日世株式会社 東松山工場

シリーズ「埼玉県内進出企業に聞く」県内立地の魅力とは ⑨
日世株式会社 東松山工場
『ソフトコミュニケーションで世界を結ぶ、目指すはコーンフェクショナリー』
日世株式会社 東松山工場
東松山に国内生産拠点を集約
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量に対して、将来的な拡張スペースが確保で
きないことから、かねてより新工場建設案が
ソフトクリームの関連資材(コーンカップ、
浮上していた。そうした中、移転計画の背
ソフトクリームミックス、機械類)全てを供
中を押したのが、東名高速道路「(仮称)綾
給できる唯一の総合メーカーとして発展して
瀬スマートインターチェンジ」の建設計画
いる日世株式会社(本社:大阪府茨木市)が、
だ。東京工場の敷地内にインターチェンジ
2015年9月、コーンカップを生産する東松
が通ることで、収用対象となったことから、
山工場を埼玉県東松山市の「東松山葛袋産業
急遽、代替え工場を建設する必要性に迫ら
団地」で操業開始した。新工場は敷地面積が
れた。
3万8655㎡、延床面積が2万4859㎡。鉄
同社は東西それぞれの工場の代替え工場を
骨3階建ての建屋は、製造と物流のエリアに
建設するか、拠点を集約するか、あらゆる部
分かれている。新工場は14年6月に着工し、
門で協議を行った。その結果、従来通りの分
15年5月に竣工。それまでのコーンカップ
散生産よりも、1拠点に集約させることが経
の生産拠点であった東京工場(神奈川県綾瀬
営上、最善策であるという結論に至った。新
市)
、枚方工場(大阪府枚方市)から順次、
工場の責任者である取締役コーン生産部担当
生産設備を移管し17年春の完全稼働を目指
東松山工場長の春田敏孝氏は、
「BCP(事業
しており、年間12億個のコーンの生産が可
継続計画)の観点から言えば、本来なら1工
能になる最大のコーン工場となる。
場を2工場にするという流れが一般的で、お
東松山市への進出は、既存の工場が手狭で
客さんからもそうした要求があった。しか
老朽化が進んだことだ。従来、国内市場向け
し、社内での検討結果、1カ所に集約させる
のコーンカップの生産については、東日本地
ことが最も効率的で、コーンカップ事業の将
区を東京工場、西日本地区を枚方工場が担当
来的な発展につながると判断した」と説明
していた。しかし、両工場とも拡大する生産
する。
ぶぎんレポート No.206 2017 年 1 月号
ショールームに
展示されている
コーンカップの
金型
事務棟2階のショールーム
東松山市への進出が決まった背景は2つあ
外壁の一部には、ソフトクリームの白色の部
る。1つは埼玉県八潮市に東日本地域をカ
分、ここにカールトップとよばれるアールを
バーする物流センターがあり、こちらも手狭
持たせ、遠くから見るとソフトクリームをイ
で老朽化が進んでいたことから、物流セン
メージする工夫が施されている。
「遠くから
ターの建て替えも並行して行うこととなっ
でも、どういう会社なのか分かっていただけ
た。新工場は物流センター機能を持った建物
るようにしている」と春田取締役は話す。ま
として建て替えることが決まった。物流セン
た、事務棟2階にショールームを設けた。ソ
ターは、関東地域以北へ商品を供給する拠点
フトクリームの歴史、製造工程、多彩なコー
であることから、必然的に新工場の建設候補
ンカップと、その金型が展示され、見学でき
地は関東一円に絞られた。
るような場所を作りだした。
関越道東松山ICから約2km
新たにコーン生産の主力工場となった東松
山工場では、約30種類ほどのコーンを24時
埼玉県から推奨されたこの工業団地は、既
間、昼夜通しで生産し、従業員250人が三交
に造成に着手されており、移転事業のスケ
代で働いている。東京工場、枚方工場からの
ジュールからもぴったり、また物流センター
転勤者もいるが、多くが現地雇用となってい
の立地としても好都合。災害リスクも低く、
る。現時点までに生産に必要な人数は確保さ
安全な場所と判断した。そうした中、「東松
れているが、コーン生産に携わるのは初めて
山市の森田市長が枚方工場にお越しになり、
の人たちばかりで、今後、戦力化するための
熱心に当社にアプローチしてくださった」
(春
プログラムを実践する予定だ。
田取締役)ことが、進出の縁に結びついた。
「緑の中のソフトクリーム工場」
がコンセプト
商品ラインナップ
まだ完成して間もない東松山工場は「緑の
中のソフトクリーム工場」をコンセプトにし
ている。建物を眺めると、外壁はコーンカッ
イメージキャラクター
ニックン&セイチャン
プをイメージした茶色のタイルが敷き詰めら
れている。タイルは多少の凹凸を持たせた張
り方がされ、焼き菓子をイメージして色が均
一にならないタイルを採用している。また、
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コーンのフラッグシップ商品
“ラングドシャコーン”
ひ と く ち に コ ー ン と 言 っ て も、 形 状 は
様々。また生産品の中には、自社商品だけで
はなく、アイスクリームメーカーやコンビニ
エンスストアからの受託品もある。個々の仕
様に合わせて生産するため、同じ形状でも配
かかれるという。同社はラングドシャコーン
の開発成功を追い風にして、今後は、カステ
ラのようなスポンジ生地のコーンや、コーン
カップを全て、本物の菓子にしようと考えて
いる。
クリーム、コーンカップ、機械の
三点セットで業界をリードする
合違いや包装形態の違う商品もあり、それら
現在、日世は国内のソフトクリーム用コー
を含めれば100種類以上の品種を手掛けてい
ン の 生 産 量 で 市 場 シ ェ ア70 % を 持 つ 業 界
る。
トップ企業だが、そのビジネスの強みはどこ
コーンは、材料の配合や形状、厚み、固さ
にあるのか。そのヒントはソフトクリームの
など、各要素が組み合わさって出来た複合体
ビジネスモデルに隠されている。ソフトク
商品で、容易に真似は
リームはアイスクリーム部分のクリーム、ク
できない。日世は、長
リームを入れるコーンカップ、そして店舗で
年の経験から多彩な商
液体原料からアイスクリームをつくる機械の
品を生産しているが、
三点から成り立つ商売だが、現在、市場では
そのフラッグシップ商
それぞれの分野で企業が競合している。例え
品として位置付けてい
ば、クリームは、乳製品であることから、国
るのが“ラングドシャ
内の乳業メーカー各社が市場に参入してい
コーン”だ。ラングド
る。また、機械は、国内メーカーにくわえ
シャコーンは、西洋菓
て、アメリカやヨーロッパから専用機械が輸
子のラングドシャをイ
入、販売されている。
メージして作られたも
そうした状況に対して日世は
“三点セット”
ので、アイスクリーム
を自社で用意し提供している。
「ソフトクリー
に添える商材というよ
ムを実際に作るのはお店だが、クリームと機
香ばしい風味が味わいを豊か
に彩るラングドシャコーン
りは完全な焼き菓子だ。「原価を無視して、
械のマッチングは非常に難しい。それでおい
どれだけおいしいものをつくれるかを徹底的
しさが決まるからだ。我々は三点全部を納め
に研究した結果、出来上がった。売価は高い
ていることから、最高の商品を仕上げ、お客
が、非常にいいものができたと考えている」
(春田取締役)と話す。ラングドシャコーン
はその形状が円錐状の形状であるのが特徴
だ。市場では、円筒状に巻き取ったラングド
シャは多くあるが、円錐形に巻き取るのは難
しく業界初となる。「非常に割れやすく、し
かも焼き上げたままでお店まで届けるのが非
常に難しい」
(同)が、同社は、エアクッショ
ンを使って、割れないよう工夫をしている。
ラングドシャコーンを使ったソフトクリーム
は高級品で、軽井沢など観光地などでお目に
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クリーム・コーン・
フリーザーの3点
セットで納品
シリーズ「埼玉県内進出企業に聞く」県内立地の魅力とは ⑨
マルチプレーヤーとして活躍する
研究開発メンバー
様にお届けすることが
トクリームは子供から年配者まで幅広く愛さ
できる」と春田取締役
れているが、中国のソフトクリームは、これ
は胸を張る。1951年
まで廉価で味覚的にも満足できるものが少な
に日本で初めてソフト
かった。日世はこうした状況に、日本で販売
クリームを発売して以
する商品の品質と価値をそのままに提供し、
来、長きにわたり業界
本当の美味しさや楽しさを広めることに努め
のパイオニアとして市
た。現在では日世の最高級ソフトクリームで
場を牽引してきた同社の優位性が、如何なく
も受け入れられる市場にまで成長した。
発揮されていると言っても過言ではない。
増え続ける需要に対応するため、18年1
東松山工場でもその精神は引き継がれてお
月、江蘇省昆山市に50億円を投じた新工場
り、商品を開発、生産するための工場の生産
が稼働する。春田取締役は「この東松山工場
設備は可能な限り、自前で用意している。工
が 目 指 す も の は、
“コーンフェクショナ
場には開発部隊(15人)がいるが、その半
リー”
。付加価値が高く、菓子色の強いもの
数は機械設計ができる。機械設計は、製品設
にシフトし、コーンが単体でも食べて頂ける
計から、金型の設計、焼成機や検査、搬送ラ
商品づくりです」と笑顔を見せる。同社の企
インの装置設計まで、すべてできるメンバー
業理念、
『ソフトコミュニケーションで世界
を自社内で抱えている。
を結ぶ日世』のオリジンが東松山工場から発
例えば、画像処理装置を外部の専門メー
信されている。
カーに発注すると、1ライン分で数千万以上
にもなる。そこで、東松山工場では自分たち
事業所概要
でカメラや照明を買ってきて、ソフトウエア
事業所名 日世株式会社 東松山工場
所 在 地 東松山市坂東山3
アクセス 東武東上線 高坂駅
(下車タクシー約10分)
関越自動車道 東松山インター
(車で約5分)
従 業 員 250人
投 資 額 約90億円
規 模 敷地面積:3万8655㎡
延床面積:2万4859㎡
着 工 2014年6月
竣 工 2015年5月
稼働開始 2015年9月
も自分たちで組み上げた。その結果、検査装
置が外部に依頼する費用の10分の1以下で
出来てしまったという。春田取締役は「金型
にも、いい商品をつくるための要素やノウハ
ウが詰まっている。コアの技術は全て自前で
するべきだと考えている」と話す。また、東
松山工場では、FSSC(Food Safety System
Certification)22000の認証を目指してい
る。これは、食品安全マネジメントシステム
と呼ばれる食品の生産や輸送に関わる安全性
を確認する国際認証で、2017年の早いタイ
ミングで取得を予定している。
東松山工場を世界展開の
マザー工場に位置付ける
日世は今後、東松山工場をマザー工場と位
置付けて、海外の生産拠点に対して、新技術
や新設備を順次出していくことに力を入れ
る。一例が中国だ。中国でも日本同様にソフ
(左から)東松山副工場長 益満氏、東松山工場長 春田氏、
コーン生産部副課長 北畑氏
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