ティを求め、この数値をもとに取引量の少ないオプション
の理論価格を算出する。
2. インプライド・ボラティリティをヒストリカル・ボラティ
リティと比較し、トレーディングに使用する。
問題 8 問題 4 で求めたヨーロピアン・コール・オプションの市場価格が
$7.55 であるとする。他の条件を同一として、インプライド・ボラティリ
ティを求めよ。
解法 9 エクセル・ファイル“ln12.xls”内のシート“IV”を参照せよ。
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