日本版スペースシャトル実現に向けた軽量耐熱タイルの開発

"1990年頃から10年くらい、金属の代わりにセラ
ミックを使おうとする動きがあった。セラミックを
自動車エンジンやジェットタービンに使うための研
究が日々、行われた。それは「第2の石器時代が
やってきた」と言われたほどであった。 "
日本版スペースシャトル実現に向けた軽量耐熱タイルの開発 株式会社ノリタケカンパニーリミテド
"金属とセラミックの大きな違いは、セラミックの破
壊靭性が低いこと、つまり割れやすいことであっ
た。破壊靭性を高くするための方法は1つ。セラ
ミックに違う材料を入れることであった。違う材料
には、粒子、ウィスカー(短繊維、線状の単結
晶)、長繊維の3つしかない。このなかで比較的、
靭性があるのが繊維である。ノリタケカンパニーリ
ミテドでは、この繊維に着目してセラミックの強靭
化に向けた研究を行っていた。強靱化に使える繊維
は、カーボンファイバー、炭化ケイ素、窒化ケイ素
といった無機繊維である。1989年、これらの繊維
をセラミックスに入れたセラミック複合材の開発が
はじまった。この成果は、1990年にスタートした
100kwガスタービン開発プロジェクトで使われた。
"
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日本版宇宙往還機であるHOPE-X、いわゆる日本版
スペースシャトルの構想ができた頃、セラミック業
界で繊維を使ってセラミックの強靱化を行っていた
のはノリタケカンパニーリミテド1社であった。
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"1992年、当時の開発本部グループリーダーであっ
た岩田美佐男は、HOPE-Xの打ち上げに向けて、繊
維だけを使った非常に軽いセラミックタイルができ
ないかと依頼を受けた。宇宙分野の材料・金属材料
やエンジンは国の発展を導く戦略物質であり、技術
を簡単に外国には出さないものである。そのため、
この耐熱タイルは、日本で開発しなければならな
い。そうでなければ日本の宇宙開発が進展しないほ
ど、重要な戦略物資であり、その品質が世界一で
あっても、海外に製品として輸出されることはな
い。 "
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"セラミックはパウダーを原料に使うが、耐熱タイル
は粒子ではなく、繊維である。耐熱タイルはかさ密
度が1立方センチあたり「0.1」という軽さを実現し
ており、現在は世界で最も軽いセラミックである。
コルク材と比べれば1/5の密度である。あまりにも
軽いため、発砲スチロールのように感じられるほど
である。 "
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"購入が決まっている商品であるため、密度や熱伝
導、耐熱性だけでなく、50~60の研究項目すべてを
クリアしなければならなかった。フランスでもエル
メス計画といって、フランス版のスペースシャトル
を打ち上げる計画があった。そこで日本の宇宙開発
事業団(NASDA)は、開発したタイルをフランスの
アエロスパシャル社に持っていき、耐熱製品を評価
する風洞実験装置でテスト。耐熱性の目標として与
えられていた1,250度をクリアしたことを確認した。
"
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"宇宙から地球に戻るとき、大気圏を通過する。大気
圏に突入するときには、高温と振動が発生するた
め、開発したセラミックスだけでは耐えることがで
きない。大気圏突入に耐えるため、表面には吸収し
た熱を電磁波として空気中に放射する耐熱ガラスを
コーティングした。この耐熱ガラスは、1,800度の
バーナーでも溶けることはない。セラミックとコー
ティング材の2つの技術が開発されたことで、軽量
の耐熱タイルが完成した。 "
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この耐熱タイルを実現した要素技術は「成形、乾
燥、焼成」という、3つの要素技術である。日本特
殊陶業、日本ガイシ、東陶機器(TOTO)、INAX
も、これは同じである。成形の前にいろいろなもの
を混ぜるので、それをいかに分散させたり、いかに
凝集させたりするかが、成形を補う要素技術であ
る。何度で焼くか、何度で乾燥させるかは、材料に
よって変わる。焼く時に入れるガスも、酸素、窒
素、アルゴンなど、材料によって変わる。つまり、
大まかに言えば、セラミックスの開発では、どの材
料を使うかによって、選ぶ要素技術が違うことがポ
イントになる。
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成形するというプロセスは、少し大きなブロックを
乾燥し焼いて、かさ密度が0.1プラスマイナス0.01と
いう規格に入っているか確認し、後はすべて機械加
工である。いわゆるニアネットシェイプという、あ
る形に似たようなものをつくるのではなく、大きめ
に作って削り出す。ノリタケカンパニーリミテドで
は、工業用砥石を作っていたため、セラミックスを
削るために、どんなバイトやドリルを使えばいい
か、ある程度の情報を持っていた。いわば、お菓子
の「らくがん」のような素材なので、切ることは簡
単である。しかし、精密に切るのは難しいので、3
軸・5軸のミリングマシン(フライス盤)、多軸
ボール盤で加工する。
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HOPE-Xの構想は、H2Aの計画とともに進んでいる
ため、少し遅れているが、H2Aの計画が動き出せ
ば、無人のシャトルも計画されているため、そこに
使われるものであると考えている。
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"この耐熱タイルからの生まれた技術として「光触
媒」がある。タイルの3次元に絡まる組織に注目
し、脱臭、抗菌などに利用している。 耐熱タイル
をファインセラミックスフェアに出典したときの
キャッチフレーズは「土管から宇宙まで」。今は土
管ではなくセラミックパイプというが、生活に身近
なものから、未来をつくる宇宙分野まで手がけてい
ることを表している。 "
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"同じ頃、アメリカのロッキード社(現、ロッキー
ド・マーチン)が同様の耐熱タイルを作っていた
が、かさ密度が1立方センチあたり「0.2」であっ
た。同じ「0.2」では、宇宙開発に負けてしまうので
「0.1」にして欲しいと依頼された。あまりにも軽い
ため、開発グループのリーダーであった岩田は、す
ぐには答えられなかった。会社に持ち帰り、本当に
できるか試験を行った。 "
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"2~6ミクロンの細かい無機繊維を水のような液体
の中で分散させ、成形と乾燥の後、焼き固めるが、
液体の中で放っておくと、繊維は沈んでしまう。最
初は0.2~0.3が精一杯だった。そんなとき、愛知県
出身の研究員、掘見和広が洗濯の柔軟仕上げ剤のコ
マーシャルを見て、この原理を使えば軽いセラミッ
クスができるのではないかと思いついた。早速、試
してみると、繊維を立体的に絡めることに成功し
た。それでも初めは0.15~0.2にしかならなかった。
"
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"繊維には「分散」と「凝集」という状態がある。凝
集とは、例えば、にがりを入れて豆腐を固めるよう
なものである。セラミックスでは、分散も凝集も、
比較的、簡単に操作できる。柔軟剤を使うと、繊維
が立って絡まりつき、分散の状態ならきれいに立っ
ている。それを成形すると繊維が寝てしまうが、そ
れを立たせたまま成形すれば軽くなる。分散したま
ま固めてしまおうと凝集を行った。セラミックスで
は、にがりを入れる訳ではなく、にがりの役割をす
る薬品を入れるが、凝集のためのこの新たな薬剤が
できたことで目標の「0.1」に近づいた。 "
日本版スペースシャトル実現に向けた軽量耐熱タイルの開発 株式会社ノリタケカンパニーリミテド
"「技術者は解決できない問題があると、新聞を読ん
でも、テレビを見ていても上の空になる」と岩田は
言う。頭の中が開発のことでいっぱいなのだ。自分
をそこまで追い詰めると、パッとアイディアが出る
ことがある。テレビも、新聞も、歩いていてもヒン
トになる。それが掘見の場合、たまたまテレビで
あった。 "
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"岩田に言わせれば「技術者の素質は、自分で自分を
どこまで追い込むことができるかどうか」なのだ。
逃げないで、悩み抜くことである。岩田が若い頃、
ある自動車会社から注文が入ったとき、どうしても
できない製品があった。自動車会社に謝り、締めき
りを延ばしてもらい、そのことを上司に報告した。
上司に「君に時間をやる、どれだけ欲しいか」と問
われて「1年」と言うと、「1年やるから直せ」と
言ってもらった。もう後には退けない。「そういう
上手い追い詰め方が重要だ」と岩田は言う。 "
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