AI名『sai』?? あかぶち ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP DF化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ お正月、ネットにMasterが登場したと聞いて。 ヒカルの逆行。佐為の軌跡とか記録をどこまでも残したいと思っ ているヒカルはネット碁でひたすら打ち始める事に。 しかし、その考えがどこか明後日の方向へと向かってしまった。 AI名﹃sai﹄ 1 目 次 │││││││││││││││││││ ?? AI名﹃sai﹄ ﹂ しかし、この箱があればずーっと対局が出来 ﹁さてと、いよいよだな。佐為 ﹃そうですね、ヒカル るのは本当なのですか ﹄ に大きなデスクトップパソコンにへばりつくと頬 の表情を見せていたことは覚えている。しかし、その間も佐為を独占 てきたので、正直にパソコンが欲しいと答えた。顔を見合わせて困惑 誕生日まで、同じくお金をねだった事で両親は流石に心配して聞い める。 小遣いをねだり続けた。他にも小さなお手伝いもしてコツコツと貯 ヒカルには確信があった。小遣いは全て貯金。テストのご褒美もお て欲しい。そうすれば自然と無敗な佐為について話題になる。そう まず、第一に佐為は突如現れる。第二に既に最強レベルにあってい 後の計画を立てたのだ。 そう考えたヒカルの行動に迷いはなかった。佐為と出会いのその のだから。 間違いない。それは囲碁界に大きな波を巻き起こすと断言出来る わる誰しもが佐為のことを口にする位まで。 それは鮮明に、どこまでもインパクトのあるものにしたい。碁に関 だた、唯一考えていたこと、それは│││佐為の軌跡を残すこと。 覚えてない有様で必死で思い出そうとしていたこともある。 果たして自分がどこまで生きてから、佐為を失ってしまったのかも 大きな途方もない喪失感だ。 取り戻すとその頃まで巻き戻っていた。覚えているのは自分の碁と、 忘れもしない、佐為と初めて出会った小学校の自分。ふと、意識を た。 ずりをしている。それを苦笑いをしながらヒカルは過去を思い返し 佐為は無邪気 ! ?? ? ﹃素晴らしい箱ですぅぅうう﹄ ﹁あぁ、本当だぜ﹂ ! 出来るのは今だけだとばかりにヒカルと佐為は打ちまくった。 1 ? 現代の打ち方を説明しながら、徐々に吸収していく佐為を見て、ヒ カルは嬉しくてどこまでも対局が楽しい。時には図書館の棋譜や、新 聞で他の人物の対局の勉強をし、只管互いの腕を磨き続けた。 夢中になりすぎて、つい時間を忘れることも多い。やがて、流石に 息子がおかしすぎるとばかりに比較的放任だった親も心配してくれ た様だ。父はすっきりとした顔で、母はどこか呆れた顔をしながらパ ソコンをプレゼントしてくれた。 熱 心 さ に 負 け た。こ れ か ら は 程 々 に し な さ い と い う こ と ら し い。 喜色を一杯浮かべながらヒカルは頷いた。 そうして、準備をコツコツと続け決行の日がやってくる。夏休みの 8月13日だ。夏休みだから、好きなだけ打てるし、丁度両親が用事 よみがえ があると出かけている。これから4日間休憩を挟みつつ、ネット碁だ ふじわらのさい 日本のお盆│││この日、確かに藤原佐為が蘇るのだから。 ﹂ パソコンの横にペットボトルの水を用意すると、未だに頬ずりして 嬉しそうにしている佐為に声をかける。 ﹄ ﹁うし、じゃあ始めるけど、準備は大丈夫か ﹃はい ? 為が強すぎて、対局相手がまるで全員弱いかの様に錯覚してしまうの は語弊がある。決して対局相手が弱い訳ではないのだ。余りにも佐 ごへい それは単に見ている側としては確かに〝簡単に″なのだが、正確に のだ。 i﹄というハンドルネームの棋士がいとも簡単に勝利をさらっていく かし、それが続くと話はどんどん変わってくる。突如、現れた﹃sa は良かったのだ。単純に強い奴に負けたというだけだったから。し saiが誕生した日、8月13日││ネット碁は荒れた。否、最初 ◇◆◆◇ チを押したのだった。 力強く頷いた佐為を確認すると、ヒカルはパソコンの電源のスイッ ! 2 ! だった。 saiは着実に勝利だけを重ねていく。最初は誰もいなかった観 戦者だったが、勝てば勝つだけその分対局を見る人も増えていくの だった。 特に大きかったのが、偶然にも2日目に対局になった中国のトップ プロがsaiに破れたという事件だ。そのプロは自分が負けたにも ︵この人は誰ですか ︶﹂というタイトルで。 関わらず、その対局をネットのブログにアップをしたのだ。﹁這是誰 的人 どうし これには誰しもがパソコンの画面で大口を開け、頭を盛大に抱え り始めている⋮⋮のだが、全く勝利の勢いが衰えをみせなかった。 していたsaiだが、その中にプロが混じり始める。間違いなく混じ 参戦したいと動きが始まったのだ。アマチュアの人とも多く対局を やがて、今度は韓国のプロやトッププロまで名前が届き、こぞって い。 本では軽いニュースになっている。しかし、勢いはここで留まらな くる。知名度がネット碁の枠を越えようとしていた。この時点で、日 た。そして、その流れに乗るように他にも対局をアップする人も出て そこで爆発的に観戦者が跳ね上がったといっても過言ではなかっ ? ﹂しかし、疑問が幾ら加速しても勝利は終わりが一向に見えな た。頭を掻きむしり、口から泡を飛ばしながら叫ぶ﹁なぜ て ? 逆に打ち破った打ち手の棋力を吸収したのか、より強くなったとす ら感じるのだ。 と。 そして、世界中がこの疑問に到達するのだ﹃sai﹄は一体誰なん だ 打ち筋に迷いがなく、ずっとログインをしている。会話はしない。 対局はランダムである。国籍は日本だ。そして最も大きい要因とし ささや てsaiに該当しそうな棋士が存在しない。 どくせんじょう そして、いつしかネットで囁かれるのだ。│││﹃sai﹄はAI なのではないか、と。 saiは結局、4日間ネット碁を己の独 擅 場にしながらプツリと 3 ? かった。 ? ?! 消息を絶ってしまった。それが益々、AI説を加速させたのだ。テス トとして一時的に運用したのではという考えが大半を占めた。 しかし、勿論saiは日本のトッププロの誰かなのではないかとい う考えも持つ人物達が居る。互の考えは違えど、saiの正体を知り たいという意見は一致している。そして、思う。日本に行けば何か分 かるのではないのか 先の日程に日本棋院が主催の国際アマカップが控えていた。 ◇◆◆◇ 日本棋院。ここでは夏休みから、一向にとある問い合わせが絶えな も さ ﹂ かった。というより寧ろ、爆発的に増えていっているといっても過言 ﹂ !! ではなく、連日対応に追われていた。 ﹁ですから、プロ棋士でsaiという者はおりません それは我々だって知りたいですよ ﹁日本棋院はsaiを隠したりなんかしてないです﹂ ﹁正体 ! い。受話器を取ると聴こえてくるのが英語なせいで、目を白黒させた 事務員も居た。周囲を見渡せば、受話器を握りながらお決まりの対応 をしつつも、皆ぐったりと息絶え絶えの様だ。 ここに居ない者達は、日本棋院の入場制限をしている。警備員を増 やしているものの、ニュースを見たりして知った一般人達や、一連の 出来事を知った碁打ち達が好奇心にかられ大量の人が押し寄せて来 ているのだ。 ﹁どうしたんだね。どうやら皆、疲れきっている様子だが⋮⋮﹂ ﹄ たたず その瞬間、グダっていた日本棋院の面々が飛び起きた。 ﹃塔矢名人 ? わいに疑問を持ち、訪ねて来たらしい。 ﹁お弟子さん達とかから何か聞いていませんか ﹂ なく一連の事態が耳に入らなかった。ところが、日本棋院の思わぬ賑 にぎ そこには和服姿の塔矢行洋が佇んでいた。行洋はどうやら機会が !? 4 ? 中には海外からわざわざ、国際電話までかけてくる猛者もいるらし ? ﹁ふむ⋮⋮そういえば、緒方君がネットで強い者が居ると言っていた な﹂ 行洋としては、よしんば身を隠す理由があったとしても、胡散臭い やからであることにかわりはないと考えていた。そんな時、横から声 が掛けられた。 ﹂ ﹁ふぉっ。ふぉっ。名人はsaiと対局はしとらんかったのか﹂ ﹁ ﹂ やって来たのは桑原仁だった。驚ろく行洋には構わず、言葉を続け る。他の職員達は思わぬ展開に固まっていた。 ﹁ヤツは強いぞ﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮驚きました、そのご年齢でネット碁を ﹁まぁの。若い者には負けておれんのでな⋮⋮と言いたい所じゃが、 桑原はピクリと眉を上げた。 桑 原 の 迫 力 に も 行 洋 は 怯 ま な か っ た。興 味 を 持 っ た 様 子 も な い。 ? 偶然会った真柴の小僧に操作は丸投げじゃよ。それよりもじゃ、賭け ﹂ てみるかね ? ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ? ! だ。 ﹁saiの話ですか saiは絶対AIなんかじゃないっスよ 色になったのだ。そんな中、話題に食いついた人物が居た。和谷義高 士、島野にsaiかどうかを尋ねたのをきっかけに、話題がsai一 国際アマカップ会場。会場は今、混乱の最中にあった。日本人の棋 ◇◆◆◇ たのたった。 そう桑原は告げると、持っていた棋譜の束を塔矢行洋へと差し出し ﹁saiの正体はAIか果たして人間か⋮興味はないかね ﹂ ﹁次にsaiが現れおったら、どちらが奴に黒星を付けるか、じゃよ﹂ ﹂ ﹁何をです ? だって│⋮﹂ !? 5 ! うなが とまど 勢いよく持論を展開する和谷に森下九段が落ち着けと促す。それ から、じゃあ逆にどんな奴だって思うんだと問えば、逆に戸惑いを見 正に秀策だった ﹂ ええっと、その⋮⋮それは、確かにずっとログインしてて、ス せた。 ﹁え ゲー強いけど⋮⋮手筋が秀策。そう ﹁バカ言ってんじゃねぇ ﹂ よみがえ ね。なにせ、お盆の期間しか出て来なかったし﹂ つーか、AIってよりかは、ホントに亡霊が蘇 ったんじゃないっスか よみがえ ﹁マ ジ で 無 駄 に 強 い ん ス よ。秀 作 が 蘇 っ た ら 正 に そ ん な カ ン ジ。 しないとばかりに和谷は続けた。 発言にその場に居た皆が顔を合わせる。そんな周囲はまるで気に !! だ。 ﹁どうかしたんですか ﹂ そんな時だ、声が掛けられた。不思議そうな顔をした塔矢アキラ 信じてない様子だ。 痛てぇええと頭を抱える和谷とは対照的に森下は鼻息が荒い。全く マ ジ 顔 で 言 っ た 和 谷 に 対 し て 頭 に 森 下 は ゲ ン コ ツ を 食 ら わ せ た。 !! ﹂ ﹁アキラくんはパソコンを持っていたとか、ネット碁をやったことは ? 一度だけ聞いた事が⋮⋮と和谷の顔を見ただけで、余り気にした様子 だからスゲーんですってば。一回でも見たら分かり がない。それに異議がある人物がいた。和谷だ。 ﹁だ││││ ﹂ !! きをみせている。 ? 和谷が周囲を見渡しながら声をかけると、職員が走って持ってきて ﹁誰かインターネットが出来るノートパソコンはないんスか ﹂ 力にアキラが呆気に取られた。緒方はサラリとその中に混じって頷 外国人達から頷きや肯定が返ってきた。その余りの多さと真剣な迫 地団駄を踏みながら指摘をすれば、周囲で日本語を翻訳して聞いた いるんスよね。でもって、正体を知りたくて来たんスよ ますって。だって、ここに来ている人の殆どがsaiの実力を知って ! 6 ! !? ネットに強い人物が居るということを緒方がアキラに伝えていく。 ? も いた。そこから、saiが降臨したサイトを検索しながら必死で小声 で口走る。 ﹂ ﹁4日だけなんて、そんなふざけたことあってたまるかよ⋮⋮ うAIでも、幽霊だっていい、出てきれくれよ⋮⋮ ! ﹁居た saiだ ﹂ ん作業を進めていく和谷の顔が急に明るくなった。 祈る気持ちでサイトへ接続をした。マウスをクリックしてどんど ! い。もしくは、﹃sai﹄は﹃秀策の亡霊﹄かもしれない。 ﹃sai﹄は﹃AI﹄かもしれない。﹃sai﹄は﹃人間﹄かもしれな までもない。 aiを追うものとしてギラギラとした眼差しになっていたのは言う 局が終わった頃には、アキラは、すっかりキラキラとした目から、s た。ゴクリと唾を飲み込むと同時に、食い入る様に凝視する。その対 ぎょうし きつつもパソコンに近づく。その中には、碁の新世界が広がってい その瞬間、周囲の人間たちが一斉に押し寄せた。アキラも緒方も驚 !! 更に疑惑を増やしたまま、saiは再びネット碁に降臨をしたの だった。 7 !
© Copyright 2024 ExpyDoc